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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第122話 世界を祟る者 前編

 一方ジッポン織部の時刻は昼過ぎを迎え、浜辺で行われた地引網の中には、大量の魚と、家屋の破片らしき木片が入っており、ニワトリこと勘定役の丹羽が鳥のような目をして、虫眼鏡で木片を吟味する。


「ふむ……やはり建築物で使われた木片に間違いございませぬ、イワネツ様」


「よおし、どうやら伝承通り伊東湾の海域に、目標のブツがあるみてえだな。ジロー泳ぎは得意か?」


「当然! 俺ぁ沖縄人(しまんちゅー)さぁ。ワラバー(ガキ)だった時、地元ぬ泡瀬ぬ海でぃ、でぇじーハマグリ密猟しー売っ払ってたさー」


 ジローは、屈伸運動や腕回しや肩回し、そしてストレッチのあと、左右に首を振る。


 イワネツは、海底神社に眠ると言われる伝説の剣、アマノムラクモの剣を盗掘する気だった。


 その剣を自分のものにして、イワネツは初代天帝と八雲と呼ばれた連合王家で行われた国譲りを再現して、自身のジッポン支配の正当性を示す、大義名分を作るためである。


「鬼髭!」


「ははー! イワネツ様」


「ジローとひと泳ぎしてくるからよお、お前らは網で取れた魚で、スープか鉄板焼きにして先に食べてろ。それと泳ぎ終わった俺に、南朝の戦争ん時みてえに、冷めたスープと蕎麦粥(カーシャ)を出しやがったらぶん殴るぞ」


「ぎょ御意! 兵卒共、食事にする! 採れた魚を大鍋で味噌煮にするのじゃ……っておい! 犬と猿めら! なぜ勝手に食材をもう焼いてるのじゃ!」


 鬼髭こと柴木は、手に持った金棒を猿ことヒデヨシと犬こと犬千代に、ケツバットの如く打撃し、イワネツはジローと共に海底神社の探索に海に入る。


「おい、クズ龍! 龍神の加護で俺とジローに力を与えろ! 海底散策だ」


 イワネツは、自分とジローに龍術がかかるのを確認した後、海深く潜水を開始した。


 彼らにかかった龍術は、水中の酸素を皮膚から吸収する事や身体能力を高める効果を持つ。


 例えば酸欠になる事も、海底を潜水する事による人体への深刻な影響、高圧と気圧の影響で体が変調をきたす、減圧症になる事がなくなった。


「チビ人間達は、あの寒そうな海に潜ったのだけど、わけがわからないのだわ……それと……なんであなた達がいるのかしら? スレイプニルと冥界の拒魔犬公」


 スレイプニルは、拒魔犬を背に乗せてヘルの前に駆けてくると頭を下げた。


「ヘル……殿であったな。私はオーディン様の命令でこの世界に来たのだが、訳あって神の力を失い……」


「冥王ヘル、ヤミーお嬢様から、お前の監視役を頼まれておる。駄馬よ、私を降ろすのだ。あの娘に魚を持っていく」


 マリーにバロンと名付けられた拒魔犬は、パラソルの中で、海を見つめるマリーに、ぺっと旬の脂がのったサバを吐き出した。


「食え、食べて英気を養うのだ」


 マリーは、尻尾をブンブン振る拒魔犬を一目見た後、すぐに海へ視線を戻して呆けた状態になり、拒魔犬は尻尾をシュンと垂れる。


 ヘルは、試しに神の魔力でマリーの心の中を読むが、彼女の心は後悔と自責の念で再起不能状態に陥っている。


――ごめんなさい、もう私は……王女としてもヴァルキリーとしての自信も無くしてもう戦えない。戦う理由も自信もない……楽になりたいの


 ヘルはパラソルの中に入り、ため息を吐いた。


「人間よ、お前は戦うべきだわ。そして足掻くべきなのよ。わらわはお前の今までの戦いや、行いを見た。世界を救うヴァルキリー、オーディンやあの最低のロキに立ち向かう強さを、お前は持ってるはずなのだわさ」


「……」


 二人の間に沈黙が訪れ、マリーの瞳に涙が滲み出た時、清潔な手拭いをタヌキ耳が生えた美少年、松原元康が小首を傾げながら差し出す。


「なんで、みんな……優しいの。もう私は、自分の居場所も自分のせいで無くして……自分のせいで大切な人達を失ったのに、なんでみんな、ジローも、ロシアの怖い人だったあの人も、こんな私になぜ優しくしてくれるの……」


 マリーは涙声で呟き、元康はニコリと微笑み、優しくマリーの涙を拭いた。


「娘よ、あの時助けに行くのが遅れてすまぬ。弟分から、マサヨシから頼まれたのに、申し訳ない」


 拒魔犬は呟くと海に向き、悲しげな遠吠えを立てた。


 一方、イワネツとジロー二人は海に潜ると、どんどん海中の明かりが消えて行き、水深30メートル程に差し掛かり、一面が濃い青の世界になったため、一旦泳ぎをやめた。


 この海域は人食い鮫の報告が、イワネツにもたらされていた。


 地元の漁師も警戒して定期的に鮫狩りをしているが、古代の魔界のモンスターのギラロトンと混血した鮫の体躯は平均15メートルを超え、小さな小舟ならば丸のみにできるほどの体躯を誇る。


 二人は滝本ことフクロウが渡した、水中松明を右手に持ち、魔力を込めると周囲の海中がパッと明るくなった。


 松明の明かりを頼りに伊東湾を潜ること水深40メートルの地点で、ジローは海底神社の巨大鳥居を見つけ出すと、下を指さすジェスチャーでジローがイワネツへ伝える。


 さらに海中の奥底まで潜ろうとすると、巨大なサメが何体も二人に突っ込んできた。


 ギガロトンと混血した、ニュートピアジッポン沿岸にいる鯱鮫、その中でも特に凶暴性が高い赤鯱とも呼ばれる個体であり、その凶暴性は巨大なナガス鯨すらも出血多量にして屠り去る。


「フン!」


 ジローがえら目がけて4本貫手を繰り出し、体内で魔力を解放すると鮫は逃げ去った。


 イワネツはもう一体の巨大ザメの目玉に向けて、右ストレートを繰り出し、衝撃でサメは頭骨の内部にある脳が破裂して絶命させた。


 しかしサメの血の匂いを嗅ぎつけて、大小の魚の群れが彼らに纏わりついてきたので、このまま魚達の相手をしてもキリがないと、急いで海底神社まで潜り、境内への潜入に成功する。


 地球世界の日本の神社に酷似する、大社造の内部を潜る事しばらくして、なんらかの魔力障壁で水が入ってこない本殿に辿り着く。


 二人は顔を見合わせて、魔力障壁の空間に入り辺りを見回すが、木材で出来ているにも関わらず、海底の水圧や腐食に一切さらされてない状態を見て、二人は強い違和感を覚える。


「不思議やん、イワネツー。ここの内部水が入っちくーんどー?」


「ああ、妙な感じだな。こういう時、ビデオゲームだとお宝を守るモンスターとか出てきそうだよな?」


「?」


 転生前1975年に死んだ、金城二郎の転生体であるジローは、ビデオゲームやテレビゲームと言われてもピンと来なかった。


「ん、ああ、ドラゴンウォーリアーってゲームだ。テレビにケーブル繋いで、色々楽しめるコンピュータゲーム、日本が作ったファミコンって奴よ。あれはいいもんだったなあ、5までプレイしたぜ」


「コンピュータ? ああ、マイコンてぃ名前(なめー)で、確かアルテアばー? アメリカから部品密輸させてぃ、本土と台湾に色付けて売り飛ばしたさ。ロシア人も買い付けに来たやしが、あれー金になったさぁ」


 ジローが思い出したマイコンとは、マイクロコンピュータの事を指す。


 マイコンはCPUとしてマイクロプロセッサを使用したコンピュータで、アルテアとはAltair 8800、一般消費者向けにアメリカ合衆国で販売された最初期の個人用コンピュータであり、「世界初のパーソナル・コンピューター」と呼ばれることもある。


 これに目を付けたのが転生前のジローで、沖縄にはアメリカの情報がいち早く入ってくるため、この小型化されたコンピューター部品を、本土や台湾だけではなく、旧ソ連の共産圏にも密輸して、そこそこ儲けた話を思い出したのだった。


「すまんがそれはちと違うな。で、5は海外に出回ってなくてよ、チャイナの海賊版を手に入れたが、これがよくなかった。冒険の書がしょっちゅう消えやがって、ちょうどゲマとかいうカス殺す手前でムカついたのさ。で、手下を日本に向かわせて、今すぐ正規モノ買ってこいって命令したらよお、その野郎、何持って来たと思う?」


「さあ、なんだばー?」


「日本から帰ってきた手下が、満面の笑みでファイナ●ファンタ●ー5のカセット渡してきやがったから、ぶん殴ってやった。まあ、あのゲームも面白かったけどよ。気に入ってシーフばっかり使ってたら盗みと素早さ以外使いもんにならなかったから、モンクで格闘覚えさせたり、女共侍らせて冒険したりとかな」


「そうかー、でもゲームと言えば、最近博打で遊んでねえさあ。本土の花札もジョートーやったしが、トランプやりてえさー。バカラやポーカーが得意さぁ」


「いいなそれ。アメリカ行ってた時、何回かベガスで遊んだもんよ。ルーレットとかスロットマシーンとかもいいなあ。今度カジノとか作ろうぜ、兄弟(ブラート)


 神社は巨大な迷宮のようになっており、二人に対して人ほど大きい吸血コウモリや、神社の狛犬のような石像に、古代の呪物のような大きな紙で出来た人形(ヒトガタ)が襲ってきたが、彼らの格闘技術の敵ではなかったが困惑する。


「んだよ、ゲームじゃあるまいしエンカウントしすぎだろうが」


妖怪(マジムン)ばかりやん! なんだばー!? くぬ神社!?」


 すると、大量の人形(ヒトガタ)が集結し、合体すると、人の丈ほどの大きさをした全身鋭利な紙の刃物で出来たような、巨大な人形(ヒトガタ)になる。


「立ち去れ痴れ者共。ここは我らを司る……」


かしまし(うるせえ)ぇー!!」


 ジローは、炎熱をエンチャントした踵落としを繰り出して、情念が籠った女の声がする人形(ヒトガタ)を燃やし尽くした。


(いなぐ)んかい声ーかけてぃくるのー嬉しい(うっさん)しが、化物(マジムン)てぃがろー! ふざきーるやー!!」


「まったくだ。俺達を逆ナンすんなら、まともな格好で化粧して出直してこいってんだよ阿呆が(アショール)


 こうして二人は松明片手に本殿内部を進み、ついには御神体である、アマノムラクモが鎮座する御内殿領域に辿り着くが、なんとも言えない悪寒が二人を襲う。


兄弟(チョーデー)、やな感じさ。やべえ(でぇじ)化物(マジムン)の類がいそうやん」


「ああ、だな。お宝を守る化物とかビデオゲームだけにしとけってんだくそったれ(イジーナフイ)


 二人が身構えると、内部が光り輝き、魔力が迸り異次元空間が展開される。


 魔力空間が映し出す映像は、ジッポンで行われた鎧武者達が織りなす海辺の戦場の光景。


「なんだこりゃ!? ジッポンの古戦場か!?」

「訳ぬわからん。やしが、備いれー兄弟(チョーデー)


 巫女服を着たヒト種の女が、自身の子であろう着物姿の幼子の手を引き、木箱に入った何かを一緒に抱えて入水自殺する光景が流れ始め、二人はそのあまりにも悲惨な光景に絶句する。


 異空間の映像が止まり、先ほどの幼子を伴った女と共に、二人の前に巨人が姿を現す。


 全長2メートル半を超える男は、被った兜に魚のヒレのような装飾が両角のように施され、腰まで伸びた青髪の長髪、青白い顔、水色の口髭を蓄えた壮年の男といった印象。


 そして身に纏う魚鱗のような形の鎧は、希少金属を甲片、小札等と呼ばれる小さな板に穴をあけた物を紐などでつなぎ合わせて作成させた、ラメラアーマーとも呼ばれる、金糸が煌めく青白い鎧を身に着けている。


「何用じゃ? ここは我が神殿。この世界を司る我がニュルズの社なるぞ。立ち去れ人間よ」


 男の正体は、ニョルズ。


 ニュートピア原初の神にして、世界を創った神でもあった。


「ジローこいつは」

「ああ、くぬ世界作った神やん」


 この海底神社建設の目的は、ニョルズが初代天帝に授けた剣と、原丙合戦で非業の死を遂げた、目の前の親子、丙家の時子とその子供、最年少で天帝となり、海の藻屑と消えた安得天帝の魂を鎮めるための神社。


 海底火山の爆発で、社がある陽間賀(ひまが)島が海の底に沈むも、祟神と化したニョルズの力で、世界に何らかの呪いを与えるジッポン混乱の元凶のような建造物が、この海底神社、熱海(あたうみ)神宮だった。


「神様、くぬ神社でぃ何してんだばー? 教えーちいただちん、よろしいでしょうがー?」


「この人間の親子は、我が妻と子にしてやったのだ。そしてこやつらにわしが力を与えて、このジッポンと呼ばれる島を供物に、大陸の我が人の子達が滅びぬよう祈り続けておるのだ」


 二人の前に映像が再び具現化する。


 それは、光と共にこのニュートピアという星が生まれ、海から原初の生き物が生み出され、生物が陸に上がり、進化していく光景が映し出される、地球と酷似した星の歴史。


「当時の最上級神ヘイムダルが提唱した、ニュートピア。あらゆる次元世界で、最悪の世界の一つと言われた地球の生き物達の魂を癒す目的で、この世界は作られわしが担当した。我が眷属の一人に加えてやった地球出身のフレイと共に」


 二人は現れたニョルズを観察する。


 溢れるばかりの魔力と、情念を通り越し怨念めいた強い波動を感じて鳥肌が立つ。


「縁あって義理の息子にしていたフレイは、精霊種達もあらゆる世界で魂に傷がついたものが多いので、わしに手を貸す代わりに、この世界に傷ついた精霊種を転生させて欲しいと言い出した。わしはそれを許してやったが、それが間違いだったのだ。あの女、養女にしたフレイアが勝手にわしが作り出したヒトを、己の信徒に」


 ジローは、ニョルズから情報を引き出してやろうと、イワネツの方を向くとお互い心の内を読みとり、頷き合う。


「それはわかってますー神様。私は、あなたが作ったロマーノの末裔、ジロー・ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロと申しますー。神様、フレイとフレイアは(わー)とぅ仲間(しんか)が退治しましたさー」


「ほう、まことか我が子らの末裔よ。あやつは、フレイアは地球出身の邪悪な大王の魂を呼び出し、其奴が魔界の凶悪な悪魔共を呼び出したのだ。そのせいで、この世界は歪なものとなった。人間共がジッポンと呼ぶこの島々こそがその歪みの現れ。全てはあの陰険な戦神の……」


「オーディンですね神様」


 ジローは、ニョルズが口に出そうとした答えを先に読んで黒幕の名を出す。


「そうだ、奴はフレイとフレイアの背後から、この世界を我がものにし、わしから全てを奪うつもりだったのだ。あやつとワシの一族は仇同士だったからな!」


「?」


 ニョルズは、太古の神々の話を二人に話し始める。


 その昔、オーディン率いるアース神族と、ニョルズのヴァン神族、そしてロキ率いる巨人族は敵同士で、オーディンは、ロキと兄弟の契りを交わして巨人族との戦争を終わらせ、ロキの方は自分の愛人かつ巨人族にして、人間界から信仰を集めた山神、スカディをニョルズの妻にあてがう。


 この女神にして巨人スカディと大地の精霊を信仰していたのが、旧石器時代から移行しようとしていた、ラップランドと呼ばれる古代ヨーロッパのフロージーの一族。


 その縁でユングウィと呼ばれたフロージーの王は、フレイという名の神となり、双子の妹のフレデリカまたはフリックと呼ばれた女王は、フレイアとして神界のヴァン神族に属した。


「だが、全てはオーディン達アース族が、我らヴァンから全てを奪うための策略だった。おそらく知恵を貸したのはロキだろう、オーディンは執念深い男神だ。今思うと、奴は我がヴァン族との抗争で死んだ自分の家族の復讐を考えていたのだ。結果妻もこの世界も、ワシは奪われた! 奴らのせいで!」


 神々の権力闘争。


 かつての大天使長、ルシファーが制定した神界法には抜け道が多く、これを利用して数々の権力闘争が神々の間で繰り広げられる。


 結果、ついには大逆神のような存在が発生し、司法制度改革が何度もなされるも、神界法を制定したルシファーすらも魔界へ堕天してしまい、現在の大天使長ミカエルが制定し直した背景があった。


「やしが、その神々も討伐されました。もう一度聞きますが、この地でぃ何を?」


「この地に生まれた雑種共は、自分がなぜ地球で魂が傷つき、この島々に生まれ変わったか、自覚してるものが数多くいる。だが地球のように再び同じ過ちを繰り返すような、愚か者ばかり。こんな、精霊種や薄汚い魔族の血が入ったような奴らなど、ワシが生み出した人間達のため、オーディンを超えるため、我が供物に相応しいのだ。お陰でこの島々の雑種や、かの地の悪魔共はだいぶ減ったわ」


「つまり、この世界にいる、精霊種や悪魔の勢力を減らすための力を……」


「然り、こやつら雑種はわしを神と崇めておるが虫唾が走る。この者らを、我が妻子にしてやった者どもの世の無常を見よ! 地球世界で、こやつらは壇ノ浦と呼ばれる海で同じ目に遭って同じように海で死んだ! 生まれ変わった先で再び親子として生を受けるも、また同じように雑種共の争いでこの世界で死んだのだぞ! この救いも無いような島々は……我が妻子が望むよう呪いを受け、滅びを迎えればよいのだ! 大陸の我が子らの安寧と共に!!」


 ニョルズがこの世界で妻子にした母娘の魂は、地球で起きた壇ノ浦の戦いで族滅した、平家の姫である平徳子とその子供、幼くして死んだ平清盛の孫、安徳天皇の転生体。


 巫女服を着た母親が涙を流すと、地球の源平合戦の記憶が異空間に流れ始めた。


 西暦1185年寿永4年4月、源平合戦最期の決戦の地、現在の山口県下関周辺、壇ノ浦で平氏と源氏が激突。


 平家側の敗北が濃厚の中、最期を覚悟して神璽と宝剣を身につけた平徳子に抱き上げられた安徳天皇は、状況を理解できずに船の上で母親を見上げる。


「母様、わたしをどこへ連れて行こうとするのか」

 

 我が子の問いかけに、平時子は手で涙をおさえてこう言った。


「君は前世の修行によって天子としてお生まれになられましたが、悪縁に引かれ、御運はもはや尽きてしまわれました。この世は辛く厭わしいところですから、極楽浄土という結構なところにお連れ申すのです」


 などと我が子に言い聞かせ、安徳天皇は小さな手を合わせ、徳子は幼子を抱いたまま壇ノ浦の急流に身を投じる。


 映像を見たジローは、明瞭な頭脳でこの神の言い分を理解する。


 つまりは、このジッポンこそがナーロッパやナージアが中核を成す大陸の人々の安寧のために、巨大な人柱にされていた。


 そしてジッポンは、東の果てにある悪魔達の大陸の防波堤にされており、ジッポン人は自分が作った純粋な人ではないとニョルズから差別を受け、魂に傷を負った母子の呪いと、祟神となったニョルズの力で悪魔に対抗しているのだ。


 この島々で起きる数々の戦乱の世の中、ジッポン人が苦しみ、前世と同じような悲しみを抱かざるを得ないようなこの世の地獄の中、自分が生まれ変わったナーロッパ大陸は、ジークが引き起こした大戦を除き、都市国家間紛争や領土紛争しか勃発せずに、ニョルズの力で安定力が働き、恩恵を受けてきたのだと。


「だが我が力に逆らい、この忌わしい島々の呪いを解くため、我が力に悪影響を及ぼすものがおる! 許せん、ワシの邪魔をしおるその存在を滅してくれん」


 こういう時、自分が前世で敬愛し、兄弟の契りを刑務所で交わして、この世界でも自分が惚れこみ兄弟となった、自分の兄貴分ならどうするかジローは考える。


 そして目の前にいるイワネツ。


 男の中の男と認め合い、惚れ合った兄弟分は……。


 イワネツはニョルズの言葉に、瞬間的に血が昇り、この目の前の存在こそがジッポン混乱の元凶、勇者として滅ぼすべき悪であると悟り、神も恐れる容貌に変わり、ニョルズを睨みつけた。


「お前は……黙って聞いてればふざけやがって!! この可哀そうな母子の情を! 人間としての無念を復讐の為に利用してるゴミカス(ムラ―シ)じゃねえかっ! このジッポンの奴らの人間としての生き方を、想いを、社会を蝕むくそったれ(イジーナフイ)!」

 

 イワネツは憤怒の表情で、チャクラを最高潮に高めて両こぶしを握る。


 彼の奥底に眠る魂、バサラが囁いていた。


 この目の前にある不条理を許すな、弱者を利用する身勝手な無法を許すなと。


 そしてジローも、兄弟分のイワネツの想いに触れて両こぶしを握ると、冥界から祝福を受けた神獣シーサーの入れ墨が胸と背中に入り、母娘とニョルズを見据える。


「くぬ世界(しけー)は……もう……あんたぬモノ(むぬ)やあらん。人の心根(ちむぐくる)自分勝手に利用すん汚れ(ハゴー)やん。弱い者イジメぬ外道(げれん)!! (わん)ぶっ潰(たっぴら)してやる! 覚悟しぇー、しにはごおおおおおおおおおおおおおお!」


 二人の人間の光が瞬き、後の世に語られる伝説の戦いの幕を上げようとしている。


 勇者‶威悪涅津”による神殺し、如流頭討伐の伝説。

第三章ラスボス戦です

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