第109話 Rising 前編
一方、夜も更け込み間もなく夜が明ける寅の刻4つ、午前5時を迎えるジッポン上空では、空中戦を繰り広げるロキ。
相手のトールは共に巨人相手の戦争や、冒険の旅に出た事がある、いわばお互いの戦闘スタイルと思考傾向を知り尽くしたパーティーメンバーでもあり、仲間だった。
魔法戦と頭脳戦に特化したロキ自身、トールには負けないまでも、近接戦闘だけならばオーディンを凌駕して、数多の神の中で最強候補にも名前が挙がるトール相手に、戦闘での完全勝利はやはり難しいと判断する。
――こいつくっそ面倒くさいし、長期戦になったら僕の魔力が怪しい。しかも馬鹿のくせになかなか策に引っかからないな。じゃあ、メンタルから攻めてやろう。
ユグドラシル最強クラスとも言われるトールを、いかに嵌めようかという方向に、彼自身の興味と趣向が湧き、奸計を巡らせた。
「ほらほら、そんな馬車のとろい攻撃で僕をやれると思ってるの? バーカ、あっはっは!」
「貴様……」
ロキは、どうすればこのトールが怒り狂い、全力を出すのかを知っている。
それは、彼の強者としてのプライドを傷つけるような侮辱。
「君ってさあ、強い強いとか吹きまくってる割に僕に勝ったこと、一回も無いよね? 前の神々の戦争で、僕と娘のミドガルズオムにまんまと嵌められて、魂消滅寸前まで追い込まれたっけ? ざっこ! ぶっ、あーっはっはっは!」
「いいだろう、殺してやるぞ! 俺の本気の一撃で」
トールはアメリカンバイクのような戦車、タングリスニ&タングニョーストを乗り捨てると伝説の武器、トールハンマーともミョルニルとも呼ばれる槌を右手に具現化し、ニュートピア大気から電子と言う電子をかき集めた。
そしてニュートピアだけでなく、周囲の星々や宇宙からも電子をかき集め、その電圧は実に10の18乗を遥かに超えた、ゼタボルトの領域まで達する。
「くらえい! 終焉の雷光」
「あはっ」
嘲笑うロキ目掛けて、トールは光の速さで加速し、全てを無に帰すような雷神の一撃をロキの頭部目掛けて槌を振り下ろした。
あらゆる生命体やエネルギー体、そして最上級神の戦闘力に匹敵するロキであっても消滅させる、雷神の一撃をクリーンヒットさせたトールは勝利を確信したが、急に神通力がなくなり左手で顔を覆う。
「な!? これは!?」
大ダメージを負い、血塗れになったロキが嘲笑うかのように邪悪な笑みを浮かべてトールと対峙すると、殺したと手応えを感じたトールが驚愕の表情を浮かべる。
「ふふ、やはりね、法改正されてなくって良かったよ。神界法だと神の力を人間界で連続で二度使えば、人間の身に堕とされるだっけ? ぷっ、それに今の馬鹿っ面っ! 最高にツボだよねー。あーっはっはっは、バーカ!」
雷神トールは、召喚時のロキへの先制攻撃と今の攻撃で、自身が振るった神の力である魔法を二度使用していた。
当初、違反事項に抵触しないよう自身の力をつからわないように馬車の武装で攻撃していたが、そのせいでロキとの戦いが長期戦の様相となり、イラつきが頂点に達した時にロキより挑発されて、完全に神界法の事を失念してしまっていたのだ。
「貴様……はめやがったか」
「ああそうそう、なんで僕が死んでないかって? ユミルの水晶ってやつさ。始祖の巨人ユミルの体の一部を水晶化したこのマジックアイテムがあれば、身代わりになってくれるんだ。けど、こんなにダメージ受けるのは予想外だったけどさ」
ロキは身に着けていた黒焦げになった水晶玉を、野球のピッチャーのようにロキがトールに投げつけた瞬間、水晶が取り込んだエネルギーが溢れ出し、トールにダメージを与えて吹き飛ばした。
「君のせいで僕の切り札の一つがお釈迦になったけど、君が人間になって弱体化したからまあいいや。それに神の力失ったとしても、お前強いからこの辺で帰るとするよ。じゃーねー友よ」
ロキは転移の魔法を使って姿を消し、爆発の衝撃でトールは高空から落下すると、まるで隕石が衝突したかのように、桶知多間の地に巨大なクレーターができ、逃げ遅れた諸国連合軍が衝撃で吹き飛ばされて、多数の死傷者を出す。
「なんだ、なんか空から落ちやがったぞ?」
イワネツが独り言ちると、ヘルは空を見上げて恐怖で震え始める。
「あ、あいつだわさ。あいつがこの近くにいたのだわ……」
「ああ゛? あいつって……まさかロキって野郎か?」
すると神の力を失ったものの、筋骨隆々な2メートルを超えるバイカーのような格好をした大男が、雷を纏いながら姿を現す。
「クソっ、これではワルキューレの誰かがいないと、俺はユグドラシルに帰れない。相変わらずふざけた奴だ……ん?」
トールは、イワネツとヘルの姿を見つけ出すと息をスウッと吸い込み、大口を開けた。
「見つけたぞヘル! お前はやはり神に仇なす巨人の一族だ! そこを動くな!!」
怒号でヘルはビクリと肩を震わせ、トールの姿を見ると足が笑うように震え出して、歯も鳴りだしガタガタと恐怖に震える。
「え、ちょ!? えぇ……トール上級神……な、なぜここにいるのかしら?」
「うるさい! お前が冥界でシステム障害を起こし、我らユグドラシルは大天使長と創造神から神界より破門されそうになってるのだ! 潔白を証明するためお前を冥界に引き渡せと我が父、オーディンから命令を受けている。そしてそこのチビ! 罪人たる冥界の勇者抹殺も……」
言い終わる前に、イワネツが右ストレートを繰り出してトールの顔面を打ち抜いた。
「誰だお前! いきなり出てきて好き勝手言ってんじゃねえ馬鹿野郎!」
すると、トールは持っていた槌でイワネツの頬を思いっきり振り抜くと、奥歯がへし折れながらイワネツが吹っ飛ばされる。
「誰に向かって無礼を働いてる人間! ぶち殺すぞ!!」
イワネツは起き上がり、首を左右に振ってポキポキと音を鳴らすと、鬼の形相でトールを睨みつけた。
「よくわかんねえが、俺をなめてんだなお前? 死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」
連合軍が撤退した桶知多間に、イワネツの織部軍が続々と姿を表して、多根が島や槍や刀剣を一斉にトールに構える。
「人間風情が調子乗りおって。神の魔力が無くなったかもしれんが、このトールをなめてるのはお前だ。ちょうどいい、相手してやるぞ人間!」
「何だこの野郎? お前神って奴か? 目的はなんだ?」
イワネツは、目の前に現れた雷神の目的と正体を探ろうとする。
槌の一撃が思った以上に足に来て、ダメージを回復するための時間稼ぎと情報を得ようと思ったからである。
「痴れ者が! 俺の目的は第一にロキ抹殺! 第二にそこのヘルの身柄の確保だ! そして第三、お前含めたこの世界の薄汚い人間共をヴァルハラ送りにする事! お前にも抹殺指令が出ている」
「何のために!?」
イワネツはトールの目的は分かったが動機が意味不明だった。
「わらわのせいだわさ。わらわは、あの最低男に信用されるためにスパイを演じたのだわ」
ヘルが呟くように独り言ちると、イワネツは特大のため息を吐く。
スパイと言うものは、相手の懐に飛び込んで情報を得るために信用を得なければならない。
そのためにヘルが行ったのは冥界システムのハッキングを通り越した、クラッキング行為とサイバー攻撃で、ロキからの信頼をヘルは得た。
全てはロキに信用されることで、情報をオーディンに流してロキの討伐の手柄とする事と、自身の勇者が世界を救済することで自らの出世を狙ったものであるが、これによってヘルは冥界からお尋ね者となる。
そしてヘルがユグドラシル所属の女神かつ、ユグドラシル全体が大天使長より強制捜査を受けていたことで、最上級神オーディンからの捜査妨害であると天界の大天使長から嫌疑がかかり、ユグドラシル自体の存亡の危機となってしまった。
事態を打開するには、ロキの討伐もさることながら、冥界に損害を与えたヘルの身柄の確保と、身の潔白しかオーディンに道が無くなったのだ。
冥界とロキとオーディンとの三重スパイなどを演じてしまった事により、結局は二つの勢力から追われる結果となってしまったのである。
つまり、イワネツの状況はニュートピア西側諸国の背後にいる、冥界の閻魔大王配下の勇者たちと敵対状況に陥り、神界ユグドラシル全体を敵に回し、このジッポンでも朝敵扱いされているため、三重苦の状況に陥ってしまったのだ。
「けっ、言わんこっちゃねえ。言ったろメスガキ、そんな真似した馬鹿は消されちまうのが世の常だとよ。まあいい、ジロー達西側の情報が正しいって事も間違いねえようだ。あのトールって野郎をこの場で消さなきゃ、俺の勇者としての旅路もこの世界もゲームオーヴァーてやつだな」
イワネツは両拳の指をポキポキならし、神をも恐れるような容貌に変わる。
「イワネツ様、こやつめを滅する許可を!」
織部家臣団達や軍が、イワネツとトールを取り囲み武器を構えるが、トールの体から発生した稲光が発生し、その場にいる者の刀剣や槍、鉄砲が強烈な磁力によって金属製の武器全てが宙に浮く。
「この俺を滅する? 俺は父オーディンを力だけなら超えているのだぞ? なめやがって人間共! 消えうせろ!! 」
「ブリン! 逃げろお前ら!!」
イワネツが叫ぶも、電磁力を帯びた多根が島からレールガンと化した銃撃が発射され、展開した織部軍が吹き飛ばされ、イワネツはヘルに覆いかぶさり衝撃から庇う。
「うぎゃああああああああああ!」
トールの攻撃に手足を無くした者や、黒焦げにされた者、木っ端みじんにされた者が続出し、展開していた織部軍が総崩れにされる。
下級神クラスであるならば、神通力を無くせば人間と変わらぬ力しか残されないが、最上級神と同等、もしくはそれすらを超えるとも言われる、ユグドラシル最強の雷神トールは、フレイアがそうだったように、人間の身になっても並の勇者や英雄を遥かに超える、膨大な魔力と暴力を誇る。
そして自分達の手下が多数殺害されたことで、イワネツの怒りが頂点に達して、襟骨の下に輝く盗賊の星の入れ墨の光が輝きを増す。
「ブリャアアアアアアアアアアチッ!!」
イワネツはチャクラを全開放して、トールに徒手空拳で立ち向かい、振りかぶった右拳が金剛石のような光を放つと、数多の武器を宙に浮かべたトールは電磁バリアを張る。
バリアに防がれ、イワネツの繰り出した右拳が白熱すると火花が飛び散り、トールは鼻で笑う。
「ふん、貴様……腐っても勇者のようだな。だがこの俺には……!?」
イワネツの拳がトールの電磁バリアを突き破り、頬ゲタを思いっきり打ち抜いた。
「ぐおおおおおおおお! 貴様っ!」
トールは持っていたトールハンマーごと吹き飛ばされながら、電磁力を帯びた刀剣や槍と矢を次々と射出していくと、あまりの威力で地表が一瞬プラズマ化して爆発を起こすが、イワネツは大地を駆けて行き、龍神の力を念じる。
「龍化」
イワネツの体が竜の鱗に覆われて鎧のようになり、身体能力を倍加させて走る速度が更に増し、吹き飛ばされるトールを追い抜くと、反転して飛び膝蹴りを繰り出した。
「ぬぅ!」
トールは目の前の勇者の力量を見誤っていた事に気づき、稲光を帯びて空中でピタリと止まり、追撃するイワネツに組み付いて頭突きをくらわす。
「俺をなめるな人間!」
大人と子供ほど違う体格差を活かして、トールはイワネツに組み付く。
自分の手をイワネツの腰にまわして、がっちりと電磁力でホールドすると、イオノクラフト効果で垂直浮遊し、強烈な電荷がイワネツを襲う。
「ぬおおおおお収容所で若い時食らった電気の拷問かこりゃあ、離せ! ビスタ!」
電撃で動きを封じたトールは、そのまま100メートル上空まで浮遊すると、前屈みになったイワネツの頭を自身の両足で挟み込み、凄まじい膂力でイワネツの体を持ち上げると、そのまま電磁力で加速して落下する。
「死ぬがよい!」
地上100メートルの高さから、地面に脳天からぶつける高速パイルドライバーをトールが繰り出す。
地面に衝突する瞬間咄嗟にイワネツはアゴを引いて、土の魔法でスチールウールの緩衝材とセラミックのヘルメットを作る。
これで衝撃を少しでも和らげようとするが、衝突した瞬間、ダイナマイトがさく裂したような爆発で土砂が舞い上がり、凄まじい衝撃でクレーターが地面に出現し、まるで泡立つような頸痛から音がイワネツからしたと思ったら、土の魔法で作ったヘルメットが粉微塵に粉砕され、体が麻痺して動けなくなった。
一方、立ち上がったトールがその姿を見下ろして勝利を確信する。
「ほう? 普通は粉微塵になるか、最低でも頭が吹き飛ぶのだが、人間にしては頑丈だ。褒めてやろう」
力無く横たわるイワネツを、トールは抱きかかえて右肩に担ぎ上げると、今度は首をがっちり固めて後ろ向きに倒れ込む、とどめのブレーンバスターを繰り出すと、脳天を叩きつけられたイワネツの意識が刈り取られ、勇者として覚醒した目の光が消えて、頭部から大量に出血したまま一切動かなくなる。
「俺に相撲や徒手格闘でまともに戦える上級神は、高天原のタケミカズチか、オリンポスのヘラクレス、そしてデーヴァのクリシュナの名だたる戦闘神のみ! 俺をなめた報いだ人間!」
心臓の鼓動が弱まり、死を迎えそうなイワネツを尻目に、トールはヘルに歩み寄る。
「さあ、来い! 冥界のヤマにお前を引き渡す」
「あ、あ、あ、あの」
「なんだ! 何か言いたい事があるのか!?」
懐から魔法の水晶玉を取り出して、ワルキューレを呼び寄せようとしたトールに、怯えながらヘルはトールに殺された織部軍の面々を指差した。
「違反行為です、重大な……トール神。理由なき殺人罪、それも虐殺行為は神であっても重大な違反行為ですわ」
「はあ!? 知るか、俺は父上からの命令を忠実に実行しただけ……」
「ならば最上級神オーディンの殺人教唆だわ! 刑法は人間であっても神でも適用される、天界の大天使が定めた法規ですわ! わらわを冥界に連れ帰ったら、今の行為をわらわは冥界の最上級神にして最高審問官の閻魔大王ことヤマ神に告発します!」
ヘルは、冥界の女神かつ二等審問官であり、神界法、天界条例、刑法、刑事訴訟法、全ての法規を網羅している。
そして冥界の裁判官である彼女は、先程の所業を見過ごせず、トールを糾弾したのだ。
「ええい! 下級神の分際で上級神に歯向かうとは! それも神界法違反行為だろう! さっさと来い、ロキの娘!!」
すると桶知多間にもう一柱、筋骨隆々の大柄を通り越して3メートルは越えるだろう、ピンクのドレスを着た何かが、ヘルとトールの前に降り立つ。
「ここねーん? アースラちゃんが紹介した、う・わ・さの彼がいる東の果てって、おや? あらあらまあまあ」
ロキと同様、天界から指定4類を受けた元最上級神でもあり、大逆神とされるクロヌスだった。
クロヌスは、大勢の人間が倒された戦場を見渡し、虫の息のイワネツを見る。
「あーん、せっかく会えたのにイケメンちゃんが死にそうになってるーん。治してあげなきゃ、他の人間達もねー」
トールは、今の自分を超えた化物じみた魔力反応と、自分の体格を遥かに超えるクロヌスを見て、何が何だかわからずに困惑した。
「な、なんだお前は? 女みたいな格好して、いきなり現れて何を!?」
「んー、なあにあなた? 人間っぽいけどそれにしては随分と……あぁー!」
腰と尻を振りながら、おネエ歩きでトールの前に来たクロヌスがニコリと笑った。
「懐かしいわねえ、あなたトールちゃんだったかしら? 大きくなったわねーん、あたしの事覚えてないのーん?」
「だ、誰だお前!? 気色悪い格好などして、お前は誰だ! 名を名乗れ、殺すぞ!」
まるで冠婚葬祭の席で、知らない親戚から自分の名前を言われたような感覚に陥ったトールは、クロヌスの正体を問いただそうとした。
「ま、そんな事より、まず周囲の人間を治しってっと。完全回復」
クロヌスによって、意識不明の重体者や、手足欠損などの大怪我を負った者達の怪我が次々と治っていき、膨大な魔力と魔術にトールから冷や汗が流れる。
「うーん、半数以上は治せたけど……あとは死んで魂の循環に入ってしまったから無理だったわ。もう少し早くこっち来れれば、もっと多くの人間の子達を治せたんだけど……」
「おい! 俺の質問に答えろ! お前はどこの誰で何者だ!? 答えねば、そこらに転がってる人間達のようにお前を殺すぞ!」
「あ゛? これやったのお前か?」
クロヌスは光の速さでトールにラリアットを食らわし、吹き飛ばした。
「オーディンの野郎、子供の教育全然なってねえな! 昔は素直そうないい子だったのに、なんだこれはよお! 口の利き方もなってねえし、ぶち殺すぞ小僧!!」
周囲一帯の空間ごと破けそうな怒鳴り声を上げたクロヌスに、今まで自分が見てきた神々とは、次元が違う化け物が現れたと思ったヘルは、恐怖の目でクロヌスを見つめる。
「あら〜ん、お嬢ちゃん。ごめんねえ、大きな声出しちゃったけどオネエさん怖がらしちゃった?」
ヘルは無言で首を左右に振り、クロヌスを滝のような汗が吹き出す。
「まあいいわーん、さあてと。確かマリーちゃんがやってた心肺蘇生だっけ? アースラちゃんの紹介した彼の唇に、あたしの唇をっと」
クロヌスがイワネツに近寄ろうとした瞬間、トールが体を電子化して、光速移動のアッパーカットがクロヌスのアゴにヒットする。
「んーーーーーーー?」
しかしクロヌスはビクともせず、ギョロリと瞳だけが見下ろすようにトールを見つめる。
「ば、化物め。最強の神とも呼ばれる俺のパンチがモロに入ったのに」
呟くようにトールが吐き捨てた瞬間、何者かの気配が背後から感じ、振り向こうとした瞬間、腰に手を回され、地面から引っこ抜かれるような柔道の裏投げ、高速バックドロップをトールはモロに食らった。
あまりの投げの威力に、トールの頭が地面にめり込み、技を放った男は体から溢れんばかりのチャクラを噴出する。
「神、神、神、神! どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって! 何が神だ偉そうにっ! 今までソ連を救ってもくれなかった役立たず共があああああ!」
クロヌスは一瞬でその場から離れて、イワネツの力を注意深く観察すると、この圧力と気迫を昔感じた事があると思い出そうとした。
そして、驚愕の事実に気がつく。
「人間、じゃない? 肉体は人間だけど、この子……魂に何かが二ついる」
クロヌスの看破した魂の一つは、ドラクロアの魂である。
そしてもう一つの魂こそ、かつて神々を恐怖のどん底に突き落とした存在。
時刻は間もなく夜明け、うっすらと東の空の色が変わり、織部討伐連合軍の残存勢力、ニョルズを信仰する神官達が一揆衆を装い、イワネツ暗殺と織部国内の崩壊させようと騒乱を目論み、正規軍同士の戦いから非対称戦争のゲリラ戦へ移行しようとしていた。
続きます