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宴のそばで

 しばらく待機しないといけない遊軍のメンバーは城の中に通され、冷房の効いた部屋で涼んでいた。広い敷地の中庭には永遠に水がわき出るというオアシスがあって、周囲には豊かな果樹が並んでいた。今からこの城の周囲は戦場となるのに、まばゆい太陽とオアシスを眺めていると、まるでバカンスに来たような気分になる。


「――おい、セラフィム、来たらしいぞ」


 光組の知り合いに声をかけられ、ビーチチェアに座っていた俺は後で行くから、と断った。そして俺はバカンス気分のまま一人くつろいでいた。戦況を見に行くと言っても、出番はまだ先だろうと思っていたからだった。



 それからまもなく、男達の怒声と戦闘音が聞こえてきて、俺はのんびりと席を立ち、城の者に声をかけた。


「この城で最も高い場所はどこかな?」


 案内してくれたのは小柄で色黒な若者で、家内転移しましょうかと手をさしのべてきたが、俺はせっかくだから話でもしながら階段で行こうと言った。彼はその通りにしてくれた。


「……へぇ、この城は今、主がいないのか」

「取引先に出向いております」

「で、主がいないタイミングを見計らって、敵が襲ってきましたよと」

「毎度のことでございまして、今回もリティアの王都にあらかじめ書簡を出し、防衛依頼をしました。昨年は剣士の方が大勢いらして、今年は士官学校の生徒さんに来ていただきました」

「毎年違うのだな」


 たわいない世間話をしていると、五階に着いた。そこから石造りの狭いらせん階段を上り、城の中で最も高い塔の先端にたどり着いた。


「お疲れさまでした、ここが城内で最も高い場所になります」

「ありがとう」


 彼は一礼してから城の中に戻っていった。周囲を見渡すと、地上で城壁に群がる武装した敵軍の兵士と、それを城壁の上から攻撃する士官学校の生徒、そして、矢倉のような場所から高みの見物、あるいは生徒達の活躍ぶりを点数化している試験官の姿があった。


 後ろを振り返ると、さっそくコソ泥がロープの先の金属のかぎ爪で引っかけて、城壁の上に這い上がってきた。北側から襲ってきた敵国の軍と真反対の南側からこっそりと。俺がこの距離から攻撃しても良かったが、それを察知していた優秀な獣人が颯爽と現れて盗人を城壁から地上に蹴り落とすのが見え、安心した。


 戦況は優勢だった。いくら数で勝っていても、相手は旧時代的な物理攻撃。うすうす分かってはいたが、ここもたいした戦場ではない。紫の虎が敵陣を破り、灰色の煙が屍の山を築き、水色の炸裂矢が敵兵を穿っていた。


「……お、チャーチル、頑張ってるなぁ」


 チャーチルの【ニンフサーキット】は独特の能力があり、濃い黄色の霊気を分厚い鎧さながらにして着込み、爆発的な身体能力を与える。ゆえに、体当たりする肉弾戦車のような、豪快な攻撃で敵軍に突っ込んで、素晴らしい突破力を見せてくれる。体当たりが終わったら次はぐるぐるパンチで、聖武器として拳にはめているメリケンサックが霊気を噴出し、パンチの威力を倍加させている。


「リゼも、よくやってるな」


 青い鞭が敵の男どもをバッシバッシ打ち抜いて、感電したように気絶させていく。背後で、カイが鎖鎌を用いて遊んでいる。いまいち使い方が分かっていないらしく、試行錯誤しながらも、敵兵を順調になぎ倒している。


「みんな頑張っているな。俺、やることあんのかな?」


 俺の目には、後方で待機している千人ほどの敵軍が見えていた。攻撃が薄くなってしまった場所に続々と援軍を送り込んでいる本軍だ。


「あれが本軍か……、あまり長引くのも良くないよな……よし」


 俺は聖剣を取りだした。この見通しの良い、広い砂漠地帯なら、おおざっぱな技がかませる。俺は霊力を放出して、無限に溢れ出る茜色を空に送り続けた。「界門」を全開させる魔力回路もあるにはあるが危険きわまりなく、しかしこうやって徐々に小出しにしていけば、暴発することなく、たくさんの霊力を外に出すことが出来る。


 やがて空が一部、夕焼け模様に染まり、敵兵や城壁の上の生徒達から驚きの声が漏れる。

何と言っているかは聞き取れないが、たぶん、「あれ、なぁに?」というのが主だろう。


「よーし、そろそろ溜まってきたな」


 よく分からないが、みんなが小一時間戦っている間に、目分量でだいたい千人を滅ぼせるくらいの霊力を空中に貯めた。そこにちょうど良く、敵軍の戦闘機が援軍の一部として城に向かっていたので、さっそく術式を発動した。


「【メテオ・フレア・レイズ】!」


 宙に浮いた朱の泉から、霊気の隕石が飛び出し、その下の戦闘機をことごとく撃墜させ、地上にいた本軍千人の上に降り注いだ。爆音とともに砂塵が舞い散り、それでも容赦なく紅の隕石は降り注ぐ。


 ――しばらくして、地鳴りが収まり、砂埃が風で消え失せた頃、本軍の壊滅した姿が鮮明に浮かび上がってきた。すでに四分の一にまで兵力を落としていた城壁周辺の敵兵士たちは援軍を失ったことであえなく降伏し、突然の勝利に士官学校の生徒たちは遅ればせながら歓喜した。


 術式の効果は抜群だった。俺もうれしくなり、その歓喜の中に入りたくて、霊気の翼をはやし、尖塔から城壁の向こうへと飛んでいった。


「――うおぉおおおおお! なんかよく分からんけど勝ったぞぉおおおおお!!!」

「Fooooooooo! 早めに終わったぜぇええっっぇ!」

「祝杯じゃぁあ、酒だぁああ!!!」


 俺が降り立っても、皆の興奮状態は収まらなかった。俺はみんなと一緒に勝利の舞を踊り、生き残った敵兵や盗賊の手下を縄で縛ってから、さっそく城の中で宴を開いた。みんな戦闘時間が短くて、元気が有り余っていた。


 城の中の会場では豪勢な食事と酒が振る舞われた。俺はあまり腹が減っていない(当たり前か)から、グラスを片手に城の中をふらふらしていた。すると試験官三人がロビーで話し合っているのに出くわして、大理石の支柱の陰に隠れて話を盗み聞きした。


「……はぁ、こんな短時間で終わっては、採点が難しいですな」

「異光組は毎年活躍を見せますが、今年はちょっと毛並みが違うようで」

「特にメビウス軍曹が目をかけていたあの男、……なんといいましたかな、セラフィム?」

「セラフィム・ボナパルト」

「そう、その生徒がちょっと桁違いの霊力量をしているらしいのですよ」

「普段の訓練でも、かなり話題になっていたなぁ」

「今日のアレも、やったのは彼で間違いないのか」

「そうです、私は見張り台からあやつが術式を発動するのを見ました」

「しかし何ですかあの術式は。見たことがない」

「前例のない異光だそうで。術式もクレイジーだ」

「これでは宰相のプランが崩れるのでは」

「それはないでしょう、あの戦場では彼とて子供も同然。それよりも、プランのせいで彼を失うのが我が軍にとっての将来的な損失につながらないかという心配をすべきですよ」

「別の任務に就かせて、プランを回避するのはいかがかな。宰相には上の方々から進言してもらって、磨けば光る原石を守ってもらうというのは」

「しかし異光は騎士団の花形。プランには彼らも入っています。一人だけ特別扱いというのは角が立つでしょう」

「どっちみち、もったいないことです、将来を嘱望される若者を失うということは……」


 俺は話の意味を悟り、妻のよこしたあの手紙の内容が現実味を帯びるのを感じた。







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