第165話 マリーが学ぶダンプ特攻
私達は、サタナキア軍の大型輸送機で帝都ベルンに向かう。
「全世界よ、ここに神オーディンがおわす、ロレーヌ皇国改め、ジークフリード帝国建国を宣言する! 喜べ、全世界の戦火で苦しむ民達よ! 蘇りし我がジークフリードの手により、この世界のくだらぬ戦乱はまもなく終わりを告げる! 来るべき黄昏の世界、人類の理想郷が築かれるのだ」
通信用水晶玉の通信制限が解除されたようで、ジークが皇帝を宣言して、ジークフリード帝国を建国したそうだ。
「なんだボケコラ。建国1日で終わる国なんかおっ建てやがって馬鹿野郎。もうワルの好きにさせねえ」
「はい、終わらせましょう。フェルデナント大公の思いを果たしに」
私達は、ジークフリード帝国建国宣言を聞きながら、装備品の確認を行う。
「このジークフリード帝国に逆らう国は、我が魔法で完膚なきまで破壊する! 降伏せよ! そして我が前に跪くのだ」
「うおおおおおお皇帝陛下万歳!」
「ジークフリード! ジークフリード!」
先生は舌打ちしながら、真っ赤な鬼のような機長さんを呼んだ。
「戦況は?」
「はっ! 勇者様。ナーロッパ地方におきましては、順調に攻略中。ロマーノはカルロ地方を除き解放完了。フワンソワの敵勢力は全て撃破。シュビーツにおきましても先程、ジューの実権を握る事に成功と」
「おう、ロレーヌもといジークフリード帝国は?」
「同敵国の戦況については、各都市に我がサタナキア軍及び、極悪組精鋭、勇者様の義兄弟ロン皇帝陛下、その他の数多の世界より来られた精鋭の方々により、帝都ベルン以外の領域に進軍。勝利は時間の問題かと」
うわぁ、せっかく生まれたばかりの国なのに、先生が呼び寄せた軍団で、帝都以外一気に制圧かけたんだわ。
ほんとに、1日で決着しそう。
チートとかそんなレベルじゃないって。
「よっしゃ、じゃあ喧嘩前の腹ごしらえだ。カップ麺でいいや、ちょっと持ってこいよ。熱々のな」
「はっ!」
先生、これから戦争するのにカップ麺とか注文してるよ、とてもじゃないけど私は今、そんな気分じゃないのに。
あ、速攻で悪魔の人が先生にカップ麺持ってきたけど、あれだわ……この機内に充満するあの匂い、すぐ美味しい、すごく美味しいってフレーズのあのラーメンだ。
「これだよ、これ。たまによ、無性に食いたくなんだよ。このチキンラーメン」
「えっと、そうなんですか?」
「ああ、俺がガキの時だ。食い物なんかなかったから、店屋からかっぱらってきて、その辺の公園の電話ボックスの電話帳燃やして、拾ったボロ鍋沸かしてこればっか食ってたよ。俺が前世で最初に犯した罪な味だね」
話にはチラッと聞いてたけど、前世の先生の家庭環境は劣悪そのもので、小さい時から万引きとかして食い繋いでいたようだ。
「昔は袋麺でよ、お湯がねえ時はそのままスナック菓子みてえにして食ってた。お袋がよ、1日1回しか飯くれなくてね」
「そうですか……」
「もう恨みもねえし、てめえも親になってみてわかるんだ。戦後間もない時代、お袋も女手ひとつで生きてくには、さぞかし辛かったろうにってな。しんみりしちまったな、忘れてくれ」
こうして先生は、そんな劣悪な環境から抜け出すために、ヤクザな稼業に入ったんだろうなって容易に想像つく。
ていうか、私もなんか懐かしい感じがしてきたから、もらって食べようかしら。
私は、機内で自分の騎士団達の状態を確認する。
まず出撃前なのに、ボトルに口つけてワイン飲んでるハーバード侯と、回し酒でマッシモもワインボトル渡され飲んでる。
「酒はやめとけ、判断が鈍る」
クロスクレイモアに油塗ってるジョーンズ公が嗜めるも、なんかこれからパーティーにでも行こうか的なノリだわこの二人。
「飲まなきゃやってられんわ。俺の尊敬する武人がまた一人この世から旅立った。そして俺もまた戦場へ旅立つのだ」
「ふん、シシリー好みな詩的な言い回しだな、ハーバード隊長。まあ本当に飲まなきゃやってられんと思ってるのは、アヴドゥル殿下だろう。彼は祖国も家族も亡くしてしまった」
国を失った龍さんは私達にくっついて船団を率いてる。
彼の時代、敵に勝つには航行中はお酒を一滴も飲まず、タバコの嗜好品の類も我慢して、獲物に食らいつくと聞いたことがある。
私は別の隊長達にも目を向けた。
「これから向かうのは敵国首都ベルン。激しい攻撃が予想されると思われるが、貴様達は一人も欠ける事なく、マリー殿下と騎士団長代理殿について行くのだ」
「訓練通りやれば、血を流さずにすむ。俺たち黄金薔薇騎士団が世界最強だ!」
レスター公は、部隊の騎士達に声をかけ回って士気を高めている感じで、髪を短めに刈り上げたランヌ侯とアンジュー伯も、フランソワ軍の将校だった経験を活かして、隊長らしく振る舞っている。
一方のスコッティ出身の、スチュアート侯はさっきのバブイールの街の様子と、串刺しにされたフェルデナント大公の死を目の当たりにして、口数が減り顔色も悪い。
先生はラーメン食べたあと汁まで飲み干し、スチュアート侯の肩に手を回す。
「よう、これから喧嘩すんのにそんなツラしてると死ぬぞ」
「いえ……あの騎士殿の最期を見て、かの御仁ですら勝てぬような敵が相手かと思うと、気分がどうも」
「若いの、そんな考え方してると隙ができるぞ。そうだわ、おめえ腕出せ」
先生は懐から出した注射器手にして、スチュアート侯に注射したけど、確かあれって。
「す、すごい。気力が湧いてくる! 騎士団長代理殿、さっきまでの気分が嘘のようだ」
「おう、エルフの妙薬。身体能力と魔力、そして気力を高めるブツよ。お前ら全員に渡すからこれ打って気合い入れとけ!」
あれ、あんなに効くんだ。
注射嫌だから私はやらないけど。
ていうか先生が注射してると、完全にいけないお薬打ってる怖いヤクザだよね。
「これ副作用はねえけど、覚醒作用あるから。俺は気合入ってるからいらなかったけど、昔の抗争じゃ相手にカチ込む時、度胸がねえ奴はよくシャブを打ってたっけな」
そうなんだ、ていうか覚醒剤打ったヤクザが襲ってくるとかなにそれ。
「ヤクザの抗争怖っ!」
すると、スチュアート侯が顔を赤らめてるけど、何? 副作用なんかないって先生言ってたけど。
「ん、おう……ちょっと分量多かったか? まあ気にすんな、男だからしょうがねえ」
「で、ですがこれではさすがに戦闘では」
あ、スチュアート侯が私と目が合うとサッと視線逸らしたけど、えーとなに?
するとマッシモが大声で笑い出す。
なんだろう、なんか気まずい。
すると、レスター公がスッと私の横に立って耳打ちしてくる。
「姫殿下、少々言いづらい表現ですが、男が起き上がったのです」
「ん? だってみんな起きてるじゃない」
「いえ、そのナニが……」
だからナニって何!?
「勇者様、当機はまもなく敵国帝都、ベルンに到着いたします。以上サタナキア軍大尉アークデーモン!」
輸送機内のアナウンスと共に、帝都ベルンへの降下準備が整う。
「よおし、そろそろカチコミの時間だぜ」
格納庫に行くと、当然のように置いてある、いかつくて金ピカで装飾だらけの10トン以上あるダンプカーが姿を現す。
「ヘッヘッヘ、転生前のファントムも良かったが、カチコミならこれよ。マサヨシ・スーパー・グレートV10。排気量10万、1万馬力のダンプだぜ」
なにその、その厨二っぽいスーパーロボット的な車名。
荷台のコンテナには、女神ヤミーがウインクしてるでっかいイラストが入ってるし。
「どうよ? 装飾は俺がペイントしたり、溶接してくっつけたのよ」
「へー先生、溶接とかの技術もあるんですね」
「まあな、読み書きと算盤や木工は瀬戸で、松本は木工やったあと、洋裁。溶接や板金は金城と一緒だった府中だな。旭川にロングで旅した時は、やっぱ溶接。もう一回府中に帰ったら今度はモタ工だったけど」
うーん、色んな学校のようなところに行って技術を学んだって事なのかな?
「すごいですね、特に装飾とか溶接とは思えないくらい綺麗な仕上がりです」
「はは、俺の域まで行くのには20年くらい中で修行しなきゃだめかもな」
そんなに勉強とか職人技術身につけるの頑張ったのに、なんで先生ヤクザな事してたんだろう。
それにめっちゃダンプに強い思い入れあるし。
「先生、なんでヤクザの抗争と言ったらダンプカーなんですか?」
「おう、入手しやすく手軽で破壊力あるからな。いつから喧嘩で使われるようになったかは知らんが、俺が若い時代の昭和40年代から使ってた。あれさ、凶器準備集合罪ってあるだろ?」
あ、聞いたことあるそれ。
暴走族とかもそうだけど、バットとか鉄パイプとか持って集合したら、それだけで罪になるんだっけか。
「そうだ。でよ、凶器にも通念上の凶器と、用法上の凶器ってのがあるのよ。通念上の凶器ってのは、俺が持ってるドスやチャカとか刀、戦争で使う殺傷目的の道具だよな。一方、用法上の凶器ってのは、包丁だとかバットだとか竹刀とか、殺し目的じゃないちゃんと正しい用法がある道具よ。で、通念上の凶器、刀とかチャカ使って相手殺したり傷害事件起こすと量刑は重くなる」
あー、なんとかなくわかってきた。
戦争で使う道具と、別の用途に使えるけど喧嘩とかでも使える武器の違いって事ね。
「で、ダンプカーは凶器に入るか否か? となるわけだよな。確かあれは俺が駆け出しで住み込みしてた小僧の時、昭和42年の冬だったか? 大阪の組織とうちの組織でドンパチがあったのよ」
「はい」
「俺の組にも待機かかったが、そん時大阪の組織がチャカや刀持って、ダンプでカチコミかけようとしたところを、サツに凶器準備集合罪でパクられたわけ。そんで、これは最高裁まで争われた裁判なんだ。当時のサツや検事は、凶器の一種としてダンプも入れて起訴したわけよ。で、おめえさんこれはどうなったと思う?」
あー、なるほど。
用法上の凶器になるかもわかんないよね。
「用法上の凶器として認定された?」
「ダンプカーは、列車、飛行機、船舶と同様、人を殺傷する意図で準備された場合でも、人を殺傷する器具としての外観がなく、社会通念上直ちに他人に危険感を抱かせ得ない運搬目的の場合には、凶器にあたらないって判例が出たのさ」
ちょ!?
そうなのそれ!?
「じゃあ……」
「おう、凶器にならねえってなら、喧嘩で使えるってなるじゃねえか? そっからヤクザ同士の喧嘩でダンプが多用されるようになったのさ」
だよねえ、そういう裁判例出ちゃったら、先生みたいなヤクザな人が、悪用するよねー。
「基本はよお、こいつをバックに入れて敵の事務所や親分宅の正面に突っ込む」
「え? バックでですか?」
ダンプカーで前から突っ込むってイメージだけど、違うんだ。
「だってそうだろ? 前から突っ込んだらヘタ打つと大怪我すんじゃねえか。それにせっかく突っ込んだのに、相手から拐われたらぶっ殺されるだろう?」
あ、うん。
そうよね、正面衝突だもんね。
昔はエアバックとか無かっただろうし。
「だから普通はバックで突っ込んで、運転席から速攻で飛んでバックれんのさ。起訴されてもションベン刑だし、抗争で手柄立てたって男を上げれるから、ベテランのイケイケにもダンプ特攻は大人気よ」
あー、なるほど。
手柄上げずに死んだら、元も子もないものね。
「それに昔はよ、気合い入った若い者が、抗争おっぱじまったら俺が俺がって手柄上げようと躍起になったもんさ。昔の抗争は金になったからな。突っ込ませた俺も、よおしよくやったって札束ポンと出すだろ? 二日三日遊んだら、サツに出頭して来いってやったもんさ。けどな、俺自らやるなら、やっぱ真正面からぶっ込んだ方が格好いいだろ?」
ん? そうなの?
先生の言ってる事が、たまに意味がわからなくなる。
「真正面から特攻してよ、オラァ! 清水一家だこの野郎! ってもんで、ムチウチ我慢して運転席から降りて、その場にいる相手ドスでぶった斬った方がカッコいいじゃねえか。だから俺は人斬りって呼ばれたし、俺の組が極道社会で脚光を浴びたのさ。あいつら漫画みてえでやべえって」
あーうん、それは先生見ててそう思う。
やってる事が漫画やアニメの世界だもん。
「まあ、歳食ってそれやろうとしたら、親分は動かんでええですって、ヤスや金本達から止められたけどさ。親のために子がいるって原理原則な。けど行っときゃよかったなあ。俺が動いた方が喧嘩が早く終わるから」
転生前から先生、そんな感じだったんだ。
装甲車のような、ダンプカーの助手席に乗り込むけど、なんかこの車内シャンデリアとかついてるし、シートカバーが金ピカの西陣織だし、エンジンかけたらデフォで、先生の歌う演歌とか流れてくるし。
「おう、今かかってるのはよお、俺の歌う任侠一筋男道。極悪組の組歌よ、CDいるか?」
「いえ」
いや、いらない。
ていうかCDとかってあんまり買った事ない。
スマホにダウンロードすればよかったし。
「クックック、さあて俺のドラテク見せてやるか」
「ところで先生。やっぱりダンプカー運転してたって事は、大型自動車とかの免許とか持ってたんですか?」
「あ? んなもんねえよ」
「へ?」
えーと、今先生なんて?
「渡世にゲソつけて以降、今まで捕まった事以外は、サツの世話なんかになった事なんて一度もねえ。世話した事はあってもな」
ですよねええええ。
無免許上等なヤクザだもんね先生。
「まあ俺が転生前、組の幹部になるくれえかな? 昭和の時代に交通戦争なんか呼ばれてよ。さすがにヤクザでも運転免許とかねえと、サツから身柄取られるからって、若衆も取るようになったがな。暴走族の小僧らなんて、組に入ってくる前に、事前に取ってから渡世入りするのも多いし」
交通戦争とかってなにそれやばい。
先生から聞く昭和の時代って、ほんともう無茶苦茶だったんだな。
「だが俺のドラテクはすげえぞ? 若い時、後ろに乗せた親分衆の号令一つで、赤信号とかシカトしたりどんなに飛ばしても、今まで無事故無違反だからな」
いや、それは凄いとは言えない気がする。
そのー、たまたま捕まらなかっただけのような気がするし、そもそも法律違反だし、自慢していい話じゃない気がするし。
とりあえず、色んな意味で怖いからシートベルト締めようっと。
「行くぞ! 黄金薔薇騎士団の初陣だ。死にたくなきゃ、俺やマリーの後ろについて来い!」
大型輸送機のハッチが開き、雲の切れ目から眼下の帝都の様子が伺えた。
広大な森に大きな川を運河に加工したような、お堀があって、12角形に人工的に象られた市街地が広がり、大きな塔があって石造りの大きな建物が、多分皇居ベルン宮殿だろう。
他にも、マリア帝の別館みたいな大きくて豪勢なお城があって、大きな劇場だとか凱旋門みたいな門がある広場なんかも見える。
けど、なんかもう魔法とかで攻撃されまくって、あちこちで爆発とか火の手上がってるし、抗争ってよりこれ本当の蹂躙、末期戦争になってるよ……。
「よっしゃあ、フルスロットルだ。行くぜ外道共! カチコミだああああ」
先生はシフトレバー操作して思いっきりアクセルペダル踏み込み、ダンプが急発進して、物凄い暴力的な重力加速力が私の体にかかるけど、これって……え、ちょ!?
「先生! まだ雲の上なんですけど!」
「いいいいいやっはあああああ」
「きゃああああああああ」
ハッチから勢いよく飛び出したダンプカーの荷台から飛行機の羽のようなのが飛び出して、空飛ぶダンプカーになった。
帝都ベルン上空を疾走するけど、時速何キロ出てるんだこれ。
こんなに激しい運転だと、小学校の遠足でバス乗って乗り物酔いしたこと思い出して気分がって……空飛ぶ黒い集団がこっちにやって来た。
「ジークフリード帝国黒魔道士師団参上! て、ちょ!? こっち来る! きゃああああ」
「いやああああ」
「ハンナ隊長が吹っ飛ばされた!」
「こっちに向かって……轢き殺しに来るわ」
「きゃああああああ」
うわぁ、黒いローブ着た集団を次々と先生のダンプがひき飛ばしてくし、無事故無違反とか言いながら、早速事故起きてる。
ていうか、事故ってレベルじゃないよねこれ……。
あ、なんかファイナルなファンタジーっぽい壮大な曲が上空の艦隊から大音響で流れ始めたわ。
「ハッハッハア、演歌もいいがやっぱ世界を救う勇者って言ったらドラク●かこれだろ?」
「あ、いえ先生。世界を救う勇者は、問答無用な感じでダンプで人とか、はね飛ばさないと思うんですけど」
後ろから風の魔法で飛んでる騎士達も、バックミラー見たらなんかその、めっちゃ引いてるし。
「!?」
空が一面真っ黒になったと思ったら、沢山の黒い蠅が出現してダンプカーのフロントガラスを覆い、銃弾のように体当たり仕掛けて来た。
ワイパー動かしながら先生は舌打ちする。
「来やがったぜ、性悪女が。俺のダンプにまとわりつきやがって。マリー運転代われ」
え? 今なんて?
「あの五月蝿え蝿女落としてくる。運転代われ」
「えーと、先生? 私、その車とか運転したことないんですけど」
「遊園地のゴーカートと一緒よ。ハンドルで方向変換して、右のペダルがアクセル、左がブレーキ。一番左がクラッチペダル。シフトレバーとクラッチは弄らんでいい。ハンドル操作しながらアクセルベタ踏みしとけ。ブレーキは踏むな、エンスト起こして墜落するぞ」
あ、先生が運転席開けて外に飛び出した。
「うるぁ! 蝿女! てめえ俺のダンプ蠅まみれにしやがって! ぶち殺すぞコラァ!」
「うふふ、久しぶりだね勇者マサヨシ。もはや君には恨みはないが、私の計画の邪魔になるなら、あの時みたいに殺し合おうか? それに今の名は、魔宰相ベゼルと言う」
実体化したベゼルと先生が空中で銃撃戦みたいな感じになって、なんとかダンプを風魔法で浮かせるけど。
「どうやって運転すんのかな?」
私は運転席に座り、ハンドルを両手で握る。
「けど、や、やるしかない。やってやるわ」
ていうか、ハンドルでっかい。
えーと、確かこっちがアクセルだっけ?
ペダルを踏むと、ダンプが振動し始めて一気にスピード落ちた。
「間違った! え、えーとどうすれば。クラッチとか意味わかんないしアクセル!!」
アクセルベタ踏みしたけど、全然うんともすんとも言わなくなった。
「げっ、先生が言ってたエンストってやつだ」
すると、目の前に黒いローブ着た集団が、一斉に魔法とか放って来てダンプが振動する。
「きゃああああああああ」
その時、ハンドルのボタンにポチッと触れた。
するとダンプから沢山機関銃とか、ミサイル発射台みたいなのがいっぱい出てきて、前方の集団に撃ち始め爆発で吹っ飛ばす。
「ぎゃああああああああ」
「なんなのこれ? 魔法!?」
「魔力防壁を!!」
あのーごめんなさい、わざとじゃないから……。
するとまたダンプのフロントガラスに、さっきの蝿たちが次々とぶつかってガラスにヒビが入る。
「ワ、ワイパー!」
スイッチを操作すると、荷台が動き出して、眼下のベルン宮殿にするりとコンテナが落ちる。
「あ……」
私が呟いた瞬間、空気が振動して大音響が響く。
まさか、さっきのコンテナの中身って、なんらかの爆発物……。
すると、運転席の窓に黒いローブのおばあちゃんが、めっちゃすごい勢いで窓を叩いてきたので、少しだけウインドウ下げて、なにを言ってるのか聞く。
「この馬鹿者がああああ。布告なしの宮殿への攻撃は、ナーロッパバーグ陸戦条約違反じゃ! この痴れ者めえええええええ」
「ご、ごめんなさい。わざとじゃ……」
老婆の剣幕があまりにも怖かったから、窓のウインドウ閉めようとしたら別のボタンに触れてしまう。
「あ……」
すると、運転席ドアから、ガスバーナーみたいな火炎放射し始めておばあちゃんのローブを燃やす。
「ぎゃああああああああ」
「うあああああ、ごめんなさいいい。やっぱ私には運転無理!!」
杖、ギャラルホルンを持って運転席から飛び降り、ダンプはコントロールを失って爆発炎上してるベルン宮殿の塔部分を壊しながら下に落ちてって全部の武装に衝撃が加わったのか、大爆発を起こした。
威力強すぎて、キノコ雲みたいな黒煙上がってるし。
「ハッハーよくやった! 見事に相手本部へのカチコミ成功だ!!」
……いや、狙ってやったわけじゃないんだけど、まあいいか。
「勇者め……相変わらずやり口が極悪すぎる。戦争の時ブルームーン要塞を破壊した件といい、君こそ悪魔じゃないか?」
「てめえが言うなボケ。てめえのせいで世界の敵みてえなテロリスト呼ばわりされたり、魔物の群れでぶっ殺されそうになったぜ」
先生は悪い笑みを浮かべ指をパチンと鳴らす。
すると、ベルン市街地にダンプカーやクレーン車の重機に戦車、装甲車が沢山現れて、騎士達をはね飛ばしながら、拠点とか砦みたいなところを蹂躙してく。
「俺の組を継いだ二代目は、血の気が多いイケイケが揃ってやがるなあ。初代にして総裁相談役の俺としても鼻が高いぜ」
黒いローブを着た集団や、さっきのおばあちゃんとか、風の魔法に長けた敵の騎士達が沢山こっち来て憤怒の表情で睨みつけて来た。
私の黄金騎士団も全員こっちに降下してきて集結する。
「ベゼル閣下、この者共は!?」
「副宰相トレンドゥーラよ、やつは歴戦にして極悪な勇者、名をマサヨシ。私の王国もやつによって滅ぼされた」
龍さんも二刀を装備して、マリーク戦士団も空飛ぶラクダに乗ってやって来た。
「そ、そなたバブイールの皇太子!? アヴドゥル!? 暗殺されたはずでは」
「御老体、ロレーヌがやった事は戦時国際法違反。バブイール王都、老若男女も王族も、全て死んだ。悪の帝王、ジークフリードの手によって!」
すると、黄金鎧を装備する戦乙女ブリュンヒルデを伴う、赤と金の鎧姿のジークが姿を表した。
「痴れ者共が、俺のジークフリード帝国に貴様らよくも……」
憔悴し切った顔をしていた。
地球で名を馳せ、異世界で英雄とも救世主ともされた彼でも、多勢に無勢の状況。
歴戦の彼でもこの戦況を覆すのは、もはや不可能に近い状況であると私は思った。
「だが負けはせぬ。この世界に蘇ったジークフリード帝国を、世界征服の夢を諦めてたまるか。俺は、世界を征服するために生まれ変わった。そして愛する妻と再び会うために、神に忠誠を誓ったああああああああ」
魔力がほとばしり、彼の長大な鉄塊のようなツヴァイヘンダーが光り始めた。
「悲しい人……あなたが忠誠を誓った神は邪神だ。この世界を蝕む、自分勝手な存在なのに。あなたを止めますアッティラ、そしてフレドリッヒ、私達の元に帰ってきて!」
第4章のラストバトル開始です