第140話 悪魔のケジメと神のケジメ 中編
「精霊じゃと!? 協定違反じゃ! マサヨシィ!! この状況は!?」
女神ヤミーが、突如として襲って来た女の子の魔法をでっかい金棒で防御し、戦闘機を放棄してこっちに来た先生と背中合わせに互いに構える。
「わからねえ、くっそどうなっていやがる! 何かに操られてる可能性があるが……くそ! なんなんだこりゃあ」
そう、精霊は神と協定を結んでて、お互いの世界に不干渉の協定を結んでたはず。
――乙女よ、精霊界より精霊種を召喚するのです。この力、元老クラスの大精霊。
私の鎧に宿るヘイムダルが、この大陸の人間達に大精霊が関与していると看破した。
ならば同じく大精霊の……。
「いでよ、大精霊フューリ……」
指輪の力でフューリーを呼び出そうとした時、いつの間にか毛皮を着た女の子が私に槍を向けて突っ込んでくる。
「っ!? 早いっ!」
時間操作で何とか槍をいなすが、今度は上空で阿修羅軍の軍艦を襲っていた、女の子と同様毛皮を着た褐色肌の集団が、私達に様々な魔法を繰り出してくる。
「なんなのよ、この状況!? これじゃあ召喚する暇もない!」
すると先生が垂直に浮遊し、何らかの冥界魔法を放とうとしていた。
「あんまりよお、人間相手には使いたくねえがしょうがねえ! 全員精神防御しろ、叫喚地獄」
先生が精神攻撃的な冥界魔法を使うと、襲って来た集団が頭を押さえて苦しみだす。
あれか、以前先生が私に語ってくれたことがあった、地獄の責め苦を脳内に具現化して、様々なデバフ、ステータス異常を引き起こすという、冥界魔法の精神攻撃。
「いまだ! 召喚魔法で精霊を召喚して、こいつら操ってる奴を探れ!」
「はい、出でよフューリー! それに本来の召喚魔法でサラマンダー!」
指輪の力と私の召喚魔法で、大精霊のフューリーと上級精霊のサラマンダーを召喚した。
巨大な精霊竜サラマンダーと、彼女の頭の上に乗っかったフューリーが姿を現した。
「ちょ!? また勝手に誰かあたしを呼び出して……それにくっさい悪魔達がなんでここに!?」
「フューリー、この人間共から精霊の波動がする! どういう状況だこれは?」
先程の戦闘と今の召喚で、生命力と魔法量をかなり消耗した私は、彼女たちに理由を説明しようとした時、ヒョウ柄の毛皮に身を包んだ女の子が、一気に力を解放して真っ黒いおどろおどろしい仮面が具現化し、光り輝く。
「タチサレ! ココハ……精霊神ノ住まう地。闇のテスカポリトカの領域デアル! 我ラと我ラガ盟友、フレイ精霊神の守護聖地」
精霊神? 何それ? どうなってるのこれは。
まさか、フレイの仲間の精霊なの?
「何だとこの野郎? じゃあそいつここに呼んで来ぉコラ! こっちは創造神様に命令されて、最上級神の閻魔大王を親に持ち、上級神ヤミーと異界救済に来た勇者マサヨシだ! なめんじゃねえぞ馬鹿野郎!」
先生の啖呵に反応して、雷雲が立ち込めて稲光と共に異形の精霊たちが姿を現す。
青白い炎を纏い、目をギョロリとさせた青白い炎の翼を持つ、紫色をしたカエルのような4足歩行の巨大ドラゴン。
エメラルドグリーンの瞳をした、赤と緑の体色が美しく光り輝き、緑青の巨大な翼を持ち、猛禽類のような顔をした巨大ドラゴン。
漆黒の体に、鋭い牙を生やして羽をたてがみの様にした、凶暴そうな黒豹のような顔の巨人。
そして巨大な四肢を持つ、巨大な水色のワニの龍が姿を現す。
彼らの体躯、全長何メール?
東京タワーよりもでかいんですけど。
「人間! 来てやったぞ! そこに最上級精霊の炎蜥蜴と神魔精霊大戦で名を馳せた、狂精霊がいるようだが、ひれ伏せ! 精霊神にして戦神テスカポリトカの前である!」
「同じく精霊神、土のケツァルコアトルです」
「炎の精霊神、フラカンである」
「水の精霊神、トラロックよ」
は? えっと、もしかしてこれかなり上役の精霊たち?
私達は、魔界の軍勢を制圧するために顔役を揃えたはずだけど、今度は私達が揃えた顔役の精霊種が、目の前にいる異形の精霊に立場が逆転された?
「な、何よ! 精霊界でも反主流過激派のウェイテオカリの元老達! あんた達、神界でも一応、上級神と最上級神の称号を持ってるからって、あたしだって大精霊……」
「黙ってろ小娘! 元老院議会もくだらぬ理由でサボりよるくせに、処すぞ!」
うわ、黒い巨人の精霊に恫喝されて、サラマンダーとフューリーが、唇噛みしめて地に落ちてきた。
こいつら、姿かたちは異形だけどめっちゃ位の高い神と同格の精霊達だ。
「チッ、今のが本当なら親分と同格クラスの精霊たちか。どうっすっかなあ、この始末よお。フレイと繋がってるって事は、オーディンともズブズブじゃねえか」
先生が、集まった精霊たちの隙を見つけようと、じっと観察している。
やはり歴戦の勇者、この事態でも先生は勝ち筋を考えてるのか。
すると、仰向けに横たわったバリムが声を上げて笑い出した。
「くっくっく、ははは。人間以上の偽善者が現れおった。我らアバラル合衆国の魔族はこの大陸で、奴らが道具にした人間共と戦って来た。我らが悪魔なら、奴らは邪神だ」
瀕死状態のバリムは、私達含めて全てを嘲笑い、いつの間にかアースラの思念体もその場に姿を現している。
「お嬢ちゃん、俺の記憶盗掘の精度は、ヤミーとマサヨシの冥界魔法よりも上よ。この事態を打開するには、この大陸の真相を探るんだ」
私が頷くと、アースラと同化してさっき消費した魔力と体力を補い、先生と女神ヤミーと顔を見合わせて、私はアースラのスキルを発動する。
「記憶盗掘」
対象は、まずバリムだ。
私は彼の記憶を読むと、彼の生い立ちから何から遡り、この世界と大陸の真相を探る手掛かりにしようとした。
彼らがニュートピアに来た真相は、先生が打ち倒した魔皇ルシファーが、野心溢れるジークに目をつけて……そうかジークはやはり魔王軍に協力してた。
だがしかし、バリムの上官である堕天使パイモンが、裏切ったジークと相打ちになり、ニュートピア中の人々を女神フレイアが率いて、悪魔達をこの大陸に追いやったんだ。
「ラバルよ、我が戦友よ。俺やアバラルもべバルも、お前の軍籍を剥奪したくない。考え直してくれぬか?」
バリムが何やらラバルと呼ばれた黒い羽を6枚生やした毛深い悪魔へ、何かを説得してるようだけど、ラバルと呼ばれた黒の軍服を着た悪魔は首を横に振る。
「人間との戦いの敗北、そして脱走兵が多発した件、誰かが責任を取らねばならぬのだ戦友よ。我が軍はパイモン閣下を失い、祖国からの通信も途絶えた。アバラルもべバルもお前も、皆を、堕天師団、獣魔師団、妖魔師団、怪魔師団を率いてくれ。小官はあの島に残った者達は捨ておけん」
「戦友よ……わかった。我らの力で、あの女神の封印を一瞬解き、お前はあの島で脱走兵達の事を面倒みてくれ」
「すまぬ、さらばだ戦友。貴様達を結果的に裏切るようで心苦しいが、他の皆によろしく頼む」
そうか、だからジッポンに魔族の末裔みたいな人達がいたのか。
魔王軍の中にも、厭戦気分で戦争に嫌気がさして脱走兵になり、ジッポンに移住した悪魔も多くいたようだけど、一方で魔王軍の殆どがこの大陸に移り住んだということか。
そして、私は地獄のような光景を見る。
バリムの記憶が正しければ、この大陸の人々を最初に家畜化したのは、悪魔じゃない……精霊だ。
あそこにいる黒い巨人の精霊が、この大陸で人々を争わせ道具にした。
彼ら大陸の先住民は、あの精霊に言われるまま、部族戦争で互いに殺し合いに明け暮れ、幼子を生きたまま心臓を抜き取り、精霊の生贄にしたり、先住民が頭を切り落とされ、肉や皮を剥がれて、木の杭で数珠繋ぎにされ、うっぷ……人肉食に催眠効果のある麻薬精製まで、これはおそらく先住民の魔力を高める為なのだろうけど酷すぎる。
その後、彼ら大陸の人類は魔王軍と千年近くにも及ぶ抗争しながら、ジッポンに侵攻……してない!?
どういう事?
バリムの記憶では、この大陸の人々との、長い抗争の果てに、悪魔達の三分の1が捕虜にされるか殺されるかの、血で血を洗うような抗争の果てに、精霊の力を抑える首輪をはめて奴隷化して来た記憶しかない。
この大陸の悪魔達が、ジッポンに百鬼夜行と呼ばれる侵略の大軍団を送り込んできたんじゃないの?
「なるほど、マリーの今の記憶を冥界魔法の深淵で読ませてもらった。悪魔野郎共もワルだが、この精霊の方がワルだな」
「うむ、マサヨシよ。今のお主の弟子の映像、兄様にも確認させておる。こやつ……精霊界の裏切り者じゃ! 創造神様が精霊界に、そういった不穏分子がおると兄様達に伝えてたわい」
そういう事か、この大陸の彼ら精霊神こそが大陸の人々を抑圧させていた者達にして、オーディンの協力者達。
「人間共と上級神よ、立ち去るがよい。この南北アスティカ大陸は我々のテリトリーだ。この薄汚い魔族の一派から、我らの神造兵器たるメシカ共を解放したのは褒めてやる」
黒い豹のような顔をしたリーダー格の黒い巨人が、私達を見下ろして、冷たく言い放つ。
――お嬢ちゃん、あの黒い野郎は闇と嵐の暴力を司る、精霊界の中でも最上位の実力者、テスカポリトカだ。マサヨシやヤミーの魔法じゃ、奴の心根は覗けねえ。あの油断してるクソ野郎から、俺の記憶盗掘で奴の記憶を盗み取れ。
私の魂に直接アースラが語りかけてきた通り、この黒い巨人のような精霊神の記憶を読み取る。
すると千年前、秘密裏にこの大陸にホムンクルスと名付けた人間達を、テスカポリトカが形成した映像が私の脳裏に浮かび上がる。
この精霊達は、幾多の世界で活動してる。
テスカポリトカは、オーディンやロキ、そしてクロヌス同様、巨神の一族。
そして生み出した彼らを争わせて、莫大な信仰のエネルギーを得てる、オーディンと同類。
その思考は、己が力を得る喜びと暴力に満ちて、人間を道具のように扱ってる邪悪。
そしてこれは……この記憶はフレイとオーディン? 何かの会合の記憶?
「最上級神にして、我らが同胞の巨人族、精霊界の元老、最上級神の一柱、闇と闘争のテスカポリトカよ。我らとの盟、今こそ果たす時」
「ふむ、オーディンか。死と戦闘を司る最上級神にして戦神よ。お主らの言うヴァルハラであったか? そこのフレイと計画を詰めてきたが、いよいよ実行に移すのだな。ニョルズの阿呆に秘匿して、人の住まぬこの大地に神造兵器と、精霊獣と魔獣を量産していたかいがあるわ」
「然り、我らが戦神の目指す理想郷、戦いに喜びを見いだす戦士達の黄昏と理想の世界を、全ての次元宇宙で。そのために思慮の足りぬニョルズを利用して、この世界を作った」
なんて奴らだ。
自分達がエネルギーを得るために、このニュートピアを利用して、人々を抹殺して魂を糧にするための、邪悪な計画を企ててきたんだ。
「だが、ニョルズは我らの謀に気が付き、この世界に息を潜めて復讐の機会を伺っておる。愚かなニョルズ、ヴァンの王よ。奴さえ取り除けば、我らの理想を叶えられる」
「心配はいらぬ、オーディンよ。こちらは南アスティカの神造兵器メシカに、捕虜にした魔界の魔族を交配させている。幾度かの予行演習を経て、練度と性能を上げる予定よ。我が精霊の力で、アホのフレイアの大陸を手中に収める謀の、最終段階に入った」
そうか、この大陸は地球世界のアメリカ大陸みたいに、南北に分かれてるんだ。
とすると、ジッポンに度々悪魔のような軍勢を送ってきたのが、ここから南の大陸にある、あの精霊の本拠地と言う事ね。
「ふむ、ならばワシはこの世界のルーシーと呼ばれる雑種共の中の有力氏族の者を見出し、我らが望む戦乱を。あやつら、いい具合にこの世界の恨みが溜まっておるしの。よいな、フレイ」
苦々しい顔をして、フレイがオーディン達に頷く。
「かしこまりました、主神オーディン様。もはや、愚妹フレイアは肉親とは思いませぬ。理想郷実現のために、我らがノルドの眷属達とルーシーと呼ばれる者達を」
「頼むぞフレイよ。我らが神造兵器の完成には、お前の呪術とワシ、テスカポリトカの闇の秘術が必要。あんな戦うだけの木偶人形に、文化も言語も余計な感情など不要。さあフレイよ、ワシと共に狂戦士を唱えるのだ。神造兵器の完成の為に」
「……狂戦士」
テスカポリトカとフレイが、人々を戦争の道具にする魔法を唱えたのを私は確認する。
こいつが、人々の尊厳を奪った当事者の一人、私達が滅ぼすべき悪!
「ヤミー、今のマリーの記録親分に?」
「うむ、兄様と創造神様が吟味中じゃ……わかりました兄様! マサヨシ、最上級神にして精霊界元老、テスカポリトカを神界法564条に基づき、3類に指定! 邪神認定、我らが討伐すべき悪じゃぞ!」
女神ヤミーが嬉しそうに先生に告げると、今まで見たことも無いような闘志と邪悪さに満ち溢れた先生の恐ろしい笑みを見た。
「そうかい、喧嘩の大義名分が出来たかい、さすが親分。くっくっく、闇と暴力のテスカポリトカさんよお、おめえさん今から亡ぼすわ。本物の暴力を俺が見せてやるぜ、集まっていただいた精霊神さん達もいいなあ!?」
先生の体が光り輝き、着物が燃え尽きたと思ったらふんどし姿になり、全身に総入れ墨が入る。
「……は? 何を言っておるにんげ……」
黒の巨人の側にいた巨大ドラゴンが、一斉に黒の巨人を攻撃し始めた。
「ぬう!? 貴様ら一体……何をするのだあああああああ」
猛禽顔のエメラルドグリーンの瞳をした、美しいドラゴンが上空を舞い、光り輝く。
「テスカポリトカ、お前は精霊界から破門です。今後の精霊領域ウェイテオカリはわたし、精霊界元老にして精霊龍ケツァルコアトルのもの! さあ、心ある英雄、勇者よ、テスカポリトカの陰謀を打ち砕くのです」
ええ!? 私達の味方だったのか、あの黒い巨人と共に現れたドラゴンたちは。
「あんたの事、嫌いだったからちょうどよかったわ。私も創造神と精霊界に働きかけてたの。くっさい邪神がいるって。アホ勇者にやられて死んじゃえ、陰険残虐変態邪神のバーカ」
フューリーがあっかんべえとかしながら、召喚時間が切れて元の世界に戻り、サラマンダーもテスカポリトカの攻撃に加わる。
一方、こっちは黒曜石で出来たような、禍々しい仮面を被り、毛皮を羽織った大軍団に襲われる。
あ、まずい……。
さっきの魔王軍との戦いと召喚で、私の力がほとんど残ってない。
「ガルルルルルル!」
さっきの女の子が、光の槍を構えて私に一直線に突っ込んできた時だった。
「ドーン! なのだ」
ベリアルちゃんが女の子を蹴飛ばし、上空から先生の組織の人たちが一斉に降りてきて、精霊の手先にされた人達を取り押さえていく。
「ベリアル本部長だから偉いのだ! ベリアルが呼んだら、みんなが助けてくれるのだ」
「俺達の本部長二代目体制で最強」
「本部長強いけど俺たち補佐も強い」
めっちゃ強い兄弟のドワーフが出てきて、大陸の悪魔の残存勢力や、先住民達が無力化される光景に、テスカポリトカが怒りの雄叫びを上げた。
そして、先生は阿修羅刀を手にしてホームラン予告の様に刀の切っ先を、巨大なテスカポリトカの額に向ける。
「マリー、師匠の俺様がカッコいい所を見せてやるぜ。勇者である俺の信条は……弱きを助け、強きワルを挫く! てめえは、生み出した人々を道具にして……人間らしさを奪い、操ってきた人々に非道をさせた外道。てめえのような外道を俺は許さねえ!!」
先生の勇者としての白き輝きが最高潮に高まり、天にも届かんとする光の柱になった。
勇者としての力を、最大限に開放したんだ。
「行くぜこの野郎おおおおぉっ!!」
圧倒的な暴力だった。
闇と暴力の最上級精霊テスカポリトカと、精霊達の大怪獣のような戦いと、先生の凄さ。
あらゆる属性魔法が飛び交い、光の斬撃を次々に繰り出す先生に、テスカポリトカは防戦一方。
「ば、馬鹿な。常世乃闇で視力も視界も奪ってるのに、なぜワシを攻撃できる!? ええい、暗黒洞穴で事象の地平線で塵となれ……」
「事象の地平線ってこれだろ?」
先生は掌に暗黒空間を圧縮して、真っ黒い何かを勢い良くテスカポリトカに投げつけると、空間ごとグニャリと揺らいだ瞬間、テスカポリトカの巨体が吹っ飛ばされ大ダメージを負った。
先生に負けじと、重力と虚無の闇魔法をテスカポリトカが繰り出すも、先生はそれらを潜り抜け、精霊達のアシストされて斬撃を繰り出す。
「ああなったマサヨシは、最強じゃ。数多の勇者を超える、人間としての輝き。悪を滅ぼすと決意した我が勇者の剣には、どんな悪でもひれ伏すのじゃ」
女神と私達が見つめる中、黒の巨人、テスカポリトカは肩で息をして自分の攻撃が通じない先生を、悔しそうな面持ちで睨みつけるも、それ以上の気迫と闘志で睨みつけ、闇の巨人テスカポリトカを圧倒する。
「そんなもんかよ、てめえ。なあ、そんなもんか外道! てめえ元最上級神の大邪神だろうが!! てめえのワルとしての意地を、この俺様に見せて見ろぉっ!! 外道っ!!!」
すると、大邪神に認定されたテスカポリトカは、巨大な手を合掌させて力を溜める。
「勇者め! いいだろう、このワシの奥儀、闇の一撃を。全てを無に帰すダークマターの爆発、次元圧縮爆発波を貴様に……」
うん、挑発されて最強魔法みたいのを放とうとしてるけど、めっちゃ隙だらけだ。
先生ほどの実力者ならばその隙に……。
「正義乃剣」
ほらね。
光の斬撃でテスカポリトカは滅多斬りにされ、細切れ状態にされるも、闇の瘴気が集まりだし、体を再生させた。
「ぐっ、くそがあああああ。なぜ勝てぬ! ワシは幾多の次元世界を統べてきた、精霊種の元老の一柱にして、最上級神であるのになぜ!?」
「てめえがワルだからだよ。なあクサレ外道コラ? チンケなワルが覚悟決めたヤクザに勝てるわけねえだろ」
「タダではやられんぞ! ワシの最強魔法で消滅せよ! 次元圧縮爆発波」
今だ!
「絶対防御」
私が切り札の強烈な暗黒の波動を絶対防御で消し去ると、辺りはシーンとなった。
「そんなああああ、ワシの最強魔法が人間如きに防がれて、ぬああああああああ」
先生は阿修羅刀を一旦鞘に収めて、居合斬りの姿勢をとる。
「さあ、外道。ケジメの時間だぜ? 俺がてめえの罪を裁いてやらあ!」
光り輝く先生が、テスカポリトカの体を両断した瞬間、闇の精霊が断末魔を上げて消滅した。
「やったー! 先生の勝ちだ」
「……いや、こいつ、本体じゃねえな? 分身ってやつか」
え!?
さっきのテスカポリトカは、本体じゃない?
どういう事?
「ふふふ、気がつきおったか。分神体にだいぶ力を割いてしまい、魔力が尽きかけたがいい気になるなよ。盟友フレイが魂召喚で呼び出したあやつを宿らせた、我が神造兵器の最高傑作。これで貴様らを今度こそ滅してくれん。さらばじゃ!」
テスカポリトカの思念体が高笑いして、戦場から闇の瘴気が消えていった。
「ま、本体相手でも俺が余裕で勝つだろうがな。だがここから南の大陸に、奴らの本拠地があんのか。ここの野暮用終わらせたら、潰しに行くか」
すると、先生と一緒に戦ってた猛禽顔のエメラルドグリーンの瞳をした、美しいドラゴンが先生に擦り寄るよると、スタイル抜群なめっちゃ美人で金髪の、ネイティブアメリカンのような衣装の女性へと姿を変えた。
「見事です勇者。テスカポリトカはだいぶ弱体化しました。あとは……この地のメヒカと呼ばれた者達に、本来の人の心を」
「へい、ケツ……さん。ですが、どうすりゃあいいですか?」
……いや、偉い精霊で初対面の女性に、お尻呼ばわりは、その、良くないと思う。
たしかにお尻大きいけど。
「ケツではありません、ケツァルコアトルです。メヒカと呼ばれる彼らにかけられた狂化の魔法は、テスカポリトカの呪いの力と、元精霊神フレイの精霊作用。この大陸の植物が彼らを狂化し、人間性を失わせているのです」
フレイか……。
確か先生がやっつけて今は地獄の刑務所に囚われてるんだっけ。
「先生、フレイの元に。魔法を解いてもらうのとこの非道の責任を、彼に取らせましょう」
「そうだなあ、そのめえによ」
先生は、どさくさ紛れに体力を回復させていたバリムの前に立つと、思いっきり蹴飛ばし始めた。
「てめえのケジメからだボケ! マリーに負けたからにはケジメだぞ悪魔野郎ぉ!」
「うぎゃあああああ」
私達は、どSの女神がほくそ笑む中、悪魔達の報道カメラマン達を呼び寄せて、悪魔のケジメとやらに付き合わされる。
「ほれ、お手」
「……」
鎖に繋がれた全裸のバリムは涙を流しながら先生に犬の芸を披露して、無理やり呼び寄せられた悪魔の報道官達はドン引きしながら、その様子を撮影している。
「おまわり!」
バリムは今度は四つん這いのままその場を彷徨い歩くような感じで、無言でグルリと回るが、先生は舌打ちしてバリムの頭を引っ叩いた。
「なんだコラァ! 面白みが全くねえぞ悪魔野郎! ていうかよ、なんか犬っぽくねえよなあ? おうそうだわ、兄貴、ご指導願いやす」
先生が邪悪そのものな笑みを浮かべ、バリムを指導するように、冥界のワンコのバロンが尻尾を振ってヘッヘッヘと舌を出していた。
「うむ、しょうがない弟分め。おまわりとはこうだ」
バロンは軽快に空中で一回転して、ワンと吠えるすごい芸を見せると、女神ヤミーがビーフジャーキーを口元に持ってく。
「ほれ、兄貴がせっかく見本を見せてくださったんだから、今のやれ!」
バリムは空中で鎖に繋がれたまま、ジャンプして一回転するが、無言だったので先生からバシバシ頭を引っ叩かれた。
「てめえこの野郎! 犬っころのくせにワンと吠えねえとはどういうわけだ馬鹿野郎! 次、ちんちん」
ギョッとした顔つきになって、バリムは私の方を見てくるけど、私はバツが悪くなって視線を逸らす。
バリムの横では、ちんちんを披露したバロンが、女神ヤミーからビーフジャーキーを貰ってた。
「やらねえと殺すぞ? てめえ、なんでもするって言ったよなあ?」
「うう……これで良いのか!」
先生にめっちゃ怖い顔で恫喝されたバリムは、局部丸見えで涙目でちんちん芸を披露して、放送写真がパシャリと撮られて、カメラが回される。
「良くねえよこの野郎! 今の芸はなんて言うんだ? でけえ声で今の芸を三回連呼しろ!」
「ちんちん! ちんちん! ちんちん!」
「ぎゃっはっはっはっは」
バリムは卑猥な言動を繰り返し、さすがの女神ヤミーも顔を真っ赤にして背け、周りの悪魔達は自分達の大統領が芸をさせられているのを見て、涙を流している。
「うわああああああ、お前が悪魔だあああ。四天王とも呼ばれ、大統領の私をこんなああああ」
先生は大爆笑するが、いくら悪魔相手とはいえ、どうしてこんなイジメみたいな酷い仕打ちを。
号泣するバリムの首輪を手繰り寄せ、めっちゃ怖い形相でバリムの目を先生は睨みつけた。
「よくわかったか? てめえがこの大陸の人間達にさせてた事が。人間の尊厳を汚すってのはこう言う事だ。もう二度とこんな真似を、同じ人間として、ここの奴らにするんじゃねえ。いいな!?」
そうか、彼らは同じことをこの大陸の人達にやっていた。
これは戒めなんだろう、二度と彼らが人間を奴隷のように扱って、非人道的な事をしないようにするための。
「あとな、てめえらが忠誠誓ったルシファーが、今何をしてるか、見せてやる」
先生は、冥界の最上級魔法を使い、上空の空にある光景を映し出した。
黒のボロボロのロングコートを着て、白髪で肌も真っ白い中性的な美しい女性かしら?
「ルシファー様なのだ。ルシファー様は、人々を笑顔にする旅に出たのだ」
ベリアルちゃんが微笑みを浮かべ、ライガー将軍が涙を流して敬礼する。
それは、どこかの世界で砂漠の荒野をラクダに乗って、黒人? おそらくは地球のアフリカなのかな?
干魃で苦しんでる人達に、ラクダに乗せた水を笑顔で渡して、かつての魔皇は人々から感謝されて、人々の輪の中で幸せそうな感じだった。
そして私の中のアースラの感情が溢れ出し、私を通じて涙が溢れだす。
「これが、ルシファーが長年の神と天使との抗争の果てのケジメだ。自分が蔑んでいた人間から光を見出だし、命尽きるまで人として生きる事。何度も人間を繰り返して、己の罪を償う事が奴の罪滅ぼしのケジメだ。てめえら、まだルシファーに忠誠を誓ってんなら右に倣えだろ。違うか?」
「陛下……ルシファー様、我らは、我らは貴方様を……」
バリムはその場に泣き崩れ、悪魔達も涙を流し始めた。
「そんでよ、てめえらのサタン王国はアスモデウスって俺の女が代表になって、サタナキアって名前に変えて人間界に移民した。魔界は、太陽が照らし、木々も植林したからもはや不毛な大地から生まれ変わり、戦乱とは無縁の世界よ。俺とアースラが変えてやったんだ。故郷の魔界と呼ばれた地に帰るもよし、サタナキアに属すも良し、勝手に決めやがれ」
悪魔達は涙を流して項垂れながら、占領した阿修羅軍と先生に忠誠を誓った。
「よう、ケジメは終わった。もうこいつらは二度と人間相手にナメた真似しねえだろ。ヤミー、フレイの所へ連れてってくれ」
私達は、悪魔達の合衆国から一気にワープするような形で、地獄の拘置所って所に赴く。
外からは亡者の悲鳴が聞こえてきて、めっちゃ不気味な施設の中、先生に斬られたはずの腕が再生してて光の手枷をはめられたフレイの房に入り、かつて精霊神と呼ばれた彼に面会した。
長くなってしまったので分割します