第139話 悪魔のケジメと神のケジメ 前編
私が先生にやられて手傷を負った悪魔大統領バリムをジッと見据えると、困惑した顔で周囲を見回すが、そりゃあそうでしょうよ。
奴隷だと思ってた先生が、いきなり勇者ってカミングアウトして指を噛みちぎってきて、周りの魔界の顔役たちも先生を味方する状況だし。
それに人々を家畜にして、悪に忠誠を誓わせる非道も今日で最後、私が救済する!
「おう悪魔野郎、久しぶりにてめえらの外道っぷりを思い出させてくれて、ありがとうよ。もうよお、血を見ねえと収まんねえ流れだわ」
先生は黒目に一切の光が無くなって、右手を抑えてうずくまるバリムに、うんこ座りして睨みつけた。
最初の目的は戦わずして勝つって事だったけど、今の状況的は悪魔との戦闘になる流れだと戦い慣れてきた私も感じ取る。
「それで、俺様に初心を思い出させてくれたてめえにチャンスやる。そこのドレス着てんのが、勇者たる俺様の弟子マリーよ。こいつに勝ったら、この大陸を俺様のものにするのは諦めてやんよ」
「ぐっ、人間めええええええ」
「ただし、負けたらケジメだ。生まれてきた事を後悔するくれえ、とびっきりのR15なケジメ受けたくなきゃ、せいぜい頑張るこった」
先生は木刀を肩で担ぎ上げながら、飛びついた女の子に左手で当身を当てて気絶させ、私の耳元に囁く。
「おう、この悪魔野郎だが油断すんな。俺も最初の冒険で苦労したが、魔王軍の将官クラスは特殊能力とか持ってて、一筋縄じゃいかねえ野郎らばっかりだった。だが、おめえの力だって数々の激戦潜り抜けてきて強くなってる。あとはおめえの気合いをあの悪魔野郎にぶつけてやれ」
「はい、先生」
私が神杖ギャラルホルンを構えて元魔王軍のバリムへにじり寄ると、バリムから邪悪なオーラが溢れ出し、巨大化し始める。
背中に漆黒の四枚羽と体躯が巨大化していき、青白い肌がさらに光を帯びて、七三分けの黒髪が逆立ってきて、上半身はだらしなさそうな体だけど、身体中至る所にマジックアイテムらしきのピンを刺して……あれはピアス?
そして思わず目を背けそうになったのが、両乳首にぶっといリング状のピアスをつけてて、あれだわ、この悪魔は世間一般でいう自傷癖とかがある……特殊性癖とかありそうな変態?
それとも何らかの魔法効果を狙ったもの?
あのピンに魔力を宿して飛ばしてくるとか?
「なめおって人間と魔族の裏切り者共! 栄えあるサタン王国の国防総省の中でも、あのルキフゲ閣下に認められたエリート中のエリート、四天王だった俺を倒すだと!? 返り討ちにしてやるわ!」
啖呵を切ったバリムに、アースラの思念体が物凄い速さで動き、右三本の右フックをくらわせた。
「クソ雑魚ゴミ野郎がいきがりやがって! ぶち殺すぞ!」
「ぐあああああああああ」
バリムは変身途中にも関わらず、執務室窓から吹っ飛ばされる。
「お嬢ちゃん、俺の力使えばあんな雑魚、一瞬で消せるぜ?」
確かに、あの呪いの神ニョルズを圧倒したアースラの力があるならば、あの悪魔相手にも楽に勝てるはずだけど……。
たとえあんな酷い悪魔だろうと殺したくないし、私は人間の力で勝利したい。
「アースラさん、あの悪魔は人間として私が倒します。この非道な大陸で全てを奪われて、家畜化されてる人々のためにも」
風魔法でその場から浮き、バリムが吹き飛ばされた窓から外に出る。
広大な庭園は、空中戦艦や多数の円盤などが私達を包囲していて、バリムが見る見るうちに巨大化して全長30メートルを超す。
「全軍! 大統領命令である! 魔族の裏切り者共とこの人間共を抹殺せよ!」
空飛ぶ円盤や、空中戦艦から魔導ミサイルや電子レーザー攻撃が私達に向けて放たれるも、女神ヤミーが上空に暗黒空間を出現させて攻撃を防ぐ。
「マサヨシの弟子よ、ここは我らが食い止める! この悪しき者共の非道に終止符を打つのじゃ!」
「よう、あの変態野郎はおめえに任せたぜ。久しぶりに魔王軍の悪魔野郎共とドンパチだ! さあこの俺様を愉しませてみせろお! この大陸のワルの悪魔野郎共!!」
先生は阿修羅刀を光り輝くレーザーブレードのようにして、空中を飛び魔王軍の戦艦や空飛ぶ円盤を撃墜させていき、上空には魔王軍の戦艦よりもさらに巨大な漆黒の艦隊が現れた。
「阿修羅軍魔将キマリスに命じます、異世界の非道に終止符を」
マハーバリさんがイヤホンタイプの無線機で、上空の艦隊に命ずるとキマリスって漆黒の鎧着た大悪魔と、上空の戦艦に飛び乗る。
「はっ! マハーバリ様。全軍進撃せよ! 魔界最強と言われた阿修羅王国軍の制圧力を見せてやるのだ! ライガー将軍!」
「了解キマリス閣下! 私は……今思うとこんな軍に忠誠を誓っていたと思うと反吐が出る! 上級大将司令官がこの世界に派遣されているとなれば、総兵力は4個師団の約3万名、千年前なら装備は旧式! 我が軍に負ける要素なし、サタナキア総員出撃せよ!」
展開してきた空飛ぶ円盤に、機械で出来た巨大竜や、大型の三角形に見える戦闘機が、次々と空飛ぶ円盤を撃墜していった。
「なぜだ同胞よ! 貴様らだってルシファー陛下に忠誠を誓って、人間界を手にするために俺と同様、士官学校で祖国に忠誠を誓い、軍事教練を積んできたのではなかったか!?」
次々と上空の魔王軍の軍勢が駆逐されていき、パラシュート降下してきた戦闘員や翼の悪魔達が、ベリアルちゃんの蹴り技の一撃で戦闘不能にされていく。
いや、蹴り技だけじゃない……使ってる魔法の威力も桁違いだ。
多分、私がアースラと合体しても苦戦は免れないほどの圧倒的な力を持ってる。
「最初に見た時から思っていたのだ。お前達ムカつくのだ! 人間をいじめて頭に来てたのだ!」
かつて魔王軍と呼ばれたこの大陸の兵力が、私達によって次々と打ち倒されていく光景に、巨大化したバリムは絶句する。
「大統領閣下、我が軍は劣勢! 劣勢! 戦闘開始1分足らずで損害率30パーセント! くそっ、敵兵は西海岸市街地にも展開され、次々と家畜人間共を回収され、軍民も捕虜に!」
「な、なぜですベリアル様! ルシファー陛下の側近だった、共に私達天使と堕天したサタン王国最強、闇の熾天使と呼ばれたあなた様までもが……許さぬぞ人間め! 殺してやるぞこの魔王軍四天王のバリムが……」
悲痛に叫ぶバリムの前に、私は杖を構えて佇んだ。
「許せないのはアンタだ。この大陸の人々から文化を奪い、言葉も奪い、人間の生き方を奪った邪悪な悪魔。覚悟しろ!」
私は杖ギャラルホルンを高々と掲げると、次々に黄金の鎧が装着されていく。
そして、杖の先端には黄金の薔薇を象ったレリーフが具現化し、私は一気にバリムに間合いを詰めた。
「でやああああああああああああ!」
巨大化した顔面に杖をフルスイングしてやると、私の一撃でバリムは吹っ飛ばされながら、体中に挿したピンやピアスが白熱化し、針のようなレーザーの電子の魔法を繰り出してきたから電磁防壁でガードした。
こいつの能力は、体中に刺さったピンのようなマジックアイテムで、魔力を増幅させて……。
そうか、体のアレは魔力増幅装置みたいなもの。
「貴様ら人間が言えた事か! 貴様らが食してる肉は家畜と蔑んだ動物の肉だろう! 自分達よりも劣った動物であると、牛馬を道具に使い、小動物を愛玩化しておったろうが! それと何が違う!?」
バリムの言葉に一瞬私の動きが止まり、口から輝く様な電荷のブレスを吐きだし、私の体に激痛と共に電流が流れてダメージを受けた。
「ぐっ」
悪魔は私達人間の痛い所を突く。
先生はかつて対魔族戦で一番厄介だった話をしてくれたことがあった。
「マリー、魔王クラスや上級魔族は直接戦闘で力が強いのもそうだが、とにかくペテンが回りやがる。俺達人間相手の心の隙をつくような、精神的な揺さぶりや駆け引きがうめえ」
「知能が高い相手だったという事ですか?」
「そうだ。奴らの中には、人間の知能をはるかに上回る野郎らも珍しくなかった。なぜなら、魔族の中には、神や天使や人間だったのが、心が魔と闇に染まり、堕天と言うプロセスで鬼や魔族化した奴らもいた。ルシファー、ベルゼバブ、メフィスト、マーラー、それにガイウス、悪霊王と呼ばれたゲニウスや、魔人べレトなんかもやべえ野郎らだった」
先生は、戦った魔族の中でも特に厄介だった悪魔の名を口にする。
そして、魔族は精神的な揺さぶりや心の隙をつく事で、戦いを有利にしようとすると。
「だがな、奴らともしも戦うとなった場合、惑わされる必要なんてこれっぽっちもねえぞ? 奴らは自分のワルさを詭弁を使って、自分の方が有利な風上に立とうと自己正当化してるにすぎねえ。そして、知能の高さと、どっか人間をなめくさってる心根が奴らの隙になる」
「知能の高さが逆に彼らの隙になると?」
「ああ、そうだ。声を大にして奴らの心を挫いてやるんだ。どんなに強い野郎だろうが、必ず付け入る隙はある。隙が見つからなければ、逆に隙を作っちまえ! 所作や表情から奴らの痛い所を逆についちまうんだ。ペテンかけてくる野郎には、確固たる自信と己を示して自分が正しい、お前はクソだって徹底的にこき下ろして論破しろ。そこに隙が生まれる」
そう、先生は言っていた。
だから、この悪魔の心を挫く!
弱きを助け、強きを挫くのが先生の教え……。
この悪魔の隙は……。
私はバリムの使う詭弁に一切惑わされることなく、杖に魔力を集中させて光の魔法を次々と繰り出していくと、バリムは体中に挿したピンから、白熱したプラズマを生み出していき、私の魔法を相殺しようとする。
「お前達人間は矛盾の塊だ! 我々魔族よりも劣った知的生命体である人間を、家畜化して食用、または愛玩動物にして何が悪い!? ルシファー様がお前達を劣等種族と指定し、我々魔族が押し込まれた劣悪な環境の魔界から、劣った人間界を植民化するのが何が悪い!!」
「悪いわよ!」
私は杖の先端に電子の光を集中させて、空気中の電子、陽子、重イオンを集めていき、亜光速まで加速させた光の魔法、荷電粒子砲を繰り出して、バリムの体を撃ち抜く。
やはり。
相手も電子の魔法を使っているが、天界魔法を使い続けて経験を積んだ、私の電子魔法の方が力は上。
同系統の魔法ならば、私の方がこいつより強い。
「私は、前世でもこの世界でも、食卓に出された命に、敬意を示してきたつもりよ! いただきます、ごちそうさまでしたと! 生命に敬意を払ってきた!」
バリムに大ダメージを与えたと確信した私は、左手の人差指にした指輪の力で、新たに得た天界のピストル型兵器、CZアークエンジェルを具現化してバリムに構える。
「嘘を吐くな人間!」
バリムは全身血塗れになりながら、その場で電磁力を使い超高速回転して巨体が浮き上がり、巨大な背中の羽で私を斬りつけようとする。
あれだ、小学校時代の男子達の間で流行ってたベイブレードみたいな感じで回転攻撃。
まともに受けると大ダメージを受ける筈。
私は、時間停止と時空操作で距離をとって大きくかわし、ブラックハウスから離れ、市街地や空港方面へ向かう高速道路上に降り立つと、私と進行方向逆の反対車線より、SF映画のような電気自動車から次々と悪魔達が飛び出してきて、私に魔法攻撃を繰り出す。
「光焔万丈!」
私は攻撃してくる悪魔や、バリゲードの様に高速道路を塞ぐ自動車や装甲車を電子の範囲魔法で吹っ飛ばすと、上空から現れたバリムが、でたらめな速さでこちらに回転してくるけど、そんなもの怖くない!
「逃がさんぞ人間の小娘! 偽善の塊の人間め!」
「あんた達は人間を歪んだ想いで愛玩動物呼ばわりした。私は、犬や猫って言われた動物たちにも、馬にも、自分の方が優れているなんて……歪んだ想いを持ったことなんて一度もない!」
私の魔力を吸収した10センチにも満たない銃身が、倍以上の20センチに伸びて銀色に光り輝いた。
「私はなぜあんた達サタン王国が、先生に滅ぼされたのかがわかった。自分達魔族以外を差別する歪んで卑しい心根を持ってたから、下に思ってた人間に勝てなかったんだ!」
魔力チャージが終わったCZアークエンジェルを何発も連射すると、強烈な反動と共に電荷された魔力弾がバリムを撃ち抜いていく。
この新しい武器、凄い威力。
とても人間相手には使えないわ、これ。
それに、こいつへ私が思った矛盾をついて精神的に追い込む!
「私は、あんたが家畜呼ばわりされた彼らの髪に羽飾りを見た! 奴隷のようにされても言葉を失っても、自身のアイデンティティと文化と誇りを、人間としての想いを残していた気高さを見た! 人々を抑圧する悪魔! あんたなんかに私は負けない!」
全魔力弾を撃ちきったら、ぐずぐずになったグロい体を魔力で再生させ、バリムは咆哮する。
「黙れえええええええええ! 俺はルシファー様に忠誠を誓う栄えあるサタン王国軍四天王だ! お前達人間は汚い! 騙し討ちするような形で敬愛するパイモン閣下を討ち、この大陸に我らを封印した! 俺は、仲魔の四天王、志半ばで死んだリーダーのアバラル、べバル、そして方針の違いで裏切り者になったラバルの、仲魔の尊い遺志を受け継ぐ! 神と人間に復讐を!!」
やはり、詭弁を使ってもコイツの動機は隠せなかった。
神と人への復讐。
おそらく私達が倒したフレイアと今この世界で暗躍するジークの事ね。
露わになったその思い、歪んだ性根を私が打ち砕く!
「来い、バラム! どちらの思いが強いか勝負よ!」
そして、こいつが再生するにはまだ少し時間がかかる筈。
一気に決めさせてもらうわ。
「大統領おおおおおおおおお!」
すると上空に黒い翼を持ち、様々な武器を持った悪魔達が沢山おりてくる。
巨大化した獣のような悪魔達も、黒い影のような悪魔達も姿を現して、私を取り囲んだ。
「やらせるか人間!」
「本国が見捨てた今、彼が我らの大統領だ!」
「もはやサタンに義理はなくとも彼には恩も義理もある」
彼らも、自分達の今の立場や生活を守るのに必死なのかもしれないけど。
けども、それで人々を虐げてもいいという理由なんかにはならない!
「あんた達は……お互いがお互いを助け合い、信頼し合う力を持ってるようだけど、それでも私や私達には勝てない! あんた達が悪だからだ!」
私は、時空操作の魔法を使いながら、ジローや他の達人たちから習った槍術の円を描く軌道の動きで、魔族達の攻撃をかわしていき、一直線に急所を突く攻撃や杖の柄で払い、黒い天使のような悪魔の顔面に頭突きを放つ。
「死ねえええ!」
体長5メートルはある筋骨隆々のサイのような悪魔が、私に拳を振り下ろした瞬間、先生が授けたドスを世次元ポケットのような指輪の力で左手に具現化して、ギャラルホルンとドスで交錯するようにして相手の腕を受け流すようにして、合気道の応用で、手首の関節を極めて一気に折る。
「ぐおおおおおおおおお!」
龍さんから習った、二天一流の防御の型。
すかさずサイの悪魔の肩にドスを突き刺し、高圧電流を刃に纏わせて失神させた。
次々に襲い掛かってくる悪魔達と格闘戦を繰り広げていると、私の背後からものすごい勢いで、何かが突っ込んでくる。
空気の流れや音から、魔王軍の戦闘機。
きっと私もろとも、飛行機で突っ込んで轢き殺す気ね。
「時間停止!」
時間を停止して、背後から突っ込んできた飛行機に飛び乗り、杖ではじくようにして軌道を変えて巨大なビルが立ち並ぶ悪魔達の市街地を飛ぶ。
「総員、あの人間の小娘を抹殺せよ!」
市街地を飛行する巨大な戦闘機上で、バリムから号令を受けた悪魔達が一斉に襲い掛かってくる。
その時、周りの悪魔を斬り伏せて弾き飛ばしながら、私が良く知る頼もしい人が、戦闘機の甲板に降り立つ。
「そうだ、その気迫よ。ワルに負けねえ気迫が、想いが、力を生むんだ」
勇者マサヨシ先生が、刀を片手に戦闘機のハッチを無理やりこじ開け、パイロットの鳥のような顔の悪魔に刀の柄で当身を当てて、空中に放り投げる。
「さあ行くぜ! フルスロットルだ! 振り落とされるんじゃねえぞマリー!」
「はい!」
先生の操縦で摩天楼を縫うようにして、音速を遥かに超える戦闘機上に、翼を持つ悪魔達が一斉に私に魔法攻撃を仕掛けに来るが、CZとルガーの二丁拳銃で応戦し、アバラル合衆国上空を飛ぶ。
「死ねい! 人間っ!」
黒い影のような悪魔が私の目の前に現れ、爪の攻撃をするが、ジロー直伝の魔力が篭った前蹴りで蹴飛ばして間合いを取り、天界の指輪の力でルガーをしまい、ギャラルホルンを亜空間から取り出して、光の魔法を黒い影たちと羽の天使のような悪魔達に放つ。
「虹星極光」
次々とマシンガンのように発射される、7色に尾を引く光の閃光が、翼を持つ悪魔達を撃墜していき、背後から電磁力で飛ぶバリムが私達に迫って来た。
「よくも私の部下達おおおおお」
バリムは、地上を走る無人のリニアモーターカーを右手で掴み、鞭のようにして私が乗る飛行機目掛けて振り回し、魔力の斬撃で落とそうとしてくる。
私は風圧を最小限に魔力で相殺しながら、戦闘機上に膝をつき、再びチャージした魔力銃CZで空を飛び回りながら攻撃してくるバリムに、銃撃を繰り返す。
今度は、ビルから飛び降りてきたマントヒヒのような悪魔達が、飛行機に飛びついてきて、私にしがみついた。
「やらせはせんぞ! 小娘め!」
咄嗟に銃の照準を向けるも、このままだと飛行機から落とされる。
「させるかああああ! マリー! 飛行機に掴まれやあああ」
先生に言われた通り武器を指輪の力でしまい、しがみついた悪魔を風の魔法で引きはがして、磁力を鎧に纏わせて飛行機にしがみつく。
「おらぁ! 俺のオモチャから堕ちろ悪魔野郎!」
空中でグルグルと飛行機が、ローリング飛行とか急加速や急減速を繰り返し、獣の魔族達を振り落とす。
「小癪な人間め!」
飛行機が水平飛行に戻ったら、翼があるケンタウロスみたいな悪魔が槍を持って、操縦席の先生に攻撃しようとしてきたから、私は具現化させたギャラルホルンで、お尻をおもいっきりフルスイングして吹っ飛ばす。
「ぎゃあああああ」
戦闘機から振り下ろされたケンタウロスのような悪魔が、追撃してきた翼の悪魔達に接触して、物凄い勢いできりもみ状態で地面に落下していく。
「ハッハー、ストライク! さあマリー、道具構えろ! こいつ自慢のブラックハウス上空で野郎をぶっ倒せ!」
ブラックハウス上空に戻ると、追いかけて来たバリムの体のピンみたいに刺さったピアスと言うピアスが白熱していく。
私が乗った戦闘機が旋回して、ちょうど私とバリムの一対一になるように、先生が機体を操作する。
「この四天王バリムが負けるかああああああ」
電荷を帯びて真っ青に光り輝き、真っ黒い背中の四枚羽が真っ青に光り輝き、頭頂部の逆立った髪の毛が真っ青に変わり、手にしたリニアモーターカーが、天にも伸びる電子の刀になった。
私は奴の技を打ち砕くため、ギャラルホルンにCZを合体させ、電子の光と炎の魔力を集中させていくと、先端に着いた黄金の薔薇がプラズマの光を帯びた槍の穂先に変わる。
「死ねええええ人間! 超電荷斬裂」
「時間停止」
奴が仰け反って大技を使おうとした瞬間、隙が出来たから天界魔法で一瞬時空を停止させて、飛行機から飛び降り、一気にバラルの内脂肪がたまってそうな、だらしのないでっぱりお腹に突き刺した。
「な……ぐっ!? 人間、お前は天界の最上位魔法……」
「あんた達は、今の私達や、かつて魔王軍と呼ばれたサタナキアの人達に勝てない。多様性を否定し、人間の尊厳を否定し、他者を尊重できない、あなた達差別主義者は、この大陸から去るべきだ」
私は、ギャラルホルンに内蔵されたCZに魔力を込める。
この一撃で、悪を打ち砕く!
「くそおおおおおおお! 私の合衆国が負け……」
「魔力解放!」
彼が何か言い終わる前に、杖に合体した銃の引き金を引く。
するとバリムの体内で圧縮された魔力が大爆発を起こし、血と肉が飛び散り、ブラックハウスの庭園へ墜落していった。
「こ……こんな……俺は魔王軍四天王だぞ……人間の小娘に……」
状態確認をすると、生命力が小数点以下のほぼ0になってバリムは地響きを立てて、墜落した。
私は地面に降り立つと、先生や達人たちに習った通り、杖を下段に構えて倒れたバリムの頭に突きつけるような、武道で言う所の残心を示すと、巨大化したバリムの体がもとのサイズに縮み始める。
「私の勝ちよ、バリム。この大陸の人間達を解放して」
「……奴ら現地人を解放だと!? 我々が長年の努力の末に、封印の鎖で奴らに宿る強力な精霊種を封印していた、あの残虐で凶悪な現地人を解放か……愚か者め」
その時、背後のブラックハウスが粉々に吹き飛び、中から豹柄の毛皮をいつの間にか身を包み、光の槍を手にしたあの女の子が現れた。
「え? ちょ!? え!?」
すると、上空に展開して魔王軍を圧倒していた筈の阿修羅の艦隊群が爆発したり、魔法攻撃を受け始めるが、一体何が!?
「アースラ様! 勇者様! サタン王国軍から解放した人間共から攻撃を受けてます! この魔力は、強力な精霊魔法! 人間達は桁外れの精霊魔法を使ってる!」
「うそ!? 精霊!? なぜ!?」
だって、この世界の精霊はノルド帝国でフレイを討伐した後、私達の味方になって、精霊界も協力してくれるって話だったのにどうして!?
後編に続きます