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訓練後の様子

《最終訓練を終了します。お疲れ様でした》

 

 プログラムの音声がそう告げた。そしてまもなく俺はその場に大の字になって倒れた。


「終わった……」


 プログラムが終了したことにより、周囲の景色が虹色に歪んで、位置情報が変更され、プレイヤーは等間隔になって、誰にも重ならないようにして聖騎士修練館に帰還させられた。周りを見渡せば俺以外にもぶっ倒れているやつが数名いた。


 まだ歩ける余力のある人間はさっさと出て行って、夕食を取りに行った。俺はまだしばらく動けそうになくて、修練館の真ん中で六角形の天井を仰ぎ見て、放心状態でいた。


「――おい、疲れているところ悪いがな、とっとと飯でも食いに行ってくれ。おまえらがいると戸締まりができないんだ」


 監視員の男たちが口々に早く出ろと言って、倒れている生徒を起き上がらせようとしてくる。俺のところにも一人髭もじゃの男が来て俺の手を取り引っ張り上げた。


「さぁ、飯を食ってこい。そして体を養え。そのあとはすぐに寝た方がいい。間違っても外に出て悪さをするんじゃないぞ。それで退学になったあほもたくさんいるしな、はっ!」

「そうか、いやしかし、食堂まで歩くのも一苦労だ」


 俺は出入り口で待っていた装備格納庫の警備当番の男に傷だらけの装備品を返した。


「お前で最後だ。よく頑張ったな」

「最後、ということは、ほかの防具を使った奴らはもう帰っているのか」

「おうよ、お前の連れていた女はお前の二つ前のステージが終了したときに出てきたよ。そんでもって、金髪天パのおデブさんは三回戦のステージでリタイアしていたな。意識不明でこっぴどくやられちまって、医務室送りにされたのさ」

「チャーチルが、そんなことに」

「レイラが治療している。心配ならお見舞いに行ったらどうだ、ぐはは」


 俺は夕食の前に医務室に寄ってみた。そうすると、何人かベッドに寝かしつけられて、どこからかいびきが聞こえてきた。


「あ、セラフィムくんだ」

「やぁレイラ、チャーチルはいるかい」

「ここ」


 レイラが指さした先のベッドにチャーチルは寝かせられていた。ちなみにいびきをかいていたのもチャーチルだった。


「大丈夫なんだろうか」

「えぇ、全然大丈夫。大した怪我じゃないくせに意識不明に陥ったお茶目さんだから。それよりあなたボロボロね、治療したげるから、そこ、座りんさい」


 椅子に座ると、彼女は薬品戸棚から魔法医療によく使われるポーションの薬瓶をとってきて、少量をコップの中の温水に溶かしたものを俺に手渡した。


「エナジードリンクのようなものだろうか……」

「エナ……なにそれ」

「あっ、いや、何でもない、こっちの話だ。ともかく、ありがたく頂戴する」


 飲むと体の力が回復するのがわかった。皮膚の軽い鬱血や防具の隙間から食らった切り傷などはだいぶふさがった。


「ぐごぉ、ぐごぉ、ぐひっ、やめてくれぇ、痛いよぉ……ぐごぉ」


 チャーチルは大丈夫そうだな。もしかしたら何か精神的なトラウマでも抱えてしまったかもしれないが、とりあえず命に別状はない。しかしいびきがうるさすぎてうんざりだ。こいつと寝床を同じくするのは骨だな。


「俺はもう食堂に行こうと思う。見舞いに来たのに相手がおねむじゃ意味がない」

「そ。またね」

「あ、最後に一つ」

「んー?」

「いびきしなくなる魔法とかってあるかな」

「あるよ、やっとこうか」

「よろしく頼んだ」


 食堂に戻るとロングテーブルの隅の方で異光組の三年生五人が集まって、食べながら喋っていた。食料を選び取ると、さっそくみんなの元へ駆け寄った。


「――お、セラフィム。お疲れさん」

「みんな先に上がっていたのか」

「俺とカイは五回戦でもういっか、ってなっちゃって。しばらく学校の外で遊んでたんだ。そんでタダ飯食いに学校に戻ってきたわけ」

「そんなのでいいの? 中間試験近いからって三年生は最後まで残る人もたくさんいるっていうのに」

「グレナダぁ、いーつからそんな真面目ちゃんになったんだよ、ぶっちゃけ余裕なくせにそんなこと言っちゃってさぁ。学科だけだよやべーのは、賄賂でも積んだらいい」

「呆れるわね」

「……あ、そうか、最終訓練まで残っていた奴らは三年生か」

「そうそう、っていうか、セラフィム、あなた凄いわね、初めてなのに最後まで残っていられるなんて。異光組とはいえ、普通は途中で体力が底をつくはずなんだけど。ね、リゼ。」

「私も頑張りましたが、どうしても物理攻撃を受けて痛んだ足が邪魔をして、ろくに走れなくなりました」

「足かぁ、足やられるときついよなぁ」

「防具の隙間からやられたのか。うまくやられたな」

「戦場では常套手段……」

「マッテオ、さてはお前の仕業か」

「……(激しく首を横に振る)」

「一瞬の隙を突かれましたから、誰にやられたのかはわかりませんが、マッテオさんではありませんでしたよ」

「……(頬を赤らめる)」

「どうしたマッテオ、顔が赤いぞ、熱でもあるのか」

「……ない」

「それより、中間試験って?」

「実技と学科の二項目で行われる一般生徒用の試験だよ。年三回あって、次の試験まで一ヶ月を切ったところだけど、セラフィムたちは編入生だからパスだね。君たちが気にしないといけないのは卒業試験だけだ」

「おうおう、そうさ、お前たち編入生は高みの見物でもして、一般生徒の中で俺たち三年異光組がバリバリ活躍するところを見てりゃいいんだ」

「試験を観覧できるのですか?」

「もちろんよ。でも学科試験はみてもつまらないかしら。卒業試験の参考にするならやっぱり実技のほうね」

「まぁ、楽ショーだな。光組のヘボどもの上手な捌き方をご覧に入れようぞ!」

「そうか、楽しみにしておくよ」


 俺は魚料理を口に運びながら体と相談して、オリビアの追加訓練は無理そうだなと思った。いくら回復効果のある食事とはいえ、根っこに残ったダメージはそうそう完治しないらしい。今日はゆっくりしよう。


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