表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
13/311

第12話 楽して金を儲ける方法

 私達が入国すると、多くの人達が拍手で出迎えてくれ、馬車に乗って海辺にある宮殿、ガベルダ宮が今の私の仮住まいとなった。


 ガベルダ宮は、大理石のような白の魔法石の彫刻が美しく飾られた宮殿で、個室も与えられたし、お風呂もあるし最高の仮住まい。


 (いかめ)しい感じのヴィクトリー城とは全然違う。


「へっへっへ、こいつがあれば多少のこの世界の活動資金が得られるぜ」


 勇者が缶詰のように塩の瓶詰めにした、クラーケンの肉も宮殿の中庭に山のように置いてるけど、正直宮殿の景観が壊れるし、勘弁してほしい。


 私達はこの宮殿でちょっとゆっくりした後、身バレしないようフードを被り、ネアポリ出身のロマーノ軍の偉い人が、私をエスコートしてくれた。


 彼はヴィトーの側近の一人で、黒髪で浅黒い肌で鼻が高い、サルヴァトーレ・デ・ネアポリーノ伯爵。


 私がこの町に来たことをとても喜んでくれた。


 この町に、事実上ロマーノ王になった、ヴィトーが、2日後、私に会いに来る予定になっている。


「この町の名物は、タコサラダに、国一番の美味しいピッツァが、市民に愛されてます。海産物も豊富で、ペスカトーレパッケリという名物料理もありまして。王女殿下の滞在先として、素晴らしい町です。周辺都市国家からも観光客であふれてます」


 うわぁ、転生前にテレビとかネットで見た、イタリアのナポリみたいな感じで、あちこちにあるレストランからは、美味しそうな香りがしてくるけど、本場のピザにスパゲッティとか絶対美味しそう。


 私の国のヴィクトリーなんて、王宮料理でも、たまに焦げてる固いお肉か、くたくたに煮た野菜しか出てこないし。


 スコーンと朝食は美味しいけど。


「いいねえ、美味そうな飯屋がそこかしこにあって、でかいシノギの匂いもしてくる町だなあ。ちょっと自由行動してくるわ」


 私が召喚した勇者は、とびきり邪悪な笑みを浮かべて、私達から離れてズボンのポケットに手を突っ込みながら、町の喧騒に消えていった。


 うん、嫌な予感がする。


 このヤクザ勇者は、私の勘だけど、絶対に何かやらかす予感がする。


 彼は船旅中に、この世界の言葉をペチャラから習って、日常会話くらいなら、余裕で出来るようになってきた。


 学校にまともに通ってなかったなんて言ってたけど、この人かなり頭がいい。


 だけどその頭の良さのベクトルが、女の人と戦闘とお金儲けしか考えてない感じがする。


 例えば、ペチャラの両手を握りながら、”君の瞳は美しい”なんて、歯の浮くようなセリフ言って、ペチャラを口説こうとしてるのを見ると、やはり悪いヤクザなんだなと思う。


 それで、船旅中の私と彼の交換日記は、私がこの世界の文字で書いたのを、彼はペチャラに単語とか習いながらこの世界の文字も勉強しているようだった。


 そして、興味本位で楽して大金を手に入れる方法について、宝くじの話を書いたら、彼は綺麗な漢字とひらがなで、博打の天才の俺でも当たった事はねえと書いてた。


 代わりに、大儲け出来る方法の一つとして、賭博、投資、経営、とか書いてたけど、賭博とかギャンブルって、それこそ運ゲーじゃないのかって聞いたら、賭場開帳すりゃあいいんだよって笑顔で言ってた。


「いいかい、マリーちゃんよ? 俺達の故郷だった日本を思い出してみようや。例えば、何で公営ギャンブルなんてあると思う? 国と銀行が、財団法人まで作って宝くじ売ったり、政治家やサツとズブズブなパチンコ屋がある理由、わかるかな?」


「えーと、儲かるから」


「そう! でも俺みてえなヤクザもんが賭博とかやると捕まっちまう。それはな、鉄火場なんてのはトラブル起きるから、サツはそれを嫌っているという側面もある。まあ、賭場で舐めた事する野郎を、ぶちのめすくれえの強さがねえと、ヤクザなんか勤まらねえけど」


 あー、パチンコ屋に朝から並んで殺気立ってる人、私見たことある。


 それに競馬場の近くって、なんか治安が悪いって話も聞いた事あるけど、そういうギャンブルに命かけてる、依存症みたいな人の話も聞いた事あったっけ。


「けど、賭場は大金が動くもんだから、国は俺達ヤクザの資金源にさせたくねえのさ。金の流れは国家が管理してえわけよ。ましてや俺のようなヤクザが金持ったら、犯罪とかに使って、ロクな事にならねえだろうって、国の意向があるのさ」


 なるほど、賭博は自分がやるんじゃなくて、主催者側になる事で、大金を稼げるのか。


「まあ本当は、日本政府やお偉い官僚さんが、国のシノギに、ヤクザ如きが手をつけるなって、下に見てる事もあるんだろうけど。話が逸れたが、楽して金儲けすんなら賭博よ。賭博は胴元側が儲かる仕組みになってるからな。ま、どういう場所で開いて、どんな遊びするかって所に、頭使わねえとダメだがね」


「あのう、この世界でも王侯貴族に黙って、無断で賭博場なんか作ったら、捕まりますよ?」


「バレなきゃいいだろ? それかバレてめんどくせえ事になるなら、頭を使うのさ」


 笑いながら勇者は言ってたけど、やっぱりこの人、遵法精神とかが何処か一般人の私と違う、本当にヤクザな人なんだなって私は思った。


 そういえば、一緒に船乗ったアントニオ男爵が持ってた、ブレイングカードのやり方を、あのヤクザ勇者は教えて貰ってたけど。


「まさかあの人……この町で賭場開帳する気じゃ……」


 私は嫌な予感がしながら思わず呟くと、エスコートしてくれるサルヴァトーレさんが、私の方を見て小首を傾げた。


「どうかなさいましたか? 殿下」


「いえいえ何も!」


「それと、夜の外出は控えて下さい。不逞の輩も多いゆえ」


 夕方、私達がガベルダ宮に戻ると、何食わぬ顔で勇者は戻ってて、ペチャラとおしゃべりしてて、私の顔を見てニヤリと悪い顔で笑う。


 絶対この人、何か悪い事企んでる。


 この勇者、この町で楽してお金儲けする気だ。


 そして私は部屋に戻ると、飲食店や美味しいジェラート、そして町の美しさと活気を日記に記し、ヴィトーがこの町に来るまで、お風呂に入った後、寝ようと考えた。


 すると、私の部屋の窓がいきなり開いた。


「だ、誰!?」


「君のピーターパンさ」


 窓の外には、風魔法で空飛んで、私をドヤ顔で見る勇者がいたけど、あなたのような、ヤクザなピーターパンとか嫌なんですけど。


 イケメンだけど、なんか嫌なんですけど!


「さあマリーちゃん、俺と夜遊びしに行こうぜ」


 ちょ、男の人からの夜遊びの誘いとか人生初なんだけど……しかもヤクザからの誘いとか。


 まあ……この人強いし、なんとかなりそうだからいいか。


 私と勇者は頭と口元にスカーフを巻いて、人相をわからなくすると、夜のネアポリを闊歩する。


 この町、昼間と感じが全然違う。


 商店は閉まってて、路地裏は何とも嫌な感じがして、酔っ払いの怒鳴り声とか聞こえてくる。


 町の表通りを歩いてるのは、目つきが悪くて、赤いスカーフを口に巻いた人達。


 アメリカ映画で見た事ある、娼婦のような露出度が高い服着た女の人達もチラホラいて、なんか町の感じが悪いような……。


「ヘッヘッヘ、臭うねえ。上辺だけ良くて中身ダメダメな、転生前の俺好みの町の匂いがしやがるぜ」


 ちょ、ヤクザ好みの町って。

 治安が良くない繁華街みたいな感じ?

 警察とか行政の影響が不足してるような?


「いや、繁華街とはちょっと違うな。どっちかって言うと、昼と夜とで全く違う町になる感じになる、地方の観光地。それもサツや行政も隙だらけでダメダメなよお」


 今、人の心をサラっと読んだ?

 怖いんですけどこのヤクザ。


「でさ、俺達の周りにいるの多分、ワル共だ。地元の極道やポン引きに、路地裏には強盗共やスリもいる。俺から離れちゃダメだぜ?」


 ええええええええええええ。

 なんか嫌な感じがしたけど、そうなの?


 昼はあんなに活気あって、綺麗な町だったのに、夜になったらこんなになるなんて……あ、赤いスカーフつけた人達が集まって来た。


 こっち見て……。

 ちょ! 私達に向かってくる。


「おい、てめえら見ねえ感じだな?」

「どっから来たんだよ、地元は?」

「俺らカモリースターなめてんのか?」


 うわぁ、良く見ると顔に切り傷の跡があるし、ヤクザだこの人達も……手にナイフ持ってるし。


「おう、君らとお話したくてさ。いいブツあるのよ」


「ブツだと?」


「そう、ブツが山盛りあるんだ。あんたら欲しい?」


 勇者は、ポケットから瓶を出すと、ネアポリのカモリーなんとかと言うヤクザに渡す。


 これ……麻薬取引だ。


 昼間に自由行動してくるって言ってたけど、何らかの魔法で麻薬作ったんじゃ……。


 確か麻薬取引って、莫大な収益が出るって聞いたことが。


 すると、勇者が私の方を向いて、一瞬悲しそうな顔をする。


「マリーちゃん、はっきり言うぜ? 俺は覚醒剤(シャブ)とか麻薬(ヤク)とか嫌いだからよ……二度とそういう風な目で俺を見てほしくねえ。な?」


 一瞬、この人の深い傷に触れた気がした。

 まるで、私が思い出した転生前の記憶のような、魂の傷みたいなものに。


 この人は、覚せい剤や麻薬を心の底から憎んでるんだ。

 きっと転生前、何か悲しいことがこの人に起きたのかも。


 すると、ネアポリのヤクザ達は、瓶の中身をクンクンと嗅ぎ、中身を口に運んだ。


「うめえ! 極上のタコのブツだ」


 あれは……確かクラーケンを切り刻んで缶詰のようにした瓶詰めだ。


 塩漬けしたクラーケンの肉……おえええええ。


「うめえだろ? 最高のタコのブツよ」


 いやいやいや、ブツはブツでも、クラーケンの肉のブツ切りなんだけど。


 ていうか、あれ本当に美味しいんだ。


「この瓶漬けにしたのが、山ほどあってさ。そちらさんの、いいシノギになるんじゃねえか?」


 赤いスカーフ集団のヤクザは、水晶玉で何やら話を始め、私達に笑顔を向ける。


「ブツの場所まで案内してくれ」


 こうして、私達はネアポリのヤクザの顔役の人が用意した、馬車を引き連れて、クラーケンのブツ切り入りの瓶を沢山置いてある、宮殿の中庭に彼らを案内した。


「マジかよ、ここって」

「ああ、亡命して来た姫様がいる」

「ヴィトー様の婚約者の」


 うそ、ヤクザにも私の噂が広まってる。

 そして勇者がこっち見てニヤリと笑って。


「そう、このお方こそ、マリー姫様よ!」


 勇者が私のフードを取ると、ネアポリのヤクザ達が驚嘆する声を上げた。


「姫様は、ここで汗水垂らして頑張ってる、おめえら市民の為に、これを恵んでくださるようだ。ありがたく頂戴しろい! 姫様、市民達にお言葉を」


 え!? 意味わからないんですけど。

 何を考えてるのこの勇者?

 最初売るんだって言ってたのに。

 まあいいや、ええと……。


「あのー、みんな頑張ってくださってるようなんで、美味しく食べてくださいね」 


 私は口のスカーフをとって、ネアポリのヤクザ達に、微笑みかけた。


「へへえ! 我らカモリースターと、ネアポリ市民がありがたく頂戴いたしやす!」


 あ、顔役の人が跪いた。

 なんか涙流してる。


「ありがてえ、ありがてえ」

「俺達の為になんて優しい姫様だ」

「お美しい! 慈愛の女神様だ!」


 ネアポリのヤクザ達が一斉に私に跪き、喜びの涙を流しながら、感謝の言葉を述べるけど……えーと、これ何?


「ヘッヘッヘ、俺の経験上、こういう観光の町は、面倒くせえ地元のヤクザが仕切ってんのよ。そういう奴らの縄張り(しま)で活動する時は、こっちから誠意見せて、スジ通して、有名人連れて行くに限るぜ」


 そうなんだ。

 でも、喜び方が尋常じゃない。

 どうしちゃったの、この人達。


「そんでよ、こいつらは所詮、社会の日陰者のヤクザもんで、社会の底辺ってやつだ。こいつらカモリースターって言ってたが、こういう、行政の力があんまり及んでねえところは、地域密着型な地元の極道が、自警団してんのが多いのさ」


 自警団? そうか、だから、この人達が、夜の町を練り歩いてたんだ。


 観光客や強盗や泥棒が、町の人達に悪い事をしないように。


「逆にいうとよ、コイツらがそういう事をしなきゃいけねえって事は、この国の実態はどうしょうもねえと言う裏返しさ。誰も評価なんかしてくれねえのに、町を守って来たコイツらに、美しい姫様が応援しに来たら、男として人間として嬉しい話だろ?」


 社会から認められない人達が、私が認めてあげた事であんなにも喜んでくれるんだ。


 けど、どうしてこの町がこんな風に。


「さすが王女殿下! 夜の外出は感心しませぬが、ヴィトー様も心を痛めておられた、無頼の徒の集団を誘き寄せるとは、このサルヴァトーレ感心しました」


 サルヴァトーレ伯が、宮殿中庭に現れて、多くの騎士団を引き連れてきた。

 これは一体?


 すると、勇者が私とネアポリのカモリースターを庇うように、勇者が前に立つ。


「よう、クズ野郎。まんまと誘き寄せられたのはてめえの方だ。町の住人から聞いてぜ? てめえこの町の住人の観光業の上りを何かにつけて、税金で徴収し、私腹を肥やしてんのを。この宮殿が出来たのも、てめえが市民をイジメたせいだ……そうだな?」


「マリー殿下の従者が何を……」


「しらばっくれるんじゃねえクズ野郎! 重税してるくせに、町の人間には還元しねえで! それで思い通りにならねえ、こいつらカモリースターを、片っ端から牢屋にぶち込んでやがるだろ! 全てはヴィトーとか言う野郎に取り入るために、重税した金をロマーノに送ってやがるのが、この町の正体だ!」


 そんな……すべてはヴィトーの為に、ロマーノ王国の為に町の人達が苦しんで。


「領主の俺が、領民を自分の自由にして何が悪い! 貴様、この連合国を支配する20人衆の一人、サルヴァトーレ・デ・ネアポリーノを、マリー殿下の前で侮辱……」


「何が侮辱だこの野郎ぉ! てめえより立場の弱い奴らをイジメやがって! 町の住人を侮辱してんのはてめえだボケ! 俺はよお、そういうワルを何度となく見てきた……ワルに侮辱も尊厳もねえ!!」


 勇者は、短剣マインゴーシュを手にして、サルヴァトーレ伯と騎士団に戦闘の構えをとった。


 そうか、昼にこの勇者が自由行動してたのは、住人に色んな事を聞いて回って、この町の実態を調査するためだったんだ。


 ヤクザだけど、この人は勇者。

 人々を救う世界の救済者。


「……なんだと貴様ぁ、者どもこやつにかか……」


 勇者が、サルヴァトーレ伯が何か言う前に、マインゴーシュをお腹に突き刺した。


 一切の躊躇もなく、一直線に、まっすぐ。

 私は、凄惨な光景に思わず目を背ける。


「ぐあああああああああああ」


「おせえよ、隙だらけだ」


 その時、騎士たちが持ってた剣や短剣が宙に浮き、炎を纏って次々と勇者の背中や足に突き刺さった。


「なめるなよ、無礼者が! 俺は、サルヴァトーレ・デ・ネアポリーノだ! 風と炎の魔法の使い手にして、この国のエリート軍人だぞ!」


 そうか、サルヴァトーレ伯は風の魔力で勇者に無数の剣を突き刺したんだ。


 魔法はこんな事もでき……いけない! このままじゃ勇者が。


状態確認(ステータス)


 今の攻撃で、勇者のHP8888が、3千台に減ってる。


 そうか、HPが多くても身の守りが足りないと、大ダメージを受けるのね。


 けど、そんな状況にもかかわらず勇者の顔色が全く変わらない。

 そして、スキル意地の輝きが発現されてステータスがアップした。


「何なんだ今のは? 場末のハリ師のお灸かコラ? ツボにも効かねえしヤクザなめやがって」


 勇者の体が真っ白に光り輝いて、魔法で治癒して、突き刺さった剣や、短剣が床に落ちていき、逆に床に落ちた剣と短剣が宙を飛んで、サルヴァトーレ伯の体に突き刺さった。


「うぼぉおおおおお」


「情けねえ野郎だ、こんなチンケな攻撃で痛そうな顔しやがって。男はなあ、どんな状況でも、場面でも、女が見てる場面で格好をつけねえと、生きる価値はねえ!」


 勇者が、サルヴァトーレ伯に突き刺したマインゴーシュへ捻りを加える。


 この状況をサルヴァトーレ伯に付き従う騎士団や、ネアポリのカモーリスターと呼ばれる、ヤクザ達がじっと見つめていた。


「さあどうした? ワルめ。てめえの意地はこんなもんか? 人間としての意地を、ワルとしての意地を見せて見ろ!! この俺に対して!」


「なめるな無礼者が! 貴様に俺の力を見せてやるぞ!」


 すると、勇者とサルヴァトーレ伯の頭上に巨大な火球が具現化した。


太陽風(ソーレ・ヴェント)


 何だこれ、炎と風の力で火球が勇者とサルヴァトーレ伯を包み込んだ。


 魔法使いの戦闘って、こんなにも激しいの?

 私、全然この世界の事を、魔法をわかってなかったけど、あの勇者なら。


「どうだ無礼者め! 俺の服は炎耐性の加護を受けてる。極大魔法で灰になれ!」


 すると、勇者は炎に包まれながら笑い出した。


「何が極大魔法だ馬鹿野郎。チンケな想像力してっから、この程度の魔法を極大なんていきがりやがるんだ」


「なんだとお!」


 すると、勇者は魔力を高め、全MPを消費する。


 肩幅に足を開きつつ右足を後ろに引き、両手を合掌して右に体を捻り、腰を落として合わせた両掌に魔力を溜めながら、脇腹の方に持っていく。


地獄の火炎(ヘルファイア)


 勇者が合わせた掌を開きながら両手首も密着させ、両手を前方に突き出すと、青白い光線がサルヴァトーレ伯を包み込んで、宮殿の中庭から城壁を貫き、サルヴァトーレ伯を吹き飛ばし、戦闘不能にした。


 なんか……どっかで見たことあるんですけど。


 あれ、あれだ、私も見たことある名作漫画アニメの主人公の技。


 かめ〇め波だあれ。


「チッ、本来の俺なら何発もぶちかませるのに、さすがにこのレベルだと無理か。威力も本調子より弱い。恒星の光を収束させた、焦熱地獄の冥界魔法、マサ……いけねえ、地獄の火炎、か〇はめ波はよお」


 やっぱりあれ、〇めはめ波なんだ。


 ていうか、今なんか凄いスケールの大きい事言ってたような……。


「まあ、従来よりはるかに威力は弱いとはいえ、野郎がくたばったか確認は必要だな」


 勇者はマインゴーシュを手に、吹き飛ばされたサルヴァトーレ伯に歩いて行くと、大火傷を負った虫の息のサルヴァトーレ伯に、ペチャラが応急手当てをしていた。


「ペチャラちゃん、コイツ助ける必要ねえよ。一思いに俺がサクッと終わらすから」


「もう、十分です戦士さん。私は医師見習いにして、看護師ペチャラ。怪我人がいれば治療を施すのが、私の信念です」


 勇者はマインゴーシュを、懐に入れてた鞘に収めると、ペチャラちゃんの傍にしゃがみ込む。


「こう言う時はよ、神様に祈り捧げながら、魔力を相手に与える生命力に転換させ、体細胞を構築するイメージで治すんだ……回復(ヒール)


 勇者は、サルヴァトーレ伯の大火傷と刺し傷を治していく。


 この人、回復魔法も達人なんだ。


「女がこうまで言ったからには、応えてやるのが男ってもんだ。クズ野郎命拾いしたな? 次はねえぞ」


 こうして、サルヴァトーレ伯は勇者の手で捕縛され、集まった騎士団共々、カモリースターの人達に牢に入れられた。


 そして、私と勇者は跪いて私達を見る、カモリースターのヤクザ達の前に立つ。


「マリーちゃん、こいつらに声掛けてやんな。非道は暴かれ、この町は救済されるだろうと」


 勇者は、日本語の小声で私に声をかける。


「サルヴァトーレ伯の、非道は今夜暴かれました。マリー・ロンディニウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリーの名の下に、ネアポリ市民達に栄光があらんことを願います」


「我らカモリースター、生涯をかけて貴方様に忠誠を誓います!」


 ようし、これで一件落着。


 ……でもないか、明後日来るヴィトーに、サルヴァトーレ伯の事を伝えて、引き渡さないと。


「それでよお、姫様はカードゲーム遊びに目が無くて、ここを賭博場にすっから。おめえらこの町の有力者や旦那衆呼んで来い、遊ぼうぜ」 


「へい! 従者の戦士様」


 ちょおおおおおお。


 確かに転生前は、ゲーム好きだったけど、別にギャンブルとか好きじゃないし!


「ヘッヘッヘ、これでヴィトーとかいう、転生前俺が知ってるかもしれねえ野郎に話つければ、この世界の活動資金を、ある程度稼げるな。今の俺の魔力コントロールじゃ、無限地獄の隠し金庫から、怖くて金とか出せねえし」


 こうして、私の仮住まいの宮殿は勇者の賭博場になった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ピーターパンwww 味噌汁吹いた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ