第133話 世界を救う会合
「よう、帰ってきたぜ。俺が来た以上、もうこの世界でワル共の好き勝手はさせねえ」
全員が集まってこれから世界をどう救うかの、会合が開始される。
「待ってたぜ、シミーズ。おめえがいれば、事態が好転するはずだ。この世界の為にすまねえ」
私の影響で力が弱体化されてるわけでもなく、デバブもかけられてもいない、制限抜きの本気状態の先生のこの世界への帰還は、この混沌としていく世界の希望なのは間違いない。
「……シミズ、それにロバート・カルーゾか?」
水晶玉の通信会議に出席したイワネツさんは、勇者二人の姿を見て、一瞬目を伏せたような感じがして、先生はイワネツさんをじっと見て鼻で笑う。
「よう、面と向かって話すのは初めてか? てめえこの世界で勇者になって、いきがってるらしいじゃねえかおう? 何だその格好は? 暴走族のコゾーみてえな格好しやがって、なめてんのかよ」
「久しいな、ロシアのイワンコフよ。君は地球のニューヨーク時代の身だしなみを忘れたか? その髪型はなんだ? 短く刈るか整髪料をつけて櫛でとかしたまえ、無精髭もだ。酷く不潔に見えるぞ?」
「うるせえぞ、何様だお前ら。ちょっと西側で有名だっただけで、下に見やがって」
なんか、あの絶対的な力を持つイワネツさんが、二人に遠慮してる?
私は、裏社会の事は全然知らないけど、先生とロバートさんは、イワネツさんが気圧されるほど、マジでやばい裏社会の重鎮だったようだ。
ていうか、二人ともイワネツさんに対して、露骨にマウント取りに来てるし。
すると釜倉にいるマツ君が手を挙げた。
「あ、マツ君が手を挙げてるんでどうぞ」
なんか場の空気が悪くなってきたみたいだから、さっさと話を進めよう。
「何処のどなた達かは存じませんが、織部殿に失礼な物言いでは?」
この子、結構意見をはっきり言うのよね。
先生にも全然物怖じしないし。
「おう、この小僧誰だ? 説明しろ誰か」
そうか、先生はマツ君こと、ジッポンの幕府将軍になった松平家康とは初対面だった。
すると議長役のデリンジャーが、挙手する。
「マツの言う通りだ。おめえら、さっきからうるせえぞ、シミーズにロバート。俺のブラザーになったイワネツと俺に喧嘩売ってんのかよ」
「チッ、ちょっとイジっただけじゃねえか。悪かったよデリンジャー」
「すまないミスター」
水晶玉が写した画像越しからもわかるくらい、デリンジャーの覇気が溢れてて、普段あんまり表情を変えないイワネツさんが、驚いた顔をしてロバートさんとデリンジャーを比べて見る。
「西側最高の大物の一人、ドン・ロバートとまで呼ばれた男が、ミスターと呼んだか? デリンジャーお前、実はかなりやばい盗賊か?」
すると、ロバートさんはフンと鼻を鳴らす。
「知らんのか? 彼は合衆国史上最高のアウトローにして義賊。犯罪王の異名を持ち、合衆国政府から、公共の敵ナンバー1とまで言われた男だぞ。伝説のデリンジャーギャング団のリーダーだ」
「よせよ、前世の昔の話だし、今は国を守る大統領なんだからよ。それに頼むぜ、勇者達。この世界の命運はおめえらにかかってんだ。ベースボールなら、7回裏、相手側の大量リード、逆転するぞおめえら!」
「おう!」
すごい、この場を一気にまとめてしまった。
やはり、彼がみんなのリーダー。
私も先生も男気に惚れ込んだ、この世界を救うローズ・デリンジャーギャング団のリーダー、私もだけど。
「はは、通りでジローや龍が組むわけだ。前世から伝説の義賊で、しかも合衆国相手に喧嘩してたとはおそれいったぜ。あと、このマツはジッポンの将軍で俺の代理だ」
「皆さまよろしくお願い申します。こちらの状況ですが、私の三川の家臣団も合流して、東條副将軍が精力的に動いております。様々な制度を打ち出し、このジッポンをより良き国にするため、幕府軍を天下国家の憲兵たる、国家全体の奉仕者にすると、間東管領一帯の板東武者の改革を行なっております。それに織部殿が提唱された、憲法も」
ああ、そういえばあの人は、転生前は東條英機って軍人で総理大臣だったから、普通に優秀な人っぽかったな……大戦の時の日本の指導者ってこと以外は知らないけど。
「東條副将軍は、将軍職に就き非常に多忙だったゆえ、うまく動けなかったところがございました。それがしが公儀を引き受けることで、だいぶ自由にものを考える暇が出来たと。とても頭の良い方ですし、人情味もある」
「ほう? あのジジイがあんなに使える奴とは思わなかったな。だが、問題は越狐と甲亥の連中だ。幕府の停戦勧告を無視しやがって、抗争中だから俺が潰す予定よ」
うわぁ、それ多分地球でいうところの武田信玄と上杉謙信が、川中島の戦いみたいな事してるんだろうけど……この人なら何とかしちゃいそうだ。
「あとは兄弟達やマリーが考えた世界憲法は、北朝を制圧して打ち立てる予定だからよう。命が軽すぎる人権なんざねえジッポンで起こる、戦争も殺し合いも飢えも迷信も悲しみも、全て終わらして救済してやる」
すると先生が手を挙げた。
「へっ、一応はてめえも勇者の端くれみてえだな。じゃあ知らねえ野郎がいるみてえだから、俺から自己紹介する。俺は勇者マサヨシ、隣にいるのは勇者ロバート。そんでちんちくりんみてえなのが上級神ヤミー」
「誰がちんちくりんじゃ! おほん、馬鹿マサヨシめより、紹介された通りヤミーじゃ。この異界救済の全権指揮は、我とマサヨシにある。創造神様より勅命じゃ、皆の健闘を期待する」
ドヤ顔で踏ん反り返ってるけど、運動会で挨拶する、校長先生の真似した女の子みたいな感じで、その……やっぱり上級神に見えない。
「俺たち二人には、この世界の救済命令を下されてる。神々の全面協力得てるから、俺らの組織も関係先も、この世界に投入する」
「うむ、失敗が許されない任務だからな。我らが父たる天の主より下されし命令は絶対。この地を拠点に、総勢100万の軍団が転移する予定だ」
ちょ!?
勇者が本気出すと、そんなに動員出来るの?
100万人ってサラッと言ったけど、意味わかんない。
「オーディンって野郎に、気を遣ってたから途中で撤退させたが、もうそんな気を遣う必要なんてこれっぽっちもねえからよ、一気にこの世界のワル共を制圧する。で、うちの組の主力も集まってるからよ、このマリーに世界救済させるから」
は? え? ちょ!?
ええええええええええええ。
「別に俺は構わんぞ? 俺も手を貸すぜマリー、このイワネツ様が認めた女だ」
気持ちは嬉しいけど、私、前世の情報をばら撒かれてて、水晶玉通信で絶賛炎上中なんですけども。
「あ、兄貴ぃ。やしが……そのー」
「あのー先生、さっき話した通り、ロキと絵里から情報操作されてて……」
「そうだぜシミーズ、まず悪質なデマをどうにかしないと」
「ああ、マリー君は敵の情報操作で貶められている。清水よ、まずは彼女の名誉を回復させない事には、彼女の心が傷つくだけだ」
みんなが意見すると、先生はめっちゃ極悪な顔付きで笑い、ヤクザな作戦を立案する。
「おめえら、何年不良やってんだよバカヤロー。マリーなめてる野郎や、アレクセイってガキに協力してるジューって言う商人ら、みんなさらっちまえばいいだろ?」
「はあ?」
は?
この人、今なんて?
「こいつは俺の弟子だ。こいつをなめてるって事は、俺をなめてるって事だろ? 俺をなめてるって事は、ここにいるヤミーや、俺の親分をなめてるって事だ。なめてる奴はさらってヤキが基本だろうがよお。極道なら当たり前だよなあ? 金城」
「そうねー、沖縄でも普通やん。縄張り入ってぃ悪さすん、馬鹿は、さらってぃお仕置きさー」
いやいやいや、全然当たり前でも、普通なんかでもないって。
この人、逮捕監禁なんとかの誘拐宣言してる。
普通の一般常識があるなら、考えつかないような事を、この人は計画して実行する気だ。
「俺のいない間、マリーによくも……クソボケ共が好き勝手やりやがって。絶対に、落とし前絶対つけてやんよ」
やっぱ先生、私がやられた事にめっちゃ怒ってるっぽい。
絶対って二回言った。
「お前、本当に勇者かよ? 流石のこのイワネツ様でもよお、その……引くわあ……」
あ、イワネツさんがドン引きしてる。
女神ヘルも、めっちゃ先生を睨んでるし。
「ま、まあ理には叶っているな。補足すると、我らがローズ・デリンジャーギャング団、殺人行為はご法度だぞ兄弟」
「わあってんよ、兄弟。早速ナーロッパに点在するジューとかいう奴らをさらわせる。俺の弟子をなめた報いだ。当然賠償金もいただかねえとな。あと、準備が出来次第、情報戦に長けてる奴らを水晶玉通信に介入させる。同時にルーシーランド、ハーン、ロレーヌ、ヴィクトリーに総攻撃をかけるぞ。いいか? デリンジャー」
「ああ、シミーズ。この悲しい戦争を……終わらせてやろう。それと、シミーズにロバート、できればイワネツ、あとでおめえらに相談が」
「ん? おう」
先生は指パッチンして、マサトさんとブロンドさんを呼ぶ。
「おめえら、転移してきた奴らは、おめえらが仕切れ。あと、手練れ揃えて片っ端からジューって奴らや、いきがったガキらさらえ」
「わかった。来てくださった方々は、オイラ達極悪組が仕切る。あと前線基地とか全部用意すんのに、10日はかかるかもしてねえ。それとロバートの叔父御、申し訳ねえですが、ファミリーの方々を何人かお借りします。あと親父、実は……」
マサトさんが神妙な顔して、先生の耳に小声で何かを告げてるようで、これに思いっきり先生が舌打ちする。
「クソガキ共が……毛も生えてねえようなガキらは帰らせろ! 10年早え!」
「わかった、親父」
先生は、指令を出したあと水晶玉に向き直り、女神ヘルの方を見た。
「おめえさんが冥界の女神ヘルか。大体の事情は俺の神、ヤミーから聞いている。ヘルとイワネツ、おめえらも俺の指揮下に入れ、いいな?」
「ああ゛? お前、調子こいてんじゃねえぞ馬鹿野郎。なんで俺がお前の下につかなきゃならねえんだよ、殺すぞ?」
「何だコラ? てめえ偉そうに上から物を言うのは、世界の一つか二つ救ってから言えボケ。勇者なめてんのかよこの野郎」
うわぁ、やっぱり懸念した事が起きた。
どっちが世界を救うかって感じの、ヤクザとロシアマフィアの縄張り争いだこれ。
「ふっふっふ、ヘルよ、覚えていよう? 我の保護下にあるのじゃ。我の勇者の指揮下に入るのじゃぞう、のう?」
「ぐぬぬぬ、わらわの勇者はお前の勇者などには負けない働きぶりなのだわ! 胸無し尻無しのロジハラ女神!」
「なんじゃとおおおおお、ドチビの万年二級審問官めがあああああ」
「なんだわさそっちこそドチビ! 無能駄女神!」
うわぁ、この女神達マジで仲悪い。
ていうか小学生がやるような、口喧嘩っぽいしなんだこれ。
「おい、シミズ。お前のメスガキ女神もクソ生意気な事言いやがって、お前俺をなめてんのかよ? 今すぐジッポン来い、ぶちのめしてやるからよ」
「なんだこの野郎? てめえこそこっち来いよ馬鹿野郎。ロシアンマフィアだか、こしあんマフィンだか知らねえが、喧嘩するかコラ?」
なんかお互い喧嘩するしないに、口論が発展してるし。
すると、ロバートさんが思いっきり、議場の机をガツンと握り拳を叩きつける。
「ミスターの意向をシカトしてんじゃねえよ、ファック野郎共。うるせえ事抜かしてると、まとめて埋めちまうぞアスホール!」
「何ー? 兄貴とぅイワネツに喧嘩売っとーんばー?」
うわぁ、ジローまで加わって、だんだん収集つかなくなってきた。
この人達、暗黒街の顔役だった筈なのに、すっごい大人気ないんですけど。
するとデリンジャーと龍さんが、ものっすごい溜め息吐いて、二人同時に手をあげようとしたところ、マツ君がサッと手を挙げた。
「幕府将軍として、わたくしは織部殿に勇者の官位を与え、このジッポン救済を託しましたゆえ。こちらはこちらで対処したいのですが、いかがでござるか?」
ナイスアイデア。
マツ君は、先生の目を見て告げると、先生はマツ君の目を見たあと頷いた。
「先生、私達はナーロッパの争いを止めるよう、戦力を集中させた方がいいと思います」
「わかりやした。そちらさんが、そこまで仰るんであれば、いいですぜ。そういうわけだからよ、イワネツてめえ、さっさと勇者らしい仕事しろや」
「将軍閣下がそう仰るなら仕方あるまい。そういうわけでジッポン救済は、君の仕事だイワンコフ」
ああ、なんとか丸く収まってくれそう。
「ふん、お前らに言われなくても、あっという間に片付けてやる。まずはジッポン北側を俺のモノにしてやるぜ」
とりあえず、ジッポンはイワネツさんに一任されるようになったみたいだ。
すると龍さんが手を挙げた。
「バブイールの状況だが、私は前世の因縁に決着をつけ、国王陛下……父より海賊許可を得た。私の力を使い、現在敵と交戦中だが、数が多い。敵もさることながら、飢えに苦しむ国民も」
バブイールの状況は芳しくないようだ。
大国ロレーヌと、超大国を乗っ取ったハーンと呼ばれる勢力に挟み討ちにされて、焦土戦術を取ったから、多くの人が苦しむ状況になってるという。
「わかったよ龍。準備ができ次第、増援と物資も送るから、それまで持ち堪えろ。あと、セトってクソ野郎が来たら俺を呼び出せ。野郎は俺が始末する」
「すまない、清水。今、私はアナリトリア中央のアンキュリアにて、ウルハーンの大軍から民たちを守っている。この国のためによろしく頼む」
龍さんが先生に頭を下げて、支援を申し込むと、女神ヘルが手を挙げた。
「拘魔犬公より、神界でオーディンが4類指定になったと聞いたのだわ。チビ……いや女神ヤミーよ、この世界救済に他の神々の介入は考えられるかしら?」
「今、この我をチビ呼ばわりしたじゃろ? ドチビの二級審問官。それはじゃの……えーと、兄様がそういえば……あれ、メモがない! 兄様からの言伝がない! ど、どうしよう、どこへ」
先生がめっちゃでかいため息吐いて、代わりに神の世界の情勢を告げる。
「あー、それな。俺の方には召喚システムってのがあって、名だたる神々や引退した勇者に救世主も、召喚に応じていただけるようになった。ロキの一派とオーディンのユグドラシル対策で、神々の喧嘩道具も使用許可出たから、おめえらに後で渡してやる」
なんか指輪の召喚がスケールアップというか、大幅にアップグレードしてる。
しかも、最強装備とか手に入ったようだ。
神々のアイテムとかやばいでしょそれ。
「ただし、ちっと面倒な元勇者も現役復帰して介入したがってるらしい。無下にするわけにもいかねえから、どう扱おうか困ったもんだぜ。身内の始末は身内でケジメつけるって言ってるし、めんどくせえよ」
うん、確かにめんどくさい。
せっかく指揮系統は女神ヤミーと先生にあるのに、その人にマウントとられたら、めっちゃめんどくさいことになる。
「俺からの情報伝達は以上だ。他には?」
すると、ジローが手を挙げた。
「もう我は、忍るくとぅんねーんやー。シュビーツとぅ喧嘩さぁ。すりとぅ兄貴、ジッポン東に悪魔ぬうぅしが、どーするさぁ?」
「あん? 悪魔野郎だと!?」
そう、ジッポンには古来より東の果てからくる、百鬼夜行伝説があり、何度も存亡の危機に見舞われてきたそうだ。
おそらくは、似非英雄ジークフリードが呼び出した、魔王達の軍勢だろう。
「へっ、悪魔野郎らなら問題ねえ。旧魔界の軍勢もこっち来るから、場合によっては交渉させる。ただし、もはや魔族じゃなく、魔人連中になってたら厄介だがな」
「なぜですか先生?」
「魔族と人間が混血すると、神や天使の力にも等しいやべえのがたまに生まれる。魂が正しい者なら問題ねえが、ワルに染まってたら魔族の知恵と、人間の持つ闇の部分が強調される。言うなら残虐性が高い厄介なやつになるな」
魔人か。
確か先生が結構苦戦したって言う、二番目に救済した世界を牛耳ってたのが、魔人達の暴力団的な組織だったらしいけど。
「関係ねえよ。もしも悪魔共が、俺のジッポンに来てふざけた真似しやがったら、ぶちのめす。単純な話だろ?」
「……甘く見ると手痛い目に遭うぞ。ま、馬鹿は死んでも治られねえからしょうがねえな」
「お前が言うな阿呆。それとよ、アレクセイとか言う小僧いるだろう? あのクソボケマリーに惚れてやがるな。身柄欲しがってしょうがねえようだった。それに、マリーを俺が拘束してると勘違いしてやがる」
え? そうなの。
けど、今更あんな最低男が私を好きだって言っても、そのーキモいし嫌だし。
「そして、マリーがそっちの西側に帰った事を、ヴィクトリーの奴らは知らねえ。と、言うことはだ……クックック、野郎ら深刻な思い違いしてるってわけさ」
イワネツさんが、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべると、先生と龍さんもニヤリと笑った。
「なるほど、それはいいな。孫子の金蝉脱殻の計からの声東撃西か? マリー君がジッポンにいるかのように見せて、陽動する作戦だな」
「へっ、そう言うことかい。マリー、おめえ俺が後で特別なブツ渡すから、もしも活動する時は変装しとけ」
どう言うことか、何がなんだかわからないし、ジローもロバートさんもニヤニヤしながら陰謀を頭に描いてるけど、とりあえず私がこのナーロッパに帰って来たのは、伏せられる事になる。
「よおし、とりあえずベンチ裏の作戦会議は決まったな。準備が出来るのは10日後か? なら反撃が整ったのと同時に、俺はパリス広場で全世界に対して、戦争終結のために演説してやる。シミーズ、日本のベースボールだとこう言う時、どんな感じでゲームスタートするんだい?」
先生は両手を広げて、パンと一拍手を叩く。
「よおし、しまっていこうぜてめえら!」
「おう!」
会議が終わった後、もはや世界救済の前線基地みたいになったスカンザの基地の食堂で、私達は食事を取る。
メニューは、ジューシーって名前の炊き込みご飯に、昔ながらのチャーシューメンで、かまぼこ乗ってて、めっちゃお出汁が効いてて美味しい。
麺は太麺で、もちもちしてて、個人的にはもう少し細麺がいいけど……なんだろう、このラーメンのチャーシューがやばい。
肉厚だけどお肉を口に入れた瞬間、ホロホロでとろける感じの、何の肉これ!?
「このピラフうまいな。野菜と海藻が入ってて、これは肉か? あとこっちはラーメンという奴だな。私はパスタの方が好みなんだが、魚と肉のエキスが効いてて、これはイケる。ニューヨークに出店すれば、連日満員だろう」
うん、ロバートさんが感心してるけど、確か世界中で和食ブームって言ってるもんね。
ジローは、涙を流しながら、ラーメンを物凄い勢いですすって食べてる。
えーっと、たしかに美味しいけど、どうしたんだろう?
「懐かしいさあ、くぬすばにぃジューシー。前世の沖縄時代を思い出してぃ、まっさいびーん……」
ああ、これ沖縄ソバってやつか。
昔ながらのラーメンとは、ちょっと麺が違うと思ってたけど、沖縄料理なんだ。
多分、私達に気を遣ってくれて食堂に出してくれたのか。
「すまんが……君たち、麺をすするのは勘弁してくれ。なんだろうこれは、私とは文化が違う……」
「うるせえなあ、黙って食え兄弟。支那そばかっこむ時に、勢いよくすするのは日本じゃ当たり前なんだよ。ズバババババババ、ゲップ」
「Noooooooo! ガッテムシット! やめろって言ってんだろ! ドタマ吹っ飛ばすぞ!」
ああ、ロバートさんがガチ切れしてるけど、西欧だと麺をすするのはマナー違反だっけ?
けどしょうがないか、これめっちゃ美味しいし……あ、先生の顔色がみるみる青くなって、ジンマシンが……まさか毒!? 敵の攻撃!?
「ぎゃああああ辛え! 誰だ俺の支那そばに唐辛子入れたの!? ざっけんな、アレルギーで舌が痺れて……ぎゃあああああああ」
「おお、島唐辛子なるものを入れると、風味がかわってうまいのう。なかなかに美味じゃ」
……この女神、どSの権化みたい。
あ、めっちゃ辛そうな調味料を自分の沖縄ソバに入れ始めた。
「ういー、ヒック。なんじゃこれは? なんか気分良くなってきおったわい」
へ?
「やべえぞ! お前ら逃げろ!!」
え? ちょっとなに?
「マリーちゃん、島唐辛子は、保存の泡盛入ってるさー。やな予感すくとぅ、逃んぎーさぁ、りか!」
ジローに手を引かれてその場を離れると、女神ヤミーの顔が真っ赤になって、着物がなぜか乱れ出して……何これ?
まさか、あれで酔っ払って……。
「まああああさあああよおおおしいいいい」
「ぎゃああああ抱きつくなてめえ折れる、離せバカヤロー! うぎゃああああああ!!」
うわぁ、顔真っ赤になった女神が先生に抱きつき始めて、ちょっと大胆だけど、酔った勢いの愛情表現が全力すぎて、先生が戦う前から戦闘不能になり始めてる。
「なああに見とるのじゃ! お前らあああ」
「女神様、おやめ下さ……ぶべら!」
止めようとしたロバートさんが、一撃で殴り飛ばされ、私達は酒乱の女神の魔の手から逃れるため、全力ダッシュで食後の運動をするハメになる。
こんな感じで、私達の世界救済に向けた反撃が始まった。
次回は、ある勇者の一人称になります