第153話 半グレの白薔薇 前編
早朝、エリザベスこと絵里は配信で流れてきた映像に絶句する。
「こ、これは……漆黒!? 拉致されてて……まさか私が指示した魔王討伐に失敗!?」
自分が作ったこの世界の組織、チート7の構成員†漆黒†が魔王と思い込んだ、勇者マサヨシに敗北し、ヤキと言う名のリンチと拷問を受け始める映像に冷や汗が流れ出し、†漆黒†との通信記録の一切を消去したと同時に、漆黒が刺される映像に、思わず目を背けた。
これはある種の情報戦略の一種。
自分がいかに恐ろしいか、怖い存在か、敵対するとどういう目に遭うのかと言ったヤクザの恫喝である。
「はーい、注目ぅ。ヤクザな俺から、視聴者のみんなにレッスンしようか。まず刃物を使った殺しかたからなー」
倒れた漆黒の体から、どす黒い血が流れる光景に絶句し、エリザベスはこの目の前の魔王と思い込んだ男が、殺人を一切躊躇しないことに恐怖を覚える。
「このガキャア! てめえの親分誰だ!? 白薔薇ってのは、どこのどいつだこのボケェ!!」
――うっ、私の組織の事がばれてるわ。やはりロキの言う通り蒼魔は敵のスパイだった? それにヤクザって……こいつ本当に魔王なの? この暴力、まるで本物の暴力団のような……転生前はネットでしか彼らとはやり取りしたことないけど。
すると、いとも簡単に匕首で漆黒の小指を斬り飛ばすのを見て、エリザベスは絶句する。
「もう一本指詰めるか!? おう!?」
「うあああああ、やめてよおおおおお、許してえええええ」
腹を刺され指を切断されて泣き叫ぶ漆黒に、容赦なく暴力が振るわれていくのを見て、エリザベスは朝食べた目玉焼きとパンを戻しそうになる。
「この男、やはり暴力を使うのに何らためらいもない……。漆黒だってそこそこ強い筈なのに、手も足も出ずに……本当に大人の暴力団、ヤクザのようだ……」
うつ伏せに転がされた漆黒の刺された腹に、蹴りが入った瞬間、血が混じった吐しゃ物を吐き出した光景を見たエリザベスは、もう吐き気に耐えきれなくなり、自室のゴミ箱に胃の中身をぶちまけた。
「俺が憎む真の邪悪とはっ! 無抵抗な心根の優しい人々の尊厳を踏みにじり! ただ悪を成すための悪だ! 悪とは人の道を外れた外道! てめえの事だぞ小僧! てめえが魔王やら反社呼ばわりした俺が……悪を裁く勇者だ!!」
えずきながら映像を見つめるエリザベスは、勇者と言う単語に絶句する。
「……うぇ? 勇者って……コイツ魔王だって話じゃなかったの!? フレイアの馬鹿女、こいつはこの世界にやってきた魔王だって言って……」
彼女は初めてフレイアに会った事を思い出す。
侍女に化けて王宮にルイーダの名で潜伏した彼女が、ある日の夜、自室に異形の狼と大蛇が姿を現した事を。
「王女殿下、実はアタシ神なの。この世界を創った女神フレイア……聞いたことなあい? アタシのジークと一緒に魔界の魔王からこの世界を救った神よ」
厳めしい顔の侍女から、黒のローブ姿の金色に光り輝く神を持つ美女、いや女神の姿へと変貌する。
「人間の姿にされちゃったから、力を取り戻すのにずいぶん時間がかかっちゃった。アタシね、復讐がしたいの。アタシを守ってくれなかったユグドラシルの連中と、人間に堕としたあの魔王に」
「魔王?」
「そう、この世界は滅びの危機にあるわ。あんたの妹がそのきっかけになる筈よ。魔王と呼ばれるそいつはいずれこの世界に姿を現す。強い力を秘めたジークの子孫。あんたにだけこの秘密と、力の使い方を、召喚の秘術教えたげる。あいつと、ジークの復活も間もなく整う……アタシに力を貸して頂戴、人の子よ」
「フレイア、父の復活も約束通り、ワン!」
「わっちのお父様、この世界を守護できる力を持った強きお父様を」
言葉を話す魔犬と大蛇がフレイアに付き従い、姿を消す。
「今のは……幻覚?」
今まで適性がなかった筈の魔力の強い波動を、エリザベスは感じ取る。
「いや、違う。この世界の滅びの危機? マリーが?」
しかし女神フレイアは、自身を利用する邪悪な存在だったと後で知る。
この世界を滅ぼす力を秘めていると言われ、転生した自分が世界で最も敬愛していた父ジョージを殺したと思っていたマリーが、自分が死に追いやってしまったかつての親友であった事も。
すると、転移の魔法でロキがニタニタ笑いながら姿を現した。
「クックック、どうしたのエリザベスちゃん? うわぁ、くさっ! ゲロくさ! ん?」
漆黒が勇者マサヨシにやられる映像がリピートされ、ロキは口角を上げ歪んだ笑みを浮かべる。
「おお、こわ。あいつ昔っから容赦ないよね、敵に対して」
「魔王アースラの事、詳しいんですね」
「うん、よく知ってるよ。神時代のあいつだけどね」
……神?
「ロキさんが封印され戦いって、名だたる神々とか魔王達とまとめて戦って話じゃ」
優秀な頭脳を持つが、社会経験の少なさと、どこかピント外れで思い込みが激しいのが、彼女の欠点である。
ロキが封印された話を、自身も伝説で知っていた魔王ルシファーや、ロキからも聞いたアースラといった悪魔の勢力と、シヴァやゼウスのような力を持つ神々が、まとめてかかってきた話であると、エリザベスは、大きな勘違いをしていたのだ。
一体ロキが何を言ってるか、エリザベスには全然理解出来ずに喉の痛みと、口の中に残留する吐瀉物でまたえずき出す。
「君、こいつのこと僕に聞いてくれなかったから、僕も彼の事を話すの忘れちゃった。神やったり魔王やったり、また神に戻ったけど、なんかそういうのに飽きたみたいで、人間になった面白い奴なの。ウケるでしょ? 今は勇者やって人間ぶってるけど」
「人間……勇者って?」
「ん? それは制度作ったクロヌスに聞いてよ。あいつの方が詳しいから。勇者ってのは、神と契約して世界を救う使命を持った人間の事ね」
世界を救いに来た男を、エリザベスこと絵里は魔王だと勘違いしていたと悟ると同時に、自分がこの勇者の敵対者になってしまった事も認識する。
それはすなわち、このニュートピアと言う世界を救いに来た、神への敵対者になってしまったのではないかと、さらに血の気が引き顔面蒼白になった。
「じゃ、じゃあ人間になって彼がやってたのはヤクザ……」
「ヤクザって何それ? 人間の職業か何か? 君の反応じゃあ、まっとうな仕事じゃないのは、わかりみだけどさ」
エリザベスは、最初に英雄と名乗ったこの男の言葉が嘘でなかったと知る。
自分は、世界を救済しに来た伝説の男だと。
神も匙を投げる最悪の世界を担当し、悪を挫く殺し専門とも言っていた。
「それでさ、彼は弟子をとったそうだよ? 君の前世の親友だっけ? 彼の神時代は一匹狼的な感じだったけど、人間になって社会性を持ったのかな?」
「じゃ、じゃあ魔王の仲間だと思ってたこの世界各国の元王子達も……」
「うーん勇者のパーティ、選ばれし戦士達じゃない?」
「ぶっ! う……うぇ、げぇ、げっほげっほ」
エリザベスは両手で口元を覆い、何度もえずいて咳き込む。
知らないとはいえ、とんでもない相手と敵対してしまったと。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう。こんな筈じゃなかったのに!」
「あ、そろそろ時間だ。僕さ、この水晶玉放送楽しみにしてたんだよ。君の部屋で上映するから出てってくれない? これから一家団欒だからさ」
エリザベスの自室に、緑髪の美少女ミドガルズオムと、青髪の美少女フェンリルがいつのまにか姿を現していた。
「さあフェンリル、ミドガルズオム、ヘルの放送始まったよー。番組は女神だよ全員集合だってさ。あ、部屋出るついでにそこのゴミ箱とゲロ片付けといてよ、臭いから」
エリザベスはゴミ箱を手に取って、自室を追い出されると、自身の吐しゃ物が入ったゴミ箱を抱きしめて絶望で膝を付く。
「あらーん、エリーちゃん大丈夫? なんか顔青いわよ?」
大逆神にして元最上級神、筋骨隆々の体をピンクのドレスに包んだクロヌスが現れる。
クロヌスは指をパチリと鳴らしてエリザベスのゴミ箱を、亜空間に転移させる。
「まーたロキちゃんに意地悪されたのかしら? もう、酷い子ね。おネエさん懲らしめてあげようか?」
「いえ、クロヌスさん……勇者ってどんな制度ですか?」
「ん? ああ、あたしがむかーし作った制度ねーん。対象の人間に試練を与えて、神の権威を高め人の世界を救う制度を言うわ。勇者になる子は基本人間だけど色々いて、神とのハーフ、半神半人とかもギリ人間の範疇でオーケーにしたのねーん、それが何?」
やはり、世界を救う者が勇者。
エリザベスは絶望のあまり放心状態になって、水晶玉を握り締めながらクロヌスに精神安定の魔法をかけられ、部下にして護国卿の男の執務室へと赴く。
「……ちょっと一緒についてきてください、クロヌスさん。あなた好みのイケメンも紹介しますんで」
一方、護国卿エドワードことアレクセイは頭を掻きむしる。
「くそ、くそ! 我らの同胞のエルゾまでがあの悪魔に! ジッポンのイワネツ、抹殺せねば。何としても抹殺! 速やかに抹殺だ!! アルスランとハーン共め! 何をもたもたしておるか!!」
女神フレイアの口車に乗って、ヴィクトリー簒奪のためにマリーを利用したのを悔やまれる。
「あんな馬鹿女神の口車に乗った私が馬鹿だった! 神オーディンの仰せのままに、あのフレイアと、エリザベスを利用したらこの有様だ!」
アレクセイは、ヴィクトリーの男爵家、マクスウェルを暗殺後、女神フレイアが現れた事を思い出す。
「あなただっけ? オーディンが用意した救世主、アレクセイ・イゴール・ルーシーだったかしら? アタシはオーディンの愛人にして女神フレイア」
「なぜ私の本名を? お前はオーディン様の愛人? 女神だと」
「うふふ、アタシ好みなイケメン君。あなたはヴィクトリー王国に潜り込んで、復讐したいんだっけ? アタシも復讐を考えてるの。この世界の不信心者に。アタシの愛人になりなさいアレクセイ。そしたらあなたに手を貸したげる」
そして運命の晩餐会の日、フレイアの陰謀を告げられた。
「そ、そんな私がマリー姫を。頼む女神よ、王の暗殺にあの姫を使うのは、やめてくれないだろうか」
「何よ、アタシに逆らう気なの? 民族の復讐したいんでしょ? じゃあアタシの言う通りにしなさいよ。じゃないとアンタの身分ばらすわよ? 黒騎士エドワードちゃん」
その時の事を思い出して、アレクセイは執務室をバンと叩く。
「おほん。冷静になるのです、ぼっちゃま。我らが民族神を訝るのは許されませぬぞ。失敬アレクセイ殿下、我らが救世主よ」
「スラフヴィッチ、すまぬ」
銀髪をオールバックにし、片眼鏡をかけ口髭を生やした壮年の執事がアレクセイの傍らに立つ。
侍従長セバスチャンが、ヴィクトリーにおける彼のカバーネーム。
その正体は、ルーシーランド・キエーブ王国の王璽尚書、オーディンを信仰するオーディン正教会創始者の、ストラドルフ・イーゴル・スラフヴィッチ公爵。
別名司祭ストラドルフは、同国の財務と外交の一切を取り仕切る、キエーブの実質的な運営者である。
「いいですかな、殿下。我らは薄汚いヒト共より、道徳的優位に立っておるのですぞ? その事をゆめゆめ忘れず、引き続き懸念事項を。まずは我らが同族たちの失踪事件について。これについては、組織的な犯罪組織が絡んでる可能性があると、王国調査機関ドルゥーマによって判明しました」
ドルゥーマとは、世界各地に散ったハイエルフの一族、ジューと呼ばれる者達を管理する組織であり、行商人を装ったキエーブの諜報機関でもある。
この世界には、ルーシーランドのキエーブと、ジッポンの大名勢力でしか、組織化された諜報機関を持たない。
このキエーブのドルゥーマにより、ジューの資本家、傭兵、商人、職人、労働者を財産順に管理しており、キエーブへの納税順に貴族、軍人、平民といった3つの身分でジュー達は分けられていた。
貴族身分の上位存在として、キエーブ王室を支えるため、世界各地の諸侯を陰謀により背乗りし、金融資本家となったグループが国際金融資本と呼ばれる者達。
彼ら国際金融資本はナーロッパの爵位だけではなく、秘密裏にキエーブ大公の身分を与えられ、世界経済を支配する構造となっている。
「犯罪組織……だと? 何が目的だ? 身代金目的の誘拐か?」
「いえ、ぼっちゃま。財産も根こそぎ盗まれ、実行犯や背後関係も正体不明と。そのせいで世界大戦に支障が出ております。その影響をもろに受けているのが、ロレーヌ帝国。我らジューが大戦後に経済を握り、我らが同族の血を引く女帝を利用し、簒奪を企んでおりましたが……戦争継続不可能ともなれば矛先は我らの商人達に」
「そんな……我らが民族の危機だ! あの馬鹿女神のせいで蘇ったジークのクズめは、我らが民族の粛清を企んでいる素振りもあるのだぞ!!」
アレクセイは頭脳明晰であるが、彼やルーシーランド人は、歪な被害者意識をこの世界の人々に持っている。
自分たちは虐げられた。
世界から差別を受けた。
先祖達も辛い思いを受けた。
だから自分達民族はヒトを差別し、金儲けの手段や、場合によっては殺しても良いという、時に暴力的な報復をも正当化する過激な思想。
強烈な選民主義思想と、排外主義思想に陥ってしまったのだ。
そしてマリーは、彼女は自分の妹の生まれ変わりに違いないとアレクセイは思い込んでいた。
すなわちマリーは自分達ルーシーランド族の血を、どこかで引いているからと、勝手に認識して同族認定をしている側面がある。
「ぼっちゃま、冷静に。間もなく、我らの祈りが届き、この世界に我が民族の楽園を築くため、オーディン様がやって来るでしょう」
「う、うむ、我らが民族神オーディン。この世界に楽園を、薄汚いヒトに死を与える我らが戦神」
しかしアレクセイは、内心オーディンの事を訝しんでいる。
なぜなら、オーディンの親衛隊であるワルキューレが、自分達ルーシーランド人を、雑種だの道具呼ばわりした事に、強烈な不信感を覚えていたからだ。
「それと、ジッポンだ。エルゾが、私と共に勉学に励んだ学友、景虎殿がイワネツに手籠にされた。奴は……悪魔だ。滅ぼさねば、一刻も早く」
「ふむ、ではいかがしましょう? ジッポンは金山が多く、良質な漁場もあると聞き及んでおります。しかし地理的に我らの交易の邪魔ですので、薄汚い現地人をどう滅ぼしましょう?」
「南朝に接触するしかあるまい。ハーン達には、南朝の王へ、休戦状態の北朝との戦争に加勢すると使者を送り、説得中だ。南朝を我らの傀儡にすればどうか?」
すると、ノックもせずにエリザベスがクロヌスを伴って護国卿執務室に現れる。
「まあ、エリーちゃん。彼なかなかイケメン君じゃない? おやおや、あそこのナイスなミドルもオネエさんの、こ、の、み」
「な、あ!? 陛下!?」
クロヌスの姿を初めて見たアレクセイは、気が動転して思考が追いつかず、主君の盾になるようにストラドルフは徒手空拳の構えをとる。
「ノックもしないでごめんあそばせ、護国卿。いや、今はアレクセイ・イゴール・ルーシーかしら? ちょっと、私とお話ししましょうか? キエーブと我らヴィクトリー間との、首脳会談を」
アレクセイは思った。
目の前の女は、自分の容姿を使って取り入り、利益誘導してきた都合の良い女では無くなってきたと。
ヴィクトリーを継ぎ、人智を超えた化物達を使役する冷酷な国家元首であるとも。
「あなた方の民族の事ですが……あなた達が信仰するオーディン、本当に貴方達の事を考えているかしら?」
「!?」
いきなり何を言い出すのだと、アレクセイとストラドルフは表情には出さないが、一瞬毛色ばむのをエリザベスは見逃さなかった。
「ヒトの王よ、貴様我らが神を侮辱するか?」
エドワードの名で身分を偽っていた、アレクセイもキエーブの王子として、エリザベスと対峙する。
「あなた方の民族の苦しみ、よくわかるわ。そんなあなた方に、私も特別に正体を明かしてあげる」
正体?
この女も身分を偽っていた?
訝しむアレクセイ達に、エリザベスはすうっと息を吸い込み、自身の前世を語り出す。
「私ね、前世の記憶があるの。こことは別の異世界の平民として……いや平民と偽った別のナニカだったわ。この世界のジッポンのような国、日本って所で暮らしてたの」
何を突然言い出すのかとアレクセイは思った。
この女、気が狂ったかと思うも、ヴィクトリーとの交渉を有利にするために、話だけでも聞いてやろうかと尖った耳をアレクセイは傾ける。
「私は自分を日本人だと思って暮らしてた。親は飲食店経営してる普通の夫婦で、私は小さい時から優等生だった。学校の勉強が出来たから、将来は人の、国の役に立ちたいって思ってたかしら。けど、それは国家から否定された。私は日本人じゃなくて、日本の旧植民地出身の、在日だったから。国家や社会から差別されて、生き方を否定されたから……私は反社になったの」
お前の前世など知るか、それが我らの神と民族になんの関係があるのだと、アレクセイとストラドルフは無表情にエリザベスを見つめる。
「そしたらね、旧植民地が独立した本当の私の祖国、共和国から誘いが来たの。君の能力を祖国のために活かしてくれないかって、私は嬉しかった。初めて、人や国の役に立てるんだって思って」
「それが、我が民族と何か関係が……」
エリザベスは、特大の舌打ちをして、呟くように言ったストラドルフを、風の魔法で壁に打ちつける。
「うっせえよ。私が身の上話をしてやってんだから、クソだりぃ茶々挟むんじゃねえよ、スパイめ」
エリザベスは、アレクセイに向き直る。
その口調は、女王ではなく完全に半グレ時代の不良少女そのものであった。
「それで話を続けるけどさ、要するに前世の私は、朝鮮民主主義人民共和国って嘘まみれな名前の、最低国家の資金源って感じにされてたのよ。あんた達のキエーブだっけ? それと似たようなね。地上の楽園を築いて、将軍様の主体思想を世界に拡めて云々っていう綺麗事? あんた達がジューって言われる人たちにやらせてる事だよ」
「……っ!? お前は、どこまで私達の事を。それになんだその無駄に長い国名」
アレクセイにエリザベスは、嘲笑しながら鼻で笑う。
「ふ、知ってるわよ。あんたやあんた達の事も全部。北の将軍様のような、オーディンって神が、この世界の人類を滅ぼそうとしてる事も、あんたがフレイアと組んで、私の最も敬愛してた父上を殺した事もね」
エリザベスのエメラルドのような瞳が、陰鬱そうに魔力を帯びて光り輝き、体から膨大な魔力が溢れ出す。
「ま、共犯者のあのクソ女神はぶっ殺したからいいんだけど。私はねえ、あんた達がかわいそうだなって思ってるわけ。この世界で差別されて、奴隷のようにされて、人の苦しみの歴史を知ってるのに」
「ヒトに……我らが民族の苦しみなどわかってたまるか」
「わかるわよ、私も前世で同じような存在だったから。前の祖国の将軍様みたいな、オーディンってやつに命令されて、ジューって人達をあんたみたいな王族が、奴隷のように操って戦争とか企んでるのをね。ねえ? クロヌスさん」
エリザベスは、クロヌスに振り返る。
オーディンよりも神としての格が上だったと、ロキから話を聞いていたからである。
「そうねー、あのオーディンのクソ野郎は神として有り得ない大罪神ねーん。私もね、こう見えてかつては最上級神の肩書き持ってたけど、自分の愛する人間達から尊敬と信仰を得るから、神として偉そうにできるのねーん。だけどあれは、邪神よ。あなた達イケメン君を、道具か何かだと思って使い捨てにしてる」
「そんな……我らが民族神が邪神?」
「あなただって心あたりあるはずよーん。神がいるなら、なんで自分達がここまで苦しんでいるのって。それはね、あいつが全部仕組んでるから」
アレクセイは自身の妹、エカチェリーナ姫を思い出す。
神がいるならば、なぜ自分の妹を理不尽な運命で天に召すのかと。
すると頭脳明晰なアレクセイは、ハッとなってある真理に辿り着く。
自分を救世主という道具にするため、彼女を、妹のエカチェリーナを生み出し、民族の運命を弄んではないかと。
信仰する神への不信感が、アレクセイの中で確信に変わる。
「ぼっちゃま、惑わされてはなりませぬ。こんな男だか女だかわからない化物……」
「んー? あたしは神よーん。男でもなければ、女にもなりきれてないオネエだけど」
まるでギリシャ彫刻で出来た女神のようなポーズをクロヌスが取ると、かつて創造神に最も近いとされたクロヌスの体から御光が差し、最上級神時代の光を放つ。
その神々しい輝きに、アレクセイは自身の神よりも上位の存在であると肌で感じ、ストラドルフはあまりの輝きに身を屈し、服従しそうになるが、オーディンに忠誠を誓う者として信仰心で踏み止まる。
「キエーブの王子アレクセイ、ヴィクトリー女王である私と取引きしない?」
「取引き……だと?」
「あんたが、ジッポンに囚われてるマリーを取り戻そうとしてるのは知ってるわ。私も彼女を取り戻したい。彼女は……前世で友達だった。前世の日本とか共和国とかそんなもの関係なくて、私の大事な友達。この世界で唯一の私の家族」
この女、マリーを抹殺する気はないのかと、アレクセイは目を見開いてエリザベスを見つめる。
「私、実はジッポン南朝の天帝醍醐だっけ? コネクションを持つことに成功したの。ロキはあの北朝最強と言われるイワネツこと織部憲長と手を結んだ。あんたが考えてるマリー奪還と、ジューによるジッポン植民地化に手を貸したげる」
「嘘、ではないな?」
「あっはっは、本当よ。ただしあんた達は私と私が召喚した神に従いなさい。破滅神ロキ、天上神クロヌス、戦嵐神セト、そして今日これより召喚する新たな神、創造神の側近だった原初の地母神ティアマトに」
アレクセイは、もはやこの目の前の女王に逆らえないと判断して軍門に下り、エリザベスは、この世界の情報網と経済力をヴィクトリーのものとする事に成功する。
その様子を、窓から白金に光り輝く鎧の騎士が、彼らに悟られる事もなく、物言わずに見つめ続けていた。
護国卿執務室を後にしたエリザベスは、水晶玉を取り出して自身の組織、チート7をチャットに招集する。
すでに漆黒も脱落し、蒼魔も勇者のスパイである事が判明した今、新たなメンバーを考え、自室で我が物顔でくつろぐロキと、微笑みながら化粧品を物色するクロヌスをエリザベスは見やる。
「メンバーの空きが出来たし、ロキさんもクロヌスさんも、セトさんも、私の半グレに入らない? みんなで楽しみながら、この世界を操る遊びを考えてるんだけども」
「いいわよーん、暇だし」
「グッド! 新しい遊び考えるとか、エリザベスちゃんナイスだよ、クックック」
こうして異世界半グレ、チート7に反逆神が加わった。
後編に続きます




