第191話 虹龍国際公司
「ああ、配信見てる。うん、麻薬の大元がああなったら、財団は一気に資金難に陥るわね。うん、色々後始末が終わったらあなたもジッポンに。あ、虹龍国際公司は私が接触してみる。うん、駄目ならしょうがないよね……わかった、お疲れ様」
ごきげんよう、勇者マリーです。
久々にシシリーの宮殿で一夜を過ごした後、早朝テレビをつけると、ヒンダス帝国がイワネツさんに制圧されていたようだった。
仕事が早いのは助かるんだけど、なんかもう、ヒンダスの首都のあちこちで爆発や火の手が上がってて、財団理事であろう皇子が、カメラの前でボッコボコにされてて、相変わらずこの人は無茶苦茶する。
手法としては、かなりのショック療法だけど、これはこれでありっちゃありだ。
朧げながら、私たちの伝説が残されているのもそうだけど、私達に敵対することは、自分達の想像を超えるような、圧倒的な力で報復がなされるという概念、確か懲罰的抑止力だったかな?
先生曰く、舐められたら叩き潰すという方法。
ただしキチンとした大義がないと、勇者の正当性とか疑われちゃうし、相手へ逃げ道も用意しておかないと、追い詰められた相手は死に物狂いになって、破れ被れでかかってくるから加減が難しいし、私にはできないだろう。
これは先生やイワネツさんのような、アウトローな勇者がよく使う手法で、大義名分を作って圧倒的な力を見せつけることで、相手の動きを封じるやり方で、私達が圧倒的なパフォーマンスを誇示する事で、財団はこれで当面は下手に動けないはず。
けど虹龍国際公司の社長を名指しして、強盗宣言してるし、どうするかなあ……あんまり無茶苦茶しすぎると、私が思い描いてる救済の筋道と違ってきちゃうから、ちょっと軌道修正が必要かも。
とりあえず用意された簡素なドレスを着て、朝食の食卓に着くと、アレックス達が既に着席してて、シシリーの侍従から運ばれてきた紅茶を啜る。
「朝のニュースを見ましたか? ヴァルキリーさん」
「やべえよ、ヒンダスって世界有数の軍事大国なのに、一晩もかからず壊滅させられてたんだけど、勇者イワネツ半端ねえ」
「あー、うん。あれでも彼はまだ本気じゃないんだけど、これで財団は重要な資金源を失ったわね」
二人とも絶句するけど、マジな話で彼が本気になったら、大抵の悪は全部滅びちゃうくらいやばいから。
ただ、派遣された世界でついやり過ぎちゃうから、女神ヘルにバサラの力を封印されたらしい。
彼の実力の半分くらいの力しか出せないのは、あんまり良くない状況で、場合によっては女神ヘルに掛け合って、彼の全力を解除してもらわなきゃいけないわね、現在のアスティカ大陸の協力も、先生の組織の協力も。
相手は最悪なエムだし、万全を期さないと負ける。
凶悪な悪意を持つあの最悪の存在は、被害妄想の塊であれは……人間の悪意を濃縮して快楽に溺れた邪悪。
そして朝食にはマリーオの家族、シシリー王家も同席していた。
「どうぞ、シシリー名物のオレンジジャムとコルネットでございます」
あ、来た来た来ましたよ。
私が昔、食べ過ぎて太ったこれ。
砂糖をまぶしたコロネっぽいクロワッサンで、外がサクッと中はしっとりとしたパン生地の超美味しいやつ。
これにシシリー名産のオレンジジャムつけて食べると、1日の始まりをハッピーに感じさせる。
「うん、やっぱりこれ超美味しい。もう2、3個お代わりいただけますか?」
マリーオの孫娘達だろうか、小さいお姫様達もおめかしして私のそばのテーブルにやって来る。
「ヴァルキリー様だー」
「本物のヴァルキリー様」
「銅像と同じで綺麗」
キャッキャ笑いながら、隣のアレックスやジョンにも好奇心旺盛な彼女達が自由に膝の上に乗ってきたりする。
「ダメッ! メッ!」
「いけません! ヴァルキリー様申し訳ありません」
「さあさ、ヴァルキリー様を困らせてはいけません」
女の子達がギャン泣きしてる中、私はアレックスやジョンを、同行させて遊ばせてあげる事にした。
「お、おい。まあいいではないか子供のすることだ」
「あなた方殿方は口に出さないでください! 私達が子女を責任持って立派な王女にしますので!」
マリーオの息子達の王子は苦笑いしてる感じで、表向きに強がっては見せてるけど、女性達にタジタジで、家庭の主導権は完全に女性達に握られている。
「変わりないですね、シシリーの営みは。男性が表向き主導権を握ってるように取り繕ってるけど、シシリーの男の人はみんな根が優しいから女性を尊重する社会を営んでいる」
「ヴァルキリー様のおっしゃる通りです。私達シシリーは皆、元を正せば女から生まれた。男だろうが女だろうが母は偉大です。我々男は力を外で発揮するが、女は子を産み内で力を発揮する。我ら男にはできないことを彼女達はやってのける。だから我らは女性を信仰し、崇拝する」
彼には、彼の一族がいて、家族がいるか。
……シシリーの女性が羨ましい。
私はヘイムダルと同化した今となっては、普通の母としての生き方も、女としての生き方もできないし、家族を持つのも神を宿すこの身では難しい。
けどそれは私が選んだ勇者の道だから、この生き方に後悔はない。
そしていつの間にか、この場には、マリーオと一族の男や大臣しかいなくなる。
ここからが本題だ。
朝食に同席するシシリー王マリーオにもやってほしい事がある。
「それとヴァルキリー様、朝のニュースを拝見しました。まさか、マハラジャが倒されるなんて」
マリーオが発言して、彼の息子である王子達はジッと私を見据えていた。
「言ったはずです、私達はこの世界を再び救うためにやって来たと。あなたも、あなたの家族の王族としての地位は私が保障します。そのかわり、あなたにやってもらいたい事が二、三点ほど」
「はい、なんなりとお申し付けを」
まずは、情報操作に長けた秘密結社マフィーオに、私達の活動を宣伝してもらう。
エム自体はそんなに賢くないけど、財団に頭が回る参謀役がついていたら厄介だし、マスコミだけを発信網にしたら、世界各国の王侯貴族が関わる財団に情報操作されてしまい、救済のマイナス材料になる可能性があるからだ。
たしかに、目の前にいるマリーオが100パー信用できるかというと、今はまだはっきり言って信用できない部類の子悪党だけど、彼には王族としての発信力がある。
それを利用できれば、現代のシシリーのみんなは、一斉に私のファンになってくれるはずだ。
応援するファンの力がなければ、パフォーマンスや目的が達成できないってのは、一流スポーツ選手や芸能人と勇者の活動は似る。
「かしこまりました。我らがシシリーは、ヴァルキリー様あってのシシリー。協力は惜しみませぬ。我らは財団よりもヴァルキリー様の意向を最優先します」
よし、彼らは協力してくれる。
それがまず第一点なのと、二点目が。
「イリア共和国と、あなた方シシリーとの確執については、私が間に入ります。私はシシリーの独立と正当性をイリアに保証しますので、長年の確執はもう終わりにしましょ。イリアにも私が働きかけます」
「ははー! シシリーのために、ありがとうございます」
マリーオ以外の王子達も頭を下げた。
「ヴァルキリー様は我らシシリーの常に味方だ」
「我らはヴァルキリー様に絶対に忠誠を」
「シシリーをこんなに思ってくれて」
彼らはそう言うが、一つ訂正しなきゃいけない。
「私はこの世界の人々が好き。けどその中でも、シシリーは私を特に助けてくれた人達。私は義理を果たしたい。それにイリアはジローの国だし、仲違いしてほしくない」
二つ目は、イリアとシシリーの確執を終わらせる。
もう別々の国になってしまったし、文化もシシリーとイリアは元々違うから下手に統合なんかしたら、きっとまた争いだすから、まずはこのままでいい。
私の先生が言うに、こういう交渉事をどれだけこなせて、結果を出せるかで人間の器量が出るとも言っていたが、確かにそうだ。
こういう調停だとか間に入っての交渉を、どれだけまとめられるかで、勇者の力量が試させる。
救うべき世界の争いや問題点を、丸く収めるためには一番ベターな方法でお互いを納得させる、いわばマネージメント能力が必要不可欠。
私は朝食を食べ終えた後、昨夜知り合ったイリア共和国首相に連絡を取って、事情を説明する。
「もうシシリーには世界で悪いことはさせません。シシリー王国は私が責任を持って承認いたしますので、そちらも王国を承認し、平和条約を結んではどうでしょうか?」
「ヴァルキリー様がそうおっしゃるならば、我々は断る理由がございません。ですが、本当に彼らシシリーが信頼に当たるかどうか、行動で示していただけないと信頼関係は結べません」
すると王子達は憤る。
「なんだと!?」
「我らが信頼を疑うか!?」
「ふざけるな! そっちが行動で示せ」
王子が憤る中で、私はシシリー王マリーオの方に向いて、強く頷く。
半世紀近く続いた、互いのわだかまりはすぐには解くことはできないけど、彼に問題を解決させるための、勇気と決意を促すために。
最初に会った時の弱々しかった彼の茶色の瞳が、本来の表情だろうか、秘密結社の首領の顔になった。
「良いでしょう、首相。具体的にはワシらシシリー王国は何をすればよいのじゃ?」
「我が国ならびに、ナーロッパにおけるマフィーオの非合法活動の一切を止めてくれますかな? それが条件です」
「逆に合法であれば認めるという認識でよろしいか? それならば早急に可能じゃ。ヴァルキリー様もそのような活動をシシリーには望んでおらん。ただしあなた方、イリアにも我々にしてほしい事がある。謝罪を……我らがシシリーに対し、あなた方イリアは、悪のシシリー人とレッテルを貼って差別をした。国家として謝罪を強く望む」
やはり、この世界では新たな民族対立が生れているか。
私達はジューと呼ばれた民族を救ったつもりだったけど、ヴィクトリーでは彼らや東方ナージアへの偏見もまだ残ってて、人種間で争い合う状況が生れてしまってる。
「あなた方の思いは私が受け止めました。それでは、シシリーはもう悪い事をしない。代わりにイリアは彼らの独立を承認し、互いの対立ではなく共に歩むことができる和平条約を結ぶべきかと思います」
王子達は父であるマリーオが、イリアからの謝罪を受け取り、私が間に入りこれを非公式だが謝罪が果たされた事へ歓喜した。
「ヴァルキリー様がそう望まれるならば……。それでは、イリア共和国首相としてシシリー王国に対し、お詫び申し上げる所存。これをもってあなた方と和平条約を結びたい。ただ、外務省には頑迷なものがおり、まとめ上げるには少し時間がかかるかもしれませぬ」
「いや、こちらも首相からの謝罪は受け取った。ヴァルキリー様お立会いの下、ワシらシシリーも貴国と和平条約を結びたい。日取りはそちらが決めてくださって結構。ただし、報道発表はもう少し待った方が良いじゃろう。妨害があるやもしれぬし、発表は同時に」
そしてこういう調停で最も気をつけなきゃいけないことを、先生から習った。
「マリー、お前も重要な仕事をしていくと、必ず仲裁事とかにぶち当たる筈だ。この仲裁に当たるうえで一番気をつけなきゃいけねえ事、何かわかるかい?」
「必ず約束を守らせること、ですか?」
先生は首を横に振って、地球世界のチェスに似た、チャトのチェス盤をその場にドンと置くと、黒と白のキングの駒同士を向かい合わせた。
「互いに約束を守らせるってのは、まず手打ちの第一条件だ。けどよ、問題は仲裁事が終わった時が肝心よ。こうなると仲裁事はどうなる?」
先生は、黒の歩兵の駒で白の王駒を弾き飛ばす。
「あ……」
「これなんだよ、仲裁事の怖さは。ついでにこうなるとどうよ?」
先生は盤とは無関係のコインを取り出し、親指でコインを弾いて黒の王を吹っ飛ばした。
そしてこまの配置を入れ替えて、白の駒と黒の駒とコインが入り乱れるような配置にしてしまう。
「ああ、わかりました。トップ同士が和平を結んでも下の末端が納得しないで余計なことをしてしまえばご破産になる。他にも仲違いさせたくて、第三勢力も介入すると収拾つかない事態に陥る」
「そうだ。俺も転生前も後も経験あるが、こういう事態になったら目も当てられねえ。そういう不細工なザマにならねえためにもポイントってのがある。そいつを教えるぞ」
というわけで先生の教えの通り、仲裁事は具体的に、いついつまでと期限と場所を決めて、条約を互いに結ばせてしまうのが鉄則。
「それでは、ジッポンにおける世界会議の場で各国首脳が集まった時、発表する方向で」
私だけが仲裁人を務めるのではなく、世界中の元首をあえて巻き込んだ場で公式に和平の発表をする。
こうすれば公の場で、世界中が認めたという大義名分ができるから、あとは私が以後の揉め事を起こさせないようにする、圧倒的な力を見せつければいい。
そして先生はこうも言ってた。
「で、仲裁人は名前が効いてて力を持ってなきゃできねえわけだ。転生前の俺が犯した失敗みてえに、人が仲裁入った席上で喧嘩再開とか絶対にならねえようにな」
「えーと、そういうような事態になった場合は……」
「ああ、俺の顔を潰したって事で双方ケジメとらせたわ。そういう不細工なことになんねえように、ちゃんと調整しなきゃダメだぞ」
ですよねーって感じで、ヤクザな先生の教えを思い出す。
これでとりあえずはイリアとシシリーの対立関係を、トップ同士の和解ということで収まる可能性が高まったが、これとは別に財団に対してくさびを打たなきゃ、妨害される可能性がある。
というわけで三つ目は、彼のコネクションを利用させてもらう。
イリア共和国との通信を終え、私は満足げな表情を見せるマリーオに、ある提案を持ちかける。
「それと、あなたの国王名義で財団の理事の一人、虹龍国際公司のアリー社長に連絡先はとれますか?」
「えっと、財団のメッセージ機能で……」
いや、それはだめだ。
エリが作った半グレとこの財団は似通った通信形態をとってたけど、悪意を操られたエリを通じて、メッセージ機能はすべて把握されてて、エムのサポートについてたエドワードによってかなり難しい立ち回りを強いられた。
「それは愚策です、エムに探知される。そうね、ダイレクトの連絡先はわかりますか?」
ヒンダスの状況がああなった今ならば、イワネツさんに名指しされた彼に付け入る隙がある筈だ。
「代表連絡先しかわかりません。私が言うのも何ですが、アリーのやつは用心深い。メディアにリモート映像で顔をよく出す割には、幾重も防壁を張っていて、当人にたどり着けないようになっています。おそらくは人間不信なんでしょう」
なるほど、これは難しいわね。
下手したら会社にいない、なんてことも考えられるし、秘密の隠れ家に篭りっきりで会社でリモートワークしかしてない、なんてことも考えられる。
せっかくイワネツさんが動いてくれた成果を出すには、やはり懐に飛び込むしかないか。
「じゃあ試しに私が代表連絡先に。あなたは水晶玉で反応があるかどうか確認を」
私は自分の通信用水晶玉で、代表連絡先に問い合わせする。
「こちらは虹龍国際公司本社です。当社の取引先様のご商談であれば1番、本社金融商品及び物流商品、その他のサービスへの疑問は2番、当社クレームに関しては3番、本社見学の方は4番、その他のご相談であれば5番を押してください。なお、目や手足が不自由なお客様は番号をコールすればお繋ぎいたします」
うわぁ、超めんどくさい番号案内に繋がった。
んー、こういうのぶっちゃけ苦手なのよね。
以前、どっかの世界でクレカ落とした時、紛失手続き取るのめっちゃ手間取ったっけ。
あ、そういえば。
「今もこの世界の基軸通貨はリーラで間違いないですか?」
「は、はい。リーラで間違いないです。ただ、リーラは安定性が度々失われた時代もありまして、財団では精巧な通貨のヴィクトリーボンドを基軸通貨へ推す動きもあります」
なるほど、この時代でもリーラが基軸通貨ではあるけど、ヴィクトリーはペンスやめてボンドって通貨にしたのか。
えーとじゃあダイヤル1番っと。
「お問い合わせありがとうございます。お客様のお名前と暗証番号、ID番号をお願いします」
「えーと、マリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリー。暗証番号は114514、ID番号は一桁の2番」
確か、龍さんがジッポンで会社を立ち上げたと聞いてて、せっかくだし私やみんなも登録して、お金とか出資しようってなったっけか。
龍さんが会社の創始者かつ登録番号1番で、私は2番、デリンジャーが3番で、イワネツさんが4番、フレッドが5番で、ジローが6番、ロバートさんが7番、アルケイデスこと勇者ヘラクレスが8番、先生が最大の出資者で9番。
野球の打順みたいだねって笑いあったっけ。
この世界での活動資金とかもいるし、イワネツさんの分も含めて少し出資金や配当金なんかも引き出そうっと。
「お客様の登録は、現在利用できません。番号をお確かめになって、もう一度おかけ直しください」
……は?
もしかして私が預けたお金が凍結されてる?
「ちょ!? ふざけんじゃあないわよ! なんか私の預けたお金、この会社に持ち逃げされてんですけど! いくら300年前とはいえ、創業の出資者の記録とか残しておくべきでしょ! 頭きたわ、クレーム入れてやる」
「ヴァ……ヴァルキリー様の出資を凍結……なんて罰当たりな。それはいくらなんでも酷すぎます。虹龍国際公司は信用で成り立っている会社なのに」
私は再度かけ直して、クレームを入れることにした。
「はい、大変お世話になってます。虹龍国際公司でございます」
「えーとね、私マリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーって言います。この会社できた時の出資者なんだけど、なんか私の暗証番号とID入れても利用できないとかってなってるんですけど」
「はあ? お名前をもう一度」
「ですから、私はマリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーって言って、初代社長の仲間で共同出資者です……あ」
ぶつ切りされた……めっちゃムカつく。
この会社、お客様対応全然なってない。
もしかするとイタズラ電話かと思われたかもしれないけど、それにしては対応がいくらなんでも酷すぎる。
ん? いやちょっと待って。
この会社やばい。
私の資金も凍結または何かで流用されてるなら、めっちゃやばい虎の尾を踏んでるわ。
「ヴァルキリー様、いかがなさいました?」
どうしよう……今の六代目、同業のあの人に報告すべきか否か。
「えーとね、多分私の推測に間違いなければ、私だけじゃなく、多分この会社の創業時代最大の出資者の資金とか凍結または流用しちゃったっぽい」
「何ですって? それはどこのどなたでしょう?」
「私以外にもね、虹龍国際公司が創業した当時、めっちゃお金出資した組織があったの。この世界とは別にある異世界の組織だけど、今も存続している極悪組って組織。私のお師匠様の組織で、あらゆる世界で最大最強の軍団。この世界でも活動してた」
「は? えーと、それってどのような組織形態ですか?」
うーん、どうやって例えばいいんだろう。
異世界最大規模のヤクザな任侠組織って言っても通じないし。
「あなた方がやってるマフィーオの活動が全次元宇宙規模で展開してるような組織です。神様でも手出しできないくらい強いです。事と次第によっては、虹龍国際公司無くなっちゃうかも。極悪組が投資した資金は、確かリーラ換算で10兆。それに加えてイワネツさんも出資してるから、やばいよ、会社無くなっちゃう」
「え゛? それはまずいです。この世界の物流と金融はあの会社で回ってます」
うん、そんな事態はさすがに避けたい。
私の地球時代で例えたら、アマゾ●とかヤ●ーとか楽●や最大規模の航空会社を合わせたようなものだから、この世界の人たちに多大な影響が及ぶ。
「それに、そのお金はシシリーの人達から受けとった私の活動資金で、その額おおよそ10億リーラ。この資金をもとにシシリーの人たちの年金運用とか考えてたんだけど」
「え? そんな……現代のシシリーにはそんな金、ビタ一文入ってませぬ」
ああ、これはあれだ。
きっと私たちの影響力がなくなった後、創設出資者の資金を勝手に流用して使い込んじゃったんだわ、この会社。
「ゆ、許せぬ。我らがヴァルキリー様のみならず、我らシシリーの先祖の年金を勝手に使いこみおって」
マリーオと、その息子達が怒りに震えて、大臣達もあちこちに連絡をつけまくって、虹龍国際公司に電凸し始める。
「シシリーのヴィットーリオ・デ・マリーオじゃ。平素からそちらとは取引しているのじゃが、会計責任者はおられるのかのう?」
「マリーオ様、お待ちください!」
電話交換の人が慌てて、本社の会計係に通話先を繋ぐ。
「これはこれは、マリーオ陛下。平素からお世話になっております。董事経理人、エレーン・メフメト・ビン・オクダイでございます。当社に融資の照会か何かで?」
「そうじゃのう、300年前に我らがシシリー関わる融資で、そちらの会社が創業したと聞いてのう、その確認じゃ。今話題の、勇者様やヴァルキリー様も出資していたという」
「300年前の創業当時の出資金でございますか? 申し訳ございません、当社顧客記録は国王陛下といえども、お教えできなくなっております」
「おい!」
マリーオは、さっきまでの苦労人的なお爺ちゃんの顔から、冷徹な秘密結社の首領の顔に変わる。
「聞くところによれば、伝説のヴァルキリー様は将来のシシリーの年金運用のために10億リーラも出資してくれたそうじゃ。現在の価値にするとざっと1兆リーラにはなるじゃろうて。お主ら、ワシらシシリーを下に見ておるのか?」
「いえいえ、当社にそのような300年も前のことを持ち出されても、記録を確認しないことにはこちら側も……」
「だったら探せばいいじゃろう? 当時の記録を。英雄達が資本を出資してできたのが、この会社のはずじゃ。それと聞くところによると、ヴァルキリー様の出資金も凍結されたとも聞くぞ? お前たちは我らがシシリーとヴァルキリー様を敵に回すか? それならそれで結構だが、君のところの社員に、何か不思議な力が働いて、不幸な事が起きるかもしれんなしれんぞ?」
うわぁ、脅迫始まっちゃったよ。
あ、通信が切られた。
「俺達シシリーをなめてるぞあいつら」
「許せんな、ムカつくぞこいつら」
「ヴァルキリー様が我らシシリーに便宜を図ってくださってるのに、こいつらふざけてやがる」
王子達が、王子らしからぬ言動で、あの会社を批判し始めて、大臣達が一斉に水晶玉で連絡する。
「ワシだ大佐。臨時の幹部会の結果を伝えるが、虹龍国際公司のやつら、社長も含めて我らシシリーやヴァルキリー様に義理を欠いた。お前は士官達に伝達し、社員を見つけ次第片っ端から……」
「ちょ! 大臣さんストップ、ストーップ!!」
あっぶな。
王であるマリーオや息子の王子達に忖度して、あの会社の社員達が皆殺しにされるとこだった。
「お前、何をヴァルキリー様の意向を無視して、勝手に話を進めようとしてんだよ!」
「申し訳ございませぬううううう!」
王子達が大臣に詰め寄って引っ叩いてるし、これ王国ってよりも実態は荒っぽいマフィア国家だわ。
まず彼らの意識も改めさせないと。
「ヴァルキリー様、返却された水晶玉に動きが。個別に虹龍からメッセージが入りました」
「わかりました。一緒に確認しましょう」
虹龍:マフィーオよ、一体どうしたのだ!? 我が社に300年前の創社時代の出資記録の確認など
ああ、多分社長まで報告来たわね。
さて、どうしようかしら。
「マリーオ王、さっきの苦情の通信で、社長自ら動いたみたいですね」
「はい、ヴァルキリー様。こやつ、どうしてやりましょうか?」
「とりあえず、記録が残っているか確認させましょう。資金が回収できたならば、私とあなた方の取半で」
マフィーオ:理由はシシリーに関わる事だ。記録はあるのかないのかどちらだ?
虹龍:創業者のアヴドゥル・ビン・カリーフの記録では、確かにヴァルキリー様の正体がマリー姫であるならば、10億リーラの記録がある。創業時の出資金は11兆リーラ、こんな額どうやって工面できたかはわからんが。その金についてはもう当事者もいないので、我らが財団へ寄付に回した。
「だそうですヴァルキリー様」
なるほど、出資金は財団の方に権利が移されたわけか。
「それはいつですかと、聞いてみてください」
マフィーオ:いつだ?
虹龍:答える義務はない。もう我らが管理する金ではない
「マリーオ王、この虹龍が財団に関わりだしたのは?」
「はい、今から10年前と記憶しております。財団に莫大な寄付をして、この虹龍国際公司代表のこやつは理事になったはず……は!? という事は」
「ええ、そういう事ね」
この虹龍国際公司が、財団に影響力を持つために私たちの創業当時の莫大な資金を寄付したんだろう。
それをしたのは、今チャットをしてるこいつだ。
「チャットを打ち切ってくださって大丈夫です。社長のアリーの情報を教えてください、マリーオ王」
「はい、やつの生まれはマリーク首長国連邦の名門、ナイーフ家の王子として生まれ、ヴィクトリー王国オックシュフォード大卒業後、若干24歳で役員から社長に。その後、マリークの首長に昇りつめた今年35のやり手ですな」
なるほど、有能な人物であることはわかった。
彼は若くして会社を継いだから、その後ろ盾が欲しくて、財団にお金を沢山出資して財団理事になることで、マリーク首長国連邦の盟主になったと、そんなところね。
「理由はどうであれ、これは私やシシリーが預けた大事なお金です。回収しましょう」
「ははー!」
マフィーオ:その資金はヴァルキリー様と我らマフィーオの金だ。不義理を働いたお前にはもはや話すことは何もない
虹龍:なんだと!? お前は財団を裏切るか!?
それと、この事をあの人にも報告しなきゃ。
聞いてしまった以上、私は彼らに伝える義理がある。
「マリーオ王、今からこの虹龍国際公司に最大の資金を出資した、組織の責任者を呼び出します。彼と私は同業で、このシシリーのために良きアドバイスもしていただけると思う、信頼できる方です」
「は! それは我らがシシリーの先祖も世話になった方ですね。先祖のお礼がしたいので是非とも」
私は頷き、指輪の召喚を発動した。
「いでよ、信義の勇者! 極悪組六代目組長ブロンド」