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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第14話 空手の達人 

 私と勇者は、かつて前世でアシバーのジローと呼ばれ、床に倒れて涙を流す、ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロを見下ろしていた。


「てめえ、いつまで寝てんだ! それが喧嘩をする男の目か? 男の姿か!? 沖縄の伝説とうたわれ、極悪組にも傷跡を残したアシバ―のジローか!」


 勇者は寝っ転がってるヴィトーを、スキル意地の輝きに包まれながら、蹴り上げ、ヴィトーの体が天井を突き破る。


 そして私が宮殿の崩れた天井を見上げると、勇者は風魔法で急上昇して、蹴り飛ばされて空中で体勢を整えようとするヴィトー殴りつけ、ヴィトーの体はネアポリ市街地方向に飛ばされて行った。


 私は、この場から駆け出して宮殿を抜けて勇者から教えてもらい、ペチャラと練習した神霊魔法の身体強化(ブレイブ)と風魔法の効果で、ネアポリ市街地に佇む勇者と合流する。


「勇者さん!」


 私は声をかけたが、勇者はマスケット銃のような魔法のライフルを手にして、周囲を警戒し始めた。


 私はネアポリ―ネとの戦いで、魔力が完全に回復しきっていない勇者に、魔力回復のポーションを勇者に差し出す。


 すると勇者は、受け取った魔力回復用ポーションの封を噛みちぎるように、歯で開けて口に加えたコルクをぺっと吐き出し、中身を一気飲みした。


「金城の野郎、透明化の魔法を使いやがった! 高等魔法だ。だが、奴がチャカで勝負してくれるならありがてえ。奴の本来の強さは、魔法やチャカじゃねえからな」


 ヴィトーの強さ。

 私は、彼の事については全然知らない。


「金城さん、ヴィトーはどんな人だったんですか?」 


 私は思い切って転生前のヴィトーの事を聞いてみた。


 勇者が命を奪うのではなく、心を取り戻したいと思わせる人物が、転生前のヴィトー、金城二郎。


 きっと、根っからの悪人じゃない。


 性格に問題ありで口が悪いヤクザだけど、人々の救済と幸せを願ってる、この勇者のように。


「沖縄のコザ生まれ、俺が元いた組織の抗争の果てに、地元の極道の内部対立の中、運命に弄ばれて失意のうちに死んだ快男児だ。俺が刑務所で惚れて、兄弟分にならないかと持ち掛けたくらいな。真っすぐだけど、どこか不器用で、男としての強さと優しさと義理堅さに溢れてた」


 その時1発銃声がして、勇者はライフルを持ったまま身を屈めると、勇者の頭上に銃弾がかすめる。


「弾丸が軌道変えやがった! クソ!」


 勇者は次々と飛び交う銃弾に、まるで漫画みたいに飛んだり跳ねたりして、ヴィトーの銃弾をかわし、町の路地裏に転がった。


「チッ、マリーちゃん離れてろ! 風魔法で超高速の弾丸を操ってんだ。この俺に弾丸(まめ)ブチ込むって言う、執念を感じさせるぜ。さすが極道と言いたいところだが……男らしくねえ」


 勇者は駆け出し、町のレストランの建物を背にして、ライフルを構え周囲を見回すと、勇者のお腹に銃弾がヒットした。


「勇者さん!」


「大丈夫だ、とっさに水のバリア張った。チッ、建物を背にしても軌道変えてくるからダメか! 野郎、近くで気配消しながら、透明化魔法使って俺を見てやがる」


 私は周囲を見回す。

 なんだろう? このなんとも言えない臭い。

 酸っぱいような、うっすら煙臭い感じ。


「硝煙の、火薬が爆ぜた時の匂いだな。マシンガンやらチャカ撃ちまくると、こんな匂いがする。魔力銃に火薬組み合わせ、威力を高めたのが、おそらく野郎の得物(えもの)だ。なるほどね、これならば魔力消費の節約になる」


 火薬と魔法のピストルがヴィトーの武器。


 透明化しながら、魔法の銃弾で相手を仕留めに行くのが、ヴィトーの戦法。


 まるで殺し屋みたいだ。

 

「マリーちゃん、こういう時は絶対に相手に弱み見せちゃダメだ。常に自分が風上にいるって余裕を見せつけんだ。スキル絶対防御と、召喚は切り札だからとっておきな。俺が突破口を開く」


 勇者はライフルを片手に持って、スウっと息を吸い何かをしようとする。


 何をする気?


 まさか魔力回復したから、すごい魔法を放つ気なの?


「♪加那(かな)よー 面影(うむかじ)の 立てばよー加那よー 宿に()らりらぬ でちゃよー押連(うしち)れてよー よー加那よー (あし)(わし)ら♪」


 …………は?


 なんか、勇者が島唄っぽい明るい歌を歌い出したんですけど!


 戦闘中なのに何考えてんのこの勇者?

 しかも地味に歌がすっごい上手い。


「よう、てめえが俺に教えてくれた歌だ! これ歌えば、女なんかイチコロさーとか抜かしやがったろ! 先に出所したおめえが死んだ後、刑務所(むしょ)から出て、スナックで歌ったら、女共に全然ウケなかったぞ! ふざけんな馬鹿野郎!」


 あーそれは……確かに楽しそうでいい歌だけど、何言ってるかわかんないからじゃ。


 沖縄方言強すぎの歌だし……ねえ?


 すると銃声が響き、勇者の顔面にヒットする。


「ひっ! 勇者さん」

 

 私は咄嗟に目を伏せ顔を両手で覆ってしまう。

 どうしよう、勇者の頭が吹っ飛んで……あれ?


 勇者の顔面を、紫色の液体が覆ってバリアを張ってガードしていた。


 それでも弾丸の威力が強くて、勇者の頭から血が流れてる。


 そして、ガソリンのようなシンナーに似たような薬品臭もして……。


「アホが、挑発に乗りやがって! そしておめえの位置は大体分かった!」


 勇者は銃弾を受け止めた、バリアのような紫の液体を、何もないはずの空間に浴びせかける。


硝煙反応(アミン)!」


 すると何もない空間に、紫色に光る何かが動いて。


「そこだ! 往生しろや金城!」


 勇者は魔法のライフルを、マシンガンのように撃ち込んだ。


「ぐっ!」


 呻き声がして、紫色に光った塊みたいなのが、空を飛んだ。


 え? 何をしたんだこの勇者。


「硝煙反応さ」


「硝煙反応?」


「アリニンとかアミンとか言われる、火薬に反応する化合物があってね、水と土の魔力で作って浴びせかけたのよ。これはサツがよく使う手法で、銃をぶっ放すと服や手に硝煙が付着するから、これを可視化すんのに今の魔法を使ったのさ」


 すごい、魔法にはこんな使い方ができるんだ。


「へっへっへ、おらぁ! どうしたコラ? 撃って来いよボケ! 俺はクサレ外道のクソ弾丸(まめ)なんかで死なねえようになってんだ! 当てて見ろコラ!」 


 すると、今度は勇者の背後に現れたヴィトーが、勇者の背中に銃を突きつけた。


「なめんじゃねえぞ、このヴィトー様を!」


 銃弾が0距離で背中に発砲されて、貫通した弾丸が腹から飛び出したのか、勇者の白いシャツがまるでパッと花が咲くように、赤い鮮血が噴き出した。


 思わず目を背けてしまいそうになる戦闘。

 これが、ヤクザ同士の戦い。


「かかったなアホが! 過酸化水素(ルミノール)


 上空から具現化した、透明な液体が勇者とヴィトーにかかると、勇者とヴィトーの白いシャツにかかると、青い蛍光色に輝いた。


 これは私も知ってる。

 おそらくルミノール反応というものだ。

 何とかミステリーで見たことある。


 血液に反応すると、蛍光色に光る薬品で、海外ドラマでも、これで殺人とかの犯行場所を突き止めて、殺人犯が捕まった。


「俺は転生前も転生後も、殺し専門の仕事した事あるからな。世界一優秀な、日本のサツ騙すのも一苦労だったぜ!」


 そうか、これでヴィトーの透明化魔法を無効にしたのね。


 勇者は魔法でルミノールを合成して、頭上に作り出したんだ。


 勇者は距離を離したヴィトーに、魔法のマスケットライフルを次々に発砲するが、ヴィトーも負けじと土魔法の金属板を具現化して、勇者の弾丸を防ぐ。


「オラオラどうした! 今度は弾丸を散弾じゃなく、マグナムに変えてやんぜ!」


 勇者は真っ赤に光り輝く弾丸を、ヴィトーがガードで使う金属板に何発も撃ち込むと、勇者の弾丸はヴィトーの金属板を貫通する。


「あいつの弾の威力がやべえ! クソ! 鉄の障壁(アイアンカーテン) それと混凝土(コンクリート)


 ヴィトーは、地面から様々な障壁を出して弾丸をガードする。


「俺は魔法戦もエキスパートだ! こんな弾丸程度で、ヴィトー様をなめんじゃねえぞクズ野郎め!」


 今度は勇者がヴィトーの背後に立ち、ナイフで背中をぶすりと刺した。


「おめえはアホか? こんな壁ばっかおっ立てやがったら前が見えねえだろ? まったくおめえらしいぜ金城」


 勇者は刺したヴィトーを、思いっきりヤクザキックで蹴飛ばして、ヴィトーが魔力で生み出した壁へと叩きつけると、地面にヴィトーのピストルがガチャリと落ちる。


「さあ、道具なんて野暮なもん持たねえで、俺と素手喧嘩(すでゴロ)しようぜ? なあ? アシバーのジロー!」


 勇者はナイフを放り投げ、壁際で思いっきりヴィトーの顔面を殴り始めて、膝蹴りをヴィトーの股間に思いっきり入れた。


「ぎゃああああああああああ」


 超痛そう……。


 女でも蹴られたら痛いと思うけど、男ならなおさら。


 勇者は舌打ちすると、足払いをかけてヴィトーを倒して、今度は物凄い勢いで蹴り始める。


 勇者の繰り出す容赦のない暴力に、私は身震いしながら見つめていた。


「てめえ、転生して極道の喧嘩の仕方も忘れたか! 目ん玉突いたり、耳千切ったり、金玉狙うのが極道の喧嘩だろうがオラァ!」


 怖い……これがヤクザの喧嘩。

 暴力団と呼ばれた男達の喧嘩なんだ。 


 高校生男子がやるような、掴み合いの喧嘩とか殴り合いなんかと全然違う、殺し合い。


「立て! 構えろ男らしく!」


 ヴィトーがよろけながら立ち上がると、勇者は長い足を上げて、ヴィトーの頭に綺麗な空手のキックのような蹴りを放つ。


 まるで私の転生前の父が、ビデオを借りて来て見てた格闘技の技のようだ。


 そしてヴィトーが膝をつき、目に悔し涙を流してる。


「てめえそれでも、刑務所(むしょ)で俺に技を教えてくれた、俺が認めた兄弟、剛柔流空手の達人、金城二郎か! 米兵や本土の極道から、女子供守るため、腕を振るった凄腕の極道、アシバーのジローか! 立て! 俺にてめえの意地を見せろ! 本来の技を俺に見せて見ろ!!」


 すると、ヴィトーの目に力が入り、仁王立ちのような体勢をとる。


 勇者はボクシングのように構えて、左のパンチを繰り出すと、ヴィトーは左手で払い受け、右のパンチを勇者の顔面に繰り出した。


 勇者が今度は、右のストレートパンチを放つも、ヴィトーは後ろに避けながら勇者の右ストレートを左腕で打ち下ろし、逆に右の蹴りを放ち、ワンツーとパンチを勇者に当て、逆に勇者が膝をつく。


「わん舐めんな! くぬ、ぽってかすーが! たっ殺すぞ!」


 ちょ、何言ってんのかわからない。

 そして強い。

 多分、空手だ。


 空手の発祥は、沖縄だと聞いたことがある。


 これが本当のヴィトーの強さ。


 アシバーのジローと呼ばれた、金城二郎の強さなんだ。


「やっとてめえらしくなったな、兄弟! さあ、喧嘩の続きだぜ金城!」


 勇者の拳に炎魔法が宿る。


 そして、勇者が風の魔力で、恐ろしいほど早いストレートパンチを繰り出すけど、それを合わすように右の肘打ちが勇者の側頭部に入り、そのままヴィトーは、勇者の腕の関節を極めて投げ飛ばした。


 私もレベルが少し上がってて、何とか目で追えるけど、こんな戦闘、離れた位置で目で追えても、おそらく間近で見たら体が追いつかないだろう。


「えいさああああああ!」


 倒れた勇者の顔面に、追い討ちの右のパンチが打ち下ろされ、地面が爆発したように吹っ飛んだ。


 やばい、パンチが強いとかそういうレベルじゃない。


 瓦割りで何枚割れるかとか、私が見た空手のパフォーマンスとは全然違う。


「ぐぅお!」


 勇者が思わず技の威力で、声を上げて……まずい! 状態確認(ステータス)


 勇者の残りHPは9……瀕死状態だった。


 多分、空手技の威力が強すぎる。


 あの勇者が、手も足も出せない状態になるなんて。


「俺はヴィトーだ! ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロだ! おめえには、わじわじーする! なんだばー! おめえは!!」


 沖縄弁とこの世界の言葉が混じり合ってる。

 本来のヴィトーの魂が呼び覚まされたんだ。


「へへ、おめえとはいつか、本気で喧嘩(ごろ)巻きてえと思ってたんだ。惚れ直したぜ? いい正拳突き、下段突きだなぁ。だが悪いが、道具使わせてもらう」


 勇者は横に転がりながら、地面に放ったナイフを手に取り、立ち上がった。


 勇者は、ナイフを逆手に持って、腰を落として左手で組みつけるような構えを取り、ヴィトーは勇者をジッと見据えて、左足を半歩前に出して、左手を上に、右手を下に持っていくような構えをとる。


 これは死闘だ。

 決闘とか生優しいものじゃない。


 転生前も転生後も、私が初めて見る、達人同士の死闘。


「いくぜぇぇぇぇ兄弟!」

「おめえなんか知らねえ!」


 ヴィトーが瞬間移動のような速さで、勇者の鳩尾に、パンチを繰り出した。


「グフッ」

  

 ダメだ、あんなパンチ!

 私が召喚した勇者が死んでしまう!


 するとスキル根性が発動して、勇者の残りHPが1を示したままになった。


 そして勇者は左手でヴィトーのシャツを掴み、ナイフを突き立てようとしたが、手刀を繰り出したヴィトーが、勇者の右手を折る。


 上腕部だっけ? 


 腕から骨が飛び出してて血が吹き出す、多分あれは解放複雑骨折。


 このままじゃ勇者は負ける!


 私は二人の死闘に駆け寄って、スキルを発動した。


「スキル、絶対防御!」


 勇者とヴィトーがスキルで吹き飛ばされ、二人とも私を見つめた。


「女が男の喧嘩にしゃしゃるんじゃねえ! まだ俺には切り札が残ってんだ!」


「マリーちゃん……なんでさぁ」


 怒りに燃える目で私を見る勇者と、悲しげな顔で私を見るヴィトー。


 勇者はもう戦えない……ならば!


「ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロ。悪に堕ちたあなたの相手は、この私、召喚術師マリー・ロンディニウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリーが相手をいたします」


 私は、右手の親指にはめた召喚システムの指輪を見つめる。


 達人の魂を思い出したヴィトーに勝てるような、召喚獣じゃないと、この勝負には勝てない。


 どの召喚獣がいいのだろう……。

 イフリート? シルフ? タイタン? 

 それともフューリーがいいのか、わからない。


「氷の賢者だ、マリーちゃん」


 私は、勇者の声に振り返る。


 その、氷の賢者と言う、召喚獣ならば勝てるのだろうか?


「達人には達人だ。俺があの姿になって喧嘩すれば勝てたがもういい。氷の賢者も、空手ベースの武術の達人。日本一の喧嘩を見てみてえ」


 そうか、氷の賢者も空手の達人なんだ。

 よおし、ならば!


「出でよ、氷の賢者よ! 私の戦いに力を貸して!」


 指輪が光り輝き、私のHPが残りわずかになるまで指輪に吸収され、全MPが指輪に吸収されると、私は氷の賢者を召喚した。

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