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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
最終章 召喚術師マリーの英雄伝
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第185話 復活のヴァルキリー 後編

「よ、よくわからんが死ね!」


 謎のサイボーグ達は、一斉に私へ両指から硝煙の臭いがするマシンガン撃ってくるけど、水のバリアを張る。


 多少は貫通力が優れて威力が高い、軍用ライフル弾を使用してるが、薬莢は飛び出してないから、特殊火薬を使ったケースレスタイプかしら? 


 硝煙反応はするけど少なくとも魔力は感じないし、電磁力を使って超音速の弾丸でもないし、光の速さで攻撃してくるプラズマキャノンでもなんでもない、火薬銃なら私の今の防御力なら大したことないけど、これ以上暴れられても死傷者が増える。


 おそらくはジョーとかいうやつと同様、全身機械にしたんだろうが、魔法が無くなったかわりに、科学力とか発展して、この世界の戦闘とかそういうのは機械任せになったのか?


「その身のこなしと、素早い動き。只者じゃないな? 何者か!?」


「ヴァルキリーよ悪党!」


 多分この威力の銃弾に当たっても平気だろうけど、こいつらがどこのどいつか吐かせないと。


「あなた達、ヴィクトリー大使館の人間って言ったけど、なぜこんな事を?」


 こいつら問答無用でマシンガン撃ってくる。


 いや、それだけじゃなくスモーク、煙幕も焚いてきて視界を奪うつもりか。


 戦闘行動に全然躊躇がないし、おそらくは軍人または元軍人。


 ていうかヴァルキリーモードになったら、レベルが低い男共にデフォでスキル魅了が発動するのに、こいつら目が腐ってる? レベルがもしかして高い? 


 全然魅了されないし、こう見えてもオフの日とかエステとか行って自分磨きしてるんだけど。


 いや、機械相手に腐ってるとかそういう話じゃないか。


 体を機械化してるならばありえる話だ。


 レベルが低くても、ステータスを機械の力で上げられるし、脳もコンピュータ化して、プログラムされて魅了化されない場合もある。

 

 てことは脳内まで機械化してる? 


 いや、彼らの目は人間の目をしていた。


 人を殺すことなんか屁とも思ってないような、私が今まで戦ってきた悪の目。


 だから、このルガーを両手に持つと戦える。


 悪を倒すための回転式弾倉の魔力銃で、特殊な魔力増幅装置が弾倉についてて、強烈な魔力弾を五発撃てる魔法の小型マグナム。


「抹殺しろ! パッケージが脱出した以上、邪魔者は消すに限る」


 相手がサイボーグなら遠慮はいらないっ!


「あんた達の強度チェックしてみるわ!」


 徹甲弾をイメージしてルガーを発砲すると、男の胸部に当たり魔力弾が貫通して機械の体を吹っ飛ばす。


 やはりこのルガーちゃんは優秀だ。


 奴らに脅威を与えた事で、こっちに下手な攻撃をしてこないはずだろう」


「な!? 全身機械化してる俺達を、そんなチャチなピストルで!?」


 一人を戦闘不能にして、もう一人弁護士と私に名乗ったハット帽が武器の男にルガーを向ける。


「あなた達がヴィクトリーならば、あなたの氏名と所属を名乗りなさい」


 ハット帽の男は、私をジッと見据えると何やら機械の片目が、めっちゃ激しく動き出して、驚愕の表情になって私を二度見した。


 それにヘリコプターのプロペラ音がする。


 数は3、音からして重武装のガンシップね。


 おそらくは、目の前の男の応援か、警察の支援ヘリコプターのどちらかだろうが、めっちゃ重たそうな重武装っぽいし警察のヘリじゃなさそう。


「もう一度問います。あなたの所属と氏名は?」


 サーチライトが警察署窓を照らし、大口径マシンガンが放たれて刑事部屋のデスクや椅子、書類を吹っ飛ばす。


「こいつら警告もなしに無茶苦茶だ! これじゃ戦争になっちゃうじゃないのよ」


 咄嗟に地面に伏せたら、匍匐前進でピストル持った憲兵のお偉いさんと目が合った。


「き、君は何者だ!? 奴ら大使館員じゃない! それにマフィーオの秘密結社なんかじゃなく、襲って来てるのはおそらく軍事組織。今の俺達の装備じゃ歯が立たん!」


「大丈夫です。こんな奴ら私一人でやっつけられますから」


 窓を照らすサーチライトに向けてルガーを三発撃ち込むと、ローターにヒットしたのか、地面に落ちてお腹に響くような爆発音が外でする。


「す、すごい。君は一体?」


「彼らに心当たりは? おそらくはヴィクトリーの者達かと思われますが? 全身サイボーグの」


「おそらくは、考えたくはないがもしもヴィクトリーがらみならば、これだけの規模と練度があるのは噂で聞く特殊秘密情報部。国王の目とも手とも呼ばれる殺しの集団、スペシャル・シークレット・サービス、SSS(スリーエス)だ。クソッ! 俺の部下も死傷者多数、意味がわからんぞ」


 なるほど、秘密情報部ってやつか。


 その割には手口が荒っぽい。


 これは情報を得るための工作なんかじゃなく、どちらかって言うと非正規な破壊工作の一環に思える。


 おそらくアレックスを誘拐した後で、この警察署そのものを破壊するような目的としか考えられない。


「攻撃中止! 攻撃中止!! 支援機に次ぐ、こちらオフィサーシックス。対象は警察署を脱出なるも、重要人物発見! 攻撃一旦中止セヨ……なんだと!? 我々がまだ中にいるんだぞ!」


「隙あり!」


 無線交信するハット帽の自称弁護士に、天界魔法で加速してパンチを繰り出すも、いなされた。


 逆に男に後ろに回り込まれて組つかれるたけど、加速装置か何かがついてるのか、反応が早いな。


「今すぐご同行を、ここはまずいので」


 機械のモーター音がして、ガッチリ拘束された。


 やはりあのロマーノ大学でマシンガン男よりも高性能っぽいが、甘い。


 私は、電磁バリアの応用で自身の鎧に高圧電流を纏わせる。


「ぐぁ!?」


 あまりの威力で火花を散らして、男と間合いが瞬時に離れた。


「クソッ、なんて力! まるで魔法だ!」

「魔法よ」


 男の間合いに入り、アゴに手を当てて足を一歩前に出して全力で床に叩きつける。


 いくら全身を機械化していても、幸いに脳まで機械化してないようで、一発で脳震盪を起こしてくれたみたいだ。


「あ、あんた何者なんだ? 軍事用サイボーグや軍用ヘリも、まるで相手になってない」


「私はヴァルキリー。憲兵さん、男達は無力化したから警察署から脱出を。あとは私が」


「ヴァルキリー!? 嘘だろ、あの伝説の」


 憲兵さん達に負傷者を救護させ、回復魔法を使用してると、私の水晶玉にイワネツさんから着信が入る。


「ようマリー、中は終わったみてえだな。アレックスとジョンや民警共の避難は順調だ。だが、気をつけろ! 警察署の奴らは囮! 本命は上空の高空戦力だ! バリアー張れ、上空から攻撃来るぞ」


 ……やはりそうか!


電磁防壁(バリアー)!」


 警察署一帯をバリアで守ると、私達の勘の通り、バリアの防壁が大爆発して、炎の液体がぶち撒かれた。


 マッチが焼けたような、燐のすえた匂いと、オイルライターのような匂い。


 おそらくは上空から高性能ナパーム弾を投下して、この警察署や警察官達を焼き尽くそうとした。


「許さない」


 私は警察署の天井を突き破り、一気に夕陽が照らす上空まで上がると、高度約16000メートルの成層圏まで来ると、ニュートピアの美しい星の光と濃紺のアビスブルーの空に出た。


 感覚強化で見つめると、精密爆撃とかできそうな巨大な鳥のような大型爆撃機を発見する。


 大型爆撃機の護衛に、戦闘機が4機。


 普通にこれ、軍事作戦よね。


 それに機体の国籍識別に、真っ赤な薔薇がペイントされてるけど、ヴィクトリー空軍かしら?


 多分この世界は、魔法の力が使えなくなったから、石油燃料かそれに準じるようなものを使っているんだろう。


 私的にこんな軍隊まで動員できるのって、おそらくはあの自称素晴らしい王女しかいないな。


「くっそムカつくわね。さて、一番楽な方法はっと」


 私は、爆撃機のコックピットに降り立ち、搭乗員にルガーを向ける。 


「メイデーメイデー、ブラックランサーよりイーグルファイター各機。なんてことだ、信じられない」


「ブラックランサー、どうした」


「鎧を着たスタイル抜群の少女だ。まるで先史時代の魔法使いみたいに、空からこの機に取り付いて……銃を向けてきた! おかしい、この状況! 彼女のパイオツしか目がいかないいいいいいいい」


「寝ぼけんな、ブラックランサー! ここは52500フィート上空だぞ!! 貴機の酸素濃度は大丈夫か!?」


 感覚強化で無線聴いたけど、幻覚だって疑われてる。


 じゃ、目を覚まさせてやるわ。


 今の弱体化した魔法量じゃ、時は止められないだろうから、魔力温存のためには……。


「いいや、ぶち割ろう、そのほうが早いし楽」


 私はコックピットをぶち割り、機内の気圧が一気に低下するから、瞬時に強化ガラスの穴を土の魔法で塞ぐ。


 軍用機をハイジャックしたけど、とりあえずは。


「操縦に専念してくれるかしら」


 ルガーを搭乗員に向ける。


 中にはパイロット、機長、副操縦士が二人いて、機内の急激な気圧低下で酸素マスクしてるが結構ダメージあったみたいで、モニターに若い女が映ってるわね。


 鳶色の髪をロープ編みにしてて、性根が腐ってそうな口角がぎゅっと上がった感じで作り笑いしてる。


 年齢にして20歳前後といった感じかな?


「どこのどなたでしょう? そんな破廉恥な鎧姿して、胸が大きくて頭悪そうに見えるんですが、どうしてわたくしの所有物である素晴らしい飛行機に乗っているのですか?」


 間違いないわね、アレックスから聞いた自称素晴らしい王女様だ。


「あら? ごめんあそばせ、素晴らしい王女様」


 私は貴族風の礼式、カーテシーをしてみせる。


「ふふ、そうです。わたくしは素晴らしい王女。平民には見えませんがもう一度聞きます。なぜあなたは素晴らしいわたくしの飛行機に?」


 まさかこんなに早く、直接話す機会が来るとわね。


 軍を動かしたのは、やはりこの馬鹿女か。


 私の昔の国で好き勝手してるみたいだ。


 アレックスから聞いた通り、本当に自分のことを素晴らしいとか言っちゃってるよこいつ、馬鹿じゃないのかこの馬鹿女。


「ええ、理由について説明しましょう。私、この世界に300年振りに帰って来たのです。私を呼び出したアレックスって男の子が、大学で襲われて死にそうになってて、今も襲われてて多くの人が傷ついてる。意味がわからないので、王女様なら説明してくださいますか?」


「……私の素晴らしいアレックスが死にそうになってた? ですって?」


 作り笑いの微笑みが崩れて漏れ出した、この馬鹿女の目を観察するが、これは凶相ね。


 瞳の色は明るいブルーだけど、四白眼ってやつか。


 自分以外、同じ人間として見てない感じで冷酷で残忍そうな感じがするし、悪い奴の典型的な目ね。


 私の生徒だったら、徹底的に性根を鍛え直して目つきを変えてやるくらい、邪悪さを感じるわ。


「そう、大学でシシリーの人達にマシンガンで襲撃されて死にそうになってた。私が回復しなかったら死んでたわ」


 これは、本当の情報。


 ぶっちゃけ、彼は私を呼び出さなきゃ死んでた。


「……無頼の秘密結社に任せたのは間違いでした。ヴィクトリーまで彼を連れ戻すよう依頼したのに、素晴らしいアレックスを傷つけるとは。それに現地民の警察署へ連行されたと聞き、このままだと素晴らしいアレックスに前科がついてしまうので、彼を救出して警察署燃やせば逮捕の記録も消えると思ったのに」


「……えぇ」


 ……こいつっ!


 馬鹿すぎて一瞬絶句しちゃったよ。


 いや馬鹿なんてレベルじゃない、大馬鹿だ。


 そんな事のために軍隊や秘密情報部も使って!


「それで、あなたはどこのどなたでしょうか?」


「あなたみたいな馬鹿に答えて、私に何か得することがあるのですか?」


 馬鹿って言われて、口元が一瞬ぎゅっとなって作り笑いが取り繕えなくなってきて、酷い顔になってる。


 こいつ煽り耐性とか全然ない。


 今でも多分、宮廷教育とかあるんだろうけど、全然周りの人の話とか聞かないで、自分本位に育ってきたんだろう。


「わたくし、あなたに馬鹿と呼ばれた気がするのですが、あなたは何者ですか?」


「さあ? それはこれから嫌ってわかるはずよ馬鹿女。私がこの世界に帰って来た以上、悪党共に好き勝手なんかさせないわ。この世界が英雄達の思いを忘れたなら、思い出させてあげる」


 さて、この馬鹿が次にとってくる手段としては、おそらくはこの爆撃機ごと私を消そうとするだろう。


 相手の一歩も二歩も先を読んで対応しないと、こういう馬鹿に振り回されることになる。


「そうですか、でも残念ですね。あなたが何者かなのはどうでも良くなって来ました、死になさい」


「ヴィクトリー万歳!!」


 パイロット達が一斉に何かを飲み込んで、そのまま動かなくなって、機体はコントロールを失う。


 戦闘機からミサイルが発射されたようで、ここでヴィクトリー軍が活動していた事実を消す気だが。


「やっぱりね」


 私は生き証人のパイロット達に、解毒魔法をかけて急いで全員の襟首を掴んでバリアを張り、爆撃機がミサイルで吹き飛ばされ、全員に風の魔法の加護を与えて、地面へ一気に降下した。


 夕陽が照らすロマーノ警察署前には、憲兵達や警察官、それに大勢の野次馬や報道機関も集まってる。


 多分、あの馬鹿女の事だからこのままじゃ終わらない。


「勇者イワネツ、警察署のエージェント達は?」


「俺の魔法で拘束中だ。その様子じゃあ、おそらくはヴィクトリー王国の刺客だったみてえだな」


「ええ、それと多分このまま終わらない。あの馬鹿女、警察署を消す気だった」


 すると夕陽を背にして、空から巨大な影がこちらに轟音を立ててやってくるが、あれは?


 全長20メートルはありそうな、金属製の大型人型兵器。


 角のようなアンテナが付いたモノアイの頭部に、機体そのものが真っ赤に塗装されてて、背中には大型兵器の数々、肩に禍々しいスパイクつけてて、右手に巨大な斧と左手にと、右腕には高性能ミサイルポットを装備、足は巨大な鉄球のような車輪がついてて、尻尾のような触手には、大型の機関砲。


「……嘘、昔ヴィクトリー王国で倒した、巨人スルトとそっくり……いやちょっと違うか、無線か電波か何かで操作する巨大戦闘ロボね」


 肩にヴィクトリーの赤薔薇に、機体名V-003クリムゾンローズ。


 やはり魔法が失われたこの世界は、そのかわり機動兵器とか作れちゃうくらい科学力が発達したようだわ。


「ふん、たかが民警(チェーカー)ぶっ潰すために、こんなもんで来やがって。送って来やがったやつ、馬鹿だろ?」


「ああ、うん。想像以上に馬鹿だったわ。あなたが嫌いなタイプの女ね」


 すると、イワネツさんは苦笑しながら両手をポキポキと鳴らし始めた。


「さて、俺が全力で戦うと、せっかくジローが残してくれた美しい街並みが壊れちまう。マリー、お前の魔法で周囲一体にバリアー張ってくれ。ちょっと遊んでくるぜ」


 私は彼に頷き、アレックスとジョンを呼び寄せる。


「みんな大丈夫だった? 怪我はない?」


「あ、ああ。大丈夫だが……あんたその格好……」


「それに、あなたが連れてきたそこの軍人達は?」


 私が説明しようとした瞬間、空間そのものが歪み、強烈な悪意と魔力の波動を感じたと同時に、魔力で作った異空間に放り込まれる。


 私やイワネツさん、そしてアレックスとジョンしか空間に存在しなくなり、巨大ロボが空間に降り立つと、目玉が飛び出したデザインの黒曜石の仮面を被った、黒いフードの何者かが、巨大ロボに手をかざす。


「体のライン的に女性に見えるが、まさかあんたエム!?」


「Віють вітри, віють буйні♪ Аж дерева гнуться♪ Ой як болить моє серце♪ А сльози не ллються.Трачу літа в лютім горі ♪ І кінця не бачу.Тільки тоді і полегша♪ Як нишком поплачу♪ Не поправлять сльози щастя, Серцю легше буде,Хто щасливим був часочок,По смерті не забуде……」


 何の歌? なんか悲し気な感じの歌……


 するとアレックスが突然両手で頭を抱えだす。


「……母さん」


「!?」


 こいつが!? まさか例のメアリーか?

 

 ロボからあふれ出る魔力を感じるが、あの女、このロボに力を与えた?


「ロシア語に近いがウクライナ語にも似てるな、悲恋の歌か? 風が吹いている……か? イントネーションがちと違うが、この世界のルーシー語って奴だな。よう、久しぶりだなエム! お前、俺の事は覚えてるだろ?」


 そうか、イワネツさんは東欧出身だからなんとなく歌詞がわかるのね。


 彼は転生前からそうなんだろうけど、語学の才能がずば抜けて高い。


 すると巨大ロボのモノアイがピカッと光った後、空間が元に戻りメアリーの姿が消える。


 多分、イワネツさんの姿を見て逃げ出した。


状態確認(ステータス)


 ステータスを確認したが、何だこのロボ……無茶苦茶ステータスが高い。


 生命力は生き物じゃないからないけど、魔法量(M P)が、10万!?


 馬鹿げた魔力量、私もそうだけどイワネツさんも本気にならないと倒せないかも。


「勇者イワネツ、魔帝バサラの力の開放を! ただの戦闘ロボが、魔導兵器に変わったわ。このままじゃ私達も街もまずい」


「……ああ、それだがすまねえマリー。俺のバサラの力だが、前の世界救済でやり方が雑すぎるってヘルのメスガキがへそ曲げて、封印されちまった」


「えぇ……まずいでしょそれ」


 ロボットのジェット噴射に魔力が加わり、手に持った巨大な斧が炎を吹き出す魔法の斧に変わる。


 まずい、こんな魔導兵器が暴れたら街が焦土になって大勢の人が死んじゃう。


 背に腹は代えられないか、切り札を切らせてもらう。


絶対防御(プロテクト)


 スキル、絶対防御は一日に一度だけ使えるスキル。


 私が対象にした人物、範囲を、一定時間相手の攻撃から無効化する。


 対象が無機物や街ならば、範囲は限定されるが一定時間は守ることが可能。


「アレックス君とジョン君、周囲の人たちの避難を! 君達じゃあの兵器は倒せない」


「あ、ああ。しっかりしろアレックス、俺達は騎士だろ!」


 アレックスは、あの仮面の女の邪悪さとおそらく実の母と会った事で、気が動転してパニックを起こしてる。


 すると、物凄い速さで斧を振り下ろしてきたので、紙一重でかわすと地面が爆ぜて私の体が吹っ飛ばされる。


 思った通り、無茶苦茶な威力。


 私を呼び出したアレックスの召喚レベルが高くないから、攻撃をまともに受けたが最後、戦闘不能にされる。


давать(このやろう)!」


 イワネツさんが全力のパンチを繰り出すと、ロボットの胸甲がへしゃげてぶっ飛ばす。


 相変わらず、ハチャメチャな攻撃力だ。 


 私もルガーを取り出して巨大ロボットに連続で銃撃を叩きこむ。


 だが、ロボが今度はジェット噴射して宙に浮くと、背中から火炎放射を吹き出し、同時に触手みたいな尻尾から魔力が籠った機関銃や背中のバズーカが掃射される。


「くそっ、無茶苦茶だこいつ! 速攻で倒さないと、私の絶対防御の効果が切れるっ!」


「まかせろマリー! ブリキ野郎! かかって来いヤァ!」


 今だ、イワネツさんに攻撃が集中しているうちに、魔力を高めて精神統一。


 すると、巨体から想像もつかない速さで私の目前に現れて、斧を振りかぶった。


「嘘でしょ!? 反則レベルな素早さ!」


 その時、アレックスが駆けだして私の盾になった。


「やらせない、彼女はこの世界を救いにやってきたヴァルキリー!」


「いけない、下がって!」


 その時、ロボの動きが止まった。


「あなた方、わたくしの素晴らしい彼から離れてくださる?」


 あ、スピーカーの音声で正体わかっちゃったわ。


 このロボを操っているのは、あの自称素晴らしい馬鹿女。


 ていうことは、エムことメアリーはヴィクトリア王女とも関係している?


「どいてろ小僧おおおおおおおお!」


 イワネツさんがロボの機関銃が付いた尻尾に組み付く。


「離れて、アレックス君! 彼に任せてて!」


「ですが! あれはおそらく僕の母と、あの性悪女が企んで!」


 私は彼の目をじっと見る。


 確かに彼の目には、正義と使命感を見るが……。


「私はかつてこう習った。力無き正義は、無力であり、正義なき力は暴力であると。あなたには正義の心があるが、まだ力はない。そして悪の暴力から世界を救うのが勇者」


 イワネツさんが、ロボを掴んだまま体をハンマー投げの選手みたいにその場で回転し、上空に投げ飛ばす。


「ブリキ野郎! 空中戦は得意か?」


 ロボのマシンガンやミサイル攻撃にも、ものともせず、連続で機体にパンチを打ち込んでいく。 


 彼は転生前から細胞の異常、ミスオタチン筋肥大化が起きていたらしく、その肉体からオーラともチャクラとも呼ばれるエネルギーを、無意識に発揮して細胞変異を起こしていたようだ。


 どれくらい強靭かというと、少年時代はオリンピック候補選手になれるくらいで、成長するに従ってその力は人智を超えて、ソ連のブラックマーケットを力で掌握し、意識すればライフル弾でさえ筋肉で止めちゃうくらいやばかったそうだ。


 そのせいか、身長が成人男性にしては低い160センチだけど、体重が100キロを軽く超えていたらしい。


 けどダメだ、決定力不足。


 あのロボは魔力で馬鹿げた運動能力持ってて、おそらく今の私の通常の攻撃ではビクともしないであろう硬度も持ってる。


 だが彼の、勇者イワネツの真骨頂は、タフな肉体だけじゃなく、オーラと魔法を組み合わせた魔術戦が、他の勇者よりもはるかに長けている点。


 すると夕焼け空を覆う暗雲が突如出現し、上空に雷が発生したが、あれをやる気か。


 自分の体に雷を落とし、電気を体に纏わせて両手で指鉄砲のような形をとる。


「俺がこの世で許せねえのが3つある。一つは冷えた食い物、二つ目は信念も規律もねえゴミ野郎(ムラ―シ)、三つ目は自分の都合で男を振り回す、おつむの足りねえ馬鹿女よ! いくぜズべ公!!」


 組み合わせた人差指と人差し指の間に、土の魔法で硬質金属弾を生み出し、電磁力で弾丸を打ち出す電磁砲(レールガン)をロボに繰り出す。


「まあ、下賤で野卑な男!」


 空中で撃ち合いを演じてるが、おそらくは街や私達に攻撃が飛ばないようにしてくれたんだろう。


 絶対防御の効果もそろそろ切れる。


 今のうちに魔力を高めて、私も魔法攻撃を。


 ルガーに魔力を込めて全弾発射すると、一つ目(モノアイ)のカメラにヒットして、ロボの視界を奪う事に成功する。


「よおし、ロボ公! こいつはどうだ」


 イワネツさんはロボットの土手っ腹に、ボディーブローを繰り出すと、さっきの電磁砲やパンチでひしゃげた胸装甲が、あまりの威力で貫通し、火花が散る。


「くらえやああああ! →↓↘、Dragon Punch‼︎」


 ロボットの内部の配線だとか、何もかも右手で掴んで、一気に風の魔力で上昇し、馬鹿げた握力と腕力で巨大ロボットの胸から顔面を引き裂いた。


「む、無茶苦茶だ。機動兵器を素手で圧倒してる」


 ジョンはイワネツさんの人智を超えた力に驚いてるようだが、本気状態の彼はこれよりもっと凄い。


 胸から頭部を引き裂かれた巨大ロボット、クリムゾンローズは火花が散って、活動限界を迎えそうだったが、装備していた斧を捨て、肩や腕、腹部から無数の大砲が現れる。


「名残惜しいですが、そろそろ終わらせていただきます。あなた方は、すでにわたくしの素晴らしいクリムゾンローズのターゲットロックさせてもらい、カメラの視界がなくても、360度、オールレンジ攻撃を……」


 御託を並べる隙があったなら、さっさと攻撃すべきね。


 私の魔力は、精神統一で研ぎ澄まされ、最高潮に達したから、決めさせてもらう。


 私が右手を掲げると、この世界に私の専用装備、トップに薔薇をあしらった黄金の神杖ギャラルホルンが姿を現し、ルガーと合体させる。


「このオールレンジ攻撃は、我らが素晴らしいヴィクトリーの科学者が丹精込めて、素晴らしいわたくしのために作り上げた最新攻撃システム。ターゲットを極限まで力を高めた指向性エネルギー兵器が、対象が消滅するまで止まらず、わたくしのアレックスを除くその場の全生命体を絶命させる威力があり……」


 どこの世界もそうだけど、一言だけ言っておこう。


「馬鹿の話は必ず長い! 荷電粒子砲(ライトニングバスター)


 このロボがそこかしこで撃った電子の光を吸収して、私は超高温の荷電粒子を放つ。


 光の奔流が巨大ロボを包み込み、ルガーの引き金を連射して威力を最大まで高めて、文字通りロボットを光にしてやった。


「これが……魔法」


「俺達も一応魔法が使えるようにはなってるが、科学の力を大きく超えてる」


 絶対防御の効果が切れる前に、なんとか巨大ロボットを撃退したが、この世界、文明レベルが上がっていて手強い。


 そして相手は国家と、国家の影響力を超越する財団。


 早急になんとかしないと、このままじゃらちがあかない。


「ヴァルキリーだ」

「ああ伝説のヴァルキリー様」

「世界を救ったとされるヴァルキリー様が降臨なされた」


 私は集まった人々に手を振って、鎧も私がいつも職務で身に付けてるパンツスーツに戻った。


 軍も警察も、今の戦いを報道してたマスメディアも、どうやら私を漠然とではあるが世界を救ったヴァルキリーとして認識し始めているようだ。


 で、あるならばいい手を思いついたわ。


 私のかつての思いを、みんなの思いも再びこの世界に伝えるチャンスじゃない。


 そのための第一歩をまずやろうかしら。


 財団がどれだけ情報工作力があるかも探らないと。

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします

次回は、学んできた教えを主人公が次々と実践していく流れとなります

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