第158話 ジョンデリンジャーデイ 中編
フランソワ共和国では、大統領デリンジャーを中心に、シュビーツ共和国に居城を構える、ランドハルト・フォン・ハプスベルグへの誘拐及び強盗の計画を企てる。
「ヘーイ! ギャングなジェントルメン、仕事の時間だぜベイベー。今回の強盗場所はここだ!」
監視衛星で撮られた高空写真を、前世がデリンジャーギャング団だった黄金竜騎士団の面々が見つめる。
「候補地は3つだ。シュビーツ中央部、アールズガルズ。ロレーヌと国境を接してる山岳地帯におっ建てられた、この石造りの要塞みてえな城が、ハプベルグ城よ」
ハプスベルグ城。
この城の歴史は古く、500年前に遡る。
ちょうどヴィクトリー王国、ロレーヌ皇国、そしてフランソワ王国が成立した年代に、かの城は建立されたのだ。
ロレーヌの初代にして、ヴィクトリー王国初代アルフレッド大王の子弟、ジークフリード帝国最後の皇帝ロレーヌ・レオン・ジーク・ローズ・ヴィクトリーにより、伯爵の地位を保障され、後に皇国を名乗るロレーヌに表向き従い、皇室と良好な関係を維持しながらハプベルグ家は今日に至る。
ハプスベルグ城は、500年もの月日で増改築され、居住棟、小塔、本館、別館、来賓館が形成され、衛星画像によると、現在は人が住んでおらず、シュビーツ傭兵団により大型馬車が行き来する様相となっていた。
「この要塞みてえな城が、おそらくこの世界の基軸通貨リーラを作ってやがる造幣所にして大銀行だ。銀行強盗はおめえら得意だろ? まずはここを押さえちまう」
「了解だジョン、いや大統領閣下」
「腕がなるぜ、前世でオハイオとかの国立銀行押し入ったのを思い出すな」
「分担は? 支援は別の世界から来たエルフの軍団が担当するらしいが?」
デリンジャーは、黄金龍騎士団の面々を、右手で制する。
「分担は、ピアポント! クラーク! おめえらがサブリーダーだ。分隊率いて出入り口押さえちまえ。ピアポント、ジェームズ、エドワード、ホーマーはAチーム。クラーク、ウォルター、エディ、チャールズはBチーム。Cチームは俺、フロイド、ハミルトン、トミー、ハッサーン。城を確保して、中のブツを改めたら、仲間のシミーズの組織に引き継ぐ。問題は次だ」
デリンジャーは、二枚目の航空写真をメンバー達に掲示する。
「シュビーツのジェネーブにある大邸宅。ナーロッパ最高峰アルペスにおっ立てられた、ハプスベルグ伯爵邸、ここは警備も厳重だ。それともう一つ」
デリンジャーは、三枚目の衛星写真をメンバーに見せる。
「ここは、もともとダヴォスって言う名の、小さな村だ。スキーとかしやすそうな山中にある寒村よ。だが、ここで国際金融資本の奴らが、シミーズの組織の動きを察して籠ってるんだと。ダンスホール拵えて、飲み食いしたりお楽しみ中らしいぜ? 大戦で人々が苦しんでるのによお」
デリンジャーは、七色鉱石製魔法銃をトンプソン機関銃に変えた。
「やってやろうぜリーダー」
「ふざけた奴等からは強奪だ」
「終わらしてやろう。俺達で」
デリンジャーは、ブリーフィングに出席した、極悪組若頭、エルフのブロンドを見る。
「いつでも大丈夫です。ガンシップを用意してますので、現地にて存分に貴方達の仕事を」
デリンジャーは、小さく頷きマシンガン片手に両手を広げた。
「オーライ! 行くぜお前ら! デリンジャーギャング団の仕事だぜ!!」
音速を超えるガンシップ機内で、デリンジャーギャング団は、襲撃地点の地理や図面を読む。
第一襲撃地点は、ハプベルグ城。
作戦内容は傭兵団が警護する要塞のような、石造の居城の出入り口を制圧して封鎖。
デリンジャーが城内を臨検して、制圧する流れである。
「間も無く目標地点! 降下準備! 繰り返す、降下準備用意!」
黄金龍騎士団もといデリンジャーギャング団達は、収穫の終わった麦畑にガンシップ後部から、ハット帽を目深に被り、黒のコートと背広姿の男達が姿を現した。
全員が七色鉱石製の魔力銃を、トンプソン機関銃の形に変え、最新式のワイヤレスタイプ、小型インカム方式の無線機を装備している。
「へっ、俺の時代にこのブツがありゃあ、大声張り上げて喉が潰れねえで済んだんだがよ。クロウ! 周辺をサーチしてくれ」
「ラジャー、マイマスター! ファッキンリサーチ!! ファッキンアスホール!」
「援護は僕らエルフ連合が担当します! 皆様、ご武運を!」
上空から弓を構えた赤いヘルメットとプロテクターを装備した乙女達の弓兵と共に、歴戦のエルフの戦士ブロンドが、八咫烏と共に上空の警戒を始める。
「ヘイ、ボーイズ! くそったれな最低で最高の強盗の時間だぜ!!」
デリンジャーの号令で、男達はハルバードを装備した傭兵たちを戦闘不能にしていき、三方向からハプベルグ城を制圧していく。
「居住棟クリア!」
「別館クリア!」
「本館クリア、Cチームが内部を散策する。敷地のガードは、AとB頼んだぜ」
デリンジャーは、自身のチームを引き連れ、城の本館の地下へ降りていく。
「I agree! こちらAチーム、お客さんだぜ、応戦する」
「BチームRoger 傭兵団共のお出ましだ。時間はかけられねえリーダー。ポイント2、3が控えてるんだ、さっさと頼むぜ」
侵入者に気が付いたシュビーツ傭兵団は、ハルバードを装備した白兵戦術の部隊と、ロマーノ製魔法銃のライフルで狙撃戦を得意とする、スナイパーらで構成されていた。
「すまねえ、エルフのブロンド。援護頼む」
「了解しました。我々の弓で対処いたします。ヒト種より、狙撃戦は我々の方が上ですので。スルド補佐、傭兵隊への白兵戦には君のダークエルフ騎士団を」
「はい、若頭。俺に続け、騎士達よ」
エルフのブロンドのハンドサインで、次々と矢を射られた傭兵達が倒されていき、展開されたシュビーツの白兵戦部隊に、魔法騎士のダークエルフ達が切り込んでいく。
「お前達、殺すなよ。負傷者は敵味方問わず救護せよ」
デリンジャーはCチームを引き連れ、城の本館の地下室を降りて行き、警護の傭兵団を制圧していくと、施錠され頑丈そうな金属扉が立ち塞がる。
「みんな下がってろ、吹っ飛べ!!」
黄金に輝くコルトガバメントのような神器、ヴァジュラを取り出したデリンジャーが、扉を吹き飛ばした。
中は、山を掘り進めた46755㎡、東京ドーム一個分の広さをしており換気口は白の塔と繋がっているが、上半身裸の老若男女が溶かした金属を型に溶かし、金銀銅貨を作っており、おそらくは魔導機械で事故を起こしたのだろうか、造幣所で働く者の指が欠損していた。
「なんだ、貴様ら! ここは……」
デリンジャーは無言で、造幣所の監督役にトンプソン機関銃を差し向けて両手を上げさせた。
「へっ、なるほど。こんな山の中で大量生産してたらわかんねえよ。基軸通貨リーラをこんなところで作ってるとはなあ、ここだけじゃねえだろ?」
デリンジャーは監視役に銃口を突きつけ、尋問を行おうとした時、作業する子供が熱中症を起こしたのだろうか、倒れてしまったのを見て駆け寄る。
「おい、てめえら何やってんだよ。このガキ助けてやれっての」
「……」
周りの者達は一瞥もくれることなく、自分の作業に没頭しており、舌打ちして介抱するデリンジャーに重労働していた子供が、働かなきゃとうわごとのように呟く。
「てめえら……こんなガキにまで!!」
デリンジャーギャング団に拘束された城内の監督官達は鼻で笑う。
「ふん、こいつらは我らシュビーツが買い取った奴隷だ。奴隷をどう扱おうと、法的に問題なかろう?」
「っ……!」
「我らは長い間、ヒトからこのような扱いを受けていた。逆に奴隷にして何が悪い?」
デリンジャーは、他のメンバーに子供を託した後、拳を握り締めて悪びれない監督官を殴りつける。
「悪いに決まってんだろうが! サノバビッチ!! 何様だてめえ!」
「……ヒト風情なぞ生きようが死のうが知るか。俺達ジューの先祖は、ヒトに耳が長いってだけで差別されてた。先祖の地ノルドも俺達を雑種だって言って見捨てたんだ。お前もフランソワ人なら、俺達と同じ民族の血が流れてるなら、ナーロッパから雑種呼ばわりされてるならわかるだろう? 俺達は本来の本名すら名乗れずに、生まれた時に耳を切って、仮の名で一族達は耐え忍んでいた。だから、ヒトに何を言っても何をしても道徳的に俺たちは奴らより優れてんだよ」
陰鬱な瞳の色をしたジューの監督官は、デリンジャーに、ヒトを虐げて何が悪いと嘯く。
デリンジャーは拳を握り締めたまま、怒りを押し殺して踵を返した。
「だからって……今生きてる人間を差別して、人間憎んで、虐げて、それで世の中が変わるのかよ……」
「ああ、変わるね。少なくとも俺の気分が晴れ晴れとする」
造幣所を制圧したデリンジャー率いるギャング団は、やり切れなさを胸にエルフのブロンドと合流し、中であったことを報告する。
「……そんな、この世界のエルフの血を引く者達の心も魂も、そこまで歪んで……憎しみを募らせてるなんて……」
「ああ、奴らはねじくれちまってる。アレクセイって野郎と、これから身柄取りに行くシュビーツの首領、ランドハルトの野郎達もきっと」
異世界で滅びゆくエルフの男子、王として生まれた齢160になる少年、渡世名ブロンドこと本名グルゴン・トワ・エルフヘイムの宝石のような青い瞳が輝きを帯びる。
「……わかりました。僕が、エルフの王として生まれた宿命の僕が彼らを……。スルド補佐、新しくブロック長にしたヨハンを呼んでほしい。あとロバートの叔父さんのファミリーにいる、シーエルフのラミアにも話を通してくれないか?」
「はい、若頭」
シュビーツのハプベルグを制圧し、遅れて合流して来たジローと勇者ロバートは、事情を話して協力を仰いだ。
「そうかーわかったん! デリンジャーはダヴォスに行くといいさー。ロバートと我はランドハルトのヤサ抑えるさー」
「ミスター、この世界の差別問題の鍵を握るのが彼だ。ブロンド、君の男が試される場だ。次期組織跡目として、勇者を目指す君の試金石だろう」
「はい叔父さん」
デリンジャーは、帽子のツバをクイと左手2本指で上げ、トンプソン機関銃を右腕に担ぐ。
「オーケイ! 8回裏にヒット打って満塁状態だ。決めに行くぜ」
「おう!」
彼らは二手に分かれ、襲撃場所に赴く。
この世界の人種差別問題に決着をつけるために。
「ロバート、我はその屋敷行く前に、ちょっと寄るとこあんさー」
「うむ、アルペス山脈麓から山中をトンネルのようにした傭兵団の本部基地か。救ってやりたまえ、先祖の因縁からも、彼らを縛る呪縛からも」
ジローは、手に神器如意棒を所持して傭兵団基地に飛び立ち、基地入り口前に仁王立ちになり、周囲をハルバードを装備した重武装の兵団が取り囲む。
「お待ちしておりましたジロー様。ナーロッパ最強と誉高い、我らがシュビーツの狼の砦にようこそお越しくださいました」
一団から、ロマーノから撤退して来たジローとは旧知の仲のシュミットが、周りの傭兵よりも一回り大きいハルバードを装備して対峙する。
「何ーやん。虎の穴かー。ひめゆりぬ女学生が悲しんだようなーくぬ洞穴でぃ、お前、世界ぬ憎しみー育んだばー?」
「もはや……私には憎しみも恨みもありませぬ。ですかジロー様、私は本家より命令されたんです。私は、オーディンの使徒として、戦う戦士としてこの身を捧げた。ですが、私はロマーノを……あなた達を好きになって、私は!!」
「そうねー、シュミット。お前、わじわじーしてぃ、うかしくなりそうなんやろ? 先祖と我らに板挟みになってぃよー」
ジローは如意棒を魔力で伸ばして、古流空手、沖縄王家武術、棒術の構えを取った。
「思い伝えいしぇー言葉てーんやあらん! 我が心根受け止めるばー!! きわさぁ、シュミット!!」
ジローは単身、ナーロッパで白兵戦最強と言われる、魔法傭兵団と大立ち回りし、片っ端から如意棒を振り回して、傭兵団を吹っ飛ばす。
一方。異世界マフィアを率いる勇者ロバートは、デリンジャーギャング団の誇りにかけて、ポイント2ジェネーブにある大邸宅及びその周辺を制圧していく。
「てめえらこいつら殺すんじゃねえぞ。俺が敬愛するミスターは殺しを望んでねえ。死なねえ程度にマザーファッカー共を痛めつけろ!」
「イエッサーボス!」
邸宅にロバート達が突入し、庭園を改めると、あまりの光景に百戦錬磨の異世界マフィア達も絶句し、ロバートはジーザスと呟き十時を切る。
「こいつらは……ここまで心根がねじくれてんのか。人間を、生き方も尊厳すらもコケにするファック野郎ら! 俺はダヴォスに向かう!! てめえらはここを完全制圧し、目の前の人々を保護しろ!」
デリンジャーの襲撃地点、アルペス山脈にあるシュビーツ寒村のダヴォスでは、村長にしてハプスベルグ家のクラウスが、寒空の中、村の広場で立食する、世界中から集まったジューの名家、キエーブ本国より貴族の称号を持つ者達へ、ある催し物を行おうとしていた。
「レディースアンド、ジェントルメン。このダヴォスに貴族の皆様方がお集まりになり、このクラウス恐悦至極に思います。さあ、さあ皆様、これよりシュビーツの名産品の、新種の2本足羊を披露しようと思いますのでどうぞご覧いただきたい」
クラウスが指を鳴らすと、牧羊犬に追い立てられ、村の広場に4足歩行しながら羊の毛皮を被った男女や子供の奴隷達が姿を表す。
ケシの実で出来た医療目的の麻酔を濃縮させた、薬物を服用して中毒者に仕立て上げられている。
「ハッハッハ」
「これは何とも面白き催し」
「ほれ羊達よ、めーと泣くのだ」
「オホホホ、殿方も趣味が悪いこと」
ナーロッパ中から集められ、心が死んだ奴隷達は、めーめーと羊のように鳴き声をあげ、世界中の民族衣装を着たジューの老若男女が指を指して嘲笑を始める。
「この後メス羊の乳搾りや、羊のバーベキューに、子羊とも色々戯れる事も可能ですが、我らがジューの大公にして、これより子羊に種付けを行う、ランドハルト様のお出ましでございます」
白の貴族帽子を被り、白皮と金具で作られた紐のような衣装を着て、だらしない胸と腹を強調し、股間に白い角のケースをした、アゴが長くだらしなく涎が垂れた中年男が現れた。
「さあ、後領主様のお眼鏡にかなったメス羊に、種付けショウを行います。どうぞ、御領主様」
「ぐ、ぐっふっふ。マ、マトン肉ではなくたまには10歳以下のラム肉を食したいのう。ど、どおれ」
すると、雪が積もる寒村にタイプライターにも似た渇いた銃声が響き渡る。
「へっ、後世じゃジョン・デリンジャー・デイだっけか? 俺の命日でフェスティバル開くらしいが、なんか恥ずかしい感じだぜ。よう、悪趣味な祭りのショウを盛り上げに来たぜ……ヒーロー様がよ」
村の広場に帽子を被った背広にコートを羽織った男達がマシンガンを持ちながら、周囲を取り囲む。
すると羊の毛皮を被った人々が、鳴き声をあげて四つん這いになった光景を見た彼らの目に、怒りと悲しみの色が浮かんだ。
「……その様子じゃあ、てめら人間としての誇りも魂も無くしちまったらしいな? 豚野郎共めが……人間をなんだと思ってやがる貴様ら!!」
デリンジャーは、トンプソン機関銃を構えると、ランドハルトに向けて細かい散弾状にした土の飛礫をイメージし、魔力弾の初速を落として乱射し始めた。
「ぎゃああああああああああ!!」
身体中が痣や内出血して、ランドハルトはのたうち回り、ギャング団のメンバーもそれに倣い、トンプソン機関銃を模した魔力銃を、ジューの貴族達に乱射し始める。
「うああああああああ」
「きゃああああああ」
「お助けええええええ」
逃げようとした村長のクラウスが、デリンジャーの魔力銃の銃床を振り下ろされて膝を付き、無抵抗を示すために両手を前に突き出すと、思いっきり顔面に前蹴りが入る。
「あ、あああああ前歯が!! 奥歯があああ」
デリンジャーは、村長のクラウスを尻目に、冷え切った地面にのたうち回るランドハルトの尻に、渾身の蹴りを叩き込んだ。
「うぎゃああああああ」
悲鳴をあげるランドハルトへ、容赦なくデリンジャーが連続で踏みつけて、怒りをあらわにする。
「てめえは……てめえらは! ヒトから差別されたって言いながら、やってる事は鬼畜の所業にも劣る最低のゲス共だ! てめえのチン●ケースをブチ折ってやろうか、ガッデムシット!!」
股間に蹴りが入り、ランドハルトは雄鶏のような甲高い悲鳴を上げた。
「人を虐げて、こいつらから人として生きる権利を奪いやがって。そんなに世界が憎いかよ! 人間いじめて尊厳を奪って……人権を無視しやがって。てめえらが邪悪だ! 人間が人間にする行いじゃねえ!!」
するとジューの貴族達が平伏して、懐に入れた金貨や銀貨を差し出し始めた。
「か、金! 金なら腐るほどある」
「お金目的なんでしょ賊達」
「払おう、いくらだ? 糸目は」
「だから殺さないで」
デリンジャーは宙に向けて、トンプソン機関銃を発射する。
「いらねえ! お前らの命なんざも! 薄汚れた金も! 俺たちを見くびるな豚野郎共が!!」
デリンジャーの啖呵と怒りの眼差しに、ジューの貴族達は困惑する。
「はっ? 傭兵団を!」
「そうだ! 我がジュー最強の」
「我らが戦士達が助けに来るはずよ」
非殺傷弾を連続で受けて、痛めつけられたジューの貴族達は、自身達を守護する傭兵達がすぐに駆けつけ、目の前に現れた強盗団を排除すると思い込んでいた。
「お前らの、傭兵団を連れて来たさ」
サングラスをかけ、パナマ帽を被った黒い肌の伊達男がシュビーツの傭兵団を引き連れて、彼らを取り囲んだ。
「シュ、シュミット!?」
村長のクラウスが四つん這いの状態で、傭兵団の頭領である自身の息子を見上げる。
「父上、もはやこれまでです。人間社会で爵位を持つハプベルグを傀儡にしていた、キエーブ王家の血を引く我らシュビーツ・ルーシー一族の終焉の時」
ダヴォス村長のクラウス・グッゲンハイム・ルーシーが、実質のシュビーツにおけるジューの支配者であり、ハプベルグはランドハルトの代で純血主義が災いして近親婚を繰り返した結果、重度の発達障害をおっていた。
「くぬクサレ汚れ。お前ら人間から差別ー受きとーんやあらん。今ぬお前らが邪悪、差別主義者やん!!」
ジローから本質を突かれ、ジュー達が騒めき立つ。
「だからなんだ!」
「我々は薄汚いヒトよりも金も力もある」
「ワシらは道徳的に優位なのだ」
「同じことをヒトにして何が悪い」
「これだから野蛮なヒト種は」
ジローはベヒモスフィストを手に装着して、拳をポキポキと鳴らす。
「言いたい事、それだけかー外道。ぶっ殺すぞ汚れ」
ジローが、ジューの貴族達全員に殴りかかろうとした時、少女の笑い声が響き渡る。
白銀鎧に白いケープを羽織った緑髪の狂戦士と化した戦乙女のエイラだった。
「ほんっと使えない道具共ね。冥界の女神の使徒にあっという間に片付けられちゃうなんて。それでも父オーディンの信奉者かしら?」
「お前は、確かオーディンの戦乙女!」
エイラは、指摘したデリンジャーを見て歪んだ微笑みを浮かべて、シュビーツ伯爵ランドハルトを炎魔法で焼いた。
「あ、ああああああああああ」
炎に包まれ、生きたまま焼かれたランドハルトを見たジューの貴族達は、恐慌状態に陥り、一斉に悲鳴を上げ、デリンジャーギャング団の面々が、羊呼ばわりされた奴隷達を避難させる。
「うわくっさ、それにきもいわねこの豚。とてもフレイ様が昔作ったとは思えないほどの醜悪さ。雑種だから? さあさ、あなたデリンジャーって言ったかしら? 素敵な殿方、私とデートしましょ?」
エイラは、デリンジャーの体を燃やそうと、炎魔法の魔力を高めた。
「ちぇいさぁ!」
エイラの体を、ヘルメスの靴で加速したジローが回し蹴りを放ち、吹っ飛ばす。
「女んかい手ェ上げんの嫌やしが、そうも言えない感じさぁ……!?」
すると、亜空間からランスが飛び出して来て、ジローの体を突こうとするが、気配を察したジローは、ヘルメスの靴の素早さで回避する。
「ふっふっふ、やはりなかなかの武人と見た。このゲイラが槍でお相手いたそう」
赤と白銀の全身鎧に身を固めた銀髪のショートカットをし、以前よりも目に影が出来た顔をした戦乙女ゲイラが現れると、エルフの女戦士達が次々と降り立ち、トワの森をイメージした緑の長着を着た少年、ブロンドが空から戦乙女達の前に姿を見せる。
「きゃー、これよ、これだわ! 生きた宝石とも言われる純血種のエルフ達! その中でも彼はフレイ様が作った最高傑作、高スペックを誇るハイエルフの中でもサファイアのような瞳を持つ、起源種だわ!」
「ああ、素晴らしい。よもやこの世界でレアな姿を拝めるとは。幾多の次元世界で絶滅危惧種に指定された起源のエルフ」
突如現れたエルフの少年に、ジューの貴族達も息を呑む。
先祖の伝承に残された、真なるエルフの姿をした美少年に、崇拝にも似た感情を抱くが、エルフの王の如く少年は、戦乙女を含め集まったジュー達にも嫌悪感を抱いた。
「汚く醜い……ここは。人間が獣の皮を被らされてて、逆に人間の姿をした獣達が人間を使役して酷いことをしている……立場が弱き人々を!! 神の名の下に弄ばれて、許せない」
少年の瞳が、悪を憎む気迫が籠った男の目つきに変わり、極悪組若頭ブロンドがエルフの乙女二人がかりで持って来させた自身の愛弓、全長2メートルを越す、大コウモリのシルエットにも似た、禍々しい漆黒のコンパウンドボウ、通称黒弓を手にする。
剛性の高い魔界樹を高温で焼き、カーボン状にした炭素繊維のライザーに滑車が装着され、い弦は大精霊の祝福を受けたオリハルコンで作られた綱糸。
「僕の信条は人と人とが信じ合い、義理を果たす信義だ。親父さんより受け継ぎし、信念。弱きを助け強き悪を挫く信念と共に、滅べ……悪党共!!」
ブロンドが着物をはだけた瞬間、いつものシルフではなく、大精霊フューリーの力で青く輝く蝶のような羽根が背中から生えて、絶大な魔力が付与されて瞳の色がさらに青き輝きを増す。
するとエイラは上空を指さすと、元天使の身分を持つ彼女達の同僚、戦乙女の集団が舞い降り、アルペス山脈を黒い雪雲が覆い始め、ヴァルハラの狂戦士の気と別世界から来た悪意が、次々とジューの貴族達に乗り移り、ヒト種へ呪詛を唱える狂信者となった。
「神オーディンに栄光を! ヒト共に死を」
この光景を目撃した、傭兵団長シュミットは金と権力とヒトへの憎しみに狂った父親、クラウスを見てハルバードを構えた。
「私は……いや私の一族が間違ってたんだ。人と人とが結び合う手を振り解き、手を差し伸べるどころか悪意を振りまく神を正当化し、憎しみを大義にして他者を蔑む悪!!」
するとシュミットの前にアシバーのジローが前に立つ。
「人の自由と心根を踏みにじーる汚れ! 我が全部拳骨さぁああああああ」
ジローの思いに、デリンジャーも応えるように、戦乙女に黄金銃ヴァジュラを構えて、肩に八咫烏が乗る。
空中空母が何隻も上空に飛来し、勇者が呼び寄せた軍勢がアルペス山脈頂上付近の寒村、ダヴォスに降下し始めた。
「素敵な戦場になりそう。お姉さん達本気出しちゃう」
エイラの鎧が爆ぜて緑色に輝くシルクでできたのような、ビスチェとガードルの妖艶な姿になる。
「素晴らしいな、良き闘争になるだろう。フフフ、アハハハハハ!」
ゲイラが身につけた白銀の鎧が爆ぜ、インナーとして着用しておるであろう、ボディラインを強調した真っ赤なレオタード姿となり、ランスを構えた。
「オーケーレディス! それにクソ野郎共! 銃弾と魔法が飛び交うダンスパーティ、ショウタイムだぜベイベー!!」
デリンジャーギャング団全員が、武器を構えてオーディンの僕、悪徳の集団に立ち向かうため、リーダーのように不敵な笑みを浮かべた。
後編に続きます