表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
154/311

第150話 マリーが学ぶ情報戦 後編

「まずな、情報戦についてレクチャーすんぜ。情報を制する者が、喧嘩もシノギも交渉事も制するわけよ。まずな……」


 先生は情報戦について説明してくれた。


 まずは諜報による情報収集。


 軍事技術で敵から情報を得るシギント。


 人から情報を聞き出すヒューミント。


 公開情報で情報を分析するオシントなど。


 概ねこういった手法は、昔諜報員だったコルレドさんの得意分野で、先生たちの組織は、人数や軍事技術を総動員させて情報収集を10日かけて行っていた。


「まず公開情報ってやつを精査すれば、家族構成、交友関係、住所、趣味、今までの行動からそいつがどんなやつかってのがわかるわけだ」


「あ、はい」


 最初の方に習った話。


 情報不足はこちらの隙になる。


 相手の隙をつくためと、こっちの隙を生まないためにも、相手の事は徹底的に調べ上げるのが基本中の基本だと。


「そっから、対象の人、物、金の流れなんかを見ていくわけよ」


「人、物、金ですか?」


「おう、ジューの目立った奴らさらわせたのは、奴らの保護目的もあるんだが、奴らの交友関係とか物資の流れの把握と、資金源知りたかったわけ。で、極道の喧嘩だろうが国同士の戦争だろうが、ドンパチは金がかかる」


 戦地に持っていく食料だとか、武器も防具も揃えないと戦争なんてとても出来ないし、お金もないといい物も買えないのは、どこの世界も一緒だ。


「国際金融資本ってのは、要するにジューのネットワーク使って、戦争を起こす国家に金貸して、利子とかカスリとるのがやり口なんだろう? じゃあ末端さらって大きな資金源も潰せば、大元や関係国はどうなる?」


「それは、戦争なんかやってる場合じゃなくなりますよね」


 復讐目的のアレクセイの一族を除いた、彼らの目的はお金儲けだから、お金儲け出来なければ戦争理由も無くなっちゃうし、彼らからお金借りてたロレーヌ皇国なんかも……戦争継続が難しくなる。


「龍の報告にもあったように、バブイールに展開してたロレーヌが国境まで引きやがったろ? つまり戦争できるかどうか、資金源的なもんで頭を悩ませてんだろうぜ。そこで今度は、情報撹乱なんかするわけよ。要はよ、カマシ入れるんだ」


「カマシですか?」


 先生はニヤリと笑い、収集した情報を使う情報工作について教えてくれる。


「例えば、水晶玉通信でおめえを馬鹿にしてたガキらさらわせただろう? だいたい5千にも満たねえ数だったがな」


 うわぁ……逆に言うと、そんなに私への粘着荒らしがいたんだ。


「そいつらに使えそうなのがいたら、今度は協力してもらう。たかが5千程度でも、各々が水晶玉通信で繋がってるネットワークも活かせば、まあまあな効果が見込める。うちらが有利になって敵が混乱する情報を流させるようね。言わばハトみてえに飛んでもらうわけ」


 つまり、ロキとエリザベスが考えた私の心を折る予定だった炎上の件を逆利用して、私の事をあれこれ誹謗中傷させてた奴らを、今度はこちら側の撹乱工作で使うって事だそうだ。


「まあ、そいつら俺らの正体明かさねえで、この件を口止めしてるが、うちらからされたヤキと恫喝(クンロク)を、うっかりペラっちまう野郎もいるのも想定済みよ。マリー馬鹿にしたらどうなるかって広まれば、いい見せしめになるしな」


 この人、やっぱ怖い。


 私とか身内の人や、関係のある人には面倒見がいいし、小さい子とかにも優しいけど、敵に対して一切の容赦がない。


「奴らはきっと、俺らが流すブラフに役に立ってくれんだろうよ。要するに絵描きと一緒で、全体的な背景をイメージして、奴らが描く線を指示してやって色塗るわけよ。無論染め上げるのは、俺の色さ」


 なんていうか人間の負の部分とか、そういうのも全部織り込み済みで、転生前からそういう事に長けて、日本全国で抗争事件とか起こしてたのか。


「それにどうせ奴らは、使い捨てのなんも知らん鉄砲玉。敵に捕まっても別にこっちは痛くもねえ」


 大胆にして凶暴、狡猾にして極悪。


 悪魔のような極悪組の組長、清水正義。


 先生はヤクザ社会から、そのような評価を得ていたようだ。


「ロレーヌについては、徹底的にあの女、マリア・ジーク・フォン・ロレーヌについて調べ上げた。過去から今現在に至るまでな。あの女は元々ロレーヌ本流じゃねえ。だから、ジークの英雄伝説にこだわっていやがるんだろう」


「本流じゃない……と言いますと?」


 私は、教皇マリアの生い立ちから即位理由、そして現在に至るまでの話を先生から聞く。


 彼女が即位する前のロレーヌ皇国は、フランソワからの経済侵略に脅かされていた。


 ロレーヌの諸侯間は、フランソワの社交会に取り入ろうとする派閥と、ヴィクトリー王国と交流を深めるジーク教派閥との間で暗闘が行われ、王族間や貴族達の暗殺事件で、宮中が酷い有様だったそうだ。


 その中で、36年前に先帝ハインリヒ4世の妾だったハプスブルング家令嬢との間に生まれたのが、このマリアという女帝。


 両親とも事故なのか暗殺なのかわからない、馬車の事故でこの世を去った後、次々と宮中で不可解な事件が頻発し、皇太子や王子達が死去。


 この流れで、当時若干6歳で即位したのが彼女だった。


「6歳の女の子が皇帝なんざになっちまうもんだから、誰がマリア担ぐかってので、ますます暗闘が加速する。その女の子を守ったのが、ヴィクトリーから留学していた王子様。お前のこの世界の父親、白騎士と呼ばれた20歳のジョージだ」


 私のお父様とマリア帝にそんな過去があったなんて……じゃあ、もしかして。


「私も女だから、なんか感じるところがあるんですけど、もしかして、彼女がヴィクトリーに拘る理由って」


「ああ、お前あれだよ。女の子を守る騎士様なんかいたら、女の子なら、ころっていかれちまうに決まってるだろ?」


 だよねええええ。


 そうなるよねええええ。


 うわぁ、めっちゃ面倒臭いよこれ。


「多分よ、あの女帝はおめえの親父さん、ジョージと結ばれる気満々だったんだろう。だが、この10年後、独身を貫いてたおめえの親父さんが選んだのは……」


「はい、父は地方貴族のアイリー島出身のハーヴァード家出身の母と、政略結婚して。彼女の望みは断たれる感じに……」


 私が生まれる前、アイリー島とヴィクトリー王国で確執があって、それを治めるための結婚だと聞いたことがあったっけか。


 その流れで、私とは親戚筋でアイリー随一の武人として名高い、ハーバード本家のチャールズ・ジーク・アイリー・ハーヴァード侯が、私の騎士団に加わったんだろうけど。


 そうか、死ぬ前の父も言っていた。


 父は母を愛していた事は間違いないんだけど、私にはヴィクトリーで自分が好きになった男なら、平民でもいいよって言ってくれたっけか。


 父もきっと……。


「おう、その後だがよお、公式記録であの女帝はフレドリッヒ含めて3人子供をこさえてるわけだ。だが父親の記録はねえ。そして、貴族連中は派閥闘争をやめて女帝についてるって事はだ……」


 うん、失恋のショックで彼女はきっと、私の勝手な想像だけども、手当たり次第男に手をつけて、手玉に取るような、悪役令嬢ばりの悪女に変貌していったんだ。


 だから、彼女は私とフレドリッヒが結ばれるよう、英雄ジーク伝説にも執着して行って、心がおかしくなったんだろう。


「悪いが、その隙も突かせてもらう。おめえも気が引けるかもしれねえが、勝つためには万全を期す」


「はい」


「そんでよ、ここの旧ノルド一帯を情報封鎖したのも情報工作の一環で、防諜ってやつだね。これは情報漏洩防止や外の余計な情報を、お前さんの騎士団にいれねえためよ。それと多分ロキの野郎がやりやがったと思うが、旧ノルドのスカンザとアクセス繋がってたら、ヴィクトリーに通信が繋がら無くなった」


 そうなのか……。


「絵里、エリザベスと話し合って彼女を味方につけるって事は現状は難しいって事なんですね」


「いや、ただし例外がいやがる。あんまりあいつに貸しは作りたくねえが、イワネツだ」


 あ、そうか。


 彼はアレクセイやロキとも通信が繋がる。


 そして私達とも暗号通信で繋がるから、彼なら両方との橋渡しも出来るのか。


「それと、明日の同時攻撃だがよお、水晶玉通信は俺ら以外の一切を遮断する。そういう装備品や、技術を持った奴らも呼んでいる。これも情報戦の一環だ」


「はい、敵の通信を塞いでしまえば、敵の軍隊間の連携は取れないという事ですね」


「おう、そうよ。前世の地球での戦争でも極道の喧嘩でもそうだが、敵の通信だとか連絡網を真っ先に潰すのも当たり前の話だろ? 軍隊とか、極道間のドンパチ真っ最中なんか、許可した週刊誌のブンヤとか、報道許可されたマスコミしか入れないのもそうだ。徹底的に情報を封鎖して、俺達だけがいい思いをするわけ」


 情報を制するものが、戦争を制するか。


 なんとなく話の流れが掴めてきた。


「それと、俺の関係先の宇宙艦隊なんかも偵察衛星飛ばしまくって、この世界の地理だとか地形とか調べたから。概ね地球と似た地形だってのもわかってるが、嫌な予感がするくれえ形を変えた大陸があった。それが南アスティカだ」


 先生は、机上にこの世界の地図を広げて、南北アスティカ大陸を指し示す。


 たしかに一目見てわかった。


「先生、南アスティカと呼ばれる大陸が、地球世界の南アメリカ大陸と全然違います。非常に広大で、ナーロッパ=ナージア大陸と同じくらい大きい」


「ああ、地理の勉強ってやつをしようか。この南アスティカの形は、ゴンドワナ大陸に似てやがる。ゴンドワナ大陸って知ってるか?」


「いえ」


 なんだっけ? なんかどっかで聞いた事があるようなないような。


「大昔の地球世界、世界の大陸は一つだった。これをパンゲア大陸って言うんだが、プレート移動だとか、地殻変動ってやつでバラバラになったわけよ」


「はい」


 プレートテトニクス理論だったっけ?


 なんか学校の授業で習った事ある。


 先生、学校に通ったことなんて全然ないって言ってたけど、いっぱい本を読んでるからなのか、知識量が半端じゃない。


「こういったプレートの移動とか、プレート同士の干渉が原因で、地震とか火山噴火とかが起きるんだが。話を元に戻すと、ゴンドワナ大陸ってのは、パンゲア大陸がバラバラになった時に出来た超大陸で、アフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド亜大陸、南極大陸、オーストラリア大陸が合体した大陸だ」


 あ、なるほど。


 南アスティカ大陸に、確かにアフリカと南アメリカ大陸が合体したような感じで、中央にアマゾン川なんかよりも遥かに大きい大河が流れて、その横に大きな大河を挟んで、オーストラリア大陸のようなのもある。


 ん、てことは私が最初に島流しにあってペチャラと出会ったオージーランド……このゴンドワナに似てるって言う、南アスティカとかいうめっちゃでかい大陸の一部だったんだ。


 そうか、あそこは……オージーランド原住民はアスティカのメヒカと呼ばれる人々の、同族達なのか。


 とすると、もしもヴィクトリー王国の植民地政策が進んでたら、あのテスカポリトカの領域に入って、やばい事になってたわ。


「こういう風に地理がわかれば、取れる戦術とかあるわけよ。本当は偵察衛星とかで、テスカポリトカとエムがいる、南アスティカの内情を知りてえんだが、封印の効果とテスカポリトカが邪魔してやがんのか、画像がぼやけてわからねえ。レーダー波とかエックス線みてえなので探っても、内情がわからねえんだ」


「確か、テスカポリトカの話だと、魔獣や精霊獣、そして悪魔と交配させたメヒカの拠点でしたっけ?」


「ああ、奴らは意図的に魔人を生み出しやがった。多分改造されたモンスター共もウヨウヨしてやがる魔境で、そこの頭がエム。封印しといてよかったよ、北アスティカの悪魔野郎らと一緒に、この戦争にでしゃばられたら最悪だった。じゃあ、今度は情報操作の一環ってのをこれから見せようか」


 私と先生は、基地内にある音響スタジオみたいな場所に赴く。


「えっと、ここは?」


 周りを見回すと、エルフの女の子達が楽器持ってて、なんだろう、肌が褐色で綺麗なドレスしてて、頭に黒いバンダナ巻いてる、綺麗な黒人シンガーみたいな女の人が発声練習してる。


「遅かったのうマサヨシ! どうじゃ、我の衣装は、似合うかのう」


 あ、女神ヤミーもいつもの喪服みたいな着物じゃなくて、ちょっと小洒落た感じの黒いドレスに、帯がなんかラメが入ってて、綺麗な真珠のアクセサリーとかつけて、おめかししてる。


「おう、なかなかじゃねえか、かわいいぞ。どれ、おめえ手筈通りにゆーちゅーばーやれ」


 先生に褒められてちょっと頬染めた女神ヤミーが、スタジオの前でモデルみたいなポーズとりながら、なんか撮影始まったけど、一体何が?


 あ、ポップな音楽とシンガーさんの歌声で、なんか放送みたいなの始まった。


「おほん、みんな元気ー? ヤミーによる女神ドキュンの始まりじゃぞー。我、いやあたしはーこの世界救済の……」


 ああ、ユーチューバーだ。


 なんか配信始まったよこれ。


 普段と全然違って、めっちゃぶりっ子ぶってるしこの女神。


「この放送水晶玉で配信させてっからよお、ちょっとおめえの水晶玉でアクセスしてみ?」


 ん?


 なんか再生数めっちゃ跳ね上がって、いいねとかつきまくって、バズり始めた。


「先生、これって」


「おう、ここにいる俺が呼んだ奴らに一声かけてよ、動画の支援とか拡散させてんのよ。水晶玉機能を拡張したロキの工作を逆手に取ったのさ。ヤミーの知名度あげるためにな」


 うわ、なんかこれ転生前にネットで見たことあるあれ、再生数工作……そうか、ここには100万人以上集まってるから、そういう手法も出来るってことか。


「そうよ。イメージ戦略ってやつでな、これは俺の転生前の話にも繋がるが、ヤクザは恐ろしい、怖い、暴力団であるってサツからイメージ戦略されたわけさ。結果は、おめえさんもわかるだろ?」


「あ、はい。ヤクザはイコール暴力団とか反社って言われて、衰退し始めたんですよね」


「ああ、ヤクザな稼業はよお、結局は表社会のカタギの協力とかねえと、やっていけねえわけさ。ロバートの兄弟のイタリアマフィアもそうだが、ショバ代ってのも重要でね」


 ショバ代とは、要するにみかじめ料。


 夜の街での用心棒代だとか、理由があって警察に頼れない時が起きた時の、保険金というかサービス代みたいな形で、ヤクザは一般の人からお金を集めていたらしい。


「サツだと頼りにならねえ事だとか、事情があってサツに頼れねえ事ってあるわけよ。女の子が口に出せねえような酷い目に遭っただとか、タチの悪い奴に騙されて金を返してくれねえとか、ドラ息子しつけてくれとか。そういう時に動くのが、本来の極道の仕事だったんだ。そういったカタギとの義理も、縁も、頼った頼られた、世話になった世話したってのがあるから、賭博場も開けたし、テキヤも縁日で出店構えられたのさ」


「はい」


「けどな、そのサツが流したイメージ戦略にまんまと乗せられたのも、ヤクザなんだ。時代の変化で組織の巨大化、組織同士の抗争激化、民事案件とかやった流れで、暴対法規制なんかくらったのさ。そして世間や社会からズレ始め、色んな要因で暴力団って言われた。ヤクザ側も、世間が言うように、怖くて、暴力的、威圧的じゃねえと、ヤクザじゃねえみたいに乗せられてよ。そういう固定観念を植え付けたのも、情報工作の一環だ。怖い話だろ?」


 つまり警察のイメージ戦略「暴力団」が、一般の人達の中にも、転生前の先生のような、ヤクザな社会にも、影響を与えるようになったという話。


「気がついたら、勢いや武闘派なイケイケで食っていくにはヤクザは難しくなった。法の抜け穴を探して、高等教育を受けたヤクザが幅を利かすようになっていったのさ。俺はそっちにも順応性があったが、やっぱ欲が働いてうまくいかなくてよ。組織が分裂してって、暴力を標榜して、銭稼ぎがうまくねえ奴らはパクられるか、ケツ割って出て行ったのさ」


 そう、国家のイメージ戦略でヤクザは行き場を失い、ヤクザイコール暴力のイメージが浸透したら、国からどんどん、法規制で一般社会から切り離されて、先生がトップを取った時には、ヤクザやその家族まで、人権を制限されるくらいにまでなってしまったそうだ。


「だが果たしてヤクザ全体が反社会といえば、そうじゃねえし、極道には社会性と掟がある。だが掟も矜持も仁義もねえ、マジな反社会なんかになれば、それはもう極道とは言えねえだろうな。ただの無職の寄り合いの犯罪集団か、武装テロ集団的なカスの集まりよ。ヤクザだけじゃなくて、マフィア連中に対しても、世界的にそういうふうな事にしようって、動きがあるのさ」


「じゃあこの先、今ヤクザしてる人達はこの先衰退するんですかね?」


「どうだろうな、おそらく今のまま稼業を続ける奴らもいるだろう。一方、地下に潜ってそれこそ半グレのガキらみてえに反社って呼ばれる存在に堕ちるか、裏だったのが表に出てきて、法人化とか政治団体化して、先人達の理念を後世に残そうとするか。あるいはコインの表裏のように、その両方か。いずれにしろ、ヤクザな存在は滅びはしねえだろうな。しかし、時代に合わせて変化はするだろうし、数は減っていくだろう」


 たびたびその話は先生から聞くが、大事なのは社会的なイメージ戦略で、先生は自分達が社会からやられた真逆の手法で、世界を救済させる事ができるのか。


「話を戻すが、こういう情報操作はバンドワゴン効果って言ってよお、まあチンドン屋だよな? パレードにいる賑やかしよ。人間の心理的なもんでよ、圧倒的多数に支持されてるとか、騒がれてるってなったら、おめえさんどう考える?」


「あ、はい。なんていうか、ブームに乗らなきゃとか思って注目しますよね……あ」


 先生は悪い笑みを浮かべる。


 そういう事か。


 流行ってる、支持されてる、ブームになってるという人の心理をついて、女神ヤミーにあんなユーチューバーみたいなことさせてるんだ。


 人々からの支持を得るために。


「ただし、ゴリ押しすんと反発する奴も出てくるだろ? 人には趣味嗜好とか相性ってのもある。そうだよな?」


 ああ、うん。


 人気者には必ず逆張りっていうか、あれが気に入らないだの言い出すアンチがいる。


 実際、私がロキや絵里から受けた工作は、私を英雄だってゴリ押しみたいな感じで、水晶玉通信で仕立て上げて、一気に評判を落としてアンチだらけにされたっけか。


「じゃあよお、手っ取り早くアンチ的な受け皿を俺らで作ったらどうだ?」


「……は!?」


「俺のヤミーに突っかかる、あのヘルとかいうガキ女神も、ゆーちゅーばーにしたからよお。ロキも、協力してくれるだろうぜ、ケッケッケ」


 うわ、めっちゃタチ悪いし。


 本流もアンチも両方、先生の手のひらで踊らされてるって事か。


 女神ヤミーとアンチ的なヘル、両方をコントロール化において、情報戦で一気に有利に立つつもりなんだ。


 ロキは、自分の娘の女神ヘルと勇者のイワネツさんが、私達に寝返ったのを知らないのもでかいし。


「他にも相手を、ある一定の情報で相手を誘導して、こっちの思うようにカタに嵌めちまう事だって出来るんだ。例えば、チート7とか言うガキらにロバートの兄弟がやったようによ。やり口や手段手法は無限にある」


 なるほど、なんかアホな子騙して趣味悪いかもって思ったけど、あれも情報工作の一環なのか。


 あ、先生の水晶玉が振動し始めた。


「俺だ。おう、おう? バブイールに侵攻してたハーンの軍が引いた? ああ、旧チーノ大皇国の沿岸部に軍艦集結させて……ふん、なるほど。イワネツの野郎が描いた絵図通りになったか」


 バブイールに展開してたハーンが引いて、沿岸部に軍隊を集結させてるって……まさかナーロッパ侵攻作戦が、急にジッポン侵略に変わったって事か。


 おそらく、イワネツさんが何かやってハーン達の方針が変わったんだ。


「おう、バブイールとロレーヌの国境地帯で動きが……ああ、わかった。龍にも連絡とって、必要ならば国境地帯を制圧しろ。おう、またな」


 情報を握ると、ここまで出来るんだ。


 あ、また先生の水晶玉が振動した。


「おう、どうした兄弟? マジか! そっちの映像こっちに回せ!」


 ん? また何かあったのかな。


 すると水晶玉の画像が、なんかLINEみたいな文字でやり取りする画面に切り替わる。


白薔薇: 蒼魔あなたは私たちに黙って、勝手に†漆黒†とやりとりして襲撃計画を立てた可能性があります。よって、あなたのこのチート7内のアクセス権限を一時制限。私から†漆黒†に直接、襲撃計画を指示します。それでは


「先生、なんかこいつめっちゃ蒼魔ってアカウントの私達を疑ってます。有無を言わさず弾かれてます」


「用心深いな。直接指示するってことは、正体不明な白薔薇とノワールは直で接触するってわけか。兄弟、情報共有感謝するぜ。こいつが俺達を、マトのかけてるって情報も間違いねえんだよな」


「ああ、だが君達だけでなく、戦乙女のワルキューレも手配していた記憶がある。全然何者か検討がつかん。私は真っ先にエリザベスを疑ったが、リアルタイムの偵察衛星の画像だと、ロンディウムという街で民衆相手に演説して鼓舞してて、アリバイがあるな」


 たしかに先生やワルキューレと敵対してるならば、エリザベスの可能性があるけど、アリバイがあるのか。


 じゃあ一体誰が……。


「わかった。もしかして俺達が知らねえだけで、別の勢力がいやがるか。いっそ、このノワールのガキさらうか」 


 ノワールの戦闘力は、かなり高いらしく、そう簡単に身柄が拘束できるかどうかだが、やるしかなさそうだ。


「話の続きだが、他にも仕掛けは考えてる。デリンジャーの演説も全力でサポートするし、おめえについてもな」


 え? 私も何か情報工作の一端を担えって事なのか?


「おめえと俺が拵えた交換日記、こいつを公表する。あれだよ、ネットで言うところのブログってやつだ」


「え? どうしてですか」


 あれ公開されるのかしら。


 ちょっとなんか恥ずいし、前世も含めた日常についての事とか、思いっきり私のプライベート情報満載なんですけど。


 そんな事を思っていると、先生はニヤリと笑う。


「へっ、だからいいんだよ。この世界を救いたいっておめえさんの想いを書いたのが、俺との交換日記だ。これは、エリザベスのガキへの仕込みでもある。いいかい、情報戦ってのは相手の心理的効果、ゆさぶりを狙うんだ」


「ゆさぶり的な心理的効果ですか?」


「そうだ。お前が繰り返した出会いと別れと、色々と物を知るために、学ぼうとする姿勢をこの世界の奴らに示してやんだよ。おめえの真っ直ぐな想いが、心が、この世界の奴ら、絵里ってガキへの救いにもなるだろう。世界を良くしようって想いが一番描かれてるのがあの日記だ」


 それが心理的効果か。


 負の心理が働いて、私の世界崩壊の召喚がきっかけで、この世界の人達が争い合う世の中になったけど、それとは逆の事をするわけね。


「もちろん、このスカンザでやるとおめえの居場所がモロバレだから、転送用の水晶玉をジッポンに置いておく。そのためには、イワネツのクソボケの力を借りねえとだがなあ」


 あ、なるほど。


 私はジッポンにいる事になってる。


 暗号通信を経由して、ジッポンで私が日記を公開した事にするのか。


「その仕掛けのために、今からジッポン行くぞ」


 先生は、イワネツさんに渡すアイテムと、偽装用水晶玉を持って、私と一緒に転移の魔法でジッポンへ赴く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ