第149話 マリーが学ぶ情報戦 前編
ごきげんよう、マリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーです。
先生はチート7の構成員をフルボッコにしてるが、いつまでも私達は、こんな奴に構ってられない事情がある。
私は、無言で腕時計をツンツン指で突くジェスチャーをして、先生にそろそろ時間が迫っているのを教えた。
デリンジャーの世界救済に向けての演説と同時に、この世界の敵勢力に、一斉攻撃を加える計画の時間が迫っているからだ。
こいつがロバートさんが仕組んだ計画で、彼の演説前にノコノコ顔を出してくれたから、首尾よく捕獲する事が可能だった。
こいつとデリンジャーのやり取りも、演説前のいい余興っぽくなったし、今私が動画撮ってる、こいつがフルボッコにされた映像を流せば、懸念事項の一つだった、正体不明のチート7が私達の作戦を邪魔するような勢いも、挫く事も出来る。
全ては、私達の計画通りに進んでいた。
それは昨日のこと。
世界救済計画の最後の詰めの会合が行われた。
「シミーズ、例の作戦は、予定通りに行う手筈だ。俺はやるぜ、この世界に悲しみを終わらせてやる」
「おう、昨夜ロバート交えて話した通りだ。ついでにゲロカス小僧もぶっ潰す。例の大陸の南半分に、厄介な野郎らがいるが、そいつらも手が出ねえように封印済みよ」
通信に出たデリンジャーの背広の肩には、まるで枝に止まったような真っ黒い三本足のカラスを模した新しいロボットのような武器、いや神器か。
まるで本物のカラスみたいに、生きてる感じがして、本当に神の兵器なのかな?
「ファーック。アスホール!」
うわぁ、九官鳥みたくしゃべったコレ。
しかも口悪っ!
「その、八咫烏の使い方は理解できたかい? 俺が日本の神々に頭下げてお借りしたブツよ。こいつはおめえの意思でドローンみてえに偵察できたり、攻撃魔法とか色んなサポートしてくれるんだ。ロバートの兄弟が贈ったおめえの道具とも合体して、強力な銃撃もぶち込める」
ていうか神話の八咫烏をドローン扱いは、さすがにないと思う。
「オーライ、ドローンってのはよくわかんねえが、SF映画のロボットみてえなもんだろう? 気に入ってるぜ」
「ファッキン、クレイジー! ファッキン、ジーザス!」
「さっきからこのカラス、口が悪いな兄弟。なめやがって、口にクソ詰めるぞ鳥頭野郎」
いや、イラついた時のロバートさんも、人のこと言えないんですけど。
「おい、デリンジャー。それ、借り物だからよお、変な言葉覚えさすなよ。返す時にメモリー消去しなきゃやべえなあこれ……俺がしばかれちまうよ」
あ、水晶玉の画面で八咫烏が先生と目が合った。
「Fuck You!!」
「誰がクソ野郎だこの鳥野郎! ぶち殺すぞボケ!」
えーと、多分ドローン呼ばわりとかしたから怒ってるんじゃないかな?
Fワード連呼する八咫烏を尻目に、デリンジャーは黄金色に光り輝く、コルトガバメントのような銃も私達に披露した。
「このクールな黄金銃ヴァジュラも気に入った。試し撃ちしたが、クレイジーだぜこいつぁ」
古代インドの金剛杵と呼ばれた神器だそうで、最新式はピストルタイプの武器みたくなってるという。
よくわからないけど、インドの辺りの神様が使う強力な武器らしい。
「シミズ、私に贈ってくれたこれも、凄い代物だ。自在に魔力を付与したり、魔法効果を切断したり無効化出来る、閻魔刀だったか? これがあれば私の剣技で、ハーンの魔道士相手にも絶対的な有利にたてる。精霊の祝福受けたアイギスの鎖帷子もな」
「おう海賊の龍、昔俺が使ってた道具よ。おめえさんの剣の腕なら扱える筈だ。あと、ギリシアの神々御用達の、そのアイギスシリーズの防具は、強力な破魔の効果を持つ。並の攻撃魔法なんざ屁みてえなもんよ。ただし過信は禁物だし、他人がかけた回復魔法の効果が無くなるから、その辺気をつけろ。俺達剣士は、相手が攻撃する前に、先の先でぶった斬るのが一番だからよ」
「うむ、武蔵先生の教え、兵法勝負の道においては、何事も先手先手と心懸くる事也だったな。勝つことの重要性と、道を志す教えを受けたことを思い出す。それと君の送った救援のおかげで、バブイールの難民保護も無事に進んでいる。私の船団で、侵攻して来たハーン達も、順調に駆逐し、ルーシーランド国境付近も制圧した」
龍さんは、広大なバブイール王国の国土を、砂漠でも航行出来る魔法の船と、先生の送ってきた空飛ぶ戦艦で主にハーンの勢力と交戦中だそうだ。
龍さんからも、色々アドバイスを貰った。
この人、土の魔法でめっちゃ重たい、素振り用の剣を具現化させて、片手で素振りしてたっけ。
「すごいですね、龍さん。ハーンとの戦闘以外は、鍛錬ずっとしててきつくないんですか?」
「ふっ、鍛錬か。千日の稽古をもって 鍛となし、 万日の稽古をもって 錬となす……敬愛する武蔵先生が言っていた。これは意識の問題なのだよマリー君」
意識?
なんだろう、ソフトボールやってた時、中学の先生から意識が高いとか低いとか漠然に指導されていたけど、意識か。
「今の君ならわかる筈だ。意識の重要性とは、無いのと有るのとでは得られる知識量が、天と地ほど差があるのだ。自分を高めようとする意識だよ。私が見るに、清水という男は、自意識の塊だと私は思う。君に指導して、勇者という概念を君に叩き込む感じだが、私から見るに、彼も不器用な所がある」
先生が不器用……か。
大船団を率いて、海軍の将軍にもなった龍さんは、そういう広い視点で見れるところがあるのかな?
「例えば、どんな所が?」
「うむ、私が感じた点だが、彼はリーダーに求められる資質は全て備えている。だが、足りないとすれば器用さだ。頭はいいだろうが、一つのことに固執しすぎて、しばしば感情に流されやすい面があると私は見てる。思い出してみたまえ、彼の指導で清水も出来ていない事を、自分に実践させようとしてるのでは? と」
……ああ、うん。
思い返すと、私に我慢の重要性を問いた時も、一般常識的なズレなんかも感じたし、なんか先生にはそういうの、苦手そうなのかなって感じがした。
「彼は力もあるし、確固たる自分を持っている。けど師事した君は、彼の得意不得手をわかってきたと思うから、自分の判断で彼を超えるつもりで、意識を高めなければならないよ? 私も色々な人に師事して、李の老船首や武蔵先生の教えを学んだが、盲目的に彼らの意見を全て聞くのではなく、自分にとって本当に学ぶべき道を学ぶんだ」
龍さんの言わんとする事はわかった。
私が男のヤクザで彼の子分なら、彼の言う事は絶対だし、遵守しなきゃいけない義務があると思う。
けど、私は女でヤクザではないし、先生のいい所も悪い所もわかってきたし、先生も言ってたけど、良いところは学んで、嫌だなって思ったのは覚えなくていいと言ってた。
自由にものを考えて、意見できるように先生は多分私にしてくれたから、おそらく、彼は自分が自負するヤクザという枠組みではなくて、自分が考える域外の意見も見聞しながら、彼もまた成長しようとしてるんだ。
それに私は先生の一番いい所を知ってる。
自分ではヤクザでどうの言ってるけど、常に新しい事を勉強する、真面目さと面倒見の良さや、悪を滅ぼす確固たる思いと、自分の勇気を自分以外の誰かに与えられる点。
そして龍さんの教えにも、ちょっと足りない所を思いついた。
「龍さんも、なんていうか意固地な所も不器用な所があります。先生の欠点を指摘したように見えましたが、それは龍さんも当てはまるような気がしますよ」
私が笑顔で指摘すると、龍さんも素振りが早くなって、照れ臭さを隠してるような感じがする。
「ふふ、私が刀を振るうに十分な意義を、君の笑顔を通じて感じる気がするよ。男というものは、それだけで戦えるんだ」
なんか良くわかんない事を言って、彼の信念めいた人間らしい気持ちを感じた気がする。
そして彼の男に応えなきゃって意識も、今の私には生まれていた。
そんな事を思い出しながら、私は龍さんと先生の会話に傾注する。
「しかし気がかりな事がある。部下の報告では、ロレーヌ皇国の騎士共が、ブルガリー国境まで引いている。奴らは、何か企んでいる可能性があるな」
「おう、それな。相手が勝てる喧嘩で攻め込んできたのに、いきなり引いた場合は概ね二つ。てめえの縄張りで何かあったか、それとも陽動かまして何か企んでる場合よ。相手は、古代中国を無茶苦茶にして、ローマ帝国滅亡の原因作った、フン族のアッティラ。匈奴って言えばわかんだろう?」
ああ、匈奴って確か中学の世界史で習った事があった。
古代中国を脅かしてた騎馬民族だっけか?
「古の昔、北方にいた馬賊の民だったな。その中でも、歴代最強なのだろう? アッティラと言われた大王にして、この世界の英雄ジークフリード。相手にとって不足なし」
そう、腐っても英雄だったジークの力と、魔王軍を利用した陰謀力は、底知れぬ怖さがある。
どうやらあの似非英雄、私の事に未練たらたらで、狙ってきてるらしいしキモい。
「オーケー頼むぜ、龍。それと、無理はするなよ」
「ジョンよ、我事において無理と言う単語はない。重んずるべきは道、道理よ」
龍さんの不敵に笑う顔が、どことなくデリンジャーに似るようになってきた。
元々、彼らは本来の魂を呼び覚ます前から、男同士で惚れ合ってきたところがある。
魂と魂の絆、男同士がお互いに影響しあって強い絆で結ばれるか……。
水晶玉の通信に出たジローも、ニッコリ笑みを浮かべて、例の如意棒と、素早さを極限まで高めるヘルメスの魔法効果のローファーを指差して披露する。
「宮本武蔵先生ぬ‶空を道とし道を空と見る″てぃ五輪書ぬ格言好きさぁ。空手ぃの道に通じる話やん。我の道はぁ、人々が笑い合う世界。すりぃ邪魔すん汚れ、外道共を拳骨さぁ」
彼は今、ロバートさん達異世界マフィアと一緒に、ロマーノ王国内に潜伏している。
護民官にした各地元のヤクザ達も、比嘉小吉ことサルヴァトーレ伯指揮のもと、シュビーツの傭兵団に一斉蜂起出来るよう、すでに準備を整えている。
「兄弟、ロマーノを奪還した後は、ミスターデリンジャーと合流して、シュビーツの首魁と思われる、ハプスベルン伯爵一族の身柄も抑える。それと、このマジックアイテム、ホルスの目は凄いな。千里眼という奴か? 遠くの景色どころか、人間が見えない光の波動まで見える」
眼鏡に羽がついてる、仮装パーティでつけるような恥ずかしい眼鏡だけど、これも神のアイテムなのか。
「おう、エジプト神から調達したブツよ。俺と指揮官連中にはこれを持ってもらう。でけえ規模の喧嘩になるからな、文字通り視野を広げねえと。恥ずかしくて俺はあんまりつけたくねえが……いやなんでもねえ」
あ、うん。
先生もあれ装備するの抵抗あるみたいだ。
「そうかー? 兄貴ぃ」
「ぷっ!」
思わず吹き出しちゃったけど、ジローがかけると、某ゲームの遊び人キャラみたい。
「それと、そっちの調査は順調か?」
「ああ、ペチャラ君の協力もあってロマーノ大学図書館で、ジューについての文献を漁ってる。彼らの歴史、人脈、そして彼らの先祖が奴隷身分に堕ちた事について、わかってきたぞ」
ロマーノ大学は、ペチャラが医療について勉強しているナーロッパトップクラスの歴史ある大学だ。
特に考古学研究は、この世界でトップクラスの研究員と教授がいて、ロマーノ帝国時代からの蔵書が沢山置いてある図書館なんかがある。
「この世界の人間には解読出来ないようだったが、記されてるのは古いラテン語だ。私はラテン語がわかるからな。ロマーノ帝国最盛期、ルーシーランド人の蛮行と復讐戦争とやらがジューと呼ばれた民族が出現した発端」
ロバートさんはめっちゃ頭がいい。
州立大学出なのもそうだけど、頭の回転は先生やイワネツさんを時折上回り、知識量も龍さんと同じくらいある。
「ん? ロバート君はカトリックか? ロザリオをしているな。私も持っていたが、洗礼名はニコラスだった。私の時代、ヨーロッパとの交易ではデウスに属さねばならなかったからな。中華でも日本でも、カトリックが流行ってキリシタンと呼ばれたよ」
「おお、君もカトリックだったか。私の洗礼名は聖人からあやかったマルコだ。生まれた時に教会で神の祝福を受け、ゴッドファーザー、代父をしてくれた母方の祖父後見のもと洗礼名を授かったんだ。先祖の地、南ヨーロッパでは、基本的に洗礼名がファーストネームになる」
ああ、元々ゴッドファーザーってキリスト教の洗礼の立会人とか、そういう意味なのか。
マフィアのドンだとか、名付け親とか漠然としたことしか知らなかったけど、元々宗教的な意味合いがあったんだ。
この世界では、王家や貴族の正当性や、英雄ジークだとか英雄カンビナスの権威にあやかるって形でミドルネームつけられるけど。
「ロバートの名は両親からつけられ、ロバート・マルコ・カルーゾが私の名だった。イタリア移民間では、アメリカナイズされたファーストネームに、神と先祖の繋がりを意味するミドルネームを持つのが多くてね。もっとも、最近はミドルネームが伝統にとらわれず、私が見て頭痛がするような自由なものを、馬鹿な親が付けて社会問題化してるが」
「ふむ……それは、どの時代でもどの国でも変わらない。中華ではだいたい20歳過ぎて一人前の男と認められ、字名を名乗る。私の字名は最初は飛黄としたが、箔をつけるために空にかかる虹、飛虹と名乗った。今思うと、もう少し自重すれば良かったな。若気の至りだよ」
日本でも、DQN丸出しのキラキラネームが問題になってるけど、欧米でも昔の中国でもそうなのか。
「なるほど、人間はどの時代もどの文化圏でも変わらんか。話を戻そう! ジューにまつわる文献を確認すると、ノルド帝国と古代ロマーノ帝国は最初交流があったようで、彼らが交流して生まれたのが、ホランドのハーフエルフだそうだ」
ああ、なるほど。
大昔はヒトとエルフの交流があったって事ね。
多分、その時はフレイとフレイアの兄妹仲はそんなに悪くなかったんだろう。
「しかしその一方で、ノルド帝国から分派した一族が、ハイエルフの集団。彼らは良質な森を目指して移動したルーシーランド人と言われ、民族移動をする過程でナーロッパに侵入。男は殺し、女は犯す暴虐な限りを尽くしたという。その彼らの子孫がガリーア人、後のフランソワ人だね。ロマーノ帝国とガリーア領域、そしてルーシーランドは戦争状態になったそうだ」
つまりは、民族紛争が古代で勃発した結果、今の世界情勢に繋がっているという話だ。
「ルーシーランド人は、その残虐さでヒトの国から悪鬼の如く忌み嫌われ、ノルド帝国からも追放処分を受けたとされるな。古代ロマーノは、長年彼らから苦しめられ、略奪され、ついに彼らルーシーランドに復讐をした……か。まるで地球のローマとカルタゴのようだ。その後ルーシーランド人は敗れ、バブイール王国に引き渡され、奴隷に、シット……根深い人種対立だなこれは」
人種差別と、人種対立の歴史。
地球世界でも精霊の世界でも、傷を負った魂が転生して、もう二度と魂が傷つきたくない筈なのに、互いに虐げ合って、それが今の世界に影響してる。
「それをやりやがった主犯が、オーディンだ。ぜってえ許さねえぞワルめ。てめえの都合で人々を苦しめ、世界を蝕み虐げる外道。ケジメつけてやる」
先生の言葉にみんなが一堂に頷き合う。
「それと、兄弟よ。さっき連絡した通り、例の白薔薇は組織を作った。チート7とかいうガキっぽいネーミングだ」
「ああ、その白薔薇の野郎、俺らマトにかけてやがんだろ? ざけやがって、ロキかオーディンかどっちかの勢力だな。そのやり取り、もう全部消されちまったんだろ?」
「ああ、君もアクセスして見えるように、やり取りを記録しようとした。だが画像も文章も全て消され、手掛かりになる記録も消去されたよ。奴は資金力も誇示してて、ジューともつながってる可能性があるから、オーディンの関係で間違いなさそうだな。それとおそらくだが、こいつは犯罪慣れしてやがる」
白薔薇の正体は犯罪者か。
しかも、ネットのハンドルネームみたいに、正体を一切明かさず、悪事とか考える集団がチート7なんだろうか?
そのやり取りの記録が残ってれば、なんらかのヒントが残された可能性もあったのに。
「ロバートさん、水晶玉画像の機能で前の世界でいうスクリーンショット。スクショも出来るんで、次回からそういう手段を」
「……なるほど。すまんが私はそういったパソコンの扱いだとか器用な事が出来なくてな。考慮しよう、不器用ですまん……ん?」
ゴットファーザーのテーマが、通信中のロバートさんの水晶玉に流れて来た。
あの映画、長くて全部見てないけど、リアルなゴットファーザーだったロバートさんも、あの映画好きなんだろうか。
「ふふ、誘き寄せられた馬鹿なサイコ野郎からだ。ミスター、こいつは予定通り……」
「ああ、ロバート。こいつは俺がやる」
フランソワで悪逆非道してて、†漆黒†とかハズイハンドルネーム名乗ってるノワールって奴からの直接通信だろうか。
「漆黒だ。お前が蒼魔だな?」
「いかにも、私が蒼魔だ。私の分身の術でお前のターゲットを監視している。フランソワパリスの新築された大統領宮殿に籠っているな。周りは騎士達が囲んでて隙が無い」
「あーん? 俺のチート能力なら余裕だよ! イキリ大統領なんざワンパンよワンパン」
うん、めっちゃイキってるこいつ。
先生が苦笑いでやり取りきいてて、デリンジャーは眉がピクピクして、今にもキレそうな感じになってるし。
「騎士の装備は、見たことない道具を持ってる。お前、この武器わかるか?」
ロバートさんは水晶玉画像で、わざと自分が具現化したでっかい機関銃を見せる。
「お、でけえマシンガンじゃん! 中世風の文明低い馬鹿ばっかの世界だと思ったけど、アホ大統領が作らせたのか? 多分大統領も転生者だろうが余裕だよ余裕。俺のチート能力はステータスMAXと炎の力、そしてぇ、全回復の回復魔法と結界能力だ! 相手を結界作って火あぶりが必勝パターンだぜ? ヒャーハッハッハ」
うん、こいつ自分の能力べらべら喋って馬鹿なんじゃないかな?
それにロバートさんを、勝手に自分の味方だと思い込んでるみたいだし。
「こいつホームラン級の馬鹿だろ? 俺も色んな馬鹿みてきたが、なかなかの馬鹿だなこいつ。この世界の奴ら馬鹿にして下に見てるが、こいつが馬鹿だわ」
先生も私と同じ意見のようだし、龍さんも鼻で笑って、ジローもニコニコしながら生暖かく見守ってる感じだ。
「ならば漆黒、俺のチート能力、分身で宮殿内の奴の執務室を盗聴してやろうか?」
「すげえな蒼魔、そんな事できんのかよ。ヤベエなチートじゃんそれ」
先生が肩を震わせて笑い押し殺してるし、みんなニヤニヤしてる。
「ぷっ、分身の術とかロバートの兄弟……ククク、やべえ腹痛え」
すると不敵な笑みを浮かべたデリンジャーが挙手する。
「よう、ロバート。こいつへ俺がメッセージしてえんで、つないでくれよ」
ロバートさんは、デリンジャーに頷いて、ノワールの水晶玉へ音声と画像を切り替える。
「……なんか俺のこと気になってる野郎がいるみてえだなあ? 覗いてる誰かさんよ」
「!? お、おい蒼魔バレてんぞ? やべえぞ逃げたほうがいいって!」
すっごいノワールって奴が哀れだ。
悪い大人の不良たちに完全に嵌められてるのに気づきすらしてない。
「ククク……」
「ぷっ、ふふ……」
「哈哈哈」
「へっへっへ、くぬひゃー馬鹿やん」
全員ヘラヘラしながら、ノワールがテンパってるの見ててちょっと趣味悪いかも。
まあ、私も今にも吹き出しそうなの堪えてるけど。
「まあいい、戦争の邪魔だし、てめえ潰すぜ? オルレアのノワール」
「俺の転生名が……ば、バレてる! 奴もチートか!? 魔王軍の幹部め! ぶっ倒してやるぜ俺が」
デリンジャーは不敵に笑い、クルクルと回転させながら黄金銃を取り出す。
ていうか、なんでデリンジャーが魔王軍幹部?
意味わかんないし、白薔薇って奴が考えて吹き込んだ情報なのかしら?
「BANG!」
デリンジャーが画面に銃口を向けて呟くと、映像が途切れて音声だけになる。
「漆黒、分身が消された! 奴はやばいぞ!? 本当に戦う気か!?」
「うるせえんだよクソ雑魚!! 奴は俺が予定通り明日ぶっ殺す!!」
「そうかよ、勝手にしろガキが!!」
ロバートさん、役者すぎる。
声優が出来るんじゃないかってくらい、焦った演技したり、怒った演技してノワールをハメる気だ。
あ、音声切れた。
「とまあ、こんな感じだ。転生前の身内にオペラ役者がいてね、私も演じるのが得意なんだ」
「おいおい、俺を笑い殺す気かよ兄弟。アカデミー賞ばりの熱演だったぜ、クックック、あーっはっはっはっはっは!」
一同大爆笑だった。
私も口で手を抑えて笑ってしまう。
「さて、チート7とかいう謎の組織は、7人で構成されているのがわかっている。でよ、こいつらが俺らの作戦、‶ジョン・デリンジャー・デイ″に介入されても困るからよ、このガキ見せしめにして奴らの勢いを挫くぞ」
「おう、シミーズ。演説はフランソワ時間の午前10時に行う。その前の前座で、野郎をぶっ潰そう」
全員が頷き合い、もう一人の通信の参加を待った。
「Извини! 俺だ。二か国ほど潰してて、お前らとの通信に遅れたぜ。マツは今ちょっと出られねえ。あいつはあいつでやることあるからよ」
「これだから露助野郎はルーズなんだよ、おせえぞ馬鹿野郎」
「まあまあ、兄貴ぃ。兄弟、調子はどうやいびんかー?」
イワネツさんも遅れて通信に加わった。
マツ君は今回は出られないそうだ。
「こっちの現状を話すぜ。アレクセイのクソボケの陰謀に加担した側近格の奴を生け捕りにした」
「じゅんに!?」
「マジか!?」
「真的嗎?」
すごい、アレクセイの側近を捕まえたんだ。
ていうかジューの陰謀はやはりジッポンにも及んでいたんだ。
「いい仕事だイワンコフよ。それで、君の方でわかった事があるのだろう?」
「ああ、ロバート。エルゾって言ってよ、転生前のホッカイドーのような北の島にいる奴らだが、そいつらもジューだ。そしてやつらエルゾも、オーディンを信仰してて戦乱起きてるジッポンを奪う陰謀を企てていた」
うん、エルゾもジューの一族っていうのも私達の調査でわかっていた。
問題は……。
「イワネツさん、アレクセイはなぜ世界を憎んでいるんでしょう? 先祖の恨みもあるんでしょうけど、彼によって同族のジューも酷い扱いを受けているのも私は聞いてます。その辺もわかっていたらぜひ」
「ああ、俺のマリーよ。奴が屈折した原因は、自分の妹の死だ。奴は、ノルド帝国にもチーノ大皇国にも存在を否定され、そのせいで妹が死んじまったんだ。だから、チーノ大皇国は真っ先に滅ぼされた。ハーンの族長で現チーノの皇帝の正体は、アレクセイの従弟のアルスラン・ハーン。奴も、アレクセイと同様、ヒトとエルフに家族を差別され、コケにされて殺されたっていう復讐に燃えている。そっちの旧ノルドもやべえぞ? 奴らは……この世界全ての種族を憎んでいる」
肉親が差別を受けて死んでしまった。
それが、彼らが世界を滅ぼす動機なのか。
そして、それをけしかけているのは、指定4類の叛逆神オーディン。
許せない、先生が言う通り絶対に許しちゃいけない悪。
「なるほどね、よくわかったぜロシア野郎。その話、詳しく俺達に教えてくれよ」
発端は100年前に起きたアレクセイの妹にして、キエーブの王女エカチェリーナの病死。
アレクセイも、ハーンの跡取りになる予定だったアルスランも、キエーブの王も家族を救うために、奔走していたけど、ノルド帝国から差別され、チーノ大皇国からも差別されて彼女は死んだ。
そして彼らの復讐心を利用して、戦乱を巻き起こすオーディンが暗躍し、この世界の金融を支配する国際金融資本の元締め、シュビーツにいるランドハルト・フォン・ハプスベルグのお金儲けによる世界大戦が、この世界で起きた一連のジュー達の陰謀。
「もう、終わらせよう。こんな悲しい事、悪い奴らをやっつけて、この悲しい世界をみんなで救おう」
「ああ、マリー。ランドハルトの野郎は明日の演説後、騎士団率いて、奴の屋敷とシュビーツ銀行ごと強奪する。ロバート、ジローもサポートを頼むぜ」
「私は、機を見てルーシーランド本土に我が船団を威力偵察を兼ねて侵攻させる。イワネツ、君はハーン対策とジッポンを予定通り」
「おう、北ジッポンを手に入れる計画は明日完成予定よ。ハーン共と南ジッポンは俺に任せろ」
「じゃあ俺の極悪組と関連組織で、今から敵の野郎らに情報戦を仕掛ける。喧嘩はよお、ドンパチするめえの情報戦がカギ握ってくるんだ。行くぜ野郎ども、同時攻撃まで準備を入念にな!」
全員が頷き合う。
「みんな、シミーズから渡された神の道具の使い方、今一度頭に入れて慣れとこうぜ。多分、オーディンもこの戦いに介入してきそうな気がする」
私達はデリンジャーに頷くけど、イワネツさんがきょとんとする。
「おい、シミズから渡された道具ってなんだよ? そんな話聞いてねえぞ」
先生はにやにや悪い笑みを浮かべて、水晶玉の向こうのイワネツさんを見る。
「え? なに? 貸して欲しいのおめえ? しょうがねえなあ。じゃあよ、画面の向こうで手ぇついて、道具欲しいから何でもしますマサヨシ様って土下座したら、道具貸してやんよ」
うわ、また先生イワネツさんにマウントとろうとしてるよ。
「ざっけんな馬鹿野郎! クサレヤクザが!!」
「じゃあテメーには神の道具貸してやんねえ!! クソしてねろ!!!!」
「ぐっ……外道ヤクザが!!」
私達はため息を吐いて全員が挙手する。
「それはちょっといくらなんでも酷いって先生」
「つまんねえ意地張らねえで、イワネツにも道具貸してやれよ」
「それ以上は兄弟分である私が恥ずかしいからそれくらいにしたまえ」
「兄貴ぃ、そういうの良くねえさぁ」
「清水、もしかして君はケチか?」
先生は舌打ちしながら、イワネツさん専用の道具を水晶玉通信で手配して、融合薬のエーテルとアゾットの入った瓶を用意する。
「じゃあ、テメーにこれくれてやんよ。報告で聞いたが、ニョルズの鉾と、トールが使用したミョルニルって槌がそっちにあるだろ? その薬液で合成してテメーで装備品作っとけ」
「私からも、七色鉱石式魔法銃を贈っておく。君の知識と魔力で自在に形と威力が変るブツだ」
こうして、イワネツさんにも神のアイテムと、装備品の何点かが先生が転移の魔法で送ることになり、私は先生と参謀本部まで赴いた。
「よう、お前も俺達がこれからやる絵図、よく覚えておくんだ。今から、インテリでヤクザな情報暴力をやるからよ」
「はい」
こうして、私は‶ジョン・デリンジャー・デイ″作戦前の情報戦に携わる。
後編に続きます