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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
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第167話 戦乙女は楽に勝利したい 後編

 私はギャラルホルンをセトに向ける。


 戦嵐神、破壊神に最も近かった荒神、フェルデナント公や、私を守ってくれたオーウェン卿とレスター卿、そしてシシリーみんなの仇。


 前は勝てなかったけど、今の私ならきっと。


「あ、あなた様は、そのご尊顔、ヴィクトリーのマリー殿下!?」


「初めて見た……」


「あれがヴィクトリーの薔薇姫」


「美しい……」


 そっか、イミテーションの鎧はバイザーみたいなので顔が見えないようにしてたけど、今の私の顔、モロバレになっちゃったっけ。


 今の私を見たジークフリードは、一瞬驚いたあとで、ふっと笑う。


「そうか、さらに輝きと強さを増したか麗しき姫君。ならば帝王たる俺自らが相手せねば……」


 何か言い終わる前に、龍さんがジークに斬り込んだ。


「貴様!?」


「マリー君、こいつの相手は俺が勤めよう。マリーク戦士団よ、お前達はジークフリードの騎士団達を!」


「是、老船首。騎士達よ、我らがお相手仕ろう」


 空飛ぶラクダの集団や、ゲームの三国志のような大型の鉾に乗った大男も現れて、騎士団と斬り合いになる。


「者共、ジーク陛下をお守りするのじゃ!!」


 黒いローブを着た老婆が指揮官の魔導師達が、魔法攻撃を繰り出し、混沌とする戦場と化した。


 騎士達は私の方を見る。

 

 上に立つ者として、ぶれちゃダメ、恐れちゃダメ、私が望むのは世界の救済!


「黄金薔薇騎士団! この戦いを終わりしましょう、全軍、ジークフリード帝国軍に突撃!!」


「ははー! 全団突撃!! 各騎士隊長に続き、敵を無力化せよ!!」


「うおおおおおおおお!!」


 私の命令で騎士団が、空中戦と地上戦で進撃していき、先生は、刀の柄に手をかけながら、私と一緒にセトと対峙する。


「もう、あんたなんかに負けない! 多くの人達の尊厳を踏み躙り、家族も信じられなくなって戦いでしか己を誇示できない馬鹿男なんかに!!」


「おう、クソ野郎。てめえは人をコケにしすぎた。ケジメつけてもらうぜ」


「ええでぇ強者よ! 戦光時空間(セプカウプメトセド)


 すると昼間だったはずなのに、空間がグニャリと歪んだと思ったら太陽が昇りピラミッドが建てられて、広大な砂漠に景色が切り替わる。


 さっきまで、ジークフリード帝国の上空だったのに、この光景は一体?


 戦場にいた私の騎士団も、ジークや帝国騎士団達に龍さんの姿も見えない。


「へっ、セト専用のバトルフィールド、魔力空間を具現化したってところだろ? 面子は俺、マリー、ニコ、ドラミか。この中で一番腕が立つ面子揃えて戦争しようって事だな」


「私達4人を相手にですか!?」


 つまりこっちの最強戦力4人対1人でも勝てるって事なのだろうか。


「なあ刑務所(むしょ)ボケ野郎、喧嘩してえんだろ。やろうや?」


「ワレェ誰に向かってかばちたれよってイキっとんじゃゴラァ!」


 物凄い嵐のような魔力だ。


 まさに戦争と嵐を司る凶悪な荒神。


 だけど……。


「ぷっ、なんだそのチンケな圧はよ。そこらのチンピラのほうがまだイキのいい圧かけられんぞ?」


 全然負ける気がしない。


 先生の勇気があれば、たとえ神相手でも。


「たいぎぃんじゃあ、わりゃああああああ!!」

「ぶった斬ってやるぜクソ野郎おおおお!」


 居合抜きした先生が、セトに斬りかかりる。


 セトの杖と鍔迫り合いすると、物凄い火花が散って、激しい光に包まれ出す。


 私はギャラルホルンを右手に、左手でCZアークエンジェルを持って、セトの背後に向けて用心棒さんと同時に攻撃した。


 すると鍔迫り合いしてたセトの体が崩れ去り、無数の分身が砂から現れた。


 あれか、こいつがジークと戦った時に使った能力。


「ハッハアアアアアア! たまらんのう! ワシが待ち望んだ戦場じゃああああ!」


 ドラミさんが、無数の分身相手に光の魔法を乱射していき、私と先生、用心棒さんは魔力銃で襲いかかる無数のセトを攻撃していく。


「やるのう、これならどうじゃあ! 境界火焔(アンクウベデト)


 セトの分身体達が、シシリー島を無残な光景にした真っ赤なプラズマ球を次々と発射する。


「ダーリン達伏せとってくれん?」


 ドラミさんが両掌を突き出し、あれは……リンドブルムを瞬殺した大魔法の……。


兆光爆炎(テラフレア)


 プラズマ火球もろとも、セトの分身体全てを吹き飛ばした。


「ふん、なんねこいつ。口ほどにもなか」


 先生は魔力銃パイソンを持ちながら、周囲を見渡し、上を見上げた。


「チッ、やってねえ! 上だ!」


 上空のセトがクルクルと杖を回すと、魔力空間の砂が舞い上がり、赤黒い雲が上空を覆う。


 それにこの匂い……臭い。


 なんかオナラみたいな臭いが……。


「やべえ、バリア張れええええ」


 先生の号令で、私と用心棒さんがバリアを上に張るが、先生がやべえって言うくらいだから、やばいのが来る。


天土振剣(クアシャペト)


 赤黒い雨が降ってきたと思ったら、地表が熱せられて、魔法バリアを張ってない箇所の砂が赤黒く焦げてガラス状になり、異臭がする。


「硫黄や硫化水素と高温の鉄の雨だ。無茶苦茶やりやがる、息を吸うな! 多分猛毒ガスも出てる!!」


 うげっ、えっぐい。


 今度はバリア張った私達の足元が振動して、風が足元から巻き上がる。


「これはどうかのう? ワシが戦嵐神と呼ばれた由来じゃあ! 神砂塵嵐(ネセトペト)


 真っ黒い風が巻き上がり、セトの生み出した赤黒い雲が竜巻を起こして、熱と金属とガラス片で斬りつけられたと思ったら、強大な暴風で攻撃された。


「きゃあああああ!」

「くそがあああああ!」


 竜巻が重力異常と電離した荷電粒子が高温のプラズマ化を引き起こし、攻撃だけじゃなく高圧電流や放射線とか生まれだして、状態異常も付与されてる。


 やばいこれどうしよう!


 絶対防御でガードした方がいいのか。


 だけど切り札を使うとしても、このまま防戦してたら絶対勝てない。


 おそらく今まで戦ってきた相手の中でも最強、それも先生により弱体化したフレイや、人間状態のフレイア、祟神になったニョルズよりもはるかに強い、指定4類の戦闘神。


 魔法のエキスパートで、直接攻撃も出来るし、何より一切の隙が見当たらない。


 ゲームのRPGだったら、1ターンに2回3回と攻撃してくるような感じだ。


時間停止(タイムストップ)


 全員で時間停止を唱えて、時の流れが止まった中、死の竜巻から逃れようとするも、時が止まったはずの時空間を、セトが杖を手にして私たちを滅多に殴りつけてくる。


「無駄じゃ! ワシャ神じゃけえのう!! あらゆる時間軸も、この戦光時空間の中はワシの思い通りじゃあああああ」


 くっそ強いこいつ。


 時間操作も効かないなんて、先生もいるのにぜんぜん歯が立たない。


 けど、これだけ強力なセトの攻撃を受けても、今の鎧はめちゃくちゃ防御力高くて、かなりのダメージを軽減してくれる。


 そしてこの状態だからこそ、神ヘイムダルと大魔王アースラの力も、合わさってるからできる魔法も。


「三つの魔法系統の融合化、時間停止から、私にかける時間操作、そして敵にかける時空操作、三重加速(トリプルアクセル)!!」


 セトの動きが遅くなり、私の動きが倍化して、ギャラルホルンでセトの杖と打ち合う。


「わ……わぁぁぁりゃーーーーーなーーにーーーをーーーー」


 間延びしたような間抜けな声になったセトに、私はギャラルホルンを振りかぶる。


「うるさい!」


 プラチナに光り輝くギャラルホルンで、セトをかちあげるようにして上空へ弾き飛ばす。


 今の魔法でめっちゃ魔法量を消費したけど、一気に魔法力を回復した。


 新しくなったこの杖、アースラの能力と同じく、ダメージを与えた相手の魔力とか吸い取れるようだ。


「よっしゃあ、行くぜこの野郎!」


「親父、援護するぜ!」


 先生がセトに斬りかかり、滅多切りにしていき、用心棒さんも魔力銃、おそらく型式違いのパイソンと雷魔法で先生を援護する。


「たいぎぃけぇ!」


 左手に持つ、♀型のマジックアイテム、アンクから、特大の炎プラズマが飛び出して、用心棒さんを吹っ飛ばす。


「てめえ!」


 セトは先生の両手持ちにした阿修羅刀の一撃を、右手の杖でいなしながら、左手のアンクを振り回して、先生の顔面に打撃攻撃した。


「うらあああ、その程度かアースラ!! 人間になって弱っちゅうなったかあああ!」


「アースラじゃねえっ! 俺はマサヨシだ!」 


 負けじと先生がセトの顔面に頭突きする。


――けっ、誰が弱いだと。なめやがってセトの野郎! お嬢ちゃん、俺の魔法にヘイムダルの魔法を組み合わせろ。ついでに自分の魔力を込めれば、最高威力の魔法が撃てるはず。


 今の状態ならそんな事もできちゃうのか。

 

 例えば、ヘイムダルの魔法で拡散ビームみたいなのが、スターライトレインボーで、アースラにも似たような魔法、アンシュウマトゥがある。


 それを組み合わせた場合……。


「ダーリンになんばしよっとね!」


 ドラミさんが、セトの後ろから魔力を帯びた蹴り技を繰り出すも、振り回すアンクで弾き飛ばされた。


「おなごはすっこんでろ! 戦闘が終わったら可愛いがっちゃるけぇ待ってろや!! そこのワレものう」


「うげっ、こっち見てきた」


 こっちを舐るような、いやらしい目つき……。


 視姦だ、視姦されてる、変態だこいつ。


「よそ見してんじゃねえよボケ!」

「なめんじゃねえぞオイラを」


 先生と用心棒さんが、空中で交差するように宙に浮くセトを挟み撃ちで斬り込む。


 そして先生と目配せした用心棒さんは、空中でセトと対峙する。


「こいよ、弱虫」


「なんじゃあ人間。弱虫じゃと?」


「そうだよ! てめえのやってる事、立場が弱い人々を虐げて殺戮を楽しんでる弱虫じゃねえか!」


 セトが最高潮に魔力を高めて空間が歪む。


 弱いと言われて、怒ってるんだきっと。


「聞こえなかったのかよ弱虫、かかって来いよ。家族を否定して行き着いた先が、自分が強いって証明するだけの弱い人々を殺してきた弱虫が!!」


「われに何が、わかるんじゃ。ワシゃ強い、誰よりも、このワシの力は」


「弱い! 全然強くねえ!!」


 用心棒さんから一切の闘気がなくなったけど、意図的にこの状況を作り出したのか、多分カウンター攻撃を決める気だろう。


「家族や、人を信じる力も捨てた外道! オイラのお父ちゃん、マサヨシが紡いだ絆をなめるな! 長男の本当の強さを見せてやる! 家にいるお母ちゃんと娘がオイラに力を与えてくれるんだ! 血は繋がってねえけど渡世の兄弟達や子分達、オイラを救世主って認めてくれるみんなや親父がいるから、オイラは親分でいられる! かかって来い弱虫!!」


 この人は、本当に強い。


 私にはわかる。

 

 家族を思う力、誰かを守る力は自分が持つ力以上の力を与えてくれると。


 用心棒さんは、体を脱力して刀を放り投げ、腕を垂らして自然体に構えたけど、この構えは?


「たいぎぃ、たいぎぃ、たいぎぃけ、ぶっ殺しちゃるわああああ」


 セトが神杖ウアスを右手に持ち、用心棒さんに襲いかかる。


「歯ぁああああ食いしばれ外道っ!」


 セトの攻撃が当たる刹那、カウンターで右ストレートをセトに繰り出し、捨てた刀を風魔法で手繰り寄せて、袈裟斬りにする。


「やっぱ弱虫じゃねえか」


 用心棒さんが吐き捨てるように言い、先生が猛スピードでセトの後方から斬りかかる。


 ダメージを受けたセトが神杖を回転させながら先生に打撃を繰り出すも、転移の魔法でかわされて瞬間移動した先生に、すれ違い様に斬られた。


「今だ! マリー!!」


「隙が出来たわ変態め! いっけえええ! 烈日極光(シャイニング)


 ギャラルホルンから出現した、無数の青白い光線が糸を引き、セトの体を貫通していく。


「なんじゃあああ、わりゃあああ! 天日地滅(ペトラネセト)


 セトも対抗して、真っ赤な拡散レーザーを撃ってくるけど……。


「負けない! 己の欲望のまま人を虐げる神なんかに私は、もう負けない!! 家族の絆も、人の思いも理解できない悪なんかに私は負けない!!」


 ビームを撃ち合ってる私の傍に、先生が立ち、一気にオーラを放出して、身につけた黒い鎧が爆ぜて総刺青の裸体を晒す褌一丁になった。


「フルパワーで行くぜクソ野郎!!」


 転移の魔法でセトの真上に出現した先生は、脳天目掛けて阿修羅刀を叩きつける。


「く、クソがああああああ」


 砂の上に突っ伏したセトにヤクザキックくらわせた先生は、刀を横にして一直線にセトの胸を突き刺して押し倒す。


 犬のような獏のような漆黒の覆面が切れて、黒い肌に白い髪の毛の、顎髭を生やした端正な顔立ちの素顔を晒す。


 馬乗りになった先生は、セトの胸に両手でもってさらに刀を押し込む。


「わ、わりゃあ……」


 セトが生み出す魔力空間が元通りになり、上空や地上で騎士達が戦闘する、喧騒渦巻くジークフリード帝国のライヒ・ジーク広場に切り替わった。


「勇者たる俺が救いに来た世界で、俺以外のワルが栄えたためしはねえんだ」


 ぐりぐりと、胸の傷を先生が捻りを加えて刀を押し込んでいく。


「ぐああああああ! このガキゃあああ」


「てめえそんなものか? それでも戦嵐神かこの野郎! てめえの意地を俺に見せて見ろ!! 俺のように命を賭けて!!」


 セトの体が発光して、刀を刺した先生を弾き飛ばし、両手を拡げてセトが力を溜める。


心魂神変(イヴバーカー)‼︎‼︎」


 セトが叫ぶと、♀型のマジックアイテムのアンクが沢山出現して、セトの体を円を描くように飛び、上半身が人間の姿のまま、下半身が石でできたライオンのような感じの、巨大なネコ科の猛獣のようになり、尻尾が毒蛇のコブラのように変質していく。


 そしてセトの白髪が逆立ち、ネコの目のように金色の瞳孔が縦に見開き、絶大な魔力とオーラを解き放つ。


「クックック。魂の拠り所、心の臓をやられたけぇ……もうわしゃ助からんじゃろう。だが残りの命、全部賭けちゃるけ! 勝負じゃ勇者共おおおおおお」


 ゲームで言う第二形態っていうか、最終形態っぽい姿になった。


「いいぜ、俺の魂も賭けてやらあ。行くぜおめえら!!」


「はい先生!」

「ダーリン、カッコよか!」

「親父! 終わらしてやろう」


 4方向に分かれて、私達は魔法を打ち込むも、瞬間移動してきたようなセトに、私たちは跳ね飛ばされる。


「機動力が段違い。ただでさえ素早かったのに、このままじゃ」


「動きが見えねえなら、止めてやる! 親父達は上へ!」


 私達はサッと上に飛び、用心棒さんが刀を広場に突き刺す。


磁場転換(レイディオ)!」


 パッと電子の光が瞬き、セトの動きが鈍り可視化出来るようになるも、魔法を放とうとしたドラミさんのお腹に、セトの尻尾のコブラが噛み付いた。


「グゥ!」


 一気に顔が真っ青になって、滅茶苦茶強いはずの彼女が一撃で戦闘不能にされる。


「まずい、ドラミの姐さんの毒を回復しねえと死んじまう!」


 用心棒さんが、地面に横たわるドラミさんの治癒をするも、セトが体当たりを繰り出そうとした。


「うるぁ!」


 すんでのところでセトを先生が蹴り飛ばし、ドラミさんに回復魔法をかける。


「クソが、体は回復させたが毒がやべえ。二代目、俺の女を下がらせろ。竜の泉の成分じゃねえとドラミを回復できねえ」


「わかった」


 戦場から用心棒さんとドラミさんが離れ、魂を賭けたセトと先生が対峙する。


「さあ、とことんまでやろうや。家族も、己も、神としての地位も、命も全部捨てて勝利を望む男。男と男のぶつかり合い、魂と魂の張り合い! この鉄火場のテラ銭は男の誇りだ!!」


「ええでぇ、ぶっ殺しちゃるわあああああああ、勇者あああああああ」


 亜光速で迫りくるセトの神杖と体当たりに、先生は転移魔法と刀の斬撃で応え、異次元のバトルを繰り広げていく。


 上空では、龍さんとジークフリードの果し合いが行われ、長大なツヴァイヘンダーを潜り抜け、二刀の斬撃でジークフリードが追い込まれる。


「俺は歴戦のアッティラ、ジークフリードだぞ! 貴様なんかにいいいい!」


「傻子!」


 長大なツヴァイヘンダーを太刀で受け流し、小太刀で龍さんがジークの喉を突く。


 隙が出来たところに、二撃、三撃、四撃と太刀と小太刀の斬撃がジークを切り裂いていく。


「くそっ! 豪炎波(フレイム)


 ジークの魔法は悉く、先生の貸し与えた神の装備を着込んだ龍さんに無効化され、逆に右の太刀で両断され、体を再生するジークに、地上から迫り出した無数の大砲の砲撃がジークを吹き飛ばす。


「小手先の技では私は倒せんぞ! 匈奴王よ!!」


 右の太刀を上段、小太刀を正眼に龍さんは構える。


「この小僧の体に潜めていた時から思っていた。貴様こそが我が覇道の邪魔になるとな。戦士よ、貴様は前の世で何者だったのだ?」


「海賊倭寇と呼ばれたよ。武装商船団を率いて母国からは将軍とも呼ばれた。家族のため船団のために女子供以外から、何もかも奪い取る海賊だった!」


「ふん、俺と似たような人生か。俺も奪い取るものはなんでも奪った。そして俺は世界をも奪い取り、英雄として再び俺の帝国を築き上げてやる!」


 ジークが白熱化させたツヴァイヘンダーを、向けて魔法を射出するも、一刀で魔法は切り裂かれた。


 そこにジークが思い切り突きにいくも、体捌きでかわされ、逆に二刀で絡め取られて、剣を巻き上げられる。


不可能だ(ブゥクンノウ)。いくら体を再生させようと、何度立ち上がっても、私には、いや私達には勝てない。家族の愛や人の心を無くした男の剣など!」


 一刀両断されたジークは地に落ちていく。


 剣や刀の勝負で、宮本武蔵の剣を体現するような彼に勝てる相手は、おそらく先生を除きこの世界にはいないだろう。


 そして、上空で火花を散らすような、先生とセトの勝負だが、セトの♀型の魔力装備、無数のアンクが回転し始めた。


 なにかを放つつもりね。


「させない!」


 私は先生の傍らに立ち、アークエンジェルを乱射してセトの動きを止める。


 すると銃撃を受けながらセトの体は垂直に浮遊し、高空で動きを止めて私達を見下ろした。


「もうワシャ時間がない。勇者と戦乙女よ、ワシの神としての最後の命の輝きを見せちゃるけえ。受け止められるかのう?」


 セトは神杖ウアスを放り投げ、両手を前に出して魔力を込め始めると、前方に回転する無数のアンクが回転し始め、文字通り最後の一撃に賭けようとしていた。


「へっ、生命力と神の神通力と魔力を、ありったけ全部込めた最後の一撃ってやつか。マリー、避けりゃこの世界はおろか、次元そのものすら吹き飛ぶだろう。引けねえ場面だぜ?」


「はい」


「俺は最強魔法を奴にぶつける。おめえもやつに全てをぶつけてやれ」


 私が頷くと、先生は鞘を具現化して、刀を収めて両手を右脇に抱えるように魔力を高める。


 杖に込める力は、分子や電子や粒子の光の核を、融合させ濃縮したエネルギーと光を崩壊させ、原子核の放射性崩壊を起こさせて、生み出されたニュートリノの光で重力すらも崩壊させるエネルギーを溜める。


 さらにアースラの極炎の力を込めると、幾重にも魔法陣が発生した。


「いくでぇ、天嵐灰塵(ウルネセト)


 形容できないエネルギーの奔流が、私達目掛けて繰り出される。


事象の地平線(イベントホライズン)

極天体爆発(プラネテスバースト)


 先生が漆黒のエネルギー弾を両手で撃ち出し、私もギャラルホルンに、全ての力を込めてセトにエネルギー波を撃ち込む。


 先生のエネルギー弾が、セトの繰り出すエネルギー波を飲み込んでいき、私の真っ白いエネルギー波が黒の弾の輝きに勢いをつけ、セトの体を包み吹き飛ばした。


「……ええのう、神に生まれて初めて本気の力を、強者に試せた」


 下半身を吹き飛ばされたセトが、地面に落下していき、私達もセトが落下したライヒジーク広場まで降下する。


 広場には、ナーロッパ最強の軍団と呼ばれたジークフリード騎士団を退けた、私の黄金薔薇騎士団が剣を掲げて待機していた。


 私は杖を上半身だけになって仰向けに横たわるセトに向けて残心をとる。


 セトのHPも尽き、MPもほぼ尽きかけ、彼の魂はもはや消滅間近。


 戦争と殺戮を喜ぶ狂気の瞳ではなく、黄金色の瞳が澄んだ黒目に変わって空を眺めている。


「……空が青いのう。強者よ、ワシを打ち倒した戦乙女(ヴァルキリー)と勇者。わしゃ神じゃけえ、最後にわれが思うこと、今のワシができる範囲でひとつだけ叶えちゃる」


「あなたに家族を殺され、故郷を奪われた者たちがいます。謝罪を述べてください」


 黄金薔薇騎士団が、セトを静かに見つめ、先生もセトをジッと見据える。


「……人間達よすまんかった」


 もはや起き上がれることも出来なくなったセトは、静かに私達に謝罪の言葉を述べた。


「そういや……元々ワシャ人間共から恐れられた一方、子孫繁栄をもたらす、守り神としても慕われてたのう。今更神としての想いを取り戻しても、もはや遅かったかもしれん……が」


 セトは、最後の魔力を発揮してピカッと光る。


「ワシが噴火させてボロボロになった島な、噴火を止めて、かの地に豊穣の願いを込めちゃった。せめてもの罪滅ぼしじゃ……最後に勇者よ」


 先生は、セトを見下ろしながら、ジッと目と目を合わせる。


「ワシの家族に、最後まで戦神らしく戦って死んだと伝えといてくれんか? そしてワシの力を継ぎ、エニアドの道を切り開く者、ウプウアウトに、戦嵐神を名乗れと……」


「おう、伝えといてやる。だから安心して消滅していいぞ」


 セトはふっと笑うと体が崩れ始め、砂埃のように空に舞い上がった。


「……全力の戦いで散り、最後に神らしい事できて……ワシャ……満足じゃけえ……」


 戦嵐神セトは、神としての想いを最後に取り戻し、満足げに笑って魂が消滅した。


 私の前にレスター公、ジョーンズ公、マッシモが跪く。


「我らが思い、主君マリー姫殿下が果たしてくださり感謝の極み」


 そうか、彼らにとっても仇だったセトは。


「失った人達は帰ってこないけど、これでみんなは前に進む事ができるかと思います」


「は! 我らが姫殿下!」


「ジークフリード帝国も、もはや私達には勝てないでしょう。もうこの戦いを終わりにしましょう」


 その時だった。


 整列する騎士団を押し除けながら、鎧がボロボロになり、頭部から出血したジークフリードが、帝国と自身の敗北を認められずに姿を現す。


「まだだ……俺はまだ戦える。帝王に負けは許されぬのだ」


 先生は溜息ついた後、思いっきりジークの顔面を殴りつけて、噴水へ吹っ飛ばす。


「負けだよバカヤロー。俺がこの世界に来た以上、ワルに最初から勝ち目なんざねえ!」


 ジークは起き上がり、先生に気迫を込めて睨みつける。


「まだだ! 俺の心は折れてない!! 俺は世界を征服するために生まれた男だぞ! 憧れのアレクサンダー大王のような征服を夢見て、大漢を退けた偉大な攣鞮(レンテイ)バガトルのような知性と、古のアキレウスやジグルズのような不死身の肉体を持つ俺が負けるかあっ!」


 私は首を振る。


「いいえ、あなたの負けです。かつて英雄と呼ばれた人。あなたの本当に愛した人は、こう言ったはずです。生まれてくる我らが子には美しい世界を。人々が互いに虐げあう醜い世界ではなく、安定を私達の子孫にと」


 私はジークの目をじっと見据えて、心を挫きにいく。


「なぜそれを……」


 全てはこれ以上犠牲者が出ないように、楽に勝利するためと、ジークからフレドリッヒの意識を取り戻すため。


「この世界で私の先祖だった人。英雄を目指した人。あなたは愛する者の願いを裏切り、親子の情をも裏切り、自身の英雄としての誇りをも裏切り続けて、この世界のあなたの子孫である人々を虐げた。前の英雄としての人生を否定したあなたの負けです」


 心が折れたのだろうか、ジークは宙を見上げて両膝をつき、涙を流す。


「今です先生」


「ああ、これだけ心を折ればジークと小僧の魂を引き離せる。帰って来い小僧、そして哀れな魂はあるべき場所、地獄へ還れ……解脱(モークシャ)


 先生の冥界魔法で、ジークとフレドリッヒの魂を分離させた瞬間、晴れていた空に暗雲が立ち込めて上空に血のように赤い魔法陣が出現する。


「これは……召喚魔法!?」


 ジークじゃない?


 誰がこの召喚魔法を発動させた?


 魔法陣から召喚されし者は、フランソワで私達に襲いかかった、アンデッドを操る白銀鎧に身を包んだ謎の白騎士だった。

4章ラストバトル二回戦に入る前に、この状況に至った経緯を三人称視点で説明していきます

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