1話
「告白」のアフターストーリーです。
その日は、朝から雨が降っていた。気圧の変化のせいか、ただでさえ朝に弱い体質なのもあり、頭がぼんやりとして眠気が酷く、自力で起き上がるのはなかなか困難だった。
あまり悠長にしていると母親に叩き起こされ小言を言われるので、渾身の気合いを入れそそくさと支度をし、朝食をとりにリビングへ急いだ。
朝食を摂りながら、いつも通りにテレビ画面をぼんやりと眺める。今日も画面を隔てた向こう側の世界は賑やかで騒がしい。そんな感想しか出てこない程度には眠かった。
「いじめを受け中学生が自殺」、という胸くそ悪いニュースに差し掛かった時、俺は急に心臓が鷲掴みにされるような感覚を覚えた。過去の記憶の断片が蘇り、頭の中を駆け抜ける。席を立ち身支度を済ませ、少し早いが学校へ向かう為家を出た。
電車に揺られながら俺は少し、昔の事を思い出した。いじめによる自殺未遂というニュースが、それを思い起こさせた。
それは、中学一年生の時のことだった。クラスメイトのとある人物が、学校に来なくなったのは。そしてそれは____俺のせいだった。
彼は今、どうしているのだろう。元気にしているのだろうか。それとも、未だに外へ出ることが出来なくなっているのだろうか。
電車の外の景色を眺める。どんよりと薄暗い。まるで俺の心の中を体現しているかのような景色だった。
世間一般的に考えて、俺はきっと恵まれた人間なのだと思う。身体も心も健康で、勉強も運動もまあまあ出来て、友達がいて、家族がいて、何不自由無い生活を送れているから。俺は、普通の人間として生きているのだ。……そう、傍から見れば。
けれど昔俺は、罪を犯した。いじめの加害者となって、彼を無視した。一緒になって彼を嘲笑ってしまった。俺は__犯罪者だ。
思わず自嘲的な笑みが零れた。
いつも通りの時刻、場所で、彼女は待っていた。車両に乗り込み、俺の隣に座る。
「おはよ、草野さん」
「おはよう、東条くん。……どうしたの?」
彼女は不思議そうな顔をして俺を見ていた。その真っ黒な瞳に吸い込まれそうになる。
「__何が?」
「……なんだろう……なんとなく、いつもと違ったから」
ドキリとする。草野さんには知られたくない。昔のことなんて。
「ほら、今日雨だからだよ。憂鬱じゃん」
「そっか、そうだよね」
納得したように笑い、草野さんは前を向く。その凛とした横顔に心が揺れた。
「……あの、さ。草野さん」
「うん」
「今度良かったら、図書館で一緒に勉強しようよ。草野さんの地元でいいからさ」
「うん、良いよ」
草野さんは少しハニカミ、また正面を向く。俺も正面を向くと、電車の窓ガラスには寝ぐせのついた頼りなさそうな男子学生が映っていた。