第1話 王女マリー
そして転生先のヴィクトリー王国で王女として過ごし、16年の月日が経った。
……どうしてこうなった。
私は、ヴィクトリー王国第2王女として、一応一般市民と比べれば、美味しいものを食べて、公務は父と姉が仕切ってるから、そういう意味では楽と言えば楽……ただ。
「ルイーダ、急いで! ドレスの裾持って!」
「はい、マリー様」
私はこの世界で、マリーという名前で生まれた。
より正確に名乗ると、マリー・ロンディニウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリー。
ああ、長くて舌噛みそう。
今、私の人間の尊厳を守るため、宮廷の廊下を早歩きであるところに向かっている。
このピンクのドレス、すっごい歩きづらい……重いし、頭に王室の象徴の薔薇と船の模型みたいなのをのっけて、宮廷内を侍女のルイーダを連れて歩き回るけど……トイレ遠い……漏れるって!
あー、学校生活や日本の生活が懐かしい。
ジャージとか制服の方が楽だったし、なんだかんだ便利だったし。
ここの生活、何をするにも宮廷から出れないし、好きな時にコンビニとかもいけない。
しかも化粧とか3時間とかかけてて、顔が真っ白過ぎてなんか白粉の化け物みたいだし。
意味ないんですけど! せっかく転生前にきれいにした意味ないんですけど!
それに毎晩の様にパーティとか、舞踏会とか意味わからない!
そりゃあ、将来私が楽ができるような、イケメンの大貴族の男も言い寄ってくるけど……。
でも、私の胸ばっかり見つめてきて……ホント男って最低!
そんな感じで毎晩重たいドレス着て、舞踏会で踊っていたから、おかげで、何か……筋肉がちょっとついて……スタイル維持できるし、カロリー消費できるからいいけど……辛い。
「もう! 全然楽できないじゃない! こんなことなら村娘とかにでも転生して、イケメン王子様と幸せな生活とか、シンデレラストーリーの方が良かった!」
私はため息ついて、化粧を落とした顔で鏡を見る。
「状態確認」
私の今のステータスを確認する。
レベル6 職業クラス、プリンセス レベル5 召喚魔法士 レベル1。
HP1500 MP10 ちから6、魔力10 すばやさ5 体力45 精神5 運55
スキル ステータス確認、天界魔法、属性魔法風、絶対防御、召喚魔術、魅了。
うーん、今思うと微妙……。
天使サキエルはチートだって言ってたけど、活かし方わからない。
まず召喚魔術がイマイチわからないし、天界魔法はMP足りないから使えない。
うろ覚えだが、天使との会話を思い出す。
「あなたはどうやら召喚魔術に適性があります」
「召喚魔術? ゲームで言う召喚魔法のような?」
天使サキエルはうなずいた。
彼女の話によると、生命力であるHPと魔法量のMP、そしてなんらかの対価を払う事で、召喚魔術で、神、天使、英雄、精霊を召喚出来るという。
「神は……その……癖がある方も多くて気まぐれです。並の召喚術師では召喚不可でしょう。天使なら、私クラスまではあなたでも召喚可能です。英雄は……その人物と縁が出来れば召喚可能でしょうし、精霊もまた然り」
なるほど、つまり天使なら召喚出来る。
そういえば、悪魔とかも召喚出来るのかな?
ゲームで見たことある。
「あのー、悪魔なんかも召喚出来たり……」
「悪魔や魔界の概念は消滅しました」
「え!? ええと滅亡したって事ですか?」
「概念自体が無くなりました」
そうなんだ、あ……サキエルの顔がまた真っ青になって小刻みに震えて……。
きっとその、モザイクかかってた、チート化物勇者の人がなんかして、魔界とか滅ぼしたんだ。
概念自体消滅って怖っ!
そんな話を思い出し、私が今のところ唯一使える、属性魔法の風を思い出す。
風魔法は使いやすいけど、夏の暑い日にうちわみたいに使ったら、王宮で大貴族達とかいたのに、ドレスのスカート捲れそうになってパンツが……恥ずかしい、思い出したくない。
ヒットポイント高いのは、全然オッケーだし、絶対防御のスキルは、日に一回だけど超便利。
ドレスの裾踏んで転んだ時、傷一つ体につかなかったから。
運は……実感ないなあ、結構高くてやばいって天使が言ってたけど。
魅了のスキルって……男の人、私の胸しか見てこないんですけど……そりゃあ私、転生前は寄せてあげてBカップだったけど、今何カップだろ? 確実にFかGはある、まだ大きくなってるし。
ん? 何か鏡が光ったような……気のせいかな。
この世界は中世のヨーロッパみたいな感じで、紛争や亜人種との衝突はあるけど、百年以上大きな戦争も起きてないし、平和そのもので、私はこの王国の権威を高めるために、いずれ海を隔てたどこかの大国に嫁ぐことになるだろう。
ヴィクトリー王国は、伝説の騎士ジークが建国した歴史ある国で、私がいた日本のように、四方を海に囲まれた、貿易国家。
主な輸出品は、精霊の加護を受けたとか言ってる、マジックアイテムや武器防具、そして服飾品の数々で、海を隔てた大陸の大国との繋がりが強い。
そして噂によると、周辺の大国の王子様達はイケメン揃いだと言う。
おかげで、イケメン王子のところに嫁いで、楽な生活出来そうだからいいけど……人生が何か物足りない気がするし、楽かもしれないけど、少し心がもやっとする。
明日王国に、この世界の父の即位20周年を祝って、周辺諸国の王族が集まってくるけど、転生後のお父様は、ヴィクトリー王国歴代最高の政治力を持つと言われる、50歳のジョージ3世。
王国最高の頭脳を持つ姉、王位継承権第一位、エリザベス王女と、国の政治を動かしている。
正直言うと、私はこの姉は苦手……というより嫌いだ。
何かあると遠回しに私の嫌味を言い、侍女達も姉の味方。
父上も、私を政略結婚の道具くらいにしか見てないと思うし、何かあると公務に呼ばれるのは姉ばかり。
あんな性悪の姉なんかより、頭の良さ、私に少しでも遺伝してくれたらよかったんだけどなー。
そしたら私だって……。
「あーもう、考えてもしょうがない! 寝る、そのほうが楽!」
こうなったら、私を楽にさせてくれる王子様を見つけて、見返してやる。
翌朝、私はお化粧控えめにって侍女に言って、午前中の式典に出ると、王宮に騎士団が集まって整列し、王宮中庭で父に謁見しに来る。
そして……騎士達が、めっちゃ私をガン見してくるんですけど。
あんまり私は、こういう公務に出る事ないし、物珍しさもあるかもしれないが、いい女に転生したから、しょうがないわよね。
前列に黒い鎧着た騎士団が、エドワード黒騎士団。
王国最強の精鋭騎士団で、同盟国のフランソワ王国と共同作戦で、亜人種国家との武力衝突の際、大きな戦果を挙げたとか聞いてる。
亜人種ってどんなのかは知らないけど。
リザードマンやエルフにドワーフとかそんなのかな?
侍女たちや貴族の女子の憧れ、嫁入りを夢見る、魔法剣士たちの集まりで……あ、騎士団長すっごいイケメン。
私と同じ金髪で、世の女性が振り向くような、甘いマスクに、超歯並びいいんですけど……正直好み……けどちょっと耳尖ってる?
そしてやっぱり、すごい私の事見てくる。
年は18歳だったかな?
確か男爵家のエドワードだっけ?
お父様のスピーチそっちのけで、私すっごい見られてる……緊張するなあ。
「……各騎士団は、より一層の王家への忠誠を期待する、以上である!」
あ、姉のスピーチが終わって私の番。
よおし、じゃあ風魔法で……。
私は演壇に立って、魔法でそよ風吹かせて、黄金の髪の毛をなびかせると、騎士団達が呆然とした顔で私を見る。
「よくぞ集まって下さいました、栄えあるヴィクトリー王国騎士団の各々方。これからも、陛下と王国を守って下さいね」
私がニコリと微笑むと、騎士達から、一斉に歓声が湧き起こった。
「うおおおおおおおおおお!」
「マリー王女殿下万歳!」
「ヴィクトリー王国万歳!」
「マリー姫、国王陛下万歳!」
剣とか槍とか掲げて、すっごい大盛況。
エドワードも呆然とした後、微笑みながら拍手をし始めた。
ヤダ、私ちょっとかっこいい。
私、演説の才能あったんだ。
学校の弁論大会とか出た事なかったけど。
「ヴィクトリー国歌斉唱!」
そして、いきなり歌えと来た。
この中世国、何かあるたびに王族が歌わされて、こういう式典がいっぱいあると喉ガラガラになるし、全然楽じゃない。
「おおジークよ我らが英雄♪
ヴィクトリーを守りたまへ♪
我らが気高きヴィクトリーよとこしへにあれ♪
勝利の女神よ我らを守りたまへー♬
君に勝利を♪ 幸福を栄光をたまはせ♫
御世の長からむことをー♪
女神フレイヤよジークを守りたまへ♪
おお英雄よ、勇者よ、立ち上がられよ♪
悪と非道を消散せしめたまへ 打ち砕きたまへ♪
悪の策を惑はしたまへ♪
大いなる悪の騙し手を挫きたまへ♪
我らを光の導きに!
女神よ乙女よ世界を救いたまへ〜♫」
決まった。
カラオケで90点を出した事もある私の歌声。
一番は英雄ジーク帝時代の詩。
二番は未来を予言したヘンリー・イーサーとかいう宮廷魔導師の詩だっけ? どうでもいいけど。
私は父上の方を向くと、満足そうに私を見て頷き、姉は……無表情、やっぱり感じ悪いなあ。
姉はプラチナブロンドのショートカットで、スタイル抜群で容姿も決して悪くはないが、眼鏡かけてて気が強そうで、どことなく陰気な感じがする、私より2つ年上。
縁談とか色々あったらしいけど、全部断った事から、宮廷内で鉄の女と言われてる。
基本的に私たち王族は、生まれた時に専属の侍従と侍女がついて、小さい頃に一緒に遊ぶと言う事がなく、お母様も私を産んですぐに亡くなったから、姉妹としての情は全然ない。
本当は、たった一人の姉だから、仲良くした方がいいんだけど。
そのあと、会議場まで移動するけど……相変わらず、めっちゃ歩くんですけどこの王宮。
私が住む巨大なヴィクトリー城は、侍従の話によると、元は要塞を増改築したので、居館スペースがあちこちに歪に配置されてるから、新宿駅や梅田地下街みたいな迷路みたいな感じになってて、横浜駅前のように、延々と増改築を繰り返してる。
他国から来た使者も、結構迷う人がいて、こんな迷宮にして馬鹿じゃないかと、ボソって呟いてたっけ。
そんな迷宮の城門近くにある別塔の、来賓用応接会議場に、私たち王家は集まった。
集うのは、次期国家元首の皇太子や第一王子たちで、一応外務大臣や侍従長が、私にどんな人達が来るか、事前に教えてくれる。
席順は、国力で決められてて、最迎賓国皇太子が、遠方だが南東にある砂漠の超大国、バブイール王国出身、ターバン巻いて中東っぽい白いローブっぽい服着た、褐色肌で童顔の茶色の瞳をした、超絶イケメン、今年30歳のアヴドゥル・ビン・カリーフ。
その隣が、隣国にして大国の同盟国家、青髪の短髪で、勲章だらけの青い軍服にアゴ髭とか生やした、ワイルド感があふれる感じの長身イケメン、フランソワーの第一王子で23歳、アンリ・シャルル・ド・フランソワ。
そして大陸中央の大国、ロレーヌ皇国の皇太子、赤髪で緑の瞳で、赤い鎧とか着ている、凛々しい感じだけど、長髪おさげで可愛いイケメンが、14歳フレドリッヒ・ジーク・フォン・ロレーヌ。
その隣が、大陸南方の半島にある、イリア首長国家連合の大公国ロマーノの跡継ぎ筆頭で、仕立ての良い白いシャツに、緑のスカートみたいなのを履いてる、パーマがかった黒髪に灰色の瞳が特徴的で、浅黒い肌に彫りの深いイケメンが、私と同い年で16歳の、ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロ。
父上と私たち王女が席につき、イケメン王子達と、その他大勢の大使や、王族達が私達の方をじっと見る。
普通の乙女ゲーなら、冒頭で男の子が私への運命的な出会いの場なわけなんだけど、なんとも言えない緊張感と、王子たちのプレッシャーが凄い。
私は初めて外交の舞台に立つが、父上と姉上は常にこんな緊張感に晒されてるのだろうか?
「即位20周年おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
外務大臣の、ウィリアムズの音頭で、一斉に父に頭を下げて、即位20周年を祝う。
「うむ、各国の王族の御方達も、このジョージの為、海を渡ってご足労いただき、感謝申し上げる」
こんな感じの挨拶から始まり、しばらく経済や政治的な談話が続き、姉がその全てに回答するけども、ちょっと話が高度過ぎてついていけない。
政治談話が終わると、王子達は一斉に私の方をガン見し始めた。
「しかし噂に名高いヴィクトリーの薔薇姫、マリー姫のご尊顔を拝謁できるとは……遠方からはるばる来た甲斐がありました。ここにいる小国の王子達も、同じ気持ちでしょう?」
「ハッハッハ、砂漠とラクダしかないような、貴国では花など物珍しいだろう。我が国は花など売るほどあるが、これほど美しい花を見たことがない。我が国フランソワは、ヴィクトリーとの国交300年にもなるが、より親交を深めたいところだ」
「何やら蛮族と雑種どもが、この場を仕切りたがっているようですけど、我がロレーヌ皇国とヴィクトリーは、先祖と信仰神を同じくする兄弟国です。是非ともマリー殿下には、その辺りの話を今度我が国でも」
「あ? 今子供が、生意気な戯言を申した気がするが。なあ? カリーフ殿」
「まあまあ、小僧の戯言ですフランソワ殿」
「蛮族と雑種めは耳が悪いようですね、戦場で死にますよ?」
「大国の皆様は血の気が多いですなあ。まあ良いや、我が大公国は香辛料事業で投資を行ってまして、皆様一口乗りませんか? あ、バブイール王国以外で」
「ハッハッハ、我が国を除外するとは良い度胸だな? 弱小国めが」
えーと……なんか王子同士、私を前にして、何やらマウントを取り合ってるんですけど。
すっごい険悪な空気になってるんですけど……えーと、何これ……その……何?
とりあえず挨拶しなきゃ。
「ごきげんよう皆さま方。ええと、皆さまとお会いできて、マリーも嬉しいです。今日は色々とお話出来ればいいかな……なんて」
私が精一杯、笑顔で言うと王子達がボーッとした顔で見つめ出す。
「そうですね、是非ともお話を」
「然り然り、とても素晴らしい話になるだろう」
「ええと今日は……いいお天気ですね?」
「おお、なんと美しい、女神だまるで」
あ、何か知らないけど好感度上がった。
そんな感じで私が、集まった王子様達とニコニコしながら談笑すると、珍しく父も上機嫌な顔になり、姉は何やらペンと紙を持ってこさせ、その様子をメモしてるようだった。
そして式典が終了し、夕食の晩餐会の前、私は父の自室の一つに呼び出される。
何か外交非礼とかまずい事でも、私やっちゃったのかな?
「マリーよ、今日がそなたの外交の晴れの舞台だったが、感想はどうか?」
「とても緊張しました。けど、他国から来た王子様達と、色々お話出来て良かったです」
私が答えると、父はカイゼル髭をいじりながら、考え始めた。
「で、あるか。各国の王子達の印象は?」
印象かー。
アヴドゥル皇太子は一番資金力持ってて、大人の余裕たっぷりっぽいイケメンな感じで、嫁ぎ先としては楽そうだけど……あの人、妻が20人いるって言ってるし、嫁いだら他の妻の人達と、色々ありそうで、絶対に面倒だろうなあ。
アンリ王子は、海を隔てた隣国かつ同盟国で、話してみると、空気が読めないのが玉にきずっぽいし、口は悪いけど、根は優しそうな武人って感じで、悪い人じゃない感じ。
けど北東の亜人国家を征伐とかして、領土拡大してるけど……戦争とか巻き込まれたくないし、嫁いだら軍事関係とかの、軍の慰労とか式典とか、めんどくさそう。
ロレーヌのフリドリッヒ皇太子は……ちょっと幼さが残って、私と話すと顔を赤らめる、可愛い年下の僕っ子でショタ気のある男の子といった印象。
話した感じ、毒舌家でプライドが無駄に高いのは短所っぽいけど、頭の回転が早くて知的で、多分あの中で一番頭が良さそうだし、大陸で信仰されてるジーク教とも関係深い感じ。
ジーク教とは、この世界のキリスト教っぽい感じで、英雄ジークを神として敬う宗教。
嫁いだら、宗教行事とか絶対めんどくさそう。
ロマーノ大公国のヴィトー王子は、チャラ男っぽくて、楽観的なパリピで軽い感じだけど、商才に溢れてて、銀行投資や事業投資に熱心で、大国間の争いは一歩引いて見ている印象。
そして私を、情熱的に口説いてきたけど、その度に周りの王子達の顔が険しくなって……。
嫁いだら、お金いっぱい増やしてくれて楽そうだけど、他の大国から嫌がらせとかされそうで、絶対面倒な事になりそう。
けど、4人の共通点としては……。
「なんか子供っぽい感じです。自慢話とか、自信たっぷりで、いじっぱりな感じで」
私が率直な感想を述べると父は笑い出す。
「ハッハッハッハ、うむ、そうだな、そなたは本質をついとる! 見事なものだ。王族の若い男などそんなものよ、他には?」
「他には、みな私に好印象をもってるけど、王子たちの仲はそんなに良くない……かも」
「うむ、大陸の次世代を担う王位継承者達は、互いに関係は険悪じゃ。表面上和平など装ってるが、元は大陸の国同士、微妙なところでバランスが保たれておる。そしてあやつらは惚れとるのう、そなたに。しかし、朕はそなたを、あやつらにくれてやる気は毛頭ない」
ちょ!?
いきなり私と王子様達とのフラグがへし折られたんですけど。
「娘よ、我が王女よ、簡単な事じゃ。あやつらはそなたに惚れておる。という事は、そなたを巡って大国間同士で100年ぶりに戦が起きるという兆しが出ておる。我がヴィクトリーも巻き込まれる恐れがあるが、これは逆に大国を我が国で操れるチャンスでもある」
えええええええええええええ。
せっかく楽がしたいのに、戦争の兆しとか嫌なんですけど。
戦争になったら、私が楽できるどころか、ヘタすると私も……。
「案ずるな美しき我が娘よ。我が国が長年、大陸国家と渡り合ってきたのは、海を隔てているという利点もあるが」
父は笑いながら、右手の人差し指で、自分のこめかみをトントンとノックするようにつつく。
「ここじゃよ、我が娘よ。いかに楽して我が国を富ませるか、それが我が国の命題だ」
あー、楽したいんだ父も。
だから、頭を使うって事なのね。
「そなたには、そこの所をよく考えてほしいのだよ、娘よ。あの各国の王子達の反応を見るに、お前がおれば必ず我がヴィクトリーの益となる。そのため、明日よりそなたは朕の帝王学を学ばせる。そなたが18歳になる2年後には、女王へ即位するのだからな、マリーよ」
勉強は苦手なんだけどなー。
2年後私が即位かー……へ?
「そなたには王として相応しい華がある事を、今回の公儀で確信した。無論、朕は国王を表向き退いても、影からそなたとヴィクトリー朝のサポートを死ぬまでしてやるから、心配することはない」
いやいやいやいや、ちょっと待って。
私女王とか自信ないんですけど、転生前はただの女子高生だったんですけど!
女王とか無理なんですけども!
なんか……楽できるのかな? 私の転生後の人生。