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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
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第174話 スーパーヒーロー

 ていうか、ヘラクレスってあのヘラクレスだよね、星座にもなってる、あの伝説の。


 うわぁ目があった。


「ほう? なかなかのメスがいるではないか! おいメスよ、俺様の子供を孕んでみないか! スーパーヒーローの俺の子を孕む栄誉を与えてやっても良いぞ!」


 ちょおおおおおおおおおおっと! 火の玉ストレート飛んできたこれ!


 どういう口説き方だよっての! 先生といい、女をなんだと思ってんだって。


 勇者って変な人しかいないのかしら。


 自分でスーパーヒーローって言ってるし。


 それにぶっちゃけ、筋肉マッチョマンとかあんま私の好みじゃないんだけど……。


 うわぁ、めっちゃガン見して来たし、目を合わさないでおいとこ。


 するとフレッドが私の前に立った。


 さすが騎士団長。


 騎士団とかも一斉にヘラクレスを取り囲む。


 あ、先生がヘラクレスと向き合った。


「ご苦労さんです! ヘラクレス様! お越しいただきありがとうございやす! 早速ですが手前の仁義切らせていただきやす。手前、このニュートピアを救うため、創造神様から救済命令を受け、稼業につきやしては勇者……」


「長い! 省略!!」


 先生の挨拶省略された。


 めっちゃ失礼すぎでしょ。 


「貴様の事など知っておるわ、たわけめ。一同、頭を垂れよ、上級神にして最強の俺様に対して! 勇者以外はもはや不要! 現地民以外のお前の手下共は帰らせよ! 目障りだ!!」


 先生もロバートさんも、とりあえず目配せして、膝をつき、私達もそれに倣う。


 先生は面倒くさそうに、用心棒のマサトさんにアゴで合図すると、先生が呼び寄せた組織の人達が退却していく。


「ようこそヘラクレス様。私はロバートと申しますが、あなた様の神殿が先祖の地シチリアにありまして、よく存じております」


「ほう、貴様は我がギリシア一帯に残した子孫か。時代が下り地中海の者共は多少ペルシャと混血しているようだが。雑種のくせに俺様を信仰すること、まずは褒めてやる」


 うん、めっちゃ偉そうだわ。


 傲慢という服を着て歩いてるような男だ。


 よかったわ、イワネツさんいなくて。


 いたら絶対に喧嘩になってる。


――ゼウスの息子、ありゃあやべえ力を持ってるな。普通の神を遥かに超えた完全な逸脱者だ。神の力と人間の力を持ってる半神半人か。強さだけで言うなら俺より上だな


 私の中にいるアースラが、ヘラクレスを見て圧倒されてる。


 ヘイムダルは沈黙を保ったままだけど。


「さあ現地民共よ! 早く敵の所まで俺様を案内しろ! ぐずぐずするな!」


――マサヨシのガキも堪えてやがるな。どれ、あいつの心を盗み聞きしてやる


 あ、そんな事も出来るんだ。


 じゃあ、私も。


(なんだこの野郎、大物垂れやがって。縄張り(シマ)荒らしかよコラ。一応面子は立ててやるが、俺の親分やゼウスの許可取ってんのかよ、この野郎。てめえも元は人間のくせして何様だこのクソボケ)


 うん、めっちゃ怒ってる。


 多分……ロバートさんも。


(ファッキュー、ぶち殺すぞゴミ野郎。親が偉大な神だからって威張りやがって。レディの口説き方すら知らねえのか原始人が! だいたいシチリアはもう、お前なんぞ信仰してねえよクソ野郎。俺の親分(カポ)は閻魔大王様で、信仰してるのは天にまします我らが主、創造主様や聖母マリア様に救世主イエス様だアホが。ドタマ吹き飛ばすぞ! けつ穴野郎)


 うわぁ、怖っ。


 普段すごい紳士な感じで優雅さを感じるけど、心の中がめっちゃ荒々しいわ、この人。


「すげー! ヒーローだ! 英雄ヘラクレスだ!! やべえよ、超クールじゃねえか、スーパーヒーローだ!」


 ん? 


 デリンジャーは別に彼に関して、むかついてもいないし、むしろカッコいいヒーローが来たと思ってる。


「そうだ、俺様はスーパーヒーローだ。なかなか殊勝な現地民だな、褒めてやろう。働きようによっては、褒美も考えても良いぞ」


「サインプリーズ! スーパーヒーロー! 俺の背広の裏側にサインしてくれ!」


「しょうがないやつだな。貸せ」


 なんか自然な感じで、背広にヘラクレスのサイン貰ってて、まるでプロ野球選手にサイン貰ってはしゃいでる子供みたいだ。


「なあ、なあ、ガキの頃聞いたんだ。あんたがやった試練で、メデューサとかネメアーのライオンや、ヒュドラ倒したって。ケルベロス退治とかマジなのか!?」


「本当だ。今思い返せば雑魚モンスターを討伐したに過ぎん。ケルベロスなんか、冥界で迷子になって飼い主探し回って泣いてたアホ犬だったがな、ガッハッハッハ!」


「すげえ! さすがスーパーヒーロー! あんたが来てくれたら心強いぜ!! 敵はオーディンとロキ、そしてエムとか言う野郎だ。手強い奴らだぜ?」


 ああ、デリンジャーは前の世界で、桃太郎や金太郎みたいな感じで、御伽噺に聞いてた英雄が現れたからって、こんなにはしゃいでるんだ。


「ふん、スーパーヒーローだぞ俺様は。この棍棒と弓で、どんな相手も俺様に平伏すのだ!」


 まるで野球のバットみたいに、でっかい棍棒をブンブン振り回すけど、一見してただの木で出来た棍棒の気がするけど、特殊能力とかあるのかな?


(何がスーパーヒーローだぞ、だボケナス。なんの魔法効果もねえ、ただのバットみてえな木の棍棒じゃねえかクソ野郎。なめてんのか)


……先生によると、やっぱただの木の棒らしい。


 マジで大丈夫なんだろうか。


 まあ力はめっちゃ強そうだし、身長もおっきくて、めっちゃ恵体だけども。


 すると先生が右手をパッと上げる。


「すんません、上級神様。二、三確認が」


「なんだ小僧? 確認だと?」


「お父上のゼウス様と、打ち合わせしたんですが、本来はクロヌスが現れた時に、ヘラクレス様にお力添え願う予定でした」


 あ、確か先生は反逆神討伐に、神様の世界に出向いて、打ち合わせして来たって言ってたっけか。


「うむ、それがなんだ小僧」


「あのー、召喚に応じるよう指輪をお渡ししたと思うんですが、つけてらっしゃらないような……」


「ああ、安っぽい指輪か。捨てたぞそんなもの」


 は?


「え、えーとすんません。ゼウス様との取り決めだったんですが……」


「くどい! 俺は俺のやりたいようにする!」


 うわぁ、先生が渡したあのアイテム、勝手に捨てたとかマジで言ってんのか、このスーパーヒーロー。


(はあああああああ? 全然打ち合わせと違うじゃねえかボケ! ざけやがってこの野郎、親分に掛け合って、てめえの親父からケジメ取ってやろうか!)


 ああ、先生内心めっちゃ怒ってるよ。


 ケジメ案件にするってブチ切れてる。


「ま、まあいいですわ。それで、この世界の派遣ですが。もちろんそちらのお父上や、自分の親分や、創造神様の許可とか取って、こちらに来ていただいたんですよね?」


「なんだ許可だと? そんなもんいらんわ。俺は上級神にして最強の勇者だぞ? 許可なんて一々いるか馬鹿馬鹿しい」


 ちょ!? 無許可かよ!


(このボケええええええ! ざっけんなコラ! 神界法違反じゃねえかこの野郎!! ただでさえこの世界、異界認定とか受けてんだぞ!! 神だろうが人間だろうが、偶発的に呼び出される以外、勇者は神の許可取って、スジ通してから世界救済ってのが大前提だろうがよ! うちら勇者や神の落ち度とかあったら、この世界の立場がやばくなんのに! てめえこの野郎、なんていう不祥事起こしてんだクソボケがああああああ)


 ああ……不祥事案件だそうだ。


 もう、なんていうか、帰って欲しいなこの神。


「いや、それは流石にまずいと思われます。ヘラクレス様、今からでも遅くないんで、お父上の許可取っていただければよろしいかと」


 ピシャリとロバートさんが、ヘラクレスを嗜めるが、鼻で笑ったヘラクレスは水晶玉を取り出す。


「ああ、親父? 俺様だが、天界に派遣許可申請出しとけよ。なに? なんか文句あるのかよ? そんな事知るか! 俺様がやれって言ったらやれ、命令だ」


 えーと、今通信してるのって、天空神のゼウスなんだろうけど、この人の方が役職下だよね?


 神様の世界の命令系統どうなってんのこれ。


「というわけで問題ない! そもそも法律なんぞ知るか、俺が法律だ!! わかったか人間共!!」


 いや、神様が作った法令無視とかやばいでしょ。


 傲慢とかそんなレベルじゃないってマジで。


(ゼウスのジジイ馬鹿野郎! てめえのガキの教育どうなってやがんだクソが。うっ、痛えよ……胃が痛え。前世で胃潰瘍になったみてえに胃が痛え。どうにかして帰らせるっきゃねえぞこいつ。こんなクソボケ押し付けやがってあのジジイ! ケジメだ、ぜってえケジメ取ってやるぞあのジジイ!)


 ああ……先生、胃を痛めてるわ。


 そしてゼウス神も先生のケジメの対象になってる。


「ちなみに貴様らに聞くが、敵はどの方向だ?」


「おお、さっそく力を見せてくれんのか、スーパーヒーロー!! 見てくれ、これが世界地図だ」


 デリンジャーは、世界地図を広げて敵勢力についてヘラクレスに説明する。


「なるほど、この南アスティカとやらに最も厄介な敵勢力がいるというわけか」


「ああ、大邪神テスカポリトカとエムってやべえのがいやがる。ぶっちゃけ、こいつらをなんとかしちまえば、俺らの戦いがかなり有利になると思うぜ? スーパーヒーロー」


「でかした人間よ。ならば俺様の力でそいつらを消してやろう」


 へ? 今から消すって……


 何すんだろう、このスーパーヒーロー。


「どれ、ちょっと待ってろ」


 ヘラクレスは、その辺の瓦礫を両手で掴み引き寄せると、力を込め始めなんか作り始めた。


 めっちゃ握力とかパワーすごいけど、いまいち何をしようとしてるかがわからない。


 まるで砂場で砂遊びしてる、小さい子の遊びみたいな感じだけど……。


「お前、そのエムとかいうやつの情報を教えろ」


 でっかい山みたいになった何かに、ヘラクレスが飛び乗り、なんか形作りながらデリンジャーにエムの情報を聞いてる。


「ああ、スーパーヒーロー。奴は地球出身で洗脳の技を持ってて、強さについては未知数だ。もしかしたら、オーディンもテスカポリトカもロキも操られてるかもしれん。それでこの世界を、アヘンみてえな麻薬まみれにする気だ」


「なんだと!? 他には!?」


「奴は、道徳も自分のルールも持たねえクソだ。殺しを推奨し、この世界を歪めてドラッグと殺人の世界にする気でいやがる。オーディンもだ」


「ふざけおって、俺様の絶対的なパワーでわからせてやるしかないようだな」


ーー何考えてんだ? ゼウスのどら息子め。俺の能力でも全然考えや思考が読めねえ。なんらかの魔法効果によるものか?


 えーと、アースラの力でもこのヘラクレスの思考が読めないって事は、先生達の冥界の魔法でも思考を読み取れないって事だわ。


 ん、今度は作った塊を粘土のようにして、巨大な人形に……全長10メートル、いやもっと大きい、何かの像?


 するとヘラクレスは、先生とロバートさんの方を向いて、めっちゃ睨みつける。


「貴様ら! 何をボサっとしておるか! この俺様のヘラクレス像を作るために手を貸すのだ!!」


 えぇ……このスーパーヒーロー自分の巨大像を作れとか言ってきた。


「……わかりやした、じゃあ自分の魔法で」


 先生は魔法で、空に聳えるくらいな高さ100メートルはあるヘラクレス像を作るが、なんか雑っぽくて怒られそう。


「もっとだ! もっとでかくしろ! スーパーヒーローの俺様が地上に降り立ったのだぞ! あと俺様のハンサム振りと肉体美を強調しろ! 貴様目玉がついてるのか小僧!!」


「……へい」 


(クソ野郎が、意味わかんねえっての。なんで俺様がこいつの像とかおっ建てなきゃなんねんだよ! ゼウスのジジイに後で建造費請求してやる)


(シィット……まるでそびえ立つクソ山だ。何が地上に降り立っただ。呼びもしねえで来やがってファック野郎。兄弟、事故に見せかけてこいつぶっ殺すか?)


(クソ、全然こいつの考えが読めねえ。冥界魔法が通じない? なんなんだこの野郎。兄弟、多分俺やおめえよりも強いから隙見て、因縁(あや)つけてケジメとるふうに持ってこうや)


 勇者二人も、なんか逆らえない感じで命令されるまま、なんか墨田区にあるスカイツリーみたいな感じで、全長数百メートルを超える像が、先生の魔法で出来上がったけど、何をする気なんだ?


 すると舌打ちしたヘラクレスが、先生のほっぺたビンタした。


「ブべらっ!」


 あまりの威力で先生が空中で、縦に何度も回転しながら三メートル以上吹っ飛ばされ、頭から地面に叩きつけられた。


「後輩のくせに仕事が遅い! 小僧!!」


 うっわ、めっちゃ理不尽すぎる。


 傍若無人すぎるこのスーパーヒーロー。


 パワハラとかそんな次元じゃないよこれ。


 先生が今のビンタで泡吹いて失神し、ヘラクレスの力でロバートさんも真っ青な顔になってる。


「兄弟、しっかりしろ! 兄弟!」


 前世で暴力団って呼ばれた人達を、暴力で黙らせちゃった。


――マサヨシのガキ一発でのしちまうとか、ゼウスのどら息子やべえな。伝説の大魔王テュポーン封印した時の、全盛期のゼウス以上のパワーだ。


 例えがよくわかんないけど、全盛期のゼウス神を超えた力を持ってるようだ。


「はい、親分(カポ)、明確な越権行為です。はい、かしこまりました。手間をおかけして申し訳ございません」


 ロバートさんが水晶玉を取り出して、どこかへ連絡している。


「これで俺様の身姿がこの世界に轟くであろう。ガッハッハッハ!」


 ああ、ロレーヌ皇居跡地に巨大像がそびえ立っちゃったよ、ロバートさんの心の中いわく、そびえ立つクソ山が建っちゃった。


 するとヘラクレスは、右手の人差し指を突き立て手を挙げた。


「ひれ伏せこの世界の現地民共よ! この俺様、スーパーヒーロー、ヘーラクレースを崇めるがよい!」


 無茶苦茶だ。


 私達に自分を崇めるよう命令してきたわ。


 すると、夕陽が差し込み神々しくヘラクレスを照らし、その姿に私とフレッド以外の騎士達も自然と膝をついて呆然と見上げてしまい、多分、生まれ持った神性とかカリスマ性が、ハンパなく高いんだろう。


 先生すら力が及ばないヘラクレスが、この場を完全に支配してしまう。


「す……すげえ。ハンパじゃねえカリスマっぷりだ。スーパーヒーロー……だが……シミーズは俺の仲間なんで今の暴力はよろしくねえ……」


「ハッハッハー! そうだ! なんて言ったって俺様はスーパーヒーローだからな! では早速、俺様の像を悪の大陸とやらに突き立ててやろうか!」


 話聞いてねえな、このスーパーヒーロー。


 ヘラクレスは、デリンジャーの申し立てを無視して、満足そうに像の左足に左手をかけた瞬間、数万トンを軽く超えてそうな巨大なヘラクレス像が、フワッと持ち上がる。


「は?」

「えぇ……」

「嘘だろ」


 そして巨大な像を軽々と、垂直に浮かすように投げると、両手で棍棒を振りかぶり……筋肉が膨れ上がって、えっとまさか……。


「そおれ、行くぞ神に逆らう愚か者共! ゆけい、俺様の分身!」


 一本足打法で、巨大なヘラクレス像をモデルになったスーパースターがかっ飛ばす。


「何してんの!?」

「ワァッツァ、ファッ!?」

「ホーリーシッ!」


 像は白熱しながら、空の彼方に消えていった。


 まさか、もしかして。


「ふははははは、この質量ならば、俺の像が建つ先は焦土と化すであろう! 滅びろ悪めが!!」


 やっぱりいいいいいい。


 打ち合わせもなく、勝手に敵に先制攻撃し始めたよ、このスーパーヒーロー!


 あんな巨大建築物が、空から降ってきたら落下先はきっと酷いことになってる。


「どおれ悪め、次は超流星群(スーパースター)を受けるがいい!」


 ヘラクレスが棍棒を地面に突き差すと、大地が揺れ、あまりの力で地面が割れ、土砂が舞い上がり無数の瓦礫や岩が宙に浮かぶ。


「ハッハッハー!」


 割れた巨大な地面の岩盤を、フリスビーみたいに南アスティカ大陸の方角に次々と投げつけ始める。


 力が強いとか、そんなレベルじゃない。


「ぬうりゃあああああ」


 今度は戦いで壊れた、ロレーヌ皇居の塔部分を、いともたやすく片手で担ぎ上げて、槍投げみたいに投げ飛ばし、長さ10メートル以上ある石造りの塔は真っ赤に白熱し、弾道ミサイルを超えたナニカと化して、一瞬で空の彼方に消えていく。


「ふうむまだ足りぬな」


 ちょ……まだ足りぬって何が!?


 多分、エムのいる大陸、めっちゃ酷いことになりそうだけど。


 ヘラクレスが今度は、背中に背負った簡素な弓を左手に持って、矢を何本もつがえて猛スピードで矢を放ちまくる。


「俺様の必殺の矢をくれてやる!」


「ス、スーパーヒーロー? まさか矢にはあの伝説のヒュドラの毒とか塗ってあるのか!?」


 えぇ……毒矢を射ちこんでるの?


 しかも大量に射ちまくってるし。


「そうだ! 伝説のヒュードラ・レルネの毒矢よ!! 触れただけで生物ならば一撃、山は崩れ木は枯れ、水源は汚染され、一帯の悪は滅びる!!」


 無茶苦茶だあああああああ!


 このスーパーヒーロー、無慈悲すぎる。


 やばいよ、いくら敵だからって大量に人が死んじゃうし、自然破壊されまくって逆にこの世界が滅びちゃうっての!


時間停止(ストップ)


 私は鎧姿になり、時間を停止して空を飛び、大量の矢を捕捉する。


――戦乙女よ、アレはモンスターの猛毒が塗られた矢。矢の一発で、数百万もの生物が殺傷できる代物。生物毒を解除するのは炎の魔法を。


「わかった。極焔光波(ブレイズ)


 私の中にいるヘイムダルの言う通りに、アースラの魔力を込めて、極高温の炎の光を具現化する。


 ヘラクレスの矢を消滅させた。


「ぬう!?」


 げっ、時間停止が解けてヘラクレスがめっちゃこっちを睨みつけてくる。


「おいそこのアマゾネスのようなメス! なぜ俺様の矢を消したっ! 場合によっては利敵行為と見做して殺すぞ!」


「メスじゃなくてマリーです! 私達の目的は世界救済! 大量殺戮や自然破壊なんか望んでません!」


「なにい!?」


 うわぁ、めっちゃこっち睨んでる。


 威圧感や迫力が先生やイワネツさんを超えて、人間すら超越した化物。


「現地民のくせに俺様の決定に従えないとは、どう言うことだ! 俺様のやる事は全て正しいのだ!!」


 ああ、彼は……悪の独裁者かもしれない。


 確か先生とロバートさんに、独裁者の特性と前世の失敗談も交えながら、独裁者とはどういうものか、習った気がする。


「マリー、世界を救うにあたって気をつけなきゃならん事がある。世界を救うものは決して独裁者にはなっちゃいけねえ。独裁者ってどんなやつかわかるか?」


「いえ」


 その時の私は、歴史上の独裁者と呼ばれる存在、ヒットラーとかイワネツさんが言ってた共産圏の独裁者、スターリンやレーニンくらいしか知らない。


 民衆を虐げ、敵対するものがいれば躊躇なく排除し、恐怖で人々を支配する感じだろうと、漠然とイメージしてた。


「まず、独裁とは一人の個人に権力が集中して、裁量権を独占してる者をいう。古くは共和制ローマ時代に終身独裁官となったユリウス・カエサルが有名か。近年ではファッキンナチや、クソファシストだったり、前世のチャイナもそうだな。そして私がいたイタリアのコミッションを除く、闇社会の組織も」


 ロバートさんが言うの様に、たしかに日本のヤクザな組織は、一番トップに組長である親分がいて、その下に弟分や子分がいる組織体制になってて、権力が集中してるから、独裁者になりやすいのかも。


「名親分って言われてる人らや、戦国大名にも言えるが、看板の親分がどかっと構えて、優秀な子分がてめえの裁量で比較的自由に動け、末端が幸福を感じるのが理想よ」


 あ、うん確かに。


 その方が親分は自分の仕事に専念できて楽だし、子分も達成感があると私は思った。


「だがな、人間が金や手下が集まり出して権力を持つと、中には独裁を始める野郎もいる。この野郎が確固たる目的意識を持ち、組織や社会にプラスになりゃあいい。だが私利私欲に走って、道理を失った場合は悲惨だ。子分だけに我慢を強いて、下の奴らの気持ちを裏切り続ければ……転生前の俺みてえに神戸港に沈められるってわけよ」


 ああ……なるほど。


 先生は上に上り詰めたけど、私に走って多くの人を不幸にした。


 組織を幸福にすることが出来ず、暴力を振り撒き、自分の快楽だけを追求した結果、最後は自分も不幸になった。


「マリー君、元々はジンバブエのムガベも、白人差別の国を変えるため、故郷の幸福を願った青年だった。故郷の幸福を目指す勤勉な学生が、かつてのカンボジアのポルポトだった。そしてあのヒットラーだって元は美学生で、美しさを追求しながら、第一次大戦で多くの戦友を守った下士官だった。だが、権力を得た彼らは……悪に墜ちた」


「ああ、人は立場によって変わる。時代によっても、環境によっても。だが悪の独裁者や、魂が魔に堕ちた魔王が現れるのはなぜだと思う?」


 なんでだろう。


 彼らは元は善人だったり、ついてく人たちがいっぱいいて、リーダーシップが優れていた筈なのに。


「人を恐怖とかで威圧して、考えを奪って楽に動かそうとしたからですか? 自分が楽になるために」


「それもあるが、その前の段階も問題がある。独裁者を支持する奴らが忖度しまくって、その国や世界の奴らも考えることを放棄したからだ。一人の個人を英雄や救世主と祭り上げ、当の本人は、自分が持ちうる器量を超えた金と権力や裁量を手にし、自分がなんでもできるとか思ったから、狂っちまったのさ」


 つまり最初から悪人じゃなく、ごく普通の人でも権力を持つと、独裁の原理に囚われてしまう可能性があると言う事らしい。


「うむ、これも心理学の一種でな、スタンフォード大で行われた実験に、監獄実験なるものがあった。囚人役と看守役にグループ分けにして行動観察を行う実験だ。この看守役は権力を与えられた事で、囚人役を虐待し始め、囚人役は思考を奪われた状態になったのだ。ついには囚人役への殺人にまで発展しそうになり、実験は中断された」


 なるほど権力は、人を狂わせるか。


「これは、我らが救う社会の縮図でもある。我々世界を救うものは、確固たる意志を持ち、弱者を救わなければならない。決して力に溺れず、なおかつ自分の生き方を貫ぬき、人々に救いの道を示さねばならないのだよ」


 だから上に立つ者は、自分を律さなければならないとは、そういう事なんだろう。


「それにトップは孤独を強いられる。重大な決断を強いられる場面になったら特にだ。だが、そういう時に周りの奴らを頼れる余裕を持ち、頭を下げて意見を求める器量を持たなきゃいけねえ。それができねえと、行き着く先は独裁者のワルだ」


 そう、人間性を磨かず、人の気持ちに鈍感になり、自分だけの我を押し通そうとすれば、それは世界を救う英雄などではなく、独善的な独裁者になってしまうんだ。


「そうだ。だから俺たち勇者は、独裁者にならねえために、視野を広くして、己の確固たる信念を持たなきゃいけない。おめえさんは信念を持ったかい?」


「はい、私の場合はみんなも自分も世界も楽しく、生きていく事ができる世界に。悪い事以外は、その人の生き方が尊重される世界を目指したい」


 先生とロバートさんは頷き、自分達の信念を私に示す。


「そうだ。自分以外の他者を助けるための尊き想いを、世界に美しさを見出し、義理人情と世を愛することが人の世だ。だがこれをさせねえワルがいて、世界が人間として当たり前の世の中を営めねえなら、弱き者の盾となり、刃を強いワルに突き立てる」


「その通り。人が当たり前の生存する権利を享受する事は、侵してはならぬ永遠の権利だ。その人々の権利を奪う奴を絶対に許しちゃいけない! その悪に、その世界の人達が立ち向かえないのならば、神の名の下にその悪を滅ぼす。なぜならば、救いに行く世界に、人の美しさも、善なる想いも少しでもある限り、我々名誉ある勇者は不滅で、悪は必ず滅び去るものだから」


 先生とロバートさんには、確固たる勇者の信念があった。


 私は勇者の弟子として、かつて勇者と呼ばれた彼に確認しなきゃならないことがある。


 ヘラクレスに勇者の信念と、想いがあるかどうか。


 それがなければ、こいつは……勇者じゃない。


「私もまた勇者の道を目指しています。この世界の人々を虐げる悪から、人間として生きていく世界を取り戻すのが私の今の生き方。あなたの神としての指針と、かつての勇者としての信念を聞かせてください」


 ヘラクレスは、首を捻ったあと地面に唾を吐く。


 そして弓を私に向ける。


「俺様が活躍して、救ってやった現地民に俺様をスーパーヒーローと崇めさせる! それがスーパーヒーローだ!! だからお前ら現地民は俺に従うのが道理」


「それは世界を救って貰えれば、私達はありがたいと思う。けど、私達を導くあなたは人をどう思ってるんですか?」


「知るか。俺は俺が活躍する場面を作れればいい。お前達人間は屠殺される寸前の、家畜に過ぎない。俺様が役に立つ肉に過ぎん!」


 こいつはやはり勇者じゃない。


 人から屠殺される動物だって、私達は感謝しながらその生を、命を尊ぶのに、命を、私達人も軽んじてる。


「あなたは、ただの自己満足の塊で、独善的な悪の独裁者だ。スーパーヒーローなんかじゃない」


 私はヘラクレスにギャラルホルンを向ける。


「弓を下ろしな、自称スーパーヒーロー。あんたに憧れてたのに、幻滅させやがって、がっかりだ」


 デリンジャーは、マシンガンを具現化させてヘラクレスに銃口を向け、私の騎士団も武器を向け始める。


「彼女は僕が守る大好きなお姫様だ。お前みたいな子供じみたやつなんか、ヒーローでもなんでもない」


 フレッドに言われたヘラクレスは、顔面が紅潮して筋肉が肥大化して、棍棒を手にする。


「現地民のガキ風情が、スーパーヒーローを否定しやがって。屠殺してやろうか」


 来る……!


 戦いが始まろうとした時、空が割れて私達を見下ろす人影が二つ現れて……アレはっ!


「ゼウス殿、やはり御子息は……」


「馬鹿者め、やはり貴様を上級神に取り立てたのは間違いじゃった。かつて人々と己の家族のために世界を救ったこやつは……力を過信し傲慢になりすぎた」


 閻魔大王と多分最高神の一柱、ゼウスだ。


 あんな上から目線な報告したから、きっと怒って出てきちゃったんだ。


「親父!」


 ゼウス神は、左手に持った杖でヘラクレスの溢れ出るオーラを吸い取り始め、右手の人差し指にその力を、私のする召喚の指輪に込め始めた。


「お前のヘーラクレースの神名も、神通力も剥奪する。アルケイデス、我が子よ、これは試練じゃ。お前が本当の勇者としての心を取り戻し、この世界が救済されるまで、お前を神域オリンポスから追放する!」


「そんな!? 俺様はスーパーヒーローだぞ! かつて数多の世界を救い、化物共を打ち倒し、業績と威光が多くの次元世界で伝えられ、伝説となったのに!」


 追放されちゃったよ、このスーパーヒーロー。


 ある意味、ざまあな展開だけど、なぜ私の指輪に、さっきのヘラクレスの力を?


「勇者としての道を、今まさに歩もうとする乙女よ。我がゼウスの名において、こやつの力を指輪に封印した。こやつの力をどう使おうが、決定権はお主に委ねる」


「あ、はい」


「馬鹿息子め。今のお前に、かつての人間としての力だけは残してやる。なお世界救済の決定権は、依然女神ヤミー及び勇者マサヨシにあり。すまぬが乙女よ、この馬鹿息子を頼む」


 ゼウスと閻魔大王は、空の彼方に消えていき、呆然と空を眺めるヘラクレスがその場に残された。


「おい」


 ヘラクレスに失神させられた先生が目を覚まして、ジャンプキックを繰り出してヘラクレスを吹っ飛ばす。


 地面に倒れたヘラクレスを、後ろからロバートさんが首にワイヤーをかけて思いっきり締め上げた。


「ぬぐおおおおおお、貴様らああああ! 俺は先輩でスーパーヒーローだぞおおおおお!」


「何が先輩だファック野郎が! ゼウス神の処分が終わってもよお……」


 首を締め上げられたヘラクレスに、先生がブーツのつま先で思いっきり蹴りまくる。


「俺へのケジメ終わってねえぞクソボケ! 何がスーパーヒーローだオラァ!! ヤクザなめやがって、ぶち殺すぞボケえええええ!」


 ああ、うん……まあそうなるよね。


 こうして、スーパーヒーローとやらが私達の救済の旅に加わったわけだけど、そう簡単に人間が生まれ変わるわけもなく、大きなトラブルメーカーを私達は抱えることになった。

次回は三人称、敵勢力について場面が変わります

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