システムダウンに向けて
「キースって、もしかして、【千里眼】使いのキースか?」
「あ、お、俺のこと知ってるのか」
「もちろんだとも、カイの奴が試験問題のリークでお世話になってたし」
「か、カイは金を持っているからね……ギャランティはきっちりもらってるよ」
「あの、キースは【千里眼】を使えるんですよね? だったら、この動き回る古代遺跡の構造も分かるんじゃないですか?」
「そ、それが……」
キースはとぼとぼと力なく語り始めた。「遠征」開始から今に至るまで、彼は俺やカイと同じく仲間と一緒に古代遺跡に潜入し、「フライングストーン」を探していた。そして古代遺跡の内部が移動するのを理解し、自慢の高等魔法【千里眼】を使って目的の「フライングストーン」が地下深くにあることを突き止めた。
しかし、キースがそこに近づこうとすると、たどり着くまでに必ず遺跡が姿を変形させてしまい、どうしてもたどり着けないようになっていたのだという。
「た、たぶん古代遺跡の意思だと思う。システムの一番大事な部分を盗み取られないように、俺たちを遠ざけているんだ……」
「そうか、それは参ったな」
「……ねえ、セラフィム」
「ん、どうした、リゼ」
「かつてこの古代遺跡を管理していた者達は、どうやって最深部のシステムを整備していたのでしょうか」
「さあ、管理者だけが簡単にたどり着けるような仕組みがあったんじゃないか」
「では、たどり着く仕組みから探さないといけませんね」
「ああ、それはそうなんだが、どうしたもんかね」
「キース、あなたの【千里眼】は何回使えるんですか」
「え、そ、そうだな、俺は魔力がそ、そんなにたくさんある方じゃないし、一日三回が限度だと思う」
「私とセラフィムが魔力の援助をすれば、もっとできますか」
「う、うん、魔力さえあれば……」
「だったら、二人とも、ちょっと見てもらいたいものがあるんです、ついてきてくれますか」
「ん、分かった」
リゼが案内してくれたのは、楕円形の空間だった。そこにはリゼが小部屋のロボットと遭遇する前に発見した、奇妙な人工物があった。黒光りする素材はどうも先ほどのロボットの外装と同じ材質らしい。支柱の先に丸い球が取り付けられてあって、ほこりをかぶっていたからそれを払うと、なめらかな球面に俺の顔が映り込んだ。
「なんだこれは」
「私にも分かりません。けれど、明らかに意味があって設置されたものですから、無視してはいけないかと思います」
「も、もしかして、古代遺跡のシステムの大事なパーツかもしれないね」
「え! これがか?」
「キース、あなたもそう思いますか」
「う、うん、だって、この空間ってかなり広いけれど、さっきの内部構造の大移動があっても、どこも変形してなかったんだろう? これは推測に過ぎないけど、も、もしや、変形させたらシステム上、都合が悪い空間がいくつかあるんじゃないかな」
「おおっ! それはありえるな!」
「リゼは俺に、「フライングストーン」じゃなくて、これを【千里眼】で探してほしいんだろう? でも一つ問題があるよ。探したからって、どうするの? 移動や変形しない空間の位置から逆算してフライングストーンに迫れるような頭の良い奴、そうそういないよ」
「……そうですよね、……だったら、……破壊、とか、どうですか」
「え?」
「もしこれがシステムの大切なパーツなら、壊すとシステムが停止したり、なにか変化が得られるのではないでしょうか」
「で、でも、それ壊せないレベルの強度だと思うけど」
「やってみましょう」
リゼはダメもとで鞭を取りだし、霊力最大で先端の黒い球を徹底的に叩いた。けれども全くびくともしない。
「い、いちおう、俺もやるよ」
彼は聖銃の使い手で、銃からは目にもとまらぬ早さで光の霊気弾丸が黒い球やその下の支柱に集中砲火されたが、それでもノーダメージだった。
二人が疲れ果てて俺の方を見る。なんだ、やれってか。
「……しゃーない、あれ、やるか」
俺は茜色の聖剣を握り、オリジナルでまだ試作段階だったある術式を披露することにした。かなり集中力を研ぎ澄ませないといけないので、二人には静寂を要求した。
「【バーミリオン……ジェット……ブリッツ】!」
黒い球に差し向けた剣先から、極めて細く捻出された超高密度の赤い光線が飛び出した。とにかく貫通力だけを重視した危険な術式で、一歩間違えれば圧縮した霊気が爆発して、大変な事態が起こる。
一筋の光線は黒い球に当たると、耳障りな《キィィィィィィィィィィン》という甲高い音を発しながらすさまじい硬度の物体をゆっくり貫通していった。俺は術式を正しい手順で解除し、光線を消滅させた。
《――バキっ、ピシっ、ピキピキピキ》
ど真ん中に穴の開いた黒い球はそこから亀裂が走り、最後は砕け散った。
「ふぅ、これでよしっと」
「さすがセラフィムですね」
「うわぁ、異光組ってやばいんだなぁ」
ぶっちゃけて言うと、この術式でダメだったらお手上げだった。すべてのものを貫通させてしまうので、本当はどのくらいの威力があるのか計りかねていたが、とりあえずこれくらいの硬さであれば大丈夫ということがわかり安心した。
《ゴウゥンン、ガッ、グイィインンン、ガクンッ、ブゥウウウン》
「また動き出したなっ」
「ひぃっ、怖ぇよお、また変なロボットが来ちまう……」
「大丈夫です、私たちがついていますから」
前回より明らかにぎこちない空間の移動音を聞いて、俺たちは手応えを得た。空間を動かす上で不可欠な軸の一つを破壊したのだという手応えだ。
俺たちはその調子で、キースに魔力を分け与えながら【千里眼】で近隣の黒い球の居場所を特定し、道中のロボットを上手くあしらいながら、順調に破壊工作を進めていった……




