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実戦開始

「――ダン、今日、俺たちはどう立ち回れば良いんだ」

「そうだな、お前らは聖武器ホーリーウェポンのなかだと聖剣しか扱えないから、とりあえず振り回せ。ガードなんてテクニカルなことはできっこないんだからさ」

「ねぇ、ダン。盾持っていかせたらいいんじゃないの?」

「いや、ダメだよグレナダ。盾は甘えだって何度も教えられたろ? 盾を一度使い出したら盾を手放せなくなるんだ」

「……経験あるのみ」

「マッテオが喋った!」

「今日は饒舌じゃん、どっしたの?」

「……」

「おい、カイ。マッテオがすねちまったじゃないか」

「責任問題ですね」

「ちょ、俺のせいかよ」


 昼食を食べながら俺たちは緊張感を高めていた。チャーチルはあまりものがのどを通らないみたいで、俺も箸が進まない。リゼは意外に落ち着いて見える。こういうときほど男は意気地なしで、女性の方が勇気があるものだ。


「とりあえず全力抵抗、それと、逃走経路の確保。フル装備も忘れずに」


 ――そしていよいよそのときがやってきた。装備品格納庫からヘルム・アーマー・ブーツなど、それぞれの体のサイズに合ったものを選び出し、身につける。


「それでいいな。閉めるぞ」


 くわえ煙草の中年教官が格納庫の警備当番に当たっていた。彼はめんどくさそうに扉を閉じ施錠する。彼が言うには、この装備品は特注品で、霊力攻撃のダメージを半減させてくれる優れものなのだそうだ。敵国の手の者に盗難に遭ってはいけないそうで、管理は厳重だった。


「っし、行くか」

「う、うん」

「行きましょう」


 そして大勢の生徒が聖騎士修練館に入っていく流れの中に、新人三人が紛れ込んでいく。みんな慣れっこなのか、防具をあまり着けていない。フル装備の俺たちはかなり目立っていた。


 入り口に進んで、中を見渡す。


「――おぉ、これが修練館……」


 建物の形は巨大な六角形のドーム状で、内部は巨大な投影魔法用の真っ白な素材で敷き詰められていた。投影魔法は空間魔法の中でも大規模な設備が必要な魔法で、作り込んだステージプログラムを指定された空間に投影することで、かなり魔力コストを抑えた大規模空間魔法が擬似的に実現されるというものだ。


 教官が時計をちらりと見やって、うなずき、拡声器に声を当てた。


「時間だ。用意は良いか」

「はい!」


 修練館にいる生徒の一部が元気よくそう答えると、突如風景が一変した。俺たち三人はつばを飲み込む暇もなく訓練に突入した。


「……ここは」


 どこかの研究施設の一室みたいな場所に一人でたたずんでいた。どうやらプログラムは生徒の位置情報をランダムに仕分けるらしい。俺たちはばらばらにされていた。


《ノーマルモード。敵残存兵力が二十パーセントを割り込めば終了となります》


 通信魔法おなじみ、脳内に直接音声が入ってくる。なるほど、敵兵は頭の上にアイコンが表示されるらしい。サバゲーみたいだな、あんまりやったことないけど。


 俺はとりあえず空間魔法で収納していた聖剣を取り出して魔力を注入し、起動させた。剣にほどこされた紋様が朱色に染まっていく。


「よーし、とりあえず部屋の外に行ってみるか」


 俺は金属製の扉を体で押しながら開いた。すると扉の反対側に炸裂音が響いた。


「うぉっっ!」


 扉を開いた瞬間、通路の向こうにいた敵兵に攻撃を受けていた。図らずも扉が盾代わりになっていた。しかしすぐさま足音がこちらに近づいてくる。やむを得ない。俺は扉の陰から飛び出した。


「こうなりゃやけくそだ!」


 敵兵は二人いた。一人は後方で援護射撃のために弓を構えて待機し、聖剣を持った男がこちらに向かって突撃を仕掛けてきた。


「異光組かぁっ! くらえぇえっっ」

「ぐぉっ……」


 初撃をなんとか剣で受け止めることができた。エリザとの剣の稽古がここで効いてくる。しかし相手の力は恐ろしく強く、一撃で体が後方へ数メートルずれた。二撃目で体をはじけ飛ばされる。


「うぁあ!」


 尻餅をついて倒れ込んだところに聖剣使いが剣を振りかざして飛びかかってくる。


「医務室送りにしたらああああ!」


 ダメだ、やはり接近戦では分が悪すぎる。回避なんて間に合わない。そう思い、俺は瞬時に聖剣の中の魔力回路を組み替えた。


 聖剣から太陽光のようなまぶしい霊気が周囲に散った。


「なっ、なん――」


 相手に有無を言わせぬ霊気の爆発。防具をろくに身につけていなかった身軽な敵は遙か後方へ吹き飛ばされる。


「ぐはぁあっ!」


 ユリシーズとの訓練でたまたま見つけた緊急防御のための術式【フレアブレイク】だった。霊力が聖剣から周囲に吹き出して、外敵を一時的にぶっ飛ばすだけの単純技だが、意外に通用するみたいで、相手は予測もしていない様子だった。もしや光の聖剣にはこの術式がないのか?


 ほっとしたのもつかの間、目に見えないスピードで何かが飛んできて、俺の肩を貫いた。


「うっ!」


 霊気の矢だ。防具を貫通して、肩をぶち抜いていきやがった。――くそ痛ぇっ!


 それから立て続けに聖弓の使い手は霊気の矢を連射してきて、俺はなすすべなく滅多打ちにされた。【フレアブレイク】は一時的な防御に過ぎず、こういう遠方からの連続攻撃の防御には向かない。


「おい、見つけたぞ!」


 背後にも敵兵が数名現れた。誰かが光の聖剣で俺の知らない術式を組み、十字の斬撃を放った。前からは光の矢、背後からは光の斬撃。このままではまずい……!


 俺はお上品な術式を組むのを諦めた。実戦経験をまともに積むために、乱暴なやり方はしないと決めていたが、実戦ではそんな余裕など与えてくれないことを悟ったのだ。仕方なかった。


「やるしかないっ」


 俺は聖剣の柄を握り替え、回路をひどく乱雑に組み替えた……


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