これからですのに!
地盤の硬度、性質から見て、どのような採掘機材とどれほどの人員が必要かを考え、費用が最小になるプランをエリザと相談しながら決めた。
「上手く採掘できれば魔力プールが複数作れますわ」
「そうなれば、街に魔力が安定供給できるな」
「街は小規模ですから、枯渇しないように気をつければ、向こう三十年は大丈夫でしょう」
「魔力を動力とする工場の建設はどうする? 枯れ果てた土壌はいくつもあるから、土地には困らないが、何を作らせるのか決めないと」
「当面は輸送関連の産業を育てます」
「輸送か」
「大型貨物の転移は魔力コストが高いので、せこせこした大領土の貴族は翼竜やら馬やら、動物を使役して運ばせたりしておりますの。時には自然エネルギーを電気に変えて、効率の悪いマシンまで作って輸送してみたりと、まぁ、領土が広いせいで、魔法都市の生活レベルを維持するのに莫大な魔力が使われているせいで苦しいようです」
「王室への献上金も恐ろしい金額が請求されるらしいからな、公爵などは苦労しているだろう」
「その点、私どもは気楽ですわ。資金は十分ありますから、近隣の領地から腕利きの技術者を呼び寄せて、買い込んだ原料で魔力車両を大量生産する。やることは決まっているのです」
「なるほど、ならば我が領土ホロンはひとまず物流の拠点となることを目指すのだな」
「その通りです」
そして採掘が始まるのと同時期に、カエサル家の領地から一人の髭面男が城を夕暮れ時に訪れた。眼光が鋭く、筋骨隆々として、軍服の胸元には騎士の称号がきらめいている。
「――紹介いたしますわ、こちらはユリシーズ・ガリレイ。元王立聖騎士団団長の経歴を持ち、先日までカエサル家の警備隊長を務めておりました」
「……貴様がセラフィム・ボナパルトか」
「あぁ、いかにも」
ユリシーズは恐ろしい顔つきでじっとこちらを見つめてきた。エリザが彼のすねをヒールを履いた足で蹴る。中に防具を仕込んでいて、固い音が鳴った。
「こら、ユリシーズ! 敬語を使いなさい、馬鹿者」
「私はエリザ様には仕えておりますが、この者のしもべになったつもりはありませぬ。このような卑劣漢になど……」
「それはこの間、事情を説明したではありませんか。この分からず屋!」
俺は前に一歩踏み出して言った。
「ユリシーズとやら、よく聞け。貴殿は確かに我が家とは何らの主従関係も結んではいない。しかし、契約は交わしたはずだぞ。余は聖剣の手ほどきを受けるために貴殿を雇ったのだ」
「……」
「一度我が領地で勤めると合意した以上、最低限の礼儀は通してもらおう。余が卑劣漢であるかどうかは、これからの余の人柄と態度を仕事のさなかに見計らってから判断したらどうかね」
「……まぁ、それも道理だな。ではそうしよう」
ユリシーズが手を掲げると、その手の上に一点の青白い光が浮き上がり、どこからともなく光の妖精が集まってきた。妖精は徐々に混ざり合って形を成し、聖剣が姿を現す。
「約束の聖剣だ」
聖剣が雑に投げ渡される。かなり重たくて、一瞬よろめいたほどだ。
「代金はエリザ様よりいただいている。聖剣の実践指導は明日からだ。覚悟しておけ」
男は無愛想なまま、自分の宿に帰っていった。
「ごめんなさい、セラ。あの者は少々事情があって、猜疑心が人一倍強いのです」
「軍人らしくていいじゃないか。しかし、手厳しい鍛錬が待っていそうだな」
「頑張って下さいまし。聖剣を扱えることは上流貴族のたしなみですのよ」
「子爵に何を期待しているのだ、はははっ!」
「わっ、笑うなんて、失敬な! この家はこれからだというのに、なんたる気構え!」
俺はなおも笑いながら、城に戻った。エリザはプンプン怒りながら、これからですのに、これからですのに、としきりに言っていた。