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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第108話 伝説の始まり 

 覚醒した勇者イワネツの様子を遠くから、赤い瞳で見つめる金髪の少年が見守っている。


 その顔は、いつもの薄ら笑いを浮かべる顔から、酷く悲し気な顔つきになっていた。


「そうだね、お前の言う通り父親らしいことなんかロクにできなかった。お前が僕を恨んでもしょうがない話だよねヘル。親として本当に不甲斐ない話さ……だからあのオーディンを殺したいんだけど。それに、あの彼……自分が人間だって言ってたけど、自分の正体に気が付いてないみたいだ。僕には関係のない話だが、彼はまだまだ苦しむことになりそうだね」


 彼は空を見上げると、高空でイワネツを監視するワルキューレの姿を見つけ出し、邪悪な笑みを浮かべると両手を空に向けて掲げ力を溜めていく。


「何をしてるか知らないが、隙だらけだよ君ら? 僕を殺しにやってきたの忘れてるのかな? あいさつ代わりに、昔フレイとフレイアの馬鹿兄妹にやったレプリカじゃなく、僕専用の本物の炎の剣(レーバティン)でちょっと遊ぼうか?」


 膨大な魔力を上空に射出すると、全長10メートルほどの巨大な炎の剣となり、巨大なねずみ花火のように回転しながら、音速を超えた速さで空に昇る。


「姉様! 下から魔力反応!」


「なんだこれは!?」


 ワルキューレの前に高速回転しながら、火花のようなプラズマを次々に発射する魔法の剣が現れ、ワルキューレ達を攻撃し始めた。


「きゃあああああああああああ」

「何だこの巨大で強大なエネルギーの大剣は!」

「……ゲイラ姉様、エイラ、一旦引いて逃げ……!?」


 ワルキューレのゴンドールは大槌を構えるも、プラズマ状の光弾が体を貫通して墜落する。


「姉様!」 


 エイラがゴンドールの体を庇うように回復魔法をかけるも、自分の目の前にやってきた邪悪な赤い瞳と目が合うと、金縛りにあったように彼女の動きが止まった。


「いい、今の表情グッド! 小娘のくせになかなかそそるセクシーな顔してるねえ君。自己紹介がまだだったね、僕の名はロキ。君達たった三人で、僕に勝てるわけないでしょ?」


 ロキに槍の一撃を繰り出そうとしたゲイラに、エイラは目配せして攻撃を思いとどまらせ、ゲイラの槍の柄を左手で掴むと、3人のワルキューレの体が光り出す。


 すると巨大な魔法陣を上空に具現化し、転移の魔法でその場を離れた。


「へー、なかなか高等な魔法使えるようだが、さすがは僕を殺しに来ただけはある。さあてと、じゃあ僕はオーディンの馬鹿を呼び寄せる最後の仕掛けの準備しなきゃ」


 ロキが独り言ちると、巨大な魔法陣が消え去り、光の文字で‶雷神召喚″の文字が浮かび上がり、突然暗雲が立ち込めて複数の雷が彼目掛けて落ちてきた。


 電流を極限まで上げて殺傷能力高めた電撃を、鼻歌交じりでロキは避けていくが、今度は白熱した地中の砂鉄が磁力を帯びた砂の顔になり、飲み込もうとしたので、ロキは左手で磁力を奪い土魔法を無効化する。


 周囲の地形が変わり、地面が溶岩のように真っ赤に光り輝き、時折稲光が輝く中、ロキは邪悪に笑いながら周囲にバリアを展開させた。


「はっはっは、なるほどワルキューレは囮で君がこっちに来たわけか? いや、これは召喚魔法だね、彼女たちの。久しいな友よ! 相変わらず殺意高いね君は。知能は進歩してるどころか退化してそうだけどさ、トール」


 ロキが見上げた先には、逆立つ真っ赤な髪に稲妻模様の力帯、黒いバンダナのようなメギンギョルズを巻き、燃えるような赤い瞳、赤髭の大男が空飛ぶ大型アメリカンバイクのような神の馬車に跨っている。


 山羊の骸骨がイラストされた黒い革ジャンを羽織り、一見するとバイカーのような格好をした白人系大男。


 神域ユグドラシル最強と言われる、雷神トールがロキを見下ろしていた。


「相変わらず小賢しい奴だ。ワルキューレの召喚に応じてぶっ殺しに来てやったぞこの俺が! 俺の娘だけじゃお前を殺すのは無理そうだからなあ!」


「うふふ、相変わらずロックだねえ。今度は何にムカついてんのかな? 昔、寝てる君のカミさんの髪を丸刈りにしてやった事? それとも君の兄弟のバルドルを殺しちゃったこと? ああ、アホのスリュム殺りに行った後、神連中に君の女装姿の写真ばら撒いてやった事かな?」


「全部だクソ野郎!!」


 雷を纏ったタングリスニ&タングニョーストをトールはアクセル全開にして、車体でロキの体を轢こうとするが、笑い声をあげたロキはバイクを躱して空を飛ぶ。


「あっはっはー、先制攻撃で僕を殺せなかったのは君にとって不味かったんじゃないかな? クックック昔を思い出すなー。違うのは乗ってる戦車が変わったくらいか。君、自分の戦車引く山羊食っちゃうくらい、昔から馬鹿だからさ。それ、鬼さんこちら、手の鳴る方へー」


「この性悪チビ助が!!」


 挑発するロキを、雷神トールが追う。


 一方、桶知多間上空で、軍竜に二人乗りバイクのように跨った猿ことヒデヨシと、犬こと犬千代が、青地に赤い鳥を現した陣幕陣地を発見する。


「間違いないね、連合軍総大将今田のホモの本陣だ」


「ああ、俺ら大手柄だぜ。報告しようや、犬ちゃん」


 犬が魔法の水晶玉に手をかけた瞬間、どこからともなく弓が飛んできて、犬千代の顔面、右目の下に弓が突き刺ささり、力無く軍竜の手綱を持ったまま突っ伏した。


「犬ちゃん!」


 軍竜にも矢が突き刺さり、悲鳴を上げた軍竜は高度を徐々に下げて墜ちていく。


「やべぇってこれ、俺、魔法とか全然ダメだしどうすりゃいいんだ。畜生やべえ、テンパっちまって……これ落ちたら死んじまうって」


 すると、意識を取り戻した犬千代が手綱を握り直し、何とか意識を回復する。


「チッ、生まれ変わったのにまた目をやられちゃったよ……まるでサラエヴォでやられた時みたいに、右目が全然見えない。ごめん猿、こいつ使って矢が飛んできたら撃ち落としてくれる?」


 犬千代は、懐から取り出した多根が島をヒデヨシに手渡す。


 だが、ヒデヨシは前世で親分と上役の会長を守れなかったトラウマが不意に脳裏に思い浮かび、体ががくがくと震え出した。


「だめだよ、犬ちゃん。俺、チャカ持つと昔のヘタ打ち思い出して……俺、それで昔、相手からチャカ奪われて自分の親分守れなくって……前世でヘタレ呼ばわりされて」


「大丈夫だって、君ならできるよ。どっち道、この状況に対処できなきゃ死ぬんだ。死ぬんならさ、格好良く死にたいじゃない? こっちで妻も出来たし、まだ死にたくないけど。前世でオレは撃ちたくても、撃てない状況になって無様に一人で死んだんだ。けど、今のオレは一人じゃない。君と小銃(ルゥジヨー)があるんだ」


 ヒデヨシは震える手で多根が島の台カブを握り締め、ピストルの片手撃ちのように構えて周囲を見回すと、地上から風の魔力を纏った弓が飛んでくるが、今田元網が放つ弓の攻撃で、今度は炎の魔力を纏い火矢となったので、肉眼でも確認できる状態となった。


 ヒデヨシは、震える右手を左手で押さえつけて両手で多根が島を把持して引き金に指をかけた。


 前目当てと呼ばれる照門と先目当てと呼ばれる照星を合わせ、ロクに銃を撃ったことはなかったが、引き金を引き、威力が低い魔力弾ではあったがまぐれ当たりで火矢を撃ち落とす。


「俺は……もうヘタレじゃねえ! 手柄立てて出世してやるんだ!」


 火矢を撃ち落としたことで、ヒデヨシは完全に吹っ切れた。


 前世の魂の傷を払拭したのだ。


「やってやる! カッコ悪く死ぬなんて嫌だ!」


 犬は自身が認めた友が男になったのをにこりと笑い、右手で手綱を握り、左手で通信用の水晶玉を取り出してイワネツに敵の総大将発見の報告をする。


「ハラショーわかった。でかしたぞ、今そっちに行く」


 イワネツは水晶玉で犬千代からの報告を受けて、水晶玉を褌の中に入れようとした時、再度水晶玉が振動したが、知らない魔力周波の着信だった。


「誰だ?」


「お前がイワネツか? 俺はフランソワ大統領のデリンジャーだ。今、俺の仲間のジローが助けに向かってる。なんとか持ち堪えろ」


 英語の回答と名乗った身分から、イワネツはジローや龍の言っていた、西側グループのリーダー格であると察する。


「ジローが……」


「ああ、お前のところにアントニオって奴がいると思うが、救援要請が入った。あいつ、お前のことを友達だからって言って喧嘩道具持ってそっちに向かってる。こっちもクレイジーな酷い状況で、あいつに今抜けられるのは正直痛い。だが、俺はあいつの気持ちを尊重する。だから、お前死ぬなよ」


 西側でも重大な問題が起きているのだと、イワネツは思いながら、そんな中で自分を助けようとしてくれるジローに心の中で感謝した。


 そしてジローを送ってくれた西側のリーダーにも。


スパシーバ(ありがとう)、デリンジャーだったか? こっちも芳しくねえ状況だ。それとお前も前世で盗賊か?」


「……まあな。前世では色々と、合衆国でマシンガン片手に盗みも強盗もやった。そして今、この世界は人間の尊厳を強奪するような野郎達が悪さして大戦が起きて、今この瞬間も大勢の人間が争い合い死んでる状況だ。俺達が阻止した筈なのに、この世界が自分勝手な悪党どもに滅茶苦茶にされようとしてる」


 自分が契約したロキと敵対するこの世界で戦乱を望む神が、動き出したのだとイワネツは察した。


「そうか、やはりお前も俺と同業者、なるほどアメリキーか。聞かせてくれ、お前の盗賊としての信念は何だ?」


「俺の前世からの信念は不殺だ。人間が人間を殺さなくてもいいような社会を目指してえ。人間同士がいがみ合う戦争の世の中なんざ沢山だ! 人々の幸せを侵し、未来を強奪するような奴らを俺は許せねえ。それがギャングだった俺の今の生き様。前世は合衆国相手だったが、今回の強奪相手が神だったとしてもだ! 悪党から人間の尊厳を強奪するんだ!」


 一切迷いもないような、自信に満ちたデリンジャーの返答に、イワネツは感服する。


 確固たる信念を持ち、力を持つ正統派の義賊は、ロシア裏社会では尊敬に値すべき男であるからだ。


「あと数時間以内で、そっちにジローが飛行機乗って着くはずだ。だから、それまで持ち堪えろ。健闘を祈るぜ、イワンの大将」


「ふん、そっちこそ死ぬんじゃねえぞアメリカ野郎(アミェリコース)。それに神から強奪だと? お前アレだ、頭イカレてるだろ?」


「ハッハー、クレイジーは俺への誉め言葉だぜ、じゃあな」


 通信が切れて、イワネツはニヤリと笑う。


 また一人、自身が手を組むに値する信念を持つ盗賊、それも義賊が現れたと。


「クレイジーが誉め言葉だと? 格好つけやがってянки(ヤンキー)のくせに。それに神から強奪だって? ハラショー、気に入った! じゃあ、ジローがこっちに来る前に俺の縄張りの掃除しなきゃなあ! 友達が家に来るのにゴミが散らかってたら恥ずかしいからよ!」


 イワネツは、安らかな死に顔を見せる平井長政の亡骸に、右手を額から下へ、右胸から左胸へ、一礼する、ロシア正教会式の十字を切り祈りをささげると、覚醒したイワネツを見て呆然とするヘルに手を差し伸べた。


「来いよ、お前は自身を取り巻く状況を見返してやりてえんだろ? 世界を救うと決めた勇者の俺について来いガキ」


 ヘルはイワネツの手を握り、龍術で一気に犬千代が指定した桶多知間に飛ぶ。


 同時刻、桶知多間の本陣で着物をはだけて弓を構える今田元綱は、織部側の軍竜を撃退したが、敵の斥候であると元綱は判断する。


「朝日奈、岡田、陣を移動させよ! 急ぐのじゃ! 織部本隊が来れば、負けぬまでもこちらの痛手になる! 平原に展開させた我が軍の本隊を、はよう寄越すのじゃ!」


「ははー! 大殿様」


 元綱は織部の広大な穀倉地帯、織部平野に展開させた諸国連合軍を呼び寄せようとする。


 本来は元綱が、諸国連合を差し置き桶知多間から名護矢の市街地へ先んじて入る事で、戦後の織部の領有権を主張する大義名分を得る予定だったが、戦場の流れが変わった事を東海一の弓とも称される元綱は気がつく。


 戦況は刻一刻と変わりゆく、生き物のようなものであり、南側の織部港の上陸部隊が阻止されて本陣が敵に気が付かれた以上、大軍で勝鬨城と織部本陣のある名護矢の街を、傷物にしてでも戦の趨勢を決めてしまおうと考えたのだ。


「名護矢は、如流頭(ニョルズ)に祝福され、古来より栄えた東海一の宿場と良港に近い町じゃがやむを得まい。者ども、名護矢を灰塵に帰し戦を終わらすぞよ!」


「ははー!」


 しかし、上空で突如として激しい稲光が鳴り響き、暗雲が立ち込めて陣へゴルフボール級の(ヒョウ)が降り注ぎ、その威力で大木が倒れて負傷者が続出するほどの災害が発生する。


 付近上空でロキとトールの馬車との戦闘が行われて、天変地異クラスの局所的な低気圧が発生していたからである。


「なんじゃこれは!? 者ども! 陣に戻るのじゃ!」


 数分後に雷雲が晴れて、月が姿を現す頃には桶多知間の陣地にかなりの損害が出ていた。


「くそう! まるで我らを天が阻んでいるような……!?」


 元網が見上げた夜空から、桶多知間に一人の男と少女が降り立つ。


 世界を救うという想いを胸に秘め、襟骨のすぐ下の胸に盗賊の星が瞬くイワネツとヘルだった。


「お主は、の、憲長……」


「よう、俺の縄張りで調子こいてるようじゃねえか? 幕府連合軍総大将! 副将軍イマダ・モトツナあああああああああああ!」


 イワネツが咆哮すると完全武装の今田軍が周りを取り囲む。


「であえーーー! 天帝陛下の錦の御旗に仇なす賊軍の総大将、織部憲長じゃああああ! 者ども、討ち取れええええええええい!」


 陣にいる今田と東條幕府軍のその数、8千名。


 イワネツがヘルを見ると、また凄惨な殺人が繰り広げられるかもしれないと思った彼女は、怯えた顔で自身の勇者を見た。


「心配すんなメスガキ、もう俺は無駄な殺しはしねえ。ここにいる奴らはなるべく生かしてぶちのめす! さあ、かかった来い! クソ共(ナフイ)!」


 イワネツは両拳を握り締め、チャクラを全開に吹き出す。


「おお、御大将自らが出陣見事也! この朝日奈綱安お相手致す!」


「田舎侍め! 東條軍四天王が一人、松田康久見参。死ねい! 天帝と幕府に渾名す賊め!」

 

 今田軍と合流した幕府東條軍がイワネツに襲い掛かるも、雑兵たちが拳の一振りで宙を舞い、侍大将の顔面が粉砕されて、矢も槍もイワネツに傷一つ付けられず蹂躙される。


「ぎゃああああああああああああ!」

「化物だあああああああ! ぶべら!」

「鬼じゃああああああ! あべし!」

「死にたく、死にたわば!」


 織部討伐連合軍は、イワネツ単騎に無双蹂躙されていくことで、大軍へ恐怖が伝播してパニックを起こす群集心理で阿鼻叫喚の様相となった。


 イワネツのあまりの人間離れした強さに今田信綱は、ただの弓では通用しないと判断し、禍々しい巨大な弓を用意させた。


 ニュートピア世界では、超大型とも言えるジッポン製の木と竹で出来た複合弓の平均の大きさは、七尺三寸(約221cm)であるが、数百年に一度、東の海からやってくる怪物たちの素材を組み合わせ、魔弓と呼ばれる代物が歴史上幾度が作られた。


 元網の用意させた弓は、彼の身長の倍はある11尺(333.33cm)で、様々な魔獣の素材を組み合わせて禍々しい妖気を放つ、魔界の弓と言った大業物。


 古代ハイエルフの血を色濃く引く元網でしか引けないような400年以上前のジッポンを二分した原丙合戦で使用されたという、這怒羅(ハイドラ)の弓である。


「もはや是非も無し! 五体満足であやつを捕らえたかったが、まるで神話! 如流頭の加護を得た初代天帝や伝説の英雄、大和猛の皇子の如し! あやつはワシが討ち取る」


 元網がつがえる矢は、今まで幾多のサムライの命を奪ってきた、原丙合戦で使用された鏃である、上差矢の鎧通し。


 風の魔力を極限まで高める事により、重装甲の大将鎧を貫き、体内で鏃に封じ込めた魔力がさく裂して、重金属が飛び散り内臓を損傷させて死に至らしめる凶悪な代物である。


「死ぬがよい! 憲長!」

 

 鍛え上げた膂力により、必殺の弓をイワネツ目がけて元綱が放とうとした時だった。


 降下してきた軍竜が体当たりして、元網を吹っ飛ばす。


 ヒデヨシと犬千代の操る軍竜である。


「カミカゼってやつだねこれ!」

「おう、特攻(ぶっこみ)だぜ!」


 しかし弓を引き絞った元網は、再度体当たりをしようとする軍竜の口目掛けて、矢を放った。


 魔力を込められた矢は竜の体を貫き、体内でさく裂して大爆発を起こしてヒデヨシと犬千代は吹っ飛ばされる。


「雑兵如きがワシを討ち取れると思ったかあっ!」


 元網は再びイワネツに向けて矢をつがえて射つが、紙一重でかわされ、間合いを詰めたイワネツに組み付かれ、スリーパーホールドのような形で裸締めにされた。


「憲長……まるで戦場で吹く風のようじゃの」


「お前を()れば、この戦争は終わりよ。言い遺す言葉は?」


 締め上げるイワネツに、今田元網は念願の男に体を抱かれたと思い、月夜を見上げ満足げに微笑んだ。


「夢かなう 神無月夜の 戦場に 浮き世の夢は 暁の空」


「ハラショー、見事な詩だ」


 イワネツは辞世の句を歌う元網に賞賛を贈り、首をへし折って絶命させた。


「総大将! この俺が討ち取ったりいいいいいいいいいい!」


 イワネツが宣言すると、連合軍は恐慌状態となり、総大将にして副将軍今田元網が討ち取られたことで、自分達も残党狩りで殺されると思い、戦場から急ぎ離脱していく。


 総大将を失った軍は、すなわち御恩が与えられないことを意味し、古今東西どんな世界でもこの時点で戦闘は終結する。


 なぜならば家臣が奉公をしても見返りがないことと同義で、血を流して戦っても恩賞が得られないのならば、戦う意味を喪失してしまうためである。


 このため負け戦で命を取られてたまるかと、次々と自分の主君に、魔法の水晶玉や、狼煙を上げて総大将戦死の報を侍大将達は伝達していき、元々周辺国が連合して士気の低かった連合軍は、我先と自分達の領地へ逃げ帰った。


 こうして10万もの軍勢がイワネツ単騎に敗れ去るというジッポンの勇者伝説が、最初に生まれた瞬間であった。

中ボス戦終了


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