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品位上昇中

 さてと。昨日は一度抱いた後、疲れでさっさと寝ちゃったけれど、いろいろと一段落したところで、今日は俺の優雅な日常風景をご覧に入れよう。


 まずは朝食である。高貴なる人々特有の、ものすごーく長いテーブルの向こう側に座る妻はお上品に食後のスープを飲んでいらっしゃる。一気にがぶ飲みするようなことはけっしてせず、少しずつ、味わうように飲んでいる。


「今日は地元で採れたホロンオニオンをだしにとってみました。お味はいかがですか、奥様」

「……うん、良いんじゃないかしら、さっぱりしているわ」


 俺は士官学校の暮らしに慣れてしまった弊害で、後からのこのこやってきたというのに、マッハの速度で朝食を先に食べ終えてしまっていて、すでに新聞を広げ、朝の食卓におけるおっさんの態度でくつろいでしまっていた。


 ときどき彼女に目をやるが、テーブルがやたらめったら長いせいで向こうの彼女までが遠すぎて気づかれない。少なくとも世間話をする距離ではない。そもそも貴族は食事中に庶民のようにペチャクチャしゃべったりしないわけで、今はただ彼女の姿だけが見えるのみである。


「……あいつ、やっぱりちょっと品位上がってね?」


 昨日の夜も思ったが、心なしか髪型も趣向をこらした感じで、元からややウェーブしていた長い黒髪は一軍女子大生のように綺麗に巻かれて、そしてなぜだか朝なのにドレスを着込んで、そのドレスが無駄にゴージャスで、赤と黒の布地がらせん状に縫い付けられて、フリフリがすーごいのなんのって、あなた今からどこに行かれるんですか。ねえ?


 俺は思いっきり寝間着のまま、寝癖をつけてあくびをし、そして新聞に目を戻した。保守派の中央新聞社はなんとか存続したものの、生き残るには民意におもねらなければならなかったのか、内容が改革的な感じに、がらりと様変わりしていてとても面白かった。


『突破された戦線は回復し、以降は海からの上陸作戦もあることを念頭に、海中にも高精度探査機を設置、新たに着任した駐屯兵団の兵数は以前の二倍に』


「……へぇー」


『革命の成功を踏まえ、議会は法律の整備を進めるとともに、経済の立て直しを図るため、王立中央銀行の総裁ピシュティ・ベズビエール氏は政策会議において金融緩和に乗り出す意向を表明した。数年前から問題視される資源の枯渇とそれに伴うデフレの脱却が期待される』


「ほほーう」


 パチン、と指を鳴らす音がした。誰が転移したのだろうかと思っていると、遠くに向かい合っていたはずの妻が消えていて、代わりに俺のすぐそばに仁王立ちしていた。


「さっさと着替えてきなさい、セラ」

「……い、いえっさー」


 今日はまあ、領主帰ってきましたよーって感じで、凱旋パレード的なノリで、魔力液を燃料に動く、とっても高級で装飾過多の車の上に乗る予定だ。俺としてもそれなりにきちんと正装して望んだが、あまり緊張はなかった。帰ってきたのは昨日の今日だし、街に車で出ても帰還の知らせが行き届いていないから凱旋なんて大げさなことにはならなくて、どうせ観光バスみたいになるのだとばかり思っていた。


 街についてだが、俺は今日の朝、自分の寝室の窓から朝日に照らされた街を見下ろしてみて、うーん、やっぱやめておこう、となって見るのをやめ、それきりあまり考えないようにしていた。それはなぜかといえば、どうにも街の見え方というか、規模感というか、あんまり見たことないなーという嫌な予感がしたからである。


 ――そんなこんなで一階の玄関まで降りまして、エスコートがてらに魔法で扉を開け、妻の手を引いて外に出てみたりしました。すると目下には驚くほど横長で、上質な石をもって作られた長―い長―い階段がありまして、階段の両サイドには綺麗なお花が広大な花壇の中で咲き誇っていらして、どうしたのかなー、見たことないなー、なんて思っていたら、ちょっと額に汗がにじんできました。


 ……一段ずつ、手を取り合って階段を降りるのなんて貴族っぽくて素敵! などと思う余裕はなく、俺は徐々に状況を把握しつつあった。いや、なんかおっかしーなー、城の内装変わってんなーとは思っていたが、しかし内装どころか城の規模まで変わってしまっていることには気づいていなかった、いや、見て見ぬ振りをしていた?


 下まで降りると、そこでクラウスが待っていた。何というか、クラウスまで身だしなみが綺麗になって(執事服や革靴がより上質な素材のものに新調されている)、若干若返った感がある。これ、執事の品位も上がってね? と思ったのもつかの間、


「どうぞセラ様、エリザ様、こちらへ。今日はとても涼しくて風が心地よく、絶好のドライブ日和ですぞ」


 車のサイドに備え付けられた昇降段を見つけると、先に俺が昇って、それに続いて来たエリザが落っこちないように上から支えつつ、二人して車の上部の椅子に腰を下ろした。すると車の頭の先に魔力結晶が埋め込まれているのに気づいた。


「アレ何?」

「あれは車の周囲に透過率100パーセントの結界を作り出してくれる魔力結晶「ガーディナー」の黒です」

「安全で、景色もばっちり見れるってこと?」

「ええ、最高品質の黒ですから、銃による狙撃はおろか、ミサイル攻撃を受けても傷一つつきませんわ」

「え、最高品質って、なに、そんな買い物したの」

「やだ、あなたったら、誤解しないでくださいまし。これはボナパルト家の領土から採掘された品ですのよ。地産地消でございます」

「……あ、そう」


 車のエンジン音が聞こえて、それから目の前のものすっごい大きな鉄製の扉が徐々に開いていく様を呆然とみていた。頭の中ではいろいろと考えが浮かんだ。


あれですか、城が増築されて大きくなったら正門の扉もおっきくなっちゃいましたーって感じですか、マギー審司の耳じゃないんだから、そんな冗談言わなくても。ていうか、朝に寝室から見下ろしたときに、なんだか超高層ビルの建ち並ぶメトロポリスみたいなハイテク近代都市が見えたような気がするけど、アレ気のせいだよね、え、だって俺が最後に見たときはもうちょっと田舎の名残みたいなのあったし、そもそもそんな土地広くなかったし、え、もう扉開いちゃうの? うそ、え、扉の向こうからめっちゃ人の声上がってますけど、これ大丈夫ですかクラウスさん? 聞いてる?


《――では、出発いたします》


 通信魔法によって、渋い声が脳内に響き渡り、車が動き出した。



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