第184話 復活のヴァルキリー 前編
そんな感じでエムの正体が判明し、精霊界議長、ケツァールコアトルも私達が倒した。
だけど、彼女を信奉するカエルのような精霊達フラカン、そしてワニのような精霊トラロックはエムに操られていたのか、多くの分身をモンスター化して私達と敵対した。
ついには、大魔王アースラの阿修羅国が支配する軍勢も退け、北アスティカ大陸の、アバラル合衆国も占拠される。
これに加えてエムが支配する臣下の力は、一般の魔族を凌駕した魔人と呼ばれる軍勢で、倒したはずのバリムも、敵に寝返ってしまったんだ。
オーディン達との戦いは文字通りの世界大戦となり、このニュートピアを疲弊させた。
「もう一度聞くけど、あなたの氏名、住居、生年月日ならびに職業は?」
「黙秘します。ヴィクトリー王国大使館ならびに弁護士がこちらに来ないなら、話すことはありません」
そして私は、目の前の女刑事とのテンプレ会話みたいなのに、若干だけど疲弊というかうんざりしていた。
「黙秘ですって? 小娘のくせに生意気ね。ヴィクトリー大使館に確認とってるけど、その前に口を割らしてやろうかしら?」
性格悪そうな女刑事が睨みつけてくるけど、こんな奴に凄まれても、怖くもなんともない。
今までの数々の世界救済で、こういう状況には慣れてるし、だてに人生を人の4倍生きてないしね。
ていうか、私の方が歳が上なんだけどさあ、子生意気な小娘はそっちじゃねえかっての。
ほんとムカつく顔してるわ、この女刑事。
思いっきりビンタしてやりたいけど、いくらこの世界の基礎レベルが高いからって、弱体化してるとはいえ私の力じゃ首とかすっ飛んじゃうし、後がめんどくさいし、そういう野蛮なやり方嫌いだし。
しかし、イワネツさんこっち来ちゃったかあ。
私は彼のやり口や、スタイルとか性格も知ってるし、私にとってはやりやすくはあるんだけど、彼の救済手法は同業者間でそれほど芳しくない。
ぶっちゃけ不器用で誤解されやすいんだよね、彼。
ついやり過ぎちゃって、後からフォローに入る自分の女神とか怒らせちゃったり、唯我独尊的なところもあって、神々への根回しも上手くないから損してる部分がある。
それに私と救済の方法や考え方も違うから、定期的に打ち合わせしないとダメだろう。
ただし戦闘面では、最強の勇者の一人である事は間違いなく、そういった不器用さやバサラの魂が宿っているってことで、神々や天使も恐怖してるせいで、半分監視対象みたいな感じだし、実績面で彼は神々から、正当な評価を得てない所に関しては、やはり神々を怯えさせたという、伝説の大悪魔バサラによる影響もあるかもしれないが、それをどう払拭させるのかが、彼の課題でもある。
「おい、ワタシの話を聞いてんのか小娘! お前の両親の身元を洗って、呼び出してもいいんだぞ! わかってるのか、お前っ!」
「黙秘します。ていうか、それ脅迫ですよ?」
「〜〜っっ! ガキッッ!」
それに勇者ってのは、基本的に役割分担とか適正があって、私の場合、ジローもそうだけど、適性が世界運営のアドバイザーとか情報発信が得意で、荒事も出来るけどそういうのが専門じゃない。
神々も対処出来ないような、めちゃくちゃ悪い奴を討伐したり、凶悪な化物退治や、世界を蝕む組織犯罪対策とか、純粋な強さが必要な世界は、基本的には私もあんまり担当した事ない。
適正がないといえばそれまでなんだけど、そういう巨悪対策に投入されるのが、先生だったり、今は勇者やめてるあの人だったり、イワネツさんだったり戦闘力が群を抜いて高い人が担当する。
勇者をやって何百年か経つけど、先生の実績や凄さは勇者になってわかった。
先生は実績もさることながら、実力はやはり勇者の中でもトップクラス。
私は色々な実績が加味されやっとAランクを許されたけど、先生は数多の勇者の中でも伝説級のトップオブエース、勇者の中の勇者、マスター・オブ・ブレイブハート。
最強の勇者の称号を得ている、真の勇者。
これは、ただ勇者をやってるだけではつかない称号で、多くの神々から信頼を得ていることもそうだけど、後進を育成して神のために働く勇者を多く育成してきたからも要因の一つで、聞くところによると、私のような地球出身の子も多いという。
先生の実力はもちろんのこと、何より彼の凄いところは弟子や後進の育成に長けていて、自分で学校なんかも持ってて、先生が認めた勇者や救世主じゃないと投入できないようにした。
それをシステム化とかしちゃって、一度義理や縁がある勇者達にすぐさま支援ができるよう体系を整え、先生の言う仁義や義理の概念を、あらゆる世界で体現できる形に持ってちゃったところが凄い。
それに先生の名は業界では絶大で、非公式ではあるが一番弟子である私にも尊敬が集まって、今では先生の学校の教師やったり、女子寮の寮長とかもしてるんだけど、その話は今は置いておこう。
私は、勇者として今の状況をよく観察する。
先生は言っていた。
勇者は五感、いや第六感を働かせて自身を取り巻く状況を、聞くのではなく聴く、見るのではなく観る、診る、視る、そして眺める。
「お前っ! ワタシをなめてるのかっ! ワタシは警察本部マフィーオ特捜隊!! 組織犯罪特捜警部の、ブルネッラ・ディーナよ! どう? ビビった? あんたみたいな小娘、いかようにも出来るのよ?」
「あ、そうですか。私が観るに刑事さん、経験不足。あんまり取調べで、ビビったとか、なめてるのか? とか使わない方がいい。相手になめられますよ?」
「はあああああ? なんなのあんた小娘のくせに」
こういった単語の一つをとっても、様々な意味合いを持つのと、任務達成を最優先にするために感覚をその場に応じて適正化しろと専門的な教育を私は受けた。
感覚については触るはもちろん、触れるといった直接的な感覚と、状況に応じたセンスというか感受性とかの、場の空気の感覚の違いも、魂の感覚の使い方も先生から習った。
特に先生が重要視する危機察知能力で一番重要視していたのは、魂の感受性。
それは自分にとって善か悪か、自分の意思が通るか通らないか、利用できるかできないか、善か悪か、自分に使えるか使えないかなど、瞬時に状況判断できるかが勇者の重要な適正とも言っていた。
私は、周囲の状況を観察する。
ただ見るのではなく、状況や対象を観て察するのだ。
だから「観察」という言葉がある。
自身の思いを再び世界に認知させて、悪を滅ぼすことが最優先。
その最優先事項を達成するために、思考を最適化するのが、一流の勇者。
これができないと、自分の命を落とすか大事な協力者が命を落として、世界救済など不可能になる。
そして感覚の力は時に生死を分ける。
だから私が教える若い子たちには、感受性とか勘の的中率を上げるよう努力させたり、直感について口酸っぱく教えるの。
特に勇者を目指す女子に対しては、勘と感受性を大事にしろと同性からのアドバイスね。
男子が嫌がる女の勘の延長線上は、女子特有の感覚の豊かさだから、私が教える女子生徒には特に感覚から導き出された女の勘を大事にしろと教えるんだ。
私がこのロマーノ、いや名前が変わってイリア共和国だっけ?
この国の警察制度を観察した結果、エリート軍人の軍事組織的な国家憲兵警察と、文官の国家警察、地方自治体の市警察に別れてるっぽい。
それで私を取り調べてる、目の前の性格悪そうなバカ女は、どうやら国家警察の組織犯罪対策専門の刑事のようだけど、専門官にしては馬鹿そうだわ。
いや馬鹿とも違うか?
彼女は若く、年齢にして30前といったところかしら?
警察はどこの世界でも男の仕事だから、男社会で自分を示そうと躍起になってて空回りしてる感じかな?
この年代は人間の形が出来始めてきてるから、自分ができると思ったら突き進んじゃう、生意気盛りだよね。
「あー、ふう。くっそムカつくわねあんた。それで、もう一度聞くけど、あなたの職業、住所、氏名、生年月日を教えてちょうだい」
「黙秘します」
取調べ室の机がバンと叩かれて、ライトが私の顔に当てられた。
「ふざけんじゃないわよ。この事件は私が任されてるの。私がとったガラに黙秘なんてさせないんだから」
私は感覚強化の魔法をこっそり使って、周囲の状況を盗み聞く。
「内務省はとろい事してやがる。拷問使えば、あんな小娘落とせるだろうよ」
「憲兵さんよお、そんな人権無視した捜査なんか出来るわけねえだろ。だから軍人はガサツで嫌なんだ」
「じゃあテロの情報寄越せ民警」
「ざけんな、そっちこそ情報寄越せよガチャ野郎。こっちは警察本部の、泣く子も黙るマフィーオ特捜班だボケ。あ、失敬、大尉殿。失言でしたわ」
「クソおまわりが!」
あー、うん。
軍と警察、お互いどっちが事件担当するか揉めてるわね、これ。
私は、以前先生から警察対策ってのを習った事がある。
警察は事件解決と自分達の手柄を挙げる事を第一に考えていて、刑事は自分の頭の中で事件をストーリー立てして、そこに当てはめて行くよう持っていくだったかしら?
だから、そういう場合は相手の刑事が考える絵図を崩してやって、自分の有利な立場に持っていくだったか。
すると、年配の市警察の刑事さんが取調べ室に入ってくる。
「まあまあ、警部殿。もうちょっと穏便にやりましょう。どうだい君、お茶のおかわりいるかね?」
「巡査部長、お呼びじゃないわよ。私のガラに勝手に話しかけないで」
場の流れを変えるチャンスね。
私は年配の話がわかりそうな部長さんの方に微笑んだ。
「あ、おかわりください。それと、目の前の彼女には話したい気が全く起きないけど、部長さんには少しだけお喋りしてもいいかなって」
「あんた、私をなめてるの?」
「ええ、もちろん。彼の方が人生の年長者なのに、あなたの口の利き方はなってない。そんな女相手に、大事な話なんかしたくないんで」
すると、私の言い分がツボに入ったのか憲兵の大尉さんが大爆笑する。
「ハッハッハそりゃそうだな。国立大出のエリート様は、まず口の利き方から勉強した方がいい。この子の方が上手だな、ここはベテランに任せるべきだろう」
「警部殿、女の子からのお茶の誘いです。警部殿は他の被疑者に取調べしてはいかがでしょう?」
うん、これでよし。
「恥かかせやがって、ディーナめ。副班長戻れ! 他のガラを留置場から連れて来い。それと今の調書を提出しろ!」
「了解しました班長。チッ」
女警部が私の顔見てめっちゃ舌打ちしながら取調べ室から出て行く。
「いやあ、すまなかったね怖がらせて。警部殿は仕事に真剣でね、気を悪くしないでほしい」
「いえ、大丈夫です。それで、聞きたいことはなんでしょうか? 部長さん」
私は彼の目をじっと見据える。
彼は、60歳前後で薬指には結婚指輪してて、身なりもきちんとしてて、一見して柔和そうに見えるけど隙がない。
まずは彼の考えを引きだして、こっちの有利な話に持ち込まないと。
「そうだね、君の出身は?」
「ヴィクトリーのロンディウムです」
「おおロンディウムか。あそこの時計塔、なんだったかな? 定年後にね、妻と一緒に旅行に行きたいんだが、あのシティにある、ほら」
あったけ? そんなの。
300年も経ってるから、今の街並みわかんない。
ていうか王宮から出たことなかったし、広場で処刑されそうになったことや、ワルキューレに操られたロキの巨人スルトと戦って街壊しちゃったし、あんまりいい思い出ない。
「君? 本当はどこ出身なのかな?」
うわぁ、めっちゃ疑われてるよ。
余計な事は言わない方が良かったかしら。
まあ先生曰く、ベテランの刑事は犯罪者の嘘を見抜くプロだって言ってたし、本当のこと言うしかないわね。
「実は、私は300年前からやってきたんです」
「へ? 君、なかなか面白い冗談言うなあ」
「本当です、部長さん。この国がロマーノ連合王国って名前にジローが変えていた時代。私は、宮廷で王女やってたの。名は、マリー・ロンディウム・ローズヴィクトっ! 痛っ! 舌噛んだ!! マリーって呼んでください」
なんとなく昔の名前思い出したけど、やっぱこの名前長いし舌噛むし、苦手だ。
「ハッハッハ、こりゃあ失敬王女様。それじゃあ職業の方は?」
お爺ちゃん刑事笑ってるけど、目が笑ってない……。
すんごい疑われてる私。
「あ、今の職業は学校の先生もしてます。たまに本業の勇者もやってます」
「学校の先生か〜、凄いな〜、その年でかね? うちの孫とあんまり歳が変わらないように見えるのだが」
「あ、いえ。私の歳は実を言うと316歳です。ほら、300年前の人間なんで私」
爆笑してるけど、絶対信じてないよねこれ。
「ちなみに、マリー先生の専攻は?」
「あ、はい。格闘術は女子に合気道とか槍術、杖術なんか教えたりしてます。ソフトボール部の顧問なんかもしてて、受け持つ授業は、必履修科目の魔法学と、道徳、倫理。専科教育では人間文化学、公共政策学科、情報工学科、救済戦略課程なんかも」
「魔法学とは凄い! おじさんにも教えてほしいな」
これ、刑事さんに絶対でまかせや冗談の類とか思われてるわね。
この世界、地球と同様に魔法の使用とか一般的には一切禁じられちゃったから。
ま、いいわ、実際にこの人に講義してみようかしらね。
「ええと、おほん。まず魔法には火、水、土、風の四元素があり、一般的には属性魔法と呼ばれるものです。生き物の細胞には魔力と一般的に呼ばれる元素のオーラが宿っており、発現できる世界とそうじゃない世界がありますが、まず火について。体内の細胞に呼びかけると光が生まれるはず。この光が魔力と呼ばれるもので、任意の場所へ空気中の酸素や可燃物に結合させると燃焼効果が……」
「凄いな、本当に魔法とやらの講義を聞いてるようだ。いやー、若いのに大したものだよ」
「じゃあ口で説明してもピンと来ないんで、実演しましょう」
「?」
私は指先に炎の魔力を具現化させて、ライターのように人差し指に炎を灯す。
「……手品か何かかね? 身体捜検は受けたはずだけど、いやもしかして本当に……それにどこかで君の顔を見た気がする」
あ、信じてくれたっぽい。
先生も言ってたっけ。
警察は敵対するよりも、味方につけた方がこっちの仕事がやりやすくなるって。
すると、私がいる刑事課の中が一斉にざわめき立つ。
感覚強化っと。
「ヴィクトリー大使館の者です。弁護人も連れてきたので、まずは我が国の国民と話をさせてください」
「あそこの取調べ室だ」
うん、こんなに早く来るとは思わなかったけど、歩幅や身のこなしが一般人と違う。
手の振り方も独特だし、素人じゃない。
嫌な感じね、これは大使館員と言うより軍人っぽいな。
男二人が私がいる取調べ室に入ってくる。
身なりはきちんとスーツにハット帽子被ってって、いかにもお役人的な紳士だけどなんか違和感ある。
こういう相手はよく観察しないと。
「君はヴィクトリー国民だね? 君には正当な弁護士を雇う権利があるので、こちら側で弁護士を用意した。選定するのは君の自由だ」
弁護士ねえ、本当かな?
嘘っぽいし、弁護士というよりも……。
私はハット帽を被った、弁護士とやらの目を見るが、目の光が獣目のような犯罪者の瞳をしてる。
感覚的に言ったら敵ねこいつ、それも殺人者。
私は、かつて先生から人相について教育を受けた。
「マリー、東洋や西洋問わず、人の生き方は顔に出る。例えば俺の目を見てみな?」
私が先生の目を観察すると、三白眼で黒目が小さくまつ毛も長く、目の形が三角形で鋭くてなんか目が据わってる。
「あ、えーと、強いし怖いです」
「俺の転生前の本来の目は、上三白って呼ばれ、蛇みてえな嫌な目付きって、兄貴達にも呼ばれた。人相学的にも、あんまり良くねえ人相だそうだ」
先生は、生き方によって目付きが変わるとか言ってた。
「舎弟に言われて気がついたが、本来の目つきの上三白だが、黒目がいつの間にか上向きの下三白に変わったそうだ。自分じゃわかんなかったけどよ」
要するに、生き方や思いで人の気持ちや思考が、目に出てくると言う話。
これは初歩的な話で、その人間が敵か味方かわかるだけでなく、思いや考えも読み取り、将来性までも読み取れる便利な手法とのこと。
「私の目はどんな感じですか?」
「あー、まだ自分を持ってねえ感じだな。目の奥底に確固とした光がねえ。だが、おめえさんはまだそれでいい。いずれは自分の光を見出すはずだ」
この目の話は結構重要な話で、先生クラスの人なら、目の色を見ただけでどんな人となりかわかるという。
私も、そのスキルについてはだいぶ身についた。
「抗争とか喧嘩に明け暮れるうちによ、俺の目つきは変わった。黒目が上か下かってだけの話だが、結果的に俺は上がり目になったって喜ばれたりしたっけか? 生き方で人の目は変わる」
「はい」
「目は口ほどにものを言うってのがある。それを見極めるだけでも、今後取るべき心構えは違ってくるわけよ。よおく覚えておけ、まずは相手の目を見ろ」
そして、今応対する男の目を私は見た。
こいつは敵だ。
ただ敵の出方を見るのも、必要。
私はヴィクトリー大使館の男達を見据える。
「わざわざ私のためにありがとうございます」
「あなたのためではない、ガールよ。アレックス・ロストチャイルド・マクスウェルはどこに?」
なるほど、アレックスって子が目当てなわけね。
おそらくは私の騎士団が、イリア共和国に働きかけをしたんだろうけど、財団もその動きをキャッチしてて、アレックスを狙ってるって感じだろう。
「ああ、そういう事ですか。まずは我々の身柄を保証し、弁護していただけると嬉しいのですが?」
「うるさい小娘だな」
弁護士と名乗った男が、小型のピストルを私に向け始めた。
「き、貴様! この少女マリーは私の扱ってるガラだぞ! 武器を下ろせ!」
市警察のおじいちゃん刑事が、自称弁護士を静止させようとしたら、おじいちゃん刑事へ男は躊躇なく発砲し、銃撃が響き渡る。
「小娘、二度は言わん。アレックス・ロストチャイルド・マクスウェルはどこだ?」
同時に警察署内は、あちこちで銃声が響き渡り混乱状態になって、おじいちゃん刑事は、私を逃がそうと腹部から出血しながら男に飛び掛かる。
「早く逃げろ、お嬢ちゃん。俺が食い止めているうちに」
「邪魔するなジジイ!」
自称ヴィクトリー大使館員が、おじいちゃん刑事のこめかみにピストルを当てた瞬間、私は男達を殴り飛ばして、回復魔法で刑事を回復する。
「痛みが……消えて……君は?」
「……大丈夫、じっとしてて。悪は、この場で滅ぼす!」
自称、大使館員と弁護士を右拳で殴りつけると、金属音がしたが、こいつらサイボーグだ。
人体を機械化して強化した、戦闘員だろうけど相手が悪かったわね。
「小娘、貴様何者だ? 我らを生身でダメージを与えるとは、只者ではないな」
「あんたこそ何者よ? 答えてくれる?」
嫌な顔で男達は笑い出し、背広を脱ぎ捨てると全身武器の塊のような戦闘機械の体を見せつける。
「小娘が殺すぞ!」
刑事課の警官隊が一斉に男達に発砲したが、銃撃は跳ね返され、自称弁護士は頭に被ったハット帽を警官隊に投げつけた。
「逃げて!」
嫌な予感がして私が叫ぶも、ハット帽のツバは硬質化した金属のようで、何人かの警官隊の首を刎ねて、手足を切り裂き、ブーメランのように男の頭に戻った。
「次は貴様の番だ小娘!」
「よくも罪もなき人々を!!」
私は、久しぶりにヘイムダルの力を発現し、着ていたスーツは異空間に一旦収納され、私の胸に黄金に光輝く胸当て、肩甲、手甲、腰当、膝当、足甲が次々と装着されていき、鎧には今までと違って、背中に黄金に光り輝く羽根がつく。
頭に光り輝くカチューシャが装着されると、耳を覆い、アゴまで伸びて急所をガードするヘッドギア、いやヘルメットのようになり、今まで以上の力が湧いてくる。
そして首に、ピンクゴールドを細工したような、中心にルビーが入った薔薇の形のペンダントトップが再び具現化した。
「……なんだ!? お前は!?」
男達は驚愕の眼差しで私を見て、階段を駆け登って……なぜかわからないけど、あの女刑事をお姫様抱っこしたイワネツさんや、アレックス君達がヴァルキリー化した私の姿を見る。
「ハラショー、久しぶりに見るな。お前のセクシーな姿をよ、マリー」
「で、伝説のヴァルキリー。やはりあなたは……」
私は、イワネツさんの方を向く。
「私は大丈夫。早く、避難させて安全確保を、勇者イワネツ」
「Да、俺の姫さま。民警共は俺に任せろ。ハッハー、楽しくなって来たぜえ!」
男達は私の方を向いて、腕を武器化した。
「な、何者だ娘。伝説のヴァルキリー像のような姿に」
「我々が臆すると思ったか?」
私はため息を吐きながら、魔力銃ルガーを向ける。
「あんた達のような悪党が、悪さするような世界はもう終わりよ。私は帰って来た、この世界に英雄達が残した思いを蘇らせるために!」
後編に続きます