第113話 ヴィクトリーの魔女 前編
イワネツが後世に残る伝説と呼ばれる戦いを繰り広げた翌日、西の果てのヴィクトリー王国。
大迷宮と化したヴィクトリー城にて、エリザベスは玉座の間で一人腰掛け、魔法の水晶玉をスマホのようにいじっている。
まるで転生前に様々な機能を操って、色々な手段で莫大な収益を上げていたスマホのように、左手に水晶玉を手にして、浮かび上がった画面を右手で操作していた。
「……」
戦時中であるはずなのに、毎日定時や臨時の軍議を開催する事もなければ、王女時代のように官僚貴族達が、矢継ぎ早に自分の自室にやってきては、指示を仰いでいたはずなのに、王宮にはもはや官僚貴族はいない。
皆、一族郎党を連れ亡命してしまったからだ。
王宮を取り仕切るのは、見目麗しい姿をした侍従や侍女達と、ジューと呼ばれるこの世界で一大ネットワークを持つも、自分たちの国を持たないと言われる大商人ギルド達。
ジューの商人達の尽力で、エリザベスが当初抱いていた国家の憂いは無くなりつつあり、同盟国となったロレーヌの税関をうまくすり抜け、ノースシーを抜けて大陸から物資が潤沢に入るようになっており、危機的状況を脱する事ができた。
海軍は大陸への侵攻作戦で大打撃を被ったが、15歳以上の平民男子を徴兵する事で、人員だけは補え、モンスターを利用した魔獣軍も新たに創設。
この数ヶ月でヴィクトリー王国は、大陸にも対抗出来るような軍事大国と化し、ジューの商人達の活動により、国内の物価も安定。
そしてエリザベスは、王座の間で水晶玉を無言で操作しながら、マリーの行方を探していた。
水晶玉通信は、この世界に来た勇者マサヨシの子分達により発達を遂げて、ネット配信的なものも出来てたが、これに気がついたロキの知恵で、ヴィクトリー王国に、高さは96.3メートルの配信用時計塔、エリザベスタワーを首都ロンディウムに建設。
旧ノルド帝国改めスカンザ共同体のクリスタルパレス改め、クリスタルタワーの通信システムにロキが不正アクセスして、ロンディウムのエリザベスタワーで機能を増幅させる形を取る。
ヴィクトリー王国が秘密裏に運営する全世界対応可能なネット掲示板「7ch」や、検索システムの「ディクション」を構築し、画像や動画を配信できて150文字以内なら文字も配信出来るSNS「ティクタク」が魔法の水晶玉で可能になった。
これを利用してエリザベスは、自身のヴィクトリー王国のイメージアップ戦略として情報発信する一方、他国に様々なプロパガンダを流し、欺瞞情報や、フランソワの反主流派元貴族へ情報工作や陰謀にも用いているが、このシステムの恐ろしさは、情報収集能力にある。
元々地球のインターネットの歴史は、1958年2月アメリカ合衆国の国防総省で立ち上げたプロジェクトARPA 、のちにDARPA (国防高等研究計画局; Defense Advanced Research Projects Agency))が開発した、パケット交換という通信方式を採用することで、故障に強いネットワークをつくり、複数の種類のコンピュータを、様々なところで管理出来るようにしたシステム。
このインターネットの裏の顔が、米英が中心となり軍事目的の盗聴と情報の閲覧が可能になった、アメリカ合衆国が表向き存在を否定している、プリズムプログラムを用いたエシュロンとも言われる防諜網であり、ヴィクトリー王国のエリザベスは、水晶玉一つでそれが可能にしてしまい、一部地域を除きこの世界の通信と情報を操れる「魔女」となった。
エリザベスタワーに送られる、世界中の水晶玉から発信される情報を、かつてマリーが呼び出したモンスター集団、例えば知性が高いゴブリンをシステムエンジニアのように使役し、ヘルヘイムの看守目的で天界で作られた魔導兵器、ヘヴンズ・ロウの電脳を組み合わせ、ある単語に反応すれば、自動的に情報収集する仕組み。
これを表向きジューの商人達が発見したシステムという触れ込みで運用し、魔力変換で時計塔から生み出される希少金属を、大陸に密輸して外貨を稼ぐことに利用していた。
だが、一向にマリーの居所が掴めずエリザベスは次第に、年相応の少女の顔つきに戻り焦り始める。
「ごめんなさい……真里ちゃん。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
エリザベスは詫びながら、今日も匿名で書き込みを行う。
ロキの入れ知恵で、自身が良かれと思って流した情報を、なんとか鎮静化をさせようと複数のアカウントで書き込み工作を行うも、情報の取り消し機能もまだない「7ch」と「ティクタク」では、一度広まった情報を鎮静化させるのは不可能であった。
情報や画像が何度も更新されて、まるでゾンビのように現れては、面白おかしくナーロッパ中の人々が揶揄する。
「なんで、なんであの炎上が鎮静化しないのよ!? ジューの奴らにも書き込みさせてるのに! 私、悪気があったわけじゃないのよ! ただ真里ちゃんの事、二度と危ない目に合わせないよう、私……」
エリザベスは、12日ほど前の事をふいに思い出した。
――12日前。
マリーの正体を理解し、彼女が亡命したと情報があったシシリー島に向け、赴く準備をしていたその日の夕刻、首都ロンディウムが突如何者かに急襲され、大きな地響きと共にヴィクトリー城が一瞬ぐらりと揺れた。
「陛下! 王城から一旦退避を!」
「何が起きたのですか!? エドワード護国卿!!」
黒騎士エドワードこと救世主アレクセイ。
ヴィクトリー王国の宰相と外相を兼ねる公爵であるが、その正体はジュー達の首魁でもあり、ルーシーランド諸国を統べる古代ハイエルフを祖に持つ、キエーブの王子。
かつてこの世界の人間社会から奴隷身分に堕とされた同胞たちの恨みを胸に、世界への復讐を企みながら、オーディンを信奉する使徒であり、ヴィクトリーに潜り込んだスパイ。
彼は、ルーシーランド後に舞い降りたワルキューレ達と通じており、今回の襲撃はロキを抹殺するために送り込まれた、ワルキューレの中でもトップクラスの戦闘力を持つスルーズ、オルトリンデ、フレックの分隊である事を知っていた。
「一刻も早く離れるのです、陛下! 私が得た情報によると、オーディンと呼ばれる神の親衛隊にして、神の戦士、戦乙女と呼ばれる女神たちが、邪神討伐にやってきたのです!」
「何ですかそれは!? そんなことって」
エリザベスは、何時ぞやのロキとの会話を思い出す。
自分はこの世界の人々の魂を糧にして、強さを求める神オーディンから命を狙われており、ロキを呼び出したエリザベスもただでは済まないだろうという話。
そしてロキたちは、この王城にはおらずこの世界の北極に近い、ブルーランドと呼ばれる氷の大地に暢気にピクニックに行っている状況。
「……わかりました。私がその女神とやらに話を付けます。エドワード護国卿は王都ロンディウムの守護を命じます」
――この女正気か!? 今来ている女神様達、率いているスルーズとかいう頭が悪そうな女……いや女神は、屈指の戦闘力を持つのだぞ?
エドワードことアレクセイは内心思いながら、侍従長セバスチャンこと自身の側近ストラドルフや、配下の黒騎士団を呼び寄せ、王都ロンディウムを守護するのは建前で、この国に呼び寄せた同胞のジュー達の保護に向かう。
「やってやるわよ、私はもう二度と無様に死ぬなんか嫌だ。あのロキとかいう神から教えられた魔法戦術で、オーディンの配下とやらを退けるっ!」
ロキが作り出した魔女の衣装をエリザベスは身に着け、大量のモンスターを自身の召喚スキルで操りながら、王都ロンディウムの上空へ飛び立つと、街のあちこちで火の手が上がり、まるでロキをあぶり出そうとするような意図をエリザベスは感じる。
「早くエドワードが言っていたワルキューレ達を見つけないと……感覚強化!」
エリザベスは感覚強化の魔法を使うと、ガーゴイルやコカトリス、キメラやワイバーン系統のモンスター達の意識ともリンクして見回すと、はるか上空で3人の女の影を見つけ出す。
「こちら分隊長スルーズ! 姉貴、聞こえるか?」
「感度良好ですスルーズ。首尾はいかがかしら?」
「とりあえず、威力偵察でフレックにスキルを使わせて突っついてみたら、モンスターの集団がゴキブリみてえに湧き出しやがった。間違いねえ、ロキとかいうクソ野郎はこの国にいる!」
スルーズは念のため用意した、暗号魔力通信用の水晶玉で天界でサキエルの名を持つ、隊長のブリュンヒルデに通信を開始し、状況を報告する。
「こちらブリュンヒルデ了解。現在、隣国のフランソワではヴァルキリーと冥界の勇者と縁がある国への妨害作戦を発動させました。立案者の救世主アレクセイとサングリーズの共同作戦を実行中。彼らの邪魔は入らないはず。最優先対象はロキ、そして彼の娘たちと召喚者の討伐です」
「了解! さあ、暴れるぜ! あたしらでロキって馬鹿をぶっ潰してやる! フレック、まずはあの邪魔くせえ空飛ぶモンスター共を一掃しろ! オルトリンデは、あたしと近接戦用意!」
「りょ、了解ですぅ」
「わかったぞ! 九歌音壊」
戦乙女スルーズは、148センチの小柄な体格の3倍はある、巨大な金管楽器の一種トランペットを手に具現化し、マウスピースを口に咥える。
――やばい、魔法で耳栓をっ!
エリザベスは咄嗟に人差し指に、土の魔力と炎の魔力で作ったセラミック製の耳栓を具現化し、両耳を押さえたが、耳の穴で聴くという生理現象を通り越して、全身の骨に伝導するような高周波と低周波が衝突して大気中で反響する攻撃により、空飛ぶモンスターが次々に地上へ落下していく。
巨大なトランペットの爆音を、さらに魔力で空気を振動させて射程距離1キロを超える、指向性音波兵器と言った代物で、エリザベスも直接音を向けられたわけではないのにもかかわらず、骨と脳が振動して全身の激痛と眩暈と吐き気が同時に襲ってくる。
「お? 攻撃先に何かいるぞ? フレックの攻撃に人間大の反応あり!」
まるで潜水艦のソナーのように、エリザベスの体に当たって反響した音をフレックは聞き逃さず、スルーズとオルトリンデがスルーズの指差す方向へ、一直線に急行した。
――なんて馬鹿げた威力、これじゃまるで超音波兵器よ。それに、あの物凄く大きい、肉切り包丁のような剣を持つ丸眼鏡の黒髪の女の子。金髪で際どい鎧を付けて大きめの両口ハンマーのような武器を持った、大きい女の子がこっちに向かってきてる。
魔法戦特化のエリザベスは、直接戦闘では絶対に不利になると思い、先ほどの攻撃で平衡感覚を狂わせられながらも、大きく距離を開けてロキの教えを思い出す。
「エリザベスちゃんさあ、君があの時負けたのは、魔法使いなのに戦士の接近を許して直接攻撃されたから、わかる?」
「ええ、あの英雄ジークの速さと剣技に全く対応出来なかった」
「君は魔女で魔法使いなんだから、距離をとって戦わなきゃ、意味ないじゃない? 魔法使いは、後ろに下がって頭を使いながら、相手の生命力を魔力で削るんだ。君、頭がいいからそういうの得意でしょ? あと感情もコントロールしないとダメだよ。感情を処理できない魔法使いはゴミみたいなものだからさ」
ロキは、遊びと称してエリザベスに魔法使いとしての心得と魔法を、王宮から離れた夜のヴィクトリー海上で教え込む。
破壊神を除く神界最強の闘神オーディンや、その息子トールとパーティを組んで、敵対する巨人や魔界の古の魔人や大魔王と、フレイアと同様魔法使いとして戦ってきた記憶と知識を授けた。
「それでね、魔法使いとしては最も厄介な相手がいる。脳筋の戦士タイプじゃなく、魔法も近接も両方とびぬけて強い奴だ。僕が戦った中でヤバかった相手は、神界で反乱を起こした時に寄ってたかってボッコボコにされた、シヴァのおっさんやゼウスとかマルドゥクにアースラやルシファー。あいつら接近戦だけじゃなく頭も回る。一対一なら、手段を択ばず入念な準備すれば勝てない相手じゃないけど、仮にそういう相手と戦う事になったら君ならどうする?」
「わかりません、私はそういう経験がないので」
「そういう時はここを使う」
ロキは、自分のこめかみを右の人差し指でトントン叩くジェスチャーをした。
彼女は喧嘩の経験も無ければ、格闘技の経験すらも転生前も転生後も無いが、それがロキの教えを受けるのに幸いに働く。
なぜならば、教えを受ける時に経験があるに越したことはないが、余計なクセや戦闘思考と先入観がなまじついていた場合、戦闘術習得に邪魔になる場合があるからで、彼女は直接戦闘の才能はないが、魔法使いとしての素質と知能が高いため、先入観なく知識を頭に詰め込める。
「あとは、相手を出し抜いてやるって気持ちと自信さ。それで君、隙だらけね」
鼻歌交じりに瞬間移動したロキが、エリザベスを海に蹴飛ばす。
「このっ! がぼぼぼぼぼぼぼぼ、溺れ……」
逆上したエリザベスの額を右手で制するように、頭を押さえたロキは大爆笑した。
「あっはっはっはー、言ったはずだよ。感情を制御できない魔法使いはゴミだってね。こういう追い込まれた状況でも、魔法使いは冷静に戦況を見なきゃダメなんだ。くっくっく」
そんな事を思い出しながらエリザベスは、ロキとの遊びで培った戦法、大きく距離を開けて魔力をチャージしながら、相手の戦力と予想されるであろう行動パターンを考える。
「近接2、魔法1 相手はチームでかかってくるはずだから、まずは遠距離攻撃可能な魔法使いを先に潰す!」
炎と風の魔力をエリザベスは両手に込めると、時空が歪むほどの魔力がエリザベスの掌に集まり出し、両手をフレックの方向に突き出した。
「耀斑炎星」
フレックの周囲の空間が揺らめき、電子の結界がフレックを包む。
「おお魔法!? これは強そうだぞ!」
結界が空間ごと圧縮された瞬間、小型のビックバーンのような光熱の大爆発がフレックを包み、衝撃で彼女の体が吹き飛ばされてロンディウム市街地に落下し、ロンディウムに移住させたジュー達を避難させ、自身が率いる黒騎士隊に王国民を避難させていたエドワードことアレクセイは、何事かと思い、咄嗟に身構える。
すると、今の攻撃のダメージを受けて泣きべそをかいている、フレックの姿を目撃した。
「め、女神様!? お、お怪我は!? 今、この場で私やジュ―達にできる事は!?」
アレクセイが近寄ると、フレックは涙目の状態からヒステリックに怒りに燃えて彼を弾き飛ばした。
「うるさいゾ! 現地人!! フレックはあの女を許さない!」
アレクセイは、今のフレックの物言いを聞き捨てならなかった。
自分だって神オーディンに選ばれた、使徒で救世主かつ、この世界に翻弄されたハイエルフの血を引く者を救済する使命を帯びいるのに、なぜ現地人と差別するのかと。
「女神よ……私とて神オーディンから、この呪われし世界を救えと選ばれし御子! フレイという神や、我々を雑種呼ばわりしたエルフ達とは違い、我らが父なるオーディンは、私の働き次第で私達民族をお救い下さると……」
「うるさい、うるさい、うるさい! フレックのパパ、オーディンが言ってたのだ! お前達は道具! フレックはロキやあんな人間なんかに負けない! 道具の現地人、人間と精霊種の雑種がフレックに指図するな!」
フレックは誕生して間もなく、オーディンの強大な力を持つ末娘かつ最年少でワルキューレに加入したものの、女神としても未熟なため、天界にて修行の身である。
そして彼女は純粋かつ嘘を付けない性分の為、目の前のアレクセイに体裁を取り繕う事など出来るはずもなく、末娘を溺愛して本心をさらけ出したオーディンが抱いている本音を、そのまま直にアレクセイに告げたのだった。
……雑種。
アレクセイはオーディンの娘である、フレックから差別されると一瞬目を伏せ、握り締めた拳から血が滲み、悔し涙が溢れるその青い瞳には怒りがにじみ出て、普段の冷静さが失せて激情に駆られる。
「女神……いや、お前など世間知らずのガキだ!! あんな女王気取りの女にあしらわれ、無様に地べたを這いつくばるガキ! 2千年以上もこの世界で差別され、この歪んだ世界をオーディンの名のもとに救済しようとするこの私を侮辱するなどと!」
「黙れ現地人の雑種! フレックは負けないぞ! あの人間の女を、フレックを傷つけて痛い……痛い痛い思いさせた女は許さない! うっ、うぅ……うえええええええん」
フレックが泣きじゃくり始めると雷が落ち始め、アレクセイが見上げた夜空は暗雲が立ち込め始めた。
一方、空にいるワルキューレ達はエリザベスと空中戦を繰り広げるも、歴戦の自分達が翻弄され、間合いを詰められずに遠距離攻撃を一方的に受けることで、焦りを感じ始めており、お互い顔を見合わせる。
「オルトリンデ! あいつ、ロキじゃねえ! だが移動速度が速えし、複数の魔力を操るなんて歴戦の魔法使いだぞ!」
「物凄い魔力ですぅ! 我々の装備でもまともに攻撃を受ければ大ダメージ間違いないですぅ」
エリザベスは、女神と呼ばれるワルキューレ達との戦闘で、自信と勢いがついて空中を風の魔力で高速移動しながら、ワルキューレ達と間合いを徐々に引き離す事に成功した。
「やれる……今の私なら、女神にだって戦えるっ!」
エリザベスは、今度は大剣を持つオルトリンデに向けて、魔力を溜めると、地上から小石や砂利が無数に持ち上がり、電磁力を帯びて小石同士が次々とくっつきながら巨岩と化し、電熱を帯びて光り輝く。
「巨岩爆撃」
電磁力で超音速で加速した巨岩が、オルトリンデに向けて飛んでいくが、体を電子化した一瞬で移動したスルーズがオルトリンデの前に立つ。
「あたしに電気の魔法で対抗しようとかふざけやがって、打ち返してやるぜ!」
スルーズはトンカチほどの大きさの金槌を、巨大な大槌に変え、打席に立つバッターのように構えて打ち返そうとした瞬間、エリザベスは右手でぐっとガッツポーズをした瞬間、巨岩が吹き飛ぶ。
「しゃらくせえ!」
マッハ10以上の速度で、プラズマ化した弾丸のような飛翔体が次々とスルーズやオルトリンデに降り注ごうとした瞬間、スルーズは大槌をスイングすると、電子バリアーを発現させて攻撃を防ぐも、あまりの威力にバリアーが消滅して、威力は3分の一ほどに低下はしていたが二人そろって魔法ダメージを受けた。
「きゃああああああああ」
エリザベスの自身が確信に変わり、自分が神に等しい力を得た高揚感で更に高空へ跳んだ。
「フフ、ウフフ、アッハッハッハ。今の私なら、どんな大国だろうがどんな相手だろうが負けないわ! まるで前世のアニメで見た本物の魔法少女、いや魔女になったんだ私! この力で私は、この世界のありようを変えて……!?」
その時、一瞬禍々しい力を地上から感じてエリザベスは身構える。
エリザベスの魔法により、地上に堕とされて負傷し、激痛で大泣きするフレックに応えるように、時空が歪み始めて、エリザベスの眼下の市街地に暗雲が立ち込めた。
その暗雲が吸い込まれるように、フレックの体に、ヴァルハラに召された戦士たちのエネルギーが彼女の体に宿り、オーケストラの楽団が着るようなフォーマルな地味なドレス姿と鎧が混ざった服が弾き飛び、イチゴ柄のショーツとタンクトップ姿に変わる。
「フレック!? あの馬鹿、勝手に!」
「あぁ……後でお姉さまに叱られるですぅ……フレックが狂戦士に」
そしてエリザベスに向けて、騒音を通り越した音の暴力が空気を振動させて、全身の骨という骨が超振動できしみ、耐えがたい頭痛と吐き気に襲われたエリザベスが足を止めた。
「うっ……くっ、なんて奴。こんな音波、世界が割れる!」
宙に浮かんだフレックの背後に、召喚魔法の応用で具現化したマネキン人形のような楽団がそれぞれの楽器を奏で、フレックはトランペットを手に持ち、エリザベスが怯んだ瞬間、スルーズとオルトリンデがその隙にエリザベスへ間合いを縮めた。
「こいつか、人間界のハロウィーンみてえな衣装しやがって馬鹿女が!」
「あ、あなたが対象の、ロ、ロキの召喚士! お、お、お覚悟ですぅ!」
エリザベスは、魔法を詠唱しようとしたが、先ほどの音波により魔法の思考とイメージがわかず、距離を離そうにもフレックの今の攻撃で、前後不覚の状態に陥る。
「結果オーライだなあ? フレックの馬鹿がうるせえ事しやがったおかげで、あたしたちの威力偵察は、こいつを殺って、ひとまず終了っと!」
スルーズとオルトリンデが武器を構えた瞬間、オルトリンデの大剣が奪われ、スルーズの首に蛇を模した鞭が巻き付く。
「おんやぁ、オーディンのバカ娘がやってきてるでありんす」
「武器奪ってやったわん!」
ロキの娘、フェンリルとミドガルズオムが姿を現した。