第147話 動き出す男達 後編
ナーロッパの中心と呼ばれるフランソワの戦線は、激戦地となっていた。
敵勢力は、シュビーツ傭兵団の中でも最精鋭、ギャランド傭兵隊。
一騎当千のロレーヌの騎士団。
ヒスパニアから侵入してきた、エリザベス操るモンスター軍団と、ヴィクトリー海兵隊。
そして国家中枢を、フランソワに恨みを抱く諸侯に乗っ取られたハーフエルフの国ホランドの兵士達。
金銭的に支援するのが、ジュ―の商人と国際金融資本。
背後にいるのは、ヴィクトリー簒奪を企む黒騎士エドワード護国卿にしてルーシーランドのキエーブ王国事実上の当主、アレクセイ・イゴール・ルーシー王子。
元首であるデリンジャーが望んだ、人が人を殺さずの世の中とは程遠い、人が人を殺さねば生き残れない様相となり、その戦乱の最中、国内で残虐行為を働く†漆黒†と名乗る本名をノワールという元貴族の少年と、それに呼応した愚連隊集団。
デリンジャーは、目に怒りの涙を溜めながら執務室の机をバンと叩く。
「ファッキンシット! もう……限界だ! 市民が、俺の国で弱き人びとがぶっ殺されて。……大統領なんざもうやめだ!! もう待てねえ、この国でこれ以上殺しはやらせねえ!」
補佐官のルイーズが体をビクッとさせて、すぐにでも戦地に赴かんと、銃を手に取り激高するデリンジャーをなだめようとした時だった。
「デリンジャーの兄さん、安心してくだせえ。オイラ達がいる」
執務室に、鼠色の着物を着た角刈りの青年が姿を現した。
勇者マサヨシが設立した異世界博徒系任侠集団、様々な世界に縄張りを持つ大親分、極悪組二代目組長にして仁愛の世界の用心棒、ニコ・マサト・ササキである。
「若頭、地図を」
「はい、親分」
美しい金髪をベリーショートにした、宝石のような目をし、浅緑色の長着を着たエルフの少年が、執務室壁面に風の魔法で世界地図を貼る。
「兄さん、決行日は明後日。世界中で騒乱を起こす外道共、まとめてぶっ潰す作戦を実施いたしやす。作戦名は、ロバートの叔父御が考えてくださった、‶ジョン・デリンジャー・デイ″これから作戦内容を伝達いたしやす」
風の魔法で執務室内のインクが宙を浮き、次々とナーロッパと呼ばれる世界地図に付着する。
「まず敵勢力の首魁が集まったヴィクトリー王国、ここについてはうちの親父、組の総裁にして相談役とマリーちゃんが直接乗り込んで、ケジメ取ります。次にロレーヌ皇国、ここの奪取にはうちらの組の主力や、各世界より集まった精鋭部隊が急襲、一気に占領します。ルーシーランドのキエーブ、ここについては敵の首魁、オーディンとかいう弱虫野郎も出張ってくる可能性がありやすんで、龍ことアヴドゥルさん達と、慎重に事を進める予定でござんす。それとロマーノ奪還と、シュビーツ対策は金城の叔父貴にお任せしてますんで。フランソワを荒らしてるノワールって野郎は自分らのコントロール化に」
「他の勢力は?」
「そうですね、ホランドについて王族を救出しました。おいらの仲裁事シカトしやがって、ふざけた真似したホランド諸侯達とジューの商人連合については、身柄さらい、うちでケジメ取りました。フランソワ北部に展開された、ホランド兵も引くでしょう」
ハーフエルフの住まうホランド大公国は、極悪組が仲裁に入りフランソワとの戦争終結を確約したのにもかかわらず、停戦反対を唱えた諸侯や、ジューの商人達が画策し、フランソワ国内に侵攻。
これに面子を潰されたと、怒りに燃えた極悪組が介入し、一日でホランドを制圧したのだった。
若頭のブロンドは、久々に自分の親分でもあり、かつての兄貴分でもあり、親友だった男の本気の怒りを思い出す。
それはつい3時間前の話。
「てめえら、このオイラが間に入って喧嘩はやめって言ったのに、なんなんだいこの始末はよお。オイラとオイラの組なめてんのかボンクラ共!!」
ホランドのハーフエルフ達やジューの商人達は、目の前の青年の、圧倒的な覇気と怒りに、震え上がり、圧倒的な強さを持つ極悪組に王宮に拉致されて恐れをなす。
ニコの傍らにいた、客分にして兄弟分のグレゴリオ・ロッキー・カルーゾが、懐から7色金属製拳銃を取り出して宙に放り投げると、三脚立ての重機関銃、ブローニングM2のような姿に変えた。
「義理欠いた嘘つきのファック野郎共が、バラバラになって死ぬ準備は出来てるよな?」
声変わりもしてないような背広の少年が、巨大なマシンガンを構えると、今までこのような兵器を見たことも無いハーフエルフ達やジュー達も、魔力弾が一発当たっただけで粉々に体が吹き飛ばされると、恐れおののき、一斉に顔を伏せる。
「グレゴリオの兄弟、そういう道具は使わなくてもいい。てめえら歯ァ食いしばれえええ!」
ニコは、拳を握り締めてホランド諸侯に次々と鉄拳制裁し始める。
拘束された500人の男達に、次々と鉄拳を振るっていき、この人数を回復魔法も一切使わずに殴り飛ばしたためか、30分後には殴り続けた両拳もズタズタに切れ、拳の骨も折れ、ボクシングのグローブの様に両拳がはれ上がる。
殴られた者達も、起き上がれない者や、歯を欠損した者、鼻から血が止まらない者や、激痛で涙するものや、恐怖でかいた汗や、失禁、吐しゃ物ですえた匂いや、血の臭いで悪臭が漂う。
相手をただ一発殴るという、単純な暴力が作り出す凄まじい光景に、グレゴリオも同行した若頭のブロンドも、絶句してしまった。
「てめえらは……戦争が終わったのにムカついて、仕返しがしたくて、金儲けしたくて、こんなくだらねえ戦争をまたおっぱじめたんだ! それで命を無くすもんや、親兄弟無くすものがまた生れやがったんだぞ! オイラの拳見ろ!」
グローブのように腫れあがり、血がにじむ拳を全員に見せつける。
「オイラはこれが全て終わったら、家に帰る。お母ちゃんにただいまって言って抱きしめて、自分の娘もこの手で抱く。てめえら殴った手で、血に染まった手でだ。てめえらオイラにやられて嫌な思いしてるだろうが、嫌な思いすんのはてめえらだけじゃねえんだぞ! 人を殴ったら自分も痛えし、家族に会うのだって心が痛え! てめえらにだって家族がいるもんがいるならわかんだろうが!」
今の暴力で、嫌な思いするのは自分達だけではないと、ニコは訴えた。
「だが、てめえらはオイラの仲裁をシカトしやがったから大戦が再開された! そのせいで、今も苦しんでる人らが沢山いる! そんな事すらわからねえで、喧嘩おっぱじめるボンクラがてめえらだ! わかってんのかよボンクラ共!!」
その場にいた全員が、圧倒的な覇気に気圧されて何も言えなくなった。
親である勇者マサヨシをも超える、圧倒的な人間力が生み出す覇気だった。
「オラァ! オイラがなんか間違ったこと言ってるのか!?」
すると、何人かの諸侯が立ち上がった。
「領民を……家族をフランソワに殺された」
「……勝手に戦争を終わらすなど納得できぬ」
「怒りと恨みを何処にぶつければよいのか!」
「奴らは我々を亜人と言って差別した!」
フランソワに恨みを抱く諸侯達である。
半世紀以上続いた戦争は、彼らの心に闇を抱かせ、恨みはそう簡単に消える事が無く、ジューの軍資金と、アレクセイよりヒトへの恨みに感化され、彼らは戦争を再開させたのだ。
「そうかよ、じゃあ間違ってると思うなら殴り返して来いよ!! やれ!!」
雄たけびを上げて、ニコに殴りかかる諸侯達だったが、彼らの打撃では傷一つつかない。
次第に、彼らの目から涙が溢れ始め膝を付いた。
「どうした、終わりかよ? じゃあ今度は殴られたオイラの番だな」
ニコはグローブのように腫れあがった拳を、目の前の諸侯に振りかぶった瞬間、ピタリと止める。
「わかったかよ? これが暴力の連鎖だ。その先にあるのはな、やったやられたを繰り返して、最期には世界すら壊れてみんな共倒れしちまう。てめえらも、てめえらの家族も、世話になった人もみんな死んじまうだぞ」
それが、彼が生まれて異種族間同士で殺し合った、仁義もない世界で繰り返された哀しみだった。
暴力が連鎖して、互いが互いを憎しみ合い、千年以上争いと暴力が続いた最悪の世界。
「じゃあ我らはどうすべきだったんだ!?」
「この怒りを、恨みを、ヒト共への憎しみを!」
「大事なものを失った痛みをどうすれば……」
諸侯達は、訴える。
恨みと怒りをどうすればよいのかと。
大事なものを失った悲しみはどこにぶつければよいのかと。
「だからフランソワは負けを認めて賠償金払うってなった。国王さんもそれで許そうって話にしたのに、また大事な人が死ぬ世の中にしてえのか? 負けを認めた相手に対し、いかなる理由があろうとも、約束反故にして攻めてくるような馬鹿な話、道理が通るのかよ? 胸を張って死んだおめえらの大事な人に言える事なのか? それは!」
何も言い返せなくなった諸侯達はうな垂れて、顔を伏せる。
「恨みや憎しみなんか続けても、待ってるのは新しい悲しみと身の破滅だ。だから、人は人を許せるし、人を許すことで自分も救われんだ。それを今からある方が実践してくださる」
ニコは自身の若頭に振り向く。
若頭のブロンドの合図で、極悪組に救出されたホランドの元首ゲオール・ポルド・ホランド・クラウス・ベルナドットが王子のレオを連れて現れた。
「私は民を殺したフランソワを許すと誓いました。しかしながら理由や経緯はどうあれ、終戦協定が破棄され、フランソワに侵攻したのは元首の私の責任である。私が責任をとり、王位を退きますので、どうかこの者達を許してほしい。レオ、後を頼む」
諸侯達は退位を宣言したゲオールに跪いて涙する。
国王が断腸の思いで戦争を終結させ、フランソワから受けた虐殺を許すことで終戦協定を結んだのに、自分達諸侯は国王の真意も推し量る事も出来ず、幽閉してしまい、敵の陰謀に乗る形で大戦のきっかけを作ってしまったのだと。
そして、元首のゲオールそのものが責任をとる形となったことに、諸侯は自分達の愚かさを痛感し、泣いてゲオールに、どうか自分達を許してほしいと詫びた。
「父の隠居をもって、新国王になったレオ・ポルド・ホランド・クラウス・ベルナドットです。どうかこの者達を許していただきたい。終戦協定に基づき、フランソワからは3日以内に兵を引き上げます。それに私は、デリンジャーと言う男の生きざまを見て……人を許すという感情を覚えましたので。どうか、お願いいたします……」
頭を下げたレオに、ニコも同じく頭を下げる。
「わかりやした。本来ならば、ここにいる全員から賠償金をと思いましたが、ゲオール前国王陛下とレオ国王陛下の想い受け取りやした。自分らもこれで手打ちに致します」
前王ゲオールに泣いて詫びを入れる諸侯達に、ニコは向いて、エルフの乙女達が彼らの傷を手当てしに駆け寄り出す。
「おう、てめえら煽ったアレクセイって弱虫野郎からケジメ取ることにしてやるから、もう二度とこんな恥ずかしい事を王様にさせんじゃねえぞ。それと殴って悪かったな」
カルーゾファミリー所属の客分、グレゴリオは、自分の親であり前世で祖父だったロバートが、なぜ貫目が違うこの男と兄弟分になれと言われたのか、ようやくわかり始めてきた。
次を担うものとして、この男から人間としての生き方と想いを、肌で感じさせる為なのだと。
この事を思い出しながら、フランソワの大統領執務室で、二代目親分として彼に従う若頭のブロンドは思う。
自分は、将来この男の組を継ぎ、自分の実の父親よりも尊敬する、文字通り父と慕う勇者マサヨシを越えられるのだろうかと、目の前の親友にして、二代目親分を超えられるかどうか自問自答する。
ニコに何かあれば、自分が代行として組を率いなければならないのだとも思いながら。
「ホランドの件は了解した。うちの国の為にすまねえ、ジューの国際金融資本連中は?」
「へい、その件に関してはうちでさらったジューの総数は10万弱ってとこですが……身分隠してる奴らが多すぎて、この世界に何人いるか予想つきません。うちらが動いてるの察して、地下に潜った奴らもいると思いやす。ロッソスクードとかいう奴らの一族に関しては、身柄全部取ったんですが、その結果、やべえことがわかりやした」
ニコは、押収したロッソスクード家から古の家系図や文献を入手していた。
これによると、ジューの起源はやはり太古の昔にロマーノ帝国から亡ぼされ、世界各地に散ったルーシーランドのハイエルフ達。
その中でも国際金融資本は、王家本流の分家筋にあたり、ルーシーランド王家が滅びても、王家が存続出来るよう、民族の血を絶やさぬように綿々と続いた彼らの知恵。
いつしか経済力も影響力も、ルーシーランド王家の影響力を超えて、世界各国の王侯貴族にも影響力を与えられるような、怪物じみた影響力を持つことが、数々の資料を精査してわかってきた。
「デリンジャーの兄さん、国際金融資本は東のジッポンにも影響が及んでます。名前出てるロッソスクード、ハプスベルン、バイシャーン以外にも、沢山いやがります。ロマーノのヴェネツィを代表するスコラ・デ・モロッソ・ヴェネツィ伯爵と、ヴェネツィの商人集団もジュー。バブイールの王族、ダヴィッド・ビン・ザスーン家も、ジッポンのエルゾも、チーノの商人ギルドの客家もハーンも……」
「オーマイガッ! 世界の貿易に関わってる奴らや、他国間で商売してる奴らも、世界大戦のきっかけになった奴らも、この世界の王侯貴族も、みんな絡んでるって事か」
「ええ、中には自分の出自も知らねえ奴らもいるでしょうし、国際金融資本は、この世界の重要なシステムそのもので、単純にぶっ壊せばいいもんじゃねえ。ヴェネツィ家は金城の叔父貴に協力してるし、デリンジャーの兄さんの共和制に賛同してる、旧男爵家ジェームス・ド・ロスチルドさんも、ロッソスクードの親戚筋です」
デリンジャーは報告を聞いて絶句する。
フランソワの共和制にいち早く賛同して、階級差別と人種差別の撤廃をデリンジャーと共に提唱した、大統領府のスタッフでもあり、共に気心知れた仲だったからだ。
デリンジャーは顔面蒼白になり、補佐官のルイーズに顔を向ける。
「ジェームズを呼んでくれ。あいつの口から、あいつ自身の言葉で聞きてえ事がある」
しばらくすると、上等なセビーロに身を包んだ、紳士風の伊達男、ジェームズが執務室に入ってきた。
「お呼びでしょうか? 我らが大統領」
「単刀直入に聞くぞ? おめえ、ジューの一族だろう?」
「はい、大統領閣下」
ジェームズは、一切否定する事もなく、デリンジャーの質問に実直に答えた。
「じゃあ、お前……ルーシーランドの企てを全部知ってて俺に協力を?」
するとジェームズは首を横に振る。
「いいえ、自分は大統領の提唱した差別撤廃に、自由貿易に賛同して、大統領をお慕いしてます。世界平和のために、自分はあなたに身を粉にして協力を……」
「おい、途中からてめえ嘘ついたろ?」
ニコはジェームズの目の動きと、指の微かな動きの緊張と、首の振り方で嘘を見破る。
「なあ、俺はおめえを人間として信頼してる。本当の事、言ってくれ。頼むよジェームズ」
ジェームズは、フッと笑うと頭をボリボリ掻き始め、今までデリンジャーが見たことないような、歪んだ表情になった。
「あんたは俺達一族の苦難を知らない。あんたらシャルル家だって平民達だって、このフランソワではジューの血が流れてんだ! 俺達一族が、元々フランソワ王家のシャルル家設立に関わり、ジーク帝国の傍系だったあんたらを神輿に担いでたのさ」
「なんのために!?」
デリンジャーの問いに、声を上げてジェームズは笑い出す。
「決まってるでしょう、戦争で生まれる金儲けです。ナーロッパはあんたら王家が動かしてると勘違いしてるようですが、世界を動かしてるのは我々です。我々は人間なんざ信用してません、信じてるのは同族と同族が生み出す金だけですよ」
執務室は時間が凍りついたように、静まり返り、デリンジャーはジェームズの目を見つめる。
「本当にそうか? ジェームズ。なあ、お前の魂はなんて言ってんだい? それはお前の魂が捻り出した答えなのか? 階級差別と人種差別に俺と同様憤り、俺に手を貸してくれたお前の答えなのか?」
「ああ、そうだよ! それが俺の本音ですよ! 祖先は耳が尖ってるってわかっただけで、ぶっ殺される苦難の歴史を歩んだんだ! 人間なんざ糞だ! 信じられるのは金だけだ! あんたは今も利用されて踊る神輿のままなのさ!」
ジェームズが薄ら笑いから一転して、激昂し始め、デリンジャーに信じられるのは、金だけだと言い張るが、デリンジャーのは口元を吊り上げて不敵に笑う。
「そうは見えなかったぜ? お前は俺を通じて夢を見たはずだ。人間が人間として生きていける、自由な社会を、多様性がある未来を夢見て」
ジェームズから一筋の涙が流れ出て、ポケットから魔法の単筒を取り出し、自分のこめかみに押しつける。
「大統領、自分はこれ以上あなたを裏切ることはできません。ジューもフランソワも関係のない、一人の男としての責任取りますんで、あとはどうか」
ニコは溜息を吐いて、天界魔法で時間を止めて単筒を奪い取り、元の位置まで戻った。
「おさらばです、我らが大統領! あれ?」
ニコは単筒をデリンジャーに手渡し、デリンジャーは魔法の単筒を発砲すると、ジェームズの両袖のカフスボタンが吹き飛んで、パチリとボタンに火花が飛ぶ。
「へっ、盗聴ってやつか。連邦保安局のサツがよく使った手だ。こんな小型のやつは見たことねえがな……ジェームズ、死ぬことはねえよ。これからも俺のために協力してほしい」
「はい……大統領閣下」
両掌を床につき、ジェームズは泣き崩れる。
彼もわかっていた。
目の前にいるこの男こそ、世界を変えてくれる可能性の希望であることを。
人種や身分を超えて、世の不条理に体を張って救おうとしてくれている事も。
「誰の差金だ? おめえに盗聴依頼した野郎は?」
ジェームズは、長い沈黙後に黒幕の名前を口にする。
「……世界のジューを束ねてるのは……シュビーツの、ランドハルト・フォン・ハプスベルグ伯です。彼が……ルーシーランド王家ともロレーヌ皇国家とも密接に繋がり、この世界で最も力を持っている」
ジェームズの証言に、ニコとデリンジャーは、お互い頷き合い、デリンジャーは7色鉱石魔力銃を懐から出すと自身が前世で愛用した、45口径マシンガン、トンプソンに変える。
「へへ、俺の強奪相手がわかったぜ。ありがとうよ、ジェームズ。お前達を長年苦しめ、世界を歪める元凶に、俺の流儀で取り立ててやらあ!」
「あ、デリンジャーの兄さん。そういえば兄さんに、うちの親父からブツを渡すよう言われてます」
シュビーツの事実上の支配者にして、世界の黒幕の一人、ハプスベルグ当主へギャングの流儀で報復すると、デリンジャーは決意した。
明後日、ルーシーランドでは世界に呪詛を唱える王、イワン・イゴール・ルーシーは天に召されようとしていた。
最愛の娘、エカチェリーナを殺したこの世界へ呪詛を唱えながら。
自身の魂が光に包まれる瞬間、自身が望む神の軍勢が現れる。
漆黒の鎧に身を包み、2メートルを超える長身で銀髪の長髪に蓄えた顎髭に、隻眼の神の姿。
そしてその神に付き従うように、鎧に身を包んだ男女の神々の姿を見て、イワンは感動に体を震わせ、信仰する神の名前を口にする。
「おお、戦神よ。我らが民族の守護神オーディンよ。この愚かな世界に死と闘争の楽園のヴァルハラを。我が民族の悲願をかなえたまえ」
オーディンは、命尽きようとするキエーブのイワン王に、黒い霧のような魔法をかけて即死させた。
「道具風情が、ワシに気安く声をかけるなクズめ。心配せずとも、この世界のクズ共めをヴァルハラに送ってやるわ。そしてロキよ、悪逆なる巨人族の王子よ。今度こそワシの手で滅してやるわ」
付き従うワルキューレのヴリュンヒルデこと、天界ではサキエルと呼ばれたオーディンの愛娘は、自問自答する。
本当にこれで良いのかと、父は正しいのかと。
すると、オーディンは自身の軍勢を見て邪悪な笑いを浮かべる。
「お前達は何も考える事はないのだ。戦士たちの魂よ、幾多の次元世界で戦場を愛するヴァルハラの戦士の魂よ、我が眷属達に力を与えるのだ! そしてこの世界を貴様らが願う黄昏の戦士の願う戦場に! 我が力を創造の神を超えし絶対神へ引き上げたまえ!」
有無を言わさず、サキエルことヴリュンヒルデの魂が最強の戦女神へ、死と、騒乱と、戦いを尊ぶ戦闘マシーンに彼女の魂が変質する。
「ふふふロキよ、創造神率いる冥界の勇者よ。ワシはお前達を滅して更なる高みへ!」
オーディンは自身の軍勢を引き連れ、ルーシーランドに姿を現した一方、ヴィクトリー王国でもオーディンが出現した波動に、ロキは身をを震わせて歓喜した。
「ふふふ、やっときたか? 遅かったね、根暗のクソ野郎のオーディン。今度こそ僕を殺す気か? ふふ、そう簡単に僕に来られても面白くない、ねえエリザベスちゃん?」
振り返るロキに、訓練を受けて力をさらに増大したエリザベスは無表情に水晶玉を操作しながら、ロキを見つめる。
「あいつへの対策として、こっちの守りをさらに固める必要がある。原初の巨人にしてあの子を、ティアマト呼んじゃおうか?」
「よくわかりませんが、あなたの敵が現れたならば、私は対策を取らねばなりませんね」
エリザベスは、チート7設立の後、新たなる罪神、原初の女神ティアマトを召喚する決意する。
そして、南アスティカと呼ばれる大陸で、最悪の存在、悪意の塊のような魂が活動を開始する。
続きます