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中間試験

「――うぉおっ、すごいっ、マッテオの槍が分身してる!」

「見て、グレナダの弓、相手に当たると八方に散ってほかの敵兵にも突き刺さってます」

「カイのやつ、ふざけた武器使ってるなぁ。なにあれ、ブーメラン? あんな聖武器あるんだな」


 グレナダの聖弓は水色、カイのブーメランは薄い黄色の輝きを示していた。ステージは大草原、二チームに分かれての大決戦方式。ちなみにこれは件の中間試験である。俺たち編入生(異光・光組を含む)のべ105名は別室のシアタールームに案内され、次回の中間試験から参加することと、今回の中継映像を見て参考にすることを言い渡されていた。


 独自の方式で算出される活躍指数では、軒並み異光組が名を連ねていて、そのせいか、投影魔法プログラムが提供する映像には異光組の人間がよく映し出されていた。


 マッテオの聖槍は灰色の煙を噴出し続けている。煙は意思を持つように敵兵を覆い、何も見えなくなった集団を自慢の槍で突き倒していた。


「あ、マッテオ、またカメラ目線だ」


 たぶん、マッテオのニンフはあの煙自体なのかもしれないが、非常に広範囲にわたっており、索敵のついでにプログラムの撮影に気づいているらしい。ときどきこちらに目をやって決め顔をしている。それも無言で。寡黙だが、彼は結構面白い奴だ。


 そうこうするうち、背後から援軍が来て、マッテオは一時撤退した。しかし、自身が撒いた煙の中から、けたたましい咆吼とともに、獅子のごとき形をした紫色の霊気の塊が突如現れ、マッテオに襲いかかった。遠距離からのダンの攻撃だった。即座に槍で防ぐも、かなりの破壊力だったか、数百メートル後方まで足を引きずって押されていた。


 マッテオの苦しい表情が映し出される。さっきまでの余裕の表情はなく、代わりに術式【エラスティック・スピア】を発動して、紫の獅子の喉を伸びた槍で貫いた。紫の霊気が霧散していく。だが、何者かが混乱に乗じ、高速で背後をとり、マッテオに光の聖剣で一撃を食らわせた。マッテオは衝撃で空を舞った。


 シアタールームが騒然とする。


「何者だ!」

「凄い早さだったぞ」

「煙の中から出てきた、……獣人だ!」


 草原を疾駆し、光組随一の敵兵撃退数を誇るあの獣人は、我らが師匠オリビアである。恵まれた身体能力と卓越した剣技で、みながやっかいだと思っている異光組の敵兵を狙って攻撃していた。


「うっわー、オリビアってあんなに動けるんだ」

「私たちとの剣技レッスンでは加減してくれているのですね」

「だろうなぁ……」


 俺が頬杖をついてしっちゃかめっちゃかな戦場をぼんやり眺めていると、シアタールームの扉が開いた。入ってきたのはレイラだった。振り返った俺を見て、手招きする。俺は席を外した。


「――どうした、何か用か」

「うん、これ、届いたから」


 三日前に送った手紙の返事が届いていた。それは手紙にしては分厚くて大きめの袋に閉じられていて、明らかに別の資料か何かが入っている。


「ありがとう、助かるよ」

「霊気爆発はこれきりにしてよね、じゃ!」


 レイラはるんるんとスキップしながら医務室に帰っていった。俺はもうシアタールームで見たいものがなく、先に一人でグラウンドに向かった。


「――えー、なになに……」


 グラウンドの日陰に入り、おもむろに開封した。紙袋の中には大量の古文書が入っていて、それらにそえて手紙が入っていた。文字の筆跡はエリザのものだった。以下、手紙の本文から抜粋する。


『まさかあなたが返事をよこすとは、少しばかり驚きましたわ。そしてあなたがあの厳しい士官学校の環境でまだ生存しているという事実にも驚嘆いたしました。そろそろ半殺しの憂き目を見て、無能が発覚し、家に突き返される頃かと思っておりましたのに、意外にたくましいのですね。

 返事といっても、別に私の送った手紙の返事というわけではありませんでしたね。今更ながらの告発文とでも言えばよろしいかしら。私など、あなたが徴兵令を受けたという知らせがあった次の瞬間にはユリシーズに話を伺っておりましたゆえ、なにかひと月ほど遅延した手紙、という印象が隠しきれません。

 ユリシーズの本意から明かしましょう。彼の読みでは、近いうちに戦線が破れ、敵国の侵略が始まります。どのあたりの戦線が破られるのかは分かりませんが、ユリシーズが握っている極秘情報によれば、約一年後、ちょうどあなたが士官学校を卒業して、戦線に駆り出される時期に戦場が荒れます。

 これはもちろん偶然ではありません。あなたもご存じの通り、魔法王国リティアは様々な敵国との間に戦線を持ち、それが長い間拮抗して前後せず、ほとんど国境としてみなされています。要するに、急を要していないのです。ですが、悪名高き例の宰相がここにきて不穏な動きを見せています。

 率直に言って、これは国を滅ぼすための謀略です。すべて宰相ガルメールのはかりごと。戦線の破れも彼の手引きによって引き起こされ、そこにあなたたち貴族出の新米騎士が送り込まれて華々しく散り、敗北の二文字が中央新聞の紙面を飾るところまで、すべて計算ずくなのです。我が国が危ういときの担保として存在する貴族位がいかに無用で無力か、いかに戦場で役立たずかを国民に知らしめるチャンスだと思われています。

 徴兵令はそういう意味で、一石二鳥、いや、三鳥ですわ。軍事費削減の言い訳にも使えますし、一手に貴族を集められて好都合。一年士官学校で鍛えるのは、あくまで見せしめのため。鍛え上げられ、立派な騎士に育ったはずのあなた方が戦場で瞬く間に屍と化した、という貴族の無力さを誇張するための宣伝文句にされるのがオチですわ。そうなると国民はこう思うでしょう。

「貴族はいざとなったとき、我々の力になってくれるのではなかったのか!?」

 まぁ、各地で内乱が起こるでしょう。宰相ガルメールの目的はこの国の滅亡ですから、リティアを亡国に仕立て上げるには貴族というシステムの崩壊が一番手っ取り早いでしょうし、滅んだら滅んだで、敵国のスパイであるガルメールには亡命先がしっかり確保されていますから、どうってことありません。

 セラ、あなたには分かりますか? この国は意外と危ないところまで来ているらしいのです。貴族制度は国の背骨ですので、折れたらあっけない。

 ユリシーズは私に誓ってくれました。あなたが無事に帰ってこなければ、命を差し出して、責任を取りますと。彼はそうとう自信家ですから、この賭けに勝つ気でいます。なぜ貴族家の当主を売りに出すようなマネを働いたかと言えば、彼曰く、水面下で国が傾くのを防ぐには最初の一手が肝心で、そこで破れた戦線がふさがれるか否かが実は、長い目で見たときに国の存亡を左右するはずだから、だそうです。おそらく新卒騎士では到底勝ち目のない戦場に送り込まれるでしょうから、普通にやっていればガルメールの思惑通り多くの貴族家の当主がご臨終ですが、あなたの聖剣は曰く付きのものだそうで、私は信じていませんが、あなたがその聖剣を振るえば、戦線を破って迫り来る敵軍を鎮めることができるとユリシーズは断言しております。

 もともとあなたが戦場に赴く際には、こっそり私どもの方で手を回して、家に帰還させる予定になっておりましたが、ユリシーズが大丈夫と言い張って聞きません。そんな中、あなたから手紙が届きました。裁きの鉄槌だかなんだか知りませんが、そんな初歩中の初歩でつまずいるなんてと、ユリシーズは嘆いていましたよ。同封した古文書は何かの助けになればと、彼が関係のありそうな聖剣術式の資料(真偽は不明)を怪しげなバイヤーから買い取ってくれたものです。

 私はいまだにあなたが国防の危機に活躍するなどと信じてはおりませんから、戦場には密偵を出します。ついでに、ユリシーズも送り出します。いざとなったら、助け船を出せるように一応準備はしますが(至れり尽くせりですね?)、もし活躍できる実力がついているのでしたら、存分に敵軍をなぎ払い、国の英雄にでもなって帰還なさってください。以上』



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