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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第11話 召喚獣クラーケン

「よう、マリーちゃん! アホさらってきたけど、こいつ何処のどいつかわかる?」


 えーと、やっぱりこの人、本物のヤクザなんだ。


 戦闘とはいえ相手の船に放火するし、人さらいとか平気でしてきちゃう。


 私の為にって感じで動いてくれてるみたいだけど、正直怖い。


 すると、私の姿を見た口髭生やした軍人さんが驚いた顔で私を見る。


「ま、まさかあなた様は、死んだとされてるヴィクトリー王国の薔薇姫、マリー殿下ですか!? 私、軍艦マリーナの艦長をしております、アントニオ・デ・ラツィーオと申します! 爵位は男爵です。お美しい、絵でお姿を拝見させていただきましたが、噂以上の美貌に、このアントニオ感服しました!」


 縄でぐるぐる巻きに縛られてるのに、私に駆け寄ってきたけど、勇者が足をかけて思いっきり船の甲板で転ぶ。


 ヴィトー王子といい、ロマーノの男の人ってみんなこんな感じなのかな?


「てめえ、何で俺の断りもなく俺の女口説いてんだ。殺すぞ?」


 だぁかぁらぁ、私はあなたの女になったつもりはありませんっての!


 確かにカッコいいけど、どうせ転生前のキャラメイクで作った顔だろうし、ヤクザだし怖いし。


「あのさ、俺の顔一応、転生前の若い時のまんまの顔なんだけど。まあいいや、そのヴィトーってやつに連絡とれんのかな? こいつ」


 なんか今、勇者が私の心をサラッと読んだ気がしたけど。


 あ、そうか。


 このままヴィクトリーに戻っても、エリザベスが操るモンスターの軍団に殺されちゃうかも。


 だったら、ヴィトー王子に協力取り付けて保護してもらおう。


「アントニオ卿、そのう、ヴィトー王子に連絡ってとれますか?」


「は! 可能です殿下!」


 やった、さすがロマーノの貴族、すぐに連絡を取ってもらおう。


 けど、ロマーノが何でこの船を攻撃してきたんだろう?


 ロマーノ大公国やイリア首長国連合はヴィクトリーの友好国だったのに。


「こちらイリア太西洋艦隊所属、アントニオ・デ・ラツィーオ男爵と申します! ヴィナーレ宮の、ヴィトー王子はおられますか? ハッ!? 王になられたのですか! 国名もロマーノ連合王国に……失礼いたしました! 要件はヴィクトリーのマリー王女が生きていたと、陛下に」


 え? イリア首長国連合から国名変わってヴィトー王子、王様になったんだ。


 パリピ感全開だったけど、あの人やっぱり、優秀な人だったのね。


「マリーちゃ……いやマリー王女殿下ですか!」


 あ、そのパリピ感全開の大きな声、ヴィトー王子で間違いない。


「はい、私です。ヴィトー殿下……いえロマーノ陛下。処刑されそうになったけど、何とか生きてて、そちらのアントニオ艦長と一緒にいます」


「マジか! アントニオの奴でかした! よかった、死んだって聞いてて……俺、今すげえ嬉しい!」


 あ、通信先で涙ぐんでる。


 この人、やはり第一印象通り、悪い人じゃないっぽい。


 心配かけちゃってごめんなさい。


「それで、私の父もエリザベスに殺されて、祖国を追われるお尋ね者になってしまい、そちらに亡命とかってできますか?」


「もちろん! 我が国あげて歓迎する! それで俺の王妃になってくれるといいんだけど、いいかな? プロポーズだ、絶対幸せにするって俺が。今、多分ケット海のどっかだと思うからさー、えーとラツィーオ男爵に、通信代わってくれますか?」


 よかった、これで何とかロマーノに行ける。


 ロマーノかあ、転生前のイタリアみたいに、確かご飯が凄い美味しいって。


 そして奇麗な遺跡群や、サンゴ礁の海もあって、芸術作品なんかも沢山あるんだった。


 うーん、目の保養もできてサイコー。


 彼イケメンだし、このまま、ロマーノに嫁いでもいいかもしれ……。


「おいおいおい、通信先の野郎も、何を勝手に人の女口説き落とそうとしてんのよ? 王子だか何だか知らんが、調子乗るなよクソ野郎」 


 ちょおおおおおおおおおおおおおお。

 ヤクザ勇者が、通信先に絡みだした!


「えーとマリー王女殿下、なんかクズっぽい男の声が聞こえたんだけど、誰? 殿下の家臣の誰か?」


「へっへっへ、てめえ俺と同類だな? 声からしてワルの匂いがプンプンするぜ。もしかしたら俺の知ってる野郎だな。どっかで聞いたことあるぜその声……どこだったかなあ? マリーちゃん、こいつもたぶん日本の転生者だ。転生前の記憶は失ってるかもだがな」


 ヴィトー王子、いやヴィトー王が日本の転生者!?


 それに、このヤクザな勇者が知ってるって事は……。


「間違いねえ、こいつは多分俺が知ってる誰かだ。遠い昔、転生前の日本で、俺はこいつの声を聞いたことある。多分やり手の極道だぜ、こいつも」


 えええええええええええええ。

 ヴィトーも転生前はヤクザ!?


 何なのこの世界、まさか私、あの天使が言うような平和な世界とは程遠い世界に転生したの?


「なーんか声に聞き覚えあるんだよなあ? おい、マリー殿下の家臣、名前なんて言うのさ?」


 何だろう、通信先のヴィトーの声が低くなって……。


 まるで、映画とかでも見る、電話越しの緊迫するシーンみたいな。


 その時、巨大なタコのような触手がアントニオ男爵を掴む。


「ぎゃああああああああああああああああ!」


 触手に掴まれたアントニオ男爵は、海中に引き込まれてしまった。


「な、何!? これは一体……」


「見つけたぞマリー、私はあんたを絶対に殺すと決めた!」


 この声、エリザベスだ!

 すると船に銛を持った半魚人のモンスター達が現れる。


「チッ、どうやら性悪女が操ったお客さんだぜ? マリーちゃん。よう、ヴィトーとか言いやがったか? また後でな」


「その声エリザベスか!! よくもマリーちゃんを魔女め! お前の国、絶対滅ぼしてやるからな!」


 水晶玉の通信が切れて、勇者がクロスクレイモアを構える。


 私は、勇者のステータスを確認した。


 うわ、さっきの大津波でHPが、スキル阿修羅一体化でMPをかなり消耗して。


 私も召喚魔法を使ったから、かなり消耗してる……どうしよう。


「ヤクザなめやがって、まずは雑魚共を斬り伏せる! 身体強化(ブレイブ)


 勇者は、半魚人が持った銛を剣でいなしながら、体を回転させて遠心力を使って逆に首を切り飛ばす。


 すごい、本当に剣の達人だ。


 この人ヤクザだけど、本当に剣術と魔法で世界を救ってきた勇者なんだ。


 海中からまた巨大なタコの触手が、勇者の足に巻き付いて。


 すると私の下腹部も、いつの間にか巻き付いた触手で思いっきり締め付けられる。


 痛い、体が締め付けられて、苦しい、息ができない!


「てめえ、タコ野郎! たこ焼きにして食っちまうぞ!」


 勇者は、自分の体に巻き付いた触手を、腰に装備したマインゴーシュを触手にめった刺しにして、炎の魔力を流し込み、私の体に巻き付いた触手も、勇者の攻撃でするりと体から離れる。


 そして勇者は剣を振るい、風の魔力を纏いながら、居合斬りのように斬撃を次々と飛ばして、半魚人達と看板に絡みつくタコの触手な様なものを、切り裂いていく。


「マリーちゃん、今のが風の魔力を強化して撃ちだす、風の斬撃(エアスラッシュ)だ。魔力消費が少なく、マリーちゃんのレベルでもできそうな、攻撃魔法さ!」


 そうか、風魔法の使い方は風を出したり空を飛ぶだけじゃないんだ。


 多分こんな感じで、両手で風の魔力を圧縮して、相手にぶつける感じでイメージを!


「ええい! 風の斬撃(エアスラッシュ)


 私は両手に風の魔力を溜めて、風を仰ぐように半魚人に魔法を繰り出した。


 すると勇者ほどの威力はないけど、半魚人達に私の魔法が当たり、鱗がはじけて切り裂かれた箇所から、パッと血が噴き出す。


「いいぞ! それとマリーちゃんは、フューリーを呼び出して水の召喚魔法を使った! 俺の勘だが、水属性魔法もマリーちゃんは使える筈! 右手で風の魔力と、左手で風の魔力を組み合わせて、高圧のウォーターカッターをイメージしろ!」


 うわ、いきなり勇者の要求のハードルが上がったけど、やるわよ、やって見せる!


 確か転生前、テレビでもネット動画でも見たことある。


 高圧水流で鉄板や岩を切り裂いていた、ウォータージェットという高圧放水の機械。


 確か、消防士も救助活動で使ってるくらい有名な。


水切り(カッター)


 私が魔法を放つと、私の魔力でもタコの触手のようなものが切断できた。


 そして、急に私の体に力が入らなくなって足がガクンとなって膝をつく。


 この魔法、強力だけどMP消費がハンパじゃない。


「魔法は想像力とイメージの力だ! そしてぶっ殺してやるぜタコ野郎! だが魔力が足りねえからあれやこれは使えねえか……マリーちゃんのレベルが上がらねえと厄介だな、ならば! マリーちゃん、伏せてろ!」


 勇者は天に剣を掲げると、空に真っ黒な雷雲がゴロゴロと船を覆って……。


稲妻(ライトニング)!」


 剣を勇者が振り下ろした瞬間、海中に稲光が差し込み、高さ数十メートルの水柱が上がった。


 すごい、雷の魔法も使えるんだ。


「今のは、空気中の水の分子を風の魔力で超振動させて撃ち込む雷の魔法よ。多分、今のマリーちゃんも使えるかもしれねえが、魔力消費がハンパじゃねえから気を付けろ!」


 うわ、確かに勇者のステータスを確認したら、MPがほとんど空になってる。


 それにこの勇者、まるで私の先生みたいな感じ……。


 世界を何度も救ってきたから、魔法の全てを知り尽くしてるんだ、きっと。


 すると海面に半魚人や大量の魚の死体と、30メートルを超えるようなタコの化け物が姿を現した。

 

 このモンスターは私が呼びだした本来の召喚獣だから、ステータスがわかる筈!


状態確認(ステータス)


 クラーケン レベル38 HP4000/10000 MP640 攻撃35 防御105 

 

 うわ……強い! こんなの序盤の冒険で出てきていい敵じゃないって。


 私のレベル15なのに、何で敵のレベルが倍以上あるのよ!


 全然楽に勝てそうな相手じゃない!


「我がクラーケンで、マリー! お前を殺してやるぞ!」


 我がクラーケンって、私が召喚魔法で呼び出したモンスターなんですけど……。


 あんたに殺されそうになって召喚した魔獣ですから!


「何だこのアマ? このめえ痛い目にあったくせに、ぶち殺すぞこの野郎!!」


 勇者がクラーケンに一喝すると、エリザベスは何も言い返さず、クラーケンは金切声のような雄たけびを上げて触手を縦横無尽に繰り出していく。


 まるで、召喚のコントロールが切れたみたい。

 そうか、エリザベスも怖いんだこの勇者が。


 すると、クラーケンの触手が私めがけて何本も振り下ろそうと。


「あぶねえ! マリーちゃん!」


「スキル、絶対防御!」


 私はスキルを使って、なんとかクラーケンの攻撃をガードすることが出来た。


 運が良かった……。


「やるなあ、マリーちゃん喧嘩のセンスあるぜ。それとタコ野郎ケジメの時間だぜ?」


 あ、勇者がクラーケンの触手を体に受けてダメージを受けながらも、逆に飛び掛かってクロスクレイモアを頭に突き刺した。


 けど、勇者の残りHP、かなり減って残り92になってるし、頭や口から血が出てて、右足が変な方向に曲がって……勝てるのかしら、この戦闘。


「へっへっへ、転生前に入った刑務所(ムショ)の中で世話になった、最大手のテキヤ集団、関東神農会の幹部から聞いたんだ。うめえたこ焼き作るのは、密猟とかしたまだ生きてるタコの眉間を、千枚通しで思いっきり突いて締める。そんで新鮮なやつをすぐ冷凍して、露店で捌いて客に出すってよ!」


 うわ、今の勇者の一撃でクラーケンの残りHPが半分以下の1500になってる。


 この勇者も、序盤で仲間にしていいレベルじゃないって。


「ついでにタコ野郎、てめえの魔力、盗ませてもらう!」


 勇者はまた6本腕の魔王のような姿になって、光始めた。


 クロスクレイモアが、SF映画のような真っ白いレーザーブレードに変わって……。


 そしてすぐに変身が解ける。


 ステータスを確認すると、勇者がクラーケンのMP吸い取っちゃった?


 阿修羅一体化した時のスキル、盗賊王の極意が発動?


「へっ、しけてやがるな。魔力量はたいしたことはねえが、今の俺が回復するには十分だ! 行くぜタコ野郎! てめえのぬめりとってこんがり焼いてやんぜ!」 


 勇者の体が紫色の炎に包まれる。


冥界の炎(インフェルノ)!」


 うわ、紫色の炎が剣を通じてクラーケンに流れ込んで燃やし尽くしちゃった。


 HPも1500から一気に0になって、完全に死んだみたいだ。


「へっへっへ、今日はタコの丸焼きかあ! あー腹減ったぜ」


 え!? いやいやいや、アレ食べるの?


 勘弁してほしいんですけど、何考えてるんだこの勇者。


 あ、クラーケンの頭をマインゴーシュで切って、肉片を口に入れちゃった。


「うめえ! 外はパリッと、中はしっとり弾力あって、まるで明石産の極上ものだ。醤油とワサビが欲しいぜ! マリーちゃんも食う?」


 えぇ……いやいやいや、いらないんですけど!


 モンスターの肉とか、どっかのゲームや漫画じゃないんだから。


 やっぱり、この勇者とんでもない人だ。


「よおし、こいつぶつ切りに切り刻んで塩漬けにして、売っ払うシノギ考えたわ。楽しみだなあ、ロマーノって国に行くの、なあ? アントニオとかいう野郎もよ」


 あ、アントニオ男爵もちゃっかり救出してた。

 やっぱりこの勇者、悪い人じゃな……。


「ほれ、おめえも食え!」


 うわ、青い顔して首を横に振るアントニオ男爵の口に、無理やりタコモンスターの肉片を……。


「ぎゃあああああ、おえええええ、ペッペ」


 そうだよね、イリア首長連合って国も、転生前のイタリアやスペインの地中海諸国みたいにタコ食べてそうだけど、モンスターの肉とか私でも嫌だし。


「てめえ、俺が御馳走してやったもんを吐き出しやがって! 行儀悪いな、ぶっ飛ばすぞ!」


 うわ、焼け焦げたクラーケンの上に乗りながら、アントニオ男爵の頭を引っ叩いてる。


 やっぱり、この勇者悪いヤクザだ。


「すごい、怪物をやっつけて、その肉を食べてる。まるで大昔のオージーランドの戦士みたい。男らしくてかっこいい……」


 ちょ、ペクチャちゃんダメだから、その男に惚れちゃ。


 確かに歴戦の勇者だと思うけど、あの人きっと転生しても悪い事してたヤクザだって。


「あー、うめえなあ。船にはラム酒みてえなのも積んでるし、当分飯に困らねえな。うん、飯がうまい世界はいい! 最初に行ったあの世界なんて、俺が救うまで食文化もくそも無かったしな」


 私達は乗員やペクチャと共に、勇者に言われるがまま、雷魔法で海面に浮かんだ魚を楽に回収し、開きにして甲板に干し、魚の干物を沢山作る。


 そして魔力が回復した勇者は、風魔法で帆船の速度を上げて、予定よりも大幅に早くイリア首長国連合改め、ロマーノ連合王国の軍港にして古都、ネアポリに辿り着いた。

勇者は、主人公の師匠兼暴力装置ポジションになるかもです

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