第115話 失楽園 前編
私はマリー、いや高山真里かな。
どっちだったっけ?
ていうかあの長ったらしい名前とか、ぶっちゃけどうでも良くなってきた。
この世界も救えるかどうか自信が無くなってきたし、もう全てがどうでもいい。
まるで、転生前にいじめられて怖くて学校に行けなくなって、家に引き篭もって全てがどうでも良くなったような、そんな感じだ。
あの時、みんなに助けられた私は、絶望とその時の怪我で気を失ってて、目が覚めたらヴィクトリーの亡命貴族達と、飛行機乗ってて……知らないところに来てて……。
私は、全てを失った……。
命に代えてでも守らなきゃいけなかった、シシリー島の領地も、ヘイムダルの力も、英雄としての私の名声も、私を守ろうとした彼らの命も、全て失ってしまった。
そして、私の戦うべき理由も……先生も……。
あれは、いつだったっけ?
確か私がデリンジャーを助け出し、オカマのような神が彼女の企みを打ち明けて、急いで先生達とシシリー島まで戻った時だったかな。
あの時、私は……。
「おう、急いで守りを固めるぞ! モンスターの軍団とエリザベスの小娘が、いつ襲ってきてもいいように喧嘩の準備だ!」
「シミーズ、まずは海の守りを固めよう。漁師達に話を通して、港を閉鎖しちまい、機雷で海上を封鎖かけちまおう」
「うぬ前にー島民ぬ避難さ! 戦に巻き込まれいねー可哀想やん。龍と段取り考えーいんさぁ」
先生と、デリンジャーが港の守りを固め、ジローは龍さんと、どのように島民を避難させるかの段取りを決める流れだった。
「私は、ヴィクトリーの亡命貴族達に、今の話を。オーウェン卿とレスター卿に」
彼らは、ヴィクトリーの亡命貴族達の中核メンバーにして、騎士のオーウェン卿と財務管理のレスター卿は双璧とも言えるほど、人間的に素晴らしい人達だった。
当初の私の計画ではヴィクトリー王国を奪還した時、オーウェン卿を宰相兼騎士長、レスター卿を議会の議長にと、彼らを中心に全てを組み立ててきたっけ。
そして先生は以前言っていた。
「おめえが目指す、英雄としての女王への道はぶっちゃけ言うとよ、やべえくらいきついイバラの道だ。転生前日本最大の極道のトップだった勇者の俺が言うのも何だが、世界を救いに導く国家元首というのは辛く厳しいものよ」
「そう……なんですか?」
「おう、まあ俺はヤクザを代表する裏社会の国家元首みてえなもんだったが、結末はおめえも知っての通りよ……わかるだろ?」
先生は、裏社会において最大手の組織の組長に就任したが、結局は一番愛した弟分で、子分にした人に殺されるという、悲劇で幕を閉じた一生だった。
「ぶっちゃけ俺は、転生前のように大きな連合体の組織のトップには向かなかったのさ。大組織の組長ってのは、それらしい所作だとかで、常に大親分を演じたりしなきゃならん部分もあるし、弱みを絶対に見せられねえし、色々我慢がいるわけ。転生前の俺は組織人としての公よりも、自分勝手な私を優先させ、公私混同をしちまった。公私の振る舞い、わかるかい?」
「一応、王族としての振る舞いとかは、侍従から習いましたけど、国家元首としては……」
そう、死んじゃったこの世界の父ジョージから、私はヴィクトリー王国を継ぐものとして、帝王学を授けられる予定だった。
しかし、それは結局頓挫してしまい、私は先生から教えを受けている。
「まずな、お前もわかるだろうが、上にたつものは公と私をわけなきゃ行けねえのよ。理想を言えばおめえさんが目指すのは、俺達が転生する前の国の、天皇さんだ。ヤクザな俺がこういうのも、大変おこがましい話だが、一流の所作と徳を兼ね備え、日本の元首として相応しいお方であると思っている」
先生が言うに、ヤクザと呼ばれる人達は、博徒は「八幡大菩薩」「天照皇大神」「春日大明神」、的屋は「今上天皇」「天照皇大神」「神農皇帝」を守護神として、皇統に関わる神様だったり、皇室へ敬意を払っているそうだ。
「超一流の所作ってのはだな、もうね挨拶とか表情とか動作が美しいとか、そういう次元じゃねえのよ。佇まいからして美しくて威厳のある感じな。でよ、そういう上に立つ所作ってのは姿形だけ真似しても、心が伴ってねえと意味がねえ。内面から滲み出るオーラや、国家国民を導く公としての意識が何より重要よ」
心の問題、そう先生は言ってた。
けど、私の心は今……。
「俺の今の親分、閻魔大王様もそうだが、上に立つ者は公私を弁えておられるわけよ。おめえさんは、閻魔大王様や天皇さんみてえな所作、できるかい?」
「いや、その……難しいです」
「だがやらなきゃならねえ。おめえさんが目指すのはそういうお方達よ。見てると、おめえさんは、まだまだその辺が不足している。楽がしたい、それは俺もそうだし、そう思う事は悪い事じゃあねえ。だがな、おめえさんはもっと我慢を覚え、トップとしての適切な判断力や責任感ってのを備える必要がある。俺が言うのもなんだが、喧嘩の際に感情的になりすぎて冷静さを欠いてる所がある。心は熱く、頭は水に、私的な部分を出し過ぎんのは、これからのおめえはやめたほうがいい。おめえがまず目指すとこはその辺よ」
我慢と責任感と判断力……。
口で言うのは簡単だけど、何をどう我慢すればいいのか、その時の私にはわからなかったし、今までも何か危ない事があれば、先生が私に指示したりして動いてたっけ。
「ピンと来ねえか? まあ俺から教えてやってもいいが、どうせなら同性の方がいいだろう。マリー、今から言う俺の女共を召喚してみろ」
私は、氷の賢者や太陽の女騎士を召喚し、国家元首として自分が何をすればいいのかの、面談を受ける。
「そうですね、わたくしが思うに王も人間ですから、私的な感情を持つのはしょうがないと思います。ですが貴方が思う感情は、自分の欲のためなのか、国と社会や民草達のためなになるのか、よく考えてみてはいかがでしょうか? 状況によっては、自分の発言が多くの者達の運命を左右してしまう事も頭に入れておくべきです」
本名がアレクシアという賢者さんは、元々王国の王女や女王かつ魔王軍大幹部をしていたそうだが、今は先生の事実上の奥さんで、最初の世界の宗教組織を取りまとめる、教王の役職についてるらしい。
彼女からは、生きている以上感情が湧くのはしょうがない話だけど、自分の感情が欲から来てるのか、みんなを思ってのものなのか、分けて考えるべきだとアドバイスを受けた。
「私は騎士団長という国家元首についている。貴殿の目指す理想を実現させる為には、人の使い方を覚える事だ。私的に下の者を使うのではなく、己が目指す国のあり方を考え、使う者達へ方向性を持たせる。そして自分の判断で多くの人々や国の命運を左右する事を、常に考えておくべきであるな」
この騎士団長さんは、賢者さんと同様に先生の事実上の奥さんだそうで、先生の娘さん、マサコちゃんの母親かな? 彼女と目の色もそっくりで、モデルみたいな人だった。
彼女からは、人を使う時の責任感と、アレクシアさんも同様の事を言ってたが、自分の行動と発言が、周りに強い影響を与え、その人の人生をも左右してしまう事を学ぶ。
彼女達の話を総合すると、以前先生が話していた組織論の話に行き着く。
目標決めたら、それをどう達成させるかの道筋と手段を考えて、人が集まったら人材をあて、目標を達成できるためにどうやって動いてもらうのか、それでいて自分が原理原則に基づきどう動くのかを考えるという事。
そして自分の発言や振る舞いが、多くの人の人生を左右してしまうという、怖さ。
面談が終わったら、先生がまた私とマンツーマンの授業になった。
「いいかい、だから我慢が必要なんだ。上に立つ者は、自分を律さなきゃならねえ。俺の前世の最大の失敗点でもあるが、てめえが出来てねえことを、下のもんが納得するか? しねえよな? 上のもんが出来てねえのに、なんで俺達がやらなきゃいけねえんだってなるよな?」
「はい、それに私が判断を誤れば、国家や多くの人々の人生が左右されかねない事も」
「そう、それが責任者でもあり、上に立つ者の自覚だ。今のおめえさんみてえに、世界を救う力を持った若いやつを、教え導くのも俺の勇者としての義務なわけよ。そして人を導くのは、頭の良し悪し関係ねえっていつだか言ったよな? リーダーたるもの人間としての強い意志と責任感だ。そいつを忘れんな」
先生達の教えを思い出した私は、ヴィクトリーの亡命貴族達に、エリザベスが魔物を率いてこのシシリーに来る事を告げ、オーウェン卿とレスター卿が指揮を執る形になった。
「島民達をまず避難させましょう。ロマーノへ船の用意を! オーウェン卿、レスター卿はここに残っていただき、私と共にエリザベスの説得を。もしダメならば……」
「御意、我らが王女殿下。レスター卿、よろしいですかな?」
「承知したオーウェン卿。私が真に仕える主君は、先代ジョージ陛下とマリー姫殿下である! 我らが郎党、栄えあるヴィクトリーの騎士諸君、我らが姫殿下の命令を果たすのだ!」
「御意!」
その時、まだ本調子じゃないのか足を引きずる龍さんと、苦虫を噛み潰したような表情のジロー、それにデリンジャーも、パノルモスの街の広場に現れる。
「マリーちゃん、ロマーノはまずいさあ。クーデターやん。俺ぁが雇ってたシュビーツの傭兵団が国を占拠し、俺ぁの父上を国王として復権させて……国ぃ奪われたん」
「え!?」
シュビーツの傭兵団。
ナーロッパ最強の軍団の一つとも言われる、アルペス山脈に拠点を置く、中立国の傭兵団の彼らが裏切ったという話だった。
するとジローの水晶玉に記録された動画を、映像化する。
「ジロー王太子殿下、お久しぶりですね。傭兵団団長のシュミットです。雇い主である貴方にこのような配信をするのは、大変心苦しいですが……我ら傭兵団はより大金を積まれれば、我々はそちらに付くのが道理です。それと……」
映像のシュミット団長は、頭につけた兜を取ると、彼の耳は普通の人の耳じゃなく、長く尖った耳をしていた。
「私の一族に伝わる古い名が、シュミット・グッゲンハイム・ルーシー。我らシュビーツは、世間ではジューと呼ばれる国なき民。シュビーツは元々、ナーロッパで迫害された我らが祖先、ルーシーともスレイヴとも呼ばれていました。我が民族の救世主、アレクセイ・イゴール・ルーシーと神オーディンのため、貴方とはこれより矛を交える仲になるやもしれませんが、どうかお覚悟を」
シュビーツは、ジュー達の傀儡国家だった。
「わじわじーすんばー! あの野郎、調子乗ってるやっさあああ! 我がしっかく「命どぅ宝」ぬ精神広るみー、争いぬ無ーん国目指ちゃるロマーノを!」
国を奪われたことで、ジローはめっちゃブチ切れて、地団太を踏む。
ジローが、自分の国の経済力を発展させるために、国軍を海軍に注力して、足りない防衛力を補うため、傭兵を雇う政策が、今回裏目に出てしまったんだ。
それに表向き傭兵稼業と、畜産業しかなく王を持たない部族間同士の緩い連合体のような国が、今まで大陸から独立を維持してたのは、ジュー達大商人の本拠地の一つだったからなんだと私は思った。
「ふむ、まずいな。敵のアレクセイと名乗る男、予想以上に手が長い」
「ああ、まずいどころじゃねえよ龍。もしも奴らがロレーヌと手を組んでいたら、アルペス山脈から兵隊を送り込めて、俺のフランソワもやべえ事になる」
アレクセイの陰謀により、私達が食い止めたと思った世界戦争が、より大きな規模になって世界を覆い尽くそうとしていた。
そして……オーディンの陰謀も。
「ちょっと待ってくださいよ兄貴、俺とロバートの兄弟に天界からの逮捕状出てるって、なんすかそれ!?」
冥界の偉いワンコのバロンと、先生がやばい話をしていた。
先生に、天界から逮捕状が出てて指名手配されているという話。
「うむ、マサヨシよ。ワルキューレとの戦いにお前も加わっただろう? ワルキューレ達は、天界の天使身分も持っている。大王様からの話だが、お前にかかってる嫌疑は公務執行妨害と傷害罪、それに加えて世界救済に関する威力業務妨害罪。そしてオーディン達ユグドラシルの神々は、天界の大天使長様によって逮捕されたが、神界からの保釈申請の届け出が通ってしまったと。届け出を受理した天使は、ワルキューレの者で、そやつも事情聴取中という」
「ざっけんなクソが! 兄貴、それ絶対、天界や神界にオーディンの野郎のスパイがかなりいますって!」
先生は、指輪の力で神界法を潜り抜けてた話だったけど、私達とワルキューレとの戦いに加わったことで、ロバートさんも罪に問われてしまったようだった。
すると、真夜中なのに空に後光が差して、背広姿に真っ白い羽を生やした天使たちがシシリー島に沢山おりてくきて、先生は特大の舌打ちをした後、バロンが遠吠えする。
「申し訳ありません、勇者マサヨシよ。理由はどうあれ、我々天界は貴方の逮捕状を受理してしまったので、ご同行を」
天使たちは、先生の差し出した両手に光の手錠をはめた。
「まあ逮捕状出てるから、しょうがねえですよね。だが、あんたら俺に山ほど貸しがあるのに、今回の件、なんなんすか?」
逮捕された先生は、天使達を睨みつけながら今回の件について文句をつけてたけど、相手天使なのに、全然一歩も引いてなかったし、ヤクザなだけあって逮捕されるのとかめっちゃ慣れてる感じがした。
「それは……ミカエル様も申し訳ないと。ですが我々の法執行はたとえあなたであっても、神であっても創造神様であっても、絶対の法ですので。なお、あなたに対する弁護神は閻魔大王を筆頭に冥界神全員が担当すると」
「そうですかい、わかりやした。しょっ引かれる前にちょっと3分ほど時間を」
先生はジローを手招きして、メモ帳を具現化させ両手で手渡す。
「おう、金城。なんか知らねえがこれからパクられちまうみてえだからよ、当分こっち帰ってこれねえ。そんで、もしもの為に俺が用意しておいた絵図の計画書だ。これ使ってマリーやデリンジャーと龍を補佐してやってくれねえか? うちの組のもんも、おめえが俺の身内だから全面協力するはずだ。頼むぜ兄弟」
「わかったん兄貴、ちばりよー」
デリンジャーは両手錠された先生の手を強く握る。
「シミーズ、俺達の為にすまねえ。どれくれえで、釈放されそうだ?」
「ああ、弁護は俺の親分達が担当してくれるようだから、多分不起訴だろうし、長期はかからねえと思う。延長されても、二十日もあれば釈放されると思うぜ。そんで天使さんよ、俺の調べ担当誰よ?」
「取調官はウリエル様です」
先生は名前を聞いた瞬間思いっきり舌打ちする。
どうやら先生にとって、相性最悪の天使が先生の身柄を担当するらしい。
「それと龍、本調子じゃねえと思うが金城達のサポート頼むぜ」
「わかった。それと、君に貰った刀にも感謝する」
龍さんの腰には、シシリーから帰った先生が渡した太刀と脇差を差していた。
彼は転生前、大海賊の倭寇でありながら宮本武蔵にも剣術を習った事がある、二刀流の使い手でもあり、この世界でもトップクラスの魔法剣士。
「それにマリー、心配すんな。必ず戻ってくるからよ、おめえは俺の可愛い弟子だ、みんなを頼むぜ」
先生は私達に両手錠したまま私に笑顔で別れを告げて、空の彼方に天使達と消えて行ってしまった。
「状況をいったん整理しよう。みな、ノーマン宮殿へ」
「ああ、龍。ゲーム中盤、ノーアウト満塁にされちまったようなやべえ状況だが、なんとかがんばろうぜ、みんな!」
世界情勢が混沌としていく中、ヴィクトリーの騎士達が島民を避難させようと先生の組織が支配している旧ノルド帝国、スカンザ共同体に連絡を取り、私達が対策会議を港開いている最中、さらに追い打ちをかけるような状況に陥ろうとしていた。
それは、スカンザ共同体にいるハイエルフのブロンドさんからのもたらした情報。
「マリーさん、金城の叔父さん。そちらへ救難艇は派遣できますが、クリスタルタワーに異変が」
「どんなですか?」
「ええ、水晶玉システムに正体不明なアプリが展開され、勝手に機能が改変されて……なんだこれは!? 7チャンネル掲示板? ディクション検索システム? ティクタク配信!? 原因不明のアップデートが!? ハッキングを受けてる!?」
スカンザ共同体のクリスタルタワーが配信する水晶玉の機能が、勝手にアプリを改変されているという話で、通信先のブロンドさんが困惑していた。
「これは……マリーさんの情報でいっぱいになった? 水晶玉から配信される情報が、世界を救う英雄マリー・ロンディウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリーと配信されて……」
「!?」
意味が解らないと思った私達とブロンドさんの通信に、割り込まれるように時折、ツベ動画の広告みたいな感じで、世界を救う救世主って感じで、私の映像が配信される。
「何が……起きてるの? これ」
「ふむ、原理はわからぬが敵が何かを狙っている可能性があるぞ。マリー君、おそらくこれは敵の奸計、六韜三疑だな」
「六韜?」
意味が解らなかったので、私達は龍さんから六韜という古代中国に伝わる兵法戦術について、簡単な説明を受けた。
「おそらく、これは敵の力の誇示だろう。我々の通信手段を完全に掌握したという事を見せつけているのだ。そして、マリー君の肯定的な情報を流すことで、我々を何かから欺いている、そう見るべきだろう」
「なるほど、つまりデモンストレーションって感じか。そして敵は何かを狙っている」
「だからよー、くぬ水晶玉ぁ情報んかいん気ー付きらんとぅ……いやな予感ぬすんさ」
そう、敵に情報網を掌握され、そこから私達の不利になる情報が一斉に流されたら、めっちゃヤバイ状況になるという事で皆の意見が一致した。
すると今度はジローの水晶玉に、アントニオさんからの着信が入った。
「何ー? イ、イワネツ病ーっし意識不明ぬ重体!? 本当ーが?」
「はい、ジロー様。急に病で倒れて、意識が戻らぬ形で。織部は今、大混乱に陥ってます」
ジッポンのイワネツが、原因不明の病に倒れて、意識不明の重体になったらしい。
彼、敵のヘルが送り込んできた勇者の筈なのに。
今度は、デリンジャーの水晶玉に着信が入る。
「ああ!? う、嘘だろ!? あの強盗事件起したボンボンたちの親が、フランソワ各地で反乱起こしやがっただと!? クソが! まだ時間がそんな経ってねえ筈なのに、逮捕の情報は極秘の筈なのにどうして漏れた」
フランソワはフランソワで、私達が解決したばかりの大統領誘拐事件犯行メンバーの、元貴族の親たちの反乱。
自分達の旧領地で騒乱を起こしているという情報が、旧デリンジャーギャング団の騎士からもたらされる。
「ああ、ジョン。水晶玉に突然できた7チャンネル情報掲示板を見てくれ、俺達の大統領」
デリンジャーは水晶玉を使って、「7チャンネル」というネットアプリ画面のようなものを開くと、検索ワードのトップに、フランソワで不当逮捕のタイトルがつけられたスレッドを見つける。
「なんだこりゃ!? 奴らの逮捕手続き書の画像が公開されてるぞ!? まさか、連邦保安局の通信を、敵側が盗んで利用しやがったのか!?」
「そうだ、現在反乱鎮圧に俺達保安局が指揮を執ってるが、追いつかねえ! それとロレーヌがどうやらバブイールに侵攻したそうだ! ヴィクトリー海軍が電撃作戦を展開し、魔道船をロマーノ南端のヒスパニアに向けて航行中との情報も。すまねえが、一旦こっちに戻ってくれ、リーダー!!」
フランソワ各地の暴動も、おそらく私とデリンジャーの連携を崩すのが目的だったのだろう。
そして、フランソワの混乱に乗じてロマーノを乗っ取ったジュー達の陰謀で、彼女とアレクセイ率いる軍団が、ロマーノ領南端の、地球で言うスペインのような地域に向けて、軍艦を向かわせたという情報と、ロレーヌ皇国が内戦中のバブイール王国へ侵攻したという情報。
ヒスパニアは、中央海を隔ててこのシシリー島へ軍を派遣しやすい立地にある。
デリンジャーは、私の方を見てどうしようか迷っている顔をしていたから、その時の私は……。
「私のシシリーを助けに来てくれてありがとう。けど、私は大丈夫だから、ね?」
「あー、我や龍もいるん。とぅりえーじ、帰ーとーけー。やー?」
私やジローがデリンジャーに帰還を促し、龍さんも腕を組みながら彼の方を見て頷いた。
「すまねえ……みんな。マリー、お前を助けるって言ったのに……申し訳ねえ」
こうして、私達ローズ・デリンジャーギャング団は、敵の策略で分断されていき、私の忍耐力と我慢が彼女、絵里によって極限まですり減らされる事態を迎える事になる。
中編に続きます