第193話 英雄の記録
私は、ノーマン宮殿の来賓室でシシリーの記者達や昨夜縁ができた記者達をリモート通信で呼びかけて、午後の定例記者会見を始める。
書記にはアレックスとジョンをつけて、英雄だった彼の思いを再び世界に解き放つ。
「午後の定例記者会見を、ここシシリーで開けてまことに嬉しい限りです。このシシリーは、私も300年前にとてもお世話になった地で、今回はゲストとしてシシリー王国の国王であるヴィットーリオ・デ・マリーオ陛下もご出席いただきました」
シシリーの記者から、私達にカメラのフラッシュが一斉にたかれる。
「シシリー王国ヴィットーリオ・デ・マリーオである。この場にヴァルキリー様をお呼びする事ができ、我らシシリーは感無量でございます。質問があれば伺いましょう」
するとロマーノ市局の女子アナちゃんが、マリーオ王に憎悪がこもった目で睨みつける。
「ロマーノ市通信局のメリッサ・クレメンテです。マリーオ王は、シシリーの犯罪組織、マフィーオについてどう思われますか?」
やはりイリア共和国はシシリーに対して、いい印象を持ってないみたいだ。
マリーオも、なんだこの小娘はって感じでむすっとした顔になるし、しょうがないわね。
「それについては、私が答えましょう。私は彼マリーオ王と約束をしました。もう二度と私はシシリー人に悪いことは一切させません。そうですよね?」
「はい、ヴァルキリー様に誓って二度とシシリーに非合法活動をしない、させないと約束いたしました。このヴァルキリー様との約束事の書状についても、我が王家の名で発布する」
私とマリーオ王が交わした契約書が公開されて、一斉に記者達からフラッシュがたかれた。
「けど私は、個人的にシシリーは信用できません。私の祖父は父が幼い頃、シシリー独立紛争で殺された。記者だった父は……マフィーオの組織犯罪を取材中に殺された。私はシシリーやマフィーオが信頼にあたる人たちとは全く思いません」
ロマーノの女子アナちゃんにそんな過去が。
これは、かなり深刻な民族対立を生んでるわ。
だが、私は今のシシリーを信じる。
蘇ったガルーダとの戦いで、彼らの中に光を見たから。
私は、マリーオ王に頷くと、彼は意を決して深々とその場で頭を下げた。
「ワシらの過ちで、君の家族に申し訳ない事をした。ワシらの過ちで不幸になった全てのナーロッパの人々に、ワシはシシリー代表として謝罪を持って応えたい、申し訳なかった」
ロマーノの首相から謝罪を受けたことで、彼もまた過ちを認めて謝罪を口にする。
立場がある人は、謝罪だとか頭を下げるのは難しいところがあるが、彼は明日のシシリーを夢見て、自分がしでかした過ちを清算する気なんだ。
「君に信じてくれとは言わないが、これからのシシリーをどうか見て欲しい。ワシは、ヴァルキリー様やこの世界のために再び世界に黄金の時代が訪れるのを願い、我らは正しい道を歩んでいきたい」
すると、また一人挙手する記者が出る。
確か私に粘着してきて、イワネツさんに思いっきり脅されてたヴィクトリーVBC記者のジョンソンだったかしら?
「どうぞ、ジョンソン記者」
「名前を覚えていただいて恐縮です、ヴァルキリー様。フリージャーナリストの、オスカー・ジョンソンです。早朝ヒンダス帝国で起きた勇者イワネツによる戦闘に関する質問です」
あ、VBCをクビになったんだこの記者。
そしてこの記者の昨夜の質問は、世界最大のメディアと言われるVBCによる意思で、報道局を操ってるのは、おそらくあの自称素晴らしい馬鹿女ね。
「世界の治安を脅かす、ブラックハンドの首領が即位予定だったシャー皇太子であることがわかり、その共犯者がマリーゴールド財団と、虹龍国際公司のCEO、アリー・ビン・ザーイド・ナイーフ。マリーク首長国連邦の盟主であるのは間違いありませんか?」
「はい、間違いありません。そればかりか、私やシシリー王国の資産も、かの企業に凍結されました。勇者イワネツ、織部憲長の出資金も。理由を知りたいので、私の会見に途中参加でもいいので、納得のいく説明をして欲しいです」
記者からのどよめきと共に、一斉にフラッシュがたかれる。
「なるほど、明日朝の株式市場であの会社の株価が心配になりますね、世界恐慌にならなきゃいいのですが。ヴァルキリー様、創業者であるアヴドゥル・ビン・カリーフはあなたの仲間だったとの話ですが、どういった人だったんですか?」
私は、リモートの映像で暗い顔をして項垂れる、虹龍国際公司、メディア担当でもあるチーノ人系の彼を見た。
「その前に確認をしたい事があります。そこの虹龍国際公司のメディア担当の劉さん。虹龍国際公司の社訓、社是、社則とも言うが、それはなんですか?」
「え? あ、はい“道“です」
「意味は?」
彼は黙ってしまったけど、ダメだこりゃ。
後世の社員に全然伝わってないし、企業理念が無くなった会社は遅かれ早かれ潰れる定めだけど、龍さんの説いた道の概念とは、道に全てが込められている。
「アリー社長、もしこの会見を見ていたなら答えていただけますか? 創業者の説いた道とは何か、この会見の場でおっしゃっていただくとありがたいです。創業者の彼は、麻薬なんかを扱って密輸する道なんか一切説かなかった!」
あえて挑発する事で、彼をこの場に引きずり出す。
この場で出てこなくても別にいい。
今頃、マフィーオ達が水晶玉であの会社に、苦情を入れてて、悪評も立ちまくってるし、商業的な面でも私に対応せざるを得ない状況に陥るだろう。
企業は信用が第一で、こうした企業相手への掛け合いのやり方も先生から習ったし、私は数々の世界の救済で実践してきた。
「ジョンソン記者、初代創業者だった彼は、自分の事を龍とも言っていました。彼は元々バブイール王国の王族。理知的かつ博識で器が大きく、リーダーシップに優れた人でした。そして多くの人々の幸福を願った人だった。お金よりも人としての道理を大事にする人でした。その彼の起業精神が全く残されていないのは、嘆かわしいばかりです」
「ありがとうございますヴァルキリー様。私が長年ロマーノ分局デスクのキャップを勤め上げ、今朝方自主退社したVBC、ヴィクトリー・ブロードキャスティング・コーポレーションの理念は、公平公正が社是でした。が、残念ながら企業理念も社是も守られてません。端金の退職金なんかいらないので、ジャーナリストとしての理念を取り戻して欲しいですね」
なんか彼、フリーになって骨のあるジャーナリストになってるけど彼は今後味方についてくれそうな気がする。
「それでは、生前アヴドゥルこと龍氏が最も信頼していた私たちの当時のリーダーの話を、今日の記者会見の場で。この世界を悪の手から救った彼の話を、今日はしたいと思います」
勇者ブロンドから拝借した録音機を作動させ、彼が遺した言葉を再生する。
「よう世界のみんな、聞いてくれ。かつてアンリ・シャルル・ド・フランソワと呼ばれた男、今はデリンジャーって名で大統領をやってる」
デリンジャーの世界人権宣言の音声が流れ始めた。
「みんな、前の世界の記憶って覚えてるか? 俺は覚えている。この世界は、魂が傷ついて悲しい思いをした人達へ、セカンドチャンスを与える為に、光の神様が推奨して作った世界だそうだ。だが、今の俺達はどうだい?」
この世界の生まれた訳を、そして当時の人々の思いを代弁した彼の演説の音声に、集まったみんなが聞き入って、私も懐かしさが込み上げて涙が溢れ出した。
「俺達は、この世界に傷ついたまま生を受けた。だが、この世界はどうだ? 立場が弱い奴らを虐げて自分のちっぽけな欲望を果たそうと、悪と、不条理が横行してる。二度と、俺達の魂は傷付かねえようにって思ってる筈なのに。なぜだ!!」
デリンジャーが、壇上の机に握り拳を振り下ろしたのか、マイクがハウリングを起こしてキーンと音が鳴る。
「俺の前世は、決して褒められたもんじゃあなかった。世間は俺の事を義賊だと、裏社会では犯罪王だとも、政府は公共の敵ナンバー1だと俺を呼んだ。けど、俺はそんな大それた存在じゃねえ、ただの人殺しだ。自分の仕事を果たす為、市民と社会を守ろうとしたおまわりを、ぶっ殺しちまった……強盗殺人犯。ただの忌むべき人殺しだったんだ」
昨夜のフランソワの記者が、リモート先でガタッと席から立ち上がり、発言をするため挙手する。
「テレビジョン・フランソワ2チャンネルのロマン・ベルトランですが、これは……初代大統領デリンジャーの肉声、世界人権宣言の」
「はい、その通りです。彼は、明日の世界を夢見た真の英雄だった。どうか、聞いてください。彼の、当時の人々が彼を大統領にした思いを」
音声は流れ続ける。
「俺は、この世界でもまた罪を犯した。戦争相手のホランドを、耳が尖った亜人と呼んで……同じ人間なのに殺し回って、大勢の人々を殺めた人殺しだ」
彼は最初に会った時、見栄っ張りで敵対者を同じ人と思わないような苛烈さで、戦争相手のホランドや植民公社があったシシリーも彼を恐れていた。
けど彼は、自分の魂を蘇らせ、世界を導くリーダーとなって、私達は彼と一緒に巨悪と対峙した。
「違う! あなたは英雄だ」
「そうだ大統領!」
「あなたは私達を戦争から守るため」
「あんた一人が悪かったわけじゃない」
「英雄、俺達の英雄、どうか」
「だってあんたは王族の地位捨てて」
「今この場でもあなたは……俺達の」
「大統領、俺達はあんたを支持する」
「あなたのおかげでみんな平等に」
「私達を導く英雄です」
聴衆達からの大統領に呼びかけも音声や、当時の人達の思いを聴いて、集まった記者達は音声に耳を傾け、マリーオ王も彼の男気に触れて感じ入ってて、静かに耳を傾けていた。
「どんな理由があろうと、人が人を殺す事は許されねえ。他者が他者の権利を奪う世は、もうここで終わりにしよう。それに俺はお前達も、俺のスピーチ聞いてる世界中の奴らも、悲しい思いをする世界になんかに、二度としてたまるか! この世界は、今も自分勝手な無責任野郎達が、今も罪を犯し続けてる。人を人とも思わねえファッキンクレイジーな奴らが、心根の優しい弱い人々を虐げて、騙して、利用して、生き方を、運命を、人が人として生きる為の権利を犯してる!!」
すると、フランソワの記者ベルトランは、涙を流して嗚咽していた。
「どうして!? どうして彼の思いがフランソワで残されてないんだ! 旧貴族の金持ち達が金儲けに走って、市民生活や人権を脅かしてるのにっ! 彼は……ヴァルキリー様の言う通り英雄なのがわかった。なのに現代の俺たちは……クソ……」
デリンジャーの思いが残されていないのか、なんとなくわかった気がする。
今のフランソワの政財界を支配する、旧貴族達は、デリンジャーが説いた市民平等なんか否定してて、自分達の既得権益を守るためにデリンジャーの思いや人権宣言を捻じ曲げて、都合のいいようにしてしまった可能性がある。
その中心人物が、財団理事にしてフランソワで王政復古を企むロワという存在か。
「だが、もうこんな事は終わりにしよう! 俺は、ある乙女の想いと、前の世界で悪と断じられたが、正義の魂を持つ仲間達と共に想い願った信念を代弁して、この世界で人権宣言を提唱する!!」
音声に、広場に集まった人達の歓声がきこえる。
この日パリス人権宣言が生まれ、作戦名ジョンデリンジャー・デイで、私達はナーロッパの悪に反旗を翻した。
同時にイワネツさんもジッポン北朝を統一した記念すべき日でもあり、悪に反撃を開始した日でもある。
「この世界は、悪しき神が自分の身勝手な欲望を叶える為に、人々の持つ生まれついての権利を侵害しているんだ! 俺や、集まってくれたお前達や、この配信を見てくれてるみんなの……人として生きる権利が、今もふざけた奴らに!! だから終わらしてやろう! 俺の仲間、龍やジロー、イワネツ、シミーズ、ロバート、そしてマリー! 俺達の思いは不滅だ! 俺は、人間は悪に負けねえっ! 俺達の思いは負けねえッッ!」
音声の群衆が沸き立ち、デリンジャーの息遣いが残ってて、最後に彼は言った。
「俺はギャングだった。だが、たとえ何度生まれ変わったとしても、誇りと自分の生き方を、誰かを愛する気持ちを持つのが俺たち人間だ。そして俺達の生きる権利を認めねえ、神野郎共から俺達の人権を強奪してやろう! 前世で人殺しの罪を犯したギャングな俺が、この世界で本物のヒーローとしての生き方を望んだ俺が、パリス世界憲章と、世界人権宣言がこの世界で永遠に保障される事を、人類の平和を祈念する!!」
マシンガン連射音が聞こえて、聴衆達から歓声が沸き起こる。
「うおおおおおおお!!」
「大統領万歳!!」
「俺達のフランソワの英雄!!」
「私達に生きる権利を」
「我々全員で取り戻すんだあああああ!」
他の音声はまだあるけど、今回はこれで終わり。
そして私は記者達に、私の思いも伝える。
「いかがでしたでしょうか? これは私がかつて対峙した悪に一緒に立ち向かった英雄の記録、歴史の真実です。彼はリーダーだった。最後まで、この世界の悪に立ち向かった英雄です。大邪神と呼ばれた悪の一派と。そしてその悪は、この時代で蘇ってしまった」
すると、リモート画像のフランソワ記者室の扉が開かれ、黒ずくめの男達が記者を連行していく。
「フランソワ国際刑事機構だ! テレビジョン・フランソワ2チャンネルロマーノ分局のロマン・ベルトラン! フランソワ本国法務局、国家反逆罪に基づき、午後6時31分、逮捕!」
「ちくしょう! 離せ! ふざけんな! 言論弾圧だ!!」
酷い、記者がでっち上げで逮捕されてる。
「抵抗するか!」
銃声が何度も響いて、記者の悲鳴が入る。
これ……殺したわね記者を。
デリンジャーがあれだけ忌み嫌った人殺しを、国の治安機関が他所の国へ越権してまでやってるなんて。
とことん腐りきった国に変わってしまってる。
すると、リモート画像が別の場所に切り替わった。
「テレビジョン・フランソワ2チャンネル社主、ヴァレンティン・ド・ブルボンヌです。当社の社員がご迷惑をお掛けして、誠に申し訳ありません。そこの自称ヴァルキリーは、ヴァルキリー様の名を騙る偽物であり、先程の初代大統領の音声はでっち上げですので、ご理解お願いします」
記者会見場が、喧騒に包まれて非難轟々になって、シシリー王マリーオは議机をバンと平手打ちする。
「ふざけるな! ここにおわす方こそ伝説のヴァルキリー様で、今の音声は紛れもなく英雄の思いが込められていた。貴様らフランソワは、ヴァルキリー様の恩を忘れたか無礼者!」
「これはこれは、秘密結社マフィーオの元締めの噂もあるシシリー王陛下。我が国のフランソワ国際刑事機構より、あなたに対しても逮捕状が発布されてますぞ? ヴァルキリーを騙った虹龍国際公司への詐欺容疑で」
エムだわ。
エムと財団理事のロワとかいう奴が、手を回したか。
すると、執務室に座ってる濃紺のダブルのスーツを着た初老の男に映像が切り替わった。
「私は、フランソワ第66代大統領、フランソワ・ジャン・ザクゼンブルー・ミッテランであります。そこの女はヴァルキリーの名を騙る詐欺師であると我が国は認定し、我がフランソワやナーロッパ全てを貶める者であることを宣言する!」
ザグゼンブルー……成程、彼女の子孫か。
そしてこいつは多分、財団関係者。
「ごきげんよう、大統領閣下。マリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーです。あなたは先祖のザグゼンブルー家の名誉を汚し、初代大統領である彼の思いも否定した。私の敵という事でよろしいですね?」
「口の聞き方に気をつけて欲しいですね、お嬢さん。見たところヴィクトリー人のようだが、我がフランソワの法令に則り、君は国際指名手配されてるのだぞ?」
「あっそう。だから何?」
私の挑発に、眉ひとつ動かさない。
やり手だわ、優秀な政治家のようだ。
「ですよねえアリー社長。このお嬢さんとその一派から脅されたと、国際刑事機構に被害届を出されて、さぞや恐ろしい目に遭われた事、心中お察しします」
フランソワ大統領の傍に、ターバンを巻いた褐色の若そうな男が画面に現れる。
「大統領閣下ありがとうございます。今後とも我が社をよしなに」
なるほど、フランソワは彼のお得意先って事ね。
「懐かしいわね、創業者の龍さんとフランソワ大統領のデリンジャーは、親友同士だった。お互いがお互いを信頼し合う美しい男の友情を見せてくれていた。あんた達みたいな金と欲で繋がった関係じゃなくね」
「なに!?」
「だってそうじゃないのよ! 彼らは世界のために戦った男の中の男達だった。命を懸けて悪の神々や大邪神とも呼ばれるようになったエムことミクトランに立ち向かった!」
私は蘇りしエムの名を口にすると、フランソワ大統領は首を傾げ、社長のアリーは顔面が蒼白状態になる。
フランソワ大統領は、エムの名を知らないという事は、財団関係者だけど理事じゃないのか。
「アリーさんでしたっけ? 御社の"道“の概念、メディア担当の人も答えられなかったので、創業者が社是にした道についてお聞かせください」
「わ、私達商人が守るべきルールではなかったですかな?」
ダメだこいつ、全然、違う。
口からでまかせ言って取り繕うとしてる。
金と家柄と要領と頭脳で社長になったようだけど、肝心の理念と心がない。
「全然違うわよ、あんた社長やめたら? アホらしい」
「なんだと小娘!」
馬鹿馬鹿しくてため息が出てきちゃうわね。
彼が説いた道とは!
「道とは! 子曰 參乎 吾道一以貫之哉! 人としてどう生きるかという道。そして人間として何を目指していくかの探究する信念! 学問だろうが武術だろうがスポーツだろうが、商売だろうが、そして今の私の今の生き方も道。人は自分の道を見出し、物事を通じ、生き方と真理を追求して、人生を歩まなければならない! それが人の道よ!」
私は社長のアリーを論破する。
創業者の彼の思いも忘れ、金と保身ばかりのこんな奴がやる会社なんか、最悪もう無くなったっていい。
「このヴィットーリオ・デ・マリーオ感服いたしました。虹龍国際公司の創業者も、初代フランソワ大統領も、ヴァルキリー様がお認めになった男達の思いは素晴らしいものがあります。それに比べてこやつらは! 恥を知れいっ!」
「小国シシリー、失礼、発展途上国が強気ですな陛下。我がフランソワは先進的な軍を持ってますので、我がフランソワに宣戦布告でもする気ですかな?」
確かにフランソワは私の時代でも大国だった。
全軍で攻められたら、シシリー島の人達は勝てないだろうし、中央海の要所であるフランソワ領コルス島と、地政学的要所なシシリー島を抑えれば、ナーロッパの海を支配することも可能。
だから当時、ヴィクトリーやロレーヌ、バブイールに対抗するため、フランソワはロマーノと植民公社をシシリーに作っていた。
多分、財団にそのあたりを吹き込まれた可能性があるわね。
「裏切り者のマフィーオ共と、似非ヴァルキリーめが。我が社を守るためなら、私は手段を選ばん!」
手段を選ばないですって。
じゃあ私は手段を選ぶ!
人として輝くための正義の道を!
私はマリーオ王と顔を見合わせて、お互い頷く。
「ワシだ。フランソワにいる同胞達で、ヴァルキリー様の声をフランソワ中に伝達せよ。英雄達の真実をフランソワ人に」
フランソワのジャーナリストが無効化されたならば、マフィーオ達を使って、私の声をフランソワ市民に伝える。
それが、命を落としたフランソワジャーナリストへの弔いだ。
悪の独裁者達や権力者を倒すのは、いつの時代も民衆達の思い!
「これ以上、私の大事な仲間が作った会社を、あんたみたいな悪党の好きにはさせない! 教えてあげるわ、かつて海賊と呼ばれた男の、ギャングと呼ばれた人の生き方と思いを」
私は、アレックスとジョンを小声で呼ぶ。
「あなた達は、シシリーのジェット機に乗ってジッポンで任務を。私の騎士団にも話は通しているから。ジッポンで勇者イワネツと合流を。私は後から行く」
「え? けどヴァルキリーさん。俺らロマーノからヴィクトリー空軍の輸送機に乗って今夜行く予定だったんすけど」
「はい、途中で予定を変更してジッポン側も困惑するんじゃないでしょうか?」
彼らは当初、ロマーノから軍用機でジッポンまで行く予定だったが、ヴィクトリー空軍を使うのは嫌な予感がする。
あの素晴らしい馬鹿女の陰謀で、彼らの飛行機が進路変更して、ヴィクトリーに連れ去られる恐れがあるから、彼らには別の飛行機で行ってもらう。
「大丈夫、何かあったら水晶玉通信で私を呼び出してほしい。なんとかするから」
私は、アレックスとジョンを退席させてこの時代の悪と対峙する。
「もう一度言うわ。この世界を滅ぼそうとしたのは、神の中でも戦神と呼ばれ、強大な力を持ったオーディンとその一派。そしてこの世界に大邪神として伝説が残るエムことミクトラン」
「質問です! ヴァルキリー様。魔女エリザベスは? 悪の黒騎士と呼ばれた男と、あなたに退治された者達について聞かせてください」
フリージャーナリストのジョンソンから質問された私は、当時私が敵対し、先生の力も借りて倒した神々の話をする。
「きっかけは、女神フレイアが悪に染まった事です。彼女と兄神フレイが争い人種対立が生まれた。ニョルズと呼ばれた神も、恐ろしい祟神で世界を祟っていた。これらの黒幕、オーディンは世界の人々を抹殺して力を得ようとしていました。彼と私の姉は奴らに利用されていた」
「なるほど、以前ヴァルキリー様が超次元的な存在によって、この世界が滅亡の危機に瀕していたとおっしゃられてましたが、神は実在するんですよね? それはどのような?」
どのような……か。
この世界は大まかに人間界って呼ばれるところで、次元が全く違うところに、天界があったり精霊界があったり冥界や神界がある。
神は私達とは住んでる次元そのものが違くて、地球もそうだけど別の星々や次元で、自分達に似せて人間を作った存在だけど、その神も神域とかが無数にあって、地球で名を馳せた神々以外も多く、お互いの神域を認識できる区域とできない区域もあったり、交流があったりなかったりしてるらしいし。
その神々の頂点に立つのが、宇宙創造の神様でもあり光の神でもある創造神。
私達が認識する神や、人間の私とは、もはや次元が違いすぎて姿を光でしか認識することが出来ず、天界の天使と呼ばれる高次元的な存在だけが、創造神様の存在を常に認識できると言われている。
「高次元的な存在としか言えません。今、この世界を担当するのは、四女神。クロヌス、フェンリル、ミドガルズオム、ヘルの四柱です」
「な、なるほど。女神ヘルはジッポンで崇められているとか。その高異次元的な存在により、魔女エリザベスも黒騎士も利用されていたと」
「ええ、そして戦神オーディンを途中から操っていた邪悪がエムと呼ばれる存在で、私達が倒さなきゃいけない悪でした。奴はジッポンやナーロッパで多くの人々を殺した。オーディンとエムに立ち向かったのが私達です」
私の話に、アリーは顔を真っ赤にしてこちらを睨みつける。
「そんな話信じられるか! お前の作り話だろうが!」
「いいえ、本当の事よ。あんたの会社の初代社長アヴドゥル、龍さんを再起不能にしたのがエムだった。世界を救おうと戦った私達のリーダー、デリンジャーを暗殺したのがエムとオーディン」
ミッテラン大統領は、私を小馬鹿にしたような感じで鼻で笑い、机に頬杖つく。
「ふっ、詐欺師のお嬢さん、君は嘘をついてるな。大戦期、初代大統領は混乱状態だったフランソワを抜け出し、当時の敵国ヴィクトリーまで逃亡。逃亡先のロンディウムで、心臓発作を起こして死んだ情けない最期だったはずだが?」
やはり歴史が歪められてる。
デリンジャーを貶めて歴史を改竄したことで、この世界のフランソワ旧貴族勢力は、自分達のかつての権力を取り戻すために、国の在り方を変えてしまったんだろう。
「違うわ。彼は世界を守ろうとして、ロンディウムでの戦いで、命どころか魂を懸けて悪と対峙した。彼がいなければ私は殺されていたし、この世界は滅んでいたところだった。人権、法の下の平等は彼が望んだものだった。自由を愛する人だった。あんたも、フランソワもその思いをなくしてしまった。あんたなんか大統領に相応しくない!」
「自由? 平等? ふん、そんなものは世迷言だ。大衆というものは放っておけば、権利ばかり主張し、義務を果たさない。我らが選ばれしエリートが、大衆が義務を果たすよう導き、大衆は我々を支持する。だから私は各名家達が賛同し、大衆達の投票で大統領になった」
思い上がってるわね、こいつ。
やはり、私がさまざまな世界で対峙した悪の独裁者そのものだ。
自分を優れていると勘違いして、人々を心のどこかで馬鹿にして、心ある人を邪魔者呼ばわりして葬りさる、圧政者だ。
彼と彼女の残した思いを、なぜ彼は理解できないんだ。
フランソワの未来と、世界の未来を後世に託したはずなのになぜっ! どうしてっ!
「エリートですって!? だからなんだって言うのよ。デリンジャーは言ってた! 人の思いを、生き方を、誰かを愛するのは止められないって! あんただって彼の願いが思いが、彼女を通じてルイーズ・ド・アンザス・ザグゼンブルーの!」
「馬鹿馬鹿しい。我が家は世が世なら王家の家系。我がザグゼンブルーとブルボンヌ家がフランソワを統治するに相応しい。この大国フランソワを統べるのは、愚民を統治する確かな血統と権威!」
「違う! 全然違う。私の時代、フランソワは厳格な身分制度を敷いていて、王族の下に多くの階級の貴族、その下の市民や農民は人間扱いされてなかったけど、それを救ったのが彼だ。彼はパリス広場で言った、王家の証と王冠を投げ捨てて、人々を苦しめる王族なんかいらないと! 身分なんて人を縛りつけるものも、フランソワには必要ないと! 自分は民衆達のヒーローであると!」
どうか届いて。
現代のフランソワ大統領よ、彼の正義を受け継ぐ一族。
だが、彼は笑みを浮かべる。
かつてのデリンジャーと、奇しくも同じような不適な笑みだった。
「馬鹿馬鹿しい、王家や貴族制度を廃止した敗北主義者だ」
「違う! 過去を否定して人々を苦しめる悪め! あの大戦は悲惨だったわ。大戦初期、あなた方フランソワはロレーヌ皇国に占領されていた。ホランドの後ろに控えていた強大なノルド帝国から虐殺も受けていたわ。大戦末期は、大邪神と呼ばれたエムからの大虐殺も、麻薬禍も」
ミッテラン大統領の表情が少し変わった。
その記録は残されているんだろう。
「その危機的状況を救ったのが、初代大統領デリンジャー! 英雄を否定する悪は私が否定する!! 世界の人々、どうか聞いてください! 世界を救った真の英雄の話を! 私達が信頼したリーダーの話を信じてください!」
私は、彼の生き様を世界を救った真の英雄、私達のリーダーだったデリンジャーの生き様と散り際を後世に伝える。
「あれは私達が反撃を開始して、世界大戦が終わろうとしていた時。エムが目覚めて、再び悪が世界を蝕もうとした時だった。野球が好きだった彼は言っていたわ、延長10回相手の攻撃で、12点くらい入れられたって。この世界が悪にサヨナラ負けしそうな状況だった」
次回は過去の回想です
英雄デリンジャーの生き様と散り際の話です