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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第124話 踏み出す一歩

 私が踏み出す新たな一歩は、とても重たくて難しかった事を覚えてる。


 生まれ変わって私の前に現れた彼女に、学校から居場所を無くされて……家に、部屋に閉じこもって、お母さんの呼びかけにも答えなくなって、昼夜逆転してネットばかり見てたっけ。


 前世の両親は共働きだったから、お母さんが帰って来たら布団に入り込んで寝込み、お父さんは忙しくてなかなか家に帰って来なくて、帰ったら私の部屋を心配そうにノックしてたけど、私は何も答えられずに……そしてあの悲劇は突然起きた。


 それと同じような感じに、今の私は陥ってしまってる。


 あの時、コロナになる前は、電車に乗って学校行って勉強するのが当たり前って感じだったけども、登校制限がかかって、友達だった彼女とも会えなくなって、家でリモート授業受けるようになって、いつの間にか夏休みになって意欲がなくなって……。


 人間って不思議なもので、そういう環境になると外の世界が怖くなる。


 家の中の飼育に慣れたペットの猫は、一旦そういう環境に慣れると外に出るのを怖がるって言われてたけど、そういうのと似たようなものかもしれなかった。


 外はコロナで大変で、私と同世代の子達もスポーツがしたくても出来なくて、大きな夏の大会とかも中止になって、年上の人達も就職先が狭められ、あの時の社会は私達子供に我慢を強いていた。


 大人はというと、自分達の決めたルールなのに政治家も官僚も有名人も、外出制限や外食制限なんか守らないで、好き勝手やってて私達は大人に幻滅してて、若い人達もルールをあまり守らなくなってて、コロナ世代なんて言われたりした。


 大人が好き勝手するなら、私だって学校行くの嫌だし、好き勝手したいって思ってた部分があったかもしれない。


 それに今思うと彼女の、絵里の気持ちもわからなくはない。


 突然自分が日本人じゃないって親からカミングアウトされて、なんとか許可証を渡されて、その国の言葉も喋ったことも行ったことも無いような、東アジアの独裁国家の国籍で、自分が自分じゃなくなってしまい、彼女も苦しんでいたんだろう。


 私は中に籠ったけど、彼女は外に出てこの社会はおかしいって言いたかったかもしれない。


 そしてたまたま身近にいた私に、彼女のおかしいって気持ちが爆発して……。


 私達は、お互いの人生の歯車が狂いだして、社会の無常を感じてお互い酷い死に方をした。


 私は日本政府の官僚だった親から殺され、彼女は自分の国籍の国家から殺された。


 死に方は違ったけど、彼女は私と同じだったんだ。


 そして二人共、魂に傷が入って何の因果か魂に傷を負った人たちが転生した悲しい世界、ニュートピアに私達は姉妹として転生する。


 今度は国家からも、父からも愛情を受けて信頼されて。


 こうして私たちの運命は再び交わったけど、様々な陰謀で引き裂かれて、私は彼女を同じ人間なのに……酷いことを言って拒絶して、あの悲劇は起きてしまった。


 まだあのシシリーには島民も残ってたけど、多くの人達が私の判断ミスで死んで、楽園のような島は地獄のように変わってしまって、私は何の責任も取れないまま、ジロー達に連れられてロシアンマフィアだった人が支配する、東の果てのジッポンに辿り着く。


 滞在して何日目だろうか。


 ずっとペチャラが……私の、この世界での初めての友達が私を看病してて、眠ると光の神様ヘイムダルが出てきた。


 何度目かの夢で私は、もう戦えませんって告げると、私を悲しそうな顔で何も言わずに見つめて、姿を消す。


 それ以降、彼は私の夢に出る事は無かった。


 そしてこの日本に似た島の人々は、優しい人ばかりだった。


 時代劇みたいに、みんな着物とか着てて肌の色と髪の色は日本人っぽかったけど、なんか少し違くて、色んな種族の血が混じってる人がいっぱいいて、内心少し怖かった。


 けど……車椅子に押されて、騎士達にガードされながら、城下町っぽいところを通り抜けた時、私に心配して声をかけてくれて、私は彼らの言葉をよくわからなかったけど、みんな優しい人ばかり。


 以前敵対していたスルーズってワルキューレの背が高い子も、何が起きたかは知らないけど今までの嫌な感じが無くなってて、私に遊ぼうって言ってきたり、今も私の側にいるタヌキの耳と尻尾をした男の子も、私に優しく微笑みかけてくれる。


 それなのに私の身を案じていた騎士達は、彼らに酷い言葉を浴びせてて、私は何も考えられなくなって、ただ謝る事しかできなくて。


 元ロシアマフィアの人にも会ったけど、彼も優しい。


 背は私と変わんない感じでイメージと違ったし、黒髪を雑なちょんまげみたいにして、ボサボサで無精ヒゲ生やしてた以外は、どこか少し物憂げな感じだったけど、優しそうなイケメンで凶暴と言うよりどこか思慮深さを感じた。


 彼は悲しそうな顔して、私に言っていた。


 自分は本当の意味で強い男じゃなかったと。


 最初に思っていた理想の自分からどんどんかけ離れて行って、社会の裏で盗賊として生きてきて、麻薬を扱うようになって、自分が自分じゃなくなったって。


 麻薬中毒者になって、暴力に生きて暴力で死んだと言っていた。


 そして心は、とっくの昔に欲と暴力と悪と麻薬の快楽に染まり、死んでしまっていたと。


 生まれ変わった世界で、大切な人達を失い、酷い戦争の状況で周囲は敵だらけになってて、彼だってつらい状況のはず。


 けど彼は、人の心の光を取り戻したって、彼の黒い瞳に、星のような輝きが瞬いて力強く言っていた。


 人間の生き方を、想いを、誇りを、誰かを愛さずにはいられないと。


 人の尊厳を奪うものから、人の尊厳を奪い返すんだって言ってて……


 だから自分は勇者になったと、私に人生を諦めるのはまだ早いって言って、勇気づけようとしてくれた。


 ジローは私を心配してくれてて、自分が生まれ変わったロマーノも今大変な状況なのに、義理堅い彼はずっと私を気にかけてて後ろ盾になってくれて、デリンジャーも龍さんも、私の前世の話だって水晶玉の情報を知ってる筈なのに、そんなことはどうでもいいと優しく言ってくれた。


 自分達の道筋を私が作ってくれたって言って、私にも一歩を踏み出そうって、みんなは……


 私は、ペチャラが押してくれる車いすから立ち上がって海を見る。


 暗雲が立ち込めてて雷と突風、そして激しい雨が降り始めて、水で出来たような大きい人型の化物が姿を現し、周りのサムライのような兵士たちが指さして何かを言ってて、昔の暴走族のような、よくわからない四字熟語を刺繍してる人たちが集まってきて、私に向って何かを言ってる。


「てめえら早くしろ! この姫さん達を逃がしてやるんだ!」


「総長、あの化物は一体なんだべさ」


 訳が分からない状況に、私は腰が砕けそうになって体が震え出して胸の動機も激しくなり、車椅子に座りそうになるが、寸前の所で踏みとどまった。


「姫殿下!!」

「我ら騎士団が今お守りいたします!」


「ヘタレ野郎共は下がってろこの野郎! おう、チャカ構えろ、あの化物ぶっ潰すぞてめえら!!」


「へい!!」


 騎士団達も集まってきて猿顔してる人が何かを命じてて、暴走族のような格好をした人たちは一斉に火縄銃のような魔力銃を構えると、海から空飛ぶピラニアみたいなのや、ヒレが飛行機の翼のようになった鮫が、私達に群れで襲ってくる。


「来やがったぞてめえら! ぶっこめえええ」


 猿顔の人がジッポン語で命令すると、暴走族みたいな人たちが、銃や刀や槍で立ち向かい、竜に乗った人達や忍び装束の人達も、モンスター達に魔法攻撃や竜のブレスで攻撃し始め、海の向こうで、光り輝く何かが物凄い速さで水の巨人に体当たりしたり、何か凄い魔法を放っている。


「この薄汚い島々の雑種めがああああ、それに貴様! その姿は魔界の悪魔か!?」


「俺が悪魔(チョルト)だと……お前が悪魔(チョルト)馬鹿野郎(ブリャーチ)!! ジッポンの奴らを散々道具のように弄んで、祈りに耳を傾けず救おうともせず、滅べだと!? 自分勝手なゴミ野郎(ムラ―シ)!!」


 感覚強化を使い、双眼鏡みたいにして視力を高めたら、彼が……イワネツさんが水の巨人と戦っていた。


 それに……彼は黒髪が真っ赤に逆立って肌が青白くなってて、手に金属バットのようなのを持ってるし、煌びやかな衣装を身につけてる、まるで……悪魔。


 巨人が繰り出す、水の斬撃や砲撃をものともせずに、金属バットを振るって攻撃してるけど、私が見てきた人達とも全然違う戦い方だ。


 先生は剣術と魔法、ジローは沖縄空手、デリンジャーは銃火器、龍さんは二刀流剣術、そのどれもと違って、あれは荒々しい暴力。


 前世でオリンピック選手を目指してるくらい、身体能力が滅茶苦茶高かった五体全てを武器にして戦ってるんだ。


 水の巨人から、ウォーターカッターや水の大砲のような攻撃を受けても、一切怯まず避けようともせず、金属バットみたいのを振り回して、魔法を乱射して戦ってる。


「ワシから哀れな妻子を奪うような、ワシを否定する世界など、もう知るか! 全ての生みの親ニョルズとして無に返してやるぞ!!」


 ニョルズ……フレイとフレイアから世界を奪われた神の名前、この世界を創った神。


 その魔力は、今まで戦ったフレイやフレイアをも超えて、禍々しく膨大な呪いのような力を感じた。


「マリーちゃん、しにやばい! 逃げる(ひんぎー)さー、りか!」


 ジローが装備品を身に着けて、海から来るモンスター達を蹴散らしながら、立ち上がった私に声をかけてくるけど、その時、私は目の前の海の異常に気がつく。


 浜辺の波打ち際から、波が一気に引いて遠くまで砂浜が広がって……これはまさか。


 私が小学生だった時、テレビで見た東日本大震災を思い出す。


 津波で1万人以上の人が飲み込まれて、家も建物も何もかも破壊されて、原子力発電所が大爆発を起こしたあの大災害。


 それと同様かもっと酷い津波が、ここを襲おうとしていた。


「この島々を、ワシの大禍津波(ディザスターウェイブ)で無に帰してやろう! 滅びるが良い、薄汚い島々の雑種共!!」


 このジッポンそのものを、津波で滅ぼす気なんだあのニョルズは。


 自分が生み出した島を、国を、人々を雑種だって言って呪って、滅ぼそうとする悪意の塊。


「ふざぎるや……外道(げれん)。くぬ世界(しけー)を、ジッポンを差別ーする、ぽってかすー! うんなくとぅーさせんばあああああ」


 ジローの体が光り輝いて、体のシーサーの入れ墨が鮮やかに発色して、イワネツさんに加勢しに向かっていく。


「貴様らああああ、何をやっとるか! イワネツ様に加勢するのじゃ!! 軍規違反者はこの柴木が処刑するぞ!」


 軍の半数は、目の前の水の巨人に震えて、両手をついて土下座のような命乞いをしてる。


「か、神様じゃ……天罰じゃ」

「ワシらの行いに怒ってんだ」

「神様、お助けくだせえ」


 彼らは、あんなものに差別されて、滅ぼすって言われても、天罰だとか言って祈りを乞いながら慈悲を述べてるんだ。


 なぜなら、目の前にいるのは神だから。


「お前……お前を神だと崇めて祈りを捧げてた奴らを、俺の織部どころか本当にジッポンを消すのか! まるで害虫みてえに……お前は神だろうが!!」


「こんな雑種共消えれば良い! 滅びの時じゃ! 神としてこの地を滅する!!」


 酷い……自分が生み出した人や島々を、あんなにも祈ってくれる人達を、こいつ……。


「ニョルズ上級神!! いや祟神!」


 その時、振袖着て私に戦えと言ってた女の子が、黒いゴスロリっぽい服着て浜辺に立ち、人間を呪う神の前に立つ。


「冥界神審問官として意見! あなたの行為は……殺人未遂の現行犯! 逮捕監禁罪! 人類侮辱罪の罪神なのだわ!! 明確な刑法違反と、創造神が定めた神の不文律に違反してる! あなたは神として人間界を監督出来なかった責任を取り、人間達に謝罪すべきだわさ!!」


「貴様は……大逆神の娘ヘル? だから何だというのだ? ここはワシが生み出した世界。このワシ、ニョルズが粛清して何が悪い!」


……この少女の方が、神様らしく、小さな体で訴えてるのに無責任すぎる、こんなやつ神じゃない! 化物だ。


 すると、女の子を庇うようにイワネツさんが前に立ち、金属バットのような武器を化物に向ける。


「神野郎! 罪と罰って知ってるか? 偉大なるロシア文学の作家が残した名作だ。自分を選ばれし男と思い上がった馬鹿が、殺しの罪を行う。だが罪の意識に苛まれ、最後は人の美しさに目覚めて、人間として男の責任を取る話。あのヤクザが、シミズがそうだ。そして俺は、あいつを見て勇者を目指した!」


「だからどうした? ワシこそヴァンの頂点、選ばれし神だが?」


「……一度だけ聞くぞ神野郎。お前に祈りを捧げてる人々を、この美しいジッポンを消す罪。お前は神として何も感じねえか?」


 漁師や、周辺に住んでる人達も、神よ怒りを沈めたまえと、手を合わせて祈りを送っていた。


「ない! 此奴らを悪魔たるお前もろとも粛清し、我が力を更なる高みへ! 憎きオーディンに復讐するために!!」


「そうかい、よくわかったよ。じゃあ罰の時間だ。お前が滅びろクズ野郎(スーカー)!!」


 イワネツさんの持つバットから、7色の光が収束していき、お経のような呪文を唱えた瞬間、桁外れで、でたらめな魔力の奔流が迸り、彼は手に持った金属バットのような何かをふりかぶった。


金剛光極(ヴァジュラパーニ)


 一気に、水の化物まで間合いを詰めてって思いっきりスイングすると、化物ごと海の水が持ち上がって、大爆発と同時に津波として押し寄せようとした海水が一気に蒸発する。


「あいつー、殺ちゃんが?」


「まだだジロー。こいつ!」


 ジローとイワネツさんが何かを感じ取った瞬間、地鳴りとともに巨大な地震が私たちを襲う。


「ふっふっふ、感じるぞこの島々の雑種の祈りを、命乞いの念を。その力で、ワシはさらに強くなる。恐怖と祈りこそが我が力、ワシを崇めよ」


 蒸発した海水は、雨雲となって大雨と雷を降らし、イワネツさんが止めた津波は、さっきの地震でさらに勢いを増して、黒い水の塊のようになっていき、地平線の彼方から私たちに向かってきた。


 それはテレビで見た、東日本大震災のような黒い水の壁が押し寄せる感じで、兵士たちも呆然として半数以上立ち尽くして、軍隊が機能しなくなってた。


「させるかあああああ、クソッタレ(イジーナフイ)!!」


 イワネツさんが光の障壁を出して、ゴスロリの女の子が、巨大な黒いロボットのようになって、津波を押し留めようと力を使って押し返そうとする。


「この世界は、この国はわらわが担当なのだわ! わらわには勇者がいる! 破壊なんかさせない!」


 二人が力を合わせて、海岸という海岸に津波を防ぐ防波堤のようなものを築いていくが、海から水がどんどん溢れ出ようとしてる。


「イワネツー手ぃ貸すさああああ!!」


 ジローが、みんなが津波を防いで、魔力を海に込めてこの国を救おうとしていた。


 すると、犬耳っぽい人が青い顔をして、指で十字切ってたのを、背の低い猿顔の人が引っ叩いてた。


「何やってんだよ! 俺達もあの津波止めんだよ! 幹部だろうが!!」


「ダメだ、足が動かなくなって。オレ、前世で海で死んで、波に呑まれて……」


「死ぬならカッコよく死にてえって言ったのは、おめえだろ!! 俺はカッコ悪く死ぬなんてもう嫌だ! それを教えてくれたのはおめえだ! 行こうぜダチ公!!」


 犬耳の人が猿顔の人に説得されて、体を奮い立たせて、目の前の津波に咆哮を上げて立ち向かって行く。


盗賊(ヴォール)の人でなしと呼ばれた俺が、ジッポンを! 世界を、俺の織部を救ってやる!! こんな水の壁くれえ押し返してやらあああああ!」


 イワネツさんの体が光り輝いたのを見て、私はふいに先生の教えをふと思い出す。


 人間としての義理と人情と道理の話。


 恩をかけられたら、義理が生じる。


 義理が出来たら情がわく。


 そして情が出来た相手を守るのが、人間としての道理。


 人を愛し、筋道を通し、深い情けを以て、人と人とが助け合う事を、仁義という原理。


 私は、彼らから優しくしてもらった。


 親愛の情がある、彼らを守りたい。


 相手は、強大な力を持つ悪。


 悪は、圧倒的な暴力で、自分勝手に振る舞う恐ろしい相手。


 けど、心が相手に屈しなかったなら……無敵。


 すなわち、一番の敵は自分! 


 己に打ち勝つ強い心を私に!


 私が決意した時、防波堤から黒い水が溢れ出して、私達を押し流そうとしたした瞬間、私とペチャラを庇うように、狸耳の男の子が両手を拡げて私達を守ろうとした。


「男子たる者、武士たる者、命懸けで女子を助けるこそが武士(もののふ)の道。武士道とは、世の不条理に立ち向かい、死ぬことと見つけたり!」


 防波堤が破壊され、津波がジッポンを覆おうとした瞬間、私は彼の勇気に触発され、津波が足下を覆い、とても重たい感触だったが、今まで動けなかった一歩を踏み出し、私の行く道を思い出す。


 この世界で自分だけじゃなく、みんなで楽しむのが私が思い描く楽!


「もう逃げない! 私に優しくしてくれて守ろうとしてくれた人達を、優しい人達を守るんだ! 絶対防御(プロテクト)!!」


 津波が私達を飲み込もうとした瞬間、私は日に一度使用できる絶対防御を発動させる。


 すると、私達を覆っていた津波が嘘のように消え去り、暴風雨が止み、雨雲から一筋の太陽の光が私を照らし出し、空には虹がかかっている。


「な……なぜじゃあああああ。なぜワシの最強の魔法が! 何故ワシの力が消え去ったのじゃああああああああ! 奇跡なぞこの地に起きぬはずなのに!!」


 ニョルズは、雲の切れ目から本体を晒し、水色の髪に鎧を着た青年のような姿をして、頭を抱えて困惑している。


 今が……悪を倒す勝機!


「私は負けない! 二度と私やこの世界の人たちが悲しい思いをしない為にも、もう負けたりするもんかあああああ」


 するとドレスが焼けて全裸になり、私の胸に黄金に光輝く胸当てとスカートのような腰当て、膝当、足甲が次々と装着されていき、背中に黄金に光り輝く羽根がつく。


 頭に光り輝くカチューシャが装着されると、耳を覆うヘルメット、いや兜のようになり、兜の両側に光り輝く羽が付き、今まで以上の力が湧いてくる。


 首には、セトの攻撃で消滅した筈のピンクゴールドを細工したような、中心にルビーが入った薔薇の形のペンダントトップが再び具現化して、手には黄金の薔薇が先端についた新しい杖を手にしている。


 空には光神召喚の文字が浮かび上がり、光の神ヘイムダルが出現して、ニョルズと対峙した。


「お、お主はヘイムダル……なのか?」


「ニョルズよ、神として誇り高かった君は、今では自分が生み出した生命を否定し、神としての責任を放棄して祟神になった。もはや君は神じゃなく罪神、残念だ我が友、我が弟子よ。そして、ヴァルキリー、心ある戦乙女よ。この哀れなニョルズを君の手で、この水神の、いや祟神と化した哀れな男へ終止符を。この世界をあるべき世界へ」


 光の神はニョルズに向けて怖い顔で何かを告げると、私に向けてすべての決着を付けろと言ってきた。


「そんな、ヘイムダル。私はあなたのニョルズだぞ! 待ってくれ、私は貴方の……小賢しい雑種共め! お前達のせいだ! お前達のせいで私は神としての師から、私を導く光の神から……」


「うるさいわよ、最低男。自分が生み出した人々や命に、責任もとれないで滅ぼそうとする邪悪。私は、勇者の弟子だ……世界に救いを求めて祈る、人々の光だああああああああああ」


 私の鎧から、かつてないほどの光の奔流が溢れ出し、目の前の邪悪と対峙する。


 勇者の弟子として、この世界の救済を求める人々の代弁者として。

自分を取り戻した主人公の視点で、次回から第三章ラストバトルです

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