第182話 ジッポン海戦の真実
ヴァルキリー達は首都ロマーノ警察署に身柄を移される。
ロマーノに居住記録があるものの、アレックスとジョンはテロ事件の重要参考人として、猥褻物陳列罪を犯したイワネツと共に留置場の房に入れられた。
一方のヴァルキリーは、取調べ室で憲兵達からの詰問に遭っていた。
「あなたの居住地と氏名、生年月日、職業を教えてください」
「黙秘します。ヴィクトリー大使館の人間や弁護士が来るまで、私は黙秘権を行使しますので」
女性捜査官からの取り調べに応じず、運ばれてきた紅茶をすすりながらヴァルキリーは応対した。
一方、留置場ではアレックスと同房のイワネツの打撃音が響き渡る。
房にはマシンガンジョーとマフィーオ達がおり、全裸で入ってきた新参者を笑いの種にしたら、逆にボコボコに殴られてしまう。
「俺をなめやがって! 口の利き方に気をつけろ、畜生共」
何度も金属音が響き渡り、マシンガンジョーの鋼鉄の頭蓋骨の中身の脳が激しく振動して、生命の危険を知らせる警告音が脳の中で鳴り響き、ジョーは悲鳴を上げた。
「ぎゃああああああ、すんません、すんません、すんません、やめてください死んでしまいます」
自分がやられたマシンガンジョーが、赤子扱いで殴り飛ばされるのを見たアレックスは、あらためて織部憲長、勇者イワネツの強さを実感した。
イワネツは騒ぎに駆けつけた市警察の看守の襟首を、鉄格子から両手を伸ばし掴みかかる。
「おう、民警。同居人のクソ共に俺の流儀を叩き込んでいるだけだ。とりあえず服と飯を寄越せ、房の鍵もだ。このホテルはソ連と違って、寒くねえし毛布もあるから気に入った。ここをしばらく俺の家とする。いいな?」
「は、はい!」
ーー留置場を家やホテル代わりにしてる……
アレックスとジョンは、伝説の勇者の無軌道振りに絶句し、イワネツはフンと鼻で笑うとロシアンスクワット、いわゆるうんこ座りをして牢名主のごとく房で君臨する。
「すごいですね、さすが伝説の勇者」
「まあ慣れたもんよ。お、服が投げ入れられた。チッ、ジャージかよ! しかもセンスのかけらもねえボロじゃねえか」
イワネツは、房に入れられたネズミ色をした囚人用のジャージに着替えて、食事が来るのを待つ。
「実は聞きたかったことがあります」
「なんだアレックス」
「ジッポン海海戦の謎です。あなたはジッポン中京にいたはずなのに、突如としてジッポン海からウルハーンの船団を急襲し、壊滅状態にしてハカダ湾を占領したと歴史書にありました。どうやって中京から、いきなり八州海上の限界灘に?」
300年前のジッポン史で大いなる謎の一つ。
いわゆる北ジッポンをイワネツは統一し、征夷大将軍松平家康、後の徳河家康の幕府軍と織部家臣団は迫り来る南軍を迎え討つために、北ジッポンの枇杷湖、中仙道沿い多津周辺に布陣。
大軍で攻め入って来た南軍と、睨み合う状況だったが、南ジッポンへ加勢に加わるはずのウルハーンの船団が、突如として現れた勇者イワネツに急襲され壊滅的な打撃を受ける。
南ジッポン最大の貿易港博田を単独で占拠し、北ジッポンに派兵した南朝幕府を大混乱に陥れた件。
「おお、それは龍のおかげだ。当時西側でアヴドゥルって名前だったあいつは、俺を空飛ぶ魔法船に乗せてくれたのよ。あいつは筋金入りの海賊だったからな」
「虹龍国際公司の初代CEOが、海賊……ですか」
「ああ、この世界の英雄と呼ばれた野郎らは筋金入りのワルが多い。俺だって元盗賊だし、ジローは遊び人集団の元大幹部で、デリンジャーはギャングの頭、あの野郎はヤクザだったが、それは今もか。俺の話を少しだけしてやる」
アレックスに、イワネツは勇者として覚醒した最初の話をアレックスに語り始める。
「勇者をやる前の昔の話だ。俺は、地獄の罪人、犯罪者ってやつでな。その前の人生は、はっきり言ってクズの部類だ。ソ連という国家で生まれた俺は、生きるため、クソみてえな国をぶっ壊すためになんでもやってきた。恐喝、強盗、殺人、強姦、売春斡旋、麻薬の密売に武器の密輸、文字通りなんでもな」
嘘や誇張した話でないことは、マフィーオ達やマシンガンジョー達も実際に暴力を受けてわかった。
この人間は自分達と同様、闇の世界に身を置いて、自分達よりもはるかに上位の犯罪者であると。
「史上最悪の盗賊団の頭領たる、ヴァーチェスラフ・イワンコフが俺の昔の名前で、恐怖のイワネツとも裏社会の皇帝なんて呼ばれたりもした。言うならクソ山の上のクソの大将ってわけだ。かつての地球と呼ばれる世界は、俺の流したブツと手下の暴力や犯罪にビビり上がっていたわけだ」
「だがあなたは正義に目覚めた。東方見聞録で当時のジッポン大使だったアントニオが、その記録を残してました。伝説の王ジローとの出会いであなたは正義に厳格な男になったと」
イワネツは、指二本を檻の向こうの看守に向けると、おそれをなした看守は急いで房を開けてタバコを差し出した。
「正義か、くだらねえ。正義なんてものは、世界や時代によって変わる。時の権力者が弱者を虐げるための方便に過ぎねえ。俺にとっては盗賊の掟が全てだった。俺は掟に遵守した上でムカつくやつから殴って奪う。だが……」
イワネツは指で摘んだタバコを口に咥えると、魔法の力で火を着けて鼻から煙を吐き出す。
「おい、灰皿がねえよ。俺の部屋が汚れちまうだろうがよお」
声をかけられたマシンガンジョーは跪き、鋼鉄の両手を差し出し、当然のようにイワネツのタバコの灰を受け止める。
「俺をこの世界に送り込んできたのは、女神ヘルとかいう冥界の女神で、俺に世界を救う勇者をやれって言われた。意味わかんねえよな? 世界が震え上がる盗賊の俺様に世界を救えってよお。だが俺はその誘いに乗った。俺よりもクズな野郎が勇者をしてたんで、俺の方がうまくできると思ったのさ」
「それは一体誰ですか?」
「世界最大の暴力団を率いたヤクザ、シミズマサヨシだ。やつは俺がいた地球世界で最悪の部類のクズ。金しか頭にねえようなよ。だがそいつは信念を持った。そして俺はその生き方も悪くねえとも思ったんだ」
勇者マサヨシが、世界最大の暴力団の頭領。
ジョンは、なぜそのような極悪人が改心してヴァルキリーを導いたのかや世界救済を任務としたのか、理解ができず首を傾げる。
「けど、そこまで人間は変われるものなんすかね?」
「なんだ小僧? お前は名前を聞いてなかったが、名前なんて言うんだ?」
イワネツが吐き出した煙が、自分の房にも入ってきたためジョンは鬱陶しく手で仰ぐ。
「俺はジョンです、一応医者目指してます。世の中の役に立ちてえんで。あとタバコは健康によくねえですよ?」
忠告を無視してイワネツは煙を吐き出す。
「医者とはハラショー。俺も昔は女医を口説くのが好きでよ、偽の診断記録作らせて官憲を騙したことがあったな」
「えぇ……」
ジョンはイワネツの悪辣さにドン引きする。
カルテ改ざんは医者としての信念に背く行為で、彼のいた世界のソ連は、そこまで腐敗が進み社会が歪んでいたのかと思う。
「お前の話にも答えてやろう。人間は変われるんだ。そいつの心が正しければ正しい方向に。悪い方向に行けば際限無く悪くなる。アレックス、お前の祖父、アレクセイがそうだった。今はディヴィッドだったか」
「アレクセイ……黒騎士エドワードだった祖父の本名が、その……」
「ああ、アレクセイ・イゴール・ルーシーがやつの本名で、ルーシーランドのキエーブの王子だ。やつの一族はこの世界で差別されてて、その差別で王女だった妹が死んだ。マリーとクリソツだったらしくて、やつは、世界を憎んで滅ぼそうとした悪党だった。ヴィクトリーにスパイとして潜り込み、悪の限りを尽くした」
黒騎士エドワードは、歴史書でヴィクトリー王国元首をエリザベス一世と暗殺し、世界大戦を引き起こしたとされ、ヴァルキリーに討伐されたと言われている。
「しかしやつも、復讐心を道具で使われていただけだった。真の邪悪のオーディンとエムにな。情状酌量の余地はあった。やつは差別する人間達に復讐しようとしたのさ」
「祖父の過去が……そんな」
家族の過去を知り、アレックスはショックを受けて気持ちが落ち込み下を向く。
「けどな、やつは人生の終末に正しい道を歩んでいる。人生を壊してしまった多くの人々に罪の意識を感じていた。悪に立ち向かう勇気を、弱者を救おうとする意志をやつには感じた。それが最後にデイビッドと名乗ったやつが見出した信念だろうよ。正しい道を歩んでいる」
項垂れるアレックスの髪を、イワネツは乱暴に撫でながら、タバコの煙を吸い込む。
「俺は当時、人間としての正しい道に光を見た。俺の大事な兄弟分ジローは、人として男として、正しい道を歩みてえと願った。デリンジャーや龍も、正しい道を選ぼうとした。俺も人間として正しい事をしてえ、そう思ったんだ」
「だからあんたは、人と世界の救いの道を選んだのか? その……」
「イワネツでいいジョン。だから俺はジッポンを救うために戦った。世界を救うため、兄弟達やマリーと、ハーン共や神野郎や精霊、そしてエムとも戦った。気に入らねえやつを殴ったのさ、こう片っ端からよお。それは今も変わらない」
いつのまにか、看守達もマフィーオ達もイワネツの話に聞き入り始め、警察署地下の監獄全てを彼が掌握しはじめる。
旧ソ連の闇の収容所時代から、彼はこういった閉鎖空間のような場所で、己の力を示して信念を説き回りながら収容所内でシンパを作り、組織を拡大するのが得意だった。
「話を戻します。おそらく誇張されてると思いますが、あなたはハーンと南朝の船団、総勢50万以上の大軍団を、急襲したんですよね?」
「そうだ。龍の野郎がケツから奇襲してくれて、片っ端から俺は船を潰し回った。地平線を埋め尽くすくれえ船がたくさんいやがってよお。海の景観を損ねてたから焼き払ってやったぜ」
イワネツは、当時を思い出す。
「なんでさぁ! 帰れてぃどういうことやん!」
ジローを小型飛空艇でロマーノまで送り返すため、龍とイワネツは説得していた。
エムからの反撃で、ナーロッパ中に攻撃魔法が直撃し、ロマーノ連合王国内も多数の死傷者が出たためである。
「お前の国が攻撃されたらしい。お前は王だ。王ならば自分の国で傷ついた国民を、癒し、慰め、心を寄せてやらなければならん。子曰、為政以徳、譬如北辰居其所、而衆星共之。政を為すに徳を以ってすだ。お前は王として、まず傷ついた民衆達に徳を示すべきだろう」
中国の思想家孔子の遺した論語を交えて、龍はジローを説得する。
「ああ兄弟。来てくれたのはありがてえけど、お前はせっかく自分の国を取り戻したんだろ? じゃあお前は王として責任を果たすべきだ。お前を待ってる者達に、お前しかできねえことをしてやれよ」
イワネツは、ジローの肩に手を置き微笑む。
「わかったん。頑張りよー兄弟」
「おう、またな兄弟」
ジローは説得に応じ、小型飛空艇にてロマーノへの帰路へと向かう。
結果的に彼は、ジッポンの騒乱やその後の南アスティカ帝国との百鬼夜行とも環大平洋戦争に巻き込まれることなく、大戦で生き残る事ができた。
「さてイワネツ、もう間も無く我が船はジッポン海に到着するだろう。前の世界と同様の地理なら、我が船団に負けはない」
「ほう? 自信満々じゃねえか」
「クックック、そりゃあそうだろう。亜細亜の海は我が庭だったのだ。陸戦で負けた事はあっても、海戦で私が負けた事はない。お前もいるなら勝利は確実」
龍こと鄭芝龍は、江戸時代初期の東シナ海及び南シナ海の交易路を支配していた大海賊である。
海路と海流、島々に至る地理まで、頭脳明晰な彼は事細かに記憶しており、多くの船団を率いた彼の戦争の真骨頂は、海戦と上陸戦。
「なるほど海はお前の庭か、さすがは大海賊。そういや、お前、会社作るんだってな?」
「ああ、ネーデルランドやイギリスがやっていた、東インド会社のようなものを考えている。商船で自由に物と金を交易して、多くの人々を雇用する大会社だ」
「ハラショー、物流会社か。ならばお前、人の輸送路も仕切っちまえよ。俺の時代じゃ、空港ってのがあって空飛ぶ航空機の港があるのよ」
イワネツは、自分の時代の話を龍にする。
旅客機や貨物機が行き交う、空港システムについてだった。
「空路という概念か。だが、大型の空飛ぶ船など俺の魔力でも作れんし、運べる荷量や人間も限られるのでは?」
「確かにそうだが、これには最大の利点があるのさ。海を航行するのは時間がかかる。車を使った陸路もよお。だが、今こうして俺はナーロッパからものの半日超で来れるわけだろ? 空には障害物がねえ」
龍は、イワネツが言わんとする事を読み解き、デリンジャーとそっくりな笑みを浮かべた。
「なるほど、時間か。それが商いで使えるわけだな」
「そういう事よ。大幅な時間短縮になるから、その分の時間代をせしめちまえばいいのさ。時間はなによりも尊い、特に急ぎの要件ならば」
「ふむ、乾物にしないとダメな食料品の輸送にも向いてるか。決めたぞ、私の船団はこれより虹龍国際公司とする。空にかかる虹を飛ぶ龍が如くのような会社だ」
この世界の物流や航空路を支配することとなる、虹龍国際公司設立の生まれた瞬間だった。
「さあて、会社名決めたら社長さんよお、降りやすい高度を取ってくれや。見ろよ、あの海に蠢くゴキブリみてえな大船団。せっかくの夜明けで美しい景色なのに、海の景観を損ねやがる」
地平線から日が昇り、東の果てから太陽が照らし出すジッポン海には、海を埋め尽くすハーンの大船団が停泊中で、その船団の数、約5千隻。
軍勢はおおよそ50万、構成はハーン人指揮官1万、チーノ人45万、朝明人義勇兵及び軍属と水夫合わせて5万人。
その他9万人のハーン本隊、及び15万人のチーノ兵は、ジッポンにすでに上陸しており、南朝と共に北ジッポンへ攻め込もうとしていた。
「ふうむ、私が見るにこれだけの大艦隊なのに統制が取れているし、士気も高いな。見ろ、船の陣形を。大型旗艦を中心に輪形を描いている。おそらくこれは防御の陣だな。私の時代の円陣にも似る」
ハーンの艦隊は、100隻の旗艦を中心に補給船団や、小型の偵察艇のような艦船を恒星を回る惑星のように輪形に配置しており、水晶玉通信により大艦隊でも統制が取れているのだ。
「関係ねえ。中央のでかい船を空からぶっ叩く! 行くぜ、この勇者イワネツ様が片っ端から沈めてやらあ。畜生共を殴りに行ってくるぜ」
「付け加えると、ハーン共は他民族虐殺を掲げており、女子供を殺し回るような坏蛋。仁義もかけらもない操你媽だ」
「そうか、じゃあわからせてくるぜ。クソは水に流して沈めちまうに限る」
後世のチーノ旧7カ国が、それぞれ大幻史なる書籍を残したが、そのどれにもこのジッポン海海戦の記述があった。
ジッポン武将、織部憲長単騎が突如として大幻ウルハーンの艦隊に出現し、圧倒的な戦闘力と一方的な蹂躙で海軍の士気が低下。
ハーン本国や旧チーノ大皇国でも、ジッポン派兵の厭戦効果で、各地で蒼狼女神、緑土大蛇女神を信奉する騒乱が起きたと記述されている。
「月曜日は阿呆を殴り〜火曜日にクソ共を埋める〜♪ テュラ、テュラテュラテュラテュラテュララ〜♪ テュラテュラテュラテュ、ラ〜ラ〜♪」
ロシア民謡一週間の歌詞を変え、イワネツは龍の飛行船から眼下の艦隊まで飛び降りた。
連合艦隊元帥アラ・ハーンは、元帥室にて奴隷にしたチーノ人少女達を侍らせていた時、艦艇そのものが爆発したような大きな振動を感じる。
「な!? なんだこの揺れは!?」
アラ・ハーンは元帥指揮官を示す、てっぺんが尖った独特の形状の帽子、金の将軍帽子を被り、地球世界のモンゴル民族衣装デールにも似た、光沢がある青地に狼が刺繍された軍服を、突き出た下腹を隠すように急いで着用する。
甲板に上がると、木材が飛び出て、鉄板がひしゃげた甲板に降り立つ、真っ赤な特攻服を着用した男の姿。
金属バットのようなアマノムラクモを装備しており、兵達から弩や刀を向けられている状況。
「我が名は、ジッポン討伐連合艦隊元帥、アラ・ハーンである。貴様何者だ!? ジッポン人か!?」
男はニヤリと笑い、アマノムラクモをアラ・ハーンに向ける。
「お前がハーンの司令官か。俺の名は勇者イワネツ、またの名をジッポン織部当主、織部憲長だ。俺が来た理由はな、恒久平和を乱すお前らハーンをぶっ潰しに来たわけよ。クソ共、覚悟はできてるな?」
「織部……憲長……イワネツだと? 兵共、この痴れ者を殺せい」
弩の毒矢が一斉掃射されるが、イワネツの筋肉で全て跳ね返される。
「野蛮人共が、いきなり俺にこんなもんで攻撃して来やがって。わからしてやるぜ」
イワネツは一気に飛び上がり、弩や迎撃魔法の射程外の高空で艦隊を見下ろす。
アマノムラクモを背中に背負い、ロバートからの支援で得た七色鉱石製のピストルを取り出す。
「オーディンのブタ野郎への見せしめが必要だな。片っ端から沈めてやらあ!」
コルトガバメントに似たピストルは、魔力が流れるとイワネツの身長より長い、全長約185センチの巨大な対戦車バズーカ砲、RPGー29に変わる。
「俺のバズーカぶち込んでやる。チェチェンの山賊との抗争で使ったブツよ! くらえやあああああ」
イワネツが肩に担いで引き金を引くと、魔力で形成されたタンデムHEAT弾がロケット噴射しながら、眼下の艦艇を吹き飛ばす。
「な!? なんだこれは!? 攻撃魔法!? 矢を放て! 魔法や砲弾もだ! 者共早くせよ!! 全艦に我が指令を!」
上空へ矢や魔法砲弾が放たれるが、完全に射程外のため、逆に高空に打ち上げられた砲弾が他の艦艇を掠めたり、別の艦船に命中し始める。
「届かない!」
「またあの火球が飛んで、クソ! 補給艦が爆発したぞ、クソッタレ」
「化物だ! 奴は単騎で我らを滅ぼす気だ!」
イワネツは上空で片っ端からバズーカを放ち、ハーンの艦艇を沈めていく。
「届くわけねえだろ阿保。しかし、こいつは便利だぜ。一発撃って終わりのこいつが、少ない魔力でどんどんぶっ放せる。が、面白みがねえ」
イワネツは、前世でハマっていたシューティングゲームを思い出して、高度を下げてバズーカを発射した。
すると、矢や攻撃魔法がどんどん飛んでくるのをかわしながら、バズーカを二発、三発と大型艦船に撃ち込んで沈没させる。
「ハッハー! これだよこれ。STGはこうじゃねえとよお! おっとお、奇数弾が飛んできたぜ! チョン避けっと」
イワネツは紙一重で攻撃魔法をかわしながら、バズーカを艦船に撃ち込む。
「たまんねえなあ! ニューヨークのゲーセンでやり込んだゼビウ●やGunlock、グラ●ィウスを思い出す!」
旗艦に向けてバズーカを連発すると、船の竜骨が破壊されて船が傾き始めた。
「くそおおおおお朝明人め! 欠陥船だ! 旗艦が、傾いて、うわあああああああ」
「ぎゃあアアアアアア」
「お、泳げ、ぬわあああああ」
旗艦、青狼が浸水し始めてパニック状態が引き起こされたため、艦隊の指揮系統が寸断される。
「さすがに数が多いな。どれ、今度はボムで画面全体攻撃と行こうか……!?」
すると上空から、イワネツに矢と火炎魔法が浴びせられ、南朝側の武士団が跨った軍竜数100騎が海上に駆けつける。
「大鳥左近衛少将宗竜推参! 悪鬼憲長! 貴様の首置いてけやああああ!」
南朝八州鎮護の武士団がハーンの艦隊の援護に回り、突如現れたイワネツの首を獲りに、矢や魔法攻撃を弾幕のようにして攻撃し始めた。
「けっ、弾幕がきつくなってきやがったな。俺のボムくらえや!」
イワネツは両手に装備したパイルバンカーを、両胸の前でガツンと魔力を込めて叩くと、上空に暗雲が立ち込めて、雷鳴が鳴り響く。
「大嵐雷電」
魔法効果で海が大時化に変わり、大波が艦隊を飲み込み始め、竜に跨る武士団に次々と雷が直撃し始めた。
「ぎゃああああああ!」
「鬼じゃああああ!」
「雷がこっちに、うぐおおおおお」
八州の大鳥宗竜の大鳥家含む、南幕府も北朝及び北幕府という共通の敵がいるから団結している面があり、元々八州の大名達は大陸との交易の利権争いや農地の利権で対立する場合が多い。
南朝側の武将達は、西国派の元葦利家郎党とハヤテの末裔の八州派に分かれており、西国派を内心疎ましく思っていた。
特に八州派の大鳥、細河、嶋津、竜蔵家のハヤテと呼ばれる、ドワーフ族の血が濃いもの達については、闘争に長けており、南の琉庵国を領有化するためシノギを削っている状況である。
「こげん雷など効かんばい! 貴様の首寄越せええええ! バカ助があああああ!」
大鳥宗竜は、軍竜を駆りイワネツの首を刎ねようと太刀を振り下ろす。
「お、オプションが来たぜ」
イワネツは振り向きながら、裏拳を繰り出して大鳥の顔面を吹き飛ばし、東洋竜にも似た軍竜に跨る。
「ハッハー、パワーアップだクソ野郎共。オラオラ、スコアカンストさせてやる!」
軍竜の炎のブレスが、大時化に飲まれる艦隊に放たれ、容赦なくイワネツの爆熱魔法のレーザーが、大小の船を貫く。
マリーク戦士団の空飛ぶ旗艦飛虹から、龍が上空からホルスの目を装備して海域ごと嵐に巻き込まれた様子を眺める。
「まるで大嵐、いや超自然現象と言うべきか。奴が味方で心底良かったよ。野郎共、海盗の時間だ! 魔法戦用意! ハカダを占拠するぞ」
「是,老船首! 大嵐から港方向に逃れる艦船を攻撃せよ!」
龍の飛空艇が、眼下の艦船に魔砲を撃ち込んでいき、戦闘開始10分も経たずに、ハーンと南朝の海上戦力の損害は以下の通り。
旗艦、青狼航行不能
金剛級司令艦40隻撃沈
同司令艦40隻航行不能
熊級戦闘艦 200隻撃沈
同戦闘艦1000隻半壊又は航行不能。
象級補給艦2000隻航行不能又は撃沈
南朝側 軍竜武者240騎戦闘不能。
南朝側少将、大鳥宗竜討死。
連合艦隊は壊滅的な打撃を受けた。
「へ、陛下より下賜されし旗艦があああああ。化物だあああああああ!」
連合艦隊司令官元帥、アラカーンは波に飲まれて行方不明になり、イワネツ一人でジッポン海の海戦は勝利となり、細河家領地の博田港も制圧する。
「とまあ、こんな感じで俺の楽しいシューティングゲームが終わり、1時間もしねえで俺は博田港も占拠したわけだ。歴史の勉強の参考になったか?」
「えぇ……」
アレックスは、人智を遥かに超えた戦闘談を聞き、話を盛っているのではないかと懐疑的な見方をした。
「よくわかんねえけど、あんたはほとんど一人で、その悪の帝国と呼ばれた伝説のハーンの艦隊をぶっ潰したわけか? イワネツ」
「ああ。だが海域を熟知した龍がいなきゃ、多少制圧には時間がかかっただろう。慌てふためいたのはアルスランとクスノキよ。奴ら軍を引き連れてジッポン中京のでかい湖まで行軍の途中で、海軍全滅だぜ? どこの誰に喧嘩売ってるかわからせたわけだ」
「なるほど、それで急遽ハーンと南幕府連合軍が、中国大返しをして、八州に」
一報を聞いたアルスラン・ハーンは、イワネツの戦闘力に耳を疑い、クスノキは北朝侵攻軍を少数の浪党によるゲリラ戦に切り替えて、八州へ帰還したのを中国大返しと後世で呼ばれる。
「ぶっちゃけハーン共よりも、クスノキと参謀のマツナガが厄介極まりなかった。それと南朝ハヤテの戦闘狂共、特にシマヅな」
「マツナガ? 松長秀久ですか? 確かジッポンの武将でもマイナーだったような」
「いや、奴と黒多の知恵と狡猾さは手下にしたタコ、明知も舌を巻いてたよ。猿野郎と明知を俺の手下にしてなきゃ、ジッポンは統一出来なかったな」
タコと猿と聞き、アレックスはジッポンの伝説の武将、明知十兵衛光秀と、木下秀吉。
のちに勇者を継ぐ者とも言われた関白、中臣秀吉の若い頃であると察する。
「え、けど……ジッポン統一を果たしたあなたはその、明知に殺されたと歴史で」
「ああ、それについてはだな……」
警察署地下に、ロマーノ国家警察の浅黒い肌の女刑事が現れた。
「出ろ、被疑者共! 取調べだ。貴様らには黙秘権が……な!? なぜ被疑者が留置場でタバコを吹かしてる! これだから市警察はテーゲー過ぎていい加減っ!」
房の鍵を入手していたイワネツは、咥えタバコのまま、勝手に房から出てきた。
「なんだズベ? ホテルのルームサービスにしちゃ子生意気だぞコラ?」
「な!? なんだこいつ!?」
イワネツは女刑事を無理やり抱えて、お姫様抱っこして階段を上がってく。
「おう、お前らも出とけ。なんか面倒な予感がしやがるぜ」
「え?」
その時、警察署の建物から銃撃と悲鳴が沸き起こり、看守達も一人を残して警棒を手に階段を駆け上がる。
アレックスも房から出て、机に無造作に置かれていた鍵束を手に持ち、ジョンの房を開けた。
「アレックス、秘密結社か?」
「わからない。けど、考えられる状況としたら」
アレックスは、マシンガンジョーの方を向くと、彼は下を向いて俯いていた。
「ああ、口封じだなこいつらの。あのヴァルキリーと勇者なら問題なさそうだが」
「行こう、ジョン。僕らはジッポンでの任務もある。大学はしばらく休学だ」
「ちげえねえな。ヤベェよ……単位足りてねえし一族で初めて大学で留年しちまう」
ボソリとジョンが呟き、二人は警察署の階段をイワネツと共に上がる。
次回は久しぶりに主人公の一人称に戻ります