まさかの劣等生
「待たせたな」
「お疲れさまです」
「お疲れー」
「チャーチル、今日は気絶せずにすんだらしいな」
「あ、当たり前さ! 二日続けて意識不明なんてないよ」
「それは今日がミッション制の訓練で、そこまで戦闘に巻き込まれなくてよかったからではないですか?」
「……まぁ、それはあるかも」
「アハハ、鋭い意見だな」
「それより聞いてよセラフィム。Dチームでマグマリオン見つけたの、実はリゼなんだ」
「え! そうなのか!?」
「はい、私が見つけました」
「どうやって見つけたんだ?」
「氷魔法で防具をコーティングして、割と暑いところまで進んでいきました。Dチームの臨時隊長は光組の千里眼使いの方でして、彼からあらかじめ、だいたいの場所をみんな知らされていました。耐熱のスキルがある方はサーチを、そのほかの方は戦闘要員でした。私が見つけたのはたまたまですね。マグマの流れの中にキラリと輝く黄金の秘石を見つけたときには幸運だと思いました。確保するのに骨が折れましたけれど」
「そうか、リゼは氷魔法が使えるんだな」
「凄いなぁ。上位魔法は貴族の中でもごくわずかな者しか扱えないのに。僕なんか下位の水魔法ですら下手すぎて噴水みたいなのしか出ないって言うのに」
「ふ、噴水って、それは……」
「で、でも土魔法は得意だもん!」
俺たちは会話を挟みながら歩いて行って、普段一般生徒たちがランニングなどの筋力トレーニングを行っているグラウンドに向かった。そして、グラウンドの朝礼台に腰掛けているオリビアを見つけた。
「――ん、いたいた、オリビアー!」
チャーチルが持ち前の陽気さで遠目に挨拶をしたが、彼女はとっとと来いと言わんばかりに腕を組んで返事をせず、こちらをにらんでいる。相変わらず男勝りな感じで、ピクピク動く獣耳とのギャップがかわいい。
「とうちゃーく」
「こんにちはオリビア」
「よう、ルームリーダー」
「……では早速だが、聖剣を出せ」
言われたとおり、各人、空間魔法で収納していた聖剣を取り出した。
「鞘から抜いて、ニンフを呼ぶんだ」
起動させ、鞘から引き抜くと、それぞれ違う色が輝いている。二人は前回の実戦訓練で顔合わせしたらしく、すでにお互いの聖剣の発色を知っていて、ただ俺の剣をみて物珍しそうな表情を浮かべている。
俺は二人の聖剣の色を初めて見た。リゼが青で、チャーチルが黄か。二人とも実戦経験が浅いからさほど術式に詳しくないと言っていたが、はたしてこれらの異光聖剣にはどのような特徴があるのだろう。
呼び出したニンフはそれぞれの色を放ち、小さい羽で剣の周りを飛び回る小人の姿を現す。青色のニンフは比較的おとなしく、黄色のニンフは気まぐれな動きで冗談めかした態度を取っている。俺の周りの茜色のニンフはやたらめったら元気だが、異光聖剣の種類によってニンフにも個性がでるらしい。
「お前たちも実戦を目の当たりにしているから知っているかと思うが、ニンフには実体がない。学術的には、物質的な肉体を持たない霊気の概念と定義されている。いまだにニンフ研究というのは研究者の間で盛んに行われていて、全貌が明らかにされているわけではないが、使役すれば様々な利益があるということだけは明白だ」
「うんうん、一般生とかみんな使ってるよね」
「お前たちが最も必要としているのはおそらく防御に関する用途だろうが、しかしニンフには索敵や、毒・麻痺等の状態異常の回復、攻撃補助など、その他様々なサポートが可能だから、それらはいずれ実戦で必ず役に立つ。ニンフは全ての聖武器の鍵だ」
「ふむ、そのニンフの手なづけ方は、武器によって違うのか?」
「いや、聖武器は加工方法が違うだけで、原料は同じ精霊石だ、ニンフの扱いはほとんど変わらない。変わるのは術式から繰り出される攻撃の種類くらいで、例えば聖剣だと斬撃が打てる術式を聖弓で真似ると斬撃のかわりに光の矢が飛ぶようになることに気がつくだろう。術式は聖武器の間でかなり似通っている部分があるから、魔力回路の組み方で悩むような奴はほとんどいない」
「なるほど、では聖剣ひとつ理解が進めば、ほかの武器にも応用が利くのですね」
「そうだ」
「夢が広がるなぁ……」
「問題はここからだ」
オリビアはそう言って、朝礼台に置いてあった分厚い本を開いた。
「異光聖剣は使い手の個性が出る。かつて士官学校を卒業していった異光組の生徒の残した大量の事例から、お前たちの持っている聖剣に近いケースをピックアップして、しらみつぶしに試していくしかないのだ」
「えぇーっ、それって効率悪くない?」
「何万通りもある回路のどこかに、ニンフと意思疎通が図れる固有の回路【ニンフサーキット】があるはずだ。勘の良い奴は今日中、鈍い奴は一ヶ月以上、見つけるまでに時間がかかる」
「はぁ、一ヶ月以上……」
「チャーチル、弱気になるなよ。今日中に回路を見つけ出してやろうぜ」
「う、うん……」
チャーチルを勇気づけたまでは威勢がよかった俺は、その後とても恥ずかしい目に遭った。ほかの二人は本当に今日中に回路を発見し、ニンフが反応を見せたのだが、俺だけいっこうに見つからなかったのだ。
「――はぁっ、はぁっ、もうだめだ、集中力が続かない……」
俺は日が暮れるまで回路を探して魔力のひだを操り続けたが、どうやってもだめだった。茜色のニンフは勘の鈍い俺をあざ笑うかのように最後まで楽しそうに笑っていた。
《キャハハ――ウフフ、――イェーイ――ヨイショー!》




