第135話 極道の陰謀 後編
チッ、まずい事態だぜ。
転生者のワル共か。
それもデリンジャーが、正攻法じゃ厳しいって言ってるくれえだから、かなりのタマだろう。
元々は、この世界は地球からの転生者、魂に傷がついた可哀想な奴らを、癒す目的でマリーに宿る創造神さんの分神のヘイムダルが提唱した世界。
俺が主に担当する、神が投げ出すような世界でもよくある事で、おそらくは、担当する神が不確かな状態なもんだから、あちこちで転生者の意識が不安定化していやがる。
これらの要因で、何かの弾みで前世の記憶を思い出したワル共だろう。
「ミスター、そいつらはどこで何をしたのだろうか? 映像が残ってれば手がかりになる」
「……あまり見てて気分の良くねえもんじゃねえけど、わかった。マリーにはとてもじゃねえが、見せられねえし、勇者であるお前たちで確認してくれ。まず特に酷い野郎、フランソワ中西部の村の映像だ」
俺たちが映像を確認すると、紫髪でガキが好みそうな革ジャンみたいなのを着た、10代くらいのクソガキが、水晶玉の動画でいやな笑い浮かべながら、どっかの村でやりたい放題してやがる映像だった。
「はい村人A君が、これからゴキブリの一気食いしまーす。面白いリアクションしてみろよ、村人A」
「や、やめてくださいお願いします、ぎゃあああああ、おえええええ」
クソガキが、村人にゴキブリを無理やり口に入れて、その場で嘔吐する映像に、俺の血が凍るような怒りが湧く。
「ぎゃっはっは、うわっ、汚ねえ! こいつゲロ吐きやがった。死刑だな」
「ぎゃあああああ」
この野郎……ゴキブリ飲まされて、涙目の村人を魔法で焼き始めやがった。
外部から炎魔法で焼いたんじゃなく、体内に超高温の炎で焼きやがったか。
……手慣れてやがるな殺しに。
すると今度は、目が死んでる女の子が立ったまま、スカートに手を入れてパンツを脱ぎ始めた。
「次は12歳の村娘Aちゃんが、俺のためにパンツ脱いでお股開いて、おしっこターイム。ほら早くやれよA子、世界中がお前を見てるぜ。隣のB子は俺のをしゃぶれ、じゃねえと焼くぞ? クックックたまんねえよ、異世界チートサイコー! 配信の視聴者見てるー? ひゃっはははは!」
「消せ、もう十分だ」
呟くように言った俺も、ロバートの兄弟も、イワネツの野郎も、凍りつくような怒りで、クソゴミ以下のゲロカス野郎に体を震わしてた。
「……俺はよお、確かに前世で殺しも散々やった。だが、楽しみのために相手をぶっ殺した事なんて一度もねえ! 規律もクソもねえ無軌道なチンピラが! ムカつくぞ! クソッタレ!」
「奴は、暴力と露悪を楽しんでるゴミクズ野郎だ。最低のピースオブシットな、サイコ野郎だな」
俺は二人に頷き、デリンジャーを見る。
「他にも、奴に呼応したガキらが、自分のワルさを誇示するような、動画ばかり上がってきてやがる。人殺しは俺の信念に反するが……俺はこいつらに初めて殺意が湧きやがるぜ! ガッデムシット!」
つまり躊躇なく殺しをやっちまう、殺人鬼みてえなガキ共が、転生前の記憶思い出して好き勝手してやがる状況で、俺もキレそうになる。
前世でヤクザな外道だった俺が思うのもなんだが、こいつらは、やっちゃいけねえ一線を超えた。
すみやかにこの世から消すべきクズ共だ。
「それと……見たくねえ映像かもしれねえが、これ、ジッポンだろ?」
今度は、天って名乗る野郎が、平伏させた着物姿の女子供や年寄りまとめて、頭を踏みつけながら歩く、主観的な感じの、俺様を最高にイラつかせる映像が流れ始めた。
姿形はわからんが、目線からして年端もいかねえガキだな。
「……多分、この野郎は南朝の天帝だ。大宰帥の異名を持つ、歳が12のダイゴって名前だったか? クソガキめ、俺が殴って南朝を奪う大義ができたぜ」
ロバートの兄弟は葉巻を咥えて、次から次に水晶玉の動画検索をしながら、ジッと奴らの行動をメモして記録とっていた。
「……ユーチューバーってやつだな」
「ゆーちゅーばー?」
「知らんのか? 兄弟。地球時代のキッズらの新しいネット情報発信だ。自分の名前を売るために、過激な発信して、再生数稼いで広告料の日銭得る野郎らだよ」
ああ、聞いたことあるわ。
枝の若い衆らが、シノギで使えるんじゃねえかって話題にしてたネットのアレだな。
「実は、お前らに報告すべき件があってよお。そのなんて書いてるかわかんねえが、†漆黒†って野郎と、英語でScarletって名前の野郎らに、水晶玉で噛み付いたら、こんなメッセージが来やがった」
デリンジャーは、水晶玉の画面を切り替えて、メッセージを見せる。
文字は英語だった。
「? 私は白薔薇。おそらくはあなたも転生して、チート能力を持つ方かと思い、このメッセージをしましたハンドルネームを決めて下さい。なんだこりゃ?」
俺は白薔薇とか言う野郎が、何を考えているかわからなかったが、こいつはおそらく俺と同様、地球からの転生者だと目星をつける。
だが、その目的はなんだ?
ハンドルネーム?
「ていうか、ハンドルネームって何だよ? 車のハンドルならわかるけどよ、兄弟知ってるか?」
「いや、知らん。前世ではコンピュータの事なんざ、さっぱりだったし、そういう方面なら部下共に任せてる」
するとイワネツの野郎が、俺らに鼻で笑いやがった。
「物を知らねえのか? ヤクーザもマフィオーソもよお。アレだよ、ニックネーム決めろってやつだ。昔、ネットでエロ画像見るために、エロサイトで似たような事やった事ある」
「あ? シモ話をしながら、上からもの言ってんじゃねえよ、ぶっ飛ばすぞコラ?」
「なんだお前こそ、殴り飛ばすぞクサレヤクザが」
ああ、そういう事か。
ニックネームだと?
ガキっぽい感じだぜ、俺なら堂々とマサヨシって名前でやる。
だってよお、自分でニックネーム名乗るのは不細工な話じゃねえか。
男なら持つべきものは、人斬りマサとか殺しのマサとか周りから言われる二つ名だろ?
いや、待てよ。
「おう、この白薔薇ってのよお、もしかして水晶玉で目立ったガキら集めて、組織作ろうとしてねえか?」
「あり得るが、敵の罠かもしれん。どうする? ミスター?」
デリンジャーは、考えた後で前世からそうなんだろう、不敵な笑みを浮かべる。
「オーライ、俺は冒険主義者なんだ。アメリカ人は危険な探検とか開拓ってのに、心が踊っちまうのよ。いいぜ、白薔薇って野郎の懐に飛び込んでやる」
「さすがミスター、未知のものへの探究心か。我々アメリカ人は、心の何処かに西部開拓時代の冒険心を持っている。もっとも、私みたいなシチリアを先祖に持つものは、少し保守的だがね」
決まりだな。
このデリンジャーって野郎は、こいつならなんかやってくれるんじゃねえかって、気持ちにさせる男の中の男よ。
だから惚れちまうのさ、こいつの男らしさに、男も女もよ。
「じゃあ、俺からちょっと仕込みを入れようか。俺、ロバート、デリンジャーで、水晶玉通信をリンクさせ、うちら側の窓口として一人の人格を作っちまおう。そんで、この白薔薇に対抗して、陰でデリンジャーを頂点にするような、結社もこさえちまう。要は、3人で1人のキャラを演じるが、相手側からは1人が窓口してるようにしか見えねえって寸法さ」
「何のために? お前の考えを教えてくれ、シミーズ」
「1人で対応するよりも、3人以上でやった方が楽だろ? ついでに組織もこさえちまえばいい、カタギ装ったな。俺もよお、前世で似たような事したが、いわゆる俺らの組織名は出さねえけど、世間様への建前で作る、表向きの法人みてえなやつさ。幸いこの世界には、金城が制度建てした株式制度もあるしな」
俺の提案にロバートはニヤリとして頷いた。
こいつも、似たような事業してただろうな、日本で言う企業舎弟みてえな感じで。
「おい、シミズ。法人ってなんだ? 意味わからねえぞ。あとなんで俺が入ってねえんだよ……ああ、そうだったな、ロキの神野郎がいるんだったぜ」
「シミーズ、説明を頼む」
チッ、1930年代の銀行強盗ギャングのデリンジャーが知らねえならまだしも、なんで俺と同様、悪さしてたてめえが知らねえんだよ、ロシア野郎。
「ああ? これだから物を知らねえ、アカの国に生まれた野郎は困るぜ。法人ってやつは、営利目的を持った会社みてえな組織や、財団やら宗教団体を作んのよ。あとは国やら自治体から許可取って、一個の人格みてえな扱いにしてもらうのさ。そうだデリンジャー、強盗でガメた金で、いっそ財団法人みてえな感じにしようぜ」
そう、法人化ってのをやっておけば、社会的認知度とか信頼性も上がるし、子分にカタギ装わせて個人事業でシノギさせるよりも、節税も出来てお得なのよ。
そんで法人役員とかに、俺みてえなヤクザが裏にいるカタギの野郎なんかすえて、一般社員も全員カタギで構成しちまい、金融業とか、不動産業や芸能、運送や建築とかやらせんのさ。
どれも、世間様に貢献できる素晴らしい仕事だし、色んな世界で企業舎弟をいくつも作って、救済後の世界の経済を担う大企業なんかも作ったりしたっけか。
それに、法人ってことにしておけば、役員報酬やら何やらでカスリも取れちまうわけよ。
え? 直に役員や代表やら社長になればいいじゃねえかって?
そりゃダメだ。
大昔ならともかく暴対法絡みの対象だし、せっかく作らせた企業舎弟が、サツのブラックリストに載っちまったが最後、こしらえた法人がパーよ。
「あ? それ資金洗浄でよく使うアレだろ。新興企業とか脅迫して乗っ取っるやつだな。社長の肩書があればEUでも活動できるし、脱税でも使える。お前ドヤ顔で、誰もが知るような能書き垂れてんじゃねえよ阿呆」
「全然ちげえよボケ! 乗っ取りじゃなくて、うちらが表の団体を一から作るやり方だってんだよ! てめえみてえな、暴力と脅迫で奪っちまうような原始的な方法じゃねえってんだよ馬鹿野郎! もうやだこいつ、これだから野蛮なロシア野郎はよお」
まあこの野蛮なロシア野郎は置いといて、ニックネームかあ……俺達と連想しねえような感じなのがいいな。
そういえば……。
「デリンジャー、おめえさん髪の毛伸ばしたか? 七三みてえに横に流して、アイロン当ててんだろ?」
「まあな、俺の時代じゃこいつがスタンダードよ。サツからパクられて記者に写真撮られた時、ボサボサ頭じゃ格好悪いだろ?」
なるほど、悪くねえじゃねえか。
俺が若い時代、洒落者が多い関東の親分衆がしてたような、アイビーやポンパドールみてえな感じだな。
一方で俺がいた関西方面は、稼業入りたての住み込みは角刈りか坊主が基本で、そのあと流行ったのが、アイパーとかニグロパンチって流れだった。
ちなみにアイパーってのは、アイロンパーマの略で、平ゴテで曲線作って、短めなリーゼントにすんの。
パンチパーマってのは、熱したロッドってコテで髪の毛を細かく巻いてって、型崩れしねえようにすんのね。
俺の場合、髪質が硬めの直毛で黒々としてたから、時間がちとかかるんだが、どっちもよく映えた感じでよ、一昔前の極道はみんなこのスタイルだった。
だがしかし、俺が前世で死ぬ前あたりになると、高齢化ってやつなのか、段々とこれが出来る腕のいい理髪店が減ってるそうで、時代の流れを感じるよな。
今の若衆は、ツーブロックとかが流行ってんだっけか?
ん? そうだ。
「おめえさん、転生した髪の色が濃いブルーだから、蒼って名前入れようか。そんで、魔の文字も入れておこう。東の果てにある大陸にいるであろう、悪魔野郎共への絵図も描ける」
「ああ、わかったシミーズ。その漢字で白薔薇ってのにメッセージを返しておくぜ」
クックック、その白薔薇ってのが何処のどいつで、何者かは知らねえが、もしも水晶玉通信で組織作ることを目論んでるなら、俺が救済目的で乗っ取ってやんぜ? ありがたく思えバカヤロー。
「それで、おい! イワネツ。おめえの神とうちの神でよ、ゆーちゅーばー的な事させるからよ。いいよなあ?」
「ああ゛? なんでお前の指図受けなきゃなんねんだよ馬鹿野郎! 理由を言え、殺すぞ!」
「なんだコノヤロー! 一からか? 一から説明しなきゃだめかクソボケ! この世界が混乱状態になってんのは、俺とてめえの神の知名度が足りねえからよ! 水晶玉で動画配信させて、知名度上げさせんだよタコ助が!」
表情に乏しいロシア野郎も、さすがに察したみてえで、ハッとした顔で気が付きやがったな。
「なるほどな、兄弟。あとは、我らの女神に人気が集中するよう、この世界にきた我らの軍団に情報工作をさせれば」
「ああ、シミーズの考えはわかったぜ。イメージ戦略ってやつだな。それとシミーズ、マリーの名誉回復も」
ああ、わかってんよデリンジャー。
そして、俺が後でマリーにやらせる仕掛けの準備も、これで整った。
「最初からそう言えってんだよ馬鹿野郎。いちいちまどろっこしい感じだぜお前は……ん? ちょっと待て……ロキからだ! ロキからの通信だ!!」
イワネツの野郎が、スペアの水晶玉でロキにかけ直し、俺達に内容が聞けるように仕込みをする。
「おう、俺だ。ちっと前の水晶玉の調子が悪くてよお、別の水晶玉でお前にかけ直した」
「ふーん、本当かなあ? まあいいか。君さ、僕との契約を忘れてないよね? ヴィクトリーに協力するんじゃないの?」
「ああ、ヴィクトリーのエドワードだっけか? 連絡が来やがったな。だが野郎、ルーシーランドのジューのアレクセイって本名と目的を隠してやがった。野郎のせいで、チーノって国とやってた俺のビジネスがパーよ。あいつは相性悪いし嘘つき野郎だ。お前と敵対するオーディンって野郎とも繋がってるし、信用ならねえ」
イワネツの野郎、思ってたよりもペテンが回りやがるな。
嘘はついてねえし、ロキの情報提供者ってスタンスも崩してねえ。
「うふふ、君なかなか優秀じゃないか。相性ってのは確かにあるよね? 思えば僕もオーディンとはずっと前から噛み合わないって思ってた。それに君、そこまで探ってこれたんだ。僕の娘は元気にしてるの?」
「ああ、元気だよ。残念ながら、本人はお前の声は聞きたくねえようだがな。マリーって子もこっちにいる。彼女はヴィクトリーの王女だろ? ちゃんと協力してるじゃねえかヴィクトリーに」
イワネツの野郎、掛け合いで風上を取ろうとしてやがる、マリーの事もうめえ具合にペテンかけやがったか。
勢いついてて、ロキの野郎相手に、今のところ引けは取ってねえが……。
「ふーん、君の言うことは筋が通ってる。が、僕のお気に入りの子が、マリーって子の身柄を欲しがってる。今からそっち行くからさ、身柄ちょうだいよ、こっちで面倒を見るから」
やはりロキの野郎は一筋縄じゃいかねえか。
こいつ相手に化かし合いは無理かもしれん。
マリーがいねえ事がバレたなら、イワネツの野郎、このままじゃ死ぬかもしれねえな。
「ダメだな」
「え? なんで?」
「俺はよお、お前に不信感を持っている。マリーって子だがな、酷い怪我を負っていて保護が必要だった。そして心も壊されちまってる。で、お前の声を聞いて怯え出した。お前、俺に嘘とかついてねえよな? 契約違反なら、わかってんだろ?」
「……」
この野郎、まさかロキとの掛け合いで上に立っちまったか? 空気が変わったな。
「何黙ってんだよ? お前俺に嘘つきやがったか? おい、何か言え……なめてんのかよ俺を? トールって野郎みてえに地獄に送っちまうぞ!? なあ、殺すぞって言ってんだこの野郎!!」
チビのくせに、すげえ覇気と声量と気迫だ。
なるほど、ソ連やロシア中のワルどもがビビっちまうわけだな。
面と向かって、この圧くらった野郎は、チビリ上がっちまうだろうよ。
「……お前、まさかあのトールを殺ったのか? あの最強の戦神の一人とも呼ばれてる、あいつを……」
「お前、俺の事をなめすぎなんだよ!! ニョルズってゴミ野郎も始末したぜオラァ!」
いつも間にかこの野郎、オーディン側の幹部連中やっちまったのかよ?
バサラの力ってやつか?
だとしたら、こいつ使えるぜ。
「もう一度聞くぞ? お前、俺に嘘はついてねえよな? 俺がお前の娘の身柄預かってるってのを、よーく考えろよ?」
へっ、決まりだな。
あとは俺らアウトローの土俵、カタに嵌める段階だ。
「……いいよ、わかったよ。真里、いやマリーって子は君が預かっててもいい。他にオーディンに関する情報は?」
「ワルキューレってアマ共がトールやられて撤退した。あの小娘共じゃ対処できねえ状況ならば、お前もわかるだろ?」
「ふん、最側近のフレイやトールがやられたってなれば、残る最側近のヴィーザル連れて、オーディン自らワルキューレ達を率いて、この世界に来る可能性が極めて高いね。君と僕を殺しに」
ほう? まだヴィーザルって側近がオーディンに残ってんのか?
いい事聞いたぜ、なかなか俺様の役に立つじゃあねえか、ロシア野郎のイワネツもよう。
「そうそう、もう一個重要な話だ。オーディンの野郎にお前の娘が嵌められそうになって、神の世界から手配かかってた。だが、俺が勇者として神に掛け合って取り消してやったぞ? それとなんか知らんが、オーディンは神界から追放。俺も地球で信仰してた一番偉い神から、反逆罪で指定4類とかくらったらしい」
「ぷっ、はっはっはっはあ。ざまあ、あの根暗野郎ざまあ! 他の最上級神や創造神にゴマすって最上級神になったのに、4類指定されて追放されてやんの、あのバーーーーーカ! アーッハッハッハ」
「あと、この世界は異界に認定されたってよ。お前、これを打開する知恵を今度授けろ。また何かあったら連絡する、じゃあな」
通信を切ったあと、イワネツはフンと鼻で笑う。
さすがは、旧ソ連とかの東側の裏を支配してただけはあるか……見誤ってたな、野郎の実力を。
「さて、ロキの野郎もこっちにマリーがいるって勘違いしてくれたぞ? シミズ、お前マリーの事でしくじるんじゃねえぞ」
だが、クソ生意気にも今度は俺の風上に立とうとしやがるが、今のやり取りでこの野郎、読めたぜ。
「てめえ、上から大物垂れるんじゃねえぞ? 俺がマリーの師匠だって知ってるのか? あの子に嫌われねえように、精々頑張るこったなあ?」
今、映像先のイワネツの眉と頬が一瞬動いたぜ。
……あの子、ギャングだとかの大物達を惚れさせる、なんかフェロモンみてえなの発してんのか?
俺様も似たようなもんだが、まったく我が弟子ながらしょうがねえ子だぜ。
さて、あとはだ。
「準備完了は予定通り10日後だ。その間、必要な絵図の完成に近づけるために、会合を開く。あとは、マリーと騎士共の戦力アップだな」
「お前が仕切ってんじゃねえぞ、馬鹿野郎! デリンジャー、お前から他に俺らに相談は?」
「ミスター、何かあれば私になんでも言って欲しい。私はあなたのファンだからな」
「いや、やはりおめえらに相談してよかった。マリーも、龍も、ジローも、国を取り戻さなきゃならんし、そっちに集中して欲しかったんだ。ありがとうよ、勇者達」
よおし。
あとは、フランソワのワルのゲロカス小僧には、組の監視をつける。
奴のおおよその強さと、行動パターンを全部確認したうえで、逃れられねえ絵図描いてケジメ取ってやらなきゃな。
奴に気づかせず行動を制限又は、誘導もさせて、フランソワの森の中に誘い込んで、精神的に疲弊させてやるぜ。
少なくとも、デリンジャーのシマではこれ以上のクズ行為をさせねえようにして、あとはと。
俺は、空港にしたスカンザ共同体広場に、マリーと金城を呼び出す。
マリーに付き従う騎士達には、俺の組が総出で戦闘訓練と再教育するから、こいつらには俺が担当だ。
「さあて、おめえさん達には、今以上に強くなるために、この俺自ら特訓相手になってやる。マリー、アースラの力も使っていいから、全力でかかって来い」
訓練用の木刀を持ちながら、俺はゆっくりと正眼に構えて、食後の運動を始めようとしていた。
「あ、兄貴ぃ、なーら食後やんし、う手ー柔らかんかいやー?」
「あ、はい。がんばります」
そうだぜ、マリー。
おめえさんには頑張ってもらわなきゃあ困る。
おめえが、この世界を救済する切り札になるんだからな。
そのための必要な絵図は、俺が描いてやる。
「遠慮しなくていいぜ、さあかかって来い!」
次回、師弟対決の戦闘回です