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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
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第151話 冥界からの使者

 織部の国、和風なイワネツ邸前。


「何奴じゃ!」

「ここを何処のどなたの邸宅と……あれ?」

「この前の姫様だ! 黄金戦士的な」


 警備が厳重で、完全武装した鎧武者や、暴走族みたいな格好した人達が、転移した私達をみて何か言ってた。


「あ、いけねえ。翻訳用のグラサン忘れたわ。おめえ、持ってきてる?」


「あ、先生。私もサングラス持ってきてないですし、ヘイムダルの力も発動してないから言葉が……ん?」


 猿顔の人がこっちに駆け寄ってくる。


「そ×@し、ジッポンオリベ@⚪︎×」


 何言ってるかわかんないし。


 東方の言語、こっちと違うんだっけ。


「なんだこの野郎、何言ってるかわかんねえよ」


 ボソリと先生も日本語で呟くが、あ、目を丸くして先生を見て猿顔の人が唾をゴクリと飲む。


「お久しぶりです姫様。あと着物のお方、あたしは日本語わかりやす。うちの親方は留守なもんで、言伝あれば自分に」


 あ、この人は日本からの転生者なんだ。


 なんかのきっかけで、前世の記憶を思い出したのかな? 暴走族みたいなファッションも、もしかしたらこの人が広めたのか?


「おう、俺の名はマサヨシって言うんだが、イワネツの野郎にブツ渡しに来た。ありがたく預かっとけ」


「へ……マサヨシってまさか……ははー! 大親分、わかりやした! お預かりいたしやす!」


 ん? この人、転生前の先生知ってる?


 めっちゃ直立不動になってお辞儀してるけど。


「あん? てめえ転生前は俺の若い衆か。名前なんて言うんだよ」


「へ、へい。自分転生前は、極悪組末端の神奈川の組織にゲソつけてやした木下秀吉です。大親分には、義理事で一回お目にかかった事が」


 先生は思い出そうと首を傾げたが、皮袋に入れた道具を猿顔のヒデヨシさんに手渡す。


「覚えてねえなあ……あ、おめえ、あれか? ブロンドから話しがあった野朗か。ホレ、おめえにも小遣いやるから、イワネツに渡す道具頼むわ」


「へへー!」


 猿顔のヒデヨシって人が、なんか純金とか宝石が入った重そうな袋を別に受け取ってる。


 すると犬耳っぽいのを生やした、背が高い武者も出てきて、ヒデヨシさんからアイテムと雑多なものが入った皮袋も受け取ってた。


「猿やるじゃない。イワネツ様に連絡しとくよ、猿が預かったブツとアガリ献上するって。この金を俺と君が親方に献上すれば、オレらさらに出世出来るかもよ」


「え? 犬ちゃん、だってこれ、大親分から貰った俺の小遣い……」


「え? 献上しないの?」


「え?」

「え?」


 なんかジッポン語でやりとりしてる。


 すると犬耳の人が先生にペコリと頭を下げた。


「Thank you for your support‼︎ I will give it to my pakhan!!」


 あ、英語だ。


 ちょっと発音が巻き舌がきつい感じだけど、この人も多分、転生前の記憶を思い出した人なんだろう。


「おう、じゃあよろしく頼むぜ」


 先生は道具を引き渡すと、ピクリと一瞬動きが止まり、周囲を見回した。


「なんかいやがるな。獣系モンスターと、嫌な感じの気配が二人。出てこいコラ! ドタマ吹っ飛ばすぞ!」


 先生が、誰もいなさそうな空間にパイソンを向け出すと、白髪の可愛らしい双子のメイドとブルドックが出てきて私達に優雅なお辞儀をする。


「ごきげんよう、閻魔王ヤミーの使いの勇者。私達は、冥王ヘル様のお付きにして、我らがオーディンの命令により、ヘル様を連れ戻しに参りましたガン・グラティ及びガン・グレトと申します」


 すると、目の前のブルドックの姿が変わり、金属の鎖を纏う、全長10メートルの巨大な狼犬のような魔獣になった。


「人間! ワシは冥界の番犬ガルムである!! ヘル様の屋敷の門番にして、冥界の男爵であるぞ!!」


 うわぁ、めっちゃ強そうなモンスター。


 なんか禍々しい紫の炎のようなオーラとか出してて、口からなんかモヤみたいの出してるし。


 けど先生は魔獣を見て鼻で笑う。


「なんだこの三下が。ドラゴン殺しの異名を持つ、拒魔犬兄貴の舎弟であるこのマサヨシ様と、喧嘩するかコラ?」


「な!? ケルベロス公と同格にして、百獣魔王の拒魔犬公もこの世界に!? ガルルルル、まずいぞガン姉弟」


 目の前のガルムが一瞬耳が垂れて怯え始めた。


 私がバロンって言ってるあのワンコ、どうやら私が思ってたよりも、めっちゃ強くて偉い人、いや犬らしい。


「兄様、兄様? ガルムビビっちゃてるけど、私が男の方をヤるからそっちは」


「グラティ姉様が男をヤるなら私はあの女を」


 私と先生が武器を構えると、双子の体がまるで火にくべられた蝋人形みたいに溶け出していく。


「うぇ、グロッ!」


「こいつら……マリー来るぞ!」


 双子が粘性高そうなスライムに変わり、一気に私たちに襲いかかる。 


「チッ、やっぱスライムか!? マリー魔法だ! それか魔力を帯びた武器で攻撃しろ! こいつらに打撃とか銃撃はあんまり効かねえ」


「はい!」


 グラティってピンクのスライムが先生にまとわりつき、着物を溶かし始める。


「ふっふっふ、いかに強い肉体でも体中の穴という穴に入り込んで、体内から溶かせば楽に勝てる」


「ちょ!? こいつら戦い方エグッ!」


 嫌なんですけど、ドレス溶かされるし、体中の穴とか入られるとか、マジ勘弁なんだけど!


 私はギャラルホルンを手にして、光の魔法で青い方のスライムを攻撃してると、背後から気配が。


時間停止(タイムストップ)!」


 時間停止で振り返ると、魔獣ガルムが私を背後から食いちぎろうとしてたから、逆に魔獣の背後に回って、思いっきりお尻を蹴飛ばす。


「ワオーン、キャインキャイン」


 ガリムがワンコっぽい鳴き声ですっ飛んでいき、私の代わりに水色のスライムまみれになった。


「しゃらくせえ!」


 先生の体がピカッと光って、ピンクのスライムを弾き飛ばし、火炎魔法で焼き尽くす。


 すると今度はスライム同士で合体して、周りの土を吸収していき、全長10メートル以上の塊になって、触手のようなもので私たちを捕らえようとする。


「うぜえ! スライムとの戦闘はこれだから嫌なんだ。しかもあいつら毒は持ってねえようだが、体が酸性なのかアルカリ性なのか知らんが、溶かされるぞ!」


 先生は、炎魔法でスライムを焼くけど、全然勢いが収まらない。


「チッ! 大抵のスライムには炎が効くが耐性持ちか! ならこれはどうよ!?」


 空から稲妻がほとばしり、スライムの体を高圧電流で攻撃するも、逆に魔法を跳ね返してきた。


地獄の雷電(ヘルサンダー)


 先生にスライムの攻撃が集中して、援護しようとした私に、魔獣が私に噛み付こうとしてくる。


「小娘! 貴様ただの人間ではないな!? 冥界の爵位を持つ、ワシの動きについて来るとは」


「何よ、ワンコだったら大人しくお座りしてて!」


 ……あれ、お座りしちゃった。


 あれだ習性的なものだこれ。


 あんな怖そうな魔獣でもワンコだし、力が上と感じた私に、無意識で服従してる?


 悪いけど隙を突かせてもらう。


「言う事聞かないワンコには、めっ!」


 ジローから習った手刀、空手チョップでワンコの魔獣の頭を叩くと、キャインって犬っぽい悲鳴をあげた。


「ねえ、猿。敵襲っぽいけど、オレ達も加勢した方がいいでしょ」


「いや、俺ら加勢しても邪魔になるっぽいじゃん? 屋敷の守りとか固めようぜ。屋敷ぶっ壊れてたら、帰ってきた親方からぶん殴られるし……げっ、あのネバネバこっち来るぞ!」


 スライム達が今度は、織部の武士達に襲いかかって、まとわりついて体を溶かそうとする。


「兄様、兄様。今の状態じゃ多分勝てないから、人間共吸収して巨大化を」


「姉様、姉様、ナイスアイデア」


 うわぁ、私たちに勝てないと思って、他の人達を吸収して巨大化するつもりだ。


「そんなこと……」

「させるかボケ」


 私と先生が、魔力を込めた銃撃を放とうとした時、ゴスロリ着た女神ヘルが姿を現した。


「うるさいのだわ、人が月を眺めてスイーツ食べてるのに大きな声出して……あ、なんであんた達がいるのだわ? ガルムもお座りだわさ!」


 あ、女神ヘルが出てきたら、速攻で双子のメイドも元に戻って、ガルムとかいう魔獣も、ブルドックの姿になってお座り始めたけど、何これ?


「姉様、姉様。バレちゃったよヘル様に僕らが来たこと」


「兄様、兄様。冥界トップクラスの魔獣ガルム連れてきたのに、全然意味ないこれ」


 するとヘルが思いっきり、歪んだ笑顔になって、二人と一匹を見やる。


「あらあら、あの最悪なオーディンの差金かしら? あなた達双子は、わらわが作ったデク人形。元の土塊に戻してやってもいいかしら?」 


 ヘルが右手の人差し指で指さすと、指先に力を込めた瞬間、足が泥みたいに溶け始めた。


「おほほほほ、わらわにお前達は逆らえないのだわ。いつかのように、お前達のメイド服脱がして、溶けたアイスみたいにした後、こねくり回してイジメてもいいのだわ」


 何それ、酷い。


 なんかこの女神、嫌な感じだ。


 あ、グレトという双子の片割れがセメントみたいに溶かされちゃった。


「ヘル様、ごめんなさい、ごめんなさい。どうかグレド兄様を元に戻してください」


「んーどうしようかしら? あ、わらわの靴にキスしたら元に戻してもいいのだわ」


 足がなくなったグラティが、匍匐前進するように、ヘルの足元に辿り着こうとするけど、今度はヘルが両手を泥に戻して、涙を流すグラティを見て笑い声を上げる。


「おほほほほ、久しぶりの気分転換だわさ」


 こいつ、なんかムカつく。


 立場が弱い人を弄んで気分悪い。


 すると、無表情になった先生がヘルの前に立つ。


「おい、直してやれよ。もう十分だろ?」


「わらわは神なのだわ。こいつらは人間じゃなく人形なのだわ。作った人形を自分の思う通りにして、何が悪いかしら? 神界法の適用外だし、各種法令にも抵触しない……」


 ヘルの回答に、先生は彼女のほっぺたをベシっと張った。


「てめえ、いい加減にしとけガキコラ。直してやれって言ってんだよ、こいつらには命がある」


「よくもヘル様を!!」


 ブルドックから魔獣に変わったガルムが、先生を飲み込もうと襲いかかる。


「お座りだワン公!!」


 逆にジャンプした先生に、頭ゲンコツくらって地面にめり込んだ。


 織部の武士達もざわつき始めて、そうか。


 彼女は一応、織部だとイワネツさんの表向き妹って事になってて、神の化身とかにされてんだった。


「マ、マサヨシの大親分! それに姫様、堪えてくだせえ。この秀子って言う子、自分らの身内なもんで、親方の妹分ですんで、それ以上は自分ら」


「あ? 黙って見てろバカヤロー」


 一触即発の事態になってきた。


 これじゃあ、イワネツさんと先生の組織とで抗争起きちゃう。


 私は先生に叩かれて、不貞腐れるヘルの前に立つ。


「女神ヘル、生み出した命を弄んで、イジメる行為は、オーディン達と同類、最低の所業です」


「に、人間! だからこいつらは、人間でもなんでもないわらわの人形……」


 私は、記憶盗掘(メモリースチール)で女神ヘルの記憶を覗く。


 彼女は物心ついた時、優しかった母を殺されて、その後はオーディンに虐げられながら、冥界神を担当した。


 地獄に落ちるような、罪人ばかり裁判で扱ってた彼女の心が次第に病み始めて、孤独に苛まれた彼女が作ったのが、この意思を持った双子の人形。


 親も教え導く存在もいなくて、孤独だった彼女は、仕事のストレス発散で、双子に対して虐めてて……そうか、この女神は神として女性としても未熟だ。


「あなたはこの世界を救う資格なんてない。自分の生み出した命を酷いことして、笑ってるやつなんかに……私は私の世界を救ってほしくない」


 彼女は私の言葉に項垂れてしまった瞬間、西の空がピカっと光って何かがこっちに降りてくる。


 ……なぜか褌姿のイワネツさんだった。


「Hi Marie! There was a report from my Soldier , but thank you for coming,But what about this situation?」


 げっ、この人確か日本語もナーロッパの言語もわかんないんだった。


 どうしよう。


 私、転生前は英語さっぱりで、全然わかんないし。


 あ、イワネツさんが先生見てなんか、ヤンキー漫画みたいな感じで、めっちゃメンチ切り始めた。


「Oi! Simizu! you son of a bitch! Did you come here to be killed by me?」


「What the fuck is this? I will fucking kill you!!」


 先生も英語話せるのか、めっちゃお互い英語で罵り始めて険悪な感じになって、どうしようこれ。


「どうすっかなこの始末……。やべえよこの状況。族同士の抗争みてえになってきたよこれ」


 あ、この猿顔の人も確か日本からの転生者だったっけ。


「あ、あのー私、前の前世で日本生まれだったんで、日本語喋れます」


「え? ああ、そうなの? やべえって姫様。清水の大親分と、うちの親方で、日露戦争勃発しちまうよ。なんとかしねえと」


 私達はお互い頷き、先生達に振り向くと物凄い打撃音がして、先生とイワネツさんがお互いクロスカウンター気味に殴り合い始めた。


「That guy rubs me the wrong way!! собака!!!!」


「Fuck you!!!」


 うわぁ、始まっちゃった。


 ガツンガツンと打撃音がして、お互い空中に浮いて殴り合い始めてるし、レベルが高すぎて、まるでドラゴ●ボールみたいな喧嘩になってるし。


 すると上空でイワネツさんが一気にオーラを噴出して、悪魔のような姿になって、9つの龍のオーラを纏い始める。


「て、てめえ。それはドラクロアの!?」


「あのクズ龍の事か? 俺が飼ってやってんのよ。お前に復讐してえって疼いてやがったぜ!」


 先生も一気に光り輝いて、力を解放し始めた。


「なんだコラ? ふん、そういやてめえ(スケ)の匂いがするなあ。一丁前に女抱いた後来やがってケッケッケ、マリーにチクってやろうか?」


「……ぶっ殺す!」


 無茶苦茶だこの状況……どうしよう。


「クックック、どうしようかねえ、この状況」


「ええ、どうしよう。せっかく先生が……!?」


 私の隣に、いつの間にかロキがいた。


 そうか、こいつも転移の魔法を使えるんだったわ。


「うん、あいつが嘘言ってるんじゃないかなって、気になって来た。けど、どうやらここに君がいるのも本当のようだし、アースラと喧嘩になってるの見て、安心したよ。あの子の無事な姿も確認できた。それにもう一人……いや一匹か」


 あ、そういえば私は、ナーロッパにいないって事になってんだっけか。


 イワネツさんがロキを裏切って、私達の味方になってるってバレなくてよかったのか。


 ロキは静かに涙を流してるヘルを見て、どこか悲しげな表情になって見つめている。


 するとヘルが、私の隣にロキがいたのを見て、怒りに燃えた瞳で睨みつける。


「お前のせいで母様が! わらわがうまくいかないのは、お前のせいなのだわ! 殺してやるのだわ! 大逆神ロキ!!」


 ロキは悲しげにヘルに微笑みかけると、転移の魔法で姿を消した。


 やはり、未練があるんだ。


 自分の娘にキチンと接してあげられなかったって、親としての未練が。


「ま、待つのだわ!! 大逆神!!」


 ヘルが叫んだ瞬間、地面に二人の勇者が落ちてくる。


「とことんまでやろうぜ? クサレ日本野郎(ヤポンチク)のヤクザが」


「なめんなクソボケ! てめえどっちが上かわからせてやんよ、野蛮な露助野郎!」


 お互い、髪の毛掴み合って真正面から殴り合ってるよ……ていうか武器を装備してないとはいえ、先生と殴り合い出来ちゃうこの人やばい。


 すると、スライム化したガンなんちゃらの姉弟の双子が、先生とイワネツさんに纏わりつき始めた。


「ヘル様! この二人の冥界の勇者をやっつければ、オーディン様はユグドラシルへの帰参をお認めになると!」


「ヘル様、僕らはヘル様のためだけに生み出された人形! さあ、早くこいつらに必殺魔法を」


 私は、スライムに取りつかれた二人の元に駆け出して、スキルを発動させた。


絶対防御(プロテクト)


 あらゆる攻撃を防ぐ事が出来る、日に一度だけ使える、私の切り札。


 スライム化した双子を弾き飛ばし、電子の封印を施して、私は先生の方を向く。


「先生、私達は敵対しに来たんじゃありません。イワネツさんにアイテムを渡しに来たんですから!」


「お、おう、そうだったわ。てめえロシア野郎。俺とマリーからブツ持ってきたからありがたく頂戴しとけボケ!」


 イワネツさんはヒデヨシさんの方を見る。


「あ、親方(パカーン)今の話は本当です。あと、銭も頂戴しやした」


「なんだ日本(ヤポン)のクソヤクザ! そうなら先に言え阿保(アショール)!! マリー、スパシーバ(ありがとう)


 イワネツさんは、私にだけ優しい顔つきになって、ヘルの方を向く。


「おい、メスガキ。このよくわかんねえ敵といい、そこでめり込んでる犬といい、意味がわからねえ。俺の勘じゃお前の関係先だろ、わけを言え」


「……」


 私は、イワネツさんの前に立って、アースラの能力を発動して、手のひらを通じてさっきの経緯とヘルの記憶を見せる。


「そうか、わかった。メスガキ、お前こいつら連れてもう帰れ。お前には世界救済とか無理だし、適性がねえ」


「嫌だわさ。わらわはこの世界で自分の力を証明して、オーディンもロキもやっつけて、神達を見返してやるのだわさ」


 イワネツさんは私の方を向く。


「わたし日本語べんきょしてた。ちょっと、少しはなせるようになった。キミとはなせるようになりたくて。この場はわたしに任せてください」


 片言だけど、私に日本語で喋りかけて来たイワネツさんが、ヘルの方を向く。


「メスガキ、お前はそれだけか? 俺は好きな女や、このジッポン、そして兄弟達とその信念のために、世界を救うために命がけで戦ってる。神であるお前が、そんなくだらねえ目標掲げて、未熟なままじゃ、世界なんか任せられねえ。言ってる事わかるよな?」


 するとスレイプニルが駆け寄って来て、庇うようにヘルの前に立つ。


「ブヒヒン、人間よ。この女神は素直ではないのだ。昔から、この女神は不器用で。どうか、もう少し面倒を見てほしい。あの双子と駄犬の面倒は私が見よう」


 先生は怪訝な顔をして、スレイプニルを見るが、この馬はオーディンの軍馬だったはずだけど、ヘルの事をなんで庇うのだろう。


 まるで彼女を昔から知ってたような。


「女神ヘルよ、今のお前の想いを、そのまま言葉に出すのだ。想いは言葉にしないと相手に伝わらない」


 スレイプニルに促されて、女神ヘルから涙が溢れ落ちて、項垂れる。


「うう……わらわは、このジッポンの事が、世界が好きなのだわ。冥界の闇の世界じゃなく、この世界で暮らす人々の日常を守りたい!」


 イワネツさんは涙を流す女神ヘルに、思いっきり溜息吐いたあと、彼女の頭を引っ叩いた。


「最初からそう言えガキが! あと、馬公。お前、何者だ? ただの馬じゃねえな?」


 イワネツさんが何か聞いてるけど、先生はフンと鼻で笑ってイワネツさんに耳打ちする。


「……そうか馬公、お前の考えがわかった。お前も、そこの双子もワン公も、俺が面倒見てやる。それとシミズこの野郎、一個貸しだぞ」


「何が貸しだこの野郎。それと、皮袋に入ってる水晶玉は偽装工作用だから、お前んちに適当に置いとけ。あと情報によると、ハーンは兵をバブイールから引き上げて、ジッポン対岸の大陸沿岸部に集結させてやがる。てめえわかってんよなあ?」


「当たり前だろクソ野郎(カーカ)! 日付変わったみてえだから、今日中に北朝を制圧! それが終わったら南朝をハーンもろともぶっ潰す! なんら計画に支障はねえ!」 


 ギョッとした顔になって、そんな話聞いてないみたいな感じで、多分英語がわかるんだろう猿顔の人と、犬耳の人は顔を見合わせる。


 えっと、英語わかんないけど、多分作戦内容の確認なのかも。


「野郎共、出撃だ。目標中京!! 俺が先に行くからお前ら軍を率いて後から来い!」


「ははー!!」


 すごいドタバタだったけど、なんとか話がまとまったようだ。


 けど、スレイプニルってオーディンの軍馬なのに、なんでヘルにこんなに庇い立てしたんだろう。


「先生、スレイプニルって敵のスパイじゃなかったんでしたっけ?」


「ああ、野郎はスパイだった。ただしオーディンが4類指定された以上、義理立てする気もなくなったんだろうよ。そして、奴は本来の目的でヘルにくっついてる。あの馬はな、ヘルの身内だ」


 え? 身内って。


 そうか、先生は多分さっき、あの馬の心を読んだのか。


「なんらかの要因で馬になったか、化けて演じてたかは読めなかった。それにあいつ、力を全て失ったなんか言ってやがるが、それも多分ブラフか思い違いしてるな。俺が探ったら、相当な魔力をまだ秘めていやがるし。そんでヘルの身内っつったら、答えは出てるだろう?」


 ヘルの身内、肉親。


 彼女の母親は死に、父親は……。


「まさか、スレイプニルもロキの子供?」


「ああ、多分な。奴がなぜオーディンの手下として、ロキ討伐の世界救済任務に真っ先に志願してきたのかも、ヘルがいるこの地に残ったかも、これで合点がつく。奴もまた、自分の身内のために動いてるのさ」


「じゃ、じゃあロキのスパイ?」


 先生は首を横に振る。


「それはないな。俺やおめえに、イワネツの事をロキに密告(チンコロ)してねえ。むしろあの馬は、ヘルを守ることだけを考えている」


 なんか複雑な感じだ。


 だが、これで全ての準備は整った。


「よおし、じゃあ次は一旦戻った後でフランソワ行って、デリンジャーの手伝いすんぞ。あと、渡した変装道具と着替えも済ませてな」


「はい」


 次は、デリンジャーの演説の前に、あのチート7のデリンジャー襲撃を迎え撃つ。

次も戦闘回です

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