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滅びの呪文

後を追って俺とキースとシー○が扉の向こうへ入っていくと、そこにはシステムを司る複雑な魔力回路の基板が辺り一面を覆い尽くし、巨大な空間の上部からは極太の植物の根が、空間中央に設置された純白の大きなフライングストーンに張り付いてがんじがらめにしている。


「おおお……、あれがフライングストーンか」

「根が張っていますね、あれで地上の自然を養っているのでしょうか」

「い、いやぁ、なんにしても、たどり着いて良かったよ、途中、何回やられるかと思ったことやら」


 さっそく先に入っていた光組の連中がフライングストーンを手持ちの武器で削り出していた。戦果として持ち帰るためだ。


「あ、くっそー、一番乗りじゃなかったか!」


 背後から続々と別の生徒達が入ってきた。別の小隊が遅れて参上したのだ。彼らもフライングストーンを目にした途端、一気にかけ出して、任務完了の印を手に入れようと武器を取り出し、削った。


「……よし、だいぶ固かったけど、削り出せたぞ……」

「おい、お前、足浮いてるぞ」

「え? のわぁっっ!!!」


 削り出しに成功した者は、フライングストーンの浮力で体ごと浮いてしまっていた。要するに、削り出す量を調節しないと持ち帰れないのだ。


「うぇえ! 俺も浮いちまった」

「やべぇ、浮き足立つってこのことか」

「え、それそういう意味だったの、ってかさっき隣にいた奴どこいった」

「あいつなら削りすぎて天井に張り付いてるぞ」

「……あ、ホントだ、馬鹿だあいつ」


 みんなしてフワフワ浮き始めた。士官学校の生徒たちがフワフワ浮遊している様はなんとも滑稽で、ちょっと愉快だった。


「アハハ、適切な量を取らないとダメなんだな」

「こ、ここにきて最後の難問だぁ」

「さぁ、私たちも削りに行きましょう」


 仲間内でいろいろ協議した結果、どうも人差し指分が適量だったようで、手先の器用だったリゼが真っ先にその人差し指分を削り出し、魔力で指先を硬化させてフライングストーンを綺麗な楕円形に研磨した。


「記念に、我が家の家紋でも掘っておきましょうか」


 彼女が出し抜けにそんなおしゃれな機転を利かせたせいで、どんどんフライングストーンはマジの飛○石的なサムシングになりつつあった。やめてくれ、おじさんをそわそわさせないでくれ。


 遅れて現れた二つ目の小隊を率いていたのはマッテオだった。


「……先を越された」

「そんなこと言わなくていいよ、俺たちは運が良かっただけさ」

「……削って良いか」

「いいぞ、その代わり器用にやらないと危ないぞ」

「……(深くうなずく)」


 マッテオは不器用な自覚があるから、すぐにリゼのところに行って、どのようにしたら良いかを尋ねていた。彼女は彼の分も削ってやり、出来上がった飛○石を手渡した。受け取ったとき、上手く感謝できず、「……」無言で顔を赤らめていた彼は、紛れもなく思春期の少年だった。


 のちに教官が入ってきて、俺たちの成果を確認し、本部に連絡を取った。脳内放送がかかる。


《――生徒各位に通達する。一定数の生徒のミッション成功が確認された。これより帰還のための座標を付与する、ミッション未達成の者も、それ以上の戦闘が困難であると感じた場合、速やかに退避し、身の安全を確保せよ、以上》


 持ち帰れるサイズのフライングストーンを作成できた者から順に、与えられた転移魔法用の座標コードに従って転移し、この空間から消えていった。俺はちょっと気になることがあって、リゼを呼び止めた。


「もうみんな帰りましたよ、まだ何かあるんですか」

「ああ、ちょっとな。マッテオはもう帰っても良いんだぞ」

「……俺も残る」

「そうか? なら、二人とも、ちょっと来てくれ」


 魔力回路が張り巡らされた壁のそばに、もう一つの碑石があるのを俺は発見していた。


「もう俺たちは目的を達成したから用事はないんだけど、どうしてもこの碑石が気になってさ。なんて書いてあるのか教えてくれないか」

「ええ、いいですよ」


 リゼ、ないしシー○は碑石に彫られた文字を指でなぞりながら、たどたどしく現代語に直してくれた。


「えっと、いきますね? ――私たち家族はこの、突然空に浮かんでしまった土地に取り残された。古代遺跡の調査に来ていて、そのとき起こった地殻変動が原因だと思う。しかし、私たちはそのことを不幸には思っていない。祖国リティアは文明開化と戦争の板挟みになっていて、我々家族はその息苦しい時代から神の意志によって空に隔離されたのだ。私たちはおそらく、このままこの土地で息を引き取ることになるだろう。しかし何の喧噪もない豊かな自然の中で生きていくことは幸せだと思う。ここは私たちの家だ。いつかこの土地の資源を求めて誰かがここにやってくるとしたら、おそらく古代遺跡の高度なシステムにさらされ、大変な目に遭うだろう。そして今この碑石を読んでいる者は、それらを乗り越えたはずだ。私たちはすでに死んでいるだろうが、しかし、もしあなたが技術的に余裕があるのなら、一つ願いを聞いてほしい。私たちは骸骨になってでも、いつか祖国に帰りたいと思っている。そしてこの古代遺跡のシステムには秘められた暗号がある。それはフライングストーンを徐々に無価値な石に変えてしまう滅びの呪文だ。それによって、この土地は浮力を失い、落下するだろう。そうすれば、私たちの骨は祖国の地へ帰ることが出来る。

 落下地点に人がいるなら、それはゴミのようにぺしゃんこになってしまうから、ぜひとも人のいない荒野か山間のどこかに落としてほしい。さぁ、唱えたまえ、バル――」


 言いかけて、俺は急いでリゼの口を塞いだ。


「ダメだろ、勢いで言いそうになるな!」

「ご、ごめんなさい」

「……(こちらを睨んでいる)」

「も、もう言いませんから、はなしてください」

「あ、すまん……」

「口で言えませんから、文字で教えますね。……これです」

「……お、おう」

「……(リゼが空間魔法で取り出した紙切れに書いた文字を興味深く見ている)」


 俺たちは本部に連絡を取り、今の島の座標を教えてもらった。幸い、落下地点は人の住まない荒れ地だった。


《……それがどうかしたか》

《いえ、何でもありません、了解です》


 俺は怪しまれる前に通信を遮断し、それから、死刑執行官みたく誰がボタンを押したのか分からないように三人でポチッとなとするように、三人同時で滅びの呪文を唱えた。


「――バルサミコス!」



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