第137話 マリーが学ぶ戦術 中編
私が必要な知識を得てる間にも、次々とこのスカンザ共同体には、巨大な空飛ぶ戦艦が着陸を繰り返して、様々な世界から軍人とか魔法使いが集まってくる様相となり、巨大な街というか軍事基地になりつつあった。
ある日巨大な軍艦から、歳は中年で仕立てのいい灰色の背広姿で、小太りの坊主頭の人が降り立つと、先生の組織全員が気をつけの姿勢を取り、坊主頭の人が先生に頭を下げる。
「ご苦労さんです!! 最高顧問!!」
「コルレドの叔父貴! ご苦労さんです!」
「お久しぶりです叔父さん!」
「わざわざ出向いていただき、ありがとうございます、我らが叔父さん!」
用心棒のマサトさんも、他の幹部の人達も頭下げてるって、多分この人、凄い人望もある国家元首クラスの人なのかなと印象を抱く。
「兄貴、お久しぶりです。共和国軍及びノーマ防衛警備保安部門、銀河連邦軍、総勢40万、無事到着いたしました。ロン皇帝陛下率いる皇国軍10万も、間もなく到着予定です」
「おう、ご苦労さん。早速だが、おめえには今回の喧嘩で、必要な資金計算や各世界からの派遣部隊やこっちのコンサルを、参謀本部とか作ってアレクシアやドリー、マハーバリと担当してくれや。頼むぜ、最高顧問」
ん? 最高顧問?
えーと、じゃあ先生の組織の人なのかな。
えっと……コンサルってなんだっけ?
転生前に聞いたことあるけど、経営コンサルタントがどうのって、そういうのよくわかんないのよね。
「何ー? 兄貴ぬ組の顧問が?」
「おう、金城。こいつ俺の舎弟でよ、肩書きが色々あるが、うちの組の最高顧問させてるコルレドって野郎だ。コルレド、俺の前の世界やこっちでも舎弟にした金城と、弟子にしたマリーだ。挨拶しとけ」
「はい、兄貴。自分、コルレド・コレイニと申します。二代目極悪組の最高顧問やってますんでお見知りおきを」
コルレドさんは全然ヤクザな感じじゃなく、頭に傷跡があるくらいは普通のおじさんっぽい感じで、ジローや私に、お辞儀で挨拶する。
「何やん、兄貴ぬ弟分がー? コンサルってぃ何のコンサルやっとーんばー?」
「へい、自分元々は軍で諜報やったり、商人したりしてました。銀行経営や兄貴の組での活動も含め、大統領や銀河連邦議長経験もあるんで、文字通り色んな分野でのアドバイザーやってます」
うわぁ……すごい優秀そうな人っぽい。
なるほど、コンサルタントって参謀みたいな感じで、色んなアドバイスとか出来る人のことを言うんだ。
「お前使えるなー。後で我のシノギー、相談乗ってくれん?」
「あ、私も色んな話とか聞きたいです」
コルレドさんは、先生の方をチラリと見ると、小さく先生は頷いた。
「はい、自分でよろしければ」
やったー、この人から経済とか国家戦略とか色々聞いて勉強できる。
「おう、俺はこっち来る連中の出迎えすっから、あとはデリンジャーと龍って野郎達と通信繋げて、挨拶兼ねてアドバイスとかしてやってくれ」
「はい、兄貴」
というわけで、コンサルタントのコルレドさんからの、特別授業が始まった。
デリンジャーと龍さんは、現在は戦場の指揮しているんで、状況報告と後でこの人が、アドバイザーを担当するという手筈になる。
「コルレドやんっき? お前どんな商売してたさー?」
「はい、自分は最初諜報活動の合間に、行商なんかもしてまして。人間も含め文字通り、なんでも売り買いしてました」
うん、人身売買含めてなんでも商売してったっていう、いきなりやばそうな凄いパワーワード飛び出したわこの人。
「そうかー、前世ぬ我も同じさー。何ーでぃ兄貴の組に?」
「自分は当初、王国に潜った工作員だったんですが、共和国から見捨てられまして。カバー目的でやってた商いが本業になってしまい、アレイエ王国の大貴族御用達の商人してまして。それで知らないとはいえ、魔王軍にさらわれたヤミー様を貴族に売り飛ばして、商人ギルドごと兄貴にケジメられました。商社燃やされた後でこう、土に埋められたまま口にピン咥えさせられ、文字通りゴルフスイングの練習台にされやして……そっからのご縁です」
うわぁ……何から突っ込んでいいのかわかんないけど、そんな感じで先生との付き合いが始まったんだ。
「はは……さすが兄貴さー。我もなー、はじみてぃ兄貴ん見た前世ぬ刑務所でぃ、やられたのがきっかけさー」
「ああ、そうですかー。前の世界でも兄貴は変わんないですね金城さん」
「兄弟でいいさー、コルレドぬ兄弟。同じ兄貴の弟分やん」
何がさすがなのか、よくわかんないけど、二人とも弟分になった経緯が先生にやられたって、共通点があるらしい。
「それで、自分は元々数字に強いというか、算段に長けてましたんで、商人ギルド通じて地下銀行とか経営しました。その後、兄貴の力で故郷の共和国で大統領やらせていただきました」
地下銀行経営ってすごいパワーワードっぽい感じだけど、それから先生の組織に入って、一国の大統領まで登り詰めたのか。
けど、その地下銀行ってどんな仕組みだったんだろう。
「銀行ですが、例えば、どんな感じで運用してたんですか?」
「ええはい、元々商人ギルドは王国と共和国間の戦争を経て、自分みたいな行商人装った諜報員が入り込み、両陣営で物や金や情報のやりとりなんかしてたんです。で、あたしを見込んでいただいたマサヨシ兄貴が、自分ら商人ギルドに莫大な投資をしていただいたのがきっかけです」
ああ、なるほど。
お金の力で、先生はコルレドさん含めた商人達のギルドを大きくしたって事なのか。
「でも先生は、どうやってそんな銀行を開けるくらいの大金を用意できたんですか?」
「へい、兄貴は元々教会組織の神父見習いでしたが、悪魔退治の功績で教会内で出世したんです。それで異端審問官のトップになりまして、異端認定した悪徳貴族を摘発して財産とか没収してました、はい」
あー、以前聞いてたけど、先生は異世界の警察制度を乗っ取って、悪徳貴族達を懲らしめてお金とか取ってたんだっけか。
「さすが兄貴やん。すりでぃ、金を上手さる感じっしー運用したんが?」
「はい、金城兄弟の言う通りです。その金を元手に、兄貴のアドバイスで顧客の帳簿とかひとまとめして。例えば、今までより低金利で金貸しの運用もしました。他には、行商人通じてモンスターの素材や高額金属なんかをその場で換金出来るよう、教会とか通じて銀行券って紙幣制度作ったんです」
先生も私に言ってたけど、資金力、情報力、組織力、そして武力をどう使うかが、世界を救う絶対条件という事で、コルレドさんを通じて私は経済の知識を色々学ぼうと考えた。
「それで、貯めた金の引き出しなんかを出来る仕組みにして、今じゃ、えーてぃーえむって魔導機械で出来るようになりやしたが」
えっと異世界にもATMってあるんだ。
いや、多分先生が現代の知識とか利用して、魔法でお金とか引き出せる機械を作ったのか。
「他にも、議員と癒着して悪さしてるマフィア連中さらって傘下にしたりとか、かつて亜人と呼ばれた王国の抗争や魔王軍との戦いでも、兄貴は勝利しました。魔界も特殊部隊とか送り込んで、共和国が滅亡しそうな市街戦とかになっても、兄貴は返り討ちしたんです」
えーと、私も見たけど魔王軍とかの戦力って、ファンタジー的な感じじゃなくてガチな軍隊だったけど、特殊部隊とかに急襲されてもそれに勝っちゃったのか先生。
「あたしの世界、自分の生まれた共和国は、議員や教会の司祭連中がマフィア作って腐敗して、男は麻薬密売か軍に入るか、女は体売るしかできねえ国でした。王国も、悪徳貴族が農民や村人を気ままに殺したり、搾取する最低な国でした。エルフもドワーフもホビットも千年以上殺し合いしてる状況で、魔王軍の侵略に対向してきた皇国も滅ぼされて。魔界の影響で闇の世界にされちまい、人としての最低限の仁義もねえ、噂に聞く地獄よりもひどい世界だった……」
コルレドさんの生まれた世界はおそらく、転生した先生が最初に冒険した仁義なき世界。
フレイとフレイアが作った世界だったけど、魔王軍に侵略されて、神からも見捨てられ、悪徳と殺し合いが全ての悲しい世界だったと聞いている。
「けど、女神ヤミー様と兄貴が体掛けてくれて助けてくれたんです。侵略してきた魔王軍もぶっ潰しながら、魔族の心も魔界も救ってやって、文字通りすべて救い上げて……自分らに人としての仁義教えてくれたんです。だから、自分は同じように苦しんでる世界があるなら、救いてえんです。兄貴が困ってんなら、自分らいつでも義理がある兄貴に、体も心も掛けられます」
涙を流して震え声で語るコルレドさんの肩を、優しくジローが手を置く。
「やっぱ兄貴はでぇじすげえ男さあ、男ん中ぬ男やん。なあ?」
このコルレドって人も先生に惚れている。
いや、この人だけじゃなく、これからこの地にくるこの世界を救ってくれる勇者の軍団も。
そうだ、この人にみんなが目指す、この世界で作ろうとしてる自由な交易や、経済の事を、せっかくなんで教えてもらおう。
あとは、この世界のジューと呼ばれる人達の謎も、この人なら何か示してくれるかもしれない。
「コルレドさん、実は」
私は、この世界の国家や経済体系、ジューの商人ギルドの話をする。
「なるほど、ジューと呼ばれる商人連合の存在。そして経済規模と彼らの民族的な習性を考えると、ある目的が浮かび上がりますね」
「と言うと?」
「あたしの予想ですが……長年虐げられた彼らの恨みは、筆舌しがたいものでしょう。彼らは長い時間をかけて人間社会に復讐を企ててきたんです。ジュ―という存在が世界に復讐をできるまで、力を蓄えていたのですよ。その先にあるのが、この世界の人々の奴隷化と抹殺計画でしょう。彼らは、自分達がやられたことをやり返す気です。それと一部の者達の欲望も叶えるため」
欲望?
この人は、先生と組んで様々な世界を救済してきたアドバイザー。
ジュー達の復讐の裏にある何かに気が付いた?
「あたしの推測ですが、商人ギルドのジューの金を握ってるのはアレクセイという男じゃないはずです。アレクセイの思惑を巧みに操り、ナーロッパの金融を支配する、影の黒幕の存在がいると思われます」
え?
でも、アレクセイが全ての陰謀を企てているのは、先生の見立てで間違いないんじゃなかったっけ。
「兄弟、お前ぬ考え、話ちんーでー」
「はい、マリーさんや金城の兄弟の情報を聞いた、あたしのあくまでも推測です。逆に聞きますが、なぜ、それだけの陰謀を描ける王族が、マリーさんの国でスパイめいた事をしてるのでしょうか? 私も昔は諜報員だったんでわかるんですが、誰かしらからの意向というか、思惑があったのでは?」
たしかに、不可解だ。
彼はルーシーランドの王子のはず。
世界中のジューと呼ばれた商人集団を操れるのならば、わざわざ自らリスクを冒してヴィクトリーでスパイなんかやる必要ない。
「国王やオーディンってぃ外道、命じた可能性はねえんがー?」
「たしかにその可能性もあるでしょうが、逆に聞きますが神や、王族のような金融の素人が、金の流れを自在に操れるものでしょうか?」
いや無理でしょ。
私の中のヘイムダルが言ってる。
神は力こそ与えられるが、紙幣や貨幣を作るのは、人間の力によるもの。
旧ジーク帝国圏、私のヴィクトリーの場合は、財務大臣の命令で造幣所で硬貨のペンス作ってるし、フランソワはフランソー、ロレーヌはマリスを発行してる。
旧ノルド帝国領内は、クロネって通貨だけど、元はロマーノ帝国って国が発祥のリーラって通貨が、この世界で最も流通してたはず。
まさか……。
「ねえ、ジロー。この世界の基軸通貨って確かロマーノとかで流通してるリーラで間違いないよね」
「うん、ロマーノやシュビーツ、バブイール、そしてヒンダスが扱うリーラが基軸通貨さぁ。通貨の発行は、大昔はロマーノやったしが、今は各国でぃ取り決めさせて、秘密裏に何処かで作らせて……あ」
「うん、私もナーロッパで冒険してて気がついたけど、リーラを発行してるのってどこ?」
そう、基軸通貨リーラの発行場所が、経済の中心ロマーノにいたはずの、ジローですら何処かがわからない。
この世界の大いなる謎の一つ。
「龍さんに聞いてみましょう」
私達は、水晶玉で戦場にいる龍さんを呼び出し、基軸通貨リーラの発行元を探り出そうとしていた。
「……わからんのだ。私もこの世界で転生してから、今の今まで気にも留めていなかった。が、たしかに古代ロマーノが起源の通貨だが、誰が発行してるかは見当も付かんが……そうか。ジューだな、おそらく彼らがこの世界の通貨を作って流通させてる」
「ジューが、ですか」
「そうだ。それしか考えられないだろう? 彼らはこの世界に広範囲に散っており、行商はもとより、私設銀行を各地に持ち、国家間の商売の折衝に必ず絡んでくる。そして、この世界の通貨は必ず彼らの元へ集まる仕組みになってるのだから、彼らがこの世界の金の元締めだ」
すると、私のそばに腰掛けたコルレドさんが手を挙げる。
「なるほど。本来通貨とは、信頼性が無ければ価値はありません。国家を持たないと呼ばれる彼らが、勝手に通貨を発行しても、それは本来の金属の価値でしかない」
「その通り。純度の関係もあるが、ただの金銀銅白金にすぎん。そしてリーラは大量発行されており、お世辞にも純度の高い良貨とも言えんし。だから純度の高い西方の貨幣が価値を持った。だが、私の王国もヒンダスを始めロマーノでも流通し、旧ジーク帝国圏でも、リーラの価値は認められている」
「ええ、この世界の東西の大国が基軸通貨であると認め、流通している以上はそこに公式な価値が生じます。そして彼らは、金の流れを全て牛耳っていると言うことは……ちょっと確かめにいきましょう」
私達はコルレドさんと共に、先生の組織が誘拐したジュー達が軟禁されてる屋敷に赴き、怯える彼らに情報を聞き出す。
「我々銀行家も商人も知りませぬ。我らが銀行は、我々の先祖が同族のために、基金を集めてヒトやジューに金貸をしていたのです。我々の先祖が亜人であるとバレると、ヒトから殺されるか奴隷にされるゆえ、陰で団結するしかなかった。この残酷な世界で生きるための、我々ジューの術なのです」
私はアースラの能力、記憶盗掘でジューが嘘を言っていないかどうか探るも、彼らは嘘を言ってない。
一般のジューの銀行員も商人達も、基軸通貨リーラの正体を知らないんだ。
「やはり我々はもとより、ジュー達も基軸通貨の発行場所は秘匿されてるか。もしもその基軸通貨の発行場所さえわかれば、我々は経済的な優位に立てるのだが……」
「ええ、龍さん。私の新たなスキルで確認しても、彼らは嘘を言ってないです。一般のジューも知らない、もっと大きな存在が背後にいると思う」
私達が真相に迫ろうとしてる時、いつの間にかロバートさんが私達の前に姿を現していた。
この人、デフォで気配とか消せて、よく考えると結構怖い。
「うむ、話の流れは理解した。まるで、地球世界の国際金融資本のような話だ。この世界で国家元首を除き、一番、富を蓄えている者の名前はわかるか?」
ロバートさんの質問に、龍さんはハッとした顔で、その人物達の名を思い出した。
「なるほど、読めてきたぞ。一つは古代ロマーノ時代からの名家で、世界中の王家に娘を嫁がせている、ザーリアのロッソスクード家が有名だ」
ロッソスクード?
「聞いた事ないけど、ジローなら知ってる?」
「あー、我ぬロマーノとぅロレーヌ皇国とぅシュビーツぬ国境にいる風見鶏やん。爵位は男爵やしが、資金力が桁違いぬ一族。あいつら美男美女ばかり生まれるんでぃ有名さー。大昔からロマーノ王家に出資そーんしが、ロレーヌにも資金提供しとってぃ、信頼ならん。あんすくとぅ、爵位ー上がらじ、歴代ロマーノ王家から煙たがらっとーんさ」
なるほど、ロマーノとロレーヌにも資金提供してる、国境の貴族がロッソスクードか。
「いや、ロマーノやロレーヌだけではない。我が国の経済にも深く絡んでいる。奴らの資金力は尋常じゃない。バブイール王家にも娘達を嫁がせており、爵位はともかくとして、影響力が極めて高い奴らだ」
大国である三カ国の経済や、婚姻にも影響を与えてる男爵家か、不気味な存在だ。
「そして二つ目は、シュビーツ銀行頭取の一族にして、シュビーツで唯一爵位を持つハプスベルン伯爵一族。バブイール王家も、ロマーノもロレーヌも、フランソワも、彼らの銀行を使ってる筈だ。なぜならシュビーツは国家元首もいない、共和国家で中立国だからな。ロレーヌ皇国と最も関係が深く、女帝マリアの父祖は、確かハプスベルン出身だったな。一族に爵位を与えたのもロレーヌだった筈」
あー、なんか聞いたことある。
地球で言う、中世ヨーロッパに影響力があったオーストリアのハプスブルグ家みたいだなーって思ったっけ?
確かヴィクトリー王国も、ナーロッパの交易で使う外貨を、シュビーツの銀行を使って両替してた気がする。
「三つ目は、ヒンダスのバイシャーン家。彼らもヒンダスでは地位が低いとされ、ナーロッパで言う子爵階級の貴族。だが、東方での商いは、彼らとチーノ大皇国が不可欠。彼らも容姿端麗にして、ヒンダスのみならず、バブイールに娘を嫁がせて影響力を得ようとしていた。この三つの一族が、王族並みか、もしかしたらそれ以上の金を扱っていると思われる。そして彼らと婚姻を結んだ子供に、時折奇形で、耳がやや尖った子が生まれるという噂もある」
話を聞いたあと、コルレドさんとロバートさんが、顔を見合わせてお互い頷き合う。
私とジローも、龍さんの話の流れ的に、薄々感じている事だが、彼らの正体は……。
「なるほど、では仮に彼らの正体が、ジューの一族いや、ジューを使役出来る上位の存在。例えば先祖がルーシーランドの王族達であったとしたら?」
「ロバートと言ったな、私もそう思う。彼らは身分の低い貴族階級であるが、分不相応の資金力を持ちすぎている。ヴィクトリーの男爵家を乗っ取ったアレクセイのように、ルーシーランド王家が簒奪したのだろう」
「そして、彼らは経済で結びついていると考えられます。あたしも工作員だったんでわかるんですが、世界各国の王侯貴族を乗っ取る事が目的だったんでしょう。そしてこの御三家は、推測ですが経済的に繋がってますね」
……ここで生まれた仮説はこうだ。
容姿端麗で長命な、ハイエルフを先祖に持つルーシーランドの王族は、長い期間をかけて王子や王女をナーロッパとナージアに、工作員として送り込み、爵位が低く無防備な貴族一族を乗っ取る。
そして、世界中にいるジュー達の資金力を利用して、経済力をつけて本国のルーシーランドのために力を蓄えつつ、世界的な影響を強めていき、隙があればヒトの大国も簒奪する事が目的。
国際金融資本と呼ばれる、彼らこそがジューの中枢にして、この世界の影の黒幕の可能性。
「私がいた地球世界の国際金融資本は、ユダヤ人や世界的な財閥関係者が管理しており、世界各国のVIPや王族がメンバーとされる。私のシチリアの一族はバチカンの金を主に扱っててね、非公式だが私もメンバーの一人だった」
なんかサラッと凄いこと言ってるよ、このロバートさん。
マフィアとかそういうスケールを超えてるって、この人。
「また国際金融の仕組みの一つで、バチカンと我々コーサノストラは利害が一致していたんだ。我々は高額寄付という名目で、バチカン銀行へ資金洗浄を依頼する。一方、バチカン側は我々の金を元手に、例えば国際金融資本を使って、更なる投資で利益を得るのだ。その利益が、我々コーサノストラなどが関係する、ブラックマーケットに流れて、麻薬や人身売買に姿を変え、その金が世界の表も裏も巡っているのだ」
表も裏も金で支配するのが、この国際金融資本と呼ばれる者達の正体って事ね。
「マリー君、それだけじゃないぞ。彼らは資本投資で、さらに資産を増やすため、軍産複合体と戦争を起こしたり、ある国の経済を破綻させる事だって出来る。合衆国ではユダヤ人も我々イタリア移民同様、差別の歴史を歩んでいたが、彼らは金融力で世界の動向を操る事に成功した」
「うむ、我が友ジョンが言っていた。半世紀に及ぶフランソワとホランドの戦争に出資していたのが、ジューの銀行の一つ。その大元はハプスベルン銀行だ」
「なるほど、あたしも色々な世界を兄貴と救ってきましたが、銀河連邦救済の件で見られた手口ですな。銀河帝王という兄貴がケジメた存在がいたんです。彼の目的は戦争を起こして莫大な利益を得ることが目的の大悪人でした。おそらく、アレクセイとオーディンを利用して、世界大戦で生じる利益を得ようとしていると推察できます」
ようやくこの世界の敵の正体が見えてきた。
オーディンは、戦乱を起こす事でこの世界の人々の魂を糧にするのが目的で、その信徒であるジューの支配層は、戦争で生じる利益を目論んだお金目当て。
犠牲になるのは、この世界の一般住人達。
「……許せない、人の人生をなんだと思ってるのよこいつら。こんな悲しい事、終わりにしましょう」
全員が頷き、コルレドさんが手を挙げる。
「なるほど、ではこうしましょう。この世界のジューの商人の中でも、特に力を持った彼らを懐柔すればいいんです」
「えーとコルレドさん、どうやって? 彼らはお金の力で、国家すら破壊できる影響力を持っている可能性があるのに、簡単に信仰を捨ててまで、私達に懐柔されるとは思わないんですけど」
コルレドさんは、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべ、手を一拍叩く。
「金というのは、なんでも買えます。物だろうが異性の愛だろうが、時には人の命や心も、そして国ですら買えてしまう力を持ちます。ですが、自分の命は金で買えますか?」
「なるほどー、命どぅ宝やん。さすがやさー、兄弟」
ああ、普通のおじさんっぽい感じがしたけど、やっぱりこの人もヤクザな人だ。
「なるほど、決まりだな。早速私の組織も、兄弟の組織も動員して、その貴族連中の身柄を抑えてしまおう。そのためにまずは、ロマーノとシュビーツをどうにかする必要がある。そうだな、ジロー?」
「そうねー、お前とぅ組んでロマーノとシュビーツを、あるべき方向に落とし所つけるさ。我ねーうぬ計画ーもう建てぃとーん」
ロバートさんとジローは、ロマーノ奪還とシュビーツ制圧、そしてロッソスクードとハプスベルンの身柄を抑えるべく、行動に移そうとしていた。
「私は、兄貴の許可が降り次第、バブイールへの増援を私が担当いたしましょう。それと、龍さんでしたな? 兄貴より預かったブツの引き渡しがございます」
「? 了解した。支援に感謝する」
こうして、私達はそれぞれの方針を決めたあと、デリンジャーに今の話を報告する。
「コルレドって言ったな。シミーズの弟分だっけ? 頼もしいぜ、よろしく頼む。それと、名前が上がったロッソスクードだが、当主のアムシェル・ザーリア・ロッソスクードは、スカーレットって名乗る女に昨夜ぶっ殺された」
「え?」
ロバートさんは、ため息を吐いてデリンジャーの方を見ると、彼も頷き私達にある厄介な話をする。
「黙っていてすまねえマリー、転生者のワルが多数現れた。昨夜確認した映像なんだが、ロレーヌ女帝マリアの直轄都市、ツェーリンゲン郊外の村、ユトリベルンの別荘にいたロッソスクードが、スカーレットって名乗る女になぶり殺しに合う映像が流れて、ロレーヌ皇国は大混乱だそうだ」
後編に続きます