第144話 騎士団創設 後半
会議の時間30分前、スチュアート侯が会議室に入り、席に着席する。
「まだ集まっているのは4名ですか。それに貴族ではないのに、ふてぶてしい男もいるようですが?」
スチュアート侯は貴族ではないと、歯に衣着せぬ物言いで、さっそくマッシモにマウントとってきた。
「スチュアート侯、今の物言い取り消すのだ。隊長格の騎士に非礼である」
「然り、我らがマリー殿下の選んだ騎士隊長だ」
ピシリと二人の公爵が嗜めると、スチュアート侯は鼻でフンと笑う。
「失礼を。その今の出立ち、とても騎士とは思えぬ山賊のような類と思いましたが、隊長殿であらせられますね、烏合の衆の平民共の隊長殿」
うわぁ、これだから嫌なのよね。
ヴィクトリーの男特有の、嫌味ったらしい遠回しの言い回しって。
彼は性格に問題があるようだわ。
「別に構わんぞ小僧。実際俺は、シシリー山賊の頭だった事もあるからな。それに、小僧のくせに俺になめた物言いする度胸、褒めてやる」
「な、何を貴様!?」
ちょ!? 山賊なの? この人。
たしかに、一般市民とはなんか感じが違ってて、シシリー島民の仕切りを一手にやってたこの人見た先生が、面白そうだから隊長にしようって言ってたけど。
先生も私の横で面白そうにして笑ってるし。
「なあ? ヘンリー殿とジョーンズ殿。身分出自がどこの誰だろうが、マリー様にお役に立てばいい話だろう? この小僧も口だけ達者ではなく、お貴族様として、模範になってくれると信じている」
「マッシモ殿、貴殿の言う通りだ」
「左様、このレスター、マッシモ殿を含めた貴殿達と肩を並べての戦場、マリー様のために心が躍る」
スチュアート侯がマッシモを睨みつけるも、逆にじっとマッシモは見据える。
「貴族の小僧、覚えておけ。我らがマリー様は、王族とか貴族とか平民とかくだらねえ身分を超えて、一人の人間として尊敬に値するお方だ。俺が、シシリーが命に代えても守らねばならぬお方よ。それだけの敬意を払うお方の騎士隊長が俺達だ」
すると、フランソワの軍服を着た、ランヌ侯とアンジュー伯が会議室に入り、フランソワ式の礼をした後、会議室に入って着席した。
「おやおや田舎貴族が、山賊のような輩と扉の向こうで喧嘩沙汰かと思い、止めに来たが狼藉の様子はない模様」
「ランヌ侯、言葉が過ぎます。ごきげんよう、隊長殿の皆さま。我らヴィクトリーに帰参と相なった元フランソワ上級将校、ランヌとアンジューでございます」
うわぁ、これまた嫌味ったらしいのが入って来たわ……大丈夫かしらこの隊長達。
「おお、貴殿達はフランソワが貴族制度を廃止などしたから、おめおめヴィクトリーに縋りついた風見鶏の一団でしたね」
「ハッハッハ、本国ヴィクトリーの侯爵殿下にお褒めいただき、このランヌ光栄にてございます。田舎貴族の犬のようなスコティッシュでしたか?」
「殺すぞ出戻りが」
うわぁ、めっちゃ険悪になってきたよ。
そして会議の時間ギリギリになって、ドタドタ走る音がしたと思ったら、扉が勢いよくバンと開いた。
「ウィー、ヒック。揃ってるではないか隊長諸君! いやぁ、ご苦労!! 食事と酒に夢中になってな、少しばかり遅参したか!?」
うわぁ、会議前なのに酔っ払ってきてるよ、このハーヴァードって人。
マッシモとスチュアート侯の間の椅子に、どかって座ってワインとかラッパ飲みしてるし。
「はっはっは、これまたすげえゴンゾウ野郎が来やがったな」
「あのー、先生。大丈夫なんですかね、この人達」
すると議場でガタリとスチュアート侯が立ち上がった。
「臭い! 酒臭い! それでも貴殿は噂にも聞く、誉高きアイリー島随一の武人、ヴィクトリーの騎士か!?」
ワインボトルを一気飲みしたハーヴァード侯は、立ち上がると思いっきりスチュアート侯の頭を引っ叩く。
「小僧! 俺の方が年上なのにその物言い、一族一門からどう言う教育を受けてんだ!!」
いや、会議前にお酒飲んで酔っ払ってくるとか、そちらさんのお宅の教育、どうなってるんだろう。
「いや、貴殿こそ会議前に飲み過ぎでは?」
「アンジュー伯の言う通りだ。顔を洗って出直してはいかがか? アイリーではそれが許されるかもしれぬが、主君であらせられるマリー殿下の御前で、その姿を晒すのは、我ら騎士団全員の恥である。私がいたフランソワでは許されませぬぞ」
フンと鼻で笑ったハーヴァード侯は、手に持ったワインボトルをドンと机に置く。
「なんだ貴様ら? 我らはヴィクトリー黄金薔薇騎士団であるのに、気取って旧フランソワ王国軍服を着て、アホか貴様らは。それともヴィクトリーらしさ溢れる鎧も衣服も心も、売り飛ばしたか?」
うわぁ、酔っ払った勢いもあるとはいえ、そんな事言ったら喧嘩になるって。
元フランソワの二人が立ち上がって、腰のレイピアの鞘に手をかけてるよ。
「侮辱か貴様! アイリーの山猿が!」
「ランヌ侯、切り捨てましょう」
すると、イラついて見ていたレスター公が、円卓を握り拳でバンと叩いた。
「落ち着きがないっ! 貴様らマリー様の騎士隊長なのだぞ!? マリー様に恥をかかす前に、黙って席につけ!!」
ジョーンズ公も、立ち上がっていざこざ起こしてる騎士隊長全員に睨みつけて、無言で着席するよう圧力を加えた。
「フン、俺はあの赤毛野郎嫌いじゃねえな。おい、ハーヴァードとやら。この会議終わったら飲みに行くか?」
マッシモが声をかけると、ジロリと睨みを効かすようにハーヴァード侯が、マッシモを見やる。
「ほう、貴様。なかなか度胸がすわってるな。平民のくせに、俺になめた口を叩くとは褒めてやるぞ」
……わかってはいた事だけど、ヴィクトリーでは身分の違いによる差別的な感情というか、彼ら貴族にとっては差別とも思ってないのだろうけど、同じ人間として見てない感じ。
これは長年続いた根深い問題だ。
旧ジークフリード帝国が作った騎士団制度は、時代が下り、人を守るための制度が領民や市民を俺達が守ってやってるという、人を見下すような身分制度と化した。
フランソワは、デリンジャーの強力なリーダーシップで、腐敗した身分制度など不要と撤廃したけど、ヴィクトリーでも将来改革しなきゃいけない問題かもしれない。
「平民といえば、あの黒髪の男、奴こそ何者か!? 我々が訓練を受けてはいるが、女だてらに騎士などしてるレオーネ殿の夫と聞いたが?」
そして、ナチュラルに男尊女卑が蔓延ってるのもこの世界の特徴で、国家元首は女性がいるけど、どこか女は下に見てくる風潮があるのが、このナーロッパの貴族達。
「極道社会でもそうだが、女は商売に使う商品、または俺達男が守るべき保護の対象だからってんで、基本的に男尊女卑だ。フィクションにあるように、女極道とか極妻みてえにでしゃばられたら、こりゃあたまらんってのが極道の総意よ」
まあ、男からしたらたまらんでしょうよ。
よく言う男の面子ってのが丸潰れだし。
「でも、先生の世界では女性がかなり要職についたり、人々の尊敬を勝ち得てますね?」
「おう、そこいらの男よりも頭も腕っぷしも優秀だからな。それにヤクザな生き方は女は出来ねえかもだが、女だからこそ出来る事がある。特に政治の世界なら、統治するのが女の方がいい場合もあるのさ。おめえさんにも、その資質が出てきた」
資質かあ……。
「それは一体どういうような?」
「男がオギャーと子供産んで面倒見る、お母ちゃんの代わりが出来るかい? 出来ねえよな? 世の男ってのはカタギだろうが王族貴族だろうが、ヤクザ者だろうが基本マザコンだ。お母ちゃんを本能的に欲してるのよ」
先生から飛び出すパワーワード。
男はみんなマザコンか……。
「ああ、心の中にそれぞれ理想の母親像を持ってるのが男だ。男が女のパイオツに惹かれるのも、マザコンの業のようなもんよ。そこに合致した女が、お母ちゃんがいたら、付いていきたくなるのが男ってもんよ」
……そんなもんなのかな。
男はみんなバブみを感じたいか。
ん、今度は騎士隊長の話題が先生に移ってきた。
「あの黒髪の男の素性がわかりませぬ。よくわからない者が騎士団長代理とは、あのエドワードの再来ではないですか」
「このハーヴァードも、よくわからん男が団長代理など、納得がいかん! あんな押せば吹き飛びそうな黒髪の小僧、一体何者か!?」
私は彼らのやりとりに溜息を吐く。
そういえば、最初に私の前に姿を現した王子達みんなも、最初はこんな感じだった。
あの時はフレドリッヒもいて……。
「男ってどうしてこうなんだろう。みんながみんな、マウント取ろうとして、みんなで頑張ろうって言えばいいのに不器用な」
「そうだなマリー、男と女が惚れ合うのに理由なんてねえんだが、男と男が惚れ合うのにはきっかけがいる。男ってのは女と比べて不器用だからな」
先生の言う通り、確かにそうかもしれない。
女の子同士の関係って、生活様式や女子同士の話題の共感性とか相性とか色々ある。
転生前、エリザベスこと絵里と、勉強とか私生活とか好きなアニメとか漫画の話題になって、それあるある、みたいな感じで共感しあって、強い絆みたいな共感性で結ばれた。
男と男同士でも、互いに多少の価値観が違っても、男として認め合えば友情が芽生えるのは女子と一緒。
だが男と男って、時には共感性とか話せばわかる筈なのに、互いにあれが違うだの比べあって大人気ないところがある。
「……まあ男と女のやり取りや、女同士とは異なるかもしれん。チ●ポのデカさ比べみてえなもんでよ、女にとってはくだらねえだろうが、男にとっちゃ意味あんのさ」
ちょ……言い方。
もうちょっとマシな言い方があれね。
「えっと、まるで動物界の雄同士のように、角と角を比べるヘラジカだとか、発情期のオス猫のような感じ……なのかな?」
「まあそんなもんよ。女から見て、非生産的かもしれんが、だから男と男はぶつかり合いながらも、時には男は男同士結びつき合う。それが男の生き方だ」
「そう……なんですかね」
「ああ、そんなもんよ。男に対して男を魅せるってのは女には理解できねえかもしれんが、理屈じゃあねえもんがあるのさ。どれ、おめえは10分後にこっち来い。俺はボンクラ共をまとめてくる……なあに、慣れたもんさ」
先生は会議場までツカツカ歩いてくと、喧騒渦巻く議場の扉をおもいっきり蹴飛ばして中に入る。
「くるぁあ! ボンクラ共!! さっきから男のくせにガタガタ抜かしやがって、うるせえぞコラ!!」
するとレスター公とジョーンズ公とマッシモが立ち上がり、先生に頭を下げた。
「申し訳ございません、マサヨシ先生」
「面目ねえ、マサヨシ騎士団長代理」
先生は舌打ちして、まずハーヴァード侯のほっぺたを、思いっきりグーパンチして席から吹っ飛ばした。
「酒臭えんだよゴンゾウ野郎! 顔を洗って出直せボケ!!」
押せば吹き飛ぶようなって、先生に陰口言ってた大男のハーヴァード侯が、パンチ一発で吹き飛ばされ、一同唖然とする。
次に、隣り合って座るランヌ侯とアンジュー伯の長髪を、左右の手で掴んで無理やり立ち上がらせた。
「てめえら、これから喧嘩になるのに、なんだ、このチャラチャラした長髪はよお! 明日までに短く刈ってこいクソガキら!!」
いや、先生もサラサラな長髪なんだけど。
怪訝な顔して見るスチュアート侯に、先生が二人の髪の毛掴みながら、めっちゃガン飛ばすと、あまりにも怖すぎるのかすぐに彼は目を逸らした。
「おう、小僧? 実を言うと俺様も平民出身だけど、てめえ言いたい事があれば、遠慮なく俺様に意見してきていいぞ? 騎士団長代理の俺に対してよお」
「あ、いえ何もありませぬ」
目を逸らしながら、ボソリと呟いたスチュアート侯を見た先生は舌打ちして、ランヌ侯とアンジュー伯の髪の毛をパッと離す。
「おう? てめえらさっきみてえに平民がどうだとか素性がどうの言ってやがったが、さっきの威勢はどうしたんだい!?」
「……」
議場がシーンと静まり、緊迫感が張り詰めてるが、先生も彼らの性根というか根性を見てるようにも思える。
するとヘンリー公とジョーンズ公がサッと手を挙げた。
「知らない者もおるかもしれんので、私から付け加えるが、彼は歴戦の勇者にしてマリー様のお師匠様だ」
「左様、今この場に集まってる軍勢は、この方が呼び寄せた軍団である。これ以上人間として、男としての恥を晒す前に、マサヨシ先生に謝罪を」
騒いでた4人の騎士隊長全員が、貴族式の礼で先生に謝罪の態度を示す。
なんか、一瞬でその場をまとめちゃった。
すごい手慣れた感があるし、人間としての圧力とか気迫が、やっぱり全然違う。
「おう、全員座れ」
先生の号令で全員が元の席に着席した。
全員が先生の方が男が上だと、認めてしまったようなものだわ。
「で、俺に何か意見のある野郎は?」
すると、赤髪赤髭のハーヴァード侯が、席から立ち上がり、直立不動になった。
「騎士団長代理殿、今の醜態を謝罪する。男として騎士として生まれたからには、姫と民と一族の名誉のために槍を振るう所存。マッシモ騎士隊長、貴殿にも先程の非礼な言動を詫びよう」
「いい、気にしてねえ。俺が気にしてんのはマリー様にこの身をいかに役立てる事よ。イリアから名前が変わったロマーノやフランソワがシシリーを虐げてた中、あのお方は俺たちを救ってくれた! 命懸けで化物から俺達を守ろうとしてくれた! だから今度は俺達シシリーの男が命をかける」
マッシモは男らしく右手でガッツポーズし、古参の騎士二人も席を立ち上がる。
「マリー様をお守りする為、命を落とした師匠、オーウェンの為にも」
「父レスターの名誉のためにも」
えーと、一見無茶苦茶だけど、嫌な感じの流れが一気に変わって、みんな頑張ろう的な感じになったのかしら?
「で、そこのチャラチャラした小僧ら? てめえらが誇れるのは、貴族って身分だけかい? 男としてそれしか誇るものはねえのか?」
「いえ、我らは先祖や一族のために、ヴィクトリーのために……」
「戦場の経験は? 喧嘩はどれだけこなした? 騎士っていうからには、弱き者の盾となり、てめえの男と剣を見せた事は?」
三人の若い騎士は沈黙する。
彼らは、実戦経験も人間としての経験も浅いんだろう。
それを先生に見透かされ、答えられないんだ。
「いいか、てめえらに期待されてんのは、騎士隊長としてどれだけ男を見せられるかだ。その自信がなきゃ、今すぐこの場を去れ! 目障りだ」
すると、ランヌ侯とアンジュー伯が立ち上がった。
「フランソワ辺境侯だった私の父も兄も、大戦初期のヴィクトリー連合軍の戦いで死に……おめおめ生き残ったのが、自分です。ロレーヌに占領中何も出来ないまま、領民も虐殺され、領土も荒らされ……。もう、自分には後がないのです。戦列に加わらせてください」
「私も、ランヌ侯と同じです。どうか、我々に騎士の名誉を取り戻すチャンスを」
そうか、この二人の領地はノルド帝国とヴィクトリー海軍が侵攻してきて、虐殺された領地の領主だったんだ。
ロレーヌに占領されたフランソワを、私達がパリスを解放したけど、彼らの心は解放されなかったままで、ずっと苦しんできたのか。
「よおし、わかった。てめえらの思いを呑んでやる。小僧、銀髪のてめえは?」
スチュアート侯は、押し黙り唇を噛み締める。
「さっきまでベラベラやってた威勢は、どこ行った? 黙ってその場が過ぎると思ったら大間違いだぞ、小僧コラ」
「自分も、名誉の為です……。私の家はヴィクトリーと名乗る前の大昔、ケトルの時代からケトル島を守護した家系でございます。私は、家や領民たちの為に、自分を名誉ある……」
先生は言い終わる前に詰め寄り、右フックでスチュアート候を殴り飛ばす。
「てめえ小僧この野郎、俺に嘘は通じねえ」
嘘をついてる?
そうか、先生は冥界の魔法で心が読める。
特に相手が、精神的に打ちのめされているような状況ならば、心を読むのも容易。
「私は、エドワード護国卿の命令で、情報収集とマリー姫を保護して、敵を混乱させよと密命を受けておりました」
ああ、そういう事か。
敵が送り込んできたスパイが、彼って事ね。
ならば、あの言動も納得がいく。
私達を分断しようとして、いざこざを起こそうとしていたのはわざとだ。
先生が集まってきた彼らを、徹底的に身体検査して通信手段を没収したのもそれが理由。
ここに軍団が集まってる事や、私がナーロッパにいるって言う情報が漏れないようにするのと、スパイ対策。
「で?」
スチュアート候は、年相応の泣き顔になって先生を見やる。
「私の一族は、ヴィクトリーと名乗るケトルの時代から、代々風習がありました。私は……耳切りの風習を持つ、亜人と呼ばれる血を引いてます。そして、我が一族がヴィクトリー簒奪を企てたエドワード卿の、後ろ盾でした」
……彼の先祖は、おそらく古代からハイエルフの一族と交流を持ち、ヴィクトリーの騎士として活動していた、ジューと呼ばれた一族……だったんだろう。
よく見ると、彼も耳の上の形が少しおかしい感じで、多分彼も生まれた時に耳を矯正したんだ。
英雄ジーク伝説では、亜人は討伐の対象だから、ヴィクトリー王朝よりもある意味で歴史ある名家の彼らスコッティ人は、ずっとこの事を秘匿してたんだろう。
「しかし、エドワード卿は力を持つと、我が領地を簒奪して……領主の父上は謀殺されました。フランソワに留学していた私は……何も出来ずに……領地も良質な港であるクラスゴも奪われて。私は……迷っています。マリー様のお姿を見て、私は騎士としてそれでいいのかと」
先生をして、厄介と言わしめるエドワードことアレクセイは、協力者も目的達成の道具としか思ってないのか。
まるで、何がなんでもオーディンの目的を達成しようという、ある意味必死さが感じられるけど、何が彼をそこまで駆り立たせている?
何か私たちが知らない理由があるかも。
その辺がわかれば、もしかしたら彼を倒す突破口ができる可能性がある。
後で先生に相談してみるか。
すると、思いのうちを話たスチュアート侯のほっぺたを先生が引っ叩く。
「騎士としてだ? この野郎! 人間としてのてめえの魂はどう思ってんだ!! てめえの魂はどっち向いてんだ小僧!」
「私は……人間としてエドワード卿は間違ってると思います……。私は人間としてマリー殿下に光を見ました。私の魂は、光の道を歩みたい」
長い沈黙の後、スチュアート侯の着席をアゴで促し、机に突っ伏したスチュアート侯は顔を上げられず泣き伏した。
「小僧、今の言葉信じてやる。あと、男ならこれくれえで泣き入れんじゃねえ。辛かろうがきつかろうが、グッと気持ちを押し殺し、我慢すんのが男の生きる道だ。わかったらさっさと顔上げろ小僧」
先生に促され、泣き腫らした目でスチュアート侯は前を見据えた。
「でよ、我らが王女様は今、てめえらのためにおめかしの最中よ。そのめえに、てめえら俺様からいい話してやんよ」
先生は立ち上がったまま席に一向に座らず、空席を指差して、ニヤリと笑う。
「俺はよお、騎士団長代理だ。団長じゃあねえし、マリー王女も団長じゃねえ。言ってる意味、わかるよな?」
すると、マッシモがニヤリと意図を汲んだのか、挙手する。
「つまりこう言いてえんでしょう? 次の戦争で最も活躍した者が騎士団長の座に着くってな」
「!?」
騎士達全員の目の色が変わった。
えっと、そうなの?
当事者の私が全然わかんないんですけど。
「わかってんじゃねえか、おめえを騎士隊長に引き上げた俺の勘は正しかったぜ。チャンスはお前ら隊長だけじゃねえ! この戦争で最も活躍した男の中の男に、騎士団長は相応しいだろう? 英雄伝説のようによお」
一気に騎士隊長の視線が先生に注目する。
えーと……めっちゃ、男の野心見たいのに火がついちゃってるっぽいよ。
「でよ、マリーの事を狙ってる奴らがいる。世界各国の王子連中や、元王族よ。てめえらヴィクトリー出身なら、よその国に姫様取られていいのかよ?」
「嫌です!」
騎士隊長は一斉に首を横に振って、拒絶の意思を示して、なんか、すごいそっちに行きずらい。
すると先生がグッと右手をガッツポーズする。
「英雄ジークなんざ古臭え、おめえら騎士達が新たに塗り替えて新しい伝説を築き上げんだ。騎士団長になれば、マリー王女を口説くチャンスもあるかもなあ? やっぱよお、男として生まれたからには、男気とチ●ポ一つでのし上がんのが男の夢よ。おう、てめえら!」
あのー、人を戦利品みたいに言うの、やめて欲しいんですけど。
「な!? 代理殿……下品な」
「ま、まあ確かにそうだがもう少し表現を」
「そ、そんな下心、わたくしは」
元フランソワ貴族のランヌ侯とアンジュー伯とさっきまで泣いてたスチュアート侯が、ドン引きした後で顔を赤らめる。
マッシモが先生にニヤリと笑い、ハーヴァード侯は、大口開けて笑い出したし。
「さあて、じゃあ麗しの王女様からてめえらに渡すものがあるって言うからよお、もうちょっと待っとけ」
画像越しに先生がこっち見てきて、右目をウインクしてきたけど、どうやら私の出番のようだ。
私が議場まで赴くと、さっきまでの喧騒は嘘のように静まって、騎士達全員が借りてきた猫のように席に座ってる。
「大変お待たせしました。すぐ終わりますので、騎士隊長は私の前に」
先生に言われて私が魔力を込めた、ピンクゴールドの薔薇のアクセサリーを、一人一人彼らの胸につけていく。
「黄金薔薇騎士団の証です。後で他の騎士達にも配布しますが、先にあなた方にこれを。私の胸に付けてるペンダントトップと、これでみんなお揃いですね」
私が微笑むと、騎士隊長全員が満面の笑顔になったけど、これで嫌な空気は吹き飛んだかしら?
「どうか私も騎士団も、一人でも欠ける事もなく、世界を皆で救いましょう」
「は!」
「それではごきげんよう」
先生と私は会議場を後にして、夕食をこれから取りに行くけど、なんだろう……めっちゃ疲労感がして疲れた。
会議室からはめっちゃ歓声が聞こえて来るけど、一応は成功したのかな?
「とまあ、奴らが何を考えてるのかってのを把握して、時になだめすかせながら、時に厳しく接するって感じで管理監督すんのが、上のもんの役目だ。さっきの俺みてえにやる必要はねえから、今みてえな感じで優しくしてやれ。それだけで、男はいい思いをする」
「はい」
「コツはよ、平等に扱う事だ。おめえさんの場合は……そうだなアイドルよ。品行方正な清楚感がある昭和のアイドルみてえなのやれ。ニャンニャン事件みてえなのとかぜってえ起こすな、人死が出る」
「はあ……」
えっと昭和のアイドルみたいって、あんまよくわかんないのよね。
ていうか、なにそのにゃんにゃん事件って。
たまに先生から出る、昭和な話題に全然ついていけないんですけど。
平成生まれで令和に生きてた私にとって、アイドルなら乃木坂とか日向坂とかAKBとかNiziUしか知らないし。
「まああれだよ、特定の誰かとの恋愛感はあんま出すな。やっかみとか、嫉妬が生まれる。俺も昔、いや今もか……それで苦労するから忠告しとくぞ」
ああ、そう言うことか。
たしかに、男でも女でも推しメンのアイドル関連で、スキャンダルみたいな事が起きたら、人気とか急降下したり炎上するっていうか、それは今もか。
私の転生前の情報が流れて、水晶玉のネットワーク上で酷いことになってるようだが、そういう情報に私や発足した騎士団に触れさせないためにも、先生はここで厳しい情報封鎖をしてるんだ。
「ああ、あの件なら心配すんな。ジューの連中らさらわせてんのも並行して、あれに便乗するような、ふざけた野郎へもきっちりやってるから」
きっちりやってるって……。
何をどのようにきっちりやってるんだろう。
「心配すんな、殺しはしてねえからよ、お?」
すると先生の水晶玉が懐で振動する。
「おう、俺だ。おう、おう、今日は20人か。随分減ってきたな、おう。いいことじゃねえか、引き続きうめえ事やっとけよ」
今日は20人ってえっと、何をさせてるんだ先生は……まさか。
「さっきも報告あったが、なあに、絵里とロキのガキが流した話に便乗するクソガキらに、ちょっと大人の話に持っていっただけの報告だ。ここ数日でだいぶ減ったからよ、おめえは心配すんな」
満面の笑みを浮かべながら、黒目に一瞬光が消えた先生を見て、背筋に冷たさを感じながら、食堂では夕食を食べに行く。
「遅かったのうマサヨシよ、今日の夕食メニューは肉じゃがじゃぞ?」
「うー! ご、ごはん」
食堂では、女神ヤミーと、私と一緒に自室で過ごして、少しずつ言葉を話せるようになってきたメヒカ族のスーが待っていた。
私がこんな感じな1日をスカンザで過ごしている間、様々なところで様々な動きが出ていたのを知ったのが、作戦決行の前日……。
正体不明の白薔薇が、チート7という組織を作ったのを知る事になった全体会議で、この世界が良い意味でも悪い意味でも、ガラリと変わりつつあるのを知る事になる。
次回は三人称視点で、世界情勢に入ります