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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第一章 王女は楽な人生を送りたい
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第9話 王国包囲網 前編

 ヴィクトリー王国の女王に即位した、エリザベスは、マリーに味方する謎の男の存在に怯える。


 謎の閃光と爆発の影響により、エリザベス含めてヴィクトリー城の主要家臣や、近衛達は、耳鳴りや視覚障害に苦しみ、3日間食事がまともに喉を通らないほど、精神的なダメージを受けていた。


「なんなのだ、あの男は、私と同じ転生者のようだが。あれは、まるでヤクザやマフィアの脅迫。厄介だ、王国周辺の大国の動向もそうだが、それ以上に神経を使わなければ」


 エリザベスは、転生前も転生後も、あれほど恐ろしい恫喝や脅迫を受けた事がなかった。


「オージーランド高空を、操ったモンスターのガルーダの目と同化して確認したら、すでにマリーの姿はなく……島民の様子は、あの男の言う通りだった……」


 エリザベスが見た光景は、王国海兵隊達が農作物の収穫を、手か足どちらかを失った子供達と行っていた映像。


「どうして……私は転生前にああいうことが許せなくて……。なんで私は、あの可哀想な子供達を、植民島の実態に、気がついてあげられなかったんだ……」


 エリザベスは、転生前に自身が歴史の授業で習った植民地政策を思い出し、まさか自分の国も人間の尊厳を奪うような、恐ろしい搾取に関わっていたとは思ってもみなかったのだ。


「女王陛下、入ります。一大事です!」


 玉座の間に、レスター財務大臣とウィリアム外務大臣がエリザベスの足元に跪き、彼女は悩める少女の顔から、冷徹な国家元首の顔に戻る。


「なんでしょう、我が国の財政状態に何か問題でも?」


「はい……実は」


 エリザベスは財務大臣の報告に耳を疑う。


「何ですって! 我が国の商船が次々に海賊被害に!?」


「はい、ケット海上を輸送中の商船が次々に拿捕され、沈められてます。このままでは、我が国の備蓄外貨や物資が……」


 ケット海とは、ヴィクトリー王国南西に位置する、広大な太西洋の海域で、ロマーノ大公国及び周辺国との交易の、重要な海路である。


「それだけではありません、我が国と交易していた友好国も、我が国の商船の受け入れを拒否しております」


 エリザベスは、報告に冷や汗が流れ出る。

 自国が海上封鎖を受けている事に。


「そうですわ、ノースウェスト海は? ロレーヌ皇国に連絡して、臨時にあの海域を大陸への航路に……」


 エリザベスが別の海路を思いつくが、ウィリアム外務大臣は横に首を振る。


「それが……申し訳ございません! 今まで陛下の耳には入れておりませんでした! 友好国のロレーヌ皇国は我が国との外交チャンネルを拒絶しております。教皇にして女帝マリアも声明を出し、我々と話すことはもう無いと……」


「そんな……それでは我が国は……干上がってしまう……。同盟国のフランソワは?」


 これも、ウィリアム外務大臣が首を横に振る。


「我が国の駐在騎士と諜報員が、入手した情報によると……表面上友好を装いながら、フランソワ王国のジャン・シャルル・ド・フランソワ王は、第一王子のアンリ王子と日夜会合を開いておる様子。フランソワ国内で、我が国の海峡沿いに兵士や騎士を配備し始めています……この状況を見るに……」


 エリザベスは、大臣達の報告に目眩を覚えた。

 

――これでは……まるで我がヴィクトリー王国は、ナーロッパ地域全体を敵に回して……どうして……まさかマリーが召喚したモンスター達を操っていたのが、各国にバレた?


 エリザベスは、自国を防衛するため、決意を胸に大臣たちに命令を下す。


「仕方ありません! ノーマン海軍卿及び王立漆黒騎士団長エドワード伯をここに。これより、我が国の命運をかけた軍議を開催する!」


 エリザベスは、自国が大国に蹂躙される前に、モンスターの軍勢と海軍で、フランソワ王国との戦争準備へ入る。


 一方、大陸東方のバブイール王国でも、主要王族の会議が開かれ、会議終了後、アヴドゥル皇太子は、年老いた父、ハキーム・ビン・カリーフ王と個別に面談する。


「我が子よ、そなたの目論見通り、西方への足掛かりが着実に出来上がりつつあるのう」


「はい陛下、おそらくは西方は大戦となるでしょう。そこに我々が付け入る隙があります。すでに、フランソワには協力を取り付けました」


「うむ、即位したエリザベスの小娘、王女時代は厄介に感じたが、即位したら大した事なかった」


 彼らバブイール王国の目的は、自国と比べて豊かな土壌がある西方進出と地政学的な問題。


 決して関係が良好とは言えない、大陸中央のロレーヌ皇国と陸続きで国境を面しており、フランソワもロレーヌと、原生林や山脈を挟んで隣接状態にある。


 この二カ国から海を挟んで対面し、両国を牽制できる位置にある、島国ヴィクトリー王国の領土を欲しがった。


「陛下、私が思うに王女時代のエリザベスの辣腕振りは、ジョージ王がいてこその、ヴィクトリー王国だったのです。ジョージ王と、秘蔵っ子のマリー王女亡き今、先祖達が夢見たヴィクトリー島占領の悲願、達成されるでしょう」


「うむ、そなたもなかなかに賢しく育った。さすが上4人の兄を抑えて、皇太子にしただけはある。して、お主はどういう絵図を描いておるのじゃ?」


 ハキーム王の質問に、アヴドゥルは地図を風魔法で浮かび上がらせ、フランソワ王国の位置を指差す。


「はい、フランソワには我が精鋭たる、マリーク戦士団及び、アサシンギルド派遣に成功しております。フランソワのアンリは馬鹿では無いが直情的すぎるし、フランソワ王は義理堅いが暗愚ですな。アンリへ義理さえ立てれば、皇国軍も加わり、ドヴァー海峡を越え、海軍力とモンスター軍団を制する。さすれば対岸にある、王都ロンディニウムを攻略するのは容易いかと」


「ふむ、まあそうなるじゃろ。しかし、肝心なのはその後じゃ我が皇太子よ」


 するとアヴドゥルは、ヴィクトリー王国を人差し指で指し示す。


「はい、おそらくロレーヌ皇国のマリア帝と、フランソワ軍に同行するフレドリッヒの小僧めは、ヴィクトリー国内を平定後、かの国の領有権を主張し始めるでしょう。その時はフレドリッヒをアサシンギルドで……」


ーー騙し討ちは戦場の常、許せフレドリッヒ。


 この間の会談で、胸の内を話し合ったアヴドゥルは、フレドリッヒの純情さに好感を抱いてはいたが、だからこそ自らの策で葬ろうとする事を、心の中で詫びる


「ふむ、大した娘たちもおらず、天才とも呼ばれる世継ぎが一人しか無い皇国は滅びるだろう。我が国の生存戦略の勝利じゃな。あとは御しやすい、フランソワ王国と覇権争いをすれば良い」


 アンリ・シャルル・ド・フランソワについて、アヴドゥルは、将来互いに王となり、ナーロッパ大陸の、東と西の大国同士、覇権を争う事となるだろうと、本能的に感じ取っていた。


 アヴドゥルは、内心アンリの事を気にいっていた。


 いささか直情的であるが、人間的にも武人としての気質も、男としての強さも、奸計や機知に富む自分と良き好敵手となるだろうと。


「ええ、フランソワ王国は北西の亜人国家群と領有権問題で戦争中です。今が絶好の好機かと。問題は、南方のイリア首長国家連合共。我らを警戒している様子ですが、今回ロマーノ大公国のヴィトーめと縁が出来ました。互いに交易を結びお互いの益さえ一致すれば……」


 同じ女を好きになった、ある意味では自分と似たもの同士で女好きのヴィトー王子を、アヴドゥルは敬意を払いつつも警戒する。


 若干16歳ながら、大陸間のつばぜり合いの中で上手く内面を隠しつつ、自分と同じく奸計にも精通し、それでいて熱い男気も持っている、バランスが取れた厄介な相手であると感じ取っていた。


「しかし馬鹿な女じゃ。父と妹を亡き者にし、自らが亡国への道を進むとは……あの名君ジョージも浮かばれぬだろうてのう? かっかっか」


「然り……フッフッフ」


 ハキーム王とアヴドゥルは互いに嗤い合う。

 これで大陸西方支配への足掛かりとなると。


「しかし陛下、私が思うにあれは、あの女だけの陰謀では無い気がしますな。徹底的にヴィクトリーの貴族共を滅した方が良いでしょう。あのマリー姫へのせめてもの手向に、ヴィクトリーを我らの手に落として、ご覧に見せましょう」


 アヴドゥルは、顔を一瞬伏せる。

 その目には涙が溢れていた。


 人一倍自尊心が強い息子が涙するのを見た、ハキーム王は、アヴドゥルの肩を優しくポンポンと叩く。


「優れた女は優れた世継ぎを生む道具であると、お主に帝王学を授けたが……そんなそなたが惜しむとは、よほどの姫だったのだろうのう?」


「はい、まさしく西方に咲く薔薇姫でした。外見だけでなく、内面も素晴らしい女でした。我が正妻として、きっと我が人生を明るく照らし、我が王国の次世代を託せる世継ぎ達を、産んでくれそうな女でした……」


「そうか、我が国にとって残念な事じゃ……余も死を悼むとしよう」


 バブイールの王と皇太子が、マリーの死を悼むなか、大陸中央の妖艶なる教皇、マリア・ジーク・フォン・ロレーヌは、巨大な扇子を手に持ち、皇国の黒魔道師とも呼ばれる年老いた黒のローブの魔女、司祭兼宮廷魔道士のトレンドゥーラと、女同士で奸計を巡らせる。


「ふむ、愛しの我が子フレドリッヒが、あの仇敵フランソワ王国と同盟を結びたいとな?」


「はい、猊下。チャンスですな?」


「そう、チャンスであるな、わらわ達皇国の……祖先ジークが建国したヴィクトリーと我が国が、再び一つの国家となる! その後しばらくはフランソワの雑種めらと手を組み、忌々しいバブイールの蛮族共を滅ぼすチャンスじゃ! オホホホホホ」


「ヒャッヒャッヒャ」


 二人の女は、口に手を当てながら嗤う。


 赤髪の女傑と魔女の会談に、書記官は恐怖に震えて、会合内容を記録していた。


「フレドリッヒが教えてくれたが、エリザベスの小娘め。我が愛しきフレドリッヒが欲しがる、美しきマリー姫を亡き者としたばかりか、あのジョージめも亡き者にするとはの。アホな女じゃ……我らが王国に戦争を仕掛ける大義名分到来じゃて」


「いえ、猊下……おそらくはエリザベスは担がれたのでしょう? ヴィクトリー王国もどうやら一枚岩では無い様子」


「ふむ、王国に送った儀式官(メイジ)と間者の情報によると、内部で文官の宮廷官僚貴族共のエリザベス派と、武官である王国騎士達や大貴族のマリー派で対立しておった話じゃったな?」


「はい、猊下」


「フレドリッヒめも、気付いておった。流石は我が血を引く皇太子。あれは1000年に一人生まれる天才、英雄ジークの再来じゃ」


 マリアに同意するかのように、トレンドゥーラもうんうんと、何度もうなずく。


「ただし、フレドリッヒ様はいささか神経質でナイーブであらせられます。本来ならば、今は亡き優しきマリー姫を娶り、フレドリッヒ様を、お支えいただければよかったのですが」


「左様、間者の情報によれば、思慮がいささか足りぬし、そそっかしいが、人が良く、気の優しい姫だっだと聞いておる。わらわの義理の娘に相応しい女子(おなご)じゃった。気が強く中途半端に賢しい女では、わらわと絶対にそりが合わぬじゃろう、あのアホのエリザベスのようにの」


 トレンドゥーラは、マリアの話に耳を傾け、うんうんと頷きながら笑い出す。


「そう、女は愛嬌じゃ。愛嬌のあるマリー姫と我が子フレドリッヒを婚姻させ、王国と皇国を統一するのが、当初のわらわの理想じゃった。が、それも叶わず。あの気難しいフレドリッヒめが、マリーが死んだと聞いた瞬間、人目をはばからず泣きおって。この世はまこと理不尽で不憫じゃ……」


「はい……仰せの通りで……おいたわしや……フレドリッヒ坊ちゃま」


 顔を伏せ、悲哀に暮れる二人にしばしの沈黙が訪れ、魔女トレンドゥーラが沈黙を破るかのように口を開く。


「それでは、致し方ありませぬが、ヴィクトリーとフランソワの間で間もなく起きる戦争で、エリザベスめを捕縛し、後はフレドリッヒ様に相応しいよう……」 


「うむ、致し方あるまい。アレも嫌がるだろうが、あのアホのエリザベスを、我らの手でフレドリッヒに相応しい妃にする。我が皇国でじっくり調教して、心をへし折らなければなるまいて。腕の一本や足の一本無くそうが、世継ぎが産めれば構わんじゃろ?」


 皇国のマリア教皇に敗北したエリザベスに待つのは、人間の尊厳を完全に踏みにじるような責め苦の数々で、魔女も書記官も背中にジワリと冷や汗をかく。


「アホな女じゃ、愛しき我が子の想い人を亡き者にした報いを、じっくり味あわさせてやる。そして、わらわのかつての想い人、ジョージを殺した報いものう」


 教皇マリアの歪んだ恐ろしい顔を、直視しないよう書記官は議事録を紙に記した。


「書記官、速記を止めよ。先ほどの話は、我が皇国の国家機密である、破棄せよ」


「ハッ! 教皇猊下」


 一方マリーは、ヴィクトリー王国への包囲網が完成しつつあることに気が付かず、勇者の風魔法で、王国海兵隊の、地球世界で言うキャディラック船にも似た帆船を利用し、ヴィクトリー王国への帰途へとついていた。


 王国から解放されたオージーランドは、ヨーク騎士団と、ヴィクトリー王立海兵隊に、島民の守護を任せて、広大な太西洋を東へ東へと航海する。


 同行するのは島出身の船員達と、看護服から着替えたペクチャ。


 スミス男爵の邸宅にある自分の私服、レース付きの白ブラウスに青いリボンを付けて、女中用のエプロン濃紺のロングスカートを履いている。


 彼女は今、船の船倉で二人に出す食事を、鼻歌混じりで作っており、将来はヴィクトリー王国初の女性医師となる為に、王女マリーの帰国の旅路に同行する。


 一方のマリーは、何が起きるかわからないと勇者から言われ、日中はずっと王国辺境兵の軍服に身を包み、ヨーク騎士団から与えられた赤いプレイトアーマーを胸当てとして着用していた。


「ええと、勇者さん? あなたの魔力ならば空を飛んで、楽に私は帰れるはずなんですけど。なんで船旅を? それと私だけ装備重いんですけど、もっと楽な服着たいんですけど」


「万が一だ。俺の風魔法でマリーちゃんと空飛んだとしても、さっきのシルフの力を使ったとしても、今の俺の力だと途中で魔力切れ起こす可能性あるし、魔力回復用の聖水は温存しておきたい。何より旅の風情がねえだろ?」


 楽に早くヴィクトリー王国へ帰りたい思いのマリーに、操縦桿を握る勇者は海を眺めながら、マリーに告げる。


 旅の風情なんか、いらないんだけどと思いながら、マリーはヴィクトリー王国の方角を見つめたあと、勇者を見る。


 この勇者が、転生前にどんな人生を送ってきたのか、なぜこの男が勇者になったか、興味があった。


「ずっと気になってたんですけど、勇者さんは何で転生して、勇者に?」


「けじめだ。80年代の歌、ケジメなさいよろしく、ミジメ、ジメジメと地獄の懲役送りにされたくなくてな」


 マリーは、小首をかしげる。


 転生前に生きてた、2020年代の女子高生の自分が、1980年代の歌なんか知るわけないだろうという顔をしながら、勇者の顔を見つめる。


「あー、例えが悪かったな。ジェネレーションギャップってやつか? 俺は昭和に生きて令和の世に死んだ、チンケで情けない外道だったのさ。そんで地獄の刑期と引き換えに、世界救済とか始めたのがヤクザな俺ってわけ」


 冥界から来た犯罪者出身の勇者……。

 暴力団とも呼ばれる、ヤクザが彼の正体。


 マリーは、なぜこの勇者が、平気で人を殺したり、人を傷つけたり、脅迫するのに躊躇がないのか、全て合点が行った。


 そして、転生前に自分を殺害して犯罪者に堕ちた父を思い出す。


「人は、何で罪を犯すんでしょうか……」


「そうだなあ、罪を犯す奴にも3種類ある。1、自分のため、2、他人の為、3はそれ以外の何か。例えば国の為だったり、組織の為とか信条ためだ。俺が犯した罪は、転生前2か3の罪であると思い込んでた。実際は、自分の欲の為に、数々の人を不幸にしたのさ。それこそが救いようのねえド外道よ。転生前の俺はそんなクズ野郎……だから、そういう外道は許せねえ」


 マリーはわからなかった。


 勇者の示した選択肢は、どれも罪は罪。


 罪を犯す前に、どうにかして最善を尽くして、思いとどまる事はできないのだろうか? それこそが人間の理性と、正しい道ではないのかと。


「でも勇者さん、それは……どれも罪であると私は思います」


 マリーの言葉に勇者は苦笑いし、右手を操縦桿から離して、人差し指で鼻を掻く。


「君の道理は間違っちゃいねえ。それは人間として正しい考えだ。だがな、世の中にはそういった善良な人達の心根に付け込むワルが、確実に存在する。おそらくこの世界にも」


 人の善意につけ込む悪意。

 マリーは、勇者の話に背筋が冷たくなる。


 同時に、そうした悪ともこの勇者は戦って来たのだとも思う。


「そいつは嘘がうまい。国のためだとか、正義のためだとか、理想のためだとか、あなたのためだとか、高潔で善良なフリをよく装っているが、俺が潰した奴らのほとんどは、往々として自分の為しか考えてねえ外道ばかりだった」


 マリーは勇者を見つめると、彼の漆黒の瞳に、燃え盛るような炎の色を感じとる。


 それは確固たる信念を持つ男の目。

 決して揺るがぬ勇者の心。


「そういうワルに、心根が優しい人々が対抗できねえなら、そのせいで悲しい思いをするなら、神に祈るしかねえような、可哀そうな世界があるのならば。……俺がその人たちに代わって、強いワルを滅ぼす罪を犯そう! それが俺の生き方さ」


 勇者は操縦桿を握りながら、マリーに優しそうな顔付きになり微笑んだ。

 

「勇者さんは……辛くないんですか? そういう生き方をしていて、人間として……」


 今にも泣きそうなマリーが問いかけると、勇者は一瞬暗い表情になった後、にこりと笑う。


「俺は転生する時に、この生き方を望んで契約した。弱きを助け、強きを挫く! 俺が尊敬する神に、信頼できる女神にな。楽な道じゃねえが、それが俺の男の花道、任侠道よ」


 マリーは、勇者の心に触れて涙を流した。


 楽して人生を過ごしたいという、自分が転生した動機とは真逆の、壮絶な生き方に。


「ごめんなさい、私……ただの女子高生してて、転生したら、楽して面白おかしく人生を生きたい理由で転生したんです。あなたと違って、この世界を憎んで……世界を滅ぼす召喚術で、魔物だらけの世界にしてしまって、ごめんなさい……」


 泣きじゃくるマリーに、勇者は優しく微笑む。


「この世界の救済命令が、俺の神から出てねえ以上、俺は表向き大っぴらに活動は出来ねえ。だからよ、マリーちゃんが、俺に代わって世界を救ってみな? やり方は俺が教えてやる」


 勇者は自分がかつて生きていた、転生前の日本から来た、自分と孫以上年代が違う、元女子高生の召喚術師を導く事を決意する。


「楽して生きたい? 結構な事じゃねえか。しかしそれにゃあコツがいる。任せとけ、俺はその道の玄人(プロ)よ」

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