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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
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第195話 世界の明日を夢見た義賊 中編

「ふむ、話がお伽噺じみて来たな。仮に君が本物のヴァルキリーだと仮定して、伝説の聖騎士フレッドと初代大統領デリンジャー、そしてアルケイデスという男がヴィクトリーで大邪神の一派と戦ったと?」


「そうよ。あの時は、様々な勢力が入り乱れた混戦だった。悪辣なオーディンはわざと、そういう戦場を作り出して私達の魂を欲していた」 


 すると虹龍国際公司社長のアリーが画面の向こうで、通信し始める。


「な!? なんだって!? 夜間先物取引で我が社の株が大暴落!? 依願退職者がそんなに!? どうして黙ってた! うぅまずい、このままだと我が社は……な、なんとかしろ! お前達の責任だぞ!!」


 ああ、きっと今の報道を見た人たちが、めっちゃ株とか売りまくって、会社でも退職者とか続出し始めたんだ。


 もしも龍さんがいたならば……。


「私が全責任を負う! 社員達よ私を信じろ、私はお前達を裏切らない。どうか私を信じて、君達と同じ道を共に歩んでいこう! 皆と皆の家族が幸福になるために」


 みたいなことを言って、自分の会社の人や部下の人達を安心させるために尽力を尽くすはず。


 ていうか、私がせっかく命懸けで世界を救った英雄の話をしてるのに、自分の保身と金ばかり目がいってて性根が腐ってるわねこいつ。


 世界中に中継してるのに、無様を晒して男として情けないし、とてもじゃないが大企業トップに立つ社長の器じゃない。


 一方のフランソワ大統領ミッテランは、訝しみながら頬杖ついて、画面の向こうの私を見つめてくる。


「しかしだ、当時のフランソワ軍が魔女と黒騎士討伐に動いたという記録を国防省に確認させてみたが、回答がないのだよ? 信憑性に乏しい話だな」


「都合が悪いから消したんじゃなくて? 市民を抑圧するような、自由を奪う最低国家に成り下がった今のフランソワにとって」


 私は、水晶玉越しにフランソワの今の大統領ミッテランと対峙するが、かなり頑迷な男のようで、歪んだ歴史観を崩そうとはしない。


 考えを否定されたときに反論してくるのも、自分を絶対正義と信じているからだろう、冷徹で感情的な揺さぶりも全く通じない隙がない男だ。


 すると、私のそばにいたマリーオ王がこっそり耳打ちする。


「ヴァルキリー様、今のフランソワ大統領は国際刑事機構の言いなりのいわば表向きのお飾り。本当の権力機関は、フランソワを陰で牛耳るエリート集団の国際刑事機構ですじゃ。あの国の実態は、人権憲章が一部エリートにしか適用されず、市民の行動や表現、思想などを監視する警察国家。人権や自由を制限する強権政治が、だいぶ前から行われておりますじゃ」


 ああ、なるほど法治主義を否定して、金持ちのためだけにしか動かないエリート的な組織が、今のフランソワで力を持っていると言うことね。


 こんな国の形、彼は望んでなかったのに。


「話を続けさせていただきます。よろしいでしょうか? 大統領閣下」


 この世界での300年前、私はヴィクトリー島に上陸する際、先生を通じて、閻魔大王様から女神ティアマトについての情報が入り、遭遇したら戦闘を避け、すぐに自分に連絡せよとのお達が入る。


「やばくなったら、いつでも指輪の召喚で俺を呼び出せ。ヴィクトリー島は、アレクセイの野郎が陰謀を巡らせる敵の本拠地の一つ。おそらくかなりの激戦が予想されるはずだ」


 先生からのアドバイスを受けて、私達はヴィクトリー島ドーハ海岸目掛けて上陸しようとしていた。


 先生の想定通り、ヴィクトリーの戦いは多くの犠牲者が出た激戦地で、先生達がエムとアレクセイの麻薬の生産地だったヒンダスを抑え、ジローがジュー達を懐柔し、イワネツさんがジッポンでハーンに勝利しなかったら、世界はオーディンの最終戦争(ラグナロク)で滅び去っていただろう。


 ヴィクトリーは、ルーシーランド本土のキエーブ王国軍精鋭と、エムが寄越した魔人の軍団に占領下に置かれていて、海岸には防波堤が築かれ、ロマーノ連合王国ヒスパニアから、先生の組織に敗走したヴィクトリー王立海軍の艦艇が私達を待ち受けていた。


「海岸線を抜けて国道A号に出れば、ヴィクトリー王国王都ロンディウム! 私達の国を悪しき者達から取り戻す!」


「王女殿下の凱旋帰国だ!! 派手に行くぞ!」


「我らの国を取り戻す!」


 空から雪が舞い散る中、フランソワ海軍とヴィクトリー海軍の艦隊戦が行われ、私達は海岸線に上陸、一気に首都ロンディウムに辿りつくため、海岸のエムの部下の魔人達と交戦する。


 デリンジャーは周囲を八咫烏でサーチしながら、マシンガンで上空からモンスターに乗ってる魔人達に攻撃して、これにアルケイデスも加勢。


 私もヴァルキリーとなってエムの配下、顔に石仮面をつけてモンスターの毛皮を纏い、身体中に恐ろしい入れ墨をしてる、ジッポンで鬼とも呼ばれるメヒコの軍勢。


 武器は、ボートを漕ぐような木で出来たオールのようなものに、鋭く加工した魔鉱石がチェーンソーみたいに回転して、対象を切断する長さ1メートルほどのブレードを装備していた。


 ヴィクトリーには10数人ほどしかいなかったが、常軌を逸した力を持っており、闇精霊テスカポリトカや、ケツァールコアトルの派閥にいた精霊龍達が、彼らに力を与えていたようだった。


「○×△△@%#」

「□□××#%!」


 海岸線が彼らの魔力で爆発が巻き起こり、フランソワ海軍の上陸用小型艦艇が吹っ飛ばされる。


「こいつら、クレイジーすぎる魔力だ!! これが魔人ってやつか!?」


「魔族共がこの世界にっ! だが俺様はスーパーヒーローだ! 魔族風情敵ではないわ!」


「彼らは人を殺すことに躊躇もない! 私達で対処しましょう。これ以上、私のヴィクトリーを酷いことに加担させない!」


 私達が、エムの軍勢を引き受けていると、フレッドと黄金薔薇騎士団が別方面、テームズ河口から本土侵入に成功し、王都ロンディウムを囲むキエーブ軍陣地に突貫する。


「副団長達は、各騎士団を率いて敵陣を撹乱! 団長の僕が本隊の先頭に立つ! ハーヴァードとスチュアートついて来い! 後方はアンジュー、ランヌの隊がしんがりとなり警戒せよ!」


「団長命令了解!」


 キエーヴ軍も弓で応戦し、屈強な戦士達が大剣と槍で立ち向かうが、かつては皇太子として騎士を率いていた団長のフレッドと私の騎士団の敵ではなかった。


「マリー、こっちは成功だ! 王都ロンディウムへの侵攻ルートB案、テームズ川沿いを通ればっ!」


 フレッド達騎士団は、ヴィクトリー島を横断するテームズ川沿いからの侵攻に成功し、私達はエムの配下達との戦いに勝利して合流する。


「エムとかいう奴の兵士、あいつら無茶苦茶だ。人間を屁とも思ってねえしクレイジーだ。麻薬で感覚も強化されてて、あそこで倒して正解だった」


「ええ……ごめんなさいデリンジャー。私の国のために、フランソワ軍から犠牲者も出てしまって……」


「いや、気に病む必要はねえ。俺も含めて世界のために命を失う覚悟はできている。海岸線は俺達が占領したから、あとは王都を一刻も早く奪還しよう」


 その時、アルケイデスは首を傾げながら戦闘不能になったエムの兵士、メヒカ人を見つめる。


「ま、まずいぞ! 逃げろ!! この場にいる人間共を撤退させろ!! 急げ!」


 デリンジャーは、駐留フランソワ兵達に退避命令を下すけど、仮面の戦士達は何かの呪文を唱えて、体が光り出す。


絶対防御(プロテクト)!」


 私が日に一度しか使えない、絶対的な防御技を発動させた瞬間、メヒカ兵は魔力を炸裂させて木っ端微塵に吹き飛ぶ。


「こ……こいつら、クレイジーだ。自爆しやがった」


「今の爆発、エネルギー量がまるでこのあたり一帯を吹き飛ばすための……酷い、エムは自分達の兵士を同じ人間として扱ってない」


 勇者として経験豊富なアルケイデスがいなければ、私達は大ダメージを受け、展開させていたフランソワ軍が全滅するところだった。


 おそらくは、自分達の兵士が倒された事もエムは想定していて、私達もろとも兵士の自爆攻撃で吹き飛ばすことを考えていたんだろう。


「俺は……許せねえ、こんな、こんなことを許せねえ! なんで人間がこんな扱いを受けなきゃなんねえんだ。こいつらだって、人間としての人生だって家族だってあっただろうに、まるでチェスの駒のように」


 デリンジャーは怒っていた。


 彼らを送ってきたエムにも、そして戦場を操る戦神オーディンに対しても。


「なあマリー、俺達は、俺のルールは人殺しを許しちゃいけねえってみんなで誓った。だが、奴らは俺達が作ったルールや人としての生き方を全部否定してくる! こんなこと、もう二度とやらせはしない。俺達も、相手に対しても」


「ええ……私達の思いを貫くことが、きっと人々の今後を担うルールを生むと思う。自分を、みんなを信じよう。私達は悪には負けない」


 アルケイデスは、私とデリンジャーのやり取りを見て、何かを言いたそうだった。


 彼は歴戦の勇者で、本来は経験豊富な戦士。


「アルケイデスさん、何か言いたければ遠慮せずにおっしゃってください」


 私が発言を促すと、彼は自信たっぷりに返す。


「甘い、お前達は。自らのパフォーマンスを発揮するには、自分を信じる事が第一条件だ。だが、考えに固執し過ぎて世界を救う結果を出せなければ意味はない。時にはルールを無視する相手には、完膚なきまで叩き潰す強さが英雄には必要なのだ。甘さは捨てろ、自分達のパフォーマンスを発揮する事だけ考えろ」


 彼は、当時深刻なスランプに陥っており、傲慢さと慢心で空回りしていたが、スーパーヒーローとして活躍していた経験談は、ある意味的確なものであったと記憶している。


「わかってる、わかってんだ俺も。だが、俺はヒーローを目指して憧れて、俺は自分にも人にも嘘をつきたくねえし俺は……自分の言ったことを思ったことを裏切りたくねえ。前世は自分の信念を裏切って失敗した。そして自分が招いた失敗で俺は愛する女に裏切られ……だから俺はっ!」


「……覚えておけ、英雄を志す男。お前はお前だけの意志で動いているのではない。お前を英雄として認めた多くの人間たちの意志を背負うことを。お前は選ぶ時が来るはずだ……英雄としてのお前の意志を優先すべきか、英雄とお前を慕う人々の意志を優先すべきか」


 こうして私は、絶対防御という切り札の一つを失いながら、王都で巻き起こる激戦に身を置くことになる。


 私達は、先行したフレッド率いる黄金薔薇騎士団と合流して、王都ロンディウムまで距離にして約100キロメートルを、先生の組織が用意した空飛ぶ超大型ダンプカーで突き進み、1時間ほどで王都に到着する。


 ジュー達の多くが私達に寝返っていて、事前情報によると王都ロンディウムのヒト種住人は、ロンディウム北部のバーミングアムの工業地帯で強制労働者として働かされ、ロンディウムの街にはジューの商人が移り住んだそうだ。


 だが、私達が上陸を開始した時点でジュー達の多くが、王都ロンディウムを脱出し、この都市は人気のない無人の街に変わっていた。


「えーと、ミスターデリンジャー、僕が回復をかけたけどやはり顔色が良くないようだ。僕たちが頑張るんで、あなたは少し休んだ方が」


「大丈夫だ。ミーティングすんぞ、オーディンとエムのゲッツー狙うためによお。お前、前世がアメリカ生まれならわかんだろ? 男として生まれたら、スポーツだろうが仕事だろうが勉強だろうが戦争だろうが、常にベストを尽くす」


「言ってる意味はわかるけど、ベースボールでも不調を感じたらすぐに交代が僕の時代じゃ当たり前だったし。リリーフとかストッパーとか」


「ホワッツ!? ピッチャーは不調を感じたら根性で相手をねじ伏せんだろ! 野手だってシカゴのラージャ、ホーンスビーは絶不調でも相手投手の球ぶっ叩いて、三冠王になったんだ! MVP狙うにゃ根性だ。そんな半端な性根で、世界を救うヒーローが務まるかってんだ」


 デリンジャーの不調を感じてたフレッドは、遠回しに無理しない方がいいとか伝えていたし、私もすぐに先生を呼ぶ手筈も考えてたんだけど、すでに世界の在り方が変わりつつあった。


「質問ですヴァルキリー様。世界の在り方が変わりつつあった……とはどういう意味でしょう?」


「ええジョンソン記者、それは大邪神、オーディンやエム、テスカポリトカといった存在の都合の良い世界に変革しつつあったという意味です。オーディンは人々が争い、そして死に際の魂が発するエネルギーを目的としてました。エムのもたらした底無しの悪意と麻薬ファンタジアによって、私達が住んでいたこのニュートピアが奴らの願うヴァルハラに至る、最終戦争へと突き進むための変革、いや異変だったのです」


 デリンジャーが運転するダンプで、閉鎖中のロンディウム橋のゲートを吹っ飛ばし、王都市街地に侵入する。


 街には約30メートルの塔が目印のヴィクトリー城がそびえ立ち、城下町は石畳で整備され、木とレンガ造りの民家や商店が立ち並ぶが、住人達はすでに避難してて、とてもじゃないが私の凱旋帰国って感じではなかった。


 すると小雪がちらつき、雲の隙間から薄日が差す空が一転し、暗雲が立ち込めて稲光が鳴り響く。


「ファ、ファ、ファ、ワシの支配地域にようこそ。ヘイムダルのヴァルキリーと、神々の手先共よ。ワシが全ての戦神の頂点に立つユグドラシル主神オーディンである」


 オーディンは、神槍グングニルを所持してヴィクトリー城の塔に佇んでおり、舌打ちしたデリンジャーが魔力銃をトンプソンマシンガンにして構え、フレッドは背中に背負った長さ2メートル以上の大剣エクスキャリバーを構えた。


「返してもらうわ。あなたの手から、世界を」


「Fucking bastard! 人権を脅かすクズ野郎が」


「世界をお前みたいな悪の思い通りなんかさせない」


 オーディンは私達を見下ろした後、上空に神槍グングニルを掲げる。


「ふふふ、お前達、強き魂を感じるぞ。我が楽園(ヴァルハラ)を完成させるため、ワルキューレよ! 奴らの魂をワシに捧げるのだ!」


「クァーファッキュー!」


 八咫烏が口から銃身を伸ばして銃撃するも、オーディンには全く効果がなく、デリンジャーも舌打ちする。


「こいつ、実体がここに無え」


「その通り、強き戦士よ。ワシはアーズカルズのヴァーラスキャールヴにて、お前たちの様子を手に取るように把握している。そおしてっ!」


 空が朝日のような夕日のような黄金の色に変わり、世界の理が変えられた事に気がつく。


ーーヴァルキリーよ、君の師事する勇者の軍勢、ある一定の力に達してない者たちや魔族達も消されてしまった。もはやその指輪の効果も失われています。


「な!? なんですってヘイムダル。それじゃあ……」


ーーオーディンは、すでに神域ユグドラシルにあるヴァルハラとこの世界の融合を進めている。一刻も早く彼を討伐しなければ、世界はオーディンが目論む黄昏の世界に


「フハハハハ、確かに闘神アースラはワシの時代、強力な力を誇る闘争の申し子であった。だがぁ、ワシは戦争そのものを操る術を身につけた。いかに戦闘力、戦術を用いようと、ワシには勝てぬっ! ハーッハッハッハ!」


 オーディンは高笑いをあげ、空がピカッと光った瞬間、鎧を身に纏った天使のような軍勢が次々と降りてくる。


 軍勢を率いる戦闘に立つのは、元天界智天使サキエルこと、オーディンの娘のブリュンヒルデ。


 そしてキエーブ王国兵を率いる、漆黒の鎧に身を包んだ黒騎士エドワードことアレクセイの姿と、毛皮のコートを身に纏った王国で侍従長だったセバスチャンも姿を現す。


 先生が変えた戦況が覆された。


「降伏を、マリー姫。まさか、あなたがこの地に来られるとは思わなかった。神オーディンの力の前には、人間の力は無力です」


 私は黒騎士エドワードを睨みつけ、ブリュンヒルデの方を向く。


「あなたがここまでやるとは、正直思わなかった。あの時、私のミスでこの世界に転生させたのが最大の失敗。失敗は贖わなくては」


「そうね、あんたがこの世界に私を転生させなければ、今頃この世界は滅びていたかもしれない。それに、最大の失敗ですって?」


 私は手にしたギャラルホルンに魔力を込めると、アースラの力は先生に返してしまったけど、鎧が白金に光り輝き、力が最高潮に達する。


「最大の失敗はこれからだ! 地球世界で傷ついて転生する人たちの魂を弄ぶ悪! 私は、私達はお前達なんかに負けないっ!」


 ギャラルホルンをホームラン予告のようにして、ブリュンヒルデに向けた瞬間、彼女はニヤリと笑い紫色に光り輝く私のギャラルホルンと色違いの杖を手にした。


「ふふふ、あなたの成長した魂を楽園(ヴァルハラ)に連れて行ってあげる」


「さあ、ワシのワルキューレ達よ! ワシを信奉する信者共! この者たちの魂を我が戦士達の黄昏、エインヘリアルに導け! 戦争の時間じゃあああああああ!」


 オーディンが空にグングニルを掲げて、ロンディウムの決戦が始まる。


 騎士団がキエーブ王国兵と戦闘になり、上空のワルキューレ達がデリンジャー、アルケイデスに襲いかかり、私はブリュンヒルデと一騎討ちを始め、フレッドとアレクセイも一騎討ちを始めた。


「ジークフリードではないな? お前はまさか!?」


「僕は皇太子でも帝王でもない。僕はただマリーを守るための、騎士だ!」


 アレクセイ、黒騎士エドワードの槍は、オーディンのグングニルに酷似し、鎧も漆黒で禍々しいマジックアイテムに変わっており、あのフレッドと正面から打ち合う。


「ふん、オーディン様より承ったエイギルの鎧、そして神槍ダインスレイヴで貴様を地獄に送ってやるぞ」


「できるものならやってみろ! 卑怯者の黒騎士が!」


 黒騎士エドワードは、フレッドとの正面からの打ち合いから間合いを大きく離して槍を投擲すると、槍が赤黒く変色し、穂先が枝分かれしまくってフレッドの体の何箇所も切り裂き、誘導ミサイルのように粘着する。


「貴様を殺すまで、その槍はお前に離れぬ! そして! この貫けるものがないとされる、ミストルティンで出来た神槍でお前の心臓を!」


 別の手槍を黒騎士エドワードが取り出し、フレッドを突き刺そうとするも、フレッドの大剣が光り輝き、二槍を弾き飛ばす。


 一方、デリンジャーとアルケイデスは、上空から矢や槍で攻撃してくる、ワルキューレの軍団と射撃戦を展開していた。


「チッ、クレイジーな女共め! マリー! この場は俺達が!!」


「僕たちが抑えているうちに敵のリーダーを!」


「ハッハハア! アマゾネス共との戦いを思い出す! 俺様が勝ったらお前ら全員俺のメスになれええええええ!」


 私はギャラルホルンを手にして、ギャラルホルンを振りかぶり、時空間を操作してブリュンヒルデに殴りかかるが、彼女の美しい顔が歪み私の攻撃を杖で受け止める。


「あははは、私のフロッティを受けられるなんて素敵な武器。あなたをヴァルハラ送りにした後、私の物にしたいわあ」


 杖同士で打ち合い、ギャラルホルンの打撃がことごとく防がれ、彼女の6枚の翼が白熱する。


「こういうのはどうかしら? レーヴァテイン!」


 彼女から6枚の羽が分離して、大型の金属ブレードになると、私に一斉に切り掛かってくる。


時間停止(ストップ)!」


 停止した時間の中で、私はブリュンヒルデの翼のブレードを回避して杖を左手に、魔力銃CZアークエンジェルを右手に持ち、光の銃撃を全弾放つ。


 時間が元に戻り、ブリュンヒルデの体が光に包まれた瞬間、彼女の鎧が爆ぜて光の銃撃を乱反射して全回避する。


 ブリュンヒルデは、下乳が大きく露出したアンダーブーブの白いブラして、ヒップを強調したビキニパンツ姿になった。


「うふふ、アーッハッハァ! 身軽になったわ! さあさ、踊りましょうヘイムダルのヴァルキリー!」


「そんな格好して恥ずかしくないの!? バッカじゃないのあんた!!」


 鎧の防御力と引き換えに、文字通り、彼女の動きが目にも止まらぬ速さになり、時間操作にも対応してきて私に攻撃を繰り出していく。


「天界魔法で時空操作してるのに、私の攻撃がまったく当たらないっ!」


 私はブリュンヒルデの姿を捉えたと思っても、彼女は天界魔法もマスターしているようで、時空操作と光の魔法で作った分身で、私を幻惑してくる。


 すると海岸にいたフランソワ軍や、デリンジャーが組織した黄金龍騎士団も援軍に駆けつける。


「お、おめえらは来るな! みんな死んじまう!」


 デリンジャーの静止を無視して、上空から攻撃魔法を放つヴァルキリーの軍団にみんな立ち向かっていき、オーディンが望む混沌とした戦線にされていく。


「前世の記憶を思い出してから、俺達は長生きしようなんて思ってねえリーダー!」


「あなたは教えてくれた。自分らは貴族でもなんでもない市民でした。けど、あなたは俺らに機会をくれた! 俺らも英雄に、あなたみたいになりたい!」


「オラもクルース出身の農民だ! オラが村で陸軍に志願してオラも大統領のような英雄になりてえだ」


 私はブリュンヒルデと、杖で鍔迫り合いになりながら、次々とロンディウム市街地で、ライフルをむけてワルキューレ達の槍や剣で突き刺される兵士達も続出する。


「素晴らしい! 人の身分も出自も関係なく、平等に立ち向かい殺し合う戦士達よ! 理想を求め闘う魂達! 闘争こそが生物の本質! 死こそ平等! 素晴らしいワシ好みの戦場じゃ、我が糧となるが良い! ウハハハハハハハ!!」


「何が素晴らしい戦場よ! 自分が力を欲するために人々を争合わせる邪悪!! こんな事のどこが素晴らしいんだああああああああ」


 多くのフランソワ兵達がワルキューレの攻撃で死にゆく中、アルケイデスが必殺の弓矢で上空のワルキューレを次々と撃ち落としていき、私はギャラルホルンを振りかざし、目の前のブリュンヒルデに死に物狂いで肉薄する。


 先生にアースラの力を返したから、出力不足は否めなかったが、彼女の受けを強引に突破して、有効打を当てることが成功してダウンを取った。


 すかさず怯んだ彼女へ、ギャラルホルンの光の刃の切っ先を喉元に向けて残心をとる。


「ふふ、見事ね。ここまで強くなるとは」


「負けを認めて、ブリュンヒルデ。あなたはオーディンに操られてて、本来の自分じゃないはずだ。この世界に来たのも、本来は人々を救済しに来たはずでしょ」


「……」


 デリンジャーはフランソワ兵士達を守るために、右手のキャノン砲を具現化してて、フレッドは黒騎士エドワードとの一騎討ちを、ほぼ制してた。


「てめえらの負けだ。ワルキューレ共は俺とそこのスーパーヒーローが打ち倒した。おそらくルーシーランドの大軍と戦ってるフレッドも負けねえだろう。降伏しろレディズ」


 右腕の砲をブリュンヒルデに向け、デリンジャーも私の降伏勧告に乗っかる。


「クックック、わかってないなヘイムダルの使徒共。次のフェーズに戦場が移行する事を!」


 上空に映し出されたオーディンの姿が、槍を再び掲げ出した瞬間、黄金の空に真っ黒い情念の渦が現れる。


「次の闘い、闇の世界に誘おう。さあ、我らが闘いの理想の体現者よ、我が力存分に使い、闇と快楽と戦争の歌を奏でよ!」


 闇の精霊にして、先生達から大邪神認定されたテスカポリトカの巨体が現れたと思ったら、小柄な人影にテスカポリトカが吸収されていき全身にテスカポリトカの力の入れ墨が浮かぶ、少女が現れる。


 少女は、黒騎士エドワードと対決していた剣を持つフレッドの右腕を瞬く間に切り落とし、手をかざしただけでアルケイデスまとめて、大勢のフランソワ兵達が吹き飛ばされ、多数の兵士が殺害された。


「フレッド!」


「だ、大丈夫。これくらいの傷なら回復魔法で。けどフランソワ軍が、今の攻撃で……」


 少女は微笑みながら、黒騎士エドワードの傍に立ち、回復魔法を彼に唱えた。


「あはは、君、本当に耳が尖ってるんだね。酷いよね、この世界の奴ら耳が尖ってるってだけで差別して。助けに来たんだ君を♪」


「……君が……かたじけないエム」


 褐色の肌に黄金の衣を纏うツノが生えた極彩色の羽根飾りのようなのを付けた銀髪の少女は、見るものを恐怖させる、凍てつくような赤い瞳を光らせて私達に笑みを浮かべる。


 一目見てわかった。


 可愛らしい顔をしてたけど、この邪悪な気配、そして地球で憎みと悪意を極限まで高めた存在……エム。


 私は初めてあの悪意の塊と対峙したのを思い出す。


「んー、白いやつ沢山いるな♪ 殺しに来たよ、侵略者共♪」


 私達や仲間のみんなを見て、蛇のような瞳で微笑みながら、殺しにやって来たと嬉しそうに微笑むあの悪意の塊。


 魔界の悪魔も地獄の鬼も、恐ろしい闘神や祟神も目にしたことがあるけれど、そういった存在を凌駕するような、次元が違う悪だった。


「喜べ、繰り返す者よ。お前が復讐を誓ったアメリカという国で前世を過ごした奴らがこの戦場に多数いる」


「んー♪」


 エムはオーディンの呼びかけを無視して、金のブラから麻袋取り出すと、右手の甲に麻袋の中身の塩みたいな白い粉を乗せ、顔を手の甲に近づけて一気に鼻に吸い込んだ。


「ズビッ、スウウウウウウウウ〜〜〜〜んんんんん」


 ……こいつやばい。


 いっちゃってるわ、普通に麻薬とかキメてるよ、なんなのこいつ。


 私は、そんな事を思いながら、あまりにも異質なエムと接して恐怖した。


「んー、ああああああ、来た来たラッシュ来た♪ 新しく作ったファンタジアにコーク混ぜたらいい感じのスピードボール♪ で? アメリカ人いるのってそれマ?」


 恐怖で私が硬直する中、デリンジャーが右腕に具現化した大砲をエムに向ける。


「昔な、俺は前世でアメリカ生まれだった。政府と連邦捜査局と敵対してよ、裏切りと騙し討ちに遭って死んじまった。俺の名はデリンジャー、お前は?」


「んーFBI、あー♪ そんな奴らもいたね。懲りずに麻薬取締局(DEA)なんかと一緒に、メキシコによく来るから殺してた♪ わたしの前の人生知りたいの? いつから? アステカ時代? それとも独立戦争時代? 軍人時代? 西暦1840年代? 1860年代? 1910年から1940年前後? それとも1990年代から2021年にかけてかな?」


 エムは転生を繰り返しながら、多くの時代を生きていた。


 それこそ、日本でいう室町時代から現代まで、長い時間をかけて憎しみを募らせていたんだ。


 私は、エムと対峙するデリンジャーと一瞬目を合わせて、アイコンタクトした。


ーーお願い、先生。こっちに来てください、エムがヴィクトリーに


 デリンジャーがエムの対応をしている隙に、私は自分の師匠である勇者マサヨシに呼びかける。


 召喚の指輪の力が使えなかったし、魔法の水晶玉通信だと、エムに察知された瞬間に私達がこいつからの攻撃で、全滅か再起不能になる可能性があったからだ。


 だが……。


「フフフ、アースラが来るのを待っておるのか? 小娘。あやつは来ぬ、いや来れぬと言ったほうがよいな」


「え?」


 オーディンは言った。


 先生は来れないと。


「すでにワシの支配領域、この大陸の東方ではこのエムとやらの、ふぁんたじあの効果が出始めておる。今頃勇者の皮を被ったアースラめは、ふぁんたじあに侵された者共と極限の戦いを強いられておる。クックック、素晴らしいふぁんたじあ、ふふふ、ハーッハッハッハ!」


 先生は東方ヒンダス帝国で、ファンタジアの麻薬中毒者を率いる、武神ヴィーサルとの戦闘に入っており、こっちに手が回せない状況にされた。


 勇者ロバートも、麻薬中毒にされたルーシーランド軍との戦いで、足止めされていた。


 だが、時間稼ぎはできるはず。


 膝をついたブリュンヒルデの動きに警戒しながら、私はデリンジャーとエムとの対話に耳を傾ける。


「1930年代、俺はギャングだった。お前は……どうしてそこまで憎しみを募らせたんだ? お前に何があった? 俺と同年代の話を聞かせてほしい」


「んー♪ ギャングかーわたしのお得意先。1910年代はメキシコ黄金時代。侵略者アメリカからメキシコの権利を勝ち取った時代。メキシコによるメキシコ人のための国が生まれたんだ。私も、沢山お金あげて支援した。サパタにパンチョ、カルデナス……みんな頑張った♪ 大麻畑作らせてアメリカに売ってその金で支援♪」


 上機嫌なエムは当時の話を嬉々として始める。


 1910年代、アメリカが影響力を持っていた、当時のメキシコ軍事政権を打ち倒すため、エムはメキシコ民主革命を裏から支援する。


 メキシコは近代国家になる事で、メキシコ人自身の民族主義や文化運動が巻き起こる影で、エムはメキシコ民主政権を金で操るフィクサーとして影響力を持つようになり、大量の大麻を作り出し、アメリカへ密輸して巨額のお金を持つようになっていたそうだ。


「アメリカは、独善的で差別的♪ 同じ白い奴らでも、あれが違うこれが違うってイジメる酷い奴ら♪ 黒い奴らの自由と尊厳を奪い、黄色を見下し、わたしたちをインディオって呼んで差別する最低なアングロサクソン♪ だからわたしは復讐を考えた。そのためにはアメリカの裏を滅茶苦茶にしようってね♪」


 そしてメキシコが民主革命と、近代国家として成長していく中、エムの悪意はアメリカの白人社会に向く。


「アメリカの白い奴らにも種類がいて、イタリアだっけ? 奴らは白いのに黒いって言われて、アメリカでイジメ受けてて差別されてた。他にもアイルランドやユダヤも宗教が違うってイジメられてた。白い奴らは差別主義者でいじめっ子なんだ。だからわたしはメキシコのために、イジメられた移民に味方して白い奴らを分断しようとしたの♪」


「それでお前は……イタリア移民に目をつけたと」


「そう、彼らは自分達をブラックハンドと言ってた♪ わたしが目をつけた彼、彼は右手の指が一本しかないクラッチハンド♪ ニューオリンズで燻ってた彼に少しだけアドバイスしたんだ♪」


 多分、ロバートさんの先祖筋の人達にこのエムは関わってて、彼は自分の悪意を伝えるため、イタリア移民達に目をつけたんだ。


「白いのに黒いって呼ばれてた彼らは、わたしの少しのアドバイスで色々やった。彼、クラッチハンドは元々殺人者で逃亡先のアメリカで真面目にやろうとしてたから、実業家のわたしからのアドバイス♪ 真面目に生きなくてもいい、お金になるならなんでもいいからマフィアって迫害された先祖の流儀で、人から奪う側に回れってナイスアドバイス♪ 彼は東海岸でビジネス、ビジネス、ビジネス♪ 白い奴らから物や命を奪うビジネスで、アメリカ社会を混乱化♪ とても素晴らしい活躍してくれたんだ♪ 素晴らしいギャングスタ♪」


「てめえは……」


 エムが、イタリア移民を凶悪化させた張本人だった。


 イタリア移民の被害者感情や、差別感情を煽りながら、アメリカ社会を混乱に導く話を嬉々として話しながら、また麻薬を手の甲に乗せて鼻で吸う。


「ブラックハンドのクラッチハンドは、同じ境遇でアメリカに来た同胞のイタリア移民を、誘拐殺人脅迫して資金源♪ そのあとマフィアとか作ったの♪ 同じ故郷シチリアなのに、東海岸でパレルモとコルレオーネに分かれ、楽しい、楽しい、殺し合い♪ アイルランドもユダヤもギャング作って殺し合い♪ 殺しの軍団ブラックハンド♪ 」


「お、お前があの悪名高い殺人株式会社を……殺人ギャング団マーダーインクができたきっかけか」


「んー♪ 元々は、クロアチアでやってたわたしの実験。ウィディニェニェ・イリ・スムルト、黒手組♪ わたしがコンサルした、オーストリア帝国にイジメられてたセルビア人の殺人組合♪ オーストリア皇太子をバキューン♪ 白い奴らがいっぱい死んで大戦争♪ たっのしーでしょう? だから、ギリシャを通じてイタリアに教えてあげたんだ♪ 彼らを通じてアメリカにブラックハンド♪」


 オーストリア皇太子暗殺事件、多くの人が命を落とした第一次世界大戦のきっかけ。


 エムは世界中で悪意を振り撒き、悪意を様々な国と地域に、伝染させていったのであろうことを私は理解した。


「てめえは……どうしてそこまで憎しみを……悪意を」


「え? アメリカと白い奴らが憎いから♪ フフフ、ブラックハンド♪ わたしが後にコーディネートしたメキシカンギャング達の、お手本♪ 見本♪ 殺しの集団♪ ブラックハンド達のやり方を見たわたしは、メキシカンギャングにもブラックハンドの生き様を、入れ墨として左胸に残すように教えてあげたんだ♪」


 エムの左胸のブラから、薄らと黒い入れ墨が見えるが、ブラックハンド、やつは殺人者集団の意志を入れ墨として入れていた。


 エムは禁酒法時代、デリンジャーが生きていた時代の話も、歌うように語り始めた。


「 アメリカで、わたしやマフィアが出資した民主党の奴らが禁酒法作って大混乱♪ 楽しい楽しい白い奴らの歪み合い♪ 帝政ドイツのドイツ系はヨーロッパ大戦の敵国、酒は敵♪ 女の敵♪ 白い奴らの罵り合い♪ 酒を作るドイツ系はイジメられ、イタリアやメキシコと密売酒♪ メキシコは酒を売って大儲け♪ 白い奴らは黒いと罵ったイタリアとインディオのわたしで……うふふEscándalo♪ 超楽しかったの、アハハハハハハハハハ」


「お前は……お前のせいで、禁酒法時代どれほど苦しい思いをした奴らがいたか、てめえわかってんのかよ!」


 エムの表情が無表情に変わり、真っ赤な瞳が輝き、吹き飛ばされそうなほどの魔力が一気に彼女から噴き出す。


「うるさいっ!! アメリカやヨーロッパがわたしの文化を否定して、土地を奪った! 大勢の同胞が死んだ! 故郷が滅ぼされて土地も財産も奪われた! インディオと言われ差別された! アメリカに死を! ヨーロッパの白い奴らに災いを!!」


 私は、今まで悪魔と呼ばれる連中とも戦ったことはあったけど、ここまで民族や人々を弄び、喜びを見出す悪意に遭ったのは初めてだった。


 憎しみと悪意の塊。


 自分の憎しみを晴らすため、人を傷つけて弄ぶ悪魔以上の悪意がエム。


「けど、奴らイタリア移民はお金が入って心変わり。ユダヤ人と一緒に、アメリカのためって言い始めてビジネス化。アイルランド人も警察や消防になった。同士討ちせずに勝手にルール化しちゃって、奴らアメリカ人気取り。アメリカ壊す手段だったあいつら使えなくなったから、代わりが必要♪ その代わりが大日本帝国♪ わたしと同じく太陽を崇める国、遠い遠い親戚達♪」


 エムは戦前の日本にも関わっていた。


 先生は確かエムの覚醒剤が日本に入ってきてたかもって、言ってたけど。


「大日本帝国が作った満州、お金必要だったんだ♪ アメリカに唯一勝てそうだった東洋の親戚達♪ だから教えたんだ、人を介してアングロサクソンを東洋から追い出す方法♪ それは阿片♪ 美しいケシの花♪ 阿片の麻薬で戦費捻出、軍艦いっぱい作って、日本軍大儲けするコンサルしたんだ♪」


 私が昔の前世で暮らしてた日本が、敗戦に向かう、あの戦争に間接的に追い込んだのもエムだったのを私は知る。


「大日本帝国は、世界で初めて人種差別撤廃、八紘一宇を掲げてた♪ それを邪魔したのもアメリカ♪ いずれ戦争になることはわかってた。差別主義者のルーズベルト一族♪ アメリカは西に土地を求めて、略奪と差別するのがアングロサクソンと白い奴ら」


「あなたは、じゃあ今度は日本の味方に?」


「ん? 大日本帝国は差別主義者のナチスについたんだ。日本はわたしの気持ちを裏切った。それにわたしのコンサルしてたハワイ攻撃した。だからね、失望したから滅びちゃえーって♪ メキシコの政治家にも働きかけ、日本の商社も日系人の財産みんな没収♪ 差別主義者のナチについて、わたしのビジネス邪魔するからこうなったの♪ ザマあ♪ そしてメキシコは黄金期♪ わたしも大儲け♪」


……こいつっ! なんて独善的で自分本位。


 悪意を振り撒いて、自分の意にそぐわなければ、簡単に手のひら返して人々を道具のように扱う……外道。


「それでお前はその後?」


「わたしは南米コロンビアにいたの♪ 同胞のインディオ達と農地改革♪ コカの葉畑と大麻作って大儲けするコンサル業♪ ……けど邪魔者現れた! コロンビア大騒乱になって暴動でわたしは命を落とした! 焚き付けたの共産主義者! CCCP、USSR、ソ連! くっそムカつくコミュニスト!!」


 エムはアメリカ以外にも、共産主義ソビエト連邦にも敵愾心を抱いていたようで、だからだろうか?


 前の地球世界で、ソ連社会を破壊する要因だったイワネツさんをビジネスに誘ったのは。


「でもソ連は滅びたってイワネツから聞いたぜ。お前はそれでもアメリカを恨む事をやめられなかったのかよ」


「ダメ、アメリカ滅んでない! アメリカ、アメリカ、アメリカ! あいつら滅びなきゃメキシコも、北の部族達も安心できない! そしてあいつらアメリカに、元は私たちの土地カルフォルニアの同胞イジメられてた! 刑務所入れられて苦しんでた! 1990年代のNAFTAでメキシコの富を奪われた! メキシコ分断された! アメリカ許さない! ヨーロッパも! 愛するメキシコや同胞達イジメたから今度こそ殺す!」


 ダメだ……話が全然通じない。


 こいつの恨みのエネルギーは、祟神として対峙したニョルズを超えて恨みを力に変えて、全てを災いにするべく確固たる意志を感じた。


「君もギャングだったらわかるでしょ♪ アメリカと戦ったギャングスタ♪ 君の名は聞いていた、デリンジャーギャング団♪ アメリカ政府が恐怖したアウトロー、わたしと仲間になって今度こそアメリカ滅ぼそう。この世界で力を溜めて地球に一緒に帰ろう」


 デリンジャーは、エムの誘いに口角を吊り上げて不敵な笑みを見せ、右腕の大砲に左手を添えてエムに構える。


「それはダメだな」


「なんで?」


「俺をそこいらのギャングと一緒にするんじゃねえッ! 俺は、国家専門の銀行強盗だ! 弱い奴らや貧乏人から金なんか一銭も1ペニーだってとらなかった! 俺の信念はなあ……」


 デリンジャーの闘志と魔力とオーラが一気に迸り、悪に対する思いと悲しみで光り輝いた。


「不殺だ! 人殺しを賞賛し、人を不幸にする…… You(くそ) bastard(ったれ野郎)! 犯罪王と呼ばれた俺の義賊の意地を見せてやる! 俺はお前の存在を否定するッ!」

後編に続きます

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