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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
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第143話 騎士団創設 前編

 その後、私達が北アスティカからスカンザに帰還して、二日後、続々と先生の関係先の軍団が集まってて、ロバートさんが見立ててた総勢100万の軍団を、遥かにオーバーしてる。


 よくよく考えると、世界救済ってぶっちゃけすごい事で、ゲームとかラノベみたいな基準で考えると、ふーんみたいな感じだけど、現実的に地球が救えますか? という話になればどうだろう。


 絶対無理って思うけど、それをいろんな世界でやってきたのが先生だ。


 先生に恩義があって、義理もあるから、私からみて異世界の人々が、命懸けで私たちの世界を救おうとしてくれる。


 いずれは、彼らの恩義に報いる形で私たちも何処かの世界で、彼らや先生達と共に戦う事もあるかもしれない。


 私にも人が集まってきた。


 正確にいうと、先生の組織とデリンジャーが集めてきたと言った方がいいのか。


 ナーロッパ本土に亡命していたヴィクトリーの貴族達や、同じくヴィクトリー中央から離れていて、今ではエリザベスこと絵里に反旗を翻しつつある諸侯達。


 ナーロッパ本土に留学という形で、フランソワに集まっていたスコッティのスチュアート侯師弟に、ヴィクトリー王家とは遠い親戚のアイリー島のハーヴァード侯師弟。


 そして、デリンジャーに協力していた200年前にフランソワ王家に恭順した旧ランヌ辺境侯家や、アンジュー伯爵家も、フランソワに貴族制度が無くなった今、ヴィクトリー貴族として私に忠誠を誓いたいだそうだ。


 シシリー島の若者達も、続々と私個人の騎士へと志願している状況。


 最初30人で始めた私の騎士団が、その100倍の3000人規模になる。


 彼らは、徹底的に身体検査が行われて、情報漏洩防止のために、通信手段の一切を没収された上でこのスカンザに集められた。


 集まった人達は、先生の奥さんの一人である騎士団長、レオーネさん指揮の元、円卓の騎士団達から軍事訓練を受けている。


 今こそ、私は先生や昨日講義を受けた、ロバートさんの教えを実践すべき時が来た。


「あー、楽な姿勢で聞いてくれて構わない。カレッジスクールの講義のように、飲み物を飲みながらで楽に聞いてくれ。居眠りさえしなければいいから」


 大学の講義って言っても、私前の世界で高校生だったし、大学なんて行ったことないしと思ったっけ。


「そうだった、君は転生前ハイスクール出身だったな。大学の講義と言っても、ピンと来ないか。だが、君の今の姿勢が大学生のそれだ。大学は、勉強させられる所ではない。勉強しに行く場所なのだから」


 ロバートさんは、転生前、マフィアや軍に入る前に親の勧めで大学に入学したという。


 州立コロンビア大学の政治学部だったそうだけど、どれくらい凄いかは私はアメリカ出身じゃないからわからない。


「州立大学って結構凄いんですけど、やっぱりロバートさんは頭が良かったから入れたんですか?」


「それもあるが、マフィアの有力カポだった父は、私をマフィアなんかにさせず、ゆくゆくは政治家にさせたかったようだった。イタリア移民からエリート層を出せば、アイリッシュ達とケネディ家のようにメインストリームになる事を信じてね」


 自由の国アメリカと一口に言っても、なかなか難しい人種問題があって、メインストリームと呼ばれる人種は、先に移民したアングロサクソンやドイツ、フランス系が上流階級を独占し、後発で来たアイルランド系やユダヤ系、そしてイタリア系や日系人は、今の黒人差別同様、苦しい差別の歴史があったそうだ。


「けど、若かった私は、自分の生き方は自分で決めると父に反発した。学費も自分で稼ぐと言い、軍に入ったのもそうだ。父が裏切り者に暗殺されてなければ、私も稼業を継ぐ事もなく、大学にも戻らず、そのまま栄えある合衆国軍人として一生を終えただろう」


 軍を除隊して、ロバートさんは組織の裏切り者かつお父さんの仇を暗殺した功績で、マフィアの構成員となった過去を持つそうだ。


 長男だった彼は、弟や妹達に稼業を任せられず、自分がお父さんのマフィア稼業を継いだという。


「じゃあ、軍に入ってて休学してた大学を、社会に出て働きながら通ってたって事なんですね?」


「うむ、一族から大学卒を出すのが父の夢だったし、母の願いでもあったしね。けど行って良かった。軍時代同様、イタリア系以外の友人も沢山出来たし、同じシチリアの祖を持つ妻ともキャンパスで出会った。私の人生にとって、大学生活は、かけがえもない美しい思い出の一つだった。私の時代は、マフィアが国の大学なんか行ってどうするんだとも、同胞に影口叩かれたが」


 現役大学生だけどマフィアとか、何かのドラマのような感じだけど、その後の彼は表の社会で築いた人脈を通じて、マフィア改革をしたそうだ。


 優秀で勉学に長けたイタリア系の子供達は、率先して優秀な教育を受けるようにしたらしい。


 歌や芸能に秀でた子を、その道で食べていけるよう支援したり、スポーツが得意な子はスポーツを出来る環境に支援した。


 そうでない者達は、自分達マフィアが受け入れ、徹底的に裏の教育を施すという、決して表には出ないけど、裏のイタリア系移民の立役者として、彼はドンの地位につく。


 マフィアの数は減ったが、自分の組織やロバートさん自体が、表の国際社会に影響力を与えるくらいまで、影響力を高めたそうだ。


「全ては大学で勉強した政治学の延長だよ。偏見と差別を無くすには、自分が属するコミュニティの質を向上させ、社会の表からも裏からも、リード出来る人間を生み出すのだ。金と力だけでは、人間は尊敬を持たれない。暴力を使って権利を勝ち取る方法も無くはないが、周りがそんなもの納得するか? しないだろう、所詮暴力は暴力なのだ」


 この人は、根が善人なんだろう。


 家の都合や周りの環境から、社会の状況からマフィアにならなくちゃならなかったんだ。


 この人の転生前の二つ名は、グッドガイだったそうだ。


「社会が悪い、環境が悪い? そんなもので片付けるのは、負け犬の言い訳だ。人として神や親から祝福されて生まれたからには、期待に応える為に尊敬を勝ち得なければならない。人種の坩堝のような矛盾だらけの合衆国で、激しい人種間の競争に身を置き他人種の尊敬を勝ち取る事が、我々イタリア移民の夢であり目標……そんな卒論を書いた気がするね。どうしょうもない、義理を欠いた嘘つきのファック野郎を海に沈めながらな」


 ん? なんかこの人、途中でおかしなこと言ってた気がするけど、まあいいか。


「話が少し脱線したが、我々シチリアの先祖が目指した、名誉ある道を目指す事が、人々から尊敬を集めて自分達や社会を、人を救うのだ」


「あ、はい、そう思います。私の先生も、人間としての心が重要であると言ってました」


 ロバートさんは頷いて、戦闘以外の教育を私に授ける。


「君が、名誉ある道を目指すならば、覚えておかなければならない。自分の持つコミュニティ、君に付き従う騎士団やシシリー島民へ持たせる方向性だ。君ばかり能力を高めるのではなく、周りの質と能力を高めさせるのも、考えなきゃいけない」


 そう、私は宿題を出されていた。


 上に立つには、自分の組織を作れと。


 私達の世界も、先生達から助けてもらうばかりじゃなくて、私達も立ち上がらなきゃならない。


 だから、私は世界を救う自分の想いを伝えるための、組織をまず作らなきゃならないんだ。


「君の騎士団達は、熱意がある。君を守るために志願したシシリー島の若者達もだ。君は女性だから、男とは違う。我々男が目指すのは偉大な父の道。では、君が目指さなきゃならんのは、なんだ?」


 上に立つ男が目指すのは、みんなのお父さんにならなきゃならないのならば、私は……。


「みんなのお母さんや、お姉さんにならなきゃいけない、ですか?」


 ロバートさんは、優しく微笑んで頷いた。


「ザッツライト、その通りだ。君はみんなの姉でもあり母でもあり、恋人になるのだ。それが君が目指さなきゃダメな道だろうな。我々イタリア系は父を尊敬するが、マンマ……母を崇拝する。厳しくも暖かく、優しい女性だ」


「はい」


「聖母マリアのようになれとは言わない。君は、みんなの崇拝の対象になるよう、自分を律するのだ。いいかね? では講義に入ろう。まずは人心掌握について」


 そう、彼も世界を救いに導いた勇者の一人。


 人身掌握の道は、トップが先頭に立ち自分の思いを、わかりやすい言葉で伝える事。


 その後で受けた先生からのアドバイス。


「もうここまで、おめえのために人間集まったんだから、一家名乗りするしかねえだろ。転生前の若い時の俺や、転生後の俺をも凌ぐ勢いだしよ」


「一家名乗り……ですか?」


「この世界のナーロッパならば、自分の騎士団とか戦士団とかあるだろ? そいつらまとめて、うちで教育してんだが、そろそろ頃合いだ。絵図は俺が描いてやるから、あとはおめえの力を見せるんだ。おめえが男なら、男を見せろって言うんだが……すまん、どう言えばいいかなこれ」


 私にはっぱかけてるのに、先生は私になんて声かけていいか悩んでるけど、そういう時はあれね。


「女は度胸ってのを見せればいいわけですよね?」


 私がにっこり笑うと、先生は私と顔を見合わせてぷっと含み笑いした後、大爆笑する。


「ああ、それでいいさ。俺に度胸と肝っ玉を見せてくれ。じゃあ、手筈はだな……」


 私は先生と打ち合わせを終わらせ、午後の訓練が終了した騎士達を集めた。


 ロバートさんが教えてくれたけど、人身掌握の基本は、日中の訓練で疲れて、思考力や判断力が鈍ってくるこの時間帯を狙って演説するんだっけ?


 ロバートさんの時代は夕食前に、ホテルとかレストランとか、ナイトクラブとか貸切って、そういう事が出来たとか言ってたけど。


 そして演説は、サプライズ感も必要。


 いつものドレス姿じゃなく、イミテーションだけど、ヘイムダルの鎧を模した装備と杖を身につけて、広場に姿を見せると、騎士達が、驚嘆の声をあげて夕日が照らす広場がざわつき始めた。


 えーと、確か掴みはこれでオッケーだっけ?


 演説の基本は、皆がざわつくの鎮まってから、ながーい感じで間をとって始めるんだっけか? 


 確か心理的な効果で、この人は何を話すのだろう、いつ話し始めるのだろうという感じにして、演説対象をじっくり観察するだったかな。


 あとは、隊長格の騎士達一人一人の目を見ながら、私は息をすうっと吸い込んだ。


「……訓練ご苦労様でした」


「は! 我らが王女殿下! 救国の姫君!」


 それぞれの部隊先頭に立つ、兜や帽子を外した騎士の隊長格に当たる、個性的な騎士7人が声を揃える。


 右から財務大臣だったレスター卿の御子息である、ちょっと小太りで七三分けな髪型のサー・ヘンリー・サックス・レスター公爵。


 オーウェン卿の養子にして一番弟子、鷹のような目をして坊主頭にした筋肉質の剣士、サー・ジェームズ・ヨーク・ジョーンズ公爵。


 ハーヴァード家次男にして、私の親戚筋にもあたる、隊長としては最年長の齢35歳のワイルドな赤髪で髭を生やした、サー・チャールズ・ジーク・アイリー・ハーヴァード侯爵。


 スチュアート侯の子息にして銀髪を逆立てた若き騎士、サー・ハリー・スコット・スチュアート侯爵。


 旧フランソワ軍服っぽい士官服を着たランヌ侯爵家当主、ウェーブがかかった金髪の優男風な、20歳のルイ・ド・ランヌ侯爵。


 同じく旧フランソワ軍士官服のアンジュー伯爵家当主にして、18歳で栗色長髪のスマートな騎士、ピエール・ド・アンジュー伯爵。


 シシリー島出身の、元は自警団を率いてたという、爵位はないけど、男気あふれる目つきで私を見てくる、黒髪短髪で、頬に傷痕のある浅黒い肌の大男、27歳のマッシモ・ピッコロ。


「わたくし、マリー・ロンディウム・ローズ・ヴィクトリーに、みんな集まってくれてありがとう」


 新生騎士団は、きちんと教育訓練を受けているようで、私が広場の壇上に立つと、一斉に剣と槍、そしてライフル銃を寸分違わず同時に兜の前まで掲げる。


 装備も一新され、先生の組織が用意した、希少金属をふんだんに用いた装備品を身につけていて、士気も高そうだ。


 私は杖を持った両手を掲げて、宙を見据える。


「現在のヴィクトリーは、みんなも聞いての通りです。身勝手な神々の陰謀で、姉エリザベスは操られ、本来の身分を隠し、大戦を勃発させたエドワード護国卿、本名アレクセイ・イゴール・ルーシーも悪しき神に利用されています」


 そう、彼らも道具にされている。


 絵里もアレクセイも、ヴィクトリー国民も、皆が神に翻弄されて、本来の生き方から遠ざかって、世界の敵となった。


 その真実を、真心を持って彼らにまず伝えなきゃ。


「あなた方騎士や、シシリーの民みんなの故郷も、誇りを奪われてしまいました。この世界で起きた大戦によって、大事な人達多くの人が苦しみ、そして亡くなった。それは今も、私が呼びかけている今もです!」


 広げた両手を、胸元に持っていき抱きしめる仕草をすると、騎士達の一部やシシリーの若者達は、涙ぐみながら毅然と前を見据えており、また別の集団は怒りを、別の集団はこの戦いの武功後の野心をいたギラギラした顔付きになる。


 欲と思いが交差するような状況。


 普通の女子だった私が、この圧力に耐えられるのは、先生やみんながいたから、私は彼らの思いを受け止める事ができる。


「けど、もうそんな悲しい事は終わりです! 終わらせる! 私達が!」


 私が両手をまた空に掲げると、興奮したシシリー出身者達が雄叫びをあげた。


「もう、悲しい世界は終わりにしましょう。人の為に未来の為に! 私達が立ち上がる時が来た!」


 私が宣言すると騎士達から騒めきが起こる。


「そうだ、終わらそう」

「我々は騎士だ」

「人々の未来の為に」


 集団のテンションを上げて行って次は……。


 その思いが自分達だけではないと伝える事だったわ。


「フランソワ大統領デリンジャーをはじめ、世界各国の君主達は、大戦終結に向けて準備を終えようとしています。そして、世界共通の法律、世界憲法も、人権も、新たな世界の枠組みである国際連合の構想も」


 私はイワネツさんが提唱し、デリンジャーが発表する予定の、国際連合と世界憲法の冊子を集まったみんなに見せる。


 ジローが、マリー同盟ってなんか恥ずいネーミングしたから、私から手堅い感じで行こうって国際連盟と言う形にした。


「人間が人間として、生きていける権利を! そして世界を救うのがこの騎士団の役目です!」


 冊子を皆が注目するように、右手で高々と掲げ、騎士達は私の一挙手一挙動に注目してくれる。


「今、この世界を救おうと色んな人達がこの地に集い、力を貸してくれます。私達だって彼らに頼ってばかりではいけません! 人が人として生きていく当たり前の世界を名指し、守護するのが私達の騎士団です! 世界の未来のために、私も自ら戦場で戦う所存です」


「おぉ……」

「姫殿下自ら……」

「救国の英雄……」


 私は騒めきを手で制する。


 そう、群衆を操れるくらい、私が転生前に得た魅了のチートスキルがこの場で活きている。


「救いましょう、私達で。幼児が泣いているなら救いの手を! 婦人が困っているなら、男子として守護する男らしさを! 老人が悩んでいたら、私達で彼らの経験と知恵を参考にしてよりよき未来を! 人々の心に黄金の意思が宿るよう、私達が規範を示す!」


 私がグッと両手をガッツポーズして胸元に引き寄せると、広場が大歓声に包まれた。


「そうだ、人間としての規範を」

「我らが姫君の思いを」

「世界の美しさを」

「人の優しさを世界に」

 

 私は先生の教えを思い出す。


 こういう時にさらに男の人を、鼓舞するには……。


「私は女の身です。戦場は怖い場所ですが、あなた達がいるから戦える! あなた達の男を見せてください。来るべき決戦に向けて、より一層の奮起を願います! 救いましょう世界を!」


 私が呼びかけたら、最右翼のヘンリー卿が回れ右をして、剣を高々と掲げる。


「マリー様! ばんざあああああい!」


 騎士達に万歳を呼びかけると、皆が手にした武器を掲げた。


「ばんざあああああい!」


 一泊間を置いて、回れ右して元の位置にヘンリー卿が私に向き直った。


「それでは、新しい騎士団旗を団長代理、よろしくお願いします」


 騎士団旗を、先生が甲子園の応援団みたいに旗を掲げながら、行進するように歩いてくる。


 真っ黒いサーコートには、白地で菱に悪の一文字が入り、サーコートの下は騎士達が付けてる黒のアダマンタイトチタン製の鎧姿。


 うん、なんていうか、かつて黒騎士って呼ばれたエドワードことアレクセイよりも、先生の方がよっぽど黒騎士っぽくてかっこいい。


 騎士団旗を一目見て、ヘンリー卿とジェームズ卿は感嘆のため息と共に、涙を流した。


 金縁の長方形を象った騎士団旗の色はシシリー島の太陽を表す色の強い赤みがかった黄色に、長大なクロスクレイモアを掲げる長身の騎士と、中央の黄金の薔薇を挟んで対になるように、盾を装備した小太りの騎士のシンプルな騎士団旗。


「オーウェンお師様……」

「ち、父上……父上の盾が」

「シシリーだ……」

「シシリーの太陽の色」

「姫様……自分らは……」


 志半ばで亡くなった彼らの意思を受け継ぐ。


 騎士として誇り高かったオーウェン卿と、ヴィクトリーと言う国を思い憂いて、私の盾になろうとしたレスター卿、そして私のシシリーの太陽の色。


「シシリーの人々の営みと、祖国の誇りを守ろうとした尊き騎士を騎士団旗に! 彼らが目指した薔薇のような黄金の理想郷の世界を私たちに!」


 私が宣言すると、歓声が沸く。


「マリー様と我ら騎士団に栄光あれ!」

「シシリーの心もマリー様と共に!」


 皆のざわめきが終わるまで、私は待つ。


「この騎士団を、人々の黄金時代を目指すため、黄金薔薇(ゴールデンローズ)騎士団(ナイツ)と命じます! 人々に黄金の時代を!」


「我ら騎士団! 姫殿下へ忠誠を!」

「このお方こそ我らが求めた……」

「英雄だ、英雄が現れたんだ」


 私が両手を空に向けて掲げた瞬間、大歓声が上がった。


「夕食後、黄金騎士団各隊長、19時ちょうどに訓練棟最上階にて閣議を開きます。出席お願いします」


「は!」


 私が先生と広場から退場すると、周りの魔族の楽団が気をつかって演奏までしてくれる。


「よう、今の演説はまあまあだったな。あと、おめえさんの夕飯はお預けだ。ちょっとした仕込みすんぞ」


「え? あ、はい」


 小声で先生が私に囁くけど、仕込みってなんだろう……。

 

 それは私、聞いてなかったけど。


 先生がなぜ、私が創設した騎士団長代理になったのかも、教えてくれなかったが、私は自室でドレスに着替え、先生の仕込みとやらを見届けた後、別室にて先生と待機する。


「ポチッとな」


 先生が壁のスイッチをオンにすると、会議室内の映像と音声が防犯カメラのように映し出された。


「おう、さすがに古参の騎士団長達とシシリーの野郎はもう来てるみてえだな、会議の1時間前からよ」


 先生の言う通り、ヘンリー卿とジョーンズ卿とマッシモ・ピッコロがすでに、円型のラウンドテーブルに、隣同士で着席していた。


「食事はよろしいので? ヘンリー卿」


「いやいや、最近少し痩せてきたので、食事も酒も控えて、戦に備えねば。ところで、編成された各隊長、いかに見ます? ジョーンズ卿」


「おそらくは、マサヨシ先生の意向もあって各有力貴族師弟と我らが選ばれたのだろう。貴公もそうは思わんか?」


 二人から話を振られたマッシモは、鎧を脱いで白シャツ姿に着替えて、分厚い大胸筋からは極太の金のネックレスがチラリと見えてる。


「……あんた達は信頼している。マリー様に付き従った古参達だからな。あの黒髪のマサヨシ殿も、信頼にあたう男なのもわかる。だが他の奴らはどうだ? 訓練で共に汗を流してはいるが、本当に信頼にあたる奴らかが、わからんな」


「然り!」


「貴殿の物言い、もっとも。見定めようではないか、我らが」


 三人は一同頷きあい、沈黙する。


 他の4人の隊長格の騎士が信頼をおけるか、じっくり見定める気だ。


「さすが、奴らも意図がわかってんようだな。上に立つおめえさんは、直属の部下であるあいつら7人の、性根をまず見極めるって仕掛けだ。各勢力の頭連中を集めたが、信用できそうなやつと、現時点でそうでねえやつを、まず見極めようぜ」


 ああ、なるほど。


 学校生活で例えると、先生や先輩が見てないところで、生徒がどういう態度をとってて、どんな人なのかってのを見るって事ね。


「ああ、そういう事さ。おめえの見えるところで調子のいいことを言いながら、いねえ時に陰で妙な事を言う野郎なんざ使えねえからな。大事な場面で下手打つ前の、まずは見極めみてえなもんだ」


 ……先生の言う通りだ。


 裏表があるような人や、嘘をつくような人に、大事な事は任せられないし、もし変な行動や言動があるならば、早めに修正したほうがいいって事だと私は理解した。

後編に続きます

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