第192話 信義の勇者の召喚魔法
召喚システムが発動して、身長190センチ、髪の毛をオールバックにした金髪のエルフの大親分にして、ナイスミドルなAランク勇者が着物姿で現れる。
私が非公式ながら先生の一番弟子なら、彼は先生の教えを受け継ぐ直系の子分。
神々の世界を除く異世界最大の力を持つ組織、極悪組の頭領にして、現役Aランク勇者の中でもトップクラスの勇者ブロンド。
彼は多くの種族を従え、先生の子分の数を凌ぐほどの最大勢力となった組織の長で、精霊界とも密接に繋がり、多くの勇者や救世主を生み出したトップオブエース。
その功績は、私をも凌ぐ先生の自慢の子分だ。
「お控ぇなすって!」
右手を差し出して中腰の姿勢を勇者ブロンドがとり、私もそれに倣うけど、これは先生の組織の伝統に則った挨拶、仁義。
「手前、控えさせていただきます」
「ありがとうございます。恐縮ではございますが、手前の仁義発します。手前、生国は仁愛の世界アルフランド大陸エルフ王国大森林で王子として生を受け、名をグルゴン・トワ・エルフヘイムと発します。正業についてはトワエルフ王国の国王を務めております。渡世におきましては、偉大なる勇者マサヨシ親分より親子盃を頂戴し、極悪組六代目組長を務めております、渡世名をブロンド、人呼んで勇者ブロンドと発しやす。任侠道も、偉大なる勇者の道を極める道半ばではございますが、どうかよろしくお願い申し上げます」
「ご丁寧な挨拶、まことにありがとうございます。手前、このニュートピアのヴィクトリー王国で王女マリー・ロンディウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリーとして生を受け、現在は数多の世界で勇者をしております勇者マリー、またの名をヴァルキリーと申します。よろしくお願いいたします」
ポカーンとしながら、シシリー王国の面々が仁義を切るやり取りを見つめていた。
「どうぞお姉ぇさん、お手をあげなすって」
「親分さんこそお手をおあげなすって」
「では同時に手を上げましょう」
とまあ、こんな感じなんだけどお互い勇者同士、挨拶はとても大事。
「ご無沙汰しています、勇者ブロンド。お越しいただきありがとうございます。先生はお元気ですか?」
「お久しぶりです。総裁は現在とある世界で活動中です。古代の邪神、邪眼のバロール残党一派や、魔界を復活させたという魔帝サマエルの魔族達と抗争中でして、うちの組も支援に入っているところです」
ああ、ある意味元気でやっているらしい。
先生が救済して、無かったことにした魔界だったけど、その魔界から移住した勢力が、次元世界のあちこちで活動中で、新たな魔界が複数生まれたらしい。
その勢力は、かつての旧魔界の勢力を凌ぐほどで、神々も手をこまねいてついには先生を対策として送り込んだというのを人伝で聞いたことがある。
「それで、ここは何処で要件はなんでしょうか?」
「ここは、勇者ブロンドがまだ勇者じゃない時に、私達と一緒に戦ってくださったニュートピアのシシリーです」
「それは懐かしい。あの時の私はまだ若く未熟で、このシシリーでは、巨大な怪鳥やコカトリスの群れと戦い、総裁やあなたと共に弓で撃退しましたね」
マリーオ王は、勇者ブロンドの前に立ち、深々とお辞儀をする。
「先祖を救ってくださった、ヴァルキリー様のお仲間の方かとお見受けします。私の名はヴィットーリオ・デ・マリーオと申します。先祖を救ってくださり、ありがとうございます」
「いえ、私はあなた方に逆に助けていただきました。ここで会えたのも何かのご縁、これをどうぞ」
勇者ブロンドは、懐から麻袋を取り出すとマリーオ王に手渡す。
「これは、レッドスター・トマトと呼ばれる野菜の種。この野菜は赤い実に星形が特徴的で、収穫量が多く、ビタミンやミネラルが豊富。痩せた土地でも生育可能な野菜で、生野菜サラダもいいですが、加熱してスープにするのがおすすめです」
この世界には無かったトマトの種、多分名前からしてめっちゃ美味だろう。
「ああ、それトマトって言ってスープやソースにすると、とても美味しいし栄養豊富。シシリーの新しいビジネスになるはず。まずはこの実を沢山栽培して、シシリー名物にしちゃいましょう。マフィーオでレストランチェーンなんかも開いて、世界各地でトマト料理広めたら、みんな幸せになる」
この勇者ブロンドは、動植物の知識がずば抜けていて、食糧難や環境破壊に見舞われた世界を救済するのが得意で、エルフ出身の勇者は長命種だから、長いスパンで担当世界を救済できるのも強み。
それにイワネツさんの報告によると、ヒンダスとチーノの国境の山岳地帯でアヘン畑を作って、そのヘロインをマフィーオ達はナーロッパ中に売り捌いて、シシリーの利益にしてきた。
だが、そんな酷い犯罪も今日で終わる。
二度と彼らには悪事をさせない。
そして後世のためにも、私とマリーオの約束事は書面で残した方がいいだろう。
今後はそれが、彼らを戒める力になるはず。
「あ、ありがとうございます。ヴァルキリー様とブロンド様。我々はこれでヴァルキリー様が嫌う麻薬を扱わずにすみます」
「一応、これは私があなた方に授けた体裁を取りましょう。正式に救済命令が出てない勇者が干渉すると、改正神界法違反になる。それと勇者ブロンド、実は」
勇者ブロンドに、事の詳細を説明する。
現在のこの世界の情勢と、最悪の存在エムが蘇った事と、例の虹龍国際公司の件。
「なるほど二代目時代の件ですか。この世界では、我らの支部は200年ほど前に撤退し、ブロック長もすでに渡世から足を洗ってます。確かにその会社、義理は欠いてはいますが、勇者マリーと勇者イワネツに一任されている以上、我々は干渉しません。ご報告ありがとうございます」
よかった。
逆にいうと私やイワネツさんがこの世界担当じゃなくて、彼が担当だったら、組織の面子にかけてでも資金回収しただろう。
彼は義理と信義を重んずるから、不義理を働いた相手には、先生以上に容赦がない。
「そうですね、勇者マリーはこの件を、いっそメディアに流してみてはいかがですかな?」
「あー、社長が出ざるを得ない状況にしてしまうということですね。あとは資金の回収と、この会社を私たちの味方にならざるを得ない状況に変えれば」
「ええ。それとこの世界の状況ですが、本当に財団とやらとエムだけが悪しき影響を与えているのでしょうか?」
ん? 彼は私の情報提供を通じて何かに気がついた?
彼もベテランの域の勇者で、経験豊富な一流勇者。
勇者やりながら、巨大な組織極悪組のトップもこなしてる彼から見て、私やイワネツさんでも気が付かなかった陰謀に気がついたのか?
「と、言いますと? 勇者ブロンド」
「ええ……まず現在の世界情勢、かつてジューと呼ばれた彼らの動きが全然読めない。それとジッポンの情勢もあなた方にきちんと情報が入ってないですね」
ああ、失念してたわ。
確かジューの一派はヴィクトリーに移民して、当時ロッソスクードと呼ばれた一族は、アレックスの祖父であるエドワードことロストチャイルドが財閥を築いている。
彼は、確か財団に入り込んで情報を私のヴィクトリーの騎士団に流していたっけか。
だが、彼らの動向については勇者ブロンドから見ても、情報不足は否めないという事ね。
「マリーオ王、私がいた時代にジューと呼ばれる商人集団はかなりの影響力を持っていました。彼らの現在の動向は?」
「はい、ジューとかつて呼ばれた商人達は、虹龍国際公司を背景とした銀行業や事業で成功者が多い印象です。これとは別に、北欧やヴィクトリーに移住した者も多くいたといいます。ただ、50年前くらいから事業で失敗したり、食い詰めたジューとナーロッパの一派が、共同体主義思想で建国したルーシー連邦共和国、通称ル連、首都モスコーという国もございます。こちらは閉鎖的で情報がナーロッパにまるで流れません」
ルーシー連邦、ル連か。
おそらくは大戦期に最激戦地域だった、旧キエーヴの後身国家だろう。
私が思うに、完全にヒトとのわだかまりは消えてないような感じがして、おそらくエムも関わってそうで、なんとなく嫌な予感がするわね。
「ジッポンについては?」
「はい、ジッポンはナーロッパ各都市と姉妹都市として提携してますが、世界はジッポン人を恐れています。彼らの技術力は先進国であると言われ、ジッポンの技術をもとに科学技術が今日も発展しております。それと世界で最も勇猛な戦士、サムライなる武家階級が支配する地域でもあり、南の八州には外国人の入国を許可してます。ですが、本州や北のエルゾ島には、幕府の短期滞在ビザがないと立ち入れませぬ。国際会議の場で、世界の盟主気取りでショーグン徳河が口を出してきますが、ジッポンが国際的に動くことはあまりありません」
うわぁ、それ鎖国してるわ。
おそらくは、大陸とかのいざこざに巻き込まれたくないのと、マツ君が作った幕府は、ジッポンを鎖国状態にして外国勢力に足を踏み入れさせない政策をとってるっぽい。
ここも何か嫌な予感がするけど、女神ヘルがうまく調停してるんじゃないのか?
「よくわかりました。それで財団は、ジッポンの植民地化を狙っているようですね」
「はい、あそこは世界にとってはフロンティア。いわゆる未開拓地なのですよ。あの国には良質な金と銀、そして大量にある良質な銅や硫黄もある。それに金属加工技術がずば抜けているんです。このため、財団はだいぶ前から開国を画策していました」
なるほど、表向きは資源とお金目当てってわけだろうけど、エムはことミクトランは、きっとジッポンへ復讐を考えてるんだろう。
南アスティカの軍勢は、私達やジッポンに多大な犠牲を出したけど、結果的には、エムとその軍勢を南アスティカまで追い込めた。
「南北アスティカは?」
「申し訳ございませぬ、そんな地名は聞いてことございません」
いや、本当のフロンティアは南北アスティカ大陸なんだが、やはり封印されたままか。
「北欧は? あそこは私の時代ノルド帝国と呼ばれ、非常に強力な力を持っていたはず」
私の質問に、マリーオ王はフンと鼻を鳴らした。
どうやらあんまり良くない印象を旧ノルド地域スカンザに持っているようだ。
「あそこは、スカンザ共栄圏といい、スーデン王国、フィン共和国、ノルデン共同体の三カ国に分かれてます。文化大国気取りで正直我らナーロッパを下に見ている気が否めません。フランソワと環境問題に熱心で、どこか独善的で閉鎖的ですな。シュビーツ共和国やホランド王国と緩やかに連携し、口は出すが金は出さない典型的な奴らです。特に我ら南欧人を下に見てる気がして、いけ好かない連中です」
あー、うん。
これはきっと、誤解があると思う。
だってあそこ元々は……。
私がチラリと勇者ブロンドを見ると、彼もニコリと笑う。
「なるほど。勇者マリー、彼女に連絡を後でとるといいでしょう。組を抜けたと言っても、彼女と私は縁を切ったわけじゃない。今の世界情勢下でもあなたの力になってくれるはずだ」
ああ、多分彼女のことか。
元皇帝ヨハン・クラウス・ファン・アルフヘイム。
勇者ブロンドの口振りだと、彼女は極悪組を抜けてはいるが、縁を切っていない。
という事は、長命種のエルフである彼女はまだ生きていいて、この世界に影響力を及ぼすことができる地位についてるということ。
「それと勇者マリー、この世界はフェンリル、ミドガルズオム、ヘルの三女神とクロヌス神の担当となったはず。彼女達の連携に齟齬が生じている可能性は?」
そう、かつて私達と敵対したクロヌスも女神として数えると、この四女神がニュートピアを担当してる。
旧ウルハーン、モンゴリー周辺で信仰を得た女神フェンリルと、旧チーノ大皇国一帯で信仰を得た女神ミドガルズオム、そしてジッポンの女神ヘル。
彼女達はあのロキの娘達で、今から思うにオーディンとエムの討伐に関しては、最後まであのロキの思惑通りに進んでいた気がする。
それと勇者ブロンドの言う通り、ニュートピアを担当する神々の連携が取れてないというが、うーん、どうだろう。
私を召喚したアレックスは、クロヌス神が働きかけてて、女神ヘルが送り込んできたのはイワネツさん。
そのあたりは、お互いの連携はとれてそうなんだけど。
すると勇者ブロンドの耳がピクリと動く。
「早速敵が動いたようですね。上空に強力な魔力反応を感じる。勇者マリー、おそらくエムでしょう」
早いな、私がマフィーオに接触しているのを勘付かれた?
もしかしたら、さっきのマリーオとアリー社長のやり取りが、エムに報告が行って仕掛けてきたか。
私達は、急いで城を出て上空を見上げる。
すると、ロマーノ市内で私達を襲ってきた黒のローブに仮面の女が私達を見下ろしていた。
「……」
強烈な魔力の波動と、上空に魔法陣が現れるが……これは召喚魔法!?
そうか。
エムはエリの娘、メアリーに乗り移ってるから、ヴィクトリー王家に伝わる召喚魔法を使えるのか。
「チッ」
勇者ブロンドは上空の女を射ろうと弓矢を構えるけど、おそらく転移の魔法なのか、エムはその場から姿を消す。
エリス火山が突然炎に包まれ、雷雲が立ち込め禍々しい雄叫びが上がるが……これは!?
「キシャアアアアアア!!」
骨だけになった翼に、真紅の頭をした全長50メートルの巨大な怪鳥が姿を現した。
「まさかガルーダ!?」
「ガルーダですって!? ヴァルキリー様が討伐したと言われる、魔女エリザベスのしもべ、伝説の大怪鳥」
そんな、あれは確か雷を扱う強力なモンスターで、私や先生、デリンジャーが討伐したはず。
「状態確認」
ガルーダ レベル100 HP0/18000 MP100000 攻撃4350 防御30 状態 アンデッド
「ちょ!? 攻撃力エグッ! アンデッド化されてめっちゃパワーアップした!? 生命力が0になってるけど、おそらくはこの感じだとアンデッド化されてるから元の倍以上は耐久力が上がってる」
それに加えて、火山で蘇った影響で、雷の力も加えて炎の力も手に入れたのか、クチバシから炎を噴き出してるし。
「キェアアアアアアアアアアアアアアア!」
来る……っ!
城の外で王女たちと遊んでたアレックスとジョンが、王女たちを抱えながら慌ててこちらにダッシュしてくるけど、蘇ったガルーダ、いやガルーダゾンビが骨だけになった翼を広げて、口から高温のプラズマブレスを吐いた。
勇者ブロンドが、風の魔力を最大限にし、空中で竜巻を発生させて攻撃を反らせようとするが、飛び散った稲光が一気に地上に降り注ぐ。
「絶対防御!」
今の弱体化状態の私のバリアでは、破られる。
防いだとしても、魔力が空っけつになると判断して日に一度のスキルを発動させた。
なんとかアレックス達を守れたけど、もう絶対防御は使えないし、今のプラズマブレスを受けたらシシリー島が跡形もなく吹き飛ぶ。
「みんな、あの化け物、アンデッドは物理攻撃に弱い! 銃撃で援護を! 私は再びあのガルーダを倒す!」
私の体に光の粒子が纏わり付き、一瞬下着姿になると、私の胸に光輝く黄金の胸当て、肩甲、手甲、腰当、膝当、足甲が次々と装着されていく。
光り輝くカチューシャが装着されると、耳を覆い、アゴまで伸びて急所をガードするヘッドギア、いや兜になり、首に細身の金のチェーンが巻かれ、胸にピンクゴールドを細工し、中心にルビーが入った薔薇の形のペンダントトップと右手に神杖ギャラルホルンを具現化させた。
「おぉ……ヴァルキリー様が」
「銅像と同じお姿に」
「マシンガンで援護を! てめえら早くしろ!」
マフィーオ達は一斉に銃撃を開始し、私は勇者ブロンドと共に空を飛び、蘇ったガルーダ・ゾンビと対峙する。
「なぜアンデッド化!?」
「おそらく、昔ジークフリードが反魂の召喚を使って来ました。蘇ったエムはその召喚魔法もマスターしてると思われます」
勇者ブロンドの背中から、青白い透明な羽が生えて魔力を込めた弓を次々と放つが、身に纏うプラズマが彼の矢を焼き尽くしてダメージが入らない。
「近接戦は厳しいな。奴は高温と電子の力で攻撃を無効化している。それにこれ以上、私の力を使うと召喚時間が無くなるか」
「ええ、ダメージ覚悟ならば、鎧を纏った私が近接戦でいけますが」
「ならば勇者マリー、私の風の魔力であの怪鳥の纏ったプラズマシールド吹き飛ばす!! あなたは!」
「ええ、奴に直接攻撃を! でやああああああああ!」
私は風の魔力を纏い、一気にガルーダゾンビの頭部めがけてギャラルホルンを突き刺した。
しかしアンデッド化してるのか、突き刺しただけじゃ有効打突じゃないから、ギャラルホルンに魔力銃ルガーを合体させ、魔力弾を質量ある散弾に変えて砲撃し、ガルーダの腐食したトサカや頭蓋を粉砕する。
「キェアアアアアアア!」
「もう二度と! シシリーに手を出させないっ!」
頭部にギャラルホルンを突き刺しながら、ルガーの銃撃を加えていく。
すると覚えたての風魔法で、アレックスとジョンも上空に加勢に現れる。
「やべえこいつ、でっけええぞ! だが俺達はヴィクトリーの騎士だ!」
「ヴァルキリーさん、僕たちも加勢に! これは確か文献にある伝説の怪鳥ガルーダですね」
加勢に来てくれたのは嬉しいけど、彼らはまだ経験未熟。
このままじゃ足手まといだけど、どうするか……。
アレックスが両手にしてるのは、ん? ドス!?
「一か八か、僕に伝説の英雄の思いと戦い方を、追憶」
すると、アレックスの本来の魔力だろうか、物凄い魔力の奔流と共に、まるで歴戦の戦士の経験を得たかのような、佇まいになって、私の力も上がったけど、これは?
それにこの半身の構え、先生の小太刀中段の構え。
「少年、なぜ我が総裁の構えを……それに君はエルフ?」
勇者ブロンドも困惑して、私は一旦、ガルーダから距離を離し、アレックスの顔を見ると、自信に満ち溢れた顔つきをしている。
どうして、こんな急成長を?
「アレックス!? お前、一体!?」
「学長が僕に授けた形見の短刀。かつて学長の先祖が伝説の勇者から授けられたという、ドス。僕のスキルで使い方も、ドスに残された思いや伝説の勇者の戦い方が……わかった!」
刀身に魔力を込めたアレックスは、縦横無尽にドスを振るい、ガルーダゾンビに風の斬撃で攻撃する。
「すげえぜ! お前にこんな力があるなんて。俺も負けてられねえ!」
魔力銃ウッズマンでジョンも応戦するが、射撃はうまいが銃撃戦は自己流で危なっかしいな。
「下から援護射撃が来るっ! 危ないから射線に入らないっ!」
ジョンはマフィーオ達が放つ、高射砲やライフルの銃撃を、素早い身のこなしでかわしながら、魔力弾を当てていくが、やはりどっか危なっかしい。
「同胞シシリー達よ! 今こそヴァルキリー様の御恩に報いる時じゃ! ワシらのシシリーは、ワシらが守る! 一斉攻撃!」
島内の空軍基地や、上空に上がった戦闘機がミサイル攻撃を加えてくれて、シシリーの男達が地上から高射砲でガルーダゾンビにダメージを加えていく。
「伝説の怪鳥なんざぶっ殺してやらあ!」
「シシリーの意地を見せてやる!」
「俺達は、ヴァルキリーの信奉者!」
攻撃を加えられたガルーダが、雄たけびを上げて私に突っ込んで来る。
「そうね、あんたを討伐したのは私。恨んでるようね」
ガルーダゾンビはひび割れたクチバシから、プラズマが混じる炎のブレスを放とうとした瞬間、ギャラルホルンをハンマー投げのようにして遠心力の打撃を加えると、エネルギーが逆流したのか、体内が爆発して腐臭と焼け焦げた臭いが漂う。
「グッ……クァアアアアアア!」
しかし、今度は私に向かって風と電子を纏いながら、瞬間的に加速して襲いかかる。
「でやぁあああああ!」
私はガルーダゾンビの頭蓋を突き、ギャラルホルンのトリガーを引いて爆発魔法を放とうとしたが、杖がクチバシに挟まれる。
「この……ッ!」
「クァアアアアアアア!」
空中でガルーダゾンビは、私の杖をクチバシで咥えたまま、きりもみ回転しながら落下して、エリス火山火口に衝突する。
「うぐっ!」
山頂の岩場に衝突した私の体に衝撃が走り、ダメージから体制を立て直そうとして、ギャラルホルンをクチバシから引き抜き、一気に杖に魔力を込めた。
するとガルーダゾンビは腐敗した喉の毒袋が収縮して、土壌汚染を引き起こしそうな腐敗と毒のブレスを吐こうとする。
「させるかっ!」
一足飛びに宙を飛んで、兜に魔力を込めてガルーダのクチバシ目掛けて頭突きして吹っ飛ばす。
仰向けに倒れたガルーダは毒のブレスを吹くも、自爆して自身に降りかかり、顔面の骨が溶け出して悲鳴を上げた。
「キシャアアアアアア!」
勝機!
「行くわよ!」
杖の先端に炎と風の魔力を込めて、魔力のブレードにしてアンデッド化した体を切り裂く。
ルガーを杖から分離させて、腐臭を放つ胴体や翼に銃撃を放つと、翼の骨が分離して、私に向かって、意志を持った腐敗した羽毛や骨が飛んでくる。
「時間操作」
天界魔法で大幅に魔力を消費しながら、ガルーダゾンビの攻撃をかわして時空間を操り無我夢中で切り込むと、ようやく動きが鈍化して奴の体を抗生する骨がボロボロと、崩れ落ちて悲痛な咆哮を上げた。
「あんたも、利用されて苦しんで、私に憎しみを向けているのはわかった。だけど、もう二度とこの地は酷い事にさせない!」
私は一気に宙を飛んで、今度こそガルーダを火山ごと埋めてしまうための魔法を詠唱する。
「終わりにしましょう。流星群」
燃え盛る金属の塊を幾つも上空に具現化して、次々にガルーダゾンビへ打ち込んでいく。
300年前に討伐した魔法の上位攻撃を繰り出し、火口を埋めていき、エリス火山の標高が少しばかり高くなる頃にガルーダゾンビは押し潰れて、断末魔のプラズマの光が火口から放たれると、山中からズシンとお腹に響く大爆発を起こす。
これで、奴はもう蘇らない。
「さすがですね勇者マリー」
「いえ、今の弱体化した私では、これが精一杯。勇者ブロンドの風の魔法がなければ勝てなかった」
「それに彼は? 見たところエルフの血が混じってるようだが、戦い方が私の総裁と似て……」
やはり勇者ブロンドは、アレックスにエルフの血が入っていることを見抜いたようだ。
「ああ、彼ね。まだ未熟だけど、この世界を救う鍵になる子だと思う」
私達が地上に降りると、シシリーの皆が歓声を上げる。
「同じだ! 先祖達が残した伝承と」
「魔女エリザベスの怪鳥ガルーダ討伐!」
「現代に蘇った伝説! ヴァルキリー様万歳!!」
シシリーの皆が賞賛をあげる中、強烈な魔力反応と共に、自称オネエの担当神が姿を現わす。
「あら〜ん、こんなところにナイスミドルなイケメン発見! けど、なんで他所の勇者ちゃんがここにいるのかしら〜ん」
突然現れたクロヌス神に、城のマフィーオ達が、一斉にピストルを懐から取り出して構えた。
「な!? なんだこいつ!?」
「突然現れたぞこの化け物!」
「何者だ!?」
私はクロヌス神を庇うように前に立った。
「こんな格好してるけど、この世界の神様の一人です! クロヌス様、どうしてここに!?」
「こんなって失礼しちゃう。マリーちゃん、中間報告お願いするわね。それとなんで他所の世界の勇者がいるのかもね〜ん」
私は、現在の状況についてクロヌス神に説明して、彼……いや彼女からの指示を受ける。
「う〜ん、召喚の指輪か。確かに神界法には抵触しないけど、あんまり良くないかしら〜ん」
「申し訳ありません。利害関係とか色々生じたので、私が彼を呼び出しました」
勇者ブロンドも頭を下げるが、その彼にニコリと微笑むと、立膝になってほっぺたを人差し指で指し示す。
「しょうがないわねーん。じゃあそこのエルフのイケメン君がほっぺたにキスしたら許したげる」
「はい、失礼しますクロヌス神」
勇者ブロンドがほっぺたに軽くキスすると、召喚の効果が切れて元の世界に帰ろうとする。
「クロヌス神、失礼いたしました。それと勇者マリー、おそらくあなたの役に立つブツを」
勇者ブロンドは、私にビー玉くらいの小型水晶玉を手渡し、元の世界に帰っていった。
「これは……録音機? 内容は……」
内容を改めると、かつてこの世界を救った真の英雄の思いが録音として残されてて、私は懐かしくて目にうっすら涙が溢れる。
これは……あとで臨時の記者会見を開いて流さなきゃ。
彼の思いを、現代に甦らせる。
それとクロヌス神は満面の笑みを浮かべ、勇者ブロンドの召喚を許してくれた。
「うーん、イケメン最高。あなたもそう思わない?」
「はいイケメン最高です。それでクロヌス様、悪の財団ゴールドマリーにあのエムが関わっているのは間違いないです。おそらくは、エリの娘に」
「あー例のエムちゃんね。彼女は、あなたがイワネツちゃん達と倒したんじゃあなかったっけ?」
そう、私は最終決戦地、南アスティカのアヘンケシが咲き乱れる花畑で、彼女と対決して……。
「まあいいわ〜ん。それはあなたと、イワネツちゃんが明らかにする事だし。それとね、あたしが色々と活動を見聞きしわかったことがあるの。マリーちゃん、あなたこの世界で信仰を集めてるのはわかるでしょ?」
「え、はい。300年後、私達の思いは残されてなかったけど、ヴァルキリーの名だけ伝説として残されてます」
「それはね、あなたの存在をこの世界自体が求めているってわけ。あなたもそう思うんじゃなくて? ヘイムダル」
私の体から光の神ヘイムダルが分離し、実体化した。
「君も、やはり僕と同じ思いかクロヌス」
「ええ、あたしは言わば便宜上この世界を担当してたって形だけど、本当に信仰を得てるのはマリーちゃん、あなたよ。そういうわけで、この世界の救済が再び成されたら、あなたこの世界で女神やりなさい」
「え? 私が……神に」
「すぐにとは言わないわ。必要な手続きや、天界への申請に引き継ぎはあたしがやってあげるから、あなた準備しなさい。女神ヴァルキリーとして、あなたはこの世界に必要とされてる」
そんなこと言われてもなあ。
私には勇者としての活動もあるし、いきなり神様やれって言われても、私にはそんな資格なんてあるのかな?
「私のヴァルキリーよ、君とは300年間共にしてきて、君は多くの世界の人々を救いに導き、私の影響もあってか、人間からかけ離れた不死性と信仰を得ている。特にこの世界では、君への信仰心も強い。君が神になるべきだ」
うーん、私が神とかピンと来ないんだけど。
本当にそれでいいのかな。
ヘイムダルは私に微笑むと、また私の魂と同化する。
「ヴァルキリー様が神となられるならば、我らシシリーは永遠にあなたを崇めて、あなたを信奉します。だから、もうこの世界から去らないでください、どうか」
マリーオ王は、私に頭を下げて王子達や大臣も、私に深々と頭を下げてくる。
「まあ、すぐに結論を出せとは言わないわ〜ん。あとね、ヘルちゃん達の話も少ししておく。実はね、ヘルちゃんの姉達、フェンちゃんとズーちゃんが眠りについて起きなくなっちゃった。原因は不明で、ヘルちゃんもいつ眠りについてもおかしくない、不安定な状況になってる」
「それはいつから? 原因は?」
「兆候は200年前から徐々に出てきて、あの子達若いから育ち盛りで眠たいお年頃って思ってたけど、異常が顕著に出始めたのは30年前ね。原因はわからない」
この世界の神に、200年前から異常が現れて30年頃から彼女達女神に異変が顕著に出てきたか……。
この世界でエムが復活した時期と重なるわね。
エリの娘、メアリーが生まれたのが確か200年前。
そして、財団が世界的な影響力を持つようになったのも、奇しくも30年前。
なるほど、おそらく可能性としてはエムの復讐だ。
土壇場でロキはエムを裏切った。
「お前さ、ムカつくからあとは勝手にやってよ」
エムは、あの時味方をしてたはずのロキから裏切られ、南アスティカでの最終決戦で、追い詰めた私達を前にしてアヘン畑で絶望の涙を浮かべていた。
「あっはっは、その顔いい! ナイス表情、超ウケる」
とか言って、ロキがめっちゃ物笑いしてたけど、あれは恨まれてもしょうがないわよね。
問題は、どうやって女神達に、クロヌスのいう眠りの呪いのようなことができたのか。
私達の知らない協力者がいる?
それとも新たに得たやつの能力か?
わからないな……は!?
「なるほど、イワネツさんはその謎も解きにこの世界に」
「そういうこと。そして、エムの居場所を突き止めることこそが、エリちゃんを助け出すことにも繋がるはずねーん。あともう一個、あなたに伝えなきゃいけないこともあるわ〜ん」
「? なんでしょう」
「あたしね、雑な今の神々と違って、経験豊富なのよ〜ん。あなたとイワネツちゃんの切り札として、あたしのお気に入りの彼も15年前に救世主として転生してもらった」
彼? 誰?
勇者や救世主の枠は、私とイワネツさんで埋まってるはずだけど、あ、そうか。
私は形式上召喚で呼び出されたから、神界法違反の範疇外で因数外なんだ。
という事は、クロヌスが関与した非公式な勇者が私なら、クロヌス本来の救世主が、すでにこの世界に送り込まれていたのか。
けど誰だろう。
「わからない? んー、まあいいわ。おそらく、あなたの危機に彼は再び現れる。彼も天界で長年修行してて、パワーアップしてるから。それでね〜ん、記憶をさっき蘇らせたの。彼はあなたをそのうち見つけ出すはず」
アレックスのことか?
いや、15年前に転生させたっていうから、彼とは年齢が合わない。
「あのー、それは一体、誰でしょう」
「もう、鈍いわね〜ん。まあいいわ、会った時のお楽しみ」
クロヌスの体は光に包まれ、どこかへ消えていった。
いや、マジで誰だよっての。
まあいいか、多分私が救った世界で縁がある誰かか、私の生徒だった救世主の誰かだろう。
「マリーオ王。記者会見を宮殿で開いてもよろしいでしょうか?」
「はい、ヴァルキリー様。あなた様のためならば、我らシシリーはなんなりと」
こうして、蘇ったガルーダを再び討伐した私は、勇者ブロンドから託された、ある英雄の思いが詰まった水晶玉のレコーダーを手に、夕方の定例記者会見を開く。
続きます