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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第107話 勇者覚醒

「領民を、女子供を保護しろ! イワネツ様の命令通り、この織部に入り込んだ賊ら全てを抹殺してくれん!」


「鬼髭様、大鷹村は全滅! 根切りにされ生存者無し! 大鷹砦も連合軍に奪取されました! 砦周囲には甲亥高田騎兵隊、今田弓隊、東條幕府軍が展開中!」


「なんじゃと!? ならば好都合! まずは散開戦術をとり、密集している連合軍を見つけ次第、敵の位置をまず我が陣に報告するのじゃ! 兵の抜け駆けさきがけは控えよ!」


 イワネツを除けば織部最強の一角と目される、柴木勝英は人の丈ほどある金棒を手に持ち、指揮棒代わりに兵達に指揮を執っており、柴木の指示を魔法の水晶玉を装備した伝令兵が、対多根が島ライフル対策に、散開戦術をとった軍団に的確に指揮官の情報が伝達できるようになっている。


 このジッポンではチーノ大皇国が起源で、バブイールで発展し、ナーロッパの旧イリア首長国連合ことロマーノ王国で洗練された、魔法の銃火器、多根が島と呼ばれる魔力ライフルを用いた散兵戦術は、ジッポンの南北戦争で初めて織部軍が導入した戦法。


 歩兵が密集形態をとり、弓兵が矢を大量に射る、もしくは投石や魔法戦術で遠距離攻撃を加え、騎兵が縦横無尽に戦場を駆けるのが、ナーロッパと同様ジッポンの戦いの倣いではあったが、織部軍は現代の地球世界から転生したイワネツや、ニコライ・ソバキンこと前島犬千代の経験を取り入れたため、現代戦術を取り入れていた。


 兵の数で劣っていたとしても、密集体形をとる相手側の歩兵に制圧射撃を加える事により、多数の敵兵を殺傷することが可能かつ、それを援護する軍全体の機動力が段違いである。


 空飛ぶ軍竜を用いた空中機動戦術に加え、相手陣地への爆撃や、兵站輸送、鵺を動力源にした大砲を積んだ軽装甲の戦車などで、迅速かつ大火力で歩兵を支援することが可能。


「今じゃ! 一斉に賊めらを攻撃いたせ!」


「ははっ! 鬼髭様!」


 大鷹砦にて展開中の連合軍は、織部側より銃撃や砲撃を受けた事で、一気に殲滅された。


「鬼髭様、釜倉街道より懸かれ乱れ龍の一文字の軍旗確認! 越孤軍の手のものです」


「目障りじゃ! 軍竜隊で空爆せい!」


 きちんとした航空兵力を有してる軍は、北朝側には織部軍しかおらず、行軍する敵部隊へ容赦なく竜のブレスが浴びせられた。


 そして織部の地形が諸国連合軍を苦しめる。


 織部国の西は、北朝帝都中京にほど近い横江国との国境である伊東山地と養林山地、東は三川と勢力争いを繰り広げる織部丘陵、北は巳濃との国境、面白山地に囲まれ、南は伊東湾に面し、領土を分断するように境川や味噌川、流良川など、山あり川あり海ありの地形。


 侵攻してきた連合軍の行軍速度は遅くなり、攻め手には不利に働き、一方守る側にとっては東部からの侵攻軍を殲滅さえ出来れば良い。


 しかし……。


「報告いたします! 鬼髭様、三川湾より今田方の攻撃魔法を受けて、織部港は甚大な打撃を被りました。また、港から連合軍が上陸、豊田方面に侵攻中!」


「な、なんじゃと!? ええい、今田と東條将軍家め! 我らを挟み撃ちにする気か!」


 織部討伐に参加した軍勢は、今田軍2万5千、巳濃軍1万8千、高田軍5千、植杉軍2千、後詰に東條幕府軍2万、合計7万の大軍団に加え、神社勢力の僧兵や忍者集団も、軍団のように統制はされてはいないが、約3万も義勇兵的に参戦し、総数10万もの軍勢に織部は包囲されていた。


 対する織部軍の兵力は軍事大国化したと言っても、約2万の常備軍と予備兵力5千であり、砦の一つが既に堕とされた事でさらに兵力が減った状態である。


 巳濃はイワネツにより、総大将を討ち取られ軍団が潰走したとしても、残り約8万。


 勝ち目が薄いとしか言えない、圧倒的に不利な状況である。


「鬼髭殿! こちらフクロウ! 目標の指揮官暗殺任務の半数が失敗! 相手側に手練れの忍者がついてる! おそらく東條幕府お抱えの風摩衆、神社側に与する香賀、才賀集、高田のムカデも! 多勢に無勢! こちらの半数がやられた! 撤退する!」


 織部滝本の忍者集団の作戦が失敗し、逆に潰走状態にされるという、予想外の通信に織部軍の士気が低下する。


「ええい! もう少し持ち堪えろフクロウ! イワネツ様が巳濃を攻略するまで持ち堪えるのじゃ!」


 しかし、予想外の事は連合軍にも生じる。


 現代戦法をとり攻勢を強める織部軍に対し、連合軍の武将や兵達に多数の死傷者を出し、もともと多国籍軍かつ士気が低い連合軍内で厭戦気分が漂い始めたのだ。


「こんなに鉄砲揃えた馬鹿げた兵力聞いてない!」

「左様、東條幕府の無能ぶりここに極まり!」

「軍神植杉様の軍をこれ以上いたずらに浪費できるか!」

「田舎侍共め! 板東武者と誉れ高い我らを侮辱するか!?」

「田舎者はうぬらじゃ! 昔の事とはいえ釜倉なんぞに幕府なんぞ作りおって!」


 もともと、互いに国境紛争を繰り返しいがみ合ってきた国同士、連合軍内でも勝手に自分の領地に撤退する者や、小競り合いをする者も出始め、戦況は膠着状態となった。


 そして、戦の行方を決定づける大戦果を挙げた男達の存在により、戦況がひっくり返り始める。


「元網様! 一大事でございまする!!」


 織部領内、桶知多間(おけちたま)にて勝利を確信して、美少年の小姓を侍らせる織部討伐軍総大将、副将軍今田元綱に耳を疑うような情報が入った。


「な、なんじゃと!? ワシの跡取りの候補に考えておった、あの聡明な元康が敵側の人質に!? 手柄をとらすために、確実に勝てる此度の戦場にて初陣を飾らせたのにっ!」


 今田元綱は所謂ホモセクシャルである。


 彼には世継ぎがおらず、自身が認めた有力武将の小姓達の誰かから、今田の名を継がせる世継ぎを出そうと思っていたが、その一人が松原元康だった。


「それだけではござりませぬ! 大鷹城を奪取した連合軍が殲滅させられ、織部港から上陸した豊田の地の者達が敵の手練れにより全滅させられた模様! そして信じられぬことに織部港に突如城が出現! 城周辺に今まで見たことも無い奇妙な軍馬の軍勢が現れ、騒音を鳴らすなど奇怪な行動をとり、松原元網公もその城に人質にされております! 後詰の部隊も警戒し、上陸できませぬ!!」


「なんじゃと!? あそこは間者の情報で、陣や城などなかった筈じゃ!!」


 今田元網が狼狽する中、織部港では、もぬけの殻になったロマーノ連合王国大使館を、急ごしらえの土魔法でガワだけ見栄えよく城に偽造したヒデヨシと黒母衣衆、元網より寵愛を受けるタヌキのような耳を生やした齢15歳の美少年、松原元康が体を縛られ、犬こと前島犬千代に銃を突き付けられて人質にされていた。


 城の外では赤母衣衆が、巳濃にて軍事パレードをした時のように族車のように改造した軍馬と戦車を対岸の三川に見えるように目立たせ、ほら貝と太鼓で騒音を立て、三川側を威圧している。


「ナイスアイデアだよ、猿。まさかこの前作られたこの大使館の見栄えだけよくして、陣地作って相手ビビらせるなんて」


 日本の戦国時代の三英傑の一人、豊臣秀吉が木下藤吉郎と呼ばれていた時代、わずかな期間で城を築いたと伝えられている伝説をもとに、ヒデヨシが考えたアイデアである。


「ああ、昔の日本の英雄に豊臣秀吉っていてさ、墨俣一夜城だっけ? 一夜にして城作って敵をビビらせたって話しがあってさ、その発想をパクって1時間で城っぽく色塗って作ってやったぜ! ヒデヨシ君の一時間城って感じ。犬ちゃんこそ、特殊部隊率いて、上陸部隊やっつけちゃうとか流石だよね。それに敵の若手有力幹部さらってくるとかマジやばいじゃん?」


「うん、上陸部隊率いてるのがこんなガキとはね。殺しても良かったけど、こいつ確か今田のホモが可愛がってるっていうから人質にできるなって思ってさ。あと、猿のアイデアの暴走族、アレもビビらせるのに一役買ってるようだよ? そんで次はと」


 犬千代は水晶玉を取り出して、軍竜の航空支援を要請すると、空飛ぶ竜に乗った航空兵が、軍竜をヒデヨシ達に何頭か寄こした後、対岸まで飛んで、三川湾へ爆撃を開始し、対岸から火の手が上がる。


「ハラショー! よおし、せっかくだし今田のホモ野郎、オレ達で見つけてさ、更なる手柄とか狙っちゃおうよ」


「あ、ああ! やったろうじゃん、とことん。俺もこの転生先で昔の英雄みてえに、出世してやんよ!」 


 二人に人質にされた松原元康、幼名を武千代と名付けられたこの少年は、元々三川国の守護譜代の豪族系譜であったが、今田家が三川を支配すると、家臣団のいざこざから祖父の清康、父の弘康も若くして死に、自身は生まれた時から、将軍東條家で人質生活を送る不遇の生まれであった。


 彼は齢13歳で三川に戻るが、待っていたのは国を支配する元綱の小姓としての生活。


 隣国の織部以上に、内心今田家に恨みを抱き、自分の一族が不遇を強いられた事に対する復讐の機会を伺い、己の内心を明かさずにずっと忍耐と我慢をしていたのだ。


 そして戦況の機微を読み、今この瞬間、今田へ復讐する機であると決心する。


「今田の大殿はそちらの織部領、桶知多間(おけちたま)にて本陣を築いてる」


 これを聞いた犬千代は、元綱に多根が島の銃口を向けると、元康は涙を流した。


 恐怖ではなく、今までの境遇からの悔し涙であり、その瞳の色を犬千代は読み取り、今田への裏切りが起きているのだと判断した。


「何考えてんのお前?」


「わたしは……あやつから全てを奪われていた! 男子としての生き方も! 武家としての一族の領地も! 一族の名誉も!」


 元康という名前に、ヒデヨシはハッとなる。


 かの戦国三英傑の一人と言われていた徳川家康は、当初名前を松平元康と名乗っており、織田信長と同盟を結ぶ前は、日本の戦国時代、こちらでは今田という名だが、今川方の有力武将の一人だった事を思い出した。


 また、織田信長が少数で奇襲をかけ、大軍の今川方を破った戦いが、桶狭間の戦い。


 この世界においては、桶知多間という地名に当て嵌まっているとヒデヨシは気がついたのだ。


「犬ちゃんさあ、こいつ多分アレだよ、嘘言ってねえと思うよ。そんで俺達で、桶知多間確認しに行こうって。そこに相手の大将がいるって話がマジならさ、ホラ! 俺達でイワネツ様に報告して討ち取っていただける段取り作れば、俺たちこの織部で……」


「ああ、最年少でオレ達二人が、織部の幹部連入りできる。いっそ俺たちであのホモ殺すって手もあるけど、イワネツ様に花を持たせるのもいいアイデアだね。それに桶知多間に今田のホモいなかったら、見せしめにこいつ殺せばいいしさ」


 二人は軍竜に跨ると、織部領に陣を築いた総大将、今田元綱を見つけ出すため、織部の夜空を飛んだ。


 もう一人戦況をひっくり返せるだけの男が、東方ナージアに向けて音速を超えて夜空を飛んでいた。


「飛ばしみー! ゆく(ふぇ)ーく! ゆくふぇーく飛行機ぬ飛ばしみー!」


 ロマーノのジロー・ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロである。


「金城の叔父さん、極東の目標地点到達まで、あと6時間ほどで到着します!」

「叔父貴、俺達も義理あって助太刀する! ドワーフ喧嘩強い!」

  

 異世界ヤクザ、極悪組の面々を引き連れ、ジローは救援にイワネツに向かっていた。


「あいつー友達(どぅし)やん! イワネツも、大使にしたアントニオも救いに行くん!」


 到着時刻は奇しくもジッポンの時間で夜明けになる。


 一方のイワネツは、筆頭家老の平井が銃弾に倒れ、縋り付いて涙を流している。


 織部筆頭家老である平井長政。


 彼の生まれは、三川の国に流れ着いたエルゾ族出身の母から生まれ、三川の現当主である今田元網の兄にあたる男であり、本名は信綱と言い、織部を攻略するために送り込まれた今田のスパイだった。


 憲秀の前の当主、織部憲定の時代に身分を成りすまして家臣となり、兄弟の中で一番能力が高かった弟、元綱に織部を自分の物とさせるのが任務。


 しかし、憲秀の代で彼の目論見に狂いが生じる。


 国の守護だった憲定の妾の子、分家筋の生まれだった織部憲秀は、聡明かつ武勇に優れ、主家が今田との戦で敗れると、分家出身ながら大名となり、戦上手なため周辺国は虎と呼び恐れられる。


 憲秀は、今田氏や佐藤氏、そして自分と敵対する事になった本家筋の者達と戦い続けたが、次第にジッポンで起きる戦を馬鹿馬鹿しく思い、有力武将に上り詰めた今田信綱こと平井長政を呼び寄せた時に憲秀はこう言った。


「お前が何者かは知っている、エルゾの者よ。貴様達エルゾは天帝家に迫害され、ジッポンに恨みを抱いていることも、自分たち一族の権威を高めようとしている事も。じゃがな、長政よ……ワシの領民や家臣にエルゾの血を引くものも、ハヤテの血を引くものも鬼と呼ばれた血を引く者もいる。ワシは、このくだらぬジッポンの戦世を一刻も早く終わらしたいのじゃ! エルゾじゃろうが、ハヤテじゃろうがオニの者じゃろうが、皆赤い血が流れる人間じゃ! 人間が人間らしく生きて行けるような世を、ワシは望んでおる、手を貸せい! エルゾよ!」


 平井こと信綱は何故かはわからなかったが、この場で暗殺を考えて殺そうとした、虎と畏怖されたこの憲秀に惹かれて、間者(スパイ)としての生き方を改め本当の意味で平井長政と言う名の武将となる。


 その後、憲秀や自分に子は授からず、次世代に織部の思いをつながるものが出来なかった時、勝鬨城で産声を上げていたヒト種の赤子を長政は見つけた。


 このジッポンでは、天帝家や公家、一部の大名の家系以外は純粋なヒト種は存在しない。


 親もおらず素性もわからない赤子を捨て置こうと思った時、彼の手を赤子とも思えぬ力で強く握った。


 長政は、その時赤子を想う何者かの魂が憑りついたような声を聴く。


「その子を放っておかないで! この子はみんなを救うために生れた優しい子! きっとこの世界を救ってくれる神が授けた子! 私のスラヴァ、神様が与えた子、ヴァーチェスラフ」


 どこの誰ともわからぬ女の声が聞こえてきて、わけもわからぬまま長政は赤子を抱き、主君である織部憲秀に城で赤子を拾ったと報告すると、織部憲秀は赤子を見た瞬間に、涙が流れ出して泣き叫ぶ赤子を我が子の様に抱きしめた。


 その後の長政は奇妙丸、そして元服して憲長と名付けられ、自身ではイワネツと名乗るようになった子供の世話を焼く。


 小姓達は、奇妙丸がよくわからない言語を喋り、自分達が理解できないと、わけもわからぬうちに殴られたと言っていたが、長政はその子の言っている言葉も、何をしようとしているのかも全てよくわかっていた。


 時折自身の教育方針に口出ししてくるような、正体不明の女の声に戸惑いながら、自身がまるで本当の母親のように、この子供を世話してきたことを、自分を抱きしめて涙するイワネツの前で、長政は思い出す。


――前の世界で、この子には人間らしいことも母親らしいことも全然してあげられなかった。今の私は幸せである。


 その女の魂は長政にこうささやいていた。 


「おお、若よ。悲しい顔などなさるな。私は元々三川から送られてきた裏切り者。いわば織部の内患……若、そんな私から辞世の句を……いや、歌ですかな……別れの歌を。爺は、あなたと憲秀様に出会えて幸せでした」


「しゃべるな爺や、お前が死んじまう! 畜生! 誰が爺やをやりやがった! ぶっ殺してやる! よくも俺の爺やを!」


 平井は、出血して毒が回り、意識が遠のきながら歌を歌う。


「Спи, младенец мой прекрасный,(眠れ、私の愛しい子よ)

 Баюшки-баю.(ねんころりん)

 Тихо смотрит месяц ясный В колыбель твою.(静かに見ている、明るい月がお前の揺りかごを)

Стану сказывать я сказки,

(私の話を聞いてよ)

Песенку спою;(歌を歌うよ)

Ты ж дремли, закрывши глазки,(お前は眠る、目を閉じて)

Баюшки-баю.(ねんころりん)」


 ロシア語で、自分を寝かしつけるような子守唄を歌うと、イワネツは転生前の記憶を思い出す。


 第二次大戦、ソ連では大祖国戦争とも呼ばれた大戦争でドイツ兵に強姦された後、戦争の恐怖と愛した伴侶から存在そのものを子供と共に否定され、精神を病み、最期はモスクワ郊外でソ連崩壊を見る事がなく天に召された母の子守歌。


「若、私のヴァーチェスラフ、どうかあなたはジッポンの悲しい人々の希望に……あなたの勇気を虐げられた人々の為に、人々の幸せの為に力を……」


 平井長政は、イワネツに微笑みながら世を去った。


 享年、156歳。


 エルゾの血を引く者として短命の生涯であったが、イワネツを守るためにこの世を去る。


 イワネツは全てを悟り平井長政、そして自身の業によって引き寄せられた前世の母であるエカチェリーナ・イワンコーフの魂が宿った亡骸を抱きしめて嗚咽した。


「爺や、お母ちゃん(マーマ)、マアアアアアアアアアアアアアアアアマァァァアアアアアアアア!」


 転生前に史上最悪の暴力団と呼ばれたイワネツの悪逆非道の魂が、その時完全に変質する。


 地獄の業火でも彼の魂を浄化できなかったのは、彼の心に罪の反省の意識が無かったため。


 そして、前世で生まれた自身の業に直面することで、このままでは同じことを繰り返すと、彼の魂が悟り、自分はソ連時代に盗賊ではなく何になりたかったのだと、自問自答した。


 本当の自分がなりたかったのはオリンピック選手。


 自分の力で人々を喜ばしたいと、思っていたのではなかったのかと。


 人間が人間として生きていけない、非道の島ジッポンの惨状を救済すべく働きかけた魂達と、ドラクロアとの戦いで得ようと誓った、勇者としての強さを願うと、奔流となった輝きがイワネツを覆い、彼の魂の源流が囁く。


 人間が人間として正義を行えないような世界と社会を許すな、高潔な魂を否定する世の不条理と矛盾を捨て置くな、愛を否定し、法と律を破る非道を絶対に許すなと。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 イワネツが咆哮すると羽織った特攻服が焼けて、着物もチャクラに充てられ焼失し、褌一丁になると、転生前と転生後に入れた盗賊の星、八芒星の黒の刺青が真っ白く星のように輝く。


 極東ジッポンのみならず、ニュートピアを救うべく、勇者としてイワネツは完全に覚醒する。


 その光景を、女神ヘルは呆然としながら見つめ、勇者として覚醒したイワネツと目が合う。


 神の力を失った筈なのに、目の前に覚醒した勇者が現れたと。


「もう、こんな悲しみを繰り返す世界は沢山だ。メスガキ、いやヘルだったか? この俺に力を貸せ。父と母の想いを果たすため、俺はこのジッポンを、いや、世界全てを救う。盗賊の星に誓い救済する!」

新たな勇者が覚醒して次回ボス戦

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