プロローグ 楽して人生送りたい
「えーと……次の人生、魔法使いか勇者に転生を? んー、最近そういうの多いんですよねえ」
私、高山真里は天界という所の審判殿で、黒いスーツを着て、背中に純白の翼を生やして頭に輪っかとか浮かぶ、女天使サキエルから、転生者面接を受けていた。
この面接を受けるために、人間界に祈りを届けるセミナー参加したり、奉仕活動として天界の老人用ホームでバイトしたり、その他いろいろ活動して得得ポイント貯めたかいがあった。
得得ポイントというのは、なんらかの善行や、天界に貢献すると、たまる制度の事。
この転生者面接で合格し、私は今度こそ楽な人生を送りたい!
「審査基準は満たしてます。しかし……結構ポイント貯めましたね? これならば、よほどの事がない限り、来世でも何不自由ない生活は、基本的に送れると思います……合格です」
やったああああああああああああ。
嫌いな努力したかいがあった。
それもこれも次の来世では楽に過ごすため。
けど、なぜ私が天界に来てしまったのか。
それがわからない。
多分私は死んでるんだろうけど。
「あなたの前世ですが、まあ死因が死因ですし多少の無理は融通利くと思います。魂に傷がつくくらいの……ごめんなさい、あなたのその部分は我々天界が封印しました。こういう方結構いるので」
そう、私はどこにでもいる普通の高校二年生してて、嫌だったけど学校に行こうとしてて、それから先はわからない、思い出せない。
「じゃあチート女勇者に転生して……」
「はっきり言いますが、勇者志望ならやめたほうがいいですよ? せっかくあなたはこの天界、貴方達人間界は、天国とか極楽と呼んでますが、魂の休憩をして安らぎを受けているのに」
ウケがあまり良くないなあ。
何がダメなんだろう。
スマホで、転生勇者ものとか色々見てて、いいなあって思ったのに。
そう、私はどっかのファンタジーの国で、王女様で生まれて、女勇者とか、魔法少女みたいになって、ゲームみたいな暮らしをして、イケメンの王子様を捕まえて、それから……楽な人生を送りたいのよ。
私の人生、全然楽じゃなかったんだもん。
だいたい日本の社会が悪い!
一度躓いたら全然もうダメなんだもの!
今まで生きてて全然楽しくないし、イケメンな彼氏だって出来なかったし、勉強嫌いだし。
私は、父が経産省の官僚という以外、普通の家で生まれて、普通の学校に通って、ちょっと見栄はって偏差値高い学校選んで合格したのはいいけど、全然勉強についてけなかった。
中学の時、上の中くらいの成績だったのに、ここでは中の下、いやなんかやる気無くしちゃったから、下から数えた方が早い方。
はあ、それで学校休んじゃって。
嘘ついて仮病使って一週間以上……。
さすがにまずいかなって思って、学校に久々に登校したら、クラスで友達だって思ってた女子達がズル休みがどうのって、尾ひれまでついて陰口してて……男子にも。
それで学校行くの嫌になって……。
それから先は思い出せないけど。
だから私は、もっともっと楽な世界で、流行りの異世界転生みたいなチート能力持って、楽な人生を送ってみたい!
「私、もっと楽な生活したいんです。だから、勇者とか魔法使いにしてもらって、かっこよく活躍して……」
「もう一度言います、やめた方がいいです。神と契約した、勇者のような存在が必要とされるような世界は、魑魅魍魎が跋扈し、人心も乱れてて、あなたはすぐに死ぬ可能性があります」
あー、確かにそういう世界ばっかりっぽい感じだった……ゲームとか漫画で見た、ファンタジー世界って。
「勇者として、結果を出した転生者は、基本的には人類史の英雄達や、歴史上なんらかの功績があったものばかりです。あなたのように勇者になりたいと言って、転生した者達が最近多いですが……皆この天界に出戻るか、下手すれば冥界の裁きに合います。神界法及び、天界条例規定違反すれすれですが……特別にどうぞ」
天使サキエルは、タブレット端末から、特別に歴代勇者の情報を見せてくれた。
うわぁ、日本人の男共多!
しかも死亡や闇落ちにつき冥界送り多!
情けない、男のくせに。
あ、日本人で女勇者もいる。
かっこいいしクールビューティーって感じ。
この人は救済済みって出てる、すごい。
救済後日本に戻ったんだ。
ステータスは……ゲッ!
スペック高! 東大とか出てるし。
剣道3段でエリート警察官!?
そりゃすごいわけですわ。
けどそうだよなぁ……きっとゲームとかと違って、セーブポイントとか、リトライとか、ボス戦負けて、悔しいからリセットとか無いんだろうなあ……。
「この勇者をご覧ください、この男はあなたの世界で大英雄として有名だった人間です。この大英雄すら闇落ちして……神界や天界を……いや、今のは忘れてください」
――うわぁ、そんなきついんだ勇者って……ていうか今、言っちゃいけないような事、サラッと口にしようとしてたんだけど?
はあ、じゃあやめよ……楽したいし。
「じゃ魔法使いとかがいいです。可憐な王宮魔法使いとか、女大魔法使いとか、そんな感じで転生とか出来ますか?」
魔法少女とかもいいよなあ、カッコいいし。
小さい頃、魔女とか魔法とかオカルトとか、好きだったし、魔法とか使えたらこの先、絶対楽だ。
「えぇ……」
うわぁ、露骨に面倒くさい顔したこの人。
やっぱり何かあるんだ。
「あのですねえ、地球人類の魔法適正は低く、0に近いのです。例えば天界魔法を使用出来るのは、上級神クラスの加護に加え、よほど精神的にもタフな人でないと、難しいのですよ? 天界では大魔法使いなどは救世主と呼ばれていますが、あなたは、何か特定の神を信仰した事は?」
「……いえ」
えぇと、神の信仰とか無いんですけど。
だって、神社とか初詣くらいしか行かないし。
「それに、魔法使いはよほどの賢さがないと、ハッキリ申し上げて無理です。知識や魔力管理、応用力、何より想像力が無いと駄目です。まあ得得ポイントで、属性魔法の基礎はスキルに追加できますが、あとは努力次第ですね」
うん、私ゲームは得意な方だけど、勉強嫌いだから無理だ。
特に数学の成績とか酷かったし。
ていうか、転生者で楽して成功するの無理くさいんですけど……。
「えーと、色々聞いてきましたが、例えば転生者の中でも最も強かった、勇者とか魔法使いの人ってどんな人だったんですか?」
「え゛?」
あれ、なんかすごい顔色悪くなってる。
まずい質問しちゃった?
するとサキエルは、私にタブレット端末を見せてくれるが……顔と名前がわからないよう、モザイクとかされてる。
「えーと、本来は見せたく無いんですが、これの功績欄のところをご覧ください。特定機密保護により、この情報開示で見れるのはここまでですが、彼は今も現役の勇者で、存在自体が表向きトップシークレット扱いです」
うわぁ、何これ!?
ステータスバグってない?
レベル表記モザイクしてるけど三桁超えてる。
基本ステータスは……うわぁ!
ソシャゲのガチャのSSRの、レアキャラとかそんなレベルじゃない……
ていうか、こんなのガチャで出てきたら、チートすぎてやばいって。
得意技は……モザイクかかってる。
担当神というのもモザイクかかってるし。
???一体化とか何コレ?
功績は……えーと、最悪の世界救済、難度EX世界救済数10、??救済、??救済、魔皇軍討伐、大魔神討伐、大邪神討伐2、邪神討伐21、魔神討伐30、魔神龍討伐、祟神討伐、鬼神討伐数10、龍神討伐、大魔王軍討伐、竜王討伐7、魔道帝国解体、悪霊王討伐、呪術帝討伐、カオス教撲滅、聖都解放戦線終戦、大銀河間戦争終結、伝説の吸血女王……長い……もういい。
なんて言ったらいいんだろう、超ヤバイこの人…… なんか画面右上に、四角枠で極秘って赤字の印押されてるし……あ、画面真っ黒になった。
すると、天使サキエルが頭を抱えだして……ぶつぶつ呟く。
「恐ろしい……アレは勇者ではなく……魔王……いや、そんな生易しい存在じゃない! 私は天界で記録を付けてたから全て見た。あんな規格外で邪悪な化物を、創造神様や最上級神達、上司達が容認してる事自体がおかしい! きっと何か弱みを握られて脅迫されてるんだ! あれは……それくらい平気でやる! 勇者という名の怪物だ! まさに人間社会の暗黒街の闇そのもの!」
あー、よっぽど怖い人なんだろう。
ただでさえ陶器のような天使の白い顔が、真っ青になって……。
「うぷっ、ウェ」
うわ、この人恐怖で今一瞬エズいた、天使なのに。
私も怖くなってきたし、これ以上聞くのはやめとこう、それがいい。
「それじゃあ、平和な国の可憐な王女様で、そこそこカッコよく活躍出来そうな感じで、転生とかは無理ですか? あ、貴族令嬢とか何か死亡フラグくさいんで勘弁してください」
「可能ですが……美人薄命という言葉もあるように、なんらかの政略に巻き込まれたり、よほどの努力と政治力がないと……不幸に……」
あーーーーもう!
これじゃあ私が転生して、イケメン彼氏作って、楽な人生を送るとか不可能じゃない!
「それとー、私が楽したいために、ステータス表記とか見えるようにして貰って、今の記憶もそのままに、それで何かあると危ないから、防御と運ステータス高めで、固有特殊クラスほしいし、それで、それで」
「えぇ……まあ可能ですけど……得得ポイントもたまってますし」
よおし、これで準備が整った!
転生前の記憶そのままというのが、結構ポイント持ってかれたけど。
「このステータスとスキルならば、よほどの事がない限り、高難度世界以外の、あらゆる世界でも生きて行けるでしょう。それと魔法の世界なら、地球と似てて、文明レベルの伸びしろが高く、少し形が異なる世界もあるので、そこならどうでしょうか?」
「え、じゃあそこで!」
あとはゲームのキャラメイクみたいな感じで、好きな顔パーツをタブレットで選んで……えーと、鼻が高すぎるのもあれだし、これくらいで……。
やだ、超かわいい!
私のいい所は残したまま、結構いい感じになった!
こんな感じで、あとはスタイルだけど……。
うーんとこうかな? あんまり色々でかすぎると引くって聞いたことあるし。
身長は……159センチのままでいいかな?
髪の色は明るい黄金のブロンドのパーマで、瞳の色は……エメラルドっぽい緑。
「おっけー、凄いイイ感じ! それじゃあ転生お願いしまーす」
何だろう、顔とスタイルがいいってだけで、私の性格が少し明るくなった気がする。
美容整形とか世の女達に需要あるわけね。
「それではあなたを、比較的平和な世界、ニュートピアのビクトリー王国王女へ転生させます」
ああ、私の体がどんどん小さくなって、光のトンネルを。
「え!? 嘘、この世界……ちょっと待ってください! 今のなしああ……」
あれ? 天使が何か言ってた気がするけどいいや。
なんかもう何も聞こえなくなってきて、私はどこかの女性の胎内に宿って。
懐かしい感覚、お母さんのお腹の中の音がして……。
私は、こうして異世界に転生した。
比較的平和な世界とは、表面上の上辺だけの、様々な陰謀渦巻くニュートピアに。
今回は前回と変わって女子高生が転生したマリーという女主人公としました。
前作と違う異世界ですが、世界観は思いっきりつながってます。
今度の主人公はイケメンに囲まれたいという、乙女ゲー要素を入れました。
果たして彼女は楽な生活とやらを手に入れられるのか?
きっとまた転生先の世界がひどい事になる話になると思います。