第171話 白鳥勇者の召喚魔法
「黙れええええ! その顔で、その声で俺を否定するな!!」
カオスと化した黒龍の胴体から、無数のアンデッドの群れが湧き出し、マリーを襲う。
「ウンディーネ、終わらせましょう。彼の伝説を」
マリーは召喚した水精霊ウンディーネの精霊魔力を帯び、メタリックブルーに輝く鎧姿となり、アンデッドの群れに魔法を放つ。
「地上じゃ絶対使えない魔法、水の分子を発生させて風の魔力で周囲の原子の運動をゼロにする、大魔法……絶対零度!」
マイナス273度まで冷やされた空気が、無数のアンデッドを凍結させ、カオスドラゴンの胸部までの氷の一本橋が構築される。
「私が向かう道が出来たっ!」
先端を極高温の光の刃にしたギャラルホルンを両手持ちにして、マリーは一気に氷の橋を駆け上がった。
「ふん」
ジークは鼻で笑うと龍の頭が仰け反り、羽根が蛍光色を帯びた紫色に変わり、マリーに必殺のブレスを放とうとした時、龍の動きがピタリと止まる。
同時にマリーの渾身の突きが、カオスドラゴンの胸部を突き刺す。
「……いまだ娘よ。ワシがこやつを抑えている隙に、邪悪を滅ぼすのじゃ」
「……お父様」
「早く、この英雄とは名ばかりの哀れな男がまた目を覚ます前に、滅びの龍もろとも。娘よ……どうかエリザベスも……お前が」
マリーは目から涙が溢れ出しながらも、杖にこもった魔力をカオスドラゴンに込める。
――いまだお嬢ちゃん。このドラゴンから盗んだエネルギーを、今度は俺の魔力に変換させろ。そしてこのドラゴンのエネルギーをオーバーフローさせちまえ。
かつて大魔王と呼ばれたアースラ、阿修羅の導きで、ドラゴンの体内を吹き飛ばす大技、修羅暁光を放つ。
ピカッと光に包まれる瞬間、マリーは槍の穂先にした炎を分離し、カオスドラゴンから間合いを大きく離すと大爆発を起こす。
「お父さん……」
だが、巨大な龍の爪が伸びてきてマリーを弾き飛ばす。
「うっ!?」
カオスドラゴンの胸に大穴が空いたが、一気に内臓が白熱化して傷口が再生していく。
「生も死も超越したこの俺に、そんな攻撃痛くも痒くもないわ!」
頭部から出血したマリーは唇を噛み締めて、ギャラルホルンに合体させたCZアークエンジェルを取り出し、カオスドラゴンに連射する。
「化物め。ステータス読んで生命力の反応が消えたと思ったのに……まさかアンデッドになって復活した?」
カオスドラゴンから再度、無数のアンデッドの群れが飛び出し、マリーは杖と銃撃で立ち向かう。
一方ベルン市街地は炎に包まれ、精霊の加護を受けた黄金鎧を身につける黄金薔薇騎士団達は、ダメージを抑えられたが、周囲は避難していた町人達やロレーヌの騎士達の負傷者や死者が大量に発生する地獄絵図へと変貌していた。
「クソッ、姫殿下をお守りする。余力のあるものは風魔法で加勢するぞ!」
「おう!」
上空では、戦乙女としての力を完全に解放したマリーが騎士団と共に、カオス化したジークフリードと戦闘を繰り広げ、異世界の集団が負傷者を治療し、マリーク戦士団も負傷者が多数出ている状態。
「清水が貸してくれた装備品がなければ、俺もやられていた。化物め、よくもやりやがったな坏蛋!」
二刀を手にした龍は、魔導ライフルを持つ勇者ロバートと合流する。
「君も無事のようだな。だが、兄弟が……」
黒焦げにされた勇者マサヨシが横たわり、異世界ヤクザの面々が周りを取り囲んでいる。
「ちくしょう、オイラの魔法じゃこれは治癒できねえ。賢者さんでもキツイな。ヤミーのお姉ちゃんじゃねえと」
「すまん、私の回復魔法ならば回復は出来るだろうが、上空のあの化物に対抗する魔力まで大量に消費される。待ってろ、私が女神様を指輪で召喚しよう」
騎士と魔導士の少女達が、泣きながら自身の父であるマサヨシに必死で回復魔法をかけていた。
「父上、父上!」
「お父様、私の魔法で回復……できない! どうしようどうしようどうしよう」
旅から帰ってきたら土産話と一緒に、自分達に優しくしてくれる自慢の父が、ここまでボロボロにされて世界の救済を行なっているなど彼女達は初めて知り、地獄のような戦場で完全に気が動転していた。
兄であるニコは、騎士団長代理のラウールの方を見てお互い頷き合い、彼女達を安全地帯に通じるゲートまで連れて行く。
「だから来るなって言ったんだ。世界を救う勇者の戦いには、まだおめえら未熟だから避難してくれ。おめえもだフェイロン!」
この世の誰よりも尊敬する勇者を黒焦げにされて、怒りに燃えるドレッドヘヤーの少年を、ササキ一家の面々が何人も縋りついて止めていた。
「放せよてめえら! あのボーボー燃やしてる空のトカゲ野郎ぶっ殺してやるんだ!」
「若ダメです!」
「親父さんの命令は絶対です!」
ニコは一家に抑え付けられた少年の頬げたを殴りつけて、再び失神させた。
「これくれえでテンパりやがって。おめえら、この馬鹿連れて安全な場所へ。あとでオイラが教育しとく」
「へい!」
「すんません親父さん」
龍は少年とニコを見やり、前世の自分とは違い、彼は子育てに苦労しているようだなと思う。
そして勇者ロバートの手により、女神ヤミーが召喚され、彼女の神界魔法でマサヨシの体を治癒する。
「馬鹿者め、いつもいつもボロボロにされおってからに」
女神ヤミーは治療に専念し、マリーが上空で戦っている間、勇者ロバートが臨時の作戦会議を開く。
「今はまだ彼女が抑えているからいいが、問題はさっきの炎のブレスだ。あんなもので再び地上を攻撃されたら、世界が滅びちまう」
「ロバート君、まずは体力と魔力を回復させ、早く我々も戦列に加わらんと」
するとクラクションを鳴らしながら、空飛ぶV8フォードのリムジンが現れる。
「ホルスの目で確認したさぁ! 戦況は?」
「オーマイガッ! シミーズがやられてんじゃねえか。マリーは!?」
デリンジャーギャング団の面々と、ジロー達だった。
「ミスター、その車は確かアルペスの雪崩で飛ばしすぎてオーバーヒートした筈では」
ホルスの眼鏡を装備したジローは、人差し指を振り、2回舌打ちする。
「くんなむん、叩けー1発さぁ。動かん機械ー、叩ちゅしが一番さ」
昭和な発想に、同じく米国でベビーブーマー世代と呼ばれたロバートは笑う。
「確かにそれが一番だな。さて、まだ兄弟が回復するまでには時間がかかる。どうしたものか」
するとジローが如意棒を持って、無言で空に飛び立とうとしたのを龍が掴んで止める。
「放しぇーさぁ! 兄貴ぃくんな事ぅさる馬鹿殺すん!」
「冷静にせんばつまらんぞ! そんためん策ば考えるんやろが」
海賊時代に覚えた長崎弁で、龍はジローに説得する。
「オーライ、じゃ俺から提案だ。助っ人が何人か欲しいな。理想を言えばイワネツとあと一人、炎にも強くて化物退治に慣れたのがいるだろう」
すると、極悪組二代目のニコが手を挙げる。
「それなら、親父が渡りつけてやすぜ。前の世界で自分や親父の国出身で、名のある元勇者の、ヤマトタケルさんって言いやす」
「おお! 武神日本武尊様がお味方についてるのか。だとすれば勝てるかもしれぬ」
龍はヤマトタケルの名を聞き歓喜するが、アメリカ出身のロバートとデリンジャーは、何が何だかわからずとりあえず召喚する事にした。
一団は、全員の魔力を込めて元勇者にして武神、ヤマトタケルを召喚する。
女型の美形ではあったが、彼の身長は2メートルを越して、手に神剣草薙の剣を所持している。
「うむ、余を呼び出したのはそなたらか? 日の本の者もおるようだが」
「へい、神様。自分も日本出身で救世主やらせていただいてやす、ニコ・マサト・ササキと申しやす。マサヨシは自分の親です」
「おお、そうか。日の本出身から救世主も出したか。マサトとやら大儀であるぞよ」
ヤマトタケルに龍が跪く。
「日本武尊様、私は八幡様に信仰を捧げる龍と申します。この戦い武神様の力と、ある男の力が必要でございまして」
「我が子、足仲彦の子にして孫の譽田の信者であるか。よかろう、其奴の居場所を教えよ」
イワネツの居場所を聞いたヤマトタケルは、白鳥に変身して光の速さでジッポンまで飛んでいく。
「それじゃあオイラは、一足先にマリーちゃんの援護を! ロバートの叔父御、この場をお願いします」
「うむ、頼んだぞ」
一方イワネツは、中京制圧と南朝への宣戦布告、そしてエムからの干渉で苛立ち、何よりも腹が減って仕方がなかった。
「クソが、腹減ったぞ。手下に味噌スープでも作らせるか……ん?」
宮中の中庭に、突然白鳥が現れる。
通常の白鳥よりも大型で、長い首をキョロキョロとさせていた。
「おお、白鳥。もうそんな季節だったな。迷い込んで来やがったのか……お? そうだわ」
イワネツは気配を消して裏庭に入り、そっと白鳥の背後に回り飛びかかろうとする。
ーー大昔の、帝政ロシア時代だったか? 皇族や貴族がフライにして食べてたって逸話があった。このジッポンでも、バカでけえ大まな鶴とかスープにするが、一つ試してみるか
その時、イワネツの懐の魔法の水晶玉が振動し、音に気がついた白鳥と目が合う。
「捕まえたああああ」
イワネツは右手で白鳥の首を思いっきり掴む。
「グエエエエエエエエエ」
「よおし。このまま首へし折って、羽根抜いて照り焼きソースか味噌つけて焼いて食っちまおう!」
「無礼者が!!」
白鳥の姿が中性的な顔つきの大男に変わり、首を絞めてくるイワネツの頭を右手で掴み、アイアンクローをかける。
「なんだお前はああああ! 化物かクソが」
「なんたる膂力。この無礼者めえええええ」
一方、ベルンからイワネツに通信をかけたジローは、通信が全く繋がらず首を捻る。
「うかしいさぁ、イワネツでねーんさぁ」
「おい、マジか。向こうは向こうで、何かやってんじゃねえか? マツに連絡しようぜ」
すると空が光り輝き、上空から二人の男が取っ組み合いながら姿を現す。
勇者イワネツと、元勇者にして神のヤマトタケルである。
「貴様あああああ、おとなしく話を聞くのだああああああ」
「なんだお前化物この野郎! 首の骨へし折ってやるぜええええええ」
一同呆然としながら、二人の取っ組み合いを見つめ、ロバートは咳払いして、龍は思いっきりイワネツを蹴飛ばしてヤマトタケルから引き離す。
「兄弟、何やってんだばー?」
「イワネツ! このお方は武神様だぞ!」
「イワンコフ、君と言うやつは全く……」
イワネツは一同をキョトンとして見つめ、首を絞められていたヤマトタケルは思いっきり咳き込む。
「お、オーライ! 面子が揃ったな。イワネツ、来てもらってすまねえがマリーがやべえ。手を貸してくれ」
「ん? ああ、デリンジャーか。ここは西側らしいが、酷え有様だ。それにクッソ頭が痛え! 爪立てやがってこの野郎! 後でぶっ殺すか」
「なんだこの無礼者は! これ以上私を愚弄するなら帰るぞよ!」
ロバートは、舌打ちしながら無言でイワネツにライフルを向ける。
「このお方は、我々勇者の先輩にあたる方だ。まず詫びろ、でねえと頭吹っ飛ばす」
「なんだそうか? 早く言え! 俺にライフル向けやがって、お前も殺すぞ!」
イワネツは咳き込むヤマトタケルを見下ろし、地面に唾を吐く。
「あー、クソ野郎。白鳥の姿してやがったから丸焼きにして食おうと思ったんだ。悪かったな」
どういう状況だよと、一同唖然とした。
「なんだ貴様! 試練も経験してない仮勇者のくせに半人前め、我が力で処すぞ!」
「あ? 試練?」
勇者の試練、力を高めて世界を救済するための文字通りの意味であるが、イワネツはまだその勇者の試練を未体験だった。
「ミスタータケル、この野蛮野郎の代わりに、私から謝罪いたします。それと、あの上空の龍を滅ぼすための知恵を我らに」
「誰が野蛮だコラ! ぶっ殺すぞ!!」
「シャラップ! ロシア野郎!! 二度めの警告だ! これ以上うるせえ事抜かすならドタマ吹っ飛ばす! OK?」
特大の舌打ちをしたイワネツは、渋々ヤマトタケルに頭を下げる。
ヤマトタケルは、上空のカオスドラゴンを見つめ、その強大な力を前に笑みを浮かべた。
「ふふ、なるほど。あれは鵺の一種、いや亡霊が集まった邪龍の類か。ならば……」
上空に向けて草薙剣を掲げると、暗雲が晴れて聖なる光がカオスドラゴンを包み込む。
「神の理を否定する邪竜めに、我が術法、天照祟滅鎮護をかけてやった。後はこの場におる手傷を負ったものの傷と、魔力を回復してやったぞよ。火の耐性もな」
全員の魔力と体力が回復し、炭化したマサヨシの体も全回復した。
「よっしゃあ、カス野郎! ぶっ殺してやるぜ……あ、ヤマトタケル様、ご苦労さんです!!」
「かたじけない、ヤマトタケル殿」
女神ヤミーも頭を下げると、ヤマトタケルは魔法を発動させた事で召喚時間が切れ、神界高天原へ帰還し始める。
「人の世を救う者に太陽の祝福と導きを。人の世に仇なす野望を持つ悪に常世の闇を!」
「へい、ありがとうございやす!」
ヤマトタケルの姿は消え去り、勇者達と英雄達は顔を見合わせた。
「よっしゃあ! あの外道ぶっ殺すぞ!」
「多少は弱体化したようだが、全員でかかろう。あの野郎、俺の戦友をよくも。ぶっ殺してやる」
「なんだか知らねえが、マリーの敵なんだな? あのでけえドラコーンぶっ殺せばいいんだよなあ?」
三人の勇者が揃い踏み、異世界の軍勢達も世界を滅ぼすドラゴンに次々と道具を手にしてマリーの加勢に向かう。
イワネツは右手にエーテルで作成した自分専用の黄金に輝き、拳の部分に杭が装着された手甲を両手に装備し、両拳をガツンと叩きつける。
「兄弟、すりぃ格好いいやん」
「おう、ニョルズの槍とトールのハンマーを組み合わせて作ったブツだ。大型の家畜を屠殺するために生み出されたキャプティブボルト銃みてえに、インパクトの瞬間、杭状にした槍の穂先が飛び出すわけよ」
ジローは如意棒を装備し、龍は二刀を構えて上空のカオスドラゴンを見据える。
「オーライ! いくぜおめえら! このゲームは俺達がホームラン打ちまくってゲームセットだ!」
ヤマトタケルの魔法の効果で、上空のカオスドラゴンを操る、ジークフリードことアッティラは、変調をきたしていた。
「なんだ……アンデッドを生み出すたびに弱体化していく。溢れ出る力が……このドラゴンの力」
マリーは杖で光の魔法を放ちながら、自身の黄金騎士団を鼓舞する。
「なぜかわかんないけど、敵のドラゴンの力が衰え出してる! みんな! 悲しい亡霊達を輪廻の、魂の循環に!」
マリーは、勇者マサヨシから教わったアンデッドの特性について思い出す。
「マリー、俺が戦った中でドラゴンとか、キラーマジンガとか魔界樹とかいう奴らもやばかったが、そいつらよりもこいつはやべえと思ったのがアンデッド、不死者の奴らだ」
「アンデッド、ですか?」
マリーは、転生前に幽霊の類や心霊写真とかそういうオカルト話に興味を持った事があるが、歴戦の勇者の口からアンデッドがやばいと聞くに及び、どこがやばいのか耳を傾ける。
「例えば、亡霊とか地縛霊とか浮遊霊って呼ばれるものだ。何がやべえって言うとよ、奴ら諦めってのがねえ。勝つために、己の意思や目的が果たされるために魂の循環から逸脱してんのさ」
「つまり、自分が勝つため、思いを果たすため、その力が消えるまでに延々と襲ってくる存在がアンデッド」
「ああ、生きてる人間の方が怖いって俺も前世で思ってた口だが、アンデッドの方が怖い。奴らはもう死んでるから死ぬことなんて屁とも思ってねえ。そしてそのアンデッドが、強固な意思で生者に欲望だけを考えて向かってくる。ある意味で一途過ぎてやべえ相手だ。魔界の特殊部隊の奴らの大半がこいつらだったよ」
アンデッドとは、すでに死を迎えた事で、己の未練を果たそうと意思を貫くもの。
強い念を持ち、通常では死に至る攻撃でも死を与えられず、死そのものの概念を逸脱し、己の未練を果たそうとする怪物がアンデッドである。
「特にやべえのを例に挙げると、人間としての思考能力を維持するため血を吸う鬼のヴァンパイアや、わざと体をアンデッド化させて不死の能力を持つ魔法使い、リッチ系統。そして剣や鎧、処理を施した死体など触媒にした思考能力をそのままにしたデュラハン、即身悪仏、ミイラなど。他には強烈な念を残して意思をそのままにした、地縛霊も泣いて詫びるくれえやべえ意思の塊、魂が魔に堕ちた呪力の塊のような大怨霊なんかもいるな」
マリーは唾を飲み込み、どうかそんな存在と相対する事がないようにと願ったが、勇者はニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「だがな、生きとし生ける者の生命エネルギーってやつがある。魂の正の波動には、奴らすこぶる弱い」
「つまり生きている人間含めた、生き物の思いの方が強いと」
「おう。だってそうだろ? 死んでこの世の理を歪めてる後ろめたい奴らなんざ、生きてる人間の方が大義名分あるんだ。だから早く成仏しろってもんで、奴らの依代をぶっ壊すようにしてる」
「依代ですか?」
「ああ、ヴァンパイアやリッチー、ミイラなら未練の残る肉体。デュラハンとかならば、依代になった剣と鎧。そして怨霊ならば、念を残すに至った思いが込められた物。そいつを断ち切っちまう」
マリーは、その逸話を思い出して白騎士の鎧を標的に、騎士団に指示を飛ばす。
「アンデッドの軍勢を攻撃しながら、ドラゴン頭部にいる本体の鎧へ攻撃せよ騎士団! 我らヴィクトリーに勝利をもたらすのです!」
「了解姫殿下! 総員、隙を見出しあの白鎧を……ジョージ陛下の鎧を粉砕せよ!」
レスターとジョーンズが、涙目になりながら騎士達に命令を下し、先頭で飛ぶマリーに、ドラゴンブレスのブレスが飛ぶが、救世主ニコがマリー達騎士団に電磁バリアを張ってダメージを軽減させた。
「負けない。人の心を失った奴なんかに私は」
父親の念とジークの魂が宿った白騎士の鎧を破壊すべく、マリーは騎士団達とともに、アンデッドの軍勢を蹴散らしていく。
一方のジークことアッティラは、アンデッドの軍勢と騎士団の戦いを見て地球時代の古戦場の記憶を思い出す。
西ローマ帝国と西欧各国や部族連合との、戦争の記憶だった。
「今だ、我が軍よ。騎士団は死を賭して我が玉体に向かって来おる。しかしカタラウヌムの時のよう、俺は先頭に立ち投槍を投ずるであろう。俺に続くことを拒むものはただ死あるのみ! 俺に続け不死の軍勢よ!!」
「……」
鬨の声も上げなければ、物言わぬアンデッドに対して、アッティラことジークフリードは乾いた笑い声を上げた。
「そういえば此奴らは、俺が召喚した意思を持たぬアンデッドであったか……俺はなんのために生まれて、なんのために戦いそして死に、蘇って……ククク、ハハハ、うはははははははは」
その時、光の速さでカオスドラゴンの頭に、何者かの拳が叩き込まれる。
「笑ってんじゃねえよ。クソムカつくぞ……クソッタレ!!」
男の手甲の杭が突き刺さった瞬間、ギミックで杭が射出されると高水圧と高電圧の魔力がドラゴンの体内に一気に駆け巡り、ドラゴンの後頭部が爆ぜる。
「貴様は!?」
勇者イワネツだった。
イワネツはマリーを見る。
「マリー、怪我してんじゃねえか。こいつがやりやがったか?」
「イワネツさん!? どうして」
イワネツの瞳は怒りに燃えて、バサラ状態となり、ドラゴンの体にパンチを連続で叩き込み、次々と部位を破壊していく。
「俺の飯を邪魔したばかりか、マリー傷つけて街ぶっ壊しやがって!! ムカつくんだよクソ野郎! 死ねやああああ!!」
まとわりつくアンデッドも、イワネツに次々と蹴散らされ、空飛ぶV8フォードリムジンから、ドラゴンに向けてドライブバイの銃撃、機関銃乱射が繰り出される。
「いちゅんどおおおお外道!」
魔力で巨大化した如意棒を振り下ろす一撃が、ドラゴンの頭を直撃し、龍の剣技がドラゴンの腕を、足を、刀が両断する。
「もはや人の思いも、男としての誇りも愛も無くした匈奴王。貴様では我らには勝てぬ」
そして隙が出来たドラゴンの頭に降り立つ、マフィアな勇者が魔力銃をM4ライフルに変え、ヤクザな勇者が大口径魔力銃パイソンを手に持ち、白騎士の鎧に向ける。
「Fuck you asshole!」
「くたばれクソ野郎」
アンデッド特効の魔力銃弾を乱射され、白騎士の鎧に乗り移ったジークフリードは悲鳴を上げ、自身の愛刀マーズブレードを、思わず手放すほどダメージを受ける。
「ぐああああああ、貴様らあああ。跡形もなく吹き飛ばしてやるわああああああ!」
ドラゴンが紫色の炎に包まれ、羽が蛍光色を帯びた赤紫色に変質し、破壊された頭部ではなく、胸部から必殺のブレスを放とうとした。
「くらえい!」
莫大なエネルギーが発射された瞬間、黒のコートに黒のハット帽を被る男が、放出されたエネルギーの前に立つ。
「うおおおおおおおお!」
エネルギーをデリンジャーが受け止めて、己の力に変換する自身の武器、クレイジーキャノンを具現化させて全てのドラゴンブレスを吸収した。
「強奪してやったぜ! シミーズ、ロバート、離れてろ! いくぜええええええ、てめえのエネルギーをそっくりそのまま返してやらあ!」
右腕のキャノン砲をドラゴンに向けて、紫色に輝くレーザービームをデリンジャーが放つ。
カオスドラゴンはあまりのエネルギー波で、体がボロボロと崩れ去り、悲鳴をあげて泣き叫んだ。
「すげえぜ! さすが伝説の義賊! エネルギーそっくりそのまま強奪しちまうとは、恐れ入った。感服するぜ!」
イワネツは、デリンジャーの必殺技に大はしゃぎし、デリンジャーの魂と体への悪影響を感じたロバートは、冷や汗を流す。
「ベーブルース並みの打球打ち込んだ。俺がシーズンMVPだなあ」
攻撃の代償として、デリンジャーの魔力はほぼ空になり、魂に無数の傷がつき吐血しながら地面に降下するのを龍が体を支える。
「無茶苦茶だ友よ。そんな事続けてると……」
「クレイジーだって言うんだろ? そうだよ、俺はクレイジーさ」
デリンジャーは気を失い戦闘不能となり、攻撃でカオスドラゴンは体がボロボロに崩れ落ち始め、原型を留めないほどのダメージを受けた。
「もう、あなたには勝ち目はないわ。ジークフリード、いやアッティラ大王」
勇者達の銃撃で、甲冑をボロボロにされた白騎士は、見下ろす戦乙女のマリーに視線を向ける。
そしてマリーは、眼下の白騎士に魔力を込めたギャラルホルンの砲撃を、繰り出そうとしていた。
マリーを見て前世の記憶がふいに蘇り、アッティラの魂に、愛する妻の姿が思い浮かぶ。
「イルディコ……愛する人よ。俺は君にまで否定されるのか。私の愛する人……」
「私はあなたの妻じゃない。私の名前はマリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーよ」
マリーが必殺の魔法を放とうとした時、崩壊しつつあるドラゴンの四肢が禍々しい触手と化し、マリーの体を掴み自身の体に引き込む。
「な!? まだそんな力!? きゃああああ」
「クソが!」
マサヨシが触手を次々と断ち切るが、触手の一本が、白熱化する胸部へマリーを引き込み、無理矢理融合化させた。
「クックック、やっと一つになれた愛する妻よ。この力を持ってお前らとこの世界を滅ぼしてやる!」
カオスドラゴンは、白銀に光り輝くドラゴンに変わり、咆哮を上げる。
「てめえ……外道この野郎。助け出すぜ、てめえら!」
「おう!」
一方、地上では負傷したロレーヌの騎士団達や、マリア達皇族を、緋色の皇帝ロン率いる軍勢が帝都ベルンから郊外に続く魔法のゲートに避難させている。
「ご婦人、早く避難されよ。失礼、皇族とお見受けするが、ここは危険である」
「し、しかし我が子が。愛する皇太子がまだ目を覚ましてくれなんだ」
「皇太子は、余達が守るゆえ避難なされよ」
その時、仰向けで横たわる皇太子、フレドリッヒ・フォン・ジーク・ロレーヌの胸に、上空から降って来たジークフリードの愛刀マーズブレードが突き刺さった。
「あ、あ、フレドリッヒ……そんな、ああああああああああああ!」
女帝マリアが慟哭し、その場で膝から崩れ落ち、彼の姉と妹である皇女達も、目の前で起きた光景に悲鳴を上げて失神してしまった。
「な、何という事だ。ま、待ってろ、誰か回復魔法を皇太子に!」
こうして、フレドリッヒ・フォン・ジーク・ロレーヌは死んだと後世で伝えられる。
しかし……。
フレドリッヒの体が光に包まれ、右手は剣の柄を握りしめて、ゆっくりと体から剣を引き抜き、地面から反発するように起き上がる。
「助けなきゃ、今度こそ大好きな女の子を。守れる……強さを僕に」
閉じた瞼が見開くと、エメラルドのような光が灯り、上空に光り輝くドラゴンを見据え、剣を掲げるとマーズブレードが変質し、柄のクロスガードに薔薇の彫刻が入り、刀身が2メートルを越す、黄金の輝きを放つツヴァイハンダーブレードに変わる。
異世界の皇帝ロンが思わず唸るほどの、目に強い力と、簡素な白シャツと黒のインナーズボンしか身につけていなかったが、高潔な騎士としてのカリスマに溢れる姿だった。
「余が具足を用意しようか? 若き騎士よ」
蘇ったフレドリッヒは、首を横に振る。
「いらない。この剣があれば僕は戦える!」
世界を救う力を身につけたオーラを剣に纏わせると、黄金の刀身が眩い輝きを放つ。
「名を聞いておこう。若き騎士」
「僕の名前はフレドリッヒ……前の世界ではフレッドと呼ばれていた!」
長剣を脇に抱えて騎士フレッドは、白金に輝く龍へ振り向きもせず一直線に向かっていく。
後世のニュートピアで、聖騎士フレッドと呼ばれる英雄が生まれた瞬間だった。
次回主人公の一人称でお送りします