第136話 マリーが学ぶ戦術 前編
スカンザ共同体の仄暗い地下室で、血と大小便の悪臭に耐えながら、先生に言われて、チート7の構成員がやられてる映像を手に持った水晶玉で録画してるけど、先生は他にも使い道あるって言ってたけど何に使うんだろうこんな怖い動画。
……怖くてあんまり聞きたくないけど。
「これくれえで、ぴーぴー泣き入れやがって小僧!」
髪の毛が抜けるんじゃないかってくらい、思いっきり先生に引っ張られたうんこ漏らしが、先生の恐ろしいヤクザな顔を見て、涙目になる。
「もう一本指詰めるか!? おう!?」
「うあああああ、やめてよおおおおお、許してえええええ」
先生が思いっきり舌打ちした後、うつ伏せに転がしたチート7の構成員の腹を、思いっきり蹴飛ばす。
「うぼぇ……ゲヴォウウウウウウウエ」
吐瀉物に血が混じってる……内臓が破裂した?
凄まじい暴力に、私も目を背ける。
「てめえ、いい加減にしろよ。さっきから同じこと、何べんも言わすんじゃねえよ! やめてください許してください……そう言った人達に、てめえがやった事を思い出せ小僧!!」
「も゛も゛う゛じま゛ぜん゛、許じで……許じでくだざい゛」
今度は思いっきり股の間を蹴飛ばす、金的が入って、いや回復魔法?
回復しながら暴力の無限ループだこれ。
「俺が憎む真の邪悪とはっ! 無抵抗な心根の優しい人々の尊厳を踏みにじり! ただ悪を成すための悪だ! 悪とは人の道を外れた外道だ! てめえの事だぞ小僧! てめえが魔王やら反社呼ばわりしたのが俺が、悪を裁く勇者だ!!」
……まあ、目の前でやられてるこいつに、ハッキリ言って私も同情とか、全然出来ないけど。
ちなみに今の私は、活動するときは乳液みたいな神の化粧道具、乳海攪拌で、顔を変えてサングラスをかけている。
最初、このアイテム先生から渡された時、使い方わからなかったから、いっぱいつけすぎて顔がのっぺらぼうみたいになって、悲鳴をあげたっけ。
そしていつものドレス姿じゃなく、あらゆる服装に変えられる、天界の女性用スーツに身を包んで変装していた。
このスーツなかなか凄くて、めちゃくちゃ防御効果が高くて、うっかり汚しちゃっても、すぐに元通りになっちゃうし、シワもつかない。
先生曰く、キュー●ィハニーセットだそうだ。
なぜ私が変装しているかというと、私がナーロッパにいない事が、先生達が考える陰謀にとって都合がいいから……らしい。
それに目の前でやられてるこいつは、デリンジャーの不屈の精神力と気高い男らしさ、先生の強さを完全に見誤ってた。
圧倒的な覇気と強さを持つ先生の本気は、アースラの力がなくても、めっちゃ強い事を、私は身をもって知ってる。
この10日間、先生の特訓にみっちり付き合ったもの。
そう、あれは10日くらい前の午後だった。
ーー10日前、スカンザ共同体 軍事空港
私は、ジローと共に先生と対峙する。
最強状態で帰ってきた、勇者マサヨシ先生。
ぶっちゃけ言って、彼を超える事は出来ないかもしれないけど、成長した姿を見せなきゃ。
「大魔王アースラ、私に力を!」
肌の色が小麦色に変色して、神の色も艶やかな黒に変わり、私の胸に真っ赤に光輝く、漆黒の胸当てとスカートのような腰当て、膝当、足甲が次々と装着されていき、背中には翼のかわりに4本の黒い腕。
頭に漆塗りのようなカチューシャが装着されると、耳を覆う黒いヘルメット、いや兜のようになり、兜の両側に羽の代わりに魔法効果のある角が付き、薙刀状態になったギャラルホルンを手にした。
「おう、無事に召喚と融合できるようになったみてえだな。本気で斬りかかってきていいぞマリー。金城! てめえも……!?」
木刀を構える先生の懐に、瞬間移動みたいに飛び込んだジローが、正拳突きを繰り出す。
私もその隙に先生の背後に回って、時間操作を使い挟み撃ちにしようとしたが、先生の体が真っ白く輝き、木刀を胸に引きつける。
そして飛び込んだジローに体当たりして吹っ飛ばした。
「甘え!」
ジローの頭に、先生は思いっきり木刀を振りおろすと、ガツンって音と同時に、ジローが膝をつく。
先生がもう一撃与えようとしたから、時間停止を使い、一気に踏み込んで先生の背後を突きにいく。
「時空操作」
すると、先生も時空を操作して、私の時間停止を無効化して振り向き、木刀を左手に持ちかえて右手には、超強力な魔力銃パイソンを構えた。
「嘘、本気状態の先生は天界魔法も操れる!?」
「ボケッとすんな! バリアーだろ!?」
先生が私を銃撃しようとしてくる。
「電磁防壁」
咄嗟に防壁を張るが、マシンガンのように次々放たれるプラズマ状の弾丸の威力が強すぎるのか、バリアにノイズが走り、私は先生から距離を離そうとした。
「兄貴ぃ、隙ありさぁ!」
ジローが、魔力銃ウッズマンで銃撃すると、先生の姿が瞬間移動みたいに消えた。
「あいっ!? どこやん!?」
「後ろだボケェ!」
先生がパッとジローの後ろに現れ、裏拳を放とうとしたジローを、袈裟斬りのような木刀の一撃を加えると、あまりの威力なのかジローが10メートル以上吹っ飛ばされる。
「行くぜ!」
今度は私に木刀を構えて一気に間合いをつめてきたから、私は風の魔力で宙に浮いて、一気に間合いを離す……が。
「いたっ! な!?」
だが私の背後を、おもいっきり叩きつけられたような衝撃がして、息が詰まり動きが止められたがこれは!?
「これは……土魔法で作った金属の障壁?」
嫌な予感がして、すぐに離れようとした。
その瞬間、次々と、高さ5メートル以上ある真っ黒い金属の障壁がその場に現れて、私は包囲される。
「マリーちゃん、兄貴は上さぁ!」
どうしよう、上に……。
上を見上げると、真っ黒い雨雲が出来てて、雷鳴が轟き出す。
「これは雷攻撃!? バリアー……いや間に合わない、絶対防御を……」
「はいやめー!」
先生が号令かけながら、防壁の中に現れて、戦闘が一時中断となった。
「おう、今のは悪手だ。わかるよな?」
悪手、えっと……なんだろう?
「わかんねえか? さっきの最善手は、一撃を食らうのを覚悟して、電磁バリアを張る。で、雷魔法をダメージ軽減。上空にいた俺の位置を把握するのが正解よ。スキルだったか? 絶対防御はおめえの切り札! 切り札を切るのが早すぎる!!」
あ、そうか。
切り札は出来るだけ、最後まで取っておかなきゃダメなんだ。
「そうだ。おめえも喧嘩慣れしてきたから、わかってきたと思うが、相手の起こり、魔力の発動、喧嘩の流れをよく見ながら戦うんだ。そして相手を追い込み、逆に切り札を使わせる。相手の大技を無効化させて、風上に立つのさ」
先生の体がさらに光り輝いたと思ったら、今度は輝きとパワーが、木刀を握る両拳に集中していく。
「さあて、次はちょっと強めに行くぜ?」
うっそ、さっきの全然本気じゃなかった?
「状態確認」
状態確認を行うが、先生の全てのステータスがやっぱりバグってて、全然わかんない。
「マリー、すぐに相手の状態確認をする癖はやめたほうがいいな。隙が出来るぞ? その魔法はおそらく天界魔法の一種だろうが、レベルだかラベルだか知らんが、勝手に天界の天使共がつけた数字にすぎねえし、相手の魔力量と生命力を確認する事だけに注力しろ」
そうか、確かに。
今までの私は、相手のレベルばかりに気を取られて一喜一憂してた。
――人間のお嬢ちゃん、あのガキ調子のってるから、正攻法じゃあ勝てねえぜ?
何!? 私の脳内に先生のような声で語りかけてくる。
――力の使い方と戦い方を教えてやろう、お嬢ちゃん。
アースラ、またの名を大魔王阿修羅が語りかけてきた?
「マリーちゃん、薙刀構えろさぁ! 喧嘩になった兄貴ぬ気迫と凶暴性は、くんなむんやあらん!」
ジローは、ヒヒイロカネで出来た2本のスティックを組み合わせて、金属棍に変えてゆったりと棒の先端を下にする構え方、槍術で言うと下段の構えをとった。
「行くぜ! お前らの今の全力を俺に見せてみろ!」
やばい! 来る!
その時、私の鎧の背中についた4本の腕が、いきなり金属の障壁を鷲掴みにして、一気に持ち上げた。
「え!? ちょ!? ええ!?」
――今だ、突っ込めお嬢ちゃん。時間操作もだ。
私は、魔力を解放させて一気に先生に突っ込むと、4本腕が持つ鉄板のような防壁2枚を、先生に投げつけ、残り二枚を盾のようにしたから、私の視界が奪われる。
「こ、これじゃあ前が見えない!」
――見るんじゃねえ、感じるんだ。空気の流れ、魔力の流れ、気配や空気の振動を感じろ。感覚強化の魔法を使え。
私は感覚強化の魔法を使い、前を突き進みながら、全神経を集中させる。
すると、時間操作で緩やかになった時の中で、先生目掛けて投げられた、音速を超えて白熱化した金属板を叩くような音がして、ガンガンと2回叩く音がして、空気の流れが変わった。
これは、おそらく先生が木刀で、金属板を弾いた?
――今だ! 轢いちまえ。
「え!? 今なんて……いや、今は確認する余裕はない! いけええええええ!」
私がさらに風の魔力の出力を高めた瞬間、私の鎧越しに物凄い衝撃音がして、弾き飛ばされる誰かの気配がする。
「ぬおっ! やるじゃねえか、だが」
盾代わりにした鉄板に、めちゃくちゃな衝撃が加えられて、私の体が飛ばされた。
「きゃああああああ」
盾にした金属板一枚がぶち抜かれて、前を見ると傷一つない先生が、パイソン893を左手で構えているが、魔力弾一発であの威力!?
――ちっ、冥界の最上級魔法、黒洞の弾丸だ。天界魔法の電磁防壁をこの板に纏わせ、土の魔法で、お前とそっくりな泥人形を生み出すんだ。その泥人形を俺の魔力であのガキにぶつけろ。
背中の腕が持つ盾にバリアを展開させて、同時に土魔法で次々と私のダミー人形を生み出していき、先生の気配がする方向に、炎と雷を纏わせたダミー人形を風の魔力で飛ばす。
「無駄だ!」
先生の木刀から次々斬撃を飛ばされて……あれはおそらく風魔法や闘気を、かまいたちの様に木刀の一振りで飛ばしてるんだろう。
沢山生み出したダミー人形が全然通用しないし、強すぎる。
ジローが援護で魔力銃ウッズマンを放つが、全て先生にかわされてるけど、電荷された銃弾をかわすとかチート過ぎでしょって。
「兄貴ぃ、くれーちゃーやん!」
上半身裸になったジローが、ニョルズ戦でも見せた槍術で先生と打ち合いする。
背中には、二対のシーサーの真っ赤な刺青が鮮やかに発色していた。
「おう、琉球古武術の杖術、いや棒術か。それに転生する時、親分から授けられた入れ墨の力、解放したようだな」
武術の達人同士の打ち合いだけど、気迫とオーラが先生の方が上をいってて、先生の小手打ちで棒が弾かれてしまう。
――あのガキの強さはまだまだこんなもんじゃねえ、俺の全力の魔力を叩きこむ暇を作る助っ人がいるな。そうだお嬢ちゃん、召喚魔法で精霊種を呼び出せ、それもとびっきり強い奴を。
とびっきり強い奴……サラマンダー?
――あのトカゲじゃ、時間稼ぎになるかどうか微妙だ。もっと強い奴、大精霊クラスを呼び出せ。
えぇ……大精霊クラスって、そんなのに知り合いいないし……あ。
「そういえばいたわ。いでよフューリー! 私に力をっ!!」
指輪が光り輝き、大精霊フューリーが召喚された。
「きゃあ!? ちょっとお、なんであたしがまたこの世界に呼び出されなきゃならないのよ! 大事な考え事してたのに!」
いや……それはどうだろう、口元にチョコとクッキーの食べカスついてるし。
きっとまったりしながら、女子っぽく美味しいスイーツ食べてた時に呼び出しちゃったんだ。
「げっ、あんたあのアースラが憑りついてるの? こっちよらないでよ、えんがちょ! えんがちょバーリア!!」
うわぁ、めっちゃ嫌われてるよこの大魔王。
小学生みたいにバリアのポーズをフューリーがとってるけど、ていうかリアルにバリアで包まれてるし、なにしたらこんなに嫌われるのかしら。
――ガキが……てめえの精霊銀ブレスレットとか、虹色宝石のブローチとかまた盗んでやろうか? あれは魔界の連中に高値で売れた代物なんだ。
……うわぁ、彼女のお気に入りのアクセサリーとか盗んだから、えんがちょ呼ばわりされてるんだわ。
そりゃ怒るって、私だって嫌だものそんなことされたら……あ、ジローが膝をついてしまった。
「チッ、このガキが出やがったという事は、指輪の力か?」
呼び出されてフューリーは、先生を指さしてめっちゃガン飛ばす。
「あ、アホの勇者マサヨシだ! アホ勇者、なんでまたあたしを無断で呼び出したの!?」
あ、いや呼び出したの私なんだけど。
とりあえず声掛けよう。
「あのー、その大精霊さん」
「なによえんがちょ、殺すわよあんた! 毎回毎回あたしをくだらないことで呼び出して、マサヨシもしかしてあんた、あたしのこと好きなの!?」
「なわけねえだろガキが……あと20センチ背丈が伸びて、毛が生えてから、そんな世迷言抜かせボケ」
「はああああああああああ!? なんなのあんた! ぶっ殺すわよレディに対して!!」
いや、レディはぶっ殺すとか言わないし。
相変わらず、この精霊口が悪すぎる。
いつかの戦いで、ウンディーネをうんこ呼ばわりしてたし。
「もういいわ、あんたに痛い目見せてやる!」
上空に物凄い雨雲が現れたと思ったら、ノルド地域の冷たい空気にさらされて、めっちゃ吹雪が吹き荒れ始めた。
「ふぃいいいい寒いさん! 体ぬくふぁいんさあ……」
ジローの動きが明らかに鈍って凍えてしまい、先生とフューリーが魔法戦を繰り広げる。
――よおし、あの馬鹿共がやり合ってる間に、俺の魔法をお嬢ちゃんに教えてやろう。
私でも使えそうな魔法は、無数のプラズマを撃ち出す電子の魔法、烈日赫赫に、ニョルズ戦でも使った先生の得意魔法、無数の剣の雨、洛叉斬棘。
私の魔力と魔法コントロールでは難しそうなのが、4元素の最上位魔法と破壊魔法。
炎の魔法氣炎萬丈
風の魔法烈風怒涛
水の魔法残山剰水
土の魔法晨星落槍
すべてを爆散させる原子崩壊
そして惑星上では絶対に使えない、太陽誕生なんかの大技があるらしい。
大体はどんな魔法かわかったけど……。
――あとは実践あるのみだ。あのフューリーのガキ、人様をえんがちょ呼ばわりしやがって、吹っ飛ばせ!
えぇ……あの子怒ると怖そうだし、どうしよう、別にこれは試合形式で殺し合いとかじゃあないしなあ。
「きゃあああああああ」
フューリーが、先生の光り輝く魔法で吹き飛ばされた。
――今だ! 一気に最大火力であのマサヨシのガキ吹っ飛ばせ。
「ええと、烈日赫赫」
魔法を唱えると私の背後から、星のように煌めくプラズマ火球が無数に出てきて、先生を追尾する光のミサイルのような魔法が具現化する。
「うおっ! マリーのやつここまで力を引き出しやがったか!!」
何発か当てることはできたが、先生が周囲に暗黒空間を具現化して、プラズマを吸い込み始めた。
だが、これはフェイントで本命は……。
「でやああああああああ!」
時間停止で先生の背後に周り、風の魔法で加速して一気に先生の背中目掛けて、薙刀になったギャラルホルンを突きに行く。
しかし背後を捉えたと思ったが、薙刀には着物がかかり、私の喉元に上半身裸で袴姿になった先生の木刀の切先が突きつけられる。
「気合が入ったいい攻撃だった。が、こういう場合は気持ちをグッと抑えて、黙って突きに行くのがベストだ。次からそこんところ、修正しておけ」
強すぎる……。
これでアースラの力を返したら、先生の強さは一体、どうなってしまうんだろう。
すると私の体が白熱化して、空に無数の剣が具現化して浮かび上がった。
「え? 何コレ!?」
「お、おいマリー。それ撃ったらこのスカンザの空港もフューリーの馬鹿も金城も巻き込まれて……」
――クソガキが調子乗りやがって、このアースラ様に能書き垂れるとかふざけんじゃねえぞ!
うあああああ、私と融合果たしたアースラが、先生にめっちゃキレはじめた。
やばいって、どうすれば……あ。
――体をバラバラに刻んでやるぞ小僧! 洛叉斬棘!!
「絶対防御」
日に一度のスキル、絶対防御を使って、アースラの必殺魔法をなんとかガードした。
「っぶねえな! ざっけんなコラ! 今のやったのアースラだろ! ぶっ殺すぞ、俺の体戻れボケ!」
――嫌だね。俺は当分このお嬢ちゃんの中にいる。俺をなめやがった罰だ。
「あのー、先生。さっきの戦いでアースラさんが怒っちゃって、当分先生の体に戻らないって」
「あぁ? ざっけんなボケ! こっちこそてめえ当分帰ってくんじゃねえ。このマサヨシ様をなめんなよクサレ悪魔野郎!」
――俺もてめえなんざ知るか、小物のカス野郎。せいぜい俺の力無しで頑張るこったな。
うわぁ、この二人喧嘩し始めちゃった。
めんどくさい、このヤクザな人と大魔王、ほんとめんどくさい人達だ。
ていうか、これ……当分私の体にアースラが宿ったままってことか。
「覚えてなさいよ! アホ勇者マサヨシ! 今度はぎったんぎたんに、あたしがやっつけてやるんだから」
大精霊のフューリーも、捨て台詞言ったあと、指輪の召喚効果が切れて元の世界に戻っていく。
「チッ、まあいいや。実力的にかなり成長してるようだなマリー。じゃあ一休みしたら、もう一回稽古と俺から喧嘩とかについての講義に入るからな」
「え? まだやるんですか?」
「あたりめえだろ! おめえが二度とやべえ目に遭わねえように、徹底的に俺の喧嘩のイロハを叩き込んでやる。俺の組や関係先で、専門知識持った奴らにも協力してもらう」
休憩した後、先生から新しい武器やアイテムが渡された。
一つは、私の人差し指に入りそうなプラチナリングのような、銀色の指輪。
「おう、これは便利な代物でよ、天界製よ。異空間から武器とかアイテムとか出せちまうんだ。すげえだろ?」
つまり、ゲームで言うとアイテムボックスのようなものだと、私は理解した。
もしくはドラ●もんの4次元ポケット的なアイテム。
「お次は、これよ。天界の天使連中の使う法執行用のチャカ、CZアークエンジェルよ。一旦魔力チャージすれば、高威力の魔力弾を最大15発ぶっ放せるブツで、グリップも加護付きの神木だ。あと超合金オメガのドスな」
銀色に輝くフレームに、天使の羽が彫刻された小型でお洒落な自動式魔力拳銃と、ヤクザお馴染みの匕首が渡される。
「それと、おめえが愛用してたルガーだ。サイドウェポンってやつだな。おめえの切り札の一つでもある」
あ、ルガーちゃんだ。
セトとの戦いで行方不明になってた、私の相棒で、5発の高威力の魔力弾を放てる魔力銃。
あの戦いで無くしちゃったと思ってたけど、またこの子と一緒に戦える。
「金城、おめえにはとっておきのブツを用意してある」
「じゅんに!?」
先生は、真っ赤なマッチ棒みたいな、よくわかんないものを、ジローの掌に乗せると、長さ2メートルはある、長い棍に姿を変えた。
「どうよ、斉天大聖の異名を持つ、孫悟空さんが使ってた如意金箍棒よ。魔力で自由に大きさ変えられるし、三節棍とかにもできる。堺正章よろしく、モンキーマジックよ」
「モンキーマジックはよくわからんしが、確かすりぃ……スパイダーズぬマチャアキやん。夕陽が泣いているはいい歌だったさー」
「お、懐かしいなあ。思えば、昔の歌謡は良かったよなー」
なんかよくわかんないけど、テレビの解説者のお爺ちゃんの話に、ジローは如意棒の長さを自由に変えて嬉しそうに先生と笑い合う。
「デリンジャーや、龍へのブツも用意している。喧嘩相手は、くさっても神だ……通常の人類が太刀打ちできねえワルのな。勝利には万全を期す」
そんな話をしてると、空港にブロンドさんが文字通り舞い降りる。
「親父さん、ジューの豪商の拉致作戦、着実に進行中です。転移してくるサタナキアの特殊部隊を動員すれば、さらに効果的に行えるかと」
「おう、野郎らに勘付かれねえうちに、片っ端からさらえ。軟禁中は、ちゃんと飯を与えて人権に配慮すんだぞ」
ああ……やっぱりヤクザだこの人。
拉致監禁からして、人権侵害なんですけど……。
「マリー、俺はよお勝利に万全を期すと言ったはずだ。この喧嘩、負けは許されねえし、この拉致は奴らを守るためでもある」
「守るため……ですか」
「ああ、俺もいつかの世界救済の時、往生したことがあってな……民族浄化の予防だ。これをやられちまったら、目も当てられねえ状況になる。かなりきつい話になるが、どんな事態になったか、聞いてみるか?」
先生は、軍事空港からやや離れた教室みたいなところで、私に最悪の状況に陥っていた話をしてくれた。
「その世界では、カルト宗教が蔓延していた。ある魔王、呪術王ってのを崇める宗教で、人間達はそいつに生殺与奪を握られて、現代で生きてる俺から見たら……そりゃあ酷い有様だったよ。弱者救済をうたっていながら、人間の善意を利用する最悪の部類のワルだった」
先生がしてくれたのは、私達が生きていた常識が通用する世界ではなく、呪術と邪道が支配する世界の救済の話で、先生が精神的にもかなり追い込まれた世界の話。
人々はその呪術王の為に、簡単に命を差し出し、親子や隣人同士が呪術王の教義で、時には財産のはく奪や殺し合いもしてしまうという、マインドコントロールが行き届いた悲惨な世界だったという。
「だが俺が新しい宗教団体を作って、救済間近になった時、行方くらましてたそのワルが考えた悪知恵が民族浄化だ。信徒達に救いの道だと嘯き、邪教の苦痛から解放されるっていううたい文句で、正しい道に目覚めた人々に対する無差別テロとか集団自殺とかしたわけよ。それに憤った新興宗教が邪教と呼ばれた奴らへの虐殺を行ったのさ。呪術王は、その負のエネルギーで、自身の強化して俺に挑んできやがった。クソむかつくだろ?」
酷すぎる……。
正しい道に目覚めた人々が、たった一人の悪の洗脳によって、人々が憎しみ合い、民族浄化と言う虐殺をしてしまうという悲惨極まる状況になってしまうなんて。
「あれは、俺の考えが甘かったとしか言えねえ失敗だった。追い込まれた邪教の野郎らは、俺が正しいと思って作った新興宗教の奴らに虐げられ始めてた。俺が掲げた弱きを助け、強きを挫く正しい理想が、追い込まれた呪術王のワルが利用して悪へ塗り替わり、多くの人間が死んだ。この事態を収めるためには、俺の組総出で抑え込むしかなく、俺の頭もおかしくなりそうになったわけさ」
先生も、勇者として結構辛い思いをしたみたい。
そういえば、イワネツさんに追い詰められ、祟神と化したオーディンと同郷の神、ニョルズも自分が生み出した人々に、酷い虐殺しようとしてた。
オーディンだって、追い詰められれば、ジューと呼ばれる人達を操って、世界を戦乱に導いた事で、その憎しみから民族浄化なんて事にもなりかねない。
「……それをオーディンがジュー達やこの世界の人達にも同じような事をやる可能性があるという事ですか?」
「ああ、ていうかそういう風に仕向けるだろうね。奴の目的は戦乱と魂のエネルギーをカスリ取るのが目的だ。第二次世界大戦のユダヤ人みてえな事態になったら、目も当てられねえ」
ユダヤ人か。
確かユダヤ教を信仰する人達で、イスラエルって国を建国して、パレスチナ難民と度々衝突や紛争を起こしてるってくらいしか、あんまり知らない。
「あー、聞いたことあるさぁ。ヒットラーってぽってかすーぬ、東方生存圏んでぃ言らりーる話やん。あにひゃーぬヨーロッパ支配ぬ為んかい、ユダヤ人差別利用し、酷さるくとぅんかいなたんさぁ」
ナチスドイツのヒットラーは、第一次世界大戦で敗戦国だったドイツ国内を、ナチスが支配するために、国民の敵意を外国やユダヤ人に向けていったそうだ。
その結果、多くのユダヤ人が迫害されて収容所に入れられて、殺された。
一説によると、彼らの資産を奪う為にユダヤ人差別を利用したと言う話もあったらしいけど。
世界大戦が長引けばこの世界の人達から、ジュー達が差別されて、虐殺の対象になる可能性があるかもしれない。
そうなれば、ジューの人達だって死にたくないから抵抗するし、それが憎しみの連鎖に陥り、戦乱を目論むオーディンが望む世界にされる可能性も。
「ああ、追い込まれたワルはなんだってやる! 俺が対峙し、退治したワルは人の尊厳を奪い、思考を奪い、生き方を奪う最低の奴らばかりよ。そして、この世界でジューと呼ばれた奴らが、オーディンに命令されたアレクセイを通じて、カルト宗教みてえに抵抗した場合。その先にあるのが、混沌と民族浄化の可能性だ。これは……絶対に阻止しなきゃなんねえ非道。もう俺は、同じ失敗はしねえ!」
私だってそんな事させない。
そのためには、色々な人から色々な事を学んで、この10日間のうちに勉強しなきゃ。
後編に続きます