ロボットとの交戦
奥へ奥へと、索敵範囲を漫然と進んでいると、ふいに
《ヴゥウウウンン》
という機械音のようなものが鳴り始めて、俺たちは困惑した。
「なんだ!?」
動揺するのもつかの間、俺とカイの間に地面の亀裂が現れて、断層が上下にずれるようにして一気に地面が動き始めた。
「うおおっ! 地面が勝手に!」
「おいっ! どうなってんだ!」
そしてあっという間に古代遺跡の内部は形状が変わり、俺たち二人は分厚い壁を挟んで離ればなれにされてしまった。
「……どこだろう、ここは」
念のため新たにニンフを呼び出し、周辺探索のために送り出した。ニンフは発光しているので、暗い道路を照らし出してくれる。
「……音が聞こえる。たぶん、近くで誰かがやり合ってるな」
ニンフからの報告では、特別危険なトラップは仕掛けられていないらしかった。俺は戦闘音が聞こえる方へ行ってみることにした。
《――パァン、バチン、……バチッ、バチン》
音は俺が向かった先の小部屋から聞こえていた。入り口付近のツタを聖剣で引きちぎり、中へ入ると、普通の霊力より数段濃度の高いディープブルーの輝きが激しく火の粉を散らしていた。鞭を振るう銀髪の乙女が目に入る。
「せいっ、――はぁ!」
「リゼ!」
「――セラフィム! あなたどこから?」
先ほどの音は、彼女の使う聖鞭によるものだった。鞭は非常に長く、そして全体的に細長く青い光を放っている。
「ougubeka……」
リゼの攻撃を食らっていた怪物は、機械的な声で意味不明な言葉を吐きながら俺の方へ首を回して、その赤く光る一つ目で睨んできた。
「……こいつがカイの言っていたロボットって奴か!」
それは俺の知っている茶色のロボットとは少し形状が違っていたが、肩幅が非常に広く、黒くすすけた金属製のボディには少し苔が生えていて、年季が入っていた。ちょっとガン○ム、いや、ザクっぽいか……いやいや、世界観がおかしくなるからやめてくれ。
「セラフィム! 気をつけて!」
「bohozfhens!」
どうせそういう攻撃方法を持っているんだろうなとは思っていたが、案の定一つ目から赤い怪光線が放たれ、俺目がけて飛んできた。【ソーラークロス】を着ているから食らってもたいしたことはなかっただろうが、俺はあえて聖剣で光線を振り払い、ロボットの隙を突いて斬りかかっていった。
「――ふんっ!」
ロボットの脇腹を一閃した。霊力による攻撃ではなく、霊力で攻撃力をブーストさせた物理攻撃を試してみた。振り返る。傷一つついていない。
「セラフィム、こいつに物理攻撃は効かないわ!」
「qpgqinaathaebg!!!!」
突然ロボットの腕が伸びてきて、俺とリゼを同時に殴打した。俺は防御が間に合わなかったが、茜色の衣が例によって直撃前にブロックし、リゼはこの攻撃方法を何度か見ていたのか、自由自在に鞭を束ねてロボットの拳を受け止めていた。
「はぁっ!」
リゼの鞭がロボットの拳を押し返して、ロボットが体勢を崩した。彼女はその瞬間を見逃さなかった。
「あなたの弱点はもう見切っているのです! さぁ受け止めてみなさい、【ソーンスプラッシュ】!」
彼女の細い鞭がロボットの様々な関節部分に入り込んで、鞭打する際に瞬間的に霊気を吹き込み、そこから青い電撃のようなものが走った。
「ngegbebithzn……!」
ロボットは弱点部分を爆破され、立っていられなくなり、その場で崩れ落ちた。光っていた一つ目が点滅し、しばらくして暗くなった。機能停止に追い込まれたんだと思われる。
「おおっ、鞭ならではの術式だな」
「……セラフィム、さっきの音は何だったのですか」
「あぁ、あれはこの古代遺跡の内部構造が変わった音だよ。ずっとこの部屋でこいつと戦ってたから気づかなかったのか?」
「ええ、この部屋に変化はありませんでしたから。それにしても、この遺跡は内部が変動するのですか」
「うん、そうみたいだ。もとからそういう設計になってるらしい」
「……厄介ですね」
俺たちが善後策を考えていると、小部屋に続く細い道路から一人の男が走り込んできた。
「ひぃいいいいっっっ! 助けてくれぇええ!」
光組の男だった。背後から小型の蝉のような小さなロボットの群れが追いかけてきていて、続々と小部屋に入ってくる。
「おい、こっちだ!」
俺は自分が入ってきた出入り口にリゼと男を誘導した。後に続いて蝉ロボが追ってくるが、俺はそこで術式【フレア・ボム】を発動し、線香花火の先端に溜まった火種ような霊気の丸い塊を、剣先から小部屋に放り投げた。ボムは爆散し、朱色の輝きが激しく音を立てて蝉ロボの群れを粉々にした。
「あ、ありがとう、君たち」
「いいんだ、困ったときは助け合いだろう?」
「き、君ら、異光組だよね、た、確か、セラフィムとリゼ」
「そうです、よくご存じで」
「お、俺はキース。光組の三年だ。よ、よろしく」
細身で、黒縁のめがねをかけた黒髪の彼の名前を、俺はどこかで聞いた覚えがあった。




