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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
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第134話 極道の陰謀 前編

 よう、俺だ。


 世界救済を託された、最強極道の勇者マサヨシ様よ。


 え? 今俺が何やってるかって?


 白薔薇って正体不明の野郎がチート7とかういう組織作りやがったから、ゲロカス小僧にヤキ入れてケジメ祭りよ。


 俺の仲間とヤクザなめやがったんだ。


 当たり前だろ?


 という事で、話は10日ほど前に遡る。


ーー10日前。


 あー痛え、ヤミーのせいで体がすげえ痛え。


 一応回復したけど、まだ体中が所々いてえ。


 もうね、戦う前からなんか知らねえけど満身創痍だし、子分や弟分、弟子に兄弟分もいる以上、無様な恰好は見せられねえんだけど、あのヤミーのちんちくりん、マジでその辺の意向を汲んでほしいんだが、もう何も言うめえ。

 

 てなわけで、ニュートピアって呼ばれた世界の話に入る。


 これは親分も言ってたが、マリーに宿る神、ヘイムダルだっけか?


 当時の最上級神が提唱し、地球で魂の傷を負った人々の魂の救済目的で作られたそうだが、実はオーディンを筆頭とした神域ユグドラシルが、絵図かいてやがった。


 この世界で死んだ魂は、一旦天界へ召し上げられるんだが、ユグドラシルの天界に相当する世界、ヴァルハラにエネルギーが流れるような仕組みになっていて、それをてめえらの力を高めるために、カスリとってたわけだ。


 一方の各最上級神は、自分が担当する世界で生まれた、魂の救済がなされれば僥倖って感じで、このニュートピアを使ってた。


 だが、魂の救済どころかオーディン筆頭に、ユグドラシルが力を付けるエネルギーの狩場状態になってて、肝心の魂は前世で魂の傷を負った以上に、この地で傷がついていくといった無念に、怒り心頭よ。


 特に親分の怒り度合いがやばい。


 なぜかと言うと、俺の親分の閻魔大王は、冥界にある三途の川で、成仏出来ねえで石積みしてる子供達を救済する目的の事業、従弟の不動明王さんと賽の河原を運営してる。


 自分達が携わった子供たちは、どうか次の世界でも救われるようにって天界に最終的に預けるんだが、その生まれ変わりの候補地の一つがニュートピアだった。


 心と魂を救い、次の世界で何不自由なく生まれ変わらせた子供達を、自分達の邪な利益を叶えるために、利用したってんでオーディンを滅ぼす気満々だ。


 当然俺も、むかっ腹が立つ。


 いかなる理由があろうとも、親分の面子を汚し、弱者の魂を踏みにじり、子供たちの魂を汚し、弱い者を虐げて自分の利益にする外道。


 絶対に許しちゃならねえワルだ。


 ロキとかは討伐命令が出てるから、俺の稼業上、仕事として処理しなきゃならねえが、オーディンは仕事抜きでけじめとる。


 どんな手段を使ってもな。


 だが厄介なのは、ジークフリードを名乗る、アッティラとアレクセイのガキだ。


 特にアレクセイのガキは、ちっとナメてたよ。


 戦闘力は大した事なかったが、俺が本気(マジ)で対処しなきゃなんねえくらい、あのガキの手は長く、それでいてペテンが回りやがる。


 総力戦で一気にルーシーランドと、ロレーヌを抑えちまった方がいいな。


 そんでもって、今のニュートピアの現状だが、異界認定自体がまずヤバイ。


 どれくれえヤバいかって言うと、他ならぬ神々の頂点におわす創造神さんが、自身の御威光でもどうにもならねえって認定された世界だって事さ、魔界や竜界みてえな感じで。


 そうなった場合、救済不能と最終判断されれば、世界の抹消か、封印されて滅びるまで放置だ。


 もう、あとがねえんだあの世界は。


 だから……俺が救う。


 前世で外道と呼ばれ、多くの人々の人生を狂わせてきた俺が、赴いた先の世界で、悲しい人々が強大なワルに立ち向かえねえなら、俺が体張って盾となり、ワルにドスの刃を突き立てる。


 それが弱きを助け、強きを挫く仁義。


 任侠の原点でもあり、勇者の美学を貫く道を極めることこそ極道よ。


 全ての目処がついた時に、俺の弟子でもあるあの子に、この世界の救世主としてマリーにこの世界を救わせる。


 それが、俺に課せられた罪滅ぼし、勇者としての生き方だ。


 嫌な予感がするのは、金城の報告にあった通り東の果てにある、悪魔野郎共だな。


 俺が縄張りにした旧魔界の軍勢総出で、この世界にカチコミかけるから、問題ねえとは思うが。


 魔人連中が組織してなきゃの話だが。


 魔人連中が、まともな感性ならばいいが、人類に敵意と憎しみを持って、計画的に戦争仕掛けてきた場合、かなりきつい展開になる筈だ。


 まあ、その辺はジッポンにいる、イワネツの野蛮野郎に体かけてもらおう。


 やつが昔のままの野蛮なワルなら、最悪ぶっ潰す予定だったが、勇者の魂を覚醒させてれば、そこそこ使える戦力になる筈。


 で、あのロシアのイワネツだが、どうやら魂が人間じゃねえもんが混じってるらしい。 


 そのイワネツに巣食う悪魔は、親分の話だと、神々もビビってた太古の魔界の大帝で、バサラって名前だったそうだ。


 そう、あの十二神将の婆娑羅さんよ。


 仏像で有名で、全員イカつい顔してポーズとってる、薬師如来さんとか大日如来さんの用心棒みたいな感じの。


 親分曰く、今の十二神将は、神界直轄の特殊部隊みたいな感じらしいが、昔は神々とバッチバチに喧嘩し回ってた魔界の大帝達で、別名十二夜叉大将軍って名前だったらしい。


 その中で、バサラだけは神に屈服せずに暴れ回ってたやべーやつだそうで、ある日突然姿を消したそうだ。


 その先の真相は、同業にして尊敬するお方でもある、ラーマの兄さんから聞いた。


 あれは、ニュートピアに帰る前の話。


「マサヨシです、失礼します! 入りやす!」


「どうぞー開いてるから」


 俺は神域ヴェーダに赴き、ラーマの兄さんの王宮のような屋敷に赴いたんだ。


 天界の煉獄って呼ばれる拘置所に、本とか差し入れて下さったから、本の返却と一緒に、菓子折り持ってお礼も兼ねてな。


 すると、どでけえリビングで、ファミコンやりながら、ソファーでスナック菓子とか食べてるラーマの兄さんがいた。


 歴戦にして伝説の勇者ラーマ。


 名だたる大魔王や、魔神とか、悪鬼羅刹とかぶっ潰し回った最強勇者の一人よ。


 見た目は、一見するとそこら辺でカレー屋とかしてそうなインド人っぽい、爽やか系のあんちゃんだが、天然パーマっぽい黒髪が煌めいてて、目の色が薔薇色でどこか気品がある感じ。


 元々は古代インドの王族の出だそうだ。


「話はヤマから聞いた。バサラの事でしょ? バリボリバリボリ、お前も食う? チャイとかもあるから寛いでって」


 スパイスがめちゃくちゃ効いてそうな、激辛チップス勧められてなんだけど、俺……辛いもの一切ダメなんだよね。


 口に入れた瞬間、ジンマシンとか出てくるし、昔それで、なんも知らねえ当番の若衆が、夕飯で中辛のカレー出してきやがったから、ぶん殴ったくれえ辛いもんダメなんだよ。


「あ、いえ……お茶いただきやす。あ、ラーマの兄さん、それド●クエですか? 2ですねそれ」


 そう、兄さんはそん時ちょうど休暇中で、家でドラク●をご機嫌にプレイしていらした。


「うん、このゲーム僕のお気に入りなのさ。僕の最初の冒険、こんな感じだったから。僕も昔はコーサラの王子してたのね」


「へい」


「そしたらなんかの陰謀で王から、お前は光の戦士だから魔王ラーヴァナ討伐の冒険の旅に出てくれって。端金と銅の剣持って、皮の鎧着て、王宮生活から一転、追放されて冒険の旅に出されたの。泣けてくるでしょ?」


 お茶を一口飲んだ瞬間、生姜がめっちゃきいてて、辛すぎて涙目になるが、なんとか解毒魔法で生姜の成分を飛ばして、ミルクティーをすする。


「泣けてきますねそれ。自分も最初の冒険の時の装備が、魔法効果もねえ麻の僧侶服と、ヒノキの棒だけでしたわ。闇に閉ざされた世界で、町の周りに出てくるモンスターとか、棒とかでしばき回る毎日でした」


 名を残す勇者は、苦労人が多い。


 特に古参クラスのお方だと、奴隷の身に堕とされても裸一貫でのし上がったり、神の陰謀で伝説の神獣と喧嘩させられたりとか、そんなのばっかな。


 それに比べれば、まだ俺の方が恵まれてんよ。


 最近じゃあ、勇者志望のアホなガキが多いが、飛ばされた世界で好き勝手やるアホも多いみたいで、大天使長さんも頭悩ましてるそうだ。


 そのせいで、たまに俺へ勇者にしたガキをぶっ潰して、ついでに世界も救ってこいみたいな、特殊任務も回ってきて、往生してるぜ。


 だが、その対策みてえのを、天界で立ててるようで、俺にもその話が来てやがる。


 ならばいっちょ、俺様のシノギの一つにしてやろうと考えてるがな。


「色んな功績でこんな宮殿建てたけどさ、本来なら僕の賢者もこの家で暮らす予定だったけど、なかなか難しくてね。お前も、自分の賢者に優しくしなきゃダメだよ」


「へい」


 ラーマの兄さんは、世界救済の傍で自身の賢者にして、次元世界のどこかにいるかもしれねえ、最愛の妻を探し出すことも目的にしてる。


 何があったかは知らねえが、どこの世界のどんなお人だろうが、人生ってのは思うようにはいかねえみてえだぜ。


「チッ、またベギラマくらっちゃったよ。それで、確かバサラだっけ? あいつの話を聞きたいんでしょ?」


「へい、確か兄さんが地球で喧嘩したと聞き及んでますぜ。あと、そのモンスターはサマルト●ア王子がレベル25あるんで、そいつに補助魔法使わせて殴れば楽です」


 ラーマの兄さん曰く、超がつく大昔の古代インドの話だった。


 当時の兄さんは、国から追放されて、賢者でもあるカミさんを魔王に拐われたり、魔王軍とドンパチやったりで散々な目に遭った後、神の加護を受けて俺の親分が後見人みたいな感じで、地球救済任務についていたそうだ。


「今は、偉くなっちゃて多少落ち着いたけどさ、昔のヤマとかホント酷くてやばかったから。もうね、僕も胃痛しながら旅したわけだよ。その旅の途中、ヤマがなんかのアレで神界から呼び出しされて、説教されて不在だった時だったかな? 僕はある悪魔と出会った」


「それがバサラですか?」


「うん、そうだ。奴は、通りすがった僕らに、身ぐるみと有り金置いてけってなったわけ。ゲームで言うと強制エンカウントだよね」


 なるほど、親分不在の時に喧嘩になって、それを兄さんが倒したわけか。


「別に特別強くはなかった。彼は僕に敗北した後、頼むから金を恵んで欲しいと言ってきたんだ。彼の粗末な家をあらためると、熱病にかかって死にかけの元娼婦と、痩せ細り戦争で奪われたのか、腕が無くなり失明した子供がいた」


「……悪魔が人助けってやつですか?」


「僕は悪魔にムカついてて、悪魔のくせになんで人間を助けようとしてるんだって言ってやった。そしたらバサラはこう言ったんだ。人間に優しくしてもらった。人間だけだった、自分の存在を認めてくれたのはと」


 なんのために、極悪無道とまで言われた悪魔が人助けをしたんだって、兄さんも疑問だったがそういうことだそうだ。


「彼は、人間社会で暮らすことは出来ず、世話になったこの母娘の面倒を見てたようだった。自身の魔力を投じて、死にゆくはずのこの親子を生きながらえさせていた。地球のあちこちで似たような事をしてたんだろう。だから弱体化していたんだ」


 つまり、バサラは魔界から逃れた先の地球で、人間に情が移っちまったわけだ。


「母親の方は、熱病が脳に回ってて、僕の回復魔法でも手遅れだった。僕の時代の地球では珍しい話じゃないし、どこの世界でも生きる事は大変だ。僕の時代は、地球の文明が遅れてて、魔界の魔族が侵略しにくる、究極の最低最悪の世界って呼ばれてたし」


 兄さんが生まれた時代の地球は、神々や精霊や魔族達が大戦争した戦地みてえな感じで、人間は両陣営にこき使われ、戦争の道具にされてた、それはもう酷い有様だったようだ。


「それで、バサラをどうしたんですかい?」


「奴の魔力も僕との戦闘で尽きかけててね、バサラは地球の有様を嘆いていた。ここには、魔界にもあった最低限の法も律もないと。この世界は魔界以上にあまりにも不条理過ぎると嘆いていた。そして彼は最後の力を振り絞り、体が不自由な子供の手足と視力を再生させて乗り移った。自分は人間と共に生きていく、何千年かかろうが、この世界の不条理を正すと」


 こうして、バサラは人間の魂に融合し、その子孫にあたる人間に、たまにその力が発露されたものが、世界各地に出たんだろう。


 バサラは人間の守護者として、地球で延々と長きにわたって活動してて、最近乗り移ったのがあのイワネツだったって事だな。


「お前の召喚システムだったね? いいよ、協力しよう。人の魂を弄び、自分勝手な欲望を叶えようとする者から世界を救おうとするならば、僕も力になる」


「へい、ありがとうございやす。ラーマの兄さん」


「……僕、お前と兄弟でもなんでも無いよねって、この前も言った気がするけどまあいいや。じゃあ、そういうことで」


 ラーマの兄さんに別れを告げ、お次は高天原に行って、天照大神様に仁義を切りにいった。


 もうね、辿り着くのが大変だったわ。


 天照大神様の後光が差す参道を、俺みてえなヤクザ者が、堂々と歩くわけにも行かねえからって思い、端っこを頭下げながら歩いてたのさ。


 すると八百万の神様方が、同郷が活躍してるってもんだから、こっち来ては酒飲んでけ、一杯どうだって……まるで昼間っからかっくらってる、ドヤ街の輩ども……。


 いけねえ、その表現はよろしくねえ。


 花見客みてえな神々に連れ込まれて、次々に酒注がれて、俺の男が試される回し酒よ。


 俺も酒が弱くはねえが、へべれけで解毒魔法が間に合わなくなって、泥酔状態さ。


 神聖な高天原で、ゲロ吐いたり小便するわけにもいかねえし、日本酒特有の悪酔いに耐えながら、千鳥足で天照大神様の元にたどり着いた。


「久しいな、日の本の子よ。お主の活躍は聞き及んでおるぞ。どうじゃ? 以前お主も信仰していたように、わらわの勇者にならんか?」


 そう、俺みてえな博徒だろうがテキヤだろうが、日本でヤクザ稼業する以上、天照大神様は極道の崇拝対象だ。


 俺みてえな博打打ちは、右に八幡大菩薩様、中央に天照大神様、左に春日大明神様を掲げ、親子盃を行うのが基本よ。


 極道が最敬礼するのが、皇祖神でもあり絶対的な氏神様でもあり、日本を象徴する大女神であり、日本(やまと)民族の母親だからな。


 そんで、俺の体を見て天照大神様は舌なめずりして、肉食獣のような眼光で見た後、ウインクなさった。


 最初の旅でこのお方をお助けした事が縁で、親分から俺の身柄奪う気満々っぽくて、畏れ多いし、ちと怖いし、とりあえず土下座してお断りするしかねえってな。


「有難い申し出でございますが、申し訳ありません。自分は天照大神様への信仰心はかわりやせんが、自分の親は閻魔大王様なもんで」


「そんな固いこと申すな日の本の子よ。なんだったら、わらわがお主を神に取り立ててやっても良いのだぞ?」


 とまあ、そんな感じでやりとりしながら、本題を切り出す。


「うむ、我らが八百万の主神たる天之御中主様の通達は絶対じゃ、協力しよう。それとそなたの弟子じゃったか? 我が日の本の出身で、女人の身でありながら活躍しとるようだし、わらわもたいそう嬉しく思う。よって、神器も好きなものを持ってくがよい。それとタケルよ、わらわの前へ」


 俺の前に、女形みてえな美形で、古代の衣装を着た伝説の勇者ヤマトタケルさんが現れる。


 誰もが知る、日本最高の英雄様だ。


「そなた、この目の前におる日の本の子の勇者に協力してやるが良い。神の職務で忙しいかもしれぬが、その暇で良い」


「は! 皇祖神天照大神様。マサヨシと言ったか? 貴様も、日の本出身か? うむ、その分だと異界救済を任される十分な実績を積んでるようだ。鼻が高いぞよ、我らが日の本の子よ」


「ははー、自分のようなヤクザ者が畏れ多くもお褒めに預かり感謝恐縮の極み」


 俺は平伏しながら頭を下げて、例の指輪を両手で差し出した。


 極道の俺にとっちゃ雲の上のお方だし、死後活動した勇者としての実績が、俺よりも上だしな。


「マサヨシよ、貴様には、我が孫にあたる八幡神にも協力するよう言っておく。我がヤマトタケルの力も用いて、勇者として遠慮なく世界の救済に励むが良い」


「ははーありがたき幸せ!」


 とまあ、義理とスジは通したんで、次はオリンポス。


 天空神と名高い、ゼウスさんの座す神域よ。

 

 古代ギリシアみてえな、石造の宮殿が立ち並ぶ光と森の世界で、真っ白な石造の豪邸にゼウスさんが俺を待っていた。


「久しぶりだな、アースラの転生体のマサヨシよ」


「ご無沙汰しておりやす。復活したクロヌスの件ですが、自分に一任させてもらってもよろしいでしょうか?」


「……あの恥晒しはワシら一族の問題じゃ。出来ればワシが滅ぼしたいのだがな」


 まあ自分らの身内の不始末は、自分らでつけてえってのはわかるが、俺は別の道を考えていたんだ。


「ああ、その事ですがね。クロヌス神は、うちら側に引き込んで、創造神様に頼み込み、神として復帰してもらいますわ」


「なんじゃと!?」


「お待ち下せえ!」


 立ち上がったゼウスさんは、正座してる俺に恫喝(クンロク)かまそうとしてきたから、その前に俺が右手で止める形の所作で、機先を制させてもらった。


「あたしは、そちらさんで何が起きたかは知りません。ですがクロヌス神は、無期刑くらいながらも、神としての気高さや、人を慈しむ心と責任感を持ってやした。適任とあたくしは思いやすが? ニュートピアを担当する神の一人として」


 俺の絵図は、クロヌスをあの世界で神の一人として、担当させるつもりだ。


 言動や格好はさておき、神として相応しい心を持ってると思ったからな。


「貴様……あやつは我らが父祖ウラノスを殺した大逆神だぞ! 本来ならワシがこの手で処刑をすべきだった愚か者だ!」


「俺は、理由なくあのクロヌスって神が、父殺しって大罪を犯したようには見えませんぜ? そちらさんだって、そう思ってるでしょう?」


 どうやら核心をついたみてえだな。


 目が泳いでテンパってるぜ?


 冥界魔法で心を読まずとも、あんたが何を考えてるか、なんとなくだがわかんだよね。


「見通されてるか。父祖ウラノスは、クロノスの兄弟神、ワシの叔父にあたる原初の神々を、醜いという理由で冥界送りにして殺したのだ。それに憤ったのが、クロノスと母祖ガイア」


 なるほど、兄弟をぶち殺されたクロノス母子がウラノスに復讐したのか。


「その後の奴は、複数の宇宙を担当する最上級神となるが、奴の、父の心は人間ばかりに目が向き……実の子である我らは虐げられていた。明らかに病んでいた、父ウラノス殺しの罪で……父クロノスは」


「それで、ゼウスさんがクロノス、今はクロヌスって名乗ってる神から実権を奪い、神々の王たる最上級神になったという事ですか?」


 ゼウスさんは頷いた。


 なるほど、家庭で悩みを抱えてんのは、どうやら人間だけじゃねえらしい。


 だが……。


「お気持ちはわかりますが、これは創造神様から、あたくしに課せられた救済命令です。自分は勇者として、丸く収める形であの世界を救いてえんですよ。一つ、自分に任せていただいてもよろしいでしょうか?」


 ゼウスさんは唸ったあと、俺の目を見る。


「条件がある。ワシの息子にして最強の力を持つ、ヘラクレスの派遣を認めてもらいたい。あやつは、上級神として取り立てたが、その……」


「手に余ってるようですね? たしかに武勇は自分もお聞きしておりやすが、神としての評判は今ひとつみてえですね」


 歴代最強勇者のヘラクレス。


 極道の俺ですら知ってる、名の知れた最強の勇者と称される神。


 だが、勇者としての優秀さは置いておいて、神としての評判は、いい話を聞かねえ。


「はっきり言うな、お前も。左様、あやつは確かにワシと人間の愛人に生ませた半神半人の英雄と呼ばれておる。妾の子ゆえ、色々と苦労をかけたので、ワシもあやつの功績に報いようとした。じゃが、あやつは傲慢すぎる。ワシが担当させた世界を、うまく運営させてるとは到底思えぬ」


 なるほど、自分の息子ヘラクレスを送り、クロヌスの性根をヘラクレス通じて見極るのと同時に、おそらくは……。


「ヘラクレス様に、今一度勇者としての心を取り戻させる事で、成長を促そう……そういう腹積りですかい?」


 目を伏せたが、当たりだな。


 確かに、おそらくは俺をも凌ぐかもしれん、最強勇者の戦力は、心強くはある。


 だが、かつての勇者としての想いも失くして、道に迷っちまったらしい。


 めんどくせえな、余計な真似しなきゃいいが。


「すまぬが、並の世界の救済ではあやつの試練にはならぬのだ。あやつを再び男にしてやってくれ、この通りだ」


 ゼウスさんは深々と頭を下げる。


 最上級神が、ここまで頭下げたんだ。


 無下にすんのも、俺の男の沽券に関わるし、しょうがねえ話だぜ。


 てなもんで、俺はゼウスさんの申し出を受ける事にした。


「わかりやした。もしもクロヌスと相対する場合があった際は、これでヘラクレス様をお呼びいたしやす」


 俺は召喚システムの指輪を、ゼウスさんに差し出す。


「すまぬが、我が子と我が父の件、よろしく頼むぞ勇者よ。オリンポスの武具の使用も許可する」


 とまあこんな感じで筋道立てて、お次はエニアド神域。


 太陽がギラギラ眩い、ピラミッドのような神殿で、ホルス神に謁見する。


「よくきたのう、勇者よ。最上級神ラーの代行にして、ホルスじゃ。ワシの叔父、セトの件で迷惑をかけて申し訳けないのう」


 確か隼のマスクをつけて、でっけえ筋肉質なガタイした、タイガーマスクを思わせる、覆面レスラーみてえなお人、いや神だったっけか。


 その右目は太陽のように燃え盛り、左目は月の如く怪しげな光を放っていて、相当の実力者である事を肌で感じた。


「こちらこそすんません、ホルス様。それで俺の弟子やられちまったみてえなんで、そちら様の叔父上の落とし前、自分がつける許可もらいにきやした」


 ホルス神は、ジッと俺の目を見て、俺の実力を見定めているようだった。


「叔父はバリ強いでぇ? うちの父もかの高名なゼウス様も勝てんくらいにゃあ。破壊神候補じゃった事もある」


 うげっ、ゼウスさんが勝てなかったって相当強えが、俺様だって色んな野郎と喧嘩してきたんだ。


「相手にとって不足ねえです」


 俺が自信満々に答えると、ホルス神は俺に昔話を話してくれた。


「昔話をわれにしよう。叔父のセトはワシの父オシリスを殺した仇でもある。ワシの異母弟アヌビスの母、ネフティスの前の夫がセトじゃった。だが、うちの父に寝取られたとトラブルになり、父は殺されて、バラバラにされ川に遺棄されたんじゃ」


 俺はその時思った。


 うわぁ、めんどくせえなってよ。


 極道の掟でも、許可なく親兄弟子分身内の女に手を出すなって言われてるくれえ、やっちまうとある意味で親殺しも許されちまう場合もある、大罪だ。


 まあ、豆ドロって言うんだがな。


 ていうかホルスさんが、アヌビスさんを異母弟って言ってるんだから、まさか、オシリスさんは他人のカミさん孕ませちまったのかよ、妻子とかいんのに。


 そりゃあ……そのオシリスさんが殺されても、文句言えねえって。


 すげえめんどくせえ話だな。


「今、われ……たいぎい話思うたじゃろ?」


「あ、いえ。ちょっと複雑な家庭環境だなと思いやした」


 あっぶねえ、このお人も心読めるっぽい。


 神相手の掛け合いは、これだから厄介なんだ。


 神としての格が高いお方は、人間の思いを読み取ることができちまうからな。


「母はバラバラになった父を、ミイラと呼ばれる冥界魔法でアンデッド化させ、父は冥界で上級神をしている。ワシも色々ものを知るようになってわかったんじゃが、叔父だけが悪かったわけじゃない」


「へい」


「だが叔父は、それで心を壊したのじゃ。人間共に戦乱を巻き起こし、己の欲望で強き人間を生み出して、私情でエコ贔屓したり喧嘩売って殺しよるいう、上級神にあるまじき暴挙に出たんじゃ。うちゃ叔父を封印した。他の神々の協力も得てのう」


 なるほど、カミさんに裏切られて家族を信じられず、信じるものが強者と戦闘にしか行かなくなったか。


 要するに、喧嘩太郎って事だろ?

 

 じゃあ人間代表してる喧嘩太郎の俺が、喧嘩で相手になってやんぜ。


「ワシが言うのもなんじゃが、叔父を止めて欲しい。それとある事実をワレに伝えよう。エニアド神域の武器の使用を許可しちゃる」


「へい」


 そんなわけで、様々な神域に行き、俺は喧嘩の準備を整えたわけだ。


 十分な準備と情報収集と根回しは、極道の喧嘩の基本中の基本だからな。


 そして、収めるべき方向に持っていくのもね。


 喧嘩はおっ始めるのは簡単だが、後始末が肝心なのよ。


 この喧嘩を全て丸く収めて、あるべき形に持っていき、俺の弟子マリーに世界を救済させる。


 そんな事を考えてたら、デリンジャーから個別に通信がきやがった。


 応じたのは、俺、ロバート、イワネツの勇者3人だ。


 なるほど、デリンジャーが言ってた別件の相談事、それも良くねえ情報で、不測の事態ってやつだろう。


「よう、俺たちが個別に通信に呼ばれたってのは、龍や金城、それにマリーには伏せた方がいい案件だな?」


「察しが早いなシミーズ、そういう事だ。転生者のワル共が多数でやがった。多分、まともに戦ったら結構難しい相手だ。そして、奴ら……酷すぎる!」

後編に続きます

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